小中学校との連携 -島根県斐川町立図書館の連携
斐川町立図書館 |
ア 地域の概要
斐川町は、宍道湖西岸に面した島根県東部の町で、80.64キロ平方メートル、世帯数7,716戸、人口27,432人である。宍道湖東側の対岸に県都松江市があり、町の西側には斐伊川を境に島根県第二の都市出雲市がある。周辺の市町村が合併を行う中、斐川町は住民投票の結果を尊重して自主独立の道を選択し、松江市、出雲市、雲南市の三市に囲まれるようになった。
イ 図書館の概要
斐川町立図書館は、準備室開室から3年半後の2003年10月1日にオープンした。位置は居住人口が多い西側寄りではあるがほぼ町の中心である。敷地面積12,000平方メートル、延床面積2,949平方メートル、現在の収容能力は開架室約10万冊、書庫18万冊であるが、公開書庫も電動集密書庫にした場合約24万冊となり将来は34万冊までは収容可能である。
職員体制は町職員5人(館長・係長・副主任・主事2人)臨時職員9人(内3人学校図書館へ派遣)(※アンダーライン:有司書資格)であり、土日祝日に勤務する(毎回4人勤務)パートを16人確保している。1年間の利用状況は、2004年度末で登録者数13,970人(町民9,471人)、町民の登録率は33.8パーセントである。貸出冊数は308,178冊、一日平均1,070冊、町民人口の11倍の貸出しを県内で初めて達成した。2005年度予算額は資料費991万円、学校図書費が390万円である。
ウ 図書館経営の方針、目標
赤ちゃんから高齢者まで町民を含め出雲地域に暮らす人々が豊かに暮らしていけるように、資料(図書・雑誌・視聴覚資料)及び情報(ホームページ)と施設の提供を中心に運営している。特に小学生・中学生にとっては、学校図書館や公共図書館を楽しく利用することが、その後他の地域で生活するようになっても公共図書館を上手に楽しく利用できるようになると思う。また、人生の終章に近づきつつある高齢者にも最後まで公共図書館とのつながりが保てるように「思い出語りの会」という集いを施設に出かけて行っている。
ア なぜ、きっかけは
「図書館法」(第3条)と「学校図書館法」(第4条)には、お互い緊密に連絡し協力することを謳っており、特に「図書館法」では公共図書館に「学校図書館とは学校教育を援助し得るように留意し相互貸借を行うように努めなければならない」と求めている。準備室1年目(2000年度)に策定した「斐川町図書館建設基本計画」では、学校図書館との連携に関し「学校図書館との連絡会議の開催、学校図書館蔵書のデータ化、連絡車の運行、学校司書の発令への取組み」と書いている。また、学校図書館法改正で司書教諭が発令され島根県内は100パーセントの発令状況である。だがこの司書教諭はクラス担任や授業、クラブ活動の指導を行いながらの兼務発令であり、司書教諭に対する理解度にも格差がある。これまで長く学校図書館を担ってきたのは、教師・司書教諭でなく「学校司書」である。しかし斐川町では学校図書館に人がいない状態で、それが当然と教師や保護者・町民も長年思っていた。学校図書館に関心をもつ町民もいたが現状を変革する力にはならなかった。この現状を打開するため、兼務発令の司書教諭が、教師の仕事をした上での学校図書館担当に限界があることを理解し、斐川町では図書館建設基本計画に学校司書発令を掲げた。
学校図書館に人が常にいることこそ、その学校図書館を楽しく活き活きさせ、子どもたちで溢れ返る源である。児童・生徒が一日の多くを過ごす学校図書館を活性化させ、公共図書館と一体となって子どもたちに「図書館って楽しい、本を読むのは面白い」と感じてくれることが、その後の人生に影響すると思うからである。しかし私自身かつて、市立図書館から学校図書館への連携(配本車の運行)の取組みを挫折した苦い経験がある。(「町立図書館をつくった-島根県斐川町での実践から」著者編著 青弓社刊 2005 177p)そのとき会得した考えは、学校司書の配置について他課を頼るのではいつになるかわからない、人事と業務は公共図書館が責任をもつのが良いということである。
イ 準備・経緯・工夫
図書館準備室1年目、「斐川町図書館建設基本計画」をつくる過程でこの連携について講演会を開催し、検討委員の理解を深め計画に盛り込む予定であったが、その講演会へ現場教師の参加はほとんどなかった。だが学校司書発令の前に現場教師に学校図書館の重要性について理解を深めることが先決である。準備室長として赴任してから教育委員会管理職として教育委員会や校長会・教頭会に毎月参加し、少しずつ学校管理職に学校図書館への理解を広げていくようにした。また、学校図書館を担当する現場教師の「図書館部会」に出席し、共同で研修会を開催するところから始めていった。準備室が担当していた公民館図書室から学校図書館への団体貸出しも始め、役立つことを実感してもらうようにした。
ウ 目的・内容
学校司書派遣の目的は「斐川町教育委員会が学校図書館の活き活きとした運営に責任をもつ」ことであり、それは町立図書館から司書を派遣する人的措置を講じて各学校と協力し、学校図書館を日常的に運営することである。これは児童・生徒が楽しく学校図書館を利用でき、教師に資料・情報を提供することで授業に貢献できるようにということである。学校司書は、各学校で火曜日から金曜日まで、始業時間から終業時間及び放課後まで図書館業務を1日8時間勤務で行う。月曜日は町立図書館で学校図書館業務(子どもや教師からのレファレンス及び相互貸借や整理業務)を行う。但し土日祝の町立図書館カウンター業務を、図書館職員に混じって勤務するので、勤務した場合月曜日代休をとる。町立図書館オープン前からモデル校(2校)に派遣を開始したが、オープン後は図書館カウンター勤務が入るようになるので当初から月曜日は学校に行っていなかった。月曜日に派遣しないことについて批判されたことがある。月曜日も学校司書がいるのが良いことは誰にでもわかるが、その分図書館の職員を増員しなければならない。現状では困難である。
2002年度からモデル校へ学校司書派遣を始めるにあたり、学校司書派遣と、その司書の土日祝ローテーションの確保というセットで予算提案説明を行った結果、2002年度当初予算で人件費が認められ小学校図書館への学校司書派遣がスタートした。月曜日学校に派遣しないのは、土日祝ローテーションと学校司書派遣のセットでないと派遣がスタートできなかったこと、また学校司書の開館後土日祝ローテーションの激務を少しでも効率良く行うという政策でもあった。モデル校として1つの学校から派遣することに他地域から批判らしき意見も聞いたが、1人1日以下の掛け持ちとなってしまうためあえて1校から始め、学校司書という「人」がいる学校図書館と「人」がいない学校図書館に差がでるようにした。
ア 学校司書
斐川町内には小学校4校・中学校2校あり、図書館から派遣している学校司書は現在、小学校2校と中学校1校である。残り小学校2校には2004年~2006年度まで3ヶ年指定を受けている文部科学省「学校図書館資源共有ネットワーク事業」による学校図書館指導員を当てている。残り中学校1校には派遣しておらず、図書館運営は司書教諭と図書委員が行っているが、2006年4月から派遣する予定である。斐川町では図書館から学校図書館へ司書を派遣する場合、必ず図書館において数ヶ月現場を担当させ、その後学校図書館へ派遣する(事務分掌の変更)ようにしている。現在の派遣学校司書の勤務(経験)年数は、4年5ヶ月・2年6ヶ月・1年である。残り2名の学校図書館指導員(司書有資格者)はいずれも土・日勤務パート職員(短大司書課程在学中)として1年半の経験があり現在土日祝日のパート勤務ローテーションにも入っている。 |
イ 予算・設備
学校図書館に関する予算は学校教育課が担当していたが、学校司書の派遣を開始したのと同時に学校図書費についても図書館が担当することを提案し了解を得た。現在は学校司書の人件費(賃金)と学校図書館の図書費、MARC委託費、学校図書館の端末機リース料等全て図書館費で計上している。図書購入の支払いに伴う会計処理は図書館町職員の学校図書館支援担当司書が行っている。つまり、司書教諭・図書担当教諭や学校事務職員は学校図書館の会計処理をしなくてよい。町立図書館のコンピュータ室に三台のサーバがあり、学校図書館のデータも町立図書館で管理している。学校図書館には端末機とプリンタがあり、図書館とオンラインでデータ更新している。蔵書データはインターネットで検索できるが、学校図書館所蔵資料についてはインターネット上では全て「図書館に問い合わせください」と表示している。要求があれば図書館が中継ぎをするようにしている。
ウ 業務計画・PRの方法・配付物
年間業務計画については統一的には決めず、各学校の年間計画に盛り込まれていると思うが、図書館や教育委員会から計画を作ったり作らせたりすることはない。図書館としては、学校図書館を子どもや教師のために役に立つように日常的に運営をしている。ただ、学校図書館は今まで教師や保護者に忘れられ、諦められていたので、これを生き返らせるにはPRの必要がある。広報に「学校司書を派遣していること」や「ネットワーク化されている」ことを掲載してきた。また2ヶ月毎発行の「としょかんつうしん」には毎号学校司書による「学校図書館みてみたい」という連載報告記事を掲載している。CATV出雲ケーブルビジョンでの斐川町広報番組に登場させていただいたことも効果的なPRになっていると思う。しかし、一番のPRは学校図書館を役に立つように運営し、子どもや先生たちが楽しく利用して喜んでくれることではないかと思う。そうすれば必ず子どもたちが保護者に楽しく報告してくれるからである。実際、利用者から学校図書館が変わってきた、楽しくなってきたと報告を受けるようになってきた。内心「やった!」という心境である。
エ 定期的に行っている事業
学年クラスごとのブックトークや学年ごとの読書集会への協力を要請されることが増えてきた。派遣している学校司書も含めて図書館職員が交替で対応している。図書館側もこういう対応が職員研修や訓練になるので積極的に対応していきたい。しかし、学校現場を無視した一方的な事業にならないように気をつけている。
オ 他団体との連絡・調整
図書館にはいくつかボランティア活動があるが、学校との連携で協力している中心的なものは「ひかわ・ブックトーク研究会」であろう。学校からの要請に会員がチームを組み、クラスに出かけブックトークを行っている。ブックトークで紹介する本は図書館が準備し、一定期間クラスや学校図書館に貸出しをして子どもたちに利用してもらう。今後増えてくるものにストーリーテリングが考えられる。このボランティアグループが「おはなしベンジャミン」である。現在は図書館のお話の部屋で毎月第三土曜日に行っているが、学校にも出かけていきたいと考えている。このほか「人形劇ぽんぽこ」や「手作り布の会」が学校の要請により独自に出かけることがあり、学校との関わりは強いと考えられる。
ア 現在の状況
先に書いたとおり、3人が図書館から派遣の学校司書で他2人が指定事業資金で雇用する学校司書(事業上は学校図書館指導員)である。それぞれ学校図書館に火曜日から金曜日までの4日間学校図書館に勤務する。貸出し状況は次のとおりである。
学校名 派遣開始年 |
2003年 | 2004年 | 2005年(1月26日まで) |
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東中学校図書館 2005年4月から |
3,189冊 145冊 |
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西中学校〃 未派遣 |
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荘原小学校〃 2003年9月から |
児童10,516冊 教師231冊 クラス なし |
児童 19,404冊 教師 723冊 クラス なし |
児童 14,514冊 教師 221冊 クラス 465冊 |
中部小学校〃 2005年1月から |
2,603冊 534冊 クラス なし |
12,893冊 603冊 クラス なし |
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出東小学校〃 2005年1月から |
1,579冊 144冊 クラス なし |
4,985冊 131冊 クラス なし |
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西野小学校〃 2003年9月から |
児童8,515冊 教師554冊 クラス なし |
14,012冊 545冊 クラス488冊 |
10,423冊 370冊 193冊 |
2004年度の受入れ状況は次のとおり。ただし、派遣している小学校のみである。
荘原小学校 | 中部小学校 | 出東小学校 | 西野小学校 | |
---|---|---|---|---|
購入 | 549冊 | 885冊 | 797冊 | 545冊 |
その他(寄贈等) | 117冊 | 64冊 | 69冊 | 112冊 |
計 | 666冊 | 949冊 | 866冊 | 657冊 |
イ 効果
子どもが学校図書館で楽しく過ごす時間・機会が増えたこと、教師も含め貸出しが増えていることが表から理解できる。オンラインになっていないときは利用状況が把握できていなかったことを考えると格段の効果である。オンラインになったことで収集調整と相互貸借が可能となった。町立図書館からの貸出しが圧倒的に多いが、学校図書館どうしも今後増えていくだろう。教頭会から「学校図書館が明るく役立つようになった」との言葉を聞き、また、学校からの要望書の中に「全校派遣と学校図書館の充実」があがるようになってきた。
ウ 学校図書費の変遷
学校図書費は2001年度まで学校教育課が予算計上しており、2002年度以降、図書館が担当するようになった。2005年度以降は厳しい財政状況で数年は我慢を強いられる。
年度 | 2002年度 | 2003年度 | 2004年度 | 2005年度予算 |
---|---|---|---|---|
学校図書費 | 3,800,459円 | 4,673,884円 | 4,380,140円 | 3,900,000円 |
エ 地域・住民へもたらした変化
各学校が学校図書館の重要性を認識したことで、「朝の読書」等へ住民ボランティアが参加するようになった。また、ブックトークやストーリーテリングを学校でも行うようになった。ただ自分で読むだけでなく、いろんな本を紹介することによって読書の機会が広がったり、パネルシアター・エプロンシアター等を楽しむことができる。その活動は学校司書を含む図書館司書の基本的な役割であるが、ボランティアと一緒に取り組むことも重要である。いろんな方に学校へ目を向けていただくことが多くなったと感じている。
オ 職員の研修
司書教諭・図書担当教諭で組織する斐川町教育研究会の学校図書館部会と合同で研修会を行っており、外部の研修会について教師にも参加の案内をする。学校司書については図書館長の指揮命令下であり研修に参加させることがある。図書館との連絡調整のための会議を、毎週木曜日学校終業後図書館に集まり支援担当司書と会議を行っている。
カ 今後の課題
全学校図書館に司書を派遣するには6人必要である。現在は町立図書館司書(臨時職員)を3人(小学校2人・中学校1人)学校へ派遣している。残り小学校2校には、文部科学省「学校図書館資源共有ネットワーク推進事業」による学校図書館指導員(司書)を措置しているが、この事業は平成18年度末までのため平成19年4月からは3人となってしまう。各校配置となればあと3人増員しなければならないが、今の財政状況からして困難であり、3人の2校兼務でいくのか、国の施策に期待できるかが今後の課題である。この面での朗報が2005年12月21日付日本経済新聞で報道された。それによると文部科学省は2006年度新規事業に「学校図書館支援センター」配置事業を全国36市町村から始めるということであり、斐川町も36市町村に加えていただくべく町長を先頭に要請をおこなっている。
町立図書館と小・中学校図書館とのネットワーク連携がここまできたなと感慨深いものがある。2000年度に図書館準備室が教育委員会内に設置された時は、学校図書館には全く人がおらず、また町民誰もが利用できる施設としては小さな公民館図書室だけであり、少ない図書費の影響で町民からほとんど諦められていた。そこで、図書館開設準備と並行して建設基本計画を策定するなかで学校図書館との連携の模索をスタートさせた。残念ながら最初は、現場教師はあまり関心がなかったと言っていい。忙しいこともあるが、学校図書館の重要性や活用についての理解、意欲に乏しいことに原因があるのではないか。連携を成功させるための、学校側のポイントは学校図書館を生き返らせることだと思う。しかし、それを学校側だけの力で生き返らせるのは非常に困難である。
現状1人職場である学校司書が児童や教師のために学校図書館を運営していくためには、公共図書館から派遣された司書が運営するのが最良と現時点で考える。学校司書派遣を確保(賃金・人件費予算)し、派遣された学校司書が司書教諭・図書担当教諭と協力しながら学校図書館を日常的にネットワーク運営していく事が実現できた今、現場教師達から非常に喜ばれている。学校はもうこのネットワークを手放すことはないであろう。私たち図書館も、これからの斐川町を担う子どもたちのために学校図書館との連携をさらに充実させていきたい。
-- 登録:平成21年以前 --