教育改革セミナー in 大阪

1.日時

平成20年11月5日(水曜日)17時半〜19時半

2.場所

大阪国際交流センター
(大阪府大阪市天王寺区上本町8-2-6)

3.出席者

文部科学省生涯学習総括官 惣脇宏
中央教育審議会委員 梶田叡一

4.議事録

○司会(寺門)

 それでは、定刻となりましたので、ただいまより「教育改革セミナーin大阪」を開催したいと存じます。
 本日はご多忙のところご参加くださいまして、まことにありがとうございます。
 申し遅れましたが、私、本日の司会を務めさせていただきます、文部科学省生涯学習政策局教育改革推進室長としております、寺門と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 文部科学省では、国の教育改革に関する広報等のために、この教育改革セミナーを実施してございます。本年度につきましては、この7月に閣議決定されました「教育振興基本計画」をテーマに、ここ大阪を含めまして全国7会場で開催してございます。本日をもちまして4回目のセミナーということに相成ります。
 本日のプログラムにつきましては、皆様方のお手元にございますとおりでございまして、この後、直ちに45分間程度でございますけれども、中央教育審議会副会長でございます梶田叡一先生よりご講演いただきます。その後、休憩なく、18時15分ごろをめどにしてでございますけれども、19時まで文部科学省生涯学習総括官の惣脇より、教育振興基本計画をめぐる行政説明等をさせていただきたいと存じます。その後、30分、質疑応答の時間を設けております。おおむね予定どおり進行いたしますれば、19時半には終了になってございます。
 それでは、まずはじめに、中央教育審議会の副会長でいらっしゃいます梶田叡一先生からご講演をいただきたいと存じます。
 梶田先生は、自己意識心理学を研究の中心とされながらも、大変多面的な教育研究活動に精力を傾注なさってございます。特に『自己意識の心理学』、『教育評価』、『新しい大学教育を創る』等、数多くの書を上梓されてございます。また、京都大学教授、京都ノートルダム女子大学長を歴任され、また、現在では兵庫教育大学長をお務めでございます。また、中央教育審議会の副会長、また、同初等中等教育分科会長など多数の審議会の委員を務めておられまして、国の教育政策の形成に大変なご貢献をいただいてございます。特に近年では、本日のテーマでございます、この教育振興基本計画の作成に、中央教育審議会の教育振興基本計画特別部会の委員としてお力添えを賜りました。
 それでは、梶田先生、よろしくお願いいたします。

○梶田叡一氏

 こんばんは。皆さん、こんな時間からお集まりになって、本当にご苦労さまです。多分、今日お集まりの方々は、私と同じで、このままで日本の教育はいいだろうかという思いをお持ちの方ばかりだろうと思っております。私たちも、いろんなことでこれまでも発言してきましたし、今もいろんな形で議論をしております。今日はそういう流れを、私なりの目から少し大きくお話をしてみたいなと思っております。
 基本的には、今日「教育振興基本計画」という冊子がございます。こういうのがまとまりましたので、これにも基本的には関係いたします、ということでお話をしたい。あるいは、学習指導要領、これも私がまとめ役をさせてもらいました。教育課程部会の部会長でもありましたのでね。こういうことにも触れてお話をしたいなと思っております。
 お話しする前に、私は大阪府民でして、今日は大阪でこれが開かれまして、大阪の方が多いと思いますが、箕面にずっと住んでおります。したがって、大阪府のいろんなことにも関係していまして、今も大阪府の私学審議会の会長をしております。私学、今ね。話は脱線しますが、今日は国全体の話ですから、大阪府の話では叱られますけど、知事さんのいろんな思いがあって、私学もかなり補助金が減らされて、私学審議会としても一つもの申さんといかんのじゃないかというようなことも言っていたりもしております。大阪府のことも、府の教育行政についても、少しずつ、私なりに関心を深く持っております。先週も先々週も大阪府教委のナンバー2の山崎教育官に兵庫教育大までおいでいただきまして、いろいろと意見交換をするチャンスも持ちました。そういうことで、大阪とも関係がございます。
 あるいは、今ご紹介はなかったんですが、私はなぜ箕面に来たかというと簡単な話で、大阪大学に転勤になったからです。大阪大学、私、14、5年おりました。人間科学部でしたから、箕面から通うのが近いので、それまで東京で16年ほど仕事をしていたんですけど、ということで大阪に来ましてね。ですから、私が当時教えたのが、大阪教育大の先生にもう何人もなっていますし、あるいは、この辺では鳴門教育大やら、兵庫教育大やら、滋賀大やら、あるいは京都大学やら等々、私の教えたのがなっております。
 そういうことで、つまり、ここで書いてある、中央教育審議会副会長だとか兵庫教育大学学長というと、大阪と関係ないやつが来て何を言うかということになると思いますが、とっても関係がありますんでね、そういうこと。今でも箕面から通っているわけですから。兵庫教育大まで、中国自動車道をバスで2時間もかけて通っていますからね。それはさておき、いろいろと申し上げてみたいんですけれども。
 この教育振興基本計画、これをつくっていく流れと言いますのは、私の理解するところでは、やはり2000年にあった教育改革国民会議、これが原点になっています。これは小渕内閣のときにつくられまして、ここではっきり言いますと、当時90年代の終わり、文部省の路線と科学技術庁の路線が全く違っていたわけですよ。文部省の路線というのは、ゆとり教育でした。子ども中心で行こう、指導でなくて支援ですと、こう言っていたわけですよね。科学技術庁は、そんなことをやっていたら日本はもうつぶれると言って、90年代の後半には「科学技術振興基本計画」というのをつくって、5年間で何兆円というお金を、これは閣議決定してもらって、国会で了承してもらって、何兆円というお金をつぎ込んだわけですね。
 当時、私は京都大学におりましたけれども、小・中・高と大学とがどんなに気風が90年代の終わりには違うかというのを如実に感じていました。私は、ご存じの人はいるかいないか知りませんけれども、心理学なんですけれども、30過ぎてから教育の研究も始めまして、現場にずっと行ってきたわけです。同時に、もう25、6年、月1回、現場の先生方と勉強会をずっと続けております。夏には実践交流会、大体1,000人規模で、今年も京都でやりました。前には大阪でやっていたんですけど、人が集まらなくなりましたんでね。
 「教育セミナー関西」というのをやっておりまして、今年も教育セミナー関西兼人間教育実践交流会というのを、京都の私の前任校であるノートルダム女子大学でやりました。てなことで、現場にも深く足を突っ込んでいますのでね。心理学の勉強会もやっているんですけどね。京都大学で2、3カ月に1回、若手の心理学者とね。それはそれとして、でも、教育の世界で。
 90年代の終わりに現場に行くと、やはり、例えば、授業研究をやらなくなってきた。教材研究をやらなくなってきた。子どもがやりたくなったら、何か手を打たんといかんよなというね。だけど、問題は、どうやったらやりたくなるかというね。前から言うと、例えば、発問だとか、教材をどうぶつけるだとか、あるいは、導入の活動をどう組んでいくかというような話が全くなくなっていたんです、90年代は残念なことに。我々の勉強会は違いますよ。我々の勉強会はそういうことばっかりで、みんな来て勉強していったわけですからね。
 ただ、一般的に言うと、小・中・高の世界で——高校はなかなか難しいんで、高校は、受験があったり、あるいは、なかなか課題集中校なんかがあったら、それ以外のことで走り回らんといかんですから、ちょっと違います。小・中の世界とね。それで、大学の世界が、今言った「科学技術振興基本計画」をつくる云々の、そういう動きの中で、大学はもう変わっていたわけですよ。
 私、その90年代の終わりごろ京都大学におったんですけど、大阪大学から京都大学に転勤になりまして、まずやらされたのが、全学共通教育の何とか委員会というのの副委員長をさせられたんですよ。私、行ったところですから、「何やるんです」と聞いたら、これは理学部、工学部、医学部に入学した学生たち、1年次、2年次に補習のプログラムを準備するのが任務と言われたんですね。おわかりと思うけど、みんな先生たちは嫌ですよ。もう今まで持っているコマ数よりもプラス・アルファで補習のコマ数を持つのはね。しかも、それは単位にもなりませんしね。でも、一応全学で意思統一をしていまして、これは必要だ、必ずやらんといかんと。理学部、工学部、医学部に入った者には、数学と物化生地、これをやろうと。特に医学部は生物でしたけど、理学部、工学部だったら物理、化学を中心にやらんといかん。で、やりました。
 それで、その時、私、うかつなことに、こんなことを聞いたの。「何で京都大学の理学部、工学部に入っているのに補習なんかせんといかんのですか」。入試でいったら、他の大学の学生よりもいい点を取ったやつが入っているわけですよ、率直に言うとね。偏差値的には高いわけですよ。何で、と聞いたら笑われまして、「京都大学はドメスティックスタンダードで教育をやってるんじゃないんだ。インターナショナルスタンダードなんだ」と。はじめ何のことやら、私、わからんかった。つまり、国内的な水準で言うと、当時の高校生の中でできる子が、特に数学や理科やらができる子が理学部や工学部に来てますよ。だから、国内的なあれから言うといい。でも、3年次から4年間かかって、理学部も工学部も医学部も4年間専門教育をやりますでしょう。その専門教育をやって、そして、マスターを出たころには、世界の同じ分野のどこの大学卒業者とも引けを取らんような力をつけておかんといかん。スタンフォードを出ようが、ハーバードを出ようが、どこを出ようが、京都大学の学生がマスターを出て太刀打ちできるかと。つまり、スタートがこれだけだめになってるのに、よほどそこで2年間で、少なくともアメリカ、ヨーロッパの主要国と同じぐらいの力をここでつけないと、ご存じだと思いますが、高校の理数系のカリキュラムはずっと低いわけですからね。今でもまだ、諸国に比べて。そういう話ですわ。その時に言われたのは、「京都大学というのは、理学部や工学部というのは、ノーベル賞を考える学部なんだからな」と。ノーベル賞というのは、ドメスティックな国内的な水準ではないんですよ。と言っても、論文を書いてから30年してから、忘れられてからですから、卒業していつになるかわかりませんが、もらうとして。いずれにせよ、意気込みはそういう話ですよ、意気込みは。
 わかりますでしょう、90年代の終わりがどういう状況だったか。2つの省庁が違う方向を向いて走っていたんです。その時に、小渕内閣のもとで、ある意味でそれを調整するということで、教育改革国民会議ができました。これには、経団連からも入られたけれども、連合からも入っておられたし、それから、学者も、左の人も右の人も入っていました。私みたいな真っ中道の人もね。私は中道ですからね、いつでも。おりましたけど、いろんな方が26人入っていた。よく口が滑りますけれども、その後できた教育再生会議とは違いますからね。あれは安倍さんのお友達とタレントさんですけど、そういうのとは違いますから。ともかく、やはりそうそうたる論客が入っておられました。それで、15回、総理官邸で、総理大臣も官房長官も文部大臣も同じテーブルに着いて、26人の委員とね。そのときは三党の連立でしたから、それぞれの党の文教責任者も入っていましたね。そういうことで議論しました。
 それは、時に大変だったわけですよ。それは、そんなはじめからね。みんな、このままじゃどうもならんよねというところまでは同じなんだけど、何が問題かというね。例えば、学者の中で、山折先生だとか河合隼雄先生だとか、そういう方々は、わりと人の精神性のことから言われるしね。それから、理工系の人たちは、学力が国際水準に足りんという話をなさるしね。あるいは、やっぱり非常に規範意識というか、道徳的なものも問題だということがあるし、いろんなことが出ました。
 その結果、と言っても、なかなかどうにもならんものですから、後半は企画委員会というのをつくりまして、6、7人の委員で、結局は、出てきた議論を整理して、そこから出てきた課題を次の官邸でやる総会で皆さんに議論してもらって、またそれを整理してという、そういうのをつくりました。私もその1人にさせてもらって。
 そういうことでやりまして、いろいろと議論はあったけれども、例えば、教育基本法も変えようというのは、ここで決まったんですよ。これは右も左もありましたから、それは一時期は机を叩くぐらいの議論がありました。でも、みんな一致したんですよ。例えば、伝統文化の問題。これはもともとの60年前の教育基本法には、原案にあったわけですよね。でも、GHQが削ったわけですよね。でも、おわかりだと思うけれども、教育の中でやらなきゃいけないのは、新しいことを子どもに教育するだけじゃなくて、例えば、日本列島に住んでいた先人たちがどういうものを積み上げてきたかというのを次の世代に渡すことも、教育の大事なことでしょう。例えば、今、紫式部が源氏物語を書いてから1,000年ですよ。外国ではすごく注目しているわけだけれども、日本の若者が知ってないというのでは恥ずかしい話ですよね。
 てなことで、こういうことやら、前の教育基本法、とってもいいんだけれども、小・中のことぐらいしか書いてなくて、高校も一切触れられていないし、大学も触れられていないしね。生涯学習も触れられていないしとかね。ということで、理念は前の教育基本法、この理念は大事にする。これを尊重して、これを根幹にする。だけど、現状に合わせて、やっぱりいろいろと手直しをしなきゃいけない。同時に、前に原案にあった伝統や文化、この問題もやらんといかん。例えば、そういうことが決まりました。
 それといわばセットで、教育振興基本計画というのが言われたんです。この教育振興でしょう。教育を盛り上げんといかんというわけです。同時で盛り上げんといかんかった。2つあります。いつの間にか、天下太平の中で、教育の本質が忘れられているんじゃないかと。だから、親も、地域社会も、あるいは企業やら含めた、そういう勤労社会も、そして、教育をやるための専門機関であるところの学校も、みんなもう一度教育ということの本筋、本質的なもの、これをみつめて見詰めて、そして、手を打つことをやらんといかんよね。
 例えば、90年代、こういう話があったでしょう。不登校も個性です。勉強嫌いも個性です、と。これで済むんなら教育はできますか。それは、個性と言って悪いとは言いません。実は教育改革国民会議の中でも、一部の委員がそういうふうにおっしゃいました。でも、我々は、我々と言うとおかしいけどね、そういうことを言ったら教育ってできないでしょう。すべて個性だと言っていたら。つまり、日本には、あるがままをそのままで認めるという一つの気風があるんです。これは大事なことです。ただ、これは、非常に実存的な意味で、いわばばさっと時の流れを、ある断面を取ったときには、よく言いますよね。今、ここ、私というね。今、ここ、私ということを切り取ったときには、そのままでいいんですよ。あるがままで。でも、時間という軸を通して見たときは、発達とか、発展とか、進歩とか、向上というものがなきゃ、これはどうにもならないでしょう。課題があれば、それを乗り越えていくというのが、時系列というものをとったときの話で、それを横に、時系列を抜きにしてぱんとやれば、確かに、今、ここ、私であれば、あるがままでいいんです。でも、その話が時に混同されちゃって、教育の中に持ち込まれちゃいます。確かに、勉強嫌いも個性でしょう。でも、時系列的に言ったら、放っておいてはいかんでしょう。やっぱり勉強をやるといったら、「お、勉強っておもしろいよね」ということを、どういう活動を通して、どういう、例えば先生のお話を通して、あるいは、どういう教材を通して習得させるか、これは教師の力量にかかっているんじゃないですか。
 親だってそうですよ。勉強嫌いも個性だなんて周りからみんな言われたら、親も困るでしょうね。私も5人の孫を持っております。もうすぐ3歳の子から始まって、小学校1年、2年におりますし、そして、中学1年も3年もおります。今日も朝、ちょっとその中学、小学校のところを通ってきたんです。うちは公立主義ですから、公立に行かせています。全部公立で。大きな声では言えませんけど、箕面でさえ、私学に行かせるというのは今はやりになりましてね。これは知事さんがぎゃんぎゃん言うはずなんですよ。それはね。私学に行かせて。それで、元教育委員会の幹部だった人まで、小学生、中学生のころから子どもを電車に乗せて私学に行かせているんですよ。それを私は、私はちゃんと公立に行かせていますから、何でと聞いたら、「本人が行きたいというもんだから」というようなことを言うんです。何が言いますか、子どもが。電車に乗ってね。それはさておきですけどね。
 でも、公立の学校に対する、いわば一種の不安というものが、大阪でさえはやっています。東京はそうですよね。だから、お受験でしょ。東京、お受験なんですよ。こんなこと言っちゃ何ですけども、文部科学省の高官の中でも、組合の幹部の中でも、都教委の幹部の中でも、私学に行かせている人はいっぱいおりますよね。これはちょっと置いといてですけどね。まあ、そういうもんですよ。それはさておき。
 やっぱり、私、実際に自分の孫が、うちの2分のところに娘一家がおり、息子一家がおって、週に1回ぐらいはおばあちゃんを囲んで全員集合で、5人の孫が食事して、その両親も来ますけどね、します。そうすると、学校の話になりますわね。やっぱり5人おれば、若干、それは勉強向きでない子はおりますよ、何人も。若干じゃないよな。うちの孫たちはそういうのが多いですね。そうすると、やっぱり親も心配しますよね。どうやって勉強を好きにさせたらいいんだろう。好きと言って、朝から晩まで勉強するという意味ではないですよ。最低限、宿題ぐらいはやってくれる程度のね。もう、実を言うと、5人のうちの、学校へ行っているのは4人ですけど、そのうちの2人が、上手にごまかして、宿題もやっていかない子なんですよ。これ以上言うと、うちへ帰れなくなりますからやめますが。
 でも、それは親も、これをそのままで丸ごと認めるんじゃなくて、やっぱり「お、勉強っておもしろいよね」と言って子どもに感じさせるような何か手立ては必要ですよね。先生の方はもっと必要ですよね。それで給料をもらっているんですから。
 例えば、そういう、あるがままということは大事なんだけれども、これはぱーんと時間軸を横に区切ったときは、今、ここ、私という、私は心理学をやっています、それも実存的な心理学をやってきましたから、そういう意味で言うと大事なんだけれども、時系列的に言うと、そういうわけにいかないんですよ。子どもたちは可能性を持っているんですよ。その可能性をどうやって花開かせるかというのが、親の仕事であり、教師の仕事であり、あるいは地域やら、あるいは世の中でいろいろと責任ある人の仕事ですよね。これをやっぱり、まさにいろんな面で振興しようというのが一つのポイントなんです。
 はっきり言うと、どこの社会でも、豊かな社会が来ると、きれいごとばっかりはやって、苦労を嫌うようになります。勉強も苦労だという話で、勉強なんかしなくていいという話になる。これが、「子どもに勉強させてどうなるの」なんて言って歩いた評論家もいっぱいおるし、あるいは、指導主事さんもおったし、教科調査官もいたしね、そういうことを言ったりした。
 でも、学校で「勉強してどうなるの」なんて言ったらいかんでしょう。学校は勉強するところなんですよ。ものを覚えて、ものがわかるようになって、自分の頭で考えて、自分で判断できるようになるところが学校なんですよ。こんな当たり前のことを原点にして考えなきゃいけない、それを言わなきゃいけない、今、時代ですよね、残念なことに。それはなぜか。世の中が、70年前後から豊かになって、そこで大きくなった人たちが親になって、90年代、子どもたちが学校へ来たわけですね。そこで大きくなった人たちが、その気風に染められて、マスコミの世界もきれいごとをまき散らすようになったし、先生たちの世界もそういうふうになっちゃう。あえて言うと、文部省もそうです、当時の。教育委員会もそう。
 悪いとは言いません、ぬくぬくとしてやるのは。でも、人間というのは、やっぱり一番だめになるときというのは、楽をさせることだというでしょう。これは悪い例えですけど、こういう昔話があるんです。昔の落語家なんかの話ですけれども。もし自分のうちのおじいちゃん、おばあちゃんを嫌だなと思ったら、お嫁さんがおしゅうとめさんとおしゅうとさんを、できるだけ楽にさせてあげることだと言います。と、早く死ぬんです。人間というのは——わかります?——楽をすると、生きる張りがなくなってきて、生命力が落ちるんですよ。
 これはアメリカも、イギリスも、あるいは他のヨーロッパの諸国も同じことを経験しております。日本より20年早く。アメリカ、ヨーロッパ、負けなかった方ですけどね。ドイツやイタリアは、日本と同じで、めちゃめちゃになっちゃいましたけれども、イギリスやフランス、あるいはアメリカは、日本より20年早く豊かな社会になりました。50年前後から。日本は70年前後ですね。
 ご承知ですね。と言っても、どのぐらいの年代とかがようわからんもんですけど、私は60年に大学に入ったんです。1960年、昭和35年。そのときは、普通の家に洗濯機ないですよ。手でやっていたんですよ。自動車もない。電話もない。冷蔵庫もないですよ。冷蔵庫、あるところはあったでしょうけど、それは氷を入れる冷蔵庫。ところが、70年になったら、どこにも電話はあるし、冷蔵庫はあるし、電気洗濯機だしね。たった10年でそうなったんですよ。ご存じですね。これが高度経済成長の10年間です。
 アメリカ、ヨーロッパも、大体戦後の復興で急速にやりまして、50年代に、やっぱり日本の70年代と同じように、もちろん機械やらがどこまでそろったかというのは別ですけどね。家庭電化製品がどこまでそろったかは別としても、豊かな暮らしができるようになったでしょうね。そうすると、そこで20年たって、アメリカの場合は70年代、日本の90年代と同じことになる。自由を大事にし、個性を伸ばすという教育になったんですよ。もちろん、世の中も全部そうですよ。だれてだれて、一人一人権利は言うけど、誰も義務を考えない。だから、当時、70年代、私は国立教育研究所というのにおって、毎年アメリカへ見に行ったのですよ。もうおもしろいですからね、自由な教育。ただし、ニューヨーク、昼間でも地下鉄に乗れなかったですよね、怖くて。そういう時期ですよ。そして、学校も、日本でいうオープン・エデュケーションだとか——オープン・エデュケーションは、70年代のアメリカのやつを、90年代に日本に持ってきたんですけどね——フリースクールだとか、オルタナティブスクールが大はやりしたわけです。
 で、どうなったか。80年前後になったら、10年やってきたら、学校の先生方がみんな悲鳴を上げたんですよ。自由で個性を伸ばす教育は何を生んだのか。学力の大幅な低下と問題行動の爆発的拡大という。そうなりますわね。例えば、授業が始まっても、ちゃんと着席して、先生がいろいろと声をかけて授業をやっていくというのが、当時アメリカでやらなくなって、机やいすを取っ払って、カーペットを引いて、寝っ転がって授業をしてたりね。それは、見ただけで楽しかったですよ。だから、私、毎年みたいに見に行っていたんですけどね。それは楽しかった。
 日本でも、授業がいつ始まったのか終わったのかわからないような小学校、中学校が90年代はいっぱいあったでしょう。あれは、実は、今でも中学校なんか一部であります。授業が始まっているのに、この前の不幸な事件の報道では、授業が始まったけど鬼ごっこをしていたという話ですよね。まだ日本はゆとり教育の、子どもの自由、子どもの権利、これを中心に考えにゃいかんというあれ。子どもの権利は大事なんですよ。私は子どもの権利条約というのは非常に大事なあれだったと思っていますんでね。ただ、それを実践に移すときのやり方の問題なんです。
 もう一度言います。どこの国も、豊かになったら、やっぱり緩み、たるみができるんです、社会全体に。それが教育にも押し寄せてきて、教育も緩み、たるみができます。そして、その結果としては、学力は落ちるし、問題行動は非常に増えます。日本の場合も、TIMSSという国際比較の学力調査、IEAがやった学力調査で、2003年に低下しました。1970年からやっていますから、IEAの調査。対象は小学45年と中学2年。昔は日本の子ども、断トツトップだったんです。だけども、いまや日本はまだトップレベルとは言いますけれども、日本の上にシンガポールがある、マレーシアがある、韓国がある、そういう話でしょう。あるいは、2000年になってから、PISAのOECDの調査をやりましたね。2000年、2003年、2006年とやりましたね。2000年と2003年では、これは高1の子どもたちにやっているわけですけれども、日本はあまりはかばかしくない。それで、フィンランドがとってもいいという話で、大挙してフィンランド詣でが今でも続いているというんですけど、2006年の調査で読解力分野の1位は韓国ですからね。それはさておき。
 実は惣脇総括官なんかがそういうことの元締めをしてこられましたが、後でひょっとしてお話が出るかも。いずれにせよ、なかなかね。
 でも、学力どうでもいいなんて思わないでくださいね。学力、見える学力だけ考えるのはおかしいけれども、でも、ものを知っておかなきゃしょうがないでしょう。ものを知っておかなきゃ、考えられないですよ。材料がなきゃ考えられないですよ。そして、その考える力が判断の力をもたらすんです、判断の。自分で判断しなきゃ、結局はテレビやら何やらに丸め込まれて、わーっと一つの流れの中に行っちゃうんですよ。あんまり例を出すとあれですけど、私なんかやっぱり——私個人の、極めて個人的な意見だと思ってください。私はやっぱり小泉ブームのとき、非常に危惧しましたね。あれはファシズムに流れる流れですよ。みんな、あのときにものを勉強しなくていいとまだ言っていた時期ですから。それで、マスコミがわーっとやって、「自民党をぶっ壊すぞ」と言ったら、自民党にみんな投票するという、ようわからんような話が出てくるわけですよ。これは極めて個人的な意見ですからね。ただ、私はそれについて、ちょっと公のところで発言したら、日本経済新聞が、梶田が小泉政権をファシズムの何とかと言って批判的に取り上げていただいたこともありますんで、思い出のために申し上げておきますけどね。
 でも、危ないんですよ。子どもたち一人一人が自分で考える力を持つようになって、初めて民主主義というものは成立するんです。ものを知らないで、ものを考えないで、自分の責任で判断できなくて、何が民主主義ですか。結局はマスコミに丸め込まれて、そのときそのときの人気でいろいろと動いていくわけですよ。みんながわーっと動いていても、「待てよ、待てよ。本当にそれでいいのかな」という慎重な気持ちが出てくるためには、いっぱいものを知っておかんといかんでしょう。
 今、ちょうど、いわゆるテロ特措法の後のあれで、またインド洋での給油の問題があります。これも極めて個人的な意見ですから、結論的な面はみんなあれしてくださいね。だけど、私はやっぱりあれなんかでも、今、ご存じですね、インド洋で日本の海上自衛隊の自衛艦が、パキスタンやアメリカの軍艦に給油しているんですよ。日本、そんなに油は余ってますか。100%輸入してるんですよ。しかも、一時期は大変でしたね、原油高で。ただで給油している。でも、それは国際貢献のために必要なんですね。パキスタンの軍艦、これはアフガニスタンの対テロ戦争のときに使っているんですよね。そういうことを、例えば、私が話をするでしょう。今、20代の人がわかると思いますか、それを。インド洋で、「おー、インド洋、どこでしょうね」「それはインド洋というぐらいだから、インドの近くでしょうね」と、こういう話でしょうね。何で日本がパキスタンやアメリカの軍艦に給油しているのか。どういう必然性があるのか。これはやっぱり必然的なんですよ。ここから日本が脱落すると、やっぱり国際社会の中で、はっきり言うと、もっと人的に対テロ作戦に参加しろ。それのいわば見返りですからね。まあまあ、それはいい悪いは、また考えてください。ただ、そういう論理で今できているわけですね。
 そして、なぜ、じゃパキスタンの軍艦がアフガニスタンの対テロ戦争にやっているか。「いや、それはアフガニスタンもパキスタンも、スタンが両方つくぐらいだから何か関係あるでしょう」ということでしょうね。で、パキスタンもアフガニスタンもどこにあるか、みんな知らないと思いますよ、20代の人。全然中学、高校で習っていない時代ですから。皆さんはわかっているでしょうね。で、イラクはなんて、ここでイラクの話が出てきたりね。で、今度は、その隣のイランの核の問題がという話があって、「イランとイラク、それはイラ、イラとつくから、これも関係あるだろうな。でも、スタンとどうなるのかな」とか、なるでしょうね。
 でも、結局、我々の血税が、そういうところに大きな血税が流れていくわけでしょう。日本、850兆円ぐらいの負債があるわけですよ、借金が。その中で、切り詰めて切り詰めて、教育まで切り詰められているのにね。で、その是非をみんな判断せんといかんのにね。多分、テレビの扱い方一つで、賛成・反対、みんな変わりますよ、なぜか。みんな、考える材料を持っていないから。中学、高校で教えられていないからですよ。昔の社会科というのは、そういう自分で世の中のことを考えるために大事なことはみんな教えとこうと。だけども、「そんなの覚えてどうするの」というわけだ。そういうきれいごとがはやって。
 覚えたってしょうがないかもしらんけれども、それをもとに考える力ぐらいはつけんとおかしいじゃないですか。覚えるには、それがどうやって、どんなに大事なことかとか、どんなに覚える意味があることかということを、まずそれから教えていかんといかんでしょう。それなしで、「いついつまでに覚えろ」と言うからおかしいんでね。いずれにせよ、そういう流れの中で、もう一度私たちは教育の力ということ、教育の意味ということ、教育の意義ということ、これを再認識せんといかんじゃないか。これが教育振興基本計画です。
 そのもう一つの問題は、ずっと日本の学校教育に対する予算は減らされてきたんですよ。こんなんでええのかというんです。もし教育ということが本当に大事なことであるならば、国の最重点課題として、やっぱり金を出さんといかんですよ。予算編成のときに。だけども、いつもだめなんですね。だから、5年ぐらいの枠をつくって、——毎年毎年財務省と折衝すると負けちゃうんですよ。これはだめ、あれはだめ。だから、5年ぐらいの枠をつくって、閣議決定してもらって、国会で了承してもらって、こういう枠のもとで財務省と折衝するというね。そうすれば、大事なものはつながっていくでしょう。これはもう一つのあれなんです。教育ということの意義を、もう一度全社会的に再認識すること。そして、これが本当に大事だということを、お互い再確認した上で、教育ということに必要不可欠な、やはり財政的な支援を、これがスムーズにいくようにする。これが教育振興基本計画なんです。これをつくろうということについては、右も左もありませんでした。やっぱり大事だ、やろうということで、2000年の教育改革国民会議で決まって、報告の中へ入っています。それで、あとやって、今度やっと閣議決定してもらったわけですけどね。
 ただ、いろんなことがありまして、つまり、はっきり言うと、財務省は金を出したくないですもんね。はじめから、まず切り込みをかけますわね。それで、文部科学省の中にも強い人と弱い人がおりますしね。まあまあ、いろいろとありますよ。それから、これを審議する中でも、やっぱり最初の教育ということの意義ということを強く感じる人と、「いやいや、教育というのは、世の中でやっているいろんな仕事の中の一つだよね。それは鉄もつくらんといかんし、船もつくらんといかんし、あるいは、自動車もつくらんといかん、そういうことの一つに教育があるよね。教育だけ何で突出して、そんな言うの」という、それはそういう人も、率直に言っておりますよ。逆に言うと、そういう人まで集めてやるのが中教審のいいところなんですけどね。そうでしょう。同じような考えの人で固めたら、議論としては早くいくけども、一面的になりますよね。だから、いろんな考えの人がおって。ということで、実を言うと、率直に言うと、まだこれは不満です。でき上がったものは、率直に言ってね。不満だけれども、しかし、つくらないよりはましですよ。ずっとましです。ということでやってきた。これを、皆さん、ぜひ再認識していただきたい。
 私はここで、教育の関係者の方も、あるいは、直接関係ない人も含めて、やっぱり納税をしているわけですから、そのお金をどこのセクターにどういうふうに使っていかなきゃいけないか。私は前からいつも言ってきました。日本の社会、共同体というもの、別の言葉で言うと、日本のこの日本列島の上で生活している人たち、今その中に外国籍の人もおります。しかし、そういう人も含めて、やっぱり人間らしい、本当に気持ちも通い合った温かい、そして生き生きした社会にこの共同体をするにはどうしたらいいか。2つ不可欠なものがあります。
 一つは、おじいちゃん、おばあちゃんを大事にすることです。これはわかりますね。一生懸命働いて、年をとってだんだん働けなくなるわけですよ。私も昔はもっと元気でした。私はいろんなところでけんか鳥と言われたりしていたんですけどね。90年代、私は文部省でもずっとけんかしてきましたからね。どうしたわけか、2001年からはとっても仲良しになっちゃったんですけどね。と言って、私は変わりませんよ、言っときますけどね。でも、自分でも、60代後半になって、もうすぐ70ということになれば、それはいろんな衰えを感じますよ。あと10年ぐらいすればどうなるだろう、20年したら、死んでるかもしれませんけどね。でも、やっぱり私だって一生懸命やってきたつもりです。これまで一生懸命やってきた。それが、その最後の段階になって、本当に一生懸命になった人は、みんな小春日和の中で、「ああ、頑張ってきてよかったよね。私の人生もそれなりに充実してたよね」と思って日を送れるというのは当たり前じゃないですか。それを若い世代が見るから、「私たちも今頑張っていたら、将来、小春日和の、そういう安定した日々にたどり着くんだよね」という、安心して頑張れるじゃないですか。
 だから、高齢者の問題はやっぱり大事。これ、福祉でも何でもそうですよ。これを大事にしなかったら、社会は崩壊します。高齢者だけが腹立っているんじゃないんですよ。若い人も不安になってね。例えば、簡単な話でしょう。お金があったって、みんな貯金せざるを得なくなるんです。そうすれば、景気は悪くなりますよ。簡単な話。いやいや大丈夫、頑張ってくれば社会全体で私たちの行く末は面倒を見てくれるよということをせんといかんですよね。だから、高齢者の問題が一つ。
 もう一つは、これから現役になっていく子どもたちの問題です。これを本当にきちっとそろえとかなきゃ、共同体は崩れてきますわね。例えば、私なんか、中3の女の子がお父さんを殺したという事件がありましたね。あれはもうショックでね。私の上の孫娘も中3なもんですからね。なかなか難しい時期ですよ、中3ぐらいの女の子というのは。私よりもお父ちゃんが苦労してますけどね。例えば、そういう社会になったらおかしいでしょう。間違っても親は殺さない、親も子どもを殺さない、お互いが助け合っていくような、そういう社会にせんといかんですね。しかし、そのためには、例えば、中3になったら、そういうふうな気持ちになってくださいよではだめでしょう。小さいときからの育て方がありますよね。甘やかしているだけではだめだし、ということがありますわね。
 先ほど言いましたように、本当にこの社会を民主的なものとしてやっていくには、みんなが考え深くならなきゃいけない。みんな判断力を持つようにならなきゃいけない。私の意見はこうこうこういう理由でこうだということが言えるようにならなきゃいけない。だから、そのためにも、学校というのはきちっと機能せんといかんでしょう。「いや、勉強好きな人だけが勉強したらどうです」なんて言っておれませんわね。だから、そういう意味では、学校に大きな投資をしなきゃどうにもなりません。
 ということで、日本のこの共同体というものは、生き生きした形で、そして温かい形で、けじめがある形で、次の時期に持っていくためには、「勉強嫌いも個性です」なんて、そんな悠長なことは言っておれないでしょう。
 「不登校も個性です」と言う人もおるんです。今でもいます。これは私は困ります。不登校になる、それはいろんな原因があるでしょう。いろんなきっかけもあるし。それを一生懸命解明していって、何とか手を差し伸べて、「学校へ行くと気持ちいいよね」というふうに持っていくのが、やっぱり教師やら親の仕事じゃないですか。我々、兵庫教育大のあれしますけど、「NANAっくす」という組織をつくって、学生、先生巻き込んで、そういう不登校の全県的な支援をしています。そういう、今言ったような意味でね。
 いろいろと申し上げてきました。今日、具体的なことは、皆さん、これを見てください。何をこれから国の行政の中でやろうとしているのか。これを見てください。それから指導要領、今日は話ができませんでしたけれども、10年前、20年前とは全く違う考え方で、今度の新しい指導要領は改訂されました。力をつけていく、そういう指導要領です。子どもたちがみんな考える力をつける。自分で判断できる。そういう意味で、自立した個人になる。民主主義を支える、そういう人間になる。そういう指導要領になったと思っております。パーフェクトだとは言いませんけど、そういう方向に大きく転換。
 ということで、細かいことはそういうふうに見ていただきたいんですが、そういう大きな流れがあって、教育の力ということ、あるいは教育の意義ということを再認識しよう。そして、そのためには、国がもっともっと優先的にお金を出すような仕組みをつくろうという。この教育振興基本計画、そういうことでつくられたということをご理解いただきたい、そういうふうに思います。
 では、私の話はこれで終わりました。後で質疑応答の時間があるそうですから、細かいことがもし必要ならば聞いてください。(拍手)

○司会(寺門)

 先生、ありがとうございました。
 続きまして、行政説明の時間でございます。文部科学省生涯学習総括官の惣脇より、教育振興基本計画の概要等についてご説明申し上げます。

○惣脇生涯学習総括官

 皆さん、こんにちは。本日は、「教育改革セミナーin大阪」にご参加いたただきまして、大変ありがとうございます。
 自己紹介させていただきます。文部科学省で生涯学習総括官をしております惣脇と申します。大変個人的なことを申し上げて恐縮でございますが、この近くの中学校の高津中学校の卒業生でございます。ご縁のある方もいるかもしれません。どうぞよろしくお願いいたします。
 ただいま梶田先生から、学識経験者として、大変大所高所からのお話をいただいたわけでございます。教育の意義、その重要性、また、自分で考えるために必要なことを身につけることというようなことではなかったかというふうに私は受けとめております。
 私からは行政説明ということで、教育振興基本計画の概要と、それに対応した文部科学省の施策、特に予算面でどういう概算要求をしているかということを中心に、概略説明をさせていただきたいと思います。
 それでは、最初に、まず教育振興基本計画の概略でございます。
 第1に、この振興基本計画というのは、政府として初めて策定した教育についての総合計画でございます。
 それから、第2に、今後10年間を通じて目指すべき教育の姿を明らかにするとともに、今後5年間に取り組むべき施策を総合的・計画的に推進することにより、「教育立国」の実現を目指すというものでございます。
 3点目でございますが、国の計画を「参酌し」て、「その地域の実情に応じ」て、計画を策定するよう努めることになっております。既に都道府県によっては策定されているところもございますし、これから策定するということを決めておられるところもあると伺っております。
 次に、策定の経緯でございますけれども、先ほど梶田先生からお話がございましたように、教育改革国民会議の報告に始まるわけでございます。その後、いろいろな検討が行われて、今年の7月1日に閣議決定に至ったということでございます。
 次に参ります。教育基本計画の構成でございます。全部で4章からなってございまして、第1章は、教育の使命でありますとか、「教育立国」を実現する必要があるということをまず目指しているということを述べているわけでございます。
 第2章が、今後10年間を通じて目指すべき教育の姿ということでございます。後ほど説明しますが、まず目指すべき教育投資の方向というのがございますので、そこをちょっとご説明します。
 まず、今後10年間を通じて目指すべき教育の姿ということにつきまして、大きく2点を示してございます。義務教育終了までに、すべての子どもに、自立して社会で生きていく基礎を育てるということが第1点でございます。第2点が、社会を支え、発展させるとともに、国際社会をリードする人材を育てるということでございます。
 これを支えるための教育投資の方向について、3点書いてございます。1点目が、我が国の教育に対する公財政支出は、他の教育先進国と比較して低いということがございます。そして、第2点目に、資源の乏しい我が国では人材への投資が大変重要であるということを言ってございます。3点目でございますが、このため、OECD諸国など諸外国における公財政支出など教育投資の状況を参考の一つとしつつ、必要な予算について財源を措置し、教育投資を確保していくことが必要だということを言っているところでございます。
 確かに、OECD平均がGDP比で見て5%のところ、日本は3.4%という状況になっております。どの教育段階でもそういうことが言えるわけでございますが、特に就学前教育段階と高等教育段階が、この差が大きくなっているところでございます。
 一人あたりの教育費支出を見ますと、実は金額的に見ますと、OECD平均とさほど変わらないということが数字として出るわけでございます。実は、ただ、これには公財政支出に私費負担を加えたものを足してこういうふうになっているわけでございまして、下の表にございますように、公私の負担割合で見ますと、残念ながら、日本の場合、私費負担が多いということになっているところでございます。
 3枚戻っていただきまして、スライドナンバー4をお願いしたいんですが、このような状況を参考の一つとするということでございます。こういうことを十分勘案して、財源については検討していかなくてはいけないということでございます。
 それでは、もう1枚戻っていただきまして、第3章でございます。第3章では、今後5年間に総合的かつ計画的に取り組むべき施策ということで、基本的な考え方を示した後で、施策の基本的方向として、4つ示してございます。基本的方向1、2、3、4というのがございます。本日は、この基本的方向にそれぞれ対応して、どのような施策を予算面で検討し、概算要求をしているのかということを中心にご説明をさせていただきまして、最後に、第4章関係の、そのために必要な事項について若干補足をするという形で説明をさせていただきたいと思います。
 それでは、スライドナンバー7、基本的方向1というところでございます。お配りしております振興基本計画のパンフレットを開いていただきまして、もう一度開いていただきますと、4ページになりますね。左から順番に、基本的方向の1、2、3、4というふうになってございます。それぞれにつきまして、項目が幾つかございます。主なものでございますけれども、ご説明をさせていただきたいと思います。
 まず基本的方向1は、社会全体で教育の向上に取り組むということでございます。実現すべき目標の柱は2つございまして、身近な場所での子育て等の支援、それから、身近な場所での学習機会の充実ということでございます。
 次のスライドをお願いいたします。パンフレットで言いますと、基本的方向にそれぞれ(1)、(2)、(3)、(4)という中項目がございます。この中項目単位でご説明をさせていただきます。
 基本的方向1の(1)でございます。学校・家庭・地域の連携・協力を強化し、社会全体の教育力を向上させますという項目でございます。ここでは、社会全体の教育力の向上ということで、主な事業として2つご紹介させていただきます。一つは、右側の方にございます放課後子ども教室推進事業でございます。放課後や週末などに小学校の余裕教室などを活用して、子どもたちの居場所を設ける。地域の方々の参画を得て、子どもたちに学習活動や交流活動など機会を提供する取組というものでございます。
 それから、左側、学校支援地域本部事業でございます。これは、地域住民がボランティアとして学校の教育活動を支援する取組でございます。このことによって学校教育が充実しますし、また、住民にとりましても、その知識、経験を生かす場になるというものでございます。現在、1,800カ所と書いてございますが、今年はそれぐらいの数字になってございますが、未設置の市町村もございますので、来年度は少なくとも各市町村に1カ所は設置できるよう、3,600カ所を目指しているところでございます。
 なお、今年の6月に社会教育法が改正されておりますが、これらの事業の実施というものが教育委員会の仕事ということで、法律上位置づけられているところでございます。
 この2つの事業につきましては、パンフレット、別途詳しいものがございますので、それを参考にしていただければと思います。
 家庭の教育力の向上でございます。基本的方向1の(2)でございます。家庭の教育力の低下につきましては、かねてから指摘されているところでございます。このため、社会全体での家庭教育支援の必要性が強まっているところでございます。
 具体的な事業でございますが、(1)の方でございますが、地域における家庭教育支援基盤形成事業でございます。これは、子育てサポーターリーダーや民生委員、保健師、臨床心理士などで家庭教育支援チームをつくっていただきまして、保護者のもとに出向いて支援を行うなど、積極的かつきめ細かな家庭教育支援をするものでございます。この事業につきましても、パンフレットが袋の中に入っていると思いますので、参考にしていただければと思います。
 下の方、子どもの生活習慣づくり支援事業でございます。これは「早寝早起き朝ごはん」というキャンペーンで広く普及しております事業で、今年度までそういう形で実施をしているところでございますが、この成果を広く普及して、地域ぐるみでの基本的生活習慣づくりを定着させるための方策及び効果を研究する事業を来年度からやりたいということでございます。
 これは基本的方向1の(3)に対応したものでございます。教育振興基本計画におきましても、キャリア教育をはじめとして、人材育成に関する社会の要請に応えることが明文で書いているところでございます。文部科学省では、これまでの事業でいろいろと課題がわかってまいりました。例えば、小中一貫する必要性があるのではないか、小中連携の課題でありますとか、あるいは、地域事情を踏まえた対応の必要があるのではないか、また、産業構造や地理的制約などの地域の実情を踏まえた対応が必要なのではないかというような課題がございます。今後はこれらの課題に対応するモデルケースを、このような3つのタイプで研究をしていただきたいと思っているところでございます。また、高等学校につきましても調査研究をする予定でございます。
 教育基本法の3条には、生涯学習の理念というのが初めて規定されたところでございます。生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことができる、そういう社会の構築を目指すということでございます。基本計画においても明記しているところでございます。来年度の概算要求としましては、大きく5点を考えてございます。
 一つは、図書館の機能を活用した「地域の知の拠点づくり」というものでございます。また、博物館につきましても、ネットワークづくりということを考えているところでございます。
 それから、社会教育重点推進プランで、総合的な取組の支援をしたいということでございます。
 3番目、環境教育総合プログラムでございます。関係機関や団体等のネットワークをつくって、地域住民総がかりでこの分野の学習実践活動のモデルを開発しようというものでございます。
 それから、専修学校を活用した就業能力向上支援事業。
 それから、5番目が、地上デジタルテレビの整備に関するもので、いずれもこの5事業を新規事業として要求しているところでございます。
 この最初の図書館・博物館の関係でございますが、図書館法・博物館法も今年同時に改正されておりまして、そこで図書館・博物館につきましても、学校と同じように評価の実施、努力義務でございますけれども、法律上の規定になってございます。そのための調査研究も予定しているところでございます。
 なお、地上デジタルテレビにつきましては、パンフレットを用意しておりますので、それをご覧いただければと思うところでございます。
 次に、基本的方向の2をお願いいたします。大きな柱が3つございまして、1番目が、確かな学力を身につけた子どもを育成するということでございます。梶田先生も強調されたところではないかと思います。
 2点目、規範意識、生命の尊重、他者への思いやりなどを培うとともに、法やルールを遵守し、適切に行動できる人間を育成。
 3番目、生涯にわたって積極的にスポーツに親しむ習慣や意欲、能力を育成というのが柱でございます。
 まず、新しい学習指導要領でございますけれども、今年3月に改訂をしたところでございます。今年度、既に教育委員会や学校の先生を対象にした説明会を行っているところでございます。何よりも、その改訂の趣旨や内容について共通理解を図ることが大事だというふうに思っております。このため、来年度も中央説明会、また、地方説明会を開催するとともに、保護者の方も対象にした公開の説明会、また、インターネットを通じた普及というような形で、内容をご理解いただくための取組を進めてまいりたいと考えております。
 新学習指導要領の移行措置に対応する算数・数学・理科の補助教材の作成・配付事業でございます。算数・数学・理科の内容を充実し、その一部を来年度の移行期間中から先行して実施することになっております。この中身につきましては、現行の教科書に含まれておりませんので、それを補完する教材が必要になっております。この教材の作成のために、今年の補正予算、先月成立したところでございますが、予算がつきましたので、今年度中にすべての児童生徒、担任教師を対象に、教材を配付できるよう、現在準備を進めているところでございます。また、来年度の予算では、22年度用のものをつくりたいということでございます。
 全国的な学力調査の実施でございます。児童生徒の学力や学習状況を把握することや、教育施策や指導の改善に活用するために、この調査は必要だと考えておりまして、振興基本計画にもそのように明記されているところでございます。今年度の調査結果につきましては、8月末に提供・公表したところでございます。現在、来年度の実施に向けた準備を進めておりますのと、それから、調査結果をより有効に生かすための調査研究でありますとか、課題改善に向けた取組を支援する経費を予算要求しているところでございます。
 道徳教育の総合的推進でございます。パンフレットの基本方向の2の中で(2)とございまして、規範意識を養い、豊かな心と健やかな体を育成しますというところに対応するものでございます。まず、子どもたちの豊かな情操や規範意識、公共の精神などをはぐくむ観点ということにつきましては、この計画の中にも明記されているところでございます。また、教材につきましては、国庫補助制度の有効な方策を検討するということも計画に載っているところでございます。これを受けまして、来年度の概算要求では、必要な経費を要求しているところでございます。特に新規になりますのが、ここのところでございます。全国の国公私立の小中学校において、道徳の時間に使用する児童生徒向けの道徳教育用教材の購入などを行う際に必要となる経費を補助するというものでございます。
 全国体力・運動能力・運動習慣等調査でございます。子どもたちの体力の低下は心配されておりまして、直近のものでは下げどまりかということも言われておりますけれども、やはり計画にも書かれておりますよう、体力向上の推進というのは必要なことでございます。今年度、全国体力・運動能力・運動習慣等調査を実施いたしておりまして、12月に公表する予定でございます。調査結果は、来年1月に提供できるように、現在、分析をしているところでございます。
 豊かな人間性や社会性をはぐくむ体験活動の推進ということでございます。自然の中での長期宿泊体験活動や社会奉仕体験活動などが重要でございます。このことについて、やはり教育振興基本計画に明記されているところでございます。このため、モデルとなるさまざまな体験活動を実施する学校を指定するということによって全国に普及をさせる、こういう事業をやっているところでございます。今年から農水省などと連携をしまして、「子ども農山漁村交流プロジェクト」というものをやっているところでございます。小学校における農山漁村での生活体験活動を推進するというものでございます。
 次に、教職員定数の改善でございます。基本的方向2の(3)にございます。教員の資質の向上を図るとともに、一人一人の子どもに教員が向き合う環境をつくりますということでございます。子どもに向き合う時間を確保したいということでございます。このため、来年度の概算要求では、行革推進法の範囲内ということになりますけれども、定数改善計画1,500人を盛り込んだところでございます。また、退職教員や経験豊かな社会人の積極的な活用を図るという観点から、外部人材の活用ということで、7,000人を1万500人ということで要求をいたしております。さらに、新学習指導要領の円滑な実施のための指導体制整備を図るために、小学校における先行実施に伴う授業時数の増等への対応として、1万1,500人の非常勤講師を配置するための経費を盛り込んでいるところでございます。今後、必要な教職員を確保できるよう、年末の予算編成に向けてしっかりと取り組んでいきたいと考えているところでございます。
 免許状更新講習開設事業費等補助でございます。基本的方向2の(3)のところに該当いたします。19年6月に免許法と教育公務員特例法が改正されまして、21年4月から実施されるところでございます。この円滑な実施については、基本計画においても書かれているところでございます。本年度は、これの周知でありますとか、更新講習の試行というようなことで、制度一新のための準備に取り組んでおりますけれども、来年度につきましては、免許状更新講習を質的にも量的にも確保するための講習開設費の補助等の予算を概算要求しているところでございます。
 認定こども園でございます。基本的方向2の(5)幼児期における教育を推進しますに対応しているところでございます。教育基本法の第11条にも幼児期の教育が規定されているわけでございまして、この重要性にかんがみまして、幼児教育の推進については、基本計画にも明記されているところでございます。そこで、幼稚園、保育所の枠組みを超えた総合的な支援策であります認定こども園、幼保連携型移行設置促進事業ということで、文部科学省と厚生労働省で共同で約103億円を新たに計上をしているところでございます。具体的には、上の方でございますが、施設費の支援もございますし、また、下の方にございますように、事業費の補助金給付、こういった財政支援を行うことにしているところでございます。
 発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業でございます。基本的方向2の(6)に該当するものでございます。これも教育基本法の4条の2項に新たに規定をされたところでございます。障害のある者への教育上の支援について規定されたところでございます。これを踏まえまして、振興基本計画では特別支援教育の推進ということを明記しているところでございます。このため、すべての障害のある幼児児童生徒の支援のために、まず教員の研修でありますとか、あるいは外部の専門家の巡回派遣でありますとか、また、厚労省との連携でございますが、乳幼児期から就労まで一貫した支援を行うモデル地域の指定などを実施して、学校の特別支援教育を総合的に推進したいと考えているところでございます。
 次に、基本的方向3でございます。教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成し、社会の発展を支えるということでございます。柱は3つございまして、一つ目の柱が、学士課程の学習成果として共通に求められる能力を養成、2つ目が、「知」の創造・継承・発展に貢献できる人材を育成、3つ目が、大学の連携等を通じた地域再生への貢献ということでございます。
 現在、大学については、全入時代というようなことも言われているわけでございますが、そうした中で一番大きな課題は、教育の質の確保ということではないかということでございます。そこで、基本計画では、大学等が社会的ニーズや学習者のさまざまなニーズに的確に対応するとともに、それぞれの掲げる教育・研究上の目的のもと、教養と専門性を備えた人間の育成の推進を図るということを明記して、計画に書いているところでございます。
 このため、ちょっと順番が逆になりますが、まずその基盤的経費を確実に措置するということが必要でございます。また、国公私立を通じた各大学等の主体的な取組に対して支援をしていくということがございます。具体的に申しますと、学生の知識や学習習慣不足や大学のカリキュラムの体系性の不足などに対応した補完教育、梶田先生が京大で既に早い時期にやられておられたものでございますけれども、そういったものでありますとか、大学院教育でのコースワークの充実などがございます。課題としては、こういう課題、対応の方向性、そして、こういう支援策ということになっているところでございます。
 それから、我が国の大学の国際的な評価に関しての課題を受けて対応策、具体的には、こういう支援策、グローバルCOEプログラムというようなものを用意しているということでございます。この他のいろいろな課題がございますけれども、大学間のコンソーシアムによるすぐれた教育の実現というのがございます。各大学が持っている教育研究資源の相互活用を促すために、大学間連携の取組に関する支援を行うというものでございます。
 もう少し大学関係について具体的にしたものが次にございます。
 最初が、学士力確保と教育力向上プログラムということでございます。基本的方向3の(1)に対応するものでございます。振興計画には、このように、学士課程で身につける学習成果、学士力と言っておりますが、これの達成を目指すと。そのために、優れた取組を行っている大学を支援するということが書かれているわけでございます。これを受けまして、こういう金額で各大学の取組を支援する事業を推進していこうというものでございます。
 次は、グローバルCOEプログラムというものでございます。これは、国際的に卓越した教育研究拠点の形成を重点的に支援をするというものでございます。振興計画には、このように、国際的に卓越した教育研究拠点の形成を支援というふうに書いているところでございます。このグローバルCOEプログラムは、国内外の大学機関との連携強化や、優れた若手研究者の育成機能の強化などを通して、国際的に卓越した教育研究拠点を形成しようというものでございます。これは拡充をしたいということで要求をしているところでございます。
 次に、「留学生30万人計画」でございます。基本的方向3の(3)のところでございます。大学等の国際化を推進しますというところでございます。大学の国際化や国際競争力の強化を図るとともに、安定した国際関係を築く上での基礎となる人的ネットワークを形成するという観点から、留学生交流の促進について基本計画にも書かれているところでございます。今年7月に「留学生30万人計画」というのが取りまとめられておりまして、国別、地域別に優秀な留学生を戦略的に獲得するためのさまざまな施策を、関係省庁が総合的・有機的に連携して計画を推進することになっているところでございます。
 次は、大学教育充実のための戦略的連携支援プログラムということでございます。これも振興基本計画にはこのように、地域貢献等を推進するための取組が充実したものになるよう支援するというふうに書かれているところでございます。このため、大学間の戦略的な連携の取組を支援するということで、これも拡充を図りたいというものでございます。
 次は、医師不足対策人材養成推進プランということでございます。大学の社会貢献の一環ということになろうかと思いますが、医師不足が大きな問題になっております。基本計画においても、医師育成システムの強化ということが明記されているところでございます。このため、早急に医師養成数を過去最大程度まで増員するということで、また予算上も、新たに地域医療に貢献する大学等に対して支援をする予算を要求しているところでございます。
 次は、「国立大学等施設緊急整備5か年計画」でございます。基本的方向3の(6)でございます。大学等の教育研究施設設備の整備・高度化について基本計画に明記しているところでございますが、ここにございますような第2次の5か年計画を策定いたしまして、重点的・計画的な整備を支援しているところでございます。21年度におきましては、耐震化等の老朽再生整備を最重要課題とするとともに、イノベーションの創出、国際競争力強化に対応した拠点の形成などを推進することにいたしております。
 次に、基本的方向4、子どもたちの安全・安心を確保するとともに、質の高い教育環境を整備するということで、2つの柱がございます。一つは、安全・安心な教育環境の整備、もう一つが、教育の機会均等の確保ということでございます。
 まず最初のスライドは、学校耐震化等の安全・安心な施設環境の構築ということでございます。これも先月、こちらにつきましては補正予算が1,138億円と書いてございますが、補正予算が成立しておりまして、緊急性の高いものについて、1年前倒しをして、改修の取組が加速されるように取り組んでいるところでございます。お配りしております資料の中で、コピーでお配りしているものでございますけれども、大臣の名前でお願いをしている文書をつけてございます。各市町村あてでございますけれども、耐震化につきまして、その促進を図ってほしいというお願いの文書を、参考までに資料の中に入れているところでございます。
 次は、「子ども安心プロジェクト」と言っておりますけれども、学校の中や通学路も含めまして、子どもの安全を脅かす事件、事故に関して、地域社会全体で見守る形で、安全を確保していく必要があるということでございます。ここにございますように、たくさんのプログラムがございますが、この一番上だけご紹介させていただきますが、地域ぐるみの学校安全体制整備推進事業でございます。例えば、学校や通学路で子どもたちを見守る学校安全ボランティア、スクールガードの養成・研修でありますとか、警察官OBなどからなるスクールガードリーダーによる各学校やボランティアに対する警備のポイント等の指導などを行っていただくようなプログラムでございます。これら全体を「子ども安心プロジェクト」というふうに呼んでいるところでございます。
 次は、学校教育情報化でございます。ITの重要性はもう言うまでもないところでございまして、振興基本計画でも学校の情報化の充実ということが書かれているわけでございます。政府全体でも「IT新改革戦略」というのが策定されているところでございます。それに基づきまして、教育関係につきましては、このようにICT教育の充実から始まりまして、学校のICT環境の整備、それから、教員のICT指導力の向上、校務の情報化の推進、情報モラル教育の推進、高度ICT人材の育成というようなことで、先導的な調査研究事業などを実施する予定にしているところでございます。
 次は、多様な人材を育む私学の支援でございます。私立学校は、建学の精神に基づく多様な人材育成や特色ある教育研究の展開を担うということで、重要な役割を果たしているわけでございます。そのことを計画に明記するとともに、21年の概算要求では、私学助成全体として4,700億円を要求しているところでございます。
 次は、奨学金事業の充実でございます。最初の方で申し上げました、教育費の負担につきましては、やはり課題があるわけでございまして、この軽減の観点から、意欲と能力のある学生等が経済的にも自立し、安心して勉学に励めるようにするということから、奨学金事業の推進ということで計画にも明記いたしておりますし、毎年充実を図っているところでございます。これをさらに充実を図っていきたいというものでございます。
 以上が、4つの柱にそれぞれ対応して、それぞれ項目ごとにご説明をしたところでございます。
 この後、第4章の関係につきまして、若干補足的にご説明をさせていただきます。
 国・地方それぞれの役割ということでございますが、国の主な役割でございますけれども、教育制度の枠組みでありますとか、梶田先生から趣旨のご説明もございました学習指導要領等の全国的な規準の設定、また、全国的な教育の機会均等の実現、高等教育に関する質の保証・向上のための支援というのが国の大きな役割でございます。これを推進するために、計画を策定したところでございます。また、都道府県、市町村、それぞれ役割がございまして、それぞれ分担をして、全体として教育を振興していく必要があるということでございます。
 この点につきましては、財政面でも同じでございまして、国と地方公共団体がそれぞれの役割を踏まえて、所要の財政上の措置を講じていくことが必要でございます。現在の国の財政状況は大変厳しい状況にございます。施策の選択と集中的実施、また、コスト縮減、効果的な施策の実施ということが必要になっているところでございます。また、既存施策の廃止・見直しということも求められているところでございます。国全体の公財政支出の7割以上を地方が占めているということでございます。地域の実情に応じて、当該地域における振興に取り組むよう強く期待されているところでございます。
 ここで、国の財政事情の関係につきまして、次にちょっとスライドを用意してございますが、教育振興基本計画は、20年度から5年間の計画でございますが、実は1年前から歳出改革ということで、文教予算などにつきましても抑制をするということが言われているところでございます。また、人件費改革というのも、さらにその1年前から続いてございます。これが総人件費改革でございまして、純減を図るというようなことが決定されているところでございます。このような中で、新しい学習指導要領をやっていかなくてはいけないということで、先ほどご説明したような、教職員定数の要求の仕方になっているということでございます。
 次のスライドにつきましては、これは先ほど7割を地方が占めているということで、全体として、残念ながら減少傾向にあるということでございます。
 最後のスライドでございますけれども、今後、どういう形でこの計画を実施していくのかということでございます。10年間の姿と5年間の計画を策定したところでございます。そして、毎年につきまして、各年度アクションプラン、重点施策をつくっていきたいというふうに考えているところでございます。同時に、計画の進捗状況につきましては、点検が必要になっているところでございます。また、必要に応じて見直しということも考えられるところでございます。この2点を行うために、9月に中央教育審議会に教育振興基本計画部会を新たに設置いたしているところでございます。こういう形で、計画につきまして着実な推進を図っていきたいと考えているところでございます。
 以上、私の方からは、行政説明ということで、計画の概要と個々の基本的方向に対応した施策を、予算要求を中心に概略ご紹介をさせていただきました。他にも説明していない資料でありますとか、参考のデータなどもお配りしているところでございますので、どうぞ参考にしていただければ大変ありがたいと思います。
 ご清聴どうもありがとうございました。(拍手)

○司会(寺門)

 それでは、これより、これまでのご講演並びに行政説明に対する質疑応答の時間とさせていただきたいと思います。
 本日ご質問等に対応させていただきますのは、皆様から向かって前方右手でございますテーブル左より、ご講演いただきました梶田先生、また、ただいまご説明申し上げました惣脇生涯学習総括官、並びに、大臣官房教育改革調整官の矢野調整官、また、高等教育局私学行政課長であります村田課長の4名で対応させていただきます。よろしくお願いいたします。
 せっかくの機会でございますので、できる限り多くの方にご発言いただけますように、発言はご簡潔に、また、本日の講演内容に関するご発言にお願いしたいと思います。それでは、ご質問、ご意見のある方は挙手をお願いいたします。
 ご発言の方、マイクを担当の者がお持ちしますので、マイクでご発言をいただけばと思うんですが。せっかくの機会ですので、積極的にご発言をいただけばと思いますが。
 せっかくの時間ですので、梶田先生。

○梶田叡一氏

 では、二、三、補足的に申し上げます。
 今日はどのぐらい学校の関係者がおられるかわかりませんが、どうしても学校というのは教育の中心的な機関ですので、これについて、今回の指導要領改訂とのかかわりでちょっと申し上げます。
 2003年12月までは、実は学校は学習指導要領に縛られていたわけですね。指導要領が標準だったんです。ところが、これ、最低基準になりました。これは2003年10月に中教審答申を、教育課程部会でやって出したわけですが。で、2004年から以降、次の指導要領も、指導要領は最低基準ってどういうことかというと、各学校で必要があれば、内容をプラス・アルファしてやれます。それから、必要があれば、時間もプラス・アルファでやれます。
 例えば、必要があればということはどういうことか。京都なんかでは、京都市教育委員会がもう2004年から、あそこは地域運営学校という、ほとんどの学校全部、学校でいろんなことを決めれる、教育委員会から相対的に自由度を持った、そういう制度に移行しているものですから余計ですけれども、いろいろと、もっと子どもたちに授業時数を増やしてくれという、そういう学校がありまして、今、1割ぐらいの学校が土曜日に——もちろん公立の学校ですよ——正式の授業をやっています。正式の授業をやっているところは、若干ですけれども手当が出ます。こういうことができるようになりました。もちろん、夏休みや冬休みも授業をやってもいい。手当やら、いろいろなところとの絡みはありますけど、こういうことになってきました。
 同時に、内容も、例えば、小学校1年では漢字をこの範囲でやる、2年生はここで、3年はと学年ごとに配当の漢字表があったんです。これも、最低限がそれであって、もちろん、学校でやりたければ、どんどんたくさんの漢字をやってもいいということになりました。だから、2004年度からは、大体教科書やら教材やら、前は四字熟語とか二字の熟語でも、漢字が一つあって、もう一つは平仮名というのがよくあったでしょう、学校のやつには。それは、その学年でまだ習っていないからということだったんですが、今は、もし子どもにあれするとき、全部漢字で書いて、振り仮名をつけるという、そういうやり方に変わりました。
 もちろん、他のことでも、例えば、公立の学校でも、小学校英語をやっているところが随分あります。これからは週1時間、5年、6年はやることになりますけれども、でも、それでは全然という学校は、例えば、教育委員会がまちを挙げて、もっとたくさんの時間を使って、そしてやっているところもあります。
 ということで、学校の単位でいろいろと時間数も、それから内容も工夫が随分できるようになりました。これは、正式に言うと、制度的には2003年12月26日に指導要領の一部改正の告示というのをやりました、同日付で文部科学省から都道府県教育委員会に通知を出したんですけどね。
 そういうことで、指導要領に、がんじがらめって言葉は悪いですね、縛られていなくて、指導要領は土台にしながら、その学校独自の取組ができるようにということになりました。このことは一つお伝えしておきたいと思います。
 それから、もう一つ、この教育行政の仕方が大分変わっていまして、先ほども惣脇総括官のお話の中にもありましたけれども、例えば、国が都道府県に指示して、それから、都道府県の教育委員会が市町村教育委員会に指示して、それがまた学校に指示してというわけにいかなくなっているんですよ。というのは、制度的に変わりまして、これ、分権一括法ということですが、地方自治法が変わりまして、国も都道府県も市町村も基本的に同格になったんです。で、緊急の際は指揮ができます。あるいは、命令ができます。緊急の際はね。でも、普段はということになりましたので、国が、ただ、指導要領なんかは、これは法令ですから、学校教育の施行規則ですから、これはそのままやらんといかんですけど、細かいことについては、例えば、小・中であれば地教委、市町村教育委員会がいろいろと工夫して、頑張って考える。それから、高等学校は、公立は都道府県立が多いですよね。これなんかだったら、都道府県教育委員会が工夫してやっていくという、そういう形になったんです。大事なところは通知が行ったりというようなことはありますけど、一律に何かということではなくて、指導要領は最低限のものとしては一律ですけれど、ただ、プラス・アルファはどういうふうに積み上げるかは、それぞれ小・中であれば地教委のあれなんです。
 というようなことで、随分、この2001年以降、学校の動き方が、自由度が増えている。別の言葉で言うと、個別の学校がしっかり頑張っていかなきゃいけない。そういう時期に今来ているということを補足的に申し上げておきたいと思います。

○司会(寺門)

 ありがとうございました。
 それでは、ただいまのご説明もあわせまして、ご意見、ご質問等ございましたら、ぜひ承りたいと思います。いかがでございますでしょうか。
 では、一番後ろの方、お願いいたします。

○参加者

 学士力確保と教育力向上プログラムの、こちらの件について質問なんですけれども、このプログラムでは、来年度予算要求をされるということなんですけれども、支援期間が3年以内というふうに記載されておりますけれども、学士力を図るということであれば、どうしても期間的に1年から4年の4年間以上の支援というのは必要ではないかと。おそらく、文部科学省としましては、イニシャルの部分を支援しますよということで、あとは大学での、そのまま引き続き取組を実施してくださいというスタンスだと思うんですけれども。
 大学としてよくあるのが、こういうGPですと、特任の教員をこれ用に雇って、この支援期間が過ぎたらもう終わり、大学側もわかる人がいなくて尻すぼみになってしまうというケースがよくあるんですが、例えば、これを学士力を図る、質の保証をきちんとするというスタンスであるのであれば、例えば、3年間終わった後、継続の申請とか、4年間やった後、そのサイクルをきちんと確認するということが大事だと思うんですけれども、その辺のご意見をお聞かせいただきたいんですけれども。

○村田(高等教育局私学部私学行政課)

 それでは、お答え申し上げます。大事なご指摘だったと思います。
 確かに、文部科学省、いろんなGP事業をやっておりますけれども、問題は、そのGPの支援期間、どうしてもこれは予算の制約がございますので、採択したら未来永劫支援するというわけにはいかないわけでございまして、一定の期間を区切ると。そうすると、その期間が終われば、もうそれで雲散霧消してしまうのではなくて、問題はやっぱりそのGPで取り組んでいただいた、特色ある取組をしていただいたものが後に続く仕組みをどうやってつくるかということだろうと思うんです。
 まさに、この学士力確保と教育力向上プログラムというのは、それがねらいでございまして、13ページのあれを見ていただくと出てございますけれども、これはあくまで個別の優れた取組を支援するということと同時に、例えば、テキスト・教材の開発でございますとか、あるいは、新入生の補完教育のあり方。つまり、一つの大学でやった成果が、全国のいろんな大学に参考にしていただく、そういうための先導的なプログラムを支援するということでございますので、そういう意味では、どうしても予算の制約上、一定の期間は設けなければいけませんけれども、それが終わった後も、そういった取組が継続的に続く。そして、もう一つは、その成果物が後につなげられる、そういうものを私どもとしては採択をしたいと考えておりますし、決して一過性のもので、採択の期間が終わったら終わりということではなくて、むしろ後に続く仕組みを考えて、そういう取組を採択するように心がけていきたいというふうに考えております。

○梶田叡一氏

 具体的には、今のご説明のとおりなんですけど、これを包む大きなことを、今日、今のご質問ありましたが、大学の関係の方もおられるようですので、申し上げます。
 ちょうどもう2カ月ぐらい前になりますでしょうか、大学教育の中長期的なあり方についての包括的な諮問が文部科学大臣から中教審に出ました。このことをちょっとご説明したいと思うんです。ご存じだと思いますけど、1991年に大学設置基準が大綱化されたんですよ。つまり、それまでは、例えば、大学をつくるときでも、あるいは学部や学科をつくるときでも、あるいは改組するときでも、もう膨大な申請書類を出して、それで、まあうるさかったわけですよ。それで、先生方の全部審査もあったしね。ところが、1991年からは、基本的には大学に任せると。もちろん、書類は出さんといかんですけどね。で、設置審にはかかりますけれども、前に比べれば大幅に自由度ができまして。だから、おもしろい学部とか、おもしろい学科もいっぱいできましたでしょう。で、学部の先生方の教員審査もなくなりました。大学院はありますし、それから、教職課程を持つときにはありますけど、そういうことになりました。
 ところが、それの中で、すごい勢いで大学生が増えたわけですから、これに対応するということで、91年から20年近くこれでやってきたんですけど、わっと増えたんですけど、はっと気がついたら、2つ問題が出てきたんですね。一つは何かというと、大学の数が多くなりすぎて、短大の3分の2、四大の3分の1——これは私立ですけどね——が入学定員に満ちなくなってきた。それから、国立大学も、地方国大が実は定員ぎりぎりのところが今出ております。そういうことが一つで、もう一つは、大学は出たけど、本当にそれに見合うだけの力がついているのかという声が社会のいろんなところから出てきたわけです。これをいわば前提にして、今のような大学の中長期的なあり方についてということで、諮問が出ました。これはまとまったところから答申することになっております。
 これで3つほどポイントがありまして、一つは、質保証です。今の。やっぱり大学へ行ったら、行っただけのことがあるよねという力がつかんといかんということで、これを、今のこの事業もありますけど、もっと抜本的に何かないかということをみんなで議論しようと、これが一つであります。
 それから、2番目が、大学それぞれのやはり個性的なあり方をもっとはっきりさせようと。例えば、地方国立大学なんか、みんなミニ東大みたいになっちゃっているんですよ。ところが、東大は金があるけど、他のところは金がないですから、来ませんから。だから、みんなお手上げになる。それから、私立も、ともかくいろんな、人が来そうな学部をいっぱいつくるだけで、昔みたいな、あそこはああいう色だよねというのがなくなってきている。私も弟分が今早稲田の常務理事をしているから言います。早稲田だって、昔の早稲田じゃなくなっていると、早稲田の先生が言うぐらいですからね。東京のことを言いますよ。関西のことを言うと差し障りがありますからね。てな話になります。で、もっとはっきりさせようと、これは2番目の柱です。
 3番目の柱は、やはり少子化を見据えて、必要ならば規模を縮小することもあるよねという、そういう話です。ただし、これは在校生もおれば、卒業生もおれば、いろいろとおりますから、定員割れが何年続いているから、じゃ縮小というわけに機械的にはいきません。ですから、やはり当事者である大学が考えて、さっきの、うちの大学の特徴はこうだということを打ち出していく中で、あるいは、質保証はこうだということを打ち出していく中で、必要ならば私学同士の合併もあり得るだろうし、国立の合併も当然、これは財務省から今うるさく言われて、私なんかも、小さな大学というのは今は大変なんですけど、すごい圧力がかかっているわけですけど、あり得るしという、そういうことがあります。
 今申し上げた質保証と、個性的なあり方をもう一度追求するということと、それから、もう一つ、やはり少子化の中で、定員に満たなきゃ、大学訪問しただけでいっぱいグッズをくれるという大学がいっぱい来るわけですよ。そうすると、学力は全然ないのに、やっぱり受け入れざるを得ないという大学が実際に出てきているという、そういうことをどういうふうにね。ある種の規模の縮小を図って、若干、やっぱり大学にスタートの時点からふさわしい子どもが入るようにしよう。こういうことを、これから具体策を——今私が言ったのは、大きな着眼点みたいなものです。具体策はこれから議論をしていくということになっておりますので、ちょっとこれを補足しておきたいと思います。

○司会(寺門)

 ありがとうございました。
 他にいかがでしょう。では、お願いいたします。前のお席の方でお願いします。

○参加者

 中学校関係の者です。
 家庭の教育力向上ということで検討されているんですが、先ほど梶田先生言われたように、娘が父親を殺すというのがありましたけど、あれはどこでも起こるんです。お母さんが勉強のことを言ってもなかなか聞かない。たまたま帰ってきたお父さんに苦情を言うて、お父さんが「おまえ、何で勉強せんねん」となるでしょう。で、子どもたちに何で勉強せなあかんてこのお父ちゃんは言うたんやろう、何でこの子どもさせたんやという話をしたときに、勉強せんからやというんですね。何で勉強せなあかんねんって。
 もっと言うたら、やっぱりこの子は幸せになるためちゃうかというのは出てくるんですよね。お父さん、お母さんが、勉強何でせなあかん言うたときに、人生観とか、これからの生き方について話をしてないわけですね。勉強せなあかん、せんかと言うんですね。
 その家庭の教育力と言いますが、例えば、仕事をしている母親、父親が、ゆっくりそんな話をする機会がないんですよ。これは、予算を何万組んでもらっても、企業とか産業との連携で、もうちょっと時間が確保できるような産業構造にしてもらわんかったら、何をやったって難しいと思うんですね。文部科学省の方にこれを言うのは無理かもしれませんが、そういったところの連携がなかったら、これは非常に難しいと思うんですよ。
 この中に父親とか、家庭で経済的なものを得てくる人の話はないですが、働く人は父親でしょうけど、その人との接触の期間を確保できるような体制が、まあそれは30年かかっても構いませんが、ここが欠けていたら、限度があるんですよ、学校としても。それはどうでしょうかね。

○惣脇生涯学習総括官

 おっしゃるように、企業など、さまざまな社会のそれぞれの構成者が理解しなければいけないということがございますので、それで、社会総がかりでという言葉がございますけれども、そういう、今おっしゃったような観点も含めて、私どもの仕事としては、呼びかける、理解を求めるということは必要だというふうに思っております。
 いろんな場面で、いろいろな団体との連絡協議会があり、例えば、大臣のレベルであれば、経済関係団体との協議をするような場もございますし、私ども生涯学習局であれば、学校と企業や地域を結ぶのにどういう必要があるかということで、それぞれのレベルでチャンネルがございますので、粘り強く働きかけていきたいと思っております。

○梶田叡一氏

 私は、中教審に今出ている立場で申し上げます。
 おっしゃるとおりです。これを何とかせんといかんということで、私も今中教審でまとめ役をやっていますので、いろんな経済団体から呼ばれて、今話しているんですけど。例えば、サービス残業ね。これは、今はなくなったことになっていますが、すごくあるわけですよ。ご存じのとおり、大阪なんかすごいですもんね。私の息子なんか、もう明け方に帰ってきますよ、サービス残業でね。で、給料は低いね。こんなことをくどくど言ってもしょうがないですけどね。私はわりと実態を知っているつもりです。
 今、経済団体の人たちとの話し合いで、そういう労働条件をきちっと守るような勤労慣行といいますか、もう少し自覚しなきゃいけないんじゃないかということを言っております。親にゆとりがなくなって、いらいらし出したら、結局、子どもにいらいらが行っちゃうわけで、落ち着いて勉強なんかできません。このことを一つやる。
 それから、今、私はまとめ役ですから、与党・野党のいろいろと勉強会に招かれます。と言っても、国のレベルですけどね。そこでも、今、この問題は、与党の人も野党の人も、これは本当に今考えていると思っております。ある意味では、ある種の規制をもう少し強める必要があるかもしれません。そういうことをやりながらというふうに思っております。
 そういう、いわば土台づくりをした中で、例えば、親がもう少し子どものことを考えるようなムードをどうやってつくっていくかということをやっていかなければいけないんじゃないか。例えば、ちょうど2週間前ですか、兵庫県では子育て支援の全県の大会が行われまして、私、基調講演をやって、シンポジウムも私がコーディネーターをしたんですけど、兵庫県全域から婦人団体が中心で集まられまして、600人から700人の幹部の人たちが、どうやって家庭でのそういう自覚を、例えば、自治会の婦人部のレベルで、あるいは、婦人会やらPTAとか、いろんなところで親の啓発活動を強めるかという、そういうことがどんどん話し合いとして出ました。
 土台づくりをしながら、やはり親の啓発活動を、これはなかなかですけど、いろいろと耳を傾けてくれる親は大体いい親ですから、問題の親というのは、いろんな場を準備してもなかなか届かないということもありますが、しかし、そんなことを言ったら始まりませんので、きめ細かくいろんなところでやっていこうということを、例えば兵庫県なんかは、今、県を挙げてやっておられます。
 こういう動きも強めていかなければいけないのではないか、そういうふうに思っております。

○司会(寺門)

 ありがとうございました。
 もうお一方。先ほどお手を先に挙げられました。

○参加者

 座ってお聞きします。
 私は大阪総合保育大学の者でございます。結論としては要望ということになるわけなんですけれども、今、今日のお話でも、国の教育の施策というようなことについていろいろお話がありました。私の今一番、学長をやっている関係でそう思うのかもしれませんけれども、一番困っているのは、受け入れました学生の一番困っているのは、やっぱり経済問題です。そのことでアルバイト、このことはもうほとんどの学生がやっぱりアルバイトをする、こういうことになっておるのが現状であります。もちろん、それは、私のところは私学ですから、そういうことが激しいのかもしれません。また、大阪という地盤がそうさせているのかもしれません。しかし、現状を見ておりますと、学生の生活の中で、いかにアルバイトのために消費して、学校は、極端なことを言えば、お休みの場所ということにならざるを得ない現状にあることを、それは学生にはいかんと言いますけれども、現状から言いますと、そういう点が多分に感じられるんですよ。
 そこで、皆さんが今日30万人の留学計画というようなことをおっしゃいました。私は、前からもそれも聞いております。しかし、もちろん、外国の学生諸君を大いに教育することも大変有効なことですけれども、なぜもっと大学の奨学資金を、特に私学の学生に、国立と私立の是正をするということは、いろいろありますけれども、学生の奨学金を増やしてもらうということ、これは、私は、日本の教育のために大変大事だと思っております。
 先日も私学協会の総会が大阪でありました。しかし、そこで学生の奨学金の話の出なかったことで、私は非常に残念に思いました。どうぞ一つ学生を勉強させなければいけません。また、学生は勉強しようという意欲も今だんだん目覚めてきつつあります。しかし、現状は大変経済的な負担で困っているというのが私の実感です。どうぞ一つ学生の奨学金、特に私学の学生の奨学金、これは国立との是正のためにも、教育の振興のためにも、ご尽力願えんだろうかと、こう私は切に思うわけです。よろしくお願いします。

○村田(高等教育局私学部私学行政課)

 お答え申し上げます。
 実は、私は、今の席に座る前は、奨学金担当の課長をしておりましたので、今のお話、本当によく胸にしみてわかることでございます。経済状況にかかわらず学生が学べるようにということで、奨学金の制度自体は、先ほど惣脇総括官の方からもご説明しました。最近の予算で言うと、非常に厳しい状況なんですが、奨学金の予算だけは、ある意味ではかなり例外的に数を伸ばしているという状況でございます。
 ただ、まだこれからも充実させていかなければいけないという部分がもちろんですし、それから、もう一つは、奨学金だけではなくて、特に家計が困難な学生の方に対しては、授業料減免の制度がございます。国立、私立にございますが、そういったものに対する支援ということも充実させていかなければいけないということでございます。
 これは大学だけではなくて、高校もそうでございますけれども、経済的な負担を軽減していく。それは先ほど私費負担の割合が高いということもございましたけれども、経済的な支援の充実ということも、これも大変な大事な要素だと思っております。
 何よりもこれは教育予算をしっかり取っていかなければいけないということでございますので、ぜひご支援をいただきながら、しっかり予算を取れるように頑張っていきたいと思っております。

○参加者

 よろしくお願いします。

○司会(寺門)

 先ほどお一人、お手を挙げて。お願いいたします。

○参加者

 教育行政に携わっておる者でございますけれども、この基本計画の中で、教育環境については、質の高いという表現で、この基本方向の4にあるわけですけれども、同じく、子どもたちが一人一人向き合う環境の中で、先ほど行革法の云々の中で、なかなか財務省との壁が厚くて、いわゆる教職員定数の改善がなかなか難しい状況にある、これは大変残念なことであるというふうに考えるわけですけれども、ただ、一番下の方に、新学習指導要領の非常勤講師というのが概算要求で1万1,000人ほどの要求をされておるというふうに記載されておりますけれども、これは今後、その非常勤の講師についても充実をされていかれる状況にあるのかどうか。これは学校の現場から言うと、子どもたちが大変取り出し指導をしなければならない状況とか、たくさんありますので、ここが一番ポイントかなと思っておりますので、そのお考えをお聞かせいただければと思います。

○矢野(大臣官房教育改革調整官)

 ここも、今のいただいた問題、私もどんぴしゃだなと思っていまして。実は、梶田先生にはまだ明かしていなかったんですけれども、この閣議決定当時、私は渡海文部科学大臣の秘書官をしておりまして、実はその2万5,000人という数字が、当初、文部科学省の原案では入っていた。なぜ入ったかという過程も知っていますし、2万5,000人がなぜなくなったかという、最後の瞬間も私はよく存じております。詳しくは、こういう場で申し上げるのはふさわしくないと思いますので、またいずれかの機会で語る機会があったらと思っていますが。
 基本的に、先ほど惣脇総括官からお話がありましたとおり、行政改革推進法というのは平成22年度いっぱい、これは自然減以上の教職員を削るというふうに書かれているわけです。これが一つ。
 「骨太の方針2006」というのがもう一つございまして、1万人の純減を平成23年度までに図るということです。お気づきかと思いますけれども、来年度からの新学習指導要領の先行実施の期間につきましては、「2006」も行政改革推進法も、どっぷり、もうずばりと入っておりまして、率直に申し上げまして、その前に資料がございましたが、1,500人の定数改善、これは行革推進法の枠内、改善の枠内ということが書かれておりますが、これが限界だったわけです。
 当然のことながら、我々としても、この最後の1万1,500人のところを、この週40時間換算と書いてある、ここがポイントですね。週40時間換算と。非常勤講師とは言いつつも、常勤的な非常勤講師。ということで、行政改革推進法、平成22年度で失効しますけれども、平成23年度からは、当然、ここの部分を非常勤ではなくて、定数の本チャンでいきたいというのが、強い我々の意思でありますけれども。
 この間、産経新聞だったでしょうか、何新聞だったかちょっと忘れましたけれども、おそらく財務省の主張に乗っかかった方だと思いますが、文部科学省がこの2ポツのような1万1,500人、こういう悪乗りした脱法行為的な要求をしているというような記事も出ておりました。率直に申し上げて、これは我々の意思としては、何が何でも通すぞという固い意志を持っているわけでございますけれども、何分やっぱり相手もあるということで、この部分については、やはりもっと世論を盛り上げていかないといけないだろう。先生方、こんなに忙しいんだというところを、やはり我々はもっと世に問うていかないといけないというふうに考えております。ぜひご支援いただきたいと思います。
 実は渡海大臣も、就任当初は「量より質だ」派だったんですね。ところが、やっぱり現場をずっと回っていく中で、先生方はもちろん大変だとおっしゃるんですけれども、あるコミュニティスクール、さっき運営協議会という話がありましたけど、に行ったときに、地域の方々とか、あるいは保護者の方々が、「いや、うちの先生はみんな大変なんです。大臣、何とかしてください」。やっぱりこういう第三者の発言、そういった言葉というのは非常に説得力がありまして、大臣も最後は「量も質も大事だ」ということで、2万5,000人を行くぞと決断したわけです。ぜひ世論の後押しをお願いしたいというふうに考えております。
 以上でございます。

○梶田叡一氏

 一言だけ補足。本当に、今、私は文科省、一生懸命、現場に先生の数が増えるという、具体的に増えるということで頑張っておられるということを、私、高く評価しております。今も渡海大臣の名前が出まして、本当に頑張ってくださいました。その前の伊吹さんね。伊吹さんが大臣のときに、概算要求にばーんと入れたんですよ。入れて、それからすぐ渡海大臣に代わりましてね。そうしたら、実を言うと、さっきの行革推進法って小泉さんがやめるときに、どさくさ紛れにつくっていったやつがあって、これで縛りがかかっているわけです。先生の数は減らす。先生の給与水準は、人材確保法案を早くやめて、適正な水準にすると書いてあるんです、法律に。したがって、法律違反だというふうに財務省が言いまして、一時期、文科省の予算の査定を全部ボイコットしたりしたんです。それを、渡海大臣が頑張り、そのバックアップを、伊吹さんが幹事長でしたから頑張り、そして、実を言うと、これは私の個人的な意見ですから、あれしてくださいね。私の個人的な意見で言うと、自民党の中に2派あるんですよ。つまり、小泉路線をもう金科玉条にしている人たちと、やっぱりもう一度考え直さんといかんという。小泉路線を金科玉条にしている人たちは、今の財務省の後押しをしたわけですよ。でも、その他の自民党の人、それから公明党の方も頑張った。それから、民主党の一部もやはり頑張ってくださって、いろんな応援団があって、この4月、純増が1,500でしたっけ、1,000人か、純増。そして、7,000人でしたっけ、非常勤講師。という、これは、財務省がある意味で、はっきり言うと、全然理屈にならんけどと言ってつけたわけですよね。
 非常勤講師7,000人というのを、非常勤かと思わないでください。今、総額裁量制というのがあって、それが都道府県に行ったときに、それを専任に振り返ることができるんです、お金の範囲で。ですから、非常勤だろうと何であろうと、採るということが実際の現場の改善になるんですよ。これがあります。で、来年に向けて、今あったように、何とか今年採ったんですから、これを、はっきり言うと、来年から小学校、中学校は、算数・数学・理科の授業時間数は増えるし、中身も増えるわけですわ。なのに、もとのままで頑張れと言ったって、そういうことではなかなかいかんですよね。ということで、文科省、今必死です。必死で頑張っていただいています。
 そして、これは、私は、伊吹さん、財務大臣を外れちゃったんで、残念ですけれども、しかし、一生懸命これをやらなければ、日本の教育、人の面から瓦解するよという危機意識を持っていただいている政治家も、これはいます、有力な方々に。この人たちも、文科省と共闘関係を結んで頑張ってもらって、これからが勝負なんです。12月までが。ただ、向こうはすごくうまい。いつも自分たちの主張といいますか、文部科学省が言っている金の要求だとか何か、いかにこれは根拠のないことかというのを次々に新聞に、周りの人に書かせるんですよ。みんな大学の先生なんですけど、そういうものをいっぱい持っている。残念ながら、文科省の周りには、今はそれほど多くありません。文科省の側に立ってあれする。
 だから、今お話ありましたように、皆さん、今日ここでご縁ですから、文科省は無理なことは言ってないんですよ。本当に。全部、むしろつつまし過ぎるぐらいの要求ですわ。ですから、どうかそういうことをご理解いただきまして、やはり現場にもう少し人が増えなきゃいけない。それから、教師の待遇ね。これもきちっとやっぱりしなきゃいけない。ということで、私たち、一生懸命動き回っておりますので、皆さん、同じ方向で応援していただければと、そういうふうに思います。

○司会(寺門)

 では、以上でそろそろ時間となりますので、これをもちまして、教育改革セミナーin大阪」を終了させていただきます。
 本日はどうもありがとうございました。(拍手)

※セミナー開催にあたってのお願い・事務的な説明については、一部省略しています。

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生涯学習政策局政策課

-- 登録:平成21年以前 --