教育改革セミナー in 福岡

1.日時

平成20年11月27日(木曜日)17時半〜19時半

2.場所

福岡国際会議場
(福岡市博多区石城町2-1)

3.出席者

文部科学省大臣官房審議官 寺西達弥
中央教育審議会委員 角田元良

4.議事録

○司会(白井)

 それでは、定刻となりましたので、ただいまから、教育改革セミナー in 福岡を開催いたします。
 本日は、ご多忙のところご参集いただきまして、まことにありがとうございます。
 私は、本日の司会を務めさせていただきます、文部科学省生涯学習政策局の白井と申します。
 文部科学省では、国の教育改革に関する広報・啓発のために、昨年度から教育改革セミナーを実施しておるところでございます。本年度につきましては、7月に閣議決定をされた教育振興基本計画をテーマとしまして、全国7会場で、セミナーを開催しておるところでございます。この福岡会場が、本年度最後の第7回目の会場ということになってございます。
 本日のプログラムでございますけれども、今5時半から45分間程度、文部科学省の大臣官房審議官である寺西から、教育振興基本計画をめぐる行政に関する説明をさせていただきます。その後、18時15分ごろから、中教審委員でいらっしゃる角田元良先生に、教育基本振興計画を受けた「今後の教育のあり方について」、ご講演をいただきます。
 最後に、残る7時から7時半の30分を目途としまして、質疑・応答の時間を設けさせていただきます。おおむね19時半に終了の予定とさせていただきます。
 それでは、早速でございますけれども、文部科学省の寺西審議官より、教育振興基本計画の内容等について、ご説明申し上げます。

○寺西大臣官房審議官

 皆さんこんばんは。文部科学省の寺西でございます。
 本日は、お忙しいところ多数お集まりいただきましてありがとうございます。
 今、司会が申しましたように、教育振興基本計画につきまして、お時間をいただきまして、その概要をご説明させていただきたいと思います。
 お手元の資料をご覧いただきたいと思います。資料の1ページでございますけれども、この教育振興基本計画というのは何かというのが書いてございますが、一番下をご覧いただきますと、教育基本法が、一昨年の12月につくられまして、新しい教育基本法ができました。そこの17条に初めて、この教育振興基本計画をつくる政府の計画でございます。国会に報告して、公表しなければならないとなっておりまして、これに基づいて、今年の7月につくったものでございます。政府として初めて策定した教育についての総合的計画でございます。後で申しますけれども、その教育基本法の理念を実現するために、今後10年間を見通して、どういう教育の姿を考えるかと、それに基づきまして、今後5年間に取り組むべき施策を、取り決めたものでございます。国の施策を挙げて、教育で取り組んでいくということで、教育立国の実現を目指すということになっております。
 なお、各地方公共団体におきましては、この国の計画を斟酌して、その地域の実情に応じて、その地域としての計画を策定するということになっておりまして、幾つかの地方公共団体でも、既にその取り組みが行われております。
 次のページにまいります。
 この教育振興基本計画の今までの経緯でございますけれども、平成12年12月に内閣総理大臣の私的諮問機関として、教育改革国民会議というものが設置されまして、設置されたものが報告をいたしまして、「教育を変える17の提言」というものを出しました。その中で、教育基本法を改正すると同時に、教育基本計画を設定するということが提言されました。これを受けまして政府として、中央教育審議会に13年11月に諮問いたしまして、審議会の方から15年3月に、教育基本法と教育振興基本計画のあり方について答申が出ました。これを受けまして、教育基本法が、先ほど申し上げましたように、18年12月にできまして、2月に文部科学大臣から、振興基本計画について中教審に正式に要請されまして、今年の4月に答申をいただいております。政府内の調整等を経まして、7月に閣議決定したものでございます。
 これが全体の構成でございますけれども、先ほど申しましたように、現状と課題、それから10年間を通じて目指すべき教育の姿、基本的な考え方、それに基づいて5年間に取り組むべき施策ということで、基本的考え方、4つの基本的施策の方向が出ております、というようなことでございます。
 10年間を通じて目指すべき教育の姿でございますけれども、一つは、義務教育修了までに、すべての子どもに自立して社会で生きていく基礎を育てるということで、公教育の質を高め、信頼を確立する。世界トップの学力水準を目指すと。子どもが責任ある社会の一員として自立するための基礎的な知・徳・体のバランスのとれた教育を行うと。それから社会全体で子どもを育てると。教育の出発点でございます家庭教育、さらに地域での教育力を高めて、社会全体として子どもを育てると。それから社会がそれで発展するので、国際社会をリードする人材を育てるということで、これは高等学校以上の話でございますけれども、高等学校から大学におきます教育の質の保証・向上を図る。知の創造・継承・発展に貢献でき人材を育成すると。世界最高水準の研究拠点を重点的に形成する、大学の国際化を推進するということでございます。
 このために例えば、留学生30万人計画などというものも現在推進しております。
 幼児教育、幼児期義務教育、高等教育の各段階におきまして、教育の充実を通じまして、最終的には、生涯学習社会の実現を図るということになっております。
 そのために、教育投資の方向を考える必要があるわけでありますが、我が国の教育に対する公財政支出というのは、低いというふうに指摘されております。我が国、特に資源が乏しいわけでございまして、人材への投資である教育が最優先課題の一つであるべきであります。教育への公財政支出は、個人と社会の発展の礎となる未来への投資でございまして、少なくとも欧米先進国を上回るような投資が必要であろうというふうにされております。
 OECDの諸国で、いろいろ教育投資の数字があるわけでございますけれども、こういった公財政支出などの教育投資の状況を参考の一つとしながら、必要な予算を確保していくということが言われております。
 次のページでありますけれども、公財政支出に対するGDP比の現状を、OECDの平均等と比較したものでございます。OECD加盟国28カ国のうち、平均が大体5%でございますが、我が国は3.4%で、ほとんど最下位に近いところにございます。
 アメリカは4.8%、イギリス、フランス、ドイツは我が国よりかなり高いところにございます。その内訳がここに書いてございまして、3.4%のうち0.1%が就学前教育、幼稚園でございます。初等中等教育段階は小学校、中学校、高校が2.6%、大学、短大等、高等教育等が0.5%、いずれもOECDの平均を下回っております。
 次のページでありますが、これは教育支出の公費負担と私費負担の割合の現状を示したものであります。公的負担、私的負担全体を合わせまして、一人当たりの教育支出、これはOECDの平均と遜色ないか、あるいはこれを上回っている部分がございます。じゃ、私的部分はどうなのかということで、公私負担割合を収入ベースで見たものでございますが、就学前教育段階、公財政支出は、日本は44.3%、OECD平均は80%を超えております。OECDの平均に比べますと、かなり低いわけであります。その分、私費負担、すなわち家計負担が増えると。アメリカ、イギリス、フランス等、いずれも大幅に我が国を上回っております。
 初等中等教育段階、小学校から高校まででございますが、ここについては、OECDの平均と比較しましても、それほど遜色ないわけであります。公的支出がですね。したがって、家計負担も、我が国はそれほど高くないということが言えると思います。大学・短大等の高等教育段階はどうかと。我が国はOECDの平均を相当下回っております。アメリカと似たようなところにございますけれども、ただし、家計負担を見てみますと、アメリカは36%、日本は50%を超えております。アメリカは大学において、寄附金等が多いものでございますから、実際は、公的支出が少なくても、実際の家計負担は、日本ほどは高くないということでございます。
 いずれにしまして、ヨーロッパ諸国と比較して、日本の高等教育段階における公的支出は、非常に低いものでございます。
 ということで、公財政支出それぞれの年度の概算要求等において、さらにしっかりと確保していかなければならないということでございます。今後5年間に、総合的、計画的に取り組む施策、先ほど申しましたように、4つの基本的方向、後ほど申しますが、あると申しましたけれども、それを全体を通じまして、PDCAサイクルでやっていこうと、plan-do-Check-Action、つまり、目標を立てまして、それを実施した結果、その成果を検証いたしまして、その検証結果をフィードバッグして、次の対策に充てていくという意味でございます。効率的、効果的な教育を実現していこうということでございます。
 横の連携と縦の接続というのを言っておりまして、学校教育は、学校だけで成り立つものではなくて、従来ともそういえば、学校関係者は外部から入ってくるのを、必ずしも快く思わず、言葉は悪いですけれども、拒絶反応的なものがあったわけでありますけれども、そうではなくて、学校、地域、家庭が、あるいはその企業、あるいは行政が横に連携し合って、全体として教育施策を進めていこうというのが横の連携、それから縦の接続でありますけれども、幼稚園から小学校、小学校から中学校、中学校から高校、高校から大学、大学院と、それぞれについて接続を考えて、生涯を通じて、学習機会を提供できるようにしていこうという考え方に立って、この計画ができております。
 行政の中でも、国と地方公共団体のそれぞれの役割分担を明確化しようということでございます。
 施策の基本的方向の第1でありますけれども、社会全体で教育の向上に取り組むと、これは生涯学習的なことを言っているわけでありますけれども、近年、地域において教育力が低下していると、核家族化、都市化が進み、地縁血縁が薄れてきて、地域の教育力が低下している。あるいはその中で核家族化等によりまして、家庭の教育力も低下していると。
 一方で、就職を支援するという観点、その他から、誰でもいつでもどこでも、学習できる環境を整備する必要があるということで、実現すべき目標として、身近な場所での子育て等の支援ということで、誰もが身近な場所で地域ぐるみの子育て支援、あるいは教育支援を受けたり、そうした活動に参加することを支援するということがございます。
 資料遍の2ページをご覧いただきたいと思います。
 これはある調査、これは育児時間について、男性と女性を比較したものでございます。各国の比較したものでございます。年代が違いますので一概には言えませんけれども、お母さんの方は、育児時間は各国とそれほど遜色ない時間をとっております。青が育児、家事ですね。育児時間はそれほど遜色ない程度、お父さんの方は0.4ということで、ほとんど時間をとっていないということで、家庭に、特にお父さんの方が余り家庭教育には参加していない、という一つのあらわれであろうと思います。
 次の資料をご覧いただきたいと思います。
 これは日本と韓国、アメリカ、イギリス、ドイツについて、お父さん、お母さんから、こういうことを言われるかどうかということを調査したものでございます。左側がお父さんからですが、日本はほとんど何も言われない。ちゃんとあいさつしなさい、テレビを見過ぎだからやめなさい、友達となかよくしなさい、うそをつかないようにしなさい、お父さんも余り言わない。お母さんも他の国に比べると、余り言わない。お父さんほどではないですが、余り言わないという、逆に言えば、欧米諸国、あるいは韓国の方が、こういう注意を、子どもに対してよくお父さん、お母さんからしているということで、日本は、家庭の教育力が低下している一つのあらわれであろうと思う。
 次の資料、これは、家の人や学校の先生以外の大人から注意された経験があるかどうかということでありますが、悪いことをしたとき、近所の人にしかられたり、注意されたりしたことがあるというのが、2割以下でありますね。余りされていないということであります。
 本文の8ページに戻っていただきたいと思います。
 今のは、身近な場所での子育て支援であります。
 次の本文の資料の9ページでありますが、これに対して、学校支援地域本部事業というのがございまして、これは小学校、中学校で学校の、例えば通学だとか、あるいはクラブ活動の支援だとか、あるいは実際の事業の支援、あるいは子どもに遊びを教えるということで,地域の人が学校を支援するというものをやっております。学校を核とした地域づくりを目指しております。こういったものを21年、全国3,600カ所で実施するということであります。
 それから、放課後子ども教室推進事業ということで、放課後、子どもたちの安全な居場所を設けまして、地域の方々、あるいはPTAの方々が参加して、子どもを見守ると同時に、スポーツ、文化の交流を行うとか、学習活動を支援するとかいうようなことを、全国の1万5,000個所でやるということをしております。
 それから、家庭教育支援チームということで、全国の小学校区で、教育支援チームをつくりまして、子育ての経験者であるとか、民生委員であるとか保健師であるとか、そういった人たちによってチームをつくりまして、講座を行うと当時に、場合によっては家庭を訪問して、子育てに悩んでいるお母さん方にアドバイスをするというような事業をやっております。
 それから、子どもの生活習慣づくり支援事業ということで、端的に、早寝早起き朝ごはん運動というのを推進しております。これによりまして、規則正しい生活習慣を身につけると同時に、規則正しい生活習慣をつけた子どもの方が、学力テストで点数がアップするというような、調査結果もございまして、そういったことも踏まえまして、今後これをどうやって広めるかということで、調査・研究をやっております。
 次のページ、あと、いつでもどこでも誰でも、学ぶことができるという点につきましては、資料の6ページをご覧いただきたいと思います。
 これは、地域活動にどれくらい参加しているかということになりますけれども、ある調査なんですけれども、この40代、50代、60代の方々、男女を問わず、何らかの地域活動に参加する割合が多いわけで、この黄色の部分であります。一方、この10代、20代は、男女ともほとんど参加しないということで、地域活動に参加する比率が少ない、というような結果が出ております。
 次のページ、これは公民館が全国で1万7,000個所ぐらいあるんですが、ここに参加する活動は、10代、20代、10%か20%ぐらい。図書館もそうです。博物館もその程度ということで、中高年齢層の参加が多いという結果が出ております。
 次のページ、これは大学に社会人入学ができるという制度がありますけれども、これはOECDの平均で、20%ぐらいが社会人を受け入れております。資料の中に入っております。しかし日本の社会人の学生比率は、OECDの最低でございまして、2.7%ということで、社会人の高等教育を実際に受けているというのが少ない、ということが言えると思います。
 本文の10ページでありますけれども、キャリア教育の推進ということで、各発達段階においては、キャリア教育支援を行うということで、児童・生徒が勤労感、職業感を身につけさせると、あるいは高等学校においてもキャリア教育、特に普通科高校において、キャリア教育を重視するということで、要するに、職業について、自分たちがちゃんと仕事をやることによって、生活していくんだということを覚えてもらうということで、そういったプログラムを開発するということで、来年度事業を実施したいと思っております。
 それから、各種専修学校がございますが、例えば若者、ニートとかフリーターの人たちが、新しく就職をしたいという場合、あるいは子育てを終わったお母さんが、再度就職したい、あるいは定年を迎えた高年齢層の人たちが、再就職をしたいというときに、手に職を持っていないわけでありますから、それで実践型の教育プログラムを実施いたしまして、再就職の支援をすると。あるいは社会人の人たちが、大学における教育支援を活用して学び直しをすると。キャリアアップを行うというようなことも、来年度でやっていきたいというふうに考えております。
 本文の次のページ、11ページでございますが、基本的方向の2でありますけれども、これは初等中等教育に関するものでありますけれども、一人一人学ぶ意欲や学力を向上させるということで、個性を尊重して能力を伸ばして、社会の一員として生きる基盤を育てる、というとこでございます。
 この初等中等教育段階におきましては、個人がその長い人生を生きていく、その基盤を形成するものでございまして、豊かな心をはぐくむと、また子どもの可能性を最大限に引き出すようにする。一人一人が、生きる力をはぐくむことを目指す必要があると。ただ一方で、子どもの規範意識を低下するとか、あるいは不登校だとか、いじめの問題もございます。体力が低下してきたという問題もございます。そういったことで、今後目指すべき目標として、確かな学力を身につける、世界トップの学力水準を目指す。それから、社会生活を営んでいく上で、持つべき最低限の規範意識、あるいは生命を尊重する、他人を思いやると、あるいは法やルールを尊重するというような、そういった人間を育成していくと。それから生涯にわたって、積極的にスポーツに親しむ習慣を身につけていく、というようなことを目標として掲げております。
 資料編の10ページをご覧いただきたいと思います。
 これは全国的な学力調査を実施しております。19年度、20年度と、知識とその知識を活用する力を調査するということでやっております。知識・技能の定着に一部課題があり、知識・技能を活用する力に課題があるというようなことが出ておりますが、一方で、過去と比べ勉強が好きな子どもの割合や学習時間が増加しております。基本的生活習慣として、朝食を食べる、あるいは持ち物をちゃんと確認するというような、改善傾向も見られております。こういうことをやっている子どもほど、正答率が高いという結果も出ております。ただし、児童生徒の学習に対する関心とか、意欲の一部が低下しているという調査結果もございますので、注意しておく必要があると。
 国際的な学力の調査もOECDで、2003年と2006年と行われております。2003年に比較して科学的リテラシーについては、上位グループにございまして、これは基本的に動いておりません。
 読解力につきましては、OECDの上位グループではなくて、大体平均と同じぐらいという具合にございます。変化はございません。ただし、数学的リテラシーにつきましては、OECDの平均よりは高いグループにございますけれども、若干得点は低下しております。やはり科学への興味、関心や、科学の楽しさを感じている生徒の割合が低くなっていると。そういう科学に関する実験などを重視した、理科の授業を受けていると認識している生徒が非常に低い、という結果も出ております。
 次のページをお開きください。これは国際学力調査で、46カ国について調査したものですけれども、我が国は、宿題する時間は、その中で最短であります。一方で、テレビやビデオを見る時間は、最長であります。また、OECDのPISA2006調査では、OECDの国際平均では、科学で学ぶことに興味がある生徒の割合が、60%を超えているのですが、日本は50%しかないということで低いわけであります。
 次のページ、これはですね、中学生は、絶対してはならないことは何かということについて、日本とアメリカと中国について、意識調査したものでございます。
 例えば、万引きだとか、たばこ、お酒をする、これは中学生としては当然絶対してはいけないことなんですが、日本は、いずれも中国、アメリカに劣っているわけであります。必ずしもそう思っていない子が、結構いるわけであります。つまり、規範意識がこれらの国に比べて、低いということが言えると思います。
 これは学校における暴力事件であります。暴力事件は、ここしばらく横ばい状態であったわけでありますが、18年は特に増えております。こういうことで増加しております。中学生が圧倒的に多いわけであります。18年、特に増えているということが、懸念されるところであります。
 次のページ、不登校であります。不登校については、ここ最近、2年連続で増加しております。不登校の出現割合2%ぐらいですね。ちなみに高校においては、出現率が1.65%ということで、小中学校では13万人ぐらいおります。高校は5万7,000人と、不登校児ですね。
 次のページ、これは体力が低下しているというお話を申しましたが、体力の低下の状況を示したものでございます。昭和60年と平成19年の比較であります。50メートル走をやって、11歳でありますけれども、男の子は60年の方が8.75秒で早く着いたわけでありますが、遅くなっていると、女の子も同様であります。ソフトボール投げは、60年に比べて短くなって、一方で身長、体重は増えているということで、体力が低下しているということが言えると思います。
 次のページ、本文の12ページをご覧いただきたいと思います。
 確かな学力を身につけさせると、世界トップの学力水準を確保するということで、現在、学習指導要領を改訂して、21年度、来年度から移行期間に入るわけであります。その学習指導要領を周知するということで、解説書をつくると、あるいは説明会というようなことをやっております。
 それから、学習指導要領移行するわけでありますけれども、21年度から算数、数学、理科を中心に、学習指導要領を一部前倒して、現在の教科書に載っていない内容についても指導するということを、前倒しでやろうと思っております。現在の教科書に載っていないことをやるということで、そのために必要な補助教材を、印刷製本するということで、今現在作業を進めております。
 さらに、全国的な学力調査を実施いたします。これは現在の学力の状況を把握すると同時に、その改善を考えるということで、ぜひ必要なものでございまして、小学校6年生、中学校3年生の全児童生徒を対象に、国語、算数・数学で実施するというところでございます。
 それから、道徳教育を推進するということで、道徳用の教材の補助事業をやる。これも要求しております。では、道徳教育をどうやって指導したらいいかと、指導方法なり指導体制なり学校の間で連携するというようなことで、いろいろ調査・研究する研究指定校に要する経費を要求しています。
 それから、心のノートということで、子どもが身につけるべき道徳について、わかりやすく解説したような本でありますけれども、これを小学校1年生、3年生、5年生、中学校の第1学年の全児童に配布することとしています。
 次のページ、子供の体力の向上を図っていく必要があるわけでありますが、そのために、体力運動能力、運動習慣等を調査いたします。50メートル走、ソフトボール投げなど8項目につきまして実技調査をすると。あるいは生活習慣等について調査をやると。それから、豊かな人間性や社会性をはぐくむ体験活動の推進ということで、やはり生命を大切にする心、他人を思いやる心、これは自然体験なり仲間との触れ合いなり、あるいは奉仕活動等によって、はくぐまれてくるというのが、非常に多いわけでありまして、児童・生徒のふれあい応援プロジェクト、あるいは高校生の社会奉仕、農山漁村におけるふるさと生活体験、長期合宿等をやっていくということでございます。
 次のページをご覧ください。
 学校の先生が必要になるわけでありまして、これに対して、後ほど申しますけれども、行革推進法というのがございまして、少子高齢化に伴って子どもの数が減ってくるわけでありますけれども、それを上回る教員の定数を削減する、というような法律が現にできております。ではありますけれども、そういった中でも、来年度1,500人の学校の先生の定数改善を行っていきたいと。さらに非常勤でありますけれども、非常勤講師を1万500人つけたいというふうに、要求をしております。このとおりにつくかどうかはわかりませんけれども、要求はしております。
 それから、新学習指導要領の円滑な実施ということで、先ほど申しましたように、21年度から先行実施で授業数が増えると、あるいは数学、理科等の教科について、少人数指導をやるということで、先行実施をやるわけでありますが、そのための要員として、非常勤講師を予算で要求するということで、これのために1万1,500人ということで要求しております。
 いずれも、予算決着はどうなるか、まだ予断を許さないところでございます。
 次のページ、21年4月から、学校の先生の免許の更新制が実施されますけれども、そのために全国的に毎年10万人の教員の講習をやっていく必要があると。それから山間地、離島僻地における円滑な講習を実施できるようにすると、それから、特別支援教室を初めとした対象人数が、少数の教科、科目に対応したものについても、ちゃんとした講習が必要だということで、開設するための補助金として、こういう要求をしております。
 それから、幼児教育の充実ということに、認定こども園というものがございます。これは幼稚園は文部科学省、保育所は厚生労働省の所管でありますけれども、幼稚園は文部科学省、この枠組みを超えて、総合的な財政支援を行うということで、認定こども園の緊急整備を図っていくということです。
 認定こども園の幼保連携型移行・設置促進事業でも、幼稚園も保育所もいずれも認可を受けている幼保連携型へ移行していくことを促進するということで、施設整備費の補助金を要求をしております。そういうところで、幼児教育を充実しようということです。
 次のページ、発達障害とか特別支援の教育をする必要があるという場合に、外部専門家による巡回指導等を行っていくということで、都道府県に委嘱をすると。それから、特別支援学校等の指導を充実するということで、指導方法の改善等について研究、実施していくということで、これも委託をするということでございます。
 次のページをご覧いただきたいと思います。
 18ページでありますが、基本的方向の3であります。これ高等教育でありますけれども、教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成し、社会の発展を支えるということでございます。
 「知」の創造と継承・発展を担っている大学・短大等の高等教育でありますが、これは個人の人格の形成なり、学習の場だけでなくて、国のあるいは社会の発展・振興と国際競争力の確保の面でも、非常に重要なものでございます。
 さらに新しい教育基本法におきまして、教育と研究を再編すると同時に、その教育研究の成果を広く社会に提供して、社会の発展に寄与するということが、明確化されております。
 そういう観点から、このような施策を実施していく必要があるということで、一つは、学士課程の学習生活共通に求める能力、学士力ですね。これを養成するということで、学士課程の学習成果、明確化、厳格な成績評価等を行うということでございます。
 参考資料の17をご覧いただきたいと思います。
 これは大学の進学率ですね。ご承知のように、少子高齢化によりまして、今後18歳未満人口が、どんどん減少してまいります。一方で、大学の新設が続いておりまして、学校数は平成20年度1,170校ということで増加しております。したがって、この大学・短大の進学率は、年々上昇しておりまして50%を超えております。その収容力と申しまして、大学進学を希望している人に対して、大学がどれだけのキャパシティーがあるかということだと92%、ほとんどかなりの、90%以上のキャパシティーがあるということでございます。そういった中で、学生も大学も多様化しているわけであります。
 一方でじゃ、どれくらい勉強しているかということ、これは必ずしも十分信頼に足るものではないかもしれませんけれども、実は中学校・高校が一番勉強している時間が長い。大学生は、学業はこの程度、3時間半ということで、何を言いたいかと申しますと、ちゃんとした学習力を身につける必要がある、ということでございます。学生も増えて、大学も増えている中でも、勉強時間がやはり少ないということでございます。
 本文の18ページ、「知」の創造・継承・発展に貢献できる人材を育成するということで、国際的な競争力を備える研究拠点を、各分野に形成することを目指す、いうところでございます。これは参考資料の20ページをご覧いただきたいと思います。ごめんなさい、その次です。これです。実は、どの程度の国際的競争力があるかということで、論文をどの程度研究者が書いているかということで、アメリカは、断トツでありますけれども、日本は、欧米諸国に比べてそれほど遜色のない位置にございます。他方、研究者の書いた論文が、他の論文にどれだけ引用されているかというと、アメリカは断トツでありますけれども、日本も引用回数としましては、欧米諸国並みでありまして、第4位であります。そのぐらいの競争力があるということが言えると思います。
 次のページ、しかしながら、これはイギリスの「タイム」というある会社による大学の新聞社ですけれども、ランキングでありますけれども、こういうような指標によって、ランキングをしておりまして、全世界のランキングとしまして、トップテン、全部アメリカとイギリスであります。日本は19位に東大がきて25位に京大がくるということで、200位以内にこの程度が入っているというところで、必ずしもこれだけで、大学の国際競争力を云々することは、困難かと思いますが、一つの指標として、国際的にはそれほど高く評価されているわけではない、ということが言えると思います。
 次のページ、高等教育機関に占める留学生の割合は、OECDの平均では6.9%が留学生、日本は2.9%であります。かなり低いわけであります。やはり留学生の数が少ないということが言えると思います。
 本文の18ページにもう一度戻っていただきます。
 大学間の連携を通じた地域再生の貢献ということで、もう全国各地で、大学間の連携が進んでおります。そういったことで、組織取り組みを推進するということが、一つの目標として上がっております。
 本文の19ページをご覧いただきたいと思います。
 これが今後の大学教育の充実の基本的考え方を示したものでございまして、学生の知識、学習習慣が不足して学習時間が少ないとか、そういった問題もございます。これに対して、補完教育を充実するとか、あるいは優秀な技術を開発するとかいうようなことでございます。
 それから、授業とかカリキュラムが体系的でないと、成績管理・評価が教員任せであると、大学本部によるカリキュラム関与、それから厳格な成績評価を行う、我が国の大学について、必ずしも国際評価か高くないということで、世界レベルの教育研究拠点の重点整備を図ると。社会のニーズに必ずしも対応してはいないということで、実践的人材を登用し、インターンシップを充実すると、あるいは、分野別、形態別の教育活動の認証が行われていないということで、必要な措置を行うと。それから、各大学は、それぞれ専門化が進んでおりまして、それぞれの個別に持つ大学の資源は限られております。その有効活用を図っていくということで、大学間の連携を図っていくということを考えています。
 次のページをご覧いただきます。
 学士力の確保、要するに学生の一般教養、ただし専門のそれだけ教育を受けて勉強してきたということを、成績評価としてちゃんと確保するということで、一つはテキスト・教材等の開発支援、単位の実質化に向けた学習支援、成績評価厳格化などが含まれているということで、200件程度を選定して、こういった予算をつけていきたいと思っております。
 それから、国際的に卓越した教育研究拠点をつくるということで、グローバルCOEプログラムと、センターウイクネスと言っておりますが、これのプログラムがございます。これは国内外の大学の連携と、若手研究者の育成を図る目的でございまして、研究拠点をつくっていくということで、こういった分野について、もう既に研究拠点を選定して、予算をつけてきております。年間四、五件つけてきておりますが、過去に選定したものについて、厳格な中間報告がございまして、22年度以降の補助金を、重点配分をし直すということを今考えております。
 次のページ、大学の国際化を推進するということで、留学生30万人計画、今、現在大体12万人ぐらいでありますけれども、これを2020年には30万人にしようという計画でございまして、これは各関係省庁が連携して行うということで、例えば、留学生を受け入れやすいように、英語による授業を実施するとか、そういった体制整備する。あるいは戦略的に国際連携の推進に取り組む30大学を選定して、集中的に実施。それから、留学生の受け入れ環境ということで、日本に定着して日本で就職したいという人もいます。就職支援を行う。あるいは留学生の宿舎がそもそも少ないわけでありまして、宿舎を借り上げて支援する、あるいは国費留学制度を充実するというようなことも、実施しております。
 それから資料編の19ページ、これ各大学のコンソーシアムですが、例えば、久留米学術研究都市づくり推進協議会、これ幾つか久留米にある大学が入っております。北九州・下関高等教育機関会議、こういった幾つかの大学が入っています。こういった形で、全国各地でコンソーシアムが組まれております。全国で40のコンソーシアムが組まれておりまして、これは先ほど申し上げました各個別の大学では、なかなか専門家化が進んでおりまして、なかなか充実した教育ができないと、資源が限られているということで、お互いに連携協力することによって、その教育資源を有効活用しようということで連携しているものでありまして、それの教育効果が上がると同時に、さらに地域貢献ということで、地域の人材を育成するということに貢献するということが、進められております。そのために、先ほどありましたように、大学連携の支援プログラムを推進していくということで、21ページに書いてございますが、そういったことを考えております。
 本体の22ページをご覧いただきたいと思います。
 医師不足ということで、そもそも医学部の教育環境を改善しようということで、顕微鏡とか当たり前ですけれども、そういう実習のための整備を図っていくと。それから、その地域になかなか大学を卒業しても残ってくれないということで、その地域に残るような、地域医療の担い手として残ってくれるような医師の養成を行うための取り組みを行う。それから、言われておりますように、産科とか小児科の人材か不足しております。そういったものの教育環境を整備するとか、あるいは女性医師を支援するとか、あるいは院内の助産所を活用した助産師の育成環境の整備を行う、というようなことをやる。それから、第2次国立大学等施設研究整備5年計画ということでございまして、いろいろな意味から、大学を整備した方がいいじゃないか、耐震化構造、あるいはイノベーションを創出する若手研究者等の人材育成、あるいは教育拠点の形成、さらには大学の付属病院の再開発等を、進めていきたいというふうに考えております。
 次のページでありますけれども、基本的方向の4でありますけれども、子どもたちに安全・安心して勉強してもらうような、そういう環境を整備すると、それから一つは、教育の機会均等を図っていくことから、経済的理由によって就学が困難なものの教育機会を確保する、そういった教育環境を実現していくということであります。
 次のページ。資料編の24ページをご覧いただきます。これは全国の公立の小中学校の耐震化の状況でありますけれども、耐震性がないとかあるいは未診断なのは、全国で37.7%、大体4万8,000棟ございます。全国では13万ぐらいあるんですけれども、そのうちの4万8,000棟ぐらいはそうです。特に危険性が高いもの1万棟について、緊急にこれを実施していくということを、今取り組んでおります。耐震化工事ですね。
 次のページ。いろいろ思い出しますと、池田小学校の事件とかいろいろな事件が、教育の現場で発生しております。こういったものを、子供たちがそういった危険にさらされているということで、これも考えていかなきゃいかんということです。
 次のページ。これは、4年制大学の進学率を、親の収入について見たものでございまして、これについて見ますと、明らかに親の収入が低いものほど子供の進学率が低いと、したがって、能力がありながら、あるいは学習意欲がありながら、経済的理由によって、進学できない人がかなりいるだろうと、いうことが言えるわけであります。
 本文の24ページ。先ほど申しましたように、耐震化工事をちゃんとやっていくと、それからいろいろな凶悪な事件が起こっておりますので、地域ぐるみの学校安全体制ということで、警察官OBとか、スクールガードリーダーを配置するというようなことを考えています。
 さらに、生きる力をはぐくむ学校での安全教育ということで、例えば、自然災害が起こった場合の避難の方法だとか、安全な通学路、安全マップ、身の周りの生活の危険等について、参考資料としてつくりまして、これで教育するということを考えております。
 次のページでありますが、教育の情報化を推進していくということで、これはICTEということで、これが非常に効果が高いということでやっていくと。一方で、例えば携帯だとか、いろいろな問題がございます。そういった情報モラル、そういうことを使うことによって、いろいろな危険がある、あるいは悪いことに利用されているということをちゃんと教え、あるいは学校の先生も、そういったことをちゃんと理解して教えると、いうことが必要だろうということで、これを推進していこうと。それから、私立大学につきましては、いろいろな意味で支援していく、私立高校について同様であります。
 次のページ。先ほど申しましたように、経済的理由でなかなか大学進学できない。意欲と能力がありながらできない者がいるわけでありまして、そういった人に対しましては、奨学金を貸与していくということで、これも充実していきたいというふうに考えております。
 次のページ、国と地方、いろいろ役割があるわけでありますが、国の役割といたしましては、教育制度枠組みをつくる、あるいは学習指導要領の基準を設定すると、全国的に教育機会の均等を図っていくと、あるいは質を保証し、向上するということで、今申しましたような教育振興基本計画をつくったわけであります。これは政府の計画でございまして、文部科学省だけの計画ではなくて、関係省庁、例えば、厚生労働省、農林水産省等の連携協力のもとにつくったもので、その他に、もちろん我々行政だけでこういった計画をつくっていくというわけではなくて、いろいろな事業者なり、教育関係者のNPO等の協力を得て、全体を進めていくということでございます。
 地方におきましては、国の計画を参酌して、それぞれの計画策定に努めることとされています。都道府県としては、市町村に対して指導、助言、援助を行うとともに、広域的な教育事業の実施、高校・大学の設置管理、小中学校の教職員の給与負担、人事等を行うことが役割として挙げられます。都道府県・市町村それぞれの役割があり、その全体として、日本の教育体系が成り立っているということでございます。
 次のページ。やはり国と地方団体は、それぞれの立場から役割を踏まえて、財政上の措置を講じることが必要でありまして、一方で国も地方も非常に厳しい財政状況でございます。施策の選択と集中を図っていく必要があるだろうと、コスト縮減に取り組んでいくと、効果的な施策を実施していくと。
 我が国の教育の公財政支出というのは、7割を地方が占めております。地方公共団体の役割が非常に大きいというところでございます。それぞれの実情を踏まえながら、創意工夫を凝らして、地域全体として、教育振興に取り組んでいただきたいというふうに思っております。
 次のページ。今の行政改革、歳出改革等との関係でございますけれども、歳出改革として、19年度から23年度に向けまして、例えば、文教予算の伸びを0.1%以内に抑制するとか、あるいは国立大学につきましては、運営費交付金というものを出しておりますが、これは対前年度1%削減でございます。私学助成も1%削減等でございます。これは厳しい歳出改革が、もう既に実施されております。
 総人件費の改革ということで、先ほども申しましたように、行政改革推進法という法律がございまして、少子高齢化に伴いまして、児童・生徒が減っていくわけでありますけれども、その減っていく数に見合った数を上回る教員の上限を図っていくということで、非常に厳しい法律がございます。
 一方で、小・中学校学習指導要領を改訂いたしまして、今後、授業時間を、特定の教科について増やしていくというようなことがございまして、21年度から移行に入るということでございます。小学校は23年度全面実施、中学校は24年度から全面実施、こういった行財政改革が進む中で、こういったこともやっていかなければならない、非常に厳しい状況ではございますけれども、必要な予算を確保するべく最大限努力したいというふうに考えております。
 次のページ。地方が7割を占めているという実情であります。
 次のページ。先ほど申しましたように、教育振興基本計画は政府全体の計画でございます。一方で各年、どういった何をやるか、それまでどういうことをやって、その成果はどういうものがあるかというのも踏まえて、文部科学省として、各年度のアクションプランをつくっていきたいと、いうふうに考えております。各年度を点検いたしまして、必要に応じて見直していくということで、これらを行うために、中央教育審議会に、教育振興基本計画部会というのをつくって、今現在、審議を進めようという状況にございます。
 ちょっと時間を超過いたしましたけれども、ちょっと走りまして申し訳ございません。
 以上で、説明を終わらせていただきます。ありがとうございました。

○司会(白井)

 それでは次に、中央教育審議会委員でいらっしゃいます、角田元良先生にご講演いただきます。角田先生は、現在、聖徳大学児童学部児童学科の教授で、これまでに、東京都公立学校会会長、全国連合小学校長会会長などを歴任されていらっしゃいます。また、中教審委員としても、中央教育審議会、初等中等教育分科会、教員養成部会、青少年スポーツ分科会などで、各委員を務められるなど、国の教育政策の形成に、大きな役割を果たしてこられました。また、教育振興基本計画の策定についても、中教審教育振興基本計画特別部会の委員として、計画策定にご尽力を賜ってきたところでございます。
 それでは、角田先生、よろしくお願いいたします。

○角田元良氏

 皆さんこんばんは。大変長時間にわたるセミナーで、お疲れになったのではないかというふうに思いますけれども、もう少し、大体7時ちょっと過ぎぐらいまでになろうかと思いますが、教育振興基本計画を中心にしながら、今後の日本の教育のあり方について、中央教育審議会の委員という立場で少しお話をさせていただこうと思っております。
 ただいまご紹介をいただきましたように、私は、現在聖徳大学というところで勤務をしているわけでございますが、主として女子の教員養成をする大学でございます。今年創立75周年を迎えるというところで、大学としては、比較的歴史の浅い大学でありますが、ただ幼児教育に大変力を入れておりまして、保育の聖徳ということで、全国に幼稚園・保育園の園長が、かなり散らばっているというような状況でございます。
 私は、実は今大学に籍を置いておりますけれども、小学校の基本的には教員でございました。17年間、小学校の教員を勤め、そして行政で13年間、いろいろと指導主事であるとか、指導室長、課長といったような仕事、あるいは研究所の所長、公立の小学校の校長をして、最後は千代田区立の麹町小学校という、国会議事堂のすぐそばの学校の校長をしておりました。
 したがって、学校が今どんな状況であるのか、何が苦しいのか、指導要領が変わって、一体学校は、これからどうできるのかといったようなことが、非常に気になっておりまして、中央教育審議会の中でも、現場の経験者として、何とか現場をやりやすい、子供たちの効果が上がり、なおかつ、先生方も意欲的に学校教育ができるように、そういった点での発言を中心にしております。
 したがって、今日話をすることは、教職経験者というそういう視点で、振興基本計画を見つめ直してみたいというふうに思っております。
 先ほど、寺西審議官から、大変膨大な教育振興基本計画の中身を、45分間という大変短い時間の中で、神業的に説明をされて、私は、実はこの教育振興基本計画の特別部会に出て、大体十数回この部会があったわけですが、なかなか理解ができない部分がたくさんありました。今日のご参会方々は、事前にお勉強をされている、あるいはこういうことに非常に関心が深い方だろうというふうに思いながらも、なかなかこれを1回できちっと理解をするということは、難しいことではないかなと、私の経験から照らして思っておりますが、しかし、さすがに審議官、この白い報告書、これは教育振興基本計画の政府のものでございます。平成20年7月1日に閣議決定をして、国会に報告をされた資料ですが、この資料全体で44ページあるんですよね。44ページある資料を45分間で説明するということは、1分間に1ページの説明をしたということですから、これは猛烈なスピードでございます。これを理解するってのは、もしもこれで理解を全部できているんであれば、もうみんな聖徳太子みたいな方たちだというふうに思っておりますが、冗談はさておきまして、ぜひこれをお読みをいただきながら、もう一度おうちに帰られてから、教育振興基本計画というものが、どういうものなのかといったようなことを、それぞれ理解を深めていただければというふうに思います。
 その際に、お手許に緑色の表紙の振興基本計画という、こういうリーフットが届いているかというふうに思います。このリーフレットは、実は文部科学省がつくったものですが、大変よくまとまっておりまして、これが読むときの大変参考になるだろうというふうに思いますし、先ほど寺西審議官が説明をされたことも、これに大まかなことが書かれております。まず、ちょっとご覧をいただきたいんですが、見開きのところを開いていただくと、教育振興基本計画が策定をされました、というふうなことが書いてあって、そしてその振興基本計画は、今後の日本の教育の10年間を見通して、5年間について、特にその施策をきちんと書きますよ、最初のところに書いてあります。そして、この振興基本計画が、どういう経緯で策定をされたのかということが、策定までの経緯として書かれているわけです。
 ちょっと振り返って見ると、平成12年12月ですから、これは小渕内閣の時代です。もうお亡くなりになりましたけれども、小渕内閣の時代に、教育改革国民会議から報告が出て、教育基本法を変える必要があるんだということが報告をされ、そして教育振興基本計画を、改正教育基本法の中に盛り込むべきであると、出たわけでございます。
 この改正教育基本法は、18年12月22日に国会を通って公布、施行されたわけでございますけれども、その前の平成13年の11月に、中央教育審議会に、この新しい教育基本法はどういうふうにしたらいいのか、それから振興基本計画を入れるとすれば、どんな振興基本計画をつくればいいのかいうことについての諮問がございました。それを受けて、15年3月に、中央教育審議会は、「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画のあり方について」という答申を、小泉首相のときに出したわけでございます。それを受けて、さら18年12月22日に改正教育基本法が出ました。改正教育基本法が出て、その教育基本法の第17条に、教育振興基本計画を策定するということが条文に載ったわけでございます。その条文の中に、どういうものを書いたらいいか、19年2月に文部大臣から、中央教育審議会に対して審議要請がございました。
 先ほどの寺西審議官のお話の中で、この教育振興基本計画は政府が出す計画です、というお話があった。本来は、政府が出すものであれば、政府がたたき台をつくって出すべきものであるけれども、しかし、これは文部科学行政に非常に大きな影響がある、あるいはそこの専門に研究しているところが、出すべきであるということから、中央教育審議会がそのたたき台をつくりなさいということになって、中央教育審議会に、この審議要請がきたわけでございます。中央教育審議会では、それを受けて十数回にわたって審議をし、あらゆる角度、いろいろな角度から審議をしたわけでございます。そして、それが20年、今年の4月18日、福田内閣のときに答申を出したわけです。その4月に答申を出して、7月1日まで約3カ月、2カ月半の間に福田内閣、もう最後の仕事になるかと思うんですけれども、この答申を受けて、政府としての教育振興基本計画を出したわけです。
 したがって、この政府が出した先ほどの白表紙というのは、あくまでも政府の見解でございます。この政府の見解を出すまでの間に、中央教育審議会としては、こういうふうなものを盛るべきである、との答申を出したわけで、それを審議をして、2カ月半の中で、最終的にこういう形のものができた。先ほど、寺西審議官が説明をされたのは、この政府が出した閣議決定の中身、そして国会報告された中身が報告をされました。
 私は、中教審の委員でございますので、じゃ、中教審がどういう審議をして、中教審が出した答申はどうなのか、そしてその中教審の答申と、政府の出したこの報告書に、どういう違いがあるのか、この辺を皆さん方に明らかにしながら、今後の日本の教育はどうあるべきなのか、いうことを考えていきたい、と思っております。
 せっかく開いたページですので、今のリーフレットの右側の方に、今後10年間を通じて、目指すべき教育の姿というのがあります。これも先ほど寺西審議官がご説明をされましたけれども、この中で私は、今回の学習指導要領、あるいはこの振興基本計画の一番のキーワードがある、というふうに思っています。そのキーワードは、一番最初に書いてある知識基盤社会の進展、これです。これが私は一番のキーワードではないかなというふうに思っています。
 よくグローバル化、ボーダレスな社会、と言われるわけですね。グローバルな世界、地球規模であらゆるものの情報が瞬時に世界に伝わっていく、例えば、ミャンマーで暴動がある、そうするとそのミャンマーの暴動を政府が抑えようとし、あるいは報告を世界にしたくないというふうに思っているんだけれども、情報があっという間にインターネットを通じて、全世界に映像が流されていく。日本の映像ジャーナリスト、長井健司さんがミャンマーの暴動の姿を映していて、お亡くなりになられた。そのお亡くなりになって、なおかつ映しているこのビデオカメラを手から放さない。こういう映像が、全世界にほとんと同時に流れる。いくらミャンマー政府が、そのことが暴動でない、あるいはその通信記者を狙ったものではないと言っても、そういう事実が報道をされる。これはまさにグローバル化した情報が、世界を瞬時に駆けめぐっていくというもとになっていることだろう、というふうに思います。
 情報化のことについては、ミャンマーだけじゃなくて、いわゆるチベットの例の自治区の問題、オリンピックの聖火をめぐる問題等も、この中国政府としては、出したくないけれども、そういうことが瞬時に出ていくといったようなことからも、おわかりいただけるのではないかというふうに思っています。
 つまり、このグローバル化ということ、そして情報による世界の伝達ということが、今非常に大きくその国の経済や、その国の政治や、あるいは文化を変える大本になっているんだ、いうことの一つのあかしではないかというふうに思います。
 知識基盤社会ということについて、私のレジュメの方、一番下のところに、「これからの社会、グローバル化、知識基盤社会の時代とは」ということを書いておきました。この知識基盤社会、非常に深い意味を持っているのではないかというふうに思っています。つまりここで定義を読んでみますが、こういうふうな言い方をしてあります。
 知識基盤社会とは、新しい知識、情報、技術が、政治・経済・文化など、社会のあらゆる領域での活動の基盤として、重要性を増す競争と共生の社会である。知識基盤社会は、競争と共生の社会なんだというふうに、書かれているわけです。そしてその競争というのは、具体的には、知識だとか情報だとか技術というふうなもの、新しいそういうふうなものが、ものすごい勢いで進化をしている、競争をしているというわけですね。
 今の情報なんかは、例えばコンピューターがものすごい勢いで進んできました。私が学生のころには、まだコンピューターは、大学の一室に鎮座ましますような大型のコンピューターが1台あって、そのコンピューターを使うのには、それこそ取り合いをする、順番で抽選を待つ、こんなふうな時代でした。自宅では、それこそガリ版で原紙を切って、そしてそれを印刷機にかけたり、あるいは手ずりの印刷をした。それがやがてビニール原紙に変わって、ファクスになり、今や印刷機はものすごい速さで進歩をしている。学校はもう、こういうふうなプリント類は、ちょっと印刷機の上に置けば、ボタンを一つ押すと原紙が切れて、そして自動的に100枚でも200枚でも何枚でも印刷ができる、こういう時代になってきています。ものすごい変化、進化ですね。
 これはもう皆さん方がどこの会社であっても、あるいは学校関係であっても、どこでももうそれはご理解をいただけるだろうというふうに思いますが、それはやはり、科学技術の進歩だというふうに思います。と同時に、コンピューターなんかがものすごい勢いで進んできていますし、私たちが今持っている携帯電話、この携帯電話も携帯電話というこの電話じゃないですね、もう。今や完全にミニコンピューターです。ワンセグなどのように、映像も見られるとか、もうあらゆる機能を持っているということからすると、コンピューターがこんなに小さくなって、そして非常に大きな容量を持っているという、これまさに科学技術の進歩のあらわれだというふうに思います。これによって、世の中全然変わってきたんですね。
 私、学生時代に、例えばデートするとなると、まずその場所に来てくれるのかどうかということが、一番心配になる。時間が過ぎても来ないと、いらいらしながら、いつ来るかいつ来るかと待っている。1時間たって、例えば帰った後に、1時間1分後に来ちゃうと、もうすれ違いですよね。ところが今は絶対にそんなことはないですね。電話1本で、今どこ、ここ、そう、じゃ、もうあと10分後とか、今日ちょっと都合が悪いから、もう少し待っててとか、あるいは後で、とかっていうふうに、もうメロドラマが成り立たない世界になってきている。こういう携帯電話がすごい電話としての機能を持っていますし、さらにコンピューターとしての機能を十分発揮している。この辺はこの科学技術の大きな進歩だと。
 テレビなんかもどんどん薄型になってきました。最初は、やっと我々なんかは、ラジオの時代ですから、ラジオの時代から白黒のテレビになり、カラーテレビになって、今や薄型テレビです。恐らくあと10年もすれば、薄型テレビからペーパーテレビになるだろう、白川さんがノーベル化学賞を受けた、ああいったポリエチレンが、電気を通すということから、多分、将来は、このポリエチレンの1枚の紙を胸の中にこうやってしまって、そして見たいときにこうやってぱっとやると、テレビが見られる、そういう時代が恐らく遠からずやってくるだろうというふうに思います。
 そういうふうに、科学技術がものすごい勢いで進歩をしていくと、この科学技術の進歩に対して、それを早く開発したところが、非常にたくさんの収入を得るという形になるわけですよね。コンピューターなんかも、実は日本でたくさんのコンピューターが出ているけれども、そのコンピューターの大本の開発したパソコンのところには、特許はアメリカの方にある。そうすると、売れば売るほどアメリカにちゃんと収入がいくようになっている。そうなると、新しい科学技術をつくり上げるということが、その国を富ませていくもとになるんだというふうになるわけですね。情報にしてもあるいは科学にしてもそうです。
 その一番の最近のニュースでは、京都大学の山中教授が、万能細胞と言われる、いわゆるIPS細胞を発見というか開発をしたということが、私は非常に大きな知的財産だろうというふうに思っています。文部科学省も、この5年間で100億円ぐらいのお金を投資して、そして早くそれが実用化できるように、まだまだマイナスの要素があるので、それを何とかクリアをして、世界的な特許をきちんと取れるようにしよう、というふうに投資をしていますが、山中先生は、ご自身は再生医療として、お医者様として、何とか具合が悪くなった心臓を再生できるようにする、この山中先生の話を聞いているときに、この皮膚の細胞から培養をして、心筋細胞がつくれたときに、その心筋細胞が試験管の中というかシャーレの中で、拍動をする、ドキ、ドキって動いている見たときに、山中さんは身の毛がよだつというか、もうすごいことを発見してしまったというふうに思ったというふうに、シンポジウムで語っておりましたけれども、そういう技術が、例えば、心臓の具合の悪い人の心臓に張りつけるというような表現をされていました。その細胞によって心臓が拍動をしてくる。今までは心臓が悪ければ、その心臓を移植して人の心臓をもらわなきゃならない。しかもその心臓が、本当にちゃんとその人に合うかどうかっていう適応の問題がある。拒絶反応を起こすというようなことが出てきたわけです。それが心臓を自分の皮膚でつくるとなれば、DNAが自分のものですから、拒絶反応を起こさずにできるということですね。これは心臓だけじゃない。肝臓や腎臓や、今透析をしなければ治らないようなそういうふうなものも、やがてあと5年後か10年後かには、そういう再生医療というものによって、できる可能性があるわけです。
 こういうものを山中先生は、全世界に無償で提供したい、こういうふうにお考えを再生医療のお医者様としておっしゃっている。すばらしいことだなあというふうに思いながら、何を私言いたいかというと、そういう研究をし、それが11月何日かの新聞報道に出ました。そうしたらその新聞に、その2日後に、アメリカのウィスコンシン大学で、同じように万能細胞を発見した科学者がいる。まさに科学の世界というのは、日進月歩で競争の社会、そして早い方がやはり開発者として、一歩も二歩も先んじる。これが科学の世界なんです。そうすると知識基盤社会というのは、まさに競争ですね。競争に打ち勝つということが、その国の日本なら日本のステータスとか、豊かさだとか、あるいは信頼度というものを高めるもとになるんだと、だから私たちは、その競争に勝てるような子供を育てるというのは、これからの教育の一つの仕事なんだというふうに、考える必要があるだろうというふうに思います。
 もちろん、競争というと、人を蹴落としてそして引きずり下ろして、自分だけがトップに立つという、こういうイメージがありますけれども、そういう競争ではなしに、私は我という、自分自身を高めていくという、こういう意味での競争を考えていかなければいけないんだろうというふうに思っています。
 これは、中教審の教育課程部会の梶田先生が、「我と我々の世界」、こういうふうな言い方をされています。梶田先生は、もう少し深い意味でお話しされているんだと思いますけれども、私自身としては、その我と我々ということを、競争の社会というのは、我の世界だと、そして共生という世界は、我々の世界だっていうふうに考えると、比較的教育界の中でも、受け入れられるのではないだろうかというふうに思っています。つまり、自分自身を、今日よりも明日の自分という、高めていこうとする気持ちというのは、誰しもあるし、それをしていくのが、教育の大きな役割だろうというふうに思っています。そして同時に、自分が高まるということが、そのクラス、集団、それを高めていくということにつながってくる。それが共生であろうというふうに思います。
 OECDの中では、共生として、例えば、環境であるとか、あるいはエネルギーの問題、食料の問題、こういうふうな問題が、やはり自分の国ではなかなかとれない。例えば、日本の場合だったら、食料需給率は40%ぐらいだと、あとの60%は海外から輸入して、食料を補給しなければ生活ができないという、こういう現実があるわけです。エネルギーについても、あるいは地下資源についても、それはもっと厳しい状況があるわけで、他の国から資源を買わせていただきながら、日本の国は、新しく自分たちが開発した科学技術、いい製品を輸出をしていく、こういうことは、昔も今も、やはり変わらないことなんですね。
 したがって、日本は、やはり競争に打ち勝てるというか、我を高めていき,そして我々の日本全体を高めていく。そのことが、世界全体を高めていくもとになるんだというふうに思いますし、例えば、開発途上国に対して、いろいろな技術的な援助をする、そういう援助が世界全体のレベルアップをしていく。環境について、日本は一歩も二歩もリードをしています。そういうことについて、開発途上国が、新しい技術を導入をしよう、そのときに日本がやってきたような、例えば、公害を出すようなことを、何とか今の日本の環境の技術によって少なくしていこう、そういう弊害を少なくしていこうというのが、これが持続可能な、開発をするという考え方だろうというふうに思いますが、それが結局競争と共生のバランスの問題で、私は大事な考え方なのではないだろうかというふうに思っています。
 教育では、我と我々、自分を高めていくと同時に全体が高まっていく、そういうふうなことが、これからの日本の教育の中では、非常に重要な考え方ではないだろうか。その考え方に基づいて、新しい学習指導要領を見ていく、あるいは振興基本計画を見ていくと、なるほどそういうふうなことだったのかということがおわかりいただけるのではないだろうかと思っています。
 学力テストの問題、あるいはPISAの調査で世界トップの学力をっていうことを言うと、そんなにまで神経質にならなくていいじゃないか、確かにフィンランドは、すばらしい成績をとっているかもしれないけれども、あれは過去の教育をやってきたその遺産としてあるのであって、というふうな考え方もあります。あるいは人口が1億人以上もいるような国で、このPISAの調査のような調査問題で、あれだけの成績をとっているのは、日本以外には考えられない。アメリカだってフランスだってドイツだって、そういうふうなPISAの調査をすると、日本よりもっとずっと下なんだと、だからそんなに気にすることはないのではないかというふうな方もいらっしゃる。しかしOECDが出したこれからの時代が知識基盤社会であるということから考えれば、世界各国が、その方向に向かって教育をやり直している、あるいはお金をかけているということを考えると、今の日本の教育が、それで10年後、30年後、50年後、大丈夫かと言って、その保障はどこにもないわけですね。
 小学校に英語教育が23年度から導入をされる、21年度の移行措置から外国語活動として、教科ではないけれども導入をされる。なぜ、小学校がこんなに忙しいにもかかわらず、外国語活動をやらなきゃならないのか、こういう疑問か起こらないではい。中学校から高校、大学と10年間ぐらいの英語教育を受けていたって、英語ができない。それなのに小学校の五、六年生に英語を入れたから、英語がしゃべれるような日本人なんか、そんなに簡単できるわけないじゃないか、それなのになぜ英語活動を入れなきゃならないのかというと、そこにやはり知識基盤社会というものが、あるんだろうというふうに思います。
 今東南アジアの国々を見てみると、もう韓国にしてもフィリピンにしても、あるいは中国にしても、第2外国語は、みんな英語でやっています。これから科学技術が進歩して、耳の中にイヤホンを入れれば、日本語で話したものが英語になる。英語でしゃべったものが日本語になる。そういう機械が開発をされる可能性は、十分あるだろうと思いながら、果たして、その細かいニュアンスや自分の意思が、きちんと伝えられているかどうかということがわからないで、いつまでもそれでいいのかどうかいう問題が提起されると、いつか日本にも外国語活動というもの、あるいは外国語、それが英語なのか、中国語なのか、フランス語なのかと、これは考える余地はあろうかというふうに思いますけれども、いつまでも日本語だけでいいのかということになると、そうはいかなくなるんだろう。
 実は、私は、小学校に外国語教育を導入することは反対だったんです。今でも疑問視しています。しかし、そういう知識基盤社会ということを考え、海外の国々の様子を考えたときに、あのフランスでさえ英語教育に力を入れ始めた。こうなったときに、日本がいつまでも日本語だけで済むのかという問題がある。そしていつか英語がしゃべれるような日本人をつくり出していくためには、いつか日本の小学校から英語教育を導入していかなければならないというのは、時間の問題なんだろうというふうに、あるとき思ったわけです。
 今回は、五、六年生の外国語活動導入になりました。これがやがて私は三、四年生になり、そして一、二年生に下りてくる可能性は、十分あるだろうというふうに思いますし、現に私は東京に今いるわけですけれども、東京の23区の学校は1年生からほとんど外国語教育をやっています。これはもうやっちゃいけないという縛りはないわけです。指導要領は、最低基準ですから、その指導要領の最低基準を超えて指導することが、子どもの負担にならない程度にやるのは結構です。それぞれの学校や地方自治体で考えてくださいよ、いろいろ問題はありますけれども、地方分権の考えで、お金があればALTだとか、その他ITだとか何かをそろえて導入することは、どこでもできるようになっている。そういうふうに考えると、東京ではできるけれども、他の県ではできないというのは、これは義務教育ではいいのかというふうに思うけれども、それが特色なんだということであれば、それはだめですよ、というふうなことは言えないだろうというふうに思いますし、英語教育についても、導入できるところは導入をする、五、六年生だけじゃなくて、4年生、あるいは3年生、1年生、2年生だって、時間の取り方はどこで取るかというのは、これはもう教科でも取れないわけですから、三、四年生の場合だったら、望ましくはないけれども、総合的な学習で取ろうとすれは、国際理解の一環としてとれる部分があるわけですけれども、一、二年生は、総合的な学習はないわけです。じゃ、生活科、生活科は教科ですから、教科の内容や目的がはっきりしているわけです。そうすると、その生活科にするわけにはいかないわけですから、それ以外の時間、今回低学年2時間多くなるわけですが、さらに1時間なり2時間ぶら下げるような形でやる。あるいは、ぶら下げないで帯の時間のようにして、朝の10分間なり15分間なり、その学校に英語のALTが1週間駐留するようであれば、そこの10分間なり15分間の帯の時間で、歌を歌ったりゲームをしたりしながら、英会話に慣れ親しむといったような活動をすることは、考えられないことはない。朝の読書が、今どこの学校でも進められています。朝の読書のかわりに英会話をする、あるいは計算ドリルをする、漢字ドリルをする、そういうふうなことは、これは教科に入れるか入れないかというのは、問題があります。小学校でそれを教科に入れるとなれば、それなりのきちっとした目標が達成できなければ、教科としての時間には認められないとは思いますけれども、そうでなくて、自由な裁量としてやるのであれば、それを拒むというとこはできないわけですし、決して親御さんも、それに対して否定的な意見を述べる方は、余りいないのではないだろうか。
 そしてこの外国語活動は、英語だけに限らず、その地域が原則として、英語ではやるけれども、例えばブラジルからの人が多ければ、スペイン語であってもいいですよと、それぞれの地域の実態に合わせてやりますよということで、だから英語教育じゃなくて、外国語活動という表現になっているわけです。それぞれの地域の実態、学校の実態で考えていいんですよと。国としては原則として、英語というふうなことの枠はありますけれども、英語でなければいけないということはないわけであります。
 そういうふうなことを考えるとそれぞれの地域が、あるいは地方の公共団体がやることっていうのは、非常に大きな意味を持っているのではないだろうかというふうに思います。
 さて、そういうふうにするときに、一つ問題が出てくるのは、財政の問題ですよね。先ほどのスライドの中にもありましたけれども、国の財政というのは、3分の1で、あとの3分の2の七十数%は、地方の自治体の方にいっている。地方交付税というような形で入っているわけです。
 ところが、地方交付税というのは、ご承知のように、これは教育としてやりますよ、というふうに言ったけれども、地方に入ったときには、その地方交付税を教育に使わなければいけませんという、縛りはどこにもないわけです。これは義務教育国庫負担制度という、あの負担金の場合には、これは教員の給与として使わなければいけませんよという縛りがあります。悪い言葉で言うと、ひもつきです。でも、ひもつきだったからこそ、どこの県でも、北海道から九州、どこの都県であっても、ある程度の給与はきちっと保証されていたわけですね。ところがこれが負担金が交付税になってくると、お金のかけ方が、給与を変えることはできないけれども、出張旅費だとか教材費だとか、図書館図書費だとか、そういうものは、それぞれの県の考え方で、自由にある程度できるわけですから、図書館を充実させように思えば、その交付税のお金以上にやることもできるし、逆にちょっとうちはやはり財政事情が非常に厳しいから、わかるけれども、そこのところはちょっと待っていただいて、他のところに回すということだって、これは地方交付税の趣旨から言えば、できてしまうわけです。そうなると、この地方による地域による格差というふうなものが、だんだん出てきて、現に今出始めているというのが、状況ではないだろうかというふうに思っています。
 今日の私がつくりました2ページ目の資料をご覧いただきたいというふうに思います。この2ページ目と3ページ目というのは、これは左側が中央教育審議会の答申の部分です。右側が政府の閣議決定をして国会に報告をされたものであります。中教審の答申は、できる限り数値目標を入れることが望ましいというのが、前の中教審のときの報告にあったんですね。何か事をやるときには、必ずお金をつけるわけですから、そういうことについて、きちんとその数値目標を導入しましょう。導入することによって評価がしやすくなる。これだけのお金を投入したけれども、ここまでしかきていない、あるいはここまでのことが目標だというとことを出しておくことによって、評価ができるようになる。達成できていなければ、そればなぜ達成できなかったのかということの検討をし、次の振興基本計画を立てるときの参考になるわけですから、できるだけ数値目標を出すことが望ましいというのが、この前の答申で出ていたわけです。
 ですから、今回も中教審がこの審議要請があったときに、できるだけ数値目標を出しましょういうことで、たたいたわけです。ところがこれは最終的には中教審が出しても、さっき言ったように、国としてこの報告を出すわけだから、中教審が出したものを国としてさまざまな角度から検討し、厚生労働省であるとか、財務省であるとかというところから検討した上で、最終的にこの報告が出てくる。だから当然違ってくるのはやむを得ない。この辺は今までの中教審の答申のあり方と、今回の中教審の審議要請というのは、大分趣が違っているというのがあるんですね。その辺はちゃんと識別していただかなければいけないと思いますが。
 2ページ目の初めのところに、答申では、これは教育立国をやるんですよということを宣言した。ところが閣議決定の方では、下から3行目ぐらいのところに、教育立国を目指しというふうに書かれている。目指すということは、今教育立国、これから先に目指しますよということで、今まだ教育立国にはなりませんよというか、現在進行形みたいな形の言い方ですね。この辺のところが、ちょっとやはり認識のずれというか、表現のちょっとした違いなんだけれども、一つポイントにもなるだろうというふうに思います。
 第1章の我が国の教育をめぐる現状と課題で、我が国の教育をめぐる現状と課題は、4行にわたって書いてある。これは全く変わっていません。すばらしいことです。我が国のこの教育というのは、明治期以来、国民の高い熱意と関係者の努力に支えられながら、国民の知的水準を高め、我が国社会の発展の基盤として大きな役割を果たしてきた。特に初等中等教育については、教育の機会均等を実現しながら、高い教育水準を確保する希有な成功例として、国際的にも高い評価を得てきている。地域の強いきずなのもとで、地域ぐるみの教育が行われている例も多い。こういうふうに、大変高く初等中等教育についての評価が出ているということは、ちょっと手前みそというか、自分が初等教育に携わってきて、それをきちんと評価してきていただいているということは、ありがたいことだなというふうなことが感じられます。
 ところが、10年間を通じて目指すべき教育の姿というところの(2)に、目指すべき教育投資の方向というのがあります。ここでは政府の方では、こんなことがありますね。右側の方に、答申では記述がない部分記述があって、真ん中辺より下のところですが、教育への公財政支出が、個人及び社会の発展の礎となる未来への投資であることを踏まえ、欧米主要国を上回る教育内容の充実を図ることが必要である。欧米主要国を上回る教育の投資が必要であるというんじゃないんですね。内容です。内容はこの欧米並みか、それ以上のものにしていかなければなりませんよというふうに言っているんですね。そしてさらにそのあとに、答申では、教育投資の充実を図っていくことが必要である。歳出歳入改革と整合性をとり、効率化を徹底し、また、メリハリをつけながら、真に必要な投資を行うこととするっていうふうに、中教審答申では、数値目標こそ出していないけれども、非常に強い決意を述べています。
 ところが、右側の方の政府の見解では、OECD諸国など諸外国における公財政支出など、教育投資の状況を参考の一つとしつつ、先ほどの例のOECDは3.5%という日本の数字が出ましたけれども、それを参考の一つとしつつ、必要な予算について財政を措置し、教育投資を確保していくことが必要である。この微妙なニュアンスですね。
 その次、第3章、今度は第5カ年、5年間の総合計画ではどうかというと、やはり同じようなことが出ていると同時に、右側の方に、最終的な判断は、地方公共団体に委ねることとするなど、つまり、国としては3分の1しかできませんよ、あとの3分の2は地方なんだから、地方がやるんですよっていうことを、要するに、地方分権の考え方を丸投げと言ったらしかられちゃいますけれども、そういう考え方が出ているんですね。この辺のところの確かに7割が国から地方に行っているわけですけれども、今、国の状況もさることながら、地方の状況はもっと難しい厳しい状況になっているわけですから、そういうことからすると、このことについては、何か地方に丸投げをしているようなそんな感じがして、本当にその地方分権という考え方がいいのかどうかいうことさえ、疑問に思うわけです。
 もう時間が終わりになりましたから、あとは簡単にしますけれども、3ページの方のあとで比較対象をしながら、お読みをいただきたいというふうに思いますけれども、中央教育審議会としては、中教審のオオトノミーということを、私もそれから前の鳥居会長も非常に強く言いました。これはどういうことかと言うと、中教審の自主性、自律性の問題です。中教審の議論をしていくときに、教育再生会議からさまざまな意見がありました。ご承知のとおりです。打ち上げ花火のようなこんなことで、日本の教育は大丈夫かっていうふうに思うようなことがありましたけれども、中央教育審議会は、先ほど縦の論理と横の論理というのが出ていました。縦の論理をもう少し高校・大学でとめるんじゃなくて、生まれたときから死ぬまで、あるいはもっと長く言えば、日本の教育が始まってからこれから先の、そういう時間的な経過で、教育というものを考えていかなければ、今ここでこういう状況だからこう変えようって言ったってそんなに簡単にかじはとれないし、そのことが果たしていいかどうかということの判断というのは、そんなに簡単につくものではない。これが縦の考え。それから横の考え方では、日本の国内、学校、地域、この連携というふうなことの先ほど図がありましたけれども、それだけじゃなくて、日本の国だけじゃなくて、世界の状況がどういうふうになっているのか、フィンランドの教育がいいと言うけれども、フィンランドの教育はどうなのか、そういうことをきちっと検証した上で、日本の教育というもののあり方というものを、考えていかなければならない。それを答申するのが中教審の役割であって、一過性でちょっとした問題で出てきたから、じゃそのことをやろう、こういうふうなことをしていくと、本当にその米百俵の精神が歪んでいたけれども、本当に私は米百俵の精神をするんであれば、定額減税をするといをふうなことじゃなくて、もっと違うやり方があるんじゃないかなというふうな感じもしないでもない。
 余り政府を批判することばっかり言っていると、何だというふうに思われるかもしれませんが、やはり教育というのは、長い目で見ながら、そして広い視野のもとで論じていき、そしてそれに対してきちんとした財政投資を、将来の先行投資としてやっていかなければ、日本の国は、私は立ち行かなくなってしまうのではないか、やがてそのボディブローがどんどん効いてきて、日本はかつてはよかったというふうなことに、ならないようにしていかなければいけないのではないだろうかというふうに思っています。
 最後に、4ページと5ページのところに、教育新聞に私が投稿した「名ばかり教育立国」、この教育立国という名ばかりにして、お金はつけないというふうなことでは、やはりこれは日本の教育というのは心配だといったようなことを、少し例を引いて書いておりますし、来年度からの中央教育審議会の答申である学習指導要領についても、本来は財政の問題というのは、普通は触れないんですね。今回は、子供一人一人に向き合う時間をきちんと確保できるように、条件整備をしましょう、内容と条件整備は対ですよ、この対がちゃんと守られなければ、この教育内容をきちんと実現することはできないんです、いうことをあえて言っているわけです。ところが先ほどのその報告文にあったように、教育内容は世界水準にします、だけれども財政はつけられません、こういうふうなことで、果たしてやれるのかどうか。
 最後に、文部科学省は大変頑張っている。私は別に文科省の味方をするわけではないけれども、一生懸命教育財政の、先ほどの来年度から非常勤講師1万1,500人をつけよう、いうふうなことの概算要求を出している。しかし財務省は、縛りがありますよ、行政改革推進法というのがあって、これが23年3月までは有効だから、教員の定数を増やすことはまかりならんという、これは法律なんだから、法治国家としては、守らないわけにいかないわけです。そうすると、非常勤講師ならば何とかなるかもしれないということで、非常勤講師を出している。本来ならは、やはり正規教員を増やさなければ、教育の条件はよくはならない。だけれども、そういう法律があるということからすれば、非常勤で対応せざるを得ないんだということなんですね。こういうことも考えながら、文部科学省が来年度の教育財政概算要求で、非常に頑張っているわけですけれども、この辺がどういうふうに国会を通じて、その前にどんなふうな財務省からのあれがあるか、ぜひ皆さん方、しっかりその辺を見ていただきながら、これからの日本の教育を、そういう面でもう一回見つめ直していただければというふうに思います。
 ちょっと話が、まとまらない話になりました。レジュメどおりにはいきませんでしたけれども、お許しいただいて、ご静聴ありがとうございました。終わらせていただきます。(拍手)

○司会(白井)

 それでは、これから質疑・応答の時間に移りたいと思います。
 本日ご質問にお答えさせていただきますのは、角田先生、文部科学省大臣官房審議官の寺西、加えまして、初等中等教育局初等中等教育企画課企画官の澤川、高等教育局大学振興課大学改革推進室長の今泉でございます。
 それでは、質疑・応答に移りたいと思いますけれども、ご発言に際しましては、できる限り多くの方にご発言いただきますよう、簡潔にしていただけるようお願いいたします。また質疑の際には、お名前をちょうだいするようにお願いいたします。
 それでは、ご質問、ご意見等ある方は挙手をお願いいたします。

○参加者

 私、中学校の教員をしているわけですけれども、今の話を聞きながら思ったことを、ちょっと言いたいというふうに思います。
 中学校現場で働く人間としては、やはり何といっしも授業する人間を増やしてほしいというのが一番ある中身です。教員の仕事というのは、授業と教材研究、実はそれ以外にたくさんの雑務があるわけなんですけれども、実際には授業と教材研究だけで、勤務時間週40時間ですけれども、終わってしまうと。あと大体自分で週50時間ぐらい仕事をして、やっとやれているという現状なんですね。ですから、今いろいろな主幹教諭とかいろいろ増えてきましたけれども、やはり授業をきちっとやれる人間を数多く増やすと。特にですから、30人以下学級の実現とかですね、そういう部分にぜひとも力を入れていってほしいし、この振興計画は、今最後の角田先生の話で、あるいははっきりしたんですけれども、やはり財政的な裏づけをどうするのか、10年のスパンで5年の具体計画と言うけれども、5年間で一体幾ら使おうとしているのか、そういうあたりを出していかないと、絵にかいたもちになってしまうんじゃないかなというふうに思います。
 もう1点は、余りふれない教員免許の更新制ですね。今学校現場で一場話題になるのは、実はこの免許更新制なんですね。はっきり言って、この悪法はすぐに廃案にしてほしいというふうに思っています。これにかかる金をもっと別のところに持っていくことが大事じゃないかなと、私自身は大学で必要な単位を取って、そして今の若者はもっと福祉の現場実習など、いろいろな単位を取得して教員になっているわけですね。それがわずか10年でだめというか、10年で更新しなきゃいけないというのは、大学に対しても失礼だし、その免許を取った個人に対しても、失礼なことじゃないかなというふうに、僕は思っています。
 ですから、この免許更新制は、ぜひともうすぐにでも廃案にしてほしい。もしやるとするなら、除外規定がたくさんありますよね。一番除外されているのは校長先生ですね。校長こそ、まずもし文部科学省が言うような免許更新ということが必要であるというなら、校長こそきちっとこの更新をやっていくというようなことを、考えていかないといけないじゃないかなというふうに私自身思っています。
 ですから、よかったら、なかなか文科省の人と話す機会がありませんので、これらについて答弁をお願いをしたいと思います。以上です。

○澤川(初等中等教育局初等中等教育企画課)

 失礼いたします。文部科学省の初等中等教育局というところで企画官をやっております澤川と申します。
 今のご質問、2つあろうかと思いますが、まず最初の1点目の教員の定数の話ということでございます。今、特に授業をする人を増やすというふうな話がありました。我々当然の話として、まさに学校教育の核は、直接子どもたちにどうやって教えていくかということだろうと思っています。人数を増やしていくという側面と、今言われたように、非常に教員の方、雑務が多いというふうなことも問題になっております。それで全国的な調査というのは、最新のものが平成18年に、教育勤務実態調査というものも行いました。それ以前の調査というのは、なかなかないんで、それを昭和41年、約40年前になりますが、やったものとの比較という形で、ちょっと同じ調査じゃないんで、同一の比較は困難なんですが、調査比較ということをさせていただきますと、事務仕事が増えているというふうなこととか、特に生徒指導のところで、集団的なというんでしょうか、クラス全体に対する生徒指導が多いというふうな形で、勤務時間の面でもそういう雑務が多いと、今言われたことの裏づけとなるような話もありましたし、あと教員の意識面の方を見てみますと、それが負担に感じているというふうな話も言われております。ですので、我々としては、今年度の予算、平成20年度の予算において、定数改善というものをいたしました。それと合わせて、まさに実質的な面で、教員が直接子どもたちと向き合う時間をどう増やしていくかということが、必要だろうというふうに思っております。
 それで、いろいろな形でやり方が考えられると思います。学校の仕事のあり方とか、学校の校務分掌のあり方とか、教員の構成のあり方、いろいろな問題があるかあるかと思いますが、まず「隗より始めよ」ということで、既に今文部科学省の方で取り組んでいるのは、国の方から直接すべての学校教職員の方を対象にする調査というものがございまして、それがかなり現場の方の負担になっているというふうな声を聞いたものでございますので、それを整理統合してきちんとしたスケジュールに照らして、それをやるということで合理化をして、皆さん方の勤務改善の一つでも、少しでも役に立てばということで考えております。
 先ほど寺西審議官の方から、OECDの比較がございました。それで私、今の前の職は財務課というところにおりまして、教員の給与、定数のところの仕事の一端をちょっと担っておったわけなんですが、直接私の実感として申し上げれば、単純な国際比較だけで定数を増やすというのは、なかなか難しい時代になってきたなというふうに思っております。単純に数を増やすということよりも、質を向上させながら、というんでしょうか、実質的な先ほど申し上げた教員が子どもたちと向き合う時間を増やすにはどうしたらいいかという観点で、教員の定数改善なり、さまざまな施策を打っていく必要があるなということを、痛感した次第でございます。
 平成20年度の定数改善1,195名ということでありましたが、その大半1,000名が主幹教諭の増ということでございます。主幹教諭が十分機能することによって、実数1人分ということ以上に、教員の方々の勤務負担が軽減されるのではないのかなというふうに思っております。
 あと、教育振興基本計画のところでございますが、なかなか現実面で中教審において、いろいろな拡張高いご提言をいただきましたが、現実の教育振興基本計画のところについては、十分その趣旨が生かされていなかったかもしれないという点で、我々担当として十分反省しているところでございますが、一つちょっと負け惜しみに聞こえるかもしれませんが、一つだけ言わせていただければ、国として計画をまとめるというふうな段階でございまして、国の政府の基本的な方針として財政改革がありますということと、もう一つ、特に政府、文部科学省の基本的な方針として、教員の子どもと向き合う時間、定数改善をどうするか、二つの課題がありして、それの調整を図る必要があったということでございます。どちらが勝って、どちらが負けてというふうな話ではなしに、二つの理念をどういうふうに調和させるかということで、特に我々事務方が、いろいろ苦労して努力したわけでございます。
 結果として、具体的な数値目標なるものは、定数の世界で書くことはできませんでしたが、文部科学省、国の方針として、教職員配置の適正化等との文言が並んでおりまして、引き続き5年間文部科学省として、いろいろな観点から定数改善とか、非常勤講師の拡充とかさまざまな措置に取り組んでいくということを、対外的にも表明しているということでございます。
 先ほどスライドでありましたような、21年度に向けての定数改善等の要求は、この教育振興基本計画に基づくものというふうに思っておりますので、22年度以降も引き続きいろいろな情勢を見ながら、我々としてできる限りのことをやっていきたいというふうに思っております。
 あと、教員免許更新制の方でございますが、10年に一度、いろいろな形で今角田先生からもありましたように、教育を取り巻く状況、子どもを取り巻く状況、社会の状況というのは変化しております。そういう変化の激しい中にあって、教員の方々の知識をリニューアルしていただくと、そういう形で発足した制度でございまして、まさに来年度、来年4月から実施ということでございますので、円滑な形で実施が図られるように、いろいろな形で努力していきたいというふうに思っております。
 以上でございます。

○司会(白井)

 他にご意見・ご質問ございませんか。後ろの方。

○参加者

 特にこれからのことについて質問したいと思います。
 今日の教育振興基本計画成立の流れ、わかりました。ただまた同時に、これから5年後、そして10年後の計画を策定していく上で、この平成20年度からの5年間の総括というのが、どのようなプロセスで総括されていくのか、そういうことも同時進行だというふうに聞きましたので、その点についてお尋ねしたいと思います。
 特に、角田先生の話を聞きまして、この教育振興基本計画の策定段階で、中央教育審議会が教育現場のことを踏まえて検討された内容というのが、非常によくわかりました。であるならば、今後この教育振興基本計画5年間の策定を総括して、次の5年間、次の10年間を予想していくときに、中央教育審議会としてどのように変わっていくのか、そしてまた現場の総括を吸い上げていく、そういうシステムがぜひ必要だと思いますけれども、その点はどのようになっていくのか、そしてまた全体としては文部科学省として、どのように総括を進めていくのか、そのあたりの計画がありましたら、教えていただきたいと思います。
 以上です。

○寺西大臣官房審議官

 先ほどご説明いたしましたように、この教育振興基本計画、今後10年の教育の姿を見据えた、5年間に重点的に取り組むべき施策を規定したものでございます。政府全体の計画ではございますけれども、文部科学省といたしまして、毎年度アクションプランをつくって、これを実施していくということにしております。
 この施策の進め方の基本的な考え方として、先ほどPDCAと申しましたように、まず各年度の目標を立ててその実施の成果を検証いたしまして、それをフィードバックして、次の計画に反映させていくというようなサイクルで、ものごとを考えていきたい、いうことでございまして、これから毎年アクションプランをつくりまして、中央教育審議会にお諮りしながら、毎年の着実な実施を図っていく、そういった実施を図っていく中で、今後5年後にどういう姿にしていく必要があるかということを、並行して検討していくということで、次の教育振興基本計画策定を進めていきたいという、基本的考え方でおります。
 また教育審議会につきましては、角田先生にもご意見があろうと思いますので、一言お願いしたいと思います。

○角田元良先生

 今審議官の方からお話がありましたように、とにかく同時進行の形でチェックをしながら、計画を立てていかなければならないという宿命にあるわけでございます。中教審では、スタンスとして先ほど言ったように、中教審のオートノミーというものをきちっと守りながら、長い歴史のスパンとそれから広い視野で考えていこうと、そのためには、そういう大きなことだけではなくて、現場の意見をきちんと吸い上げなければいけないというスタンスは、変わらずに持っております。これは文部科学省の方で、恐らく多くの団体からヒアリングをします。20団体から30団体ぐらいのところからヒアリングをしながら、現場が今どういう状況になっているのか、その状況に対して、どういうふうなことを対策としてとっていかなければいけないのかいうことを、あるスパンで、5年というスパンではありますけれども、10年先、本当は20年、30年先を見越して、世代をつなぐようなそういう長いスパンで考えていかなければいけないだろう。しかし現実をしっかり見据えるということは、まず大事なところだろうというふうに思いますから、12月2日からこの部会が今回始まるわけですけれども、そこのところでどういうふうな話が出るか、委員の先生方の意見を聞きながら、聞きながらというか、意見を出しながら、恐らくまず最初に、今の状況がどういう状況になっているのかいうことを、これからもう少し、新しい学習指導要領の移行措置を踏まえていくことになるのではないだろうかいうふうに思っております。私からは以上です。

○司会(白井)

 それでは、定刻を過ぎておりますけれども、あと一、二問お受けしたいと思います。

○参加者

 30年間中学校の教師をして、今職員団体の役員をしていますけれども、この基本計画が出たとき、マスコミ各社より一斉に、角田先生が書いてあるような「名ばかり教育立国の危惧」とかですね、一番下段に、これを読みまして、私もそのとおりというふうに思います。それから各社も「朝日」などは、つけは現場に回るのか、教育基本計画、それから教育の予算も教職員の数も増えなければ、そのつけはいずれ現場に回るのではないか、こういう記事もあります。
 また地方社では、看板倒れの10年の計、こういうのを大まかにテーマで書いて、改訂要領の前提であったはずの教育条件整備を置き去りにしたつけは、いずれ学校現場に回ってこよう、本当、私、各紙、そのときすべての新聞を洗いざらい読みました。すべて角田先生が書いてあるようなスタンスで、マスコミ各社は、すべて批判していますね。これに対する文科省の考え方なり、それはどんなふうに思うんですかね。今担当の方が、質の問題でもあるとかいうふうに簡単に片づけられましたけれども、教育条件整備のために、教育基本計画は立てたんでしょう。教育基本法を変えて、そこに改めて16条ですか、載せたんでしょう。教育条件を確保するために、国の施策としてやらないかんという形で変えたんでしょう。私はそんなふうに思いましたよ、教育基本法が変わったときに。改めてわざわざ基本計画なんて、基本法の中にあれ入れる必要はないというふうに、私も反対しましたけれども、あえて国が入れたことは、条件整備をつけ加えないかん。国が確保せないかんということだったんでしょう。でもすべてのマスコミすべて、角田先生もすべて批判されています。これに対する国のスタンス、文科省のスタンスは、どんなふうな考え方なんですか。それをきちっと答えていただきたい。

○寺西大臣官房審議官

 教育振興基本計画は、教育基本法の規定に基づいてつくったものです。それは目標は、具体的目標につきましては、先ほどご説明したとおりなんですけれども、基本的考え方としましては、教育基本法に掲げた教育の理念、これを具体的に実現していくための計画、方策等を基本的に政府として取りまとめようということで、つくったものでございます。
 したがいまして、いろいろな考え方がそこに盛り込まれております。数値目標等についても、先ほど議論がありましたけれども、少なくとも教育答申につきまして、諸外国の公財支出など教育答申の状況を参考にしながら、教育答申を確保していくという方向性は、明示されたわけでございまして、新学習指導要領の実施に向けた教職員定数のあり方など、基本的な条件整備の方向性については、これは盛り込むことができたと。それ以外にも、もちろんそれだけがこの教育振興基本計画の策定目標ではなくて、さまざまなことが教育振興基本計画に書いてございます。まさに教育基本法の理念を実現をするための計画でございます。私どもといたしましては、こういったものを踏まえまして、条件整備以外にもいろいろなことが書いてございまして、これに定められた事項を毎年の概算要求、先ほども幾つか例を挙げてご説明いたしましたように、これにつきまして、全力を挙げて確保していくべく今努力しているところでございまして、毎年こういったものを取り組んでいきたいと。
 先ほど申しましたように、PDCAサイクルでもって、それを毎年のアクションプランに取り入れて、さらに前進していくように、頑張っていきたいというふうに考えております。

○司会(白井)

 じゃ、最後のご質問とさせていただきます。

○参加者

 すみません。時間が過ぎているのに。福岡で小学校の教員をしております。
 角田先生の最後のお話ですね、私も全く同感だなというふうに思いました。やはり教育において、教育条件整備をいかにしていくかというのが,本当に大事なことだというふうには思っているんですけれども、その一つの例として、文科省が特別支援教育についても大変力を入れているというのを、私は感じているんですけれども、平成で言えば19年度と20年度でしたか、1校あたり84万円程度の地方交付税交付金というふうな形で予算化して、地方自治体の方に下ろされましたけれども、実は福岡は、平成19年は全く配置がなかったんですね。ゼロなんです。そして今年度20年度は30人,年度当初30人で、あと追加がありまして7人で37人の配置というふうな実態です。私たちは当初19年度の通知を見せていただいて、教育委員会の方にも、いつになったら配置するんですかというような話を随分持っていったんですけれども、なかなかこれについてはという、事業化しておりませんというような話で、大変困っておりました。本年度も結果的には37人ということで、これでは文部科学省の方でしっかりとつけた予算が、交付税交付金というふうな性格上、いろいろなところへ流れていったんだろうというふうに思うんですけれども、条件整備という観点から言えば、先ほど角田先生かおっしゃったように、言葉はちょっとあれですけれども、ひもつきというふうな形ででも、やはり地方の方に下ろさないといけないものがあるんじゃないかなと、私思うんですね。義務教育費国庫負担制度が、2分の1から3分の1になった。その前はもっといろいろなものが、地方公共団体の方に負担金として下りていたものがだんだん減ってしまって、今のような状態にやはりなってきていると思うんですね。文部行政のやはり一番トップで動いていただくのは、やはり文科省だと私は思っていますので、そういう意味では、本当に条件整備をまとめて、しっかりと予算をとっていただきたいと、それが今言ったようなところに、きっちりとした定数配置として、たとえ非常勤でも欲しいというのが、現場の実態の要望ではないでしょうか。
 それともう一つ、それに絡んでは、雇い方ですけれども、特別支援教育、いわゆる支援員ですので、本来は支援教育が必要な子どもたちにかかわる先生方ですよね。ところが募集を見ますと、2カ月間の雇用と、そして2カ月間、そのあとはまたお休みをしていただいて、別の方が来るというような、いわゆる雇用面での雇い方というのがあるんですね。やはりそれは社会保険の関係だろうとは思うんですけれども、そういった雇い方しかできないというような今実態があるというようなことで、それはぜひ、私たちは特別支援教育を本当にしっかりと位置づけてやるんなら、そういうこともしっかりとやらないといけないんじゃないかなというふうに思っていますので、先ほど寺西審議官の方からもお話がありましたように、予算の獲得については、ぜひ頑張っていただきたいというふうに思っています。それが一つ実情です。
 もう一つですね。

○司会(白井)

 すみません。簡潔にお願いいたします。

○(参加者)

 ごめんなさい。では先ほどPDCAというサイクルの話をされましたけれども、私たちは学力テストですか、それはそのPDCAで言うと、どうなるのかというふうに思っているんですね。実はあるところでは、2年間ほど学力実態調査を行いました。それをもとに今度はそれに使っていた予算を、その手だてが必要なところに回そうというような方針を立てて、今取り組みをされています。それをまた改めて振り返ってみて,じゃ、次どうするのかというようなそういう姿勢が必要なんじゃないかなと、私は思うんですけれども、だから意見としては学力調査については、文科省もどこかで切りをつけて、今度はその予算を学力を上げる、あるいは手だてをするようなところに回すべきではないかな、というふうに思うんですけれども、すみません。ちょっと長時間になりました。

○澤川(初等中等教育局初等中等教育企画課)

 失礼いたします。まず特別支援教育支援員の話、お尋ねがございました。それでご指摘ございましたとおり、今文部科学省として、特に地方交付税で取り組んでおります。それで20年度の数字だけで申し上げますと、交付税ですので、実際の予算上の数字と学校の現場の数字が違うかもしれませんが、3万人全国で雇えるだけの交付税の措置を、国全体においてしているということでございます。この3万人というのはどういう人数に相当するかと言うと、すべての公立の小中という学校でございますので、今ご指摘の状況ということで見れば、当初積算上というんでしょうか、予算を立てるときに想定していたものよりは、少ないと言わざるを得ないというふうに思っております。ただ交付税の話でございますので、国として、それがいいのか悪いのかということまで、今のお話を伺っただけで、私申し上げることはできませんので、まずは、申し訳ございませんけれども、地元の自治体の方に、どういう考えでやっていたのかということを言っていただいて、あわせて積算上はすべての公立の小中学校に措置されているんだよということで、改めてご主張いただければというふうに思っております。あと、国の方としてもせっかく措置した交付税が、適切に使われていないということであれば、それは極端な話としては、財政当局から削減の対象になりかねないわけでございますので、そういう現場での使われ方ということもきちっと調べて、必要とあれば、いろいろな形で市町村の取り組みを促すということも、やっていかねばならんことだろうというふうに思っております。
 あとこの雇い方については、ちょっとすみません。我々の方として特にこうというような、たしか私も直接の担当ではございませんが、そういうことを言っている立場じゃなかったかと思いますので、ちょっとこの壇上からということで恐縮ですが、私として特に言える形ではないんですが、いずれにしても現場の実態、子どもたちの実態とか、そういうものに合わせて、せっかくお金を使うわけですので、それが十分機能するような形で、使っていただければというふうに思う次第でございます。
 あと、学力調査については、今回2回目、既にもう今年度行われたわけでございます。PDCAということでございますと、ちょっと私の考えでは恐らくCに当たるところだろうというふうに思っております。国としての施策をどう考えていくかという側面、学校とか市町村教育委員会の施策をどう考えていくかという側面、あと子ども一人一人の教育をこれからどうしていくかという側面で、いろいろな形で活用できるものだというふうに思っております。
 とりあえず、まずは国の教育施策を考える上では、必要な客観的なデータが必要だというふうな立場ですので、将来的にどうなるかというようないろいろな議論はありますが、まずは、まだ2回目ということで、引き続き我々そういうことで実施をして、各学校のPDCAサイクルが十分確立するようなことも促しながら、我が方としてもせっかく使っている予算がございますので、有効に活用したいと思っております。
 あと最後、もう一回ちょっと、定数のところについてご質問がございましたので、申し上げさせていただきます。私も新聞を読みますと、一番記憶に残っている新聞の見出しが、「文科省完敗」というふうに書かれておりまして、担当の一人として私も非常に残念な思いがしたわけでございます。ただ負け惜しみをもう一回言わせていただければ、書けなかったということと、文部科学省があきらめたということは、また別の話でございます。その行政改革という理念と、定数改善という文科省の目標が、調整した結果がこうなってしまいましたけれども、文科省全体として、定数改善をあきらめたとか、教育の条件整備を一切しないということではないというふうに思っております。書けなかったけれども、我が方としては、引き続き努力してきいくんだということでございます。
 先ほど寺西審議官から、冒頭、行政説明の中で、資料15ページで21年度概算要求というのがございました。そこで書いてあります定数改善の話とか、新学習指導要領の円滑のための実施のための非常勤講師は、教育振興基本計画において当初我々が書こうとしていて、書けなかったことでございます。ですので、具体的な数字としてはありませんが、基本的な方向としては、引き続き我々が維持しておりまして、これから年末の予算編成に向けて努力していくんだということを、ご理解いただければというふうに思っております。
 完敗ということでございますが、我々はあきらめたわけではないということだけご理解いただいて、これから担当課の方で年末予算編成頑張りますので、また皆様方のご支援賜れればというふうに思っております。

○司会(白井)

 それでは、時間もオーバーしておりますので、以上で教育改革セミナーは終了とさせていただきたいと思います。
 なお本日ご発表いただけなかったご意見等につきましては、アンケート用紙にご記入いただくか、もしくは当省のセミナー担当あてに、メールまたはファクスでご送付いただければと思っております。
 それでは、以上をもちまして、すべてのプログラムは終了となりました。
 本日はご多忙のところご参加いただきまして、まことにありがとうございました。

 

※セミナー開催にあたってのお願い・事務的な説明については、一部省略しています。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課

-- 登録:平成21年以前 --