学ぶ人の側に(北広島市図書館)

学ぶ人の側に -課題解決型の図書館づくり-
北広島市図書館

1.北広島市図書館の開設と準備

 北広島市は、道都、札幌市に隣接するベッドタウンとして1974年頃から人口が急増し、わずか30年で村から市へと昇格した地方小都市である。その間、市は上下水道や道路などの生活基盤整備に追われ、図書館と芸術文化ホールをJR駅前に建てたのが平成10年。延べ床面積約4,000平方メートル、蔵書規模35万冊、6万人の人口規模の地方小都市の図書館としては極めてオーソドックスな図書館である。

北広島市図書館  

●図書館延べ床面積:約4,000平方メートル

●蔵書規模:35万冊(現在約25万冊)

●地区分室:4ヶ所/移動図書館車:1台

●職員:専任職員7名(うち有資格者4名)

●非常勤職員:26名(うち有資格者24名)

●平均年間資料費:約23,000,000円

●1人当たりの年間貸出冊数:8.19冊

 ホール・図書館共に、開館後すでに7年を経過するが、利用は順調である。図書館は開館直後からずっと変らず1日に千人の利用者が訪れ、まさに市民待望の施設であったことが明らかとなった。
 そうして地域の図書館が順調に動き出すと、小さなまちであるがゆえに、今度はそこに様々な学習や情報系の課題が集中してくる。弱体化している学校図書館に何らかの支援ができないか、無きに等しい議会図書室の機能を図書館が肩代わりできないか、情報公開サービスに図書館が寄与できないか、IT学習・デジタル情報化への相談等々、およそ図書館・情報と名のつくものに関しての持て余されていた難問が一気に押し寄せてくる。
 ここに至って、地域の図書館が何を準備し、市全体の情報化・学習機能の充実にどのように寄与できるのかを外部に説明することの必要性を強く認識するようになる。そのときに北広島市図書館は、21世紀の町村図書館振興をめざす政策提言・Lプラン21「図書館による町村ルネサンス」(2000年10月26日日本図書館協会・町村図書館活動推進委員会)という1枚のパンフレットと出会う。

2.まちのネットワーク:「北広島市図書館資料充実プラン」の策定

 Lプラン21は、日本図書館協会が図書館法改正による新しい基準の設置を受けた形で、その基準を満たすためには図書館にどのような施策が必要であるかを提言し、各々の「指標」や「目標数値」算定のためのガイドラインを示したものである。町村図書館と記載してあるが、市立図書館の指標としてもまったく遜色のないものと言える。オープン後の利用実態に合わせ、図書館サービスと資料収集方針の長期展望を定める必要に迫られていた北広島市図書館にとって、このガイドラインは非常に有益な指針となった。
 Lプランが公表されてから2ヶ月後の2000年12月、北広島市図書館は「北広島市図書館資料充実プラン」を策定した。独自の「指標」や「目標数値」の設定はもとより、北広島市が課題とする情報施策との連携指針を指すものとして理事者や部局内、協議会・ボランティアなどの関係者から非常に高い評価を得ることができた。誌面の都合上、プランの詳しい紹介ができないのは残念であるが、全容は北広島市図書館HP内にPDFで掲載中である。
 当然、このプランは現在でも北広島市図書館サービスの指針として生きており、設定した目標数値も点検指標としての効力を保持している。
図2.北広島市図書館資料充実プラン

3.人のネットワーク:図書館フィールドネット

 現代の図書館は、多くの人によって支えられている。分権型社会への移行の目的は現代における民主主義の復権にあるのだが、それを支えるキーワードは、まちづくり・住民参加・生涯学習である。それらは、図書館サービスの効果としても生み出され、成長を遂げ、最終的には図書館を支持する力としてフィードバックしてくる。[図3]
 良かれ悪しかれ我々のサービスは何らかのフィードバックを生み出すものであり、それらを自己点検の要素に加え、柔軟に対応してゆくことで、図書館は地域にとってより良い施設に成長してゆけることとなる。そういう意味で、フィードバックは大きな意味での市民参加と言える。
 我々が直接相手をしているボランティアの方々もまた、生涯学習社会の大きなフィードバックのなかの一員である。そうであれば、生涯学習社会におけるボランティアのあり方に沿うような図書館ボランティアの組織化も図書館の大きな役割のひとつと考えられる。北広島市図書館は、図書館開設と同時に、そこを拠点として活動するボランティアグループのネットワーク組織の結成を呼びかけた。名称は、北広島市図書館フィールドネット。略称[Fネット]。LIBRARY FIELD NET WORKの略である。
 構成は、Fネット内に領域的な振り分けとして、資料部・社会部・児童部・福祉部の各部を設置し、それぞれの領域の団体が所属する。各部はFネットにかけられる事業の領域的検討を受け持つが、各部が事業の単独実行機関とは成り得ず、事業の実行主体は誰でもが参加自由の実行委員会形式等の形態で、事業ごとに組織されることを大きな特徴とする。
 現在、10団体・200名のメンバーで構成され、独自の運営委員会を持ち、市の交付金と事業収入を基に年間30本を超える読書振興事業を主催している。市民の柔軟な視線から企画されるイベントや研修会は盛況で、集客は毎年1万人以上、図書館の活性化に大きな成果を発揮している。興味があれば、北広島市図書館ホームページ内のフィールドネットの紹介ページで詳細を知ることができる。
 Fネットは、地域の読書や学習を推進する市民グループとして対等に図書館と協力し合う間柄となっており、すでに従来型の施設ボランティアとしての図書館ボランティアではなくなっている。地域の読書振興のために毎年200万円の自己資金を保有し、子どもの読書・文化・芸術の振興、障害者サービスを主体的に展開してゆくボランティア組織と連携する図書館というのは、あまり例がないものと思う。こういった市民の図書館活性化への後押しという地盤があったからこそ、北広島市図書館は先駆的と呼ばれる情報サービスへの挑戦に歩を進めることができたのである。

図3.分権型社会と図書館サービスの循環
図4.図書館フィールドネット体系図(2005年3月末現在)

4.情報のネットワーク:「学び舎・楓」による情報発信

 F ネットとの協調による読書振興・図書館活性化に支えられながら、北広島市図書館は資料充実プランの基本方針の中核となるサービスを準備してゆく。これらは、平成15年9月の新たなホームページ、北広島市生涯学習支援情報サイト「学び舎・楓(まなびや・ふぅ)」の開設で公開された。(http://www.manabi.city.kitahiroshima.hokkaido.jp(※北広島市生涯学習支援情報サイト「学び舎・楓(まなびや・ふぅ)」へリンク)(最終閲覧日2006年1月25日))市の木がイタヤカエデであることから「ふう」と言う字には楓という字を使い、学びの検索エンジンというイメージを表したかったため名称にも気を使った。一般的に自治体の生涯学習の情報サイトは、施設の紹介や空き情報などのいわゆる「便利データ」に偏りがちである。図書館が管理する以上、奥行きを持った情報 DBにしたいと考え、教材・資料の項目中に図書館が準備してきたストック情報を満載した。イベント・講座、施設案内・空き状況、団体・指導者の紹介の後に、次のような教材・資料のページがある。

(ふるさと歴史写真館) 昔のきたひろしまの写真約1,500枚を掲載
郷土資料のロゴマーク
 緊急雇用創出特別対策事業の補助金により、市に蓄積されていた数万枚のまちの写真のデジタル化を委託した。その一部を、項目名で一覧できるようWEB上でデータベース化した。駅舎の変遷などがビジュアルでわかる。
(広報記事データベース) 創刊~1988年までの広報記事の検索が可能
郷土資料のロゴマーク
 緊急雇用創出特別対策事業の補助金により、市広報のデジタル化を委託した。そのデータをWEB上で全文検索し、該当ページをイメージ表示できるようデータベース化した。地域で起こった過去の出来事を簡単に知ることができる。
(議会会議録データベース) 明治大正期の議会会議録画像を掲載
郷土資料のロゴマーク
 緊急雇用創出特別対策事業の補助金により、現物ひとつしかない古い議会会議録のデジタル複写を委託した。そのデータをWEB上で一覧できるよう掲載した。
(きたひろ採話集) きたひろしまの古老の話しを収録
郷土資料のロゴマーク
 緊急雇用創出特別対策事業の補助金により、Fネットの採話の会が聞き取っていた古老の昔話のテープ起し、テキスト文書化を委託した。その一部、編集が終ったものをWEB上で読めるようデータベース化した。
(新着情報サービス) 知りたいテーマの情報を定期的にメール配信
図書館のデータをメール配信するサービスの図
 図書館が用意した30項目のキーワードから希望する項目を選んで登録をすると、図書館が登録内容に基づいて蔵書やデータベースを検索し、得られた情報をeメールで届けるというサービス。テーマは、ボランティア・新製品・食品などいわゆる現代的課題と呼ばれるものを多くしている。配信されるデータは、新刊出版情報と雑誌記事コンテンツ。
選択的情報サービス
 選択的情報サービス(Selective Dissemination of Information)と呼ばれる発信型レファレンス・サービスが土台である。
(参考文献)「新着情報サービスによる地域支援-北広島市図書館における SDI(選択的情報提供)の取り組み-」生涯学習情報ファイル文科省内生涯学習・社会教育行政研究会第一法規
(パスファインダー) 子ども調べ学習に役立つ手引書をダウンロード
『パスファインダーを作ろう』表紙の図
 あるトピックでの図書館の文献探索をわかりやすく案内するチラシ。総合的な学習などの調べ学習での図書館活用に有効なオリエンテーション資料となる。デジタル版なのでダウンロードをしての利用が可能。
(参考文献)
学校図書館入門シリーズ「パスファインダーを作ろう-情報を探す道しるべ-」全国学校図書館協議会2005年3月 ¥800
(ネット塾きたひろ) メール等を活用した通信講座
ママが乳幼児に絵本を読み聞かせる図
 乳幼児を持つ親やビジネスマンなど、定期的に講座に参加できない方のためのメールを活用した通信講座。受講自体がIT学習につながる点もメリット。課題に対するレポート提出、スクーリング、最終報告書のHPへの掲載などで構成される。「netmama読み聞かせ講座」や「忙しい方のためのヘルスアップウォーキング講座」などを開講。

 これらの発信情報は、地域のボランティアや有識者の協力により数年がかりで準備してきた情報の集積であり、いわば地域との知的協働の成果である。ゆえに図書館としては、図書館が情報提供をしているのではなく、地域そのものが図書館のシステムを通じて情報提供をしていると思っている。もちろん、それはプランニングやシステム整備などの運営に関わる仕事が図書館の重要な役割と考えたうえでの認識である。

5.学ぶ人の側に

生涯学習社会と言われる時代、図書館が多くの学ぶ人の側にあると認知されることはとても重要なことである。図書館が単に利用者と資料の仲介者にとどまっているうちは、相変わらず求める側と与える側の構図から抜けられない。しかし、図書館がより地域の学習課題に対する理解を深め、解決のための共同作業に乗り出せば、地域住民は自ずと図書館の奮闘に対する応援団となってくれる。地域の人や機関のエネルギーを貰い、立体的なネットワークをつくり、その中で図書館の仕事を進めてゆくこと。まちがあって、人があってこその図書館であり、北広島市の「図書館づくり」は、いつも「まちづくり」・「人づくり」と共にあるべきと考えている。



 

-- 登録:平成21年以前 --