教育改革セミナー in 郡山

1.日時

平成20年11月7日(金曜日)18時〜20時

2.場所

郡山市民交流プラザ
(福島県郡山市駅前2丁目11-1)

3.出席者

文部科学省生涯学習政策局長 清水潔
中央教育審議会委員 田村哲夫

4.議事録

○司会(寺門)

 それでは、定刻になりました。ただいまより教育改革セミナーin郡山を開催いたします。本日はご多忙のところご参加くださいまして、まことにありがとうございます。
 申しおくれました、私、本日の司会を務めさせていただきます文部科学省生涯学習政策局教育改革推進室長の寺門と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 文部科学省では、国の教育改革に対する広報等のために、昨年度より、このセミナーを実施してございます。本年度につきましては、7月に閣議決定をされました教育振興基本計画をテーマに、全国7会場で開催しておりまして、本日をもちまして本年度5回目となります。
 本日のプログラムは、先ほどあらかじめご案内いたしましたとおり、お手元の次第とは若干順番が入れかわっておりますが、前半18時から45分ほど文部科学省より教育振興基本計画等についての行政説明を行いまして、その後、45分ほど中央教育審議会委員の田村哲夫先生より、ご講演いただくことになってございます。
 その後、まとめて、30分ほど質疑応答の時間をとることを予定いたしており、20時には終了したいと存じております。
 それでは、文部科学省生涯学習政策局長の清水より、教育振興基本計画の概要等についてご説明申し上げます。

○清水生涯学習政策局長

 皆様、こんばんは。生涯学習政策局長の清水と申します。私、実はいわきの出身でございまして、そういう意味で、皆さん懐かしい思いです。今日は、「教育改革セミナーin郡山」ということで、全体で7ブロックでございますけれども、5回目ということでございます。そういう意味で、皆様にお話をさせていただけるのは、とてもうれしいことと存じております。
 それでは、皆さん楽しみに聞いていただくのは田村先生でしょうから、私のほうから教育振興基本計画、おそらく皆さん、ごらんになられたと思うんですけれども、全体の姿と、そしてそれが具体的にどんな施策と裏づけられているかということについてお話をさせていただこうと思っております。
 私が用いる資料は、これからここの中で出ますけれども、「教育改革セミナーin郡山」という資料と、もう一つは、参考になるいろいろなデータとか、バックデータのような参考資料集です。そして、教育振興基本計画の構造をご理解いただくために、このパンフレットを用います。この3種類の資料を、あっちに行き、こっちに行きしながら、全体の姿を、できるだけ概略をわかりやすくという思いでおるわけでございます。
 まず、このパンフレットは、計画が基本的に4つの方向の中で、それぞれ実現されるべき目標の例を示し、具体的な施策の柱を書いているという構造になっていますので、まず、この資料につきましては、全体の具体の姿を見るときに常に参照しながらごらんいただいと思っております。
 まず、1ページを開けてください。教育振興基本計画とは一体何であるかという問題でございます。これは、まず最初にありますように、文部科学省の計画ということではありません。政府として、初めて策定した教育についての総合計画であります。
 「政府として」というところにポイントがあります。
 「政府として」という意味は、つまり文部科学省のみならず、政府を構成する関係各省の大臣で集まる閣議決定という場を経て、「政府としてつくった」、これが一つのポイントでありますし、そういう意味では、閣議決定を経た教育についての総合計画というのは、まさに初めてということでございます。
 その初めてという意味は、実は下にありますように教育基本法が平成18年12月に法律として整理し、その17条において、政府は基本的な計画を定め、国会に報告するとともに公表しなければならない。教育振興基本計画が策定されると同時に、国会に報告するという手続を、まさに法律に基づいて行うということでございます。
 実は、それと同様に、この教育振興基本計画は、ちょっと特徴的な構造を持っています。10年間を通じて目指すべき教育の姿を明らかにしようということが一つと、そして基本計画、いわゆる政府の基本計画というのは、いろいろな基本法という法律に基づいた基本計画というのはいろいろな分野でございます。それらは、大体が5年という期間を一つの計画の期間として、まさにそこの中で総合的に、計画的に推進する、こういう構造になるわけでありますけれども、教育振興基本計画は10年間を通じて目指すべき教育の姿を明らかにしようと、こういう構造を持っている。ここは特徴として、後で説明させていただきます。
 あわせて各地方公共団体においては、国の計画を参酌しながら、地域の実情に応じて計画を策定するよう努める必要がある。これは基本法の17条2項に規定があるわけでございます。まさに地方公共団体が参酌する、それに当たって参考となるような計画、こういうことでございます。
 続きまして、教育振興基本計画策定の経緯でございます。これはご案内のとおり、平成18年12月に基本法が公布・施行され、中央教育審議会でご議論をいただいて、まさにその答申をこの4月にいただいて、7月に閣議で決定されたというプロセスになるわけでございます。答申から計画まで、いろいろな意味で報道もありました。これはいろいろな議論があったのも事実でございますが、また、それは後ほど説明します。
 次を開けてください。今申し上げたのが基本計画の構成を、ごらん下さい。
 まず、教育振興基本計画自体は、第1章で現状と課題、第2章で10年間を通じて目指すべき教育の姿、そして第3章で、今後5年間に総合的かつ計画的に取り組むべき施策というのを、基本的考え方と、それをベースにしながら施策の4つの基本的な方向のもとに各施策を構成する、こういうふうな状況になるわけであります。そして、そのために必要な事項が第4章にある、こういうふうな構成であります。
 それでは、まず第1のポイント、今後10年間を通じて目指すべき教育の姿が必要なのかという議論の問題であります。
 当然のことながら、教育の発展なくして我が国の持続的発展はなく、社会全体で教育立国の実現に取り組もうとしています。教育という営み、あるいは、その特性を考えた場合に、5年間で何を取り組むべきか。しかし、こういうふうに取り組むということだけではなくて、目指すべき姿というものをどこまでえがけるかという問題であります。したがって、そういう中でいえば、少なくとも、もう少し具体的な姿、いわゆる実現すべき姿というものを、学校教育の分野でもいろいろな分野があります。それが相互に有機的に関連し合いつつ、全体としての、それらが相まって目指すべき教育の姿というものをどのようにまとめていくのかと、こういう問いの問題があります。
 ここは、したがって、一つは教育の特性、営みというポイントの部分がそうでありますし、また実は、これは目指すべき教育投資の方向とも、別な意味で関係があります。いずれにしても、教育の目指すべき姿、成果と予想をどう示すかというものと、それから目指すべき教育投資の方向の問題とも、実は関連もしているんだということを念頭に置いていただいて、目指すべき教育の姿を2つの大きな姿にまとめました。
 1つは、「義務教育修了までに、すべての子どもに、自立して社会で生きていく基礎を育てる」ということ。第2番目の柱が、「社会を支え、発展させるとともに、国際社会をリードする人材を育てる」。教育の大きなもの、前者が初等中等教育とすれば、後者はどちらかといえば高等教育の目指す姿ということでありますけど、1点ご注意いただきたいのは、「義務教育修了までに」、義務教育までにということを、はっきりここで出しているということです。これは教育基本法の規定、あるいは制定の経過というものを踏まえていただければと思います。まず、計画では義務教育の段階で何をするんだということをはっきりと出そうとしております。そろそろこのパンフレットを開いてもよろしいですが、こうなっているのをこう開けば、10年間の教育の姿をご覧いただけます。
 例えば、「公教育の質を高め、信頼を確立します」ということで、「世界トップの学力水準を目指すとともに、知・徳・体のバランスの取れた力を育てています。また、だれもが安心して子どもを学校に通わせ、優れた教員の下で教育を受けることができるようにします」。一言でいえば、公教育の質を高め、信頼を確立することは、ひいては義務教育修了までにすべての子供に自立して社会で生きていく基礎を育てる、そういうことにつながっている、こういう構成になっているということであります。
 「義務教育修了までに」という教育の姿を書こうとしている。
 そして、その後の部分では、「社会を支え、発展させるとともに」という部分では、まさに「高等学校や大学等における教育の質の保証・向上をする」と書いてありますが、正確に言えば、「質の保証・向上を図ります」ということです。ここのところを、ぜひご注意いただければと思っております。
 さて、そういう意味で、問題は「目指すべき教育投資の方向」ということでございます。これはいろいろご議論もありましたように、要は中央教育審議会の答申、そして文部科学省の原案、そして最後に政府として閣議決定を見た、そういう幾つか変遷をたどっているわけであります。
 この問題は、非常に難しい問題をはらんでおります。つまり、目指すべき教育投資の方向、今後10年を通じて目指すべき姿の中で書いている。ここにご注意をいただければと思います。というのは、教育振興基本計画は5カ年計画ですけども、今年平成20年から24年まで、資料の39ページのところを、皆さんはお手元の資料の中で見ていただければと思います。実は今、我が国も厳しい財政構造の中にあって、歳出改革、人件費改革という問題が教育振興基本計画の計画期間中、例えば歳出改革でいいますと、23年度まで重なっています。また、人件費改革ですと、22年度までかかっています。5年間のうち4年間、人件費改革は5年間のうち3年間、重複している状況です。
 歳出改革、人件費改革は閣議決定で、政府としての決定です。政府としての方針です。そういう中でいえば、教育振興基本計画で、歳出改革と制約から離れるのは最後の1年ということになります。いわば教育振興基本計画を考えるときに、投資の問題は切っても離せません。しかし、5年間という枠組みの中でいえば、非常に厳しい状態にあります。一方、他の計画の中で、予算や投資に関する数値目標を示す基本計画というのは、実は数ある基本計画の中でも科学技術基本計画のみです。これは政府の科学技術に関する、ありとあらゆる活動についての投資目標を5年間の総額で示すと、こういう方式で示しています。そういう意味でいえば、ある意味で、科学技術基本計画では、数値目標の中に何をカウントするかということが、一応カウントの考え方はあるのですが、きわめて柔軟なところがある。教育の場合には、そうはいかない、こういうふうな議論でございます。
 そこの中で、もとの資料に戻っていただければ、教育投資における公財政支出のGDP比ということで、5ページ、6ページをざっとごらんいただきますと、日本は全教育段階で3.4%、OECD平均で5.0%。特に、就学前教育段階と高等教育段階で日本の公財政支出のGDPは極めて低いという状況がありますし、6ページをごらんいただきますと、1人当たり教育費の支出というところで見ていただければ、就学前教育は平均を下回り、初等中等教育の部分では、大体OECD平均になる。高等教育段階では、額としては1人当たりのドル換算ベースでいえば、アメリカを抜くと並みと言えば言えなくもない。しかし、これが公財政と家計負担とどういう状況になっているかといえば、明らかに就学前の部分と高等教育、とりわけ高等教育段階では私費負担の割合が極めて高い、こういう構造になっています。
 そういう中で、文部科学省の資料でございましたように、5.0%というOECD平均を上回る水準を目指して投資を充実したいという熱い思いではありますが、そこのところについて言えば、政府として、もう一回4ページに戻っていただいて、ここのところをごらんいただければおわかりいただきますように、諸外国、OECD諸国の公財政支出など教育投資の状況を参考の一つとしつつ、必要な予算について財源を措置し、教育投資を確保していく、というように計画に記載されています。少なくとも先進諸国の状況というものを参考の一つということです。ただし、ここの部分でいえば、目指すべき教育投資の方向については、あくまで参考としてではありますけれども、具体的にそれぞれの施策の方向性を念頭に置きながら、毎年度の予算で勝負していかなければならない、こういうふうな状況になっているわけであります。
 したがって、そういう意味では、目指すべき教育投資の方向というのは、もとに戻りますと、10年を通じて目指すべき教育の姿というところで示すという構成、中長期的な10年の中で考えざるを得なかったということでもあるわけであります。
 さて、それでは続きまして、今後5年間の総合的かつ計画的に取り組める施策というところに移らせていただきます。
 これから始まる部分には、パンフレット開いていただきますと、それぞれの基本的方向と、そして基本的方向の中で実現すべき目標の例を、まず枠で囲み、そして、それぞれについて施策の柱と具体的な施策、主な取り組みというものが全体として見えるようになっております。したがいまして、パンフレットを前に置いていただきながら、これからずっとスケッチをしていきたいと思います。
 まず、5年間に取り組むべき施策の「基本的方向1」ということで、「社会全体で教育の向上に取り組む」というところがございます。これはまさにパンフレットの基本的方向1の(1)に対応します。ここで言えば、(1)の部分というのがあります。暗い中で見にくいかもしれませんが、学校・家庭・地域の連携・協力を強化し、社会全体の教育力を向上させるということでございます。
 さて、ここでは実現すべき目標として、大きな2つの目標を掲げています。
 「身近な場所での子育て等の支援」と「身近な場所での学習機会の充実」。社会全体の教育力の向上はどうしたというお声が聞こえてきそうですけれども、とにかく、そういう中で全部くるめた形でまとめようということでございます。
 そこで、次をごらんいただきますと、社会全体の教育力の向上という部分で、地域ぐるみで子供を取り巻く環境が大きく変化する、家庭や地域の教育力が低下している、このような指摘を踏まえて具体的な施策としては、学校支援地域本部事業、そして放課後子ども教室推進事業という形で、施策として組み立てているわけでございます。
 その内容については、今ごらんいただいている資料でありますけれども、その中で、例えば学校支援地域本部事業については、来年度は少なくとも各市町村に1カ所は設置できるよう、3,600カ所を設置するという目標に向けて私どもとしては、今年度取り組むという状況でございますし、また、このこと自体はさまざまな意味で地域住民の方が、まさに学校の教育活動を支援するだけではなくて、地域の住民の方、それ自体の学習知識、経験を生かす場でもあり、それは地域の一つの教育力の向上にもつながっていく、こういうふうな考え方で構成されているわけであります。
 そして、放課後子ども教室というのは、まさに放課後、週末等に小学校等の余裕教室を活用して、いろいろな安全・安心も含めたさまざまな活動というものを実施して子供たちを育てていこうと、こういう事業であるわけでございます。これに関連する参考データは、資料集の2ページ、3ページ、4ページを参照していただければと思います。例えば「家の人や学校の先生以外の大人から注意された経験」というのは、どんなふうにとらえられているか、あるいは「子どもを育てる上で地域が果たすべき役割」、あるいは「地域活動への大人の参加状況」等が述べられているわけでございます。
 さて、次、基本的方向1の(2)家庭の教育力の向上でございますが、ここにありますように、地域における家庭教育支援基盤形成ということで、特に孤立しがちな親、あるいは無関心な親たちに、もっと総合的に、あるいは積極的に、それぞれの状況に応じたきめ細かな家庭教育支援をどう行っていくか、こういう観点から組み立てられておりますし、もう一つ、子どもの生活習慣づくり支援事業は、今年度まで実施している子どもの生活リズム向上プロジェクトをさらに発展させ、広くそれをつなげていきたい、こういう考え方の事業であります。
 関連の資料としては、資料集の5ページ、6ページ、「親のしつけに対する国際比較等」をあわせて後でご参照いただければと思います。
 さて、次が基本的方向1の(3)人材育成に関する社会の要請にどうこたえるかというところでございます。資料では、発達段階からのキャリア教育総合支援事業ということで、まさに若者の、これは主にいえば小・中学校であるわけでありますけれども、職業的、あるいは社会的な自立、あるいはそれに対する構えというものをどう育てていくか。それは大学に行くんだから大学でやるべきことではないはずであります。そういう意味で、今こういう事業を、まさにキャリア支援、発達段階を通じた組織的、系統的なキャリア教育をどう進めていくかというための一つの事業を行っているということであります。
 ただ、高等学校段階から高等教育段階におけるキャリア教育の問題と職業教育の問題は、実は非常に大きな問題でもあります。例えば、普通科の高校生を含めて、大多数の生徒──大多数というのは言い過ぎです。かなりの生徒が、自分の将来と、学んでいることとの関連性とか、そういうものについてイメージを全く持てない。あるいは、学習に対するインセンティブもなかなかわかない。では、社会に出るといっても、最近、3年間の離転職の問題が極めて、特に普通科で高くなっているという状況の中で、我々はどう対応していくか。そこの中でいえば、キャリア教育、職業教育というものを、もう一回、現代、今の状況の中で、単なる高等学校における普通科、職業科、あるいは高等教育進学というのがごくごく当たり前で、それがすべてである、あるいは善であるという前提、あるいはそれぞれの段階で、そういう社会的、職業的自立、あるいは将来というものをどう考えていくか。これは真剣に考えていかなければならないだろうということで、今いろいろな検討を私ども行っておりまして、いずれそのことについて、ここのところはもっと深めていかなければならないし、全体として学校制度のあり方も含めて考えていかなければならないと思っています。こういう問題意識を持っているということだけ、差し当たりお話をしておきたいと思っております。
 さて、基本的方向1の(4)いつでもどこでも学べる環境でございます。そのため、いろいろな事業を、さまざまな市町村、あるいはさまざまなところで、さまざまな関係者がいろんな取り組みをどのように支援しながら、それを盛り上げていくか、これが私どもの課題であります。資料集でいえば7ページ、8ページをざっとごらんいただければと思います。事業としては、いろいろな事業、今一つ一つはご紹介申し上げませんけれども、そういう施策を講じているということでございます。
 それから、基本的方向2であります。「個性を尊重しつつ能力を伸ばし、個人として、社会の一員として生きる基盤を育てる」。そこの中では、「確かな学力を身につけた子どもの育成」「規範意識、生命の尊重、他者への思いやりなどを培うとともに、法やルールを遵守し、適切に行動できる人間を育成」「生涯にわたって積極的にスポーツに親しむ習慣や意欲、能力を育成」と、パンフレットをごらんいただきますと、具体的に、ある程度の成果的な目標も、その矢印の中に書き込まれていることにご留意をいただければと思っております。
 さて、そういう中で、それを具体的にどう進めていくかが次のテーマであります。1つは新指導要領の周知という問題でございます。新指導要領の周知の問題は、同時に後の学力調査の実施とあわせて、確かな学力をどうとらえるかということで、資料集でいえば10ページ、11ページの部分、「我が国の子どもたちの学力と学習の状況」を後ほどご参照いただければと思っております。
 新学習指導要領の周知については、いわゆる学校関係者を対象とした説明会だけではなくて、保護者の方々を対象とした公開説明会、あるいはインターネットを通じた普及など、趣旨、内容をご理解いただくための取り組みをしています。
 それから、移行措置については、これも基本的方向2の(1)に対応するわけでありますけれども、先月16日に成立した平成20年度補正予算に教材の作成・配付のための予算が計上されております。文部科学省では、今年度中にすべての児童生徒、担任教師に教材が配付できるよう準備を進めてまいります。
 次の資料をお願いします。「全国的な学力調査の実施」でございますけれども、それは同じく(1)に関連するわけでありますけれども、来年度の実施に向けた準備を進めると同時に、概算要求において学力調査の結果をより有効に生かすための調査研究、あるいは課題改善に向けた取り組み支援を予算として要求しているとご理解いただければと思っております。
 それから、次に(2)「規範意識を養い、豊かな心と健やかな体を育成します」の対応であります。今、資料でごらんいただいておりますように、道徳教育の総合的な施策の推進に必要な経費として47億円を盛り込んでおりますけれども、特に道徳教育用の教材費補助事業を盛り込んで、国公市立の小・中学校で、児童生徒向けの道徳教育用教材の購入を行う際に必要となる経費を補助するという、こういう予算要求を行っているということでございます。
 参考データとしては、資料集12ページ、13ページ、14ページ、これを後ほど参照いただければと思っております。
 それから、次が、まさに健やかな体の問題であります。体力、運動能力、運動習慣等の調査であります。もうすぐまとまるわけでございますけれども、12月に公表し、来年1月に調査結果を各学校に提供できるよう、今、分析作業を行っております。これは今、体力、体格の状況でいえば、資料データ15ページをごらんいただければと思っております。
 それから、次が体験活動、これも基本方向2の(2)に対応します。自然の中での長期宿泊体験活動、社会奉仕体験活動など、そういうモデルとなるようなさまざまな体験活動を実施する学校を指定して成果を普及しようという事業でありますけれども、特に農水省、総務省と連携して、子ども農山漁村交流プロジェクトを実施しているということで、ご理解をいただければと思います。
 次が、基本方向2の(3)でございます。教員の資質向上と一人一人の子どもに教員が向き合う環境をつくるということであります。これはごらんいただきますと、既にご案内のところでございますが、教職員の定数改善として1,500人、そして退職教員、経験豊かな社会人の積極的な活用ということで、7,000人を1万500人に拡充する。そして、1万1,500人の非常勤講師の配置という新学習指導要領の円滑な実施のための指導体制整備という予算を盛り込んで、今そのための年末の予算編成に向けてしっかりと取り組んでいきたいということで、やっている最中でございます。
 それから、同じところでいえば、次の資料をごらんいただければ、免許状更新講習でございます。平成21年4月からの更新制実施に向けて、いろいろ周知、あるいは更新講習の施行など、そういう準備をしてまいりますけれども、来年度以降の円滑な実施に向けて、そのための講習開設費の補助の予算を要求しているということでございます。
 次ですけれども、認定こども園幼保連携型移行・設置促進事業ということでございます。厚労省と文科省、共同で103億円を新たに計上しているわけでございますけれども、具体的には、今ここに挙げられているような新たな財政支援の要求を行っているということでございます。
 それから、次が発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業でございます。発達障害を含むすべての障害がある幼児児童生徒の支援のために、研修、あるいは専門家の巡回・派遣、あるいは一貫した支援を行うモデル地域指定などの特別支援教育の総合的な推進を今進めようということが、その内容となっております。
 次が、第3番目の基本的方向、高等教育の分野でございます。高等教育の中で、いわば学士課程の実現すべき目標として、3つの柱を立てておるわけでありますが、次の24ページをごらんいただいたほうがおわかりいただけると思います。
 まさに高等教育をどう充実していくか、とりわけ大学教育をどうするかということで、実は、この9月に中央教育審議会に新たな諮問を行っております。要は、大学教育のアウトカム、学生が何をどこまで身につけたかという意味でのアウトカムを担保する、保障していくという観点から、要するに教育を提供する側ではこういう体制でこういうことをやっていますではなくて、何を身につけさせたかということを、どうフレームとして保障していくかという観点から、質の保障を、設置の段階、そして第三者評価、あるいは財政支援、その他も含めてどういうふうに担保していくか。大きな、そういう包括的な問題であります。現状課題対応の方向性、具体的な取り組みの施策というのは、今ここでこれまで進めてきているところでありますが、これらに加えて大学が今後、役割機能を分化するというほうに誘導していくことを念頭に置きながら、今、中央教育審議会で中長期の大学教育、高等教育のあり方について、まさに審議が開始されているということでございます。
 今現在、進めようとしている事柄でいえば、全体としてこういう大学教育の充実、機能別分化ということを念頭に置きながら、例えば学士力の確保と、そのための向上プログラム。このほかには、例えばOECDの教育大臣会合がお台場で開かれた際、OECD諸国の中で、いわゆる学生のアウトカムを測定するためのテストの開発が合意されました。本格実施は2010年を目指して、PISAとは異なった高等教育のそれぞれの機関の多様性、制度の多様性、歴史的経緯の多様性を前提とした上で、少なくとも大学教育といえるためには質の保障というのは必至である。質の保障を考える場合には、機関がこうしている、大学がこうしているということではなくて、学生がどこまでそういうものを身につけたか、それを測定する手法、OECD各国で共通して開発することが必須であるという認識であります。これは日本も当然参加しているという状況でございます。
 さらに、次の資料をごらんいただきますと、世界でトップレベルの教育研究の拠点をどう育てていくか、これがグローバルCOEプログラム。まさに世界的なレベルで競い合う競争の中での大学をどう育てていくかということであります。
 次の資料ですが、大学の国際化、競争力の強化という観点でいえば、留学生の受け入れを抜本的な、いわゆる入り口、あるいは30万人という人数が問題ではなくて、むしろいかに質の高い留学生をそれぞれの国が獲得しようとしのぎを削っている状況の中で、すぐれた質の高い留学生を獲得できるか、できないかが、その国の大学の今後の将来にかかわってくる、こういう認識であります。
 したがって、入り口、大学それ自体の受け入れ体制、あるいは使用言語も含めた教育体制、そして就職支援という、全体を通じたそれを考えていかなければならないということであります。
 次の資料は、戦略的大学連携についてです。今さまざまな意味で少子化、18歳人口の減少等の中で、高等教育はいろいろな意味で影響を受けています。それにより大規模なブランドの、いわば確立した大学が、ある意味でどんどん、いわば大きくなり、その強みをますます発揮すると同時に、地方の小規模の大学にとっては、定員割れ等の状況の中で、限られた資源の中で、どうやって差別化を図りながら、まさに教育に、研究に、あるいは地域貢献にどうしていくかというのが、まさに問われています。そこで、大学間で共同連携というもの、将来の再編も念頭に置きながら、戦略的な統合連携をどう支援するかということでありますし、これのほかに設置基準を制定しまして、国公私の大学が、大学を超えて大学院研究科や学部、学科を共同で設置できるような仕組みが、既に法令改正を伴いましてスタートし始めている、こういう状況であります。
 次をお願いします。今まさに医師不足、地域における地域医療を含めた医師不足、あるいは産科、小児科の養成体制をどうしていくかというのが、医師不足対策人材養成推進プランと、こういうことになるわけであります。
 そして、次が大学の施設整備、まさに先端的な研究体制等の基盤としての教育研究施設設備の整備高度化をどう図っていくかというための5か年計画の推進で、このよう方針のもとにどう整備していくか、こういうところでございます。
 さて、次、子供たちの安全・安心と質の高い教育環境という問題です。高等教育の基本的方向(1)の対応の話は、ちょっと時間を節約したいので申し上げませんでしたが、安全・安心というところでは、基本的方向4の(1)安全・安心な教育環境に、これは対応していくわけであります。
 次のページ、安全・安心な施設環境と、もう一つ、安心プロジェクトということで、施設環境は耐震化の問題でありますけれども、今回の補正予算によって大規模地震による倒壊等の危険性の高い公立小・中学校施設、Is値0.3未満については、完了時期を1年間前倒しすることを目指すということで、これは地方財政が非常にご苦労されている中で、ぜひ私どもとしてもお願い、これはむしろ地方にお願いしたいということでもあります。できるだけ耐震化の取り組みが加速するよう、どう取り組んでいくかということでありますし、耐震化の状況は資料集23ページをごらんいただければと思います。
 また、次にごらんいただくのが、安心プロジェクトということで、学校内、通学路での事件の発生という中で、例えば安全ボランティアの養成研修とか、スクールガードリーダーであるとか、そういう地域ぐるみの学校安全体制整備推進事業などを中心としています。後で、資料集24ページを参照いただければと思います。
 そして、「学校教育情報化推進総合プラン」ということでございまして、パンフレットの基本的方向4の(2)に対応いたします。IT環境と教員のIT活用についてですが、実は、我が国は非常に課題が、特に教員の活用能力の面で、都道府県間の格差が激しいという特徴がございます。少なくともIT活用能力の学校内における指導というところでは、あと3年で政府としての目標が達成できるか危ぶまれているというのが率直な状況であり、そこのところをどうしていくかということが、私ども大きな課題になってきているということであります。
 さて、その次が同じ基本的方向4の(3)私立学校の教育研究の振興、まさに総合的な支援をどうやって進めていくかということであります。
 次の資料が、教育の機会均等の保障という観点での奨学金のさらなる充実をどのように図っていくか、こういうふうな内容になるわけであります。
 さて、今、基本的方向1から4まで、ざっとその施策、それぞれの目標の例と、基本的方向1の4つの柱、基本的方向2の6つの柱、基本的方向3の6つの柱、そして基本的方向4の4つの柱、それぞれに対応した内容について、若干簡単にスケッチさせていただきました。
 次の資料をいただければ、ここからが、まさに教育振興基本計画の第4章の・・・ということになるわけでありますけれども、国、地方それぞれの役割ごとに進めて、いわば国だけでできることでもない。また、都道府県だけでもできることではない。市町村だけでもということで、それぞれの役割ごとに進めていくということであります。
 次の資料ですが。やはりそれぞれの役割を踏まえた財政措置、私どもにとっても、どうしていくかというのは非常に大きな問題であります。要は、効果的な施策を、限られた予算中でどう実施していくか、どう創意工夫を凝らしていくかということに相なるわけでありますが、次のページ、これは先ほどごらんいただきました。また、次の資料も飛ばしていただいて、あと残された数分間で「教育振興基本計画の着実な推進」を最後の話として触れさせていただければと思います。
 要は、教育振興基本計画は5年の計画でできました。5年の計画ということはどういうことかというと、24年度までの計画であります。実は、もう教育振興基本計画初年度から、また次のことを考えるのかとお叱りを受けるようでありますけど、毎年度、この5年間の中のそれぞれの目標をできるだけ達成できるように、そして達成するためには、実は私も今アクションプランというのを、この重点施策について何をどのように取り組むかというアクションプランをつくろうとしております。
 問題は、アクションプランはいいのですが、そのことによって、どのような成果があらわれてきたかということを、私どもとしても、それを明らかにする努力をし、そしてそれが国民や社会の教育、あるいは教育関係者にできるだけご理解をいただくよう努めていきたいと思います。そのためのアクションプランと、そしてそれぞれがやった点検、それを毎年度、毎年度、点検しながら、次なる改善につなげ、大きな計画の目標を達成し、そして、それがまさに基本的方向のそれぞれの主たる目標を達成でき、どうやってシステム化していくかというのは、実は最大の課題であります。
 そして、それは、次期振興基本計画というものを考えてみた場合、担当者の目から見ると、もう平成23年度から次期計画の検討に入らなければならない。そうでないと、平成24年では計画期間終了ですから、つまり、ある程度23年度のときに、それぞれ毎年、毎年度のそれがどうやってきたか。そして、それがどのような成果としてあらわれてきたか──これは難しいです。教育の成果を中長期的な観点でどうやってはかるか。もちろん、そうだけれども、そのために、しかしだからといって、何も語れないというのは、それもまた違うだろうと思います。少なくとも、何がどこまで成果として出てきたか、そのための指標となり、あるいは参考となるものは何なのか、そこから見て改善すべきは何なのか、そういう作業を私どもとして、これから進めていかなければならないし、そして、そのことによって、さらなる教育振興基本計画の第2期の計画、つまり第2期の計画は、第1期の計画をさらに進化させていきたいと思っております。進化する教育振興基本計画、こういう観点から、いわばそういう中で言えば、教育の世界だから、私も自戒しなければならないのは、こういうことだと思っています。教育の世界だから、ある意味で中長期的な営みとしての、なかなか成果というのも単純には図り得ない、そういうものであることは百も承知の上でも、教育、しかし、我々は何を今生みつつあるのかというのを語る、あるいは示せる努力をしていかなければならないでしょう。そして、それは、また計画、目標というところにもつながっていく。そういうことではないだろうかと思っております。
 いろいろと教育振興基本計画をめぐって、具体的なそれぞれの進め方について、いろいろなご意見はおありでしょう。それぞれの意見というものを十分組みながら、これをどう着実に進めて次の展開にしていくか。それが私どもの課題かなと思っているところでございます。
 ちょっと平板ではございますが、極めて大量なものですから、この程度の説明しかできないことを、ちょっとご容赦いただければと思います。ご清聴ありがとうございました。(拍手)

○司会(寺門)

 それでは、次に中央教育審議会の委員でいらっしゃいます田村哲夫先生より、ご講演をいただきます。
 改めてご紹介を申し上げるまでもなく、田村先生は渋谷教育学園の理事長でいらっしゃいますとともに、文部科学省に関係するだけでも中央教育審議会の生涯学習分科会長、また初等中等教育分科会の副部会長、また日本ユネスコ国内委員会副会長を歴任するなど、我が国の教育政策の形成に多大なご貢献をなさっておられます。特に、近年では、先ほどご説明申し上げました、この教育振興基本計画の答申をいただきました中教審の教育振興基本計画特別会の委員としてご尽力いただきました。
 それでは、先生、ご講演のほう、よろしくお願いいたします。

○田村哲夫氏

 ご紹介ありがとうございます。大変ご懇篤なご説明をいただきまして恐縮ですが、今の清水局長先生のお話を受けて、では具体的に今、現場でどういうことが問題になり、その解決には教育振興基本計画がどういう役に立っているのか、あるいは、その意味は、どういう意味があるんだろうかという、その切り口で、現在の初等中等教育が中心になりますが、もっと大きくいえば日本の社会が抱えている問題を少しくご説明申し上げて、目指すべき方向についての共同認識と言ってもいいのでしょうか、こういう方向なんだという確認ができれば大変ありがたいと思って参上したわけでございます。
 お手元にレジュメと資料をつけておりますが、資料1をごらんいただきまして、これが先ほど局長がお進めになられた、つまり教育振興基本計画というもの、そのもとになっているのは教育基本法の改正になるわけですけれども、それがどういう流れの中でつくられてきたかというのも、少しくこの表でご説明してみたいと思います。
 つまり、我が国は世界史におくれて登場した国という国ですから、近代化を果たすためには教育がどうしても必要であります。ジャンジャック・ルソーが『エミール』の中で、人間は生まれついて考える力を持っている生き物ではない、教育という非常に手間のかかる作業が人間に考える力を身につけさせる、それがもとになってフランス革命が生まれるという、こういう考え方ですから、個人が自立し、自分で考える力を身につけるには、近代的な意味での教育というのが計画的にきちんとされていくことが必要であるわけでありまして、その意味では、私たちの国は歴史的な背景、つまり世界史におくれて登場したということで、常に目標があり、見本があるということで、その目標を達成するような形で教育が計画されてきたという流れがございます。
 おそらく戦前は、言葉で言えば富国強兵でございましょう。戦後は、どうも強兵はまずかったというので、富国になるわけです。この国の目標を具体化する形で、学習指導要領というのが内容的には形成されていくと考えるのが一番わかりやすいかなと思っています。
 戦後、昭和22年から始まっているわけですけれども、その流れの中で、確実に私たちの国がよりよい環境をつくり出すためには、こういった人を養成していく必要があるだろうということで学習指導要領が示されて、全国一斉にそのことが実施され、それが現在の日本を形成するもとになったということは事実だろうと思います。
 この流れが変わった事件がありました。それが、ちょっと手書きで書きましたが、臨時教育審議会だろうと私は考えています。1984年、つまり臨時教育審議会は、21世紀を迎えるに当たって、今までの国が目標を示して、みんながそれに従ってやっていけば問題ない、いい教育ができるという仕組みが機能しなくなるぞと、こういう警告をした最初の審議会であったと思います。
 そこで出てきた言葉は、個性を尊重しろと、それから教育の自由化、変化への対応、これは国際化とか、そういうようなことです。何が起こるかわからないんだから、決まりきった形で、決まりきったワンパターンの発想をするような子供を育てていくということを目標にしてやっていくと行き詰まるよということが、そこで言われています。
 それから、最後に生涯学習、これは1965年のユネスコ・パリ総会でポール・ラングランが言い出した概念ですけれども、20年後、実はその前に文部省はいろいろな機会にそれを紹介しているのですけれども、その概念が、それ迄は世を突き動かすようなショックを与えなかったのです。臨時教育審議会で取り上げられて、俄然、やっぱり時代の流れでしょう。どうも今までのように画一的なワンパターンの教育ではだめみたいだと、みんなが思い出したときに、そういう話が出てきたので、すごいショックだったと考えていいだろうと思います。
 この臨時教育審議会の考え方は、実はその後、今日に至るまで、私たちが行っている教育改革の基本的な考えの柱だろうと考えていいだろうと思います。つまり具体的に言いますと、その後、臨時教育審議会を受けたような形で、同じような考え方を提言した審議会が幾つかあります。最初は、2000年につくられた教育改革国民会議であります。この教育改革国民会議は、江崎玲於奈さんが議長をやりまして、実は私もその委員の一人としてお手伝いをしたのですけれども、ここで教育基本法を変えなければいけないという提言が初めてされました。これは臨時教育審議会の精神を受け継いで、教育基本法を変えろという提言をしたという、こういう流れがあるわけです。
 これは話していますと長くなりますから、その程度にしておきますが、それを受けて、具体的に言いますと、2006年、つまり教育再生会議が安倍新首相のもとで発足した時期に、具体的に教育基本法改正が行われました。
 その教育基本法の改正を受けた形で、これは教育振興基本計画をつくれという内容を持った基本法ですから、基本法がつくられ、それと並行して、実は学習指導要領2008年、平成20年に現在告示され、小学校は2011年、中学は2012年、高校は2013年度から学年進行で全面実施しようとしている、現在示されている学習指導要領が形成されたと、こういう経過がございます。
 私、実は学習指導要領の編成のお手伝いをしましたけれども、その前に教育基本法が改正され、それに基づいて基本法が固まっていく過程を横目でにらみながら学習指導要領の中身を議論したと、こういう経験が、つい昨日のように思い起こされます。その中にあって、先ほど非常に苦しく大変だったろうなと思ってお話をお聞きしていたのですけれども、やっぱり予算のことがなかなかうまくいかなくて、文部科学省は一生懸命やっているんだけれども、跳ね返され、跳ね返され、結局、今のご説明のような形になって、これから先やるぞというご決意が示されたような気がしましたが、すごい苦労されたなというのは、よくわかります。これは、たまたま教育改革と財政改革がぶつかっていたという、こういう不幸な時期だったという気がします。
 実は、教育改革に関して言えば、世界中、ほとんど同時みたいな形で、今、教育改革が進行しています。日本だけではないのです。ですから、お金の問題はさて置いて、とにかく改革する内容は理解をしておく必要があると思います。それが実現するには、なかなか予算がなければうまくいかないのですけれども、しかし、なくてもできることはやっていこうということで取り組んでいくのは、今の差し当たりの考え方として、我々が現場で生徒と対峙して日常接しているわけですので、その改革の精神だけは、ぜひ生かしていかなければいけないのかなと考えている次第であります。
 その内容を具体的に申し上げますと、いろいろ状況の中で苦労してつくった今回の学習指導要領の改訂の内容は、図にしますと、ポンチ絵みたいで手書きで下手な絵で申しわけないのですけれども、こんな形になります。これは「生きる力」ということが臨時教育審議会で示された、個性尊重の精神が継がれていると、こういうことです。それを中心に据えて、時代の要請である幾つかの要請をきちっと対応していこうというのが、今回の改訂の基本的精神であります。
 「生きる力」がゆとり教育を生み出したというので非常に評判が悪いのですけれども、実はゆとり教育を生み出したのではなくて、誤解されたと思っております。実は、前回の教育改善でも、ゆとり教育ということを関係者は言ったことがないのです。それはお調べになるとわかります。ゆとり教育なんていうのは、勝手に──関係者がいるとまずいのですけど、いますね。まずいね。まあ、聞き流してください。マスコミが勝手につけて流布した言葉でありまして、それをみんなが、そういうふうに文科省が思っているのかと誤解されたという、こういう流れがあって、それをきちっと説明しなかった文科省も悪いのですけれども、とにかくゆとり教育という考え方は、基本にはないのです。基本は生きる力という考え方です。
 これは今回ももちろん変わっておりません。なぜでしょう。つまり見本があって、手本があって、それを学べばいいんだという時代が過ぎて、もう見本はなくなってしまったのです。ヨーロッパを見たって、アメリカを見たって、みんな必死になって、どう改革していったらいいかと、つまり、今学んでいる人が活躍する時代というのは、30年後、40年後でしょう。30年後、40年後はどういう社会になって、何が大事にされて、どんな力を持っていなければいけないかということは、率直に言って、だれも予測つかないのです。これは先進国すべての国の激変の時代の特徴なんです。
 ですから、すべての国が改革ということに必死になっているわけです。イギリスがいい例ですけれども、イギリスはブレアという人が登場して、彼は、就任のときに、「1に教育、2に教育、3、4がなくて5に教育」と、こういうふうに就任の記者会見で言ったと新聞記事に出ていましたので、これは日本の新聞で読んだので、「1に教育、2に教育、3、4がなくて、5に教育」って、英語でどう言うんだろうなと思いまして、早速、英字新聞を見たら、何てことはない。「エデュケーション、エデュケーション、エデュケーション」と言ったのです。名訳だなと思って、今でも感心するのですけれども、しかし、本当にそうだと思います。
 これからは変化の時代に、その国が生き残る──国が生き残るという意味は、昔のような、国威を発揚するという意味ではなくて、その国が長い年月、育ててきた伝統文化が価値あるものとして認められるような存在して、次の世代で世界の役に立つ、そういう国づくりをする、そういう人づくりをするというのが、基本的に将来に向けての考え方として一つの柱だと思っております。
 後ほどまとめて改革のことについてはご説明してみたいと思いますけれども、基本法の中で伝統文化の尊重という言葉が出てきます。これはいろいろと批判されます。私的に言いますと、何もわかってないで何言っているんだという感じなんですけれども、そう言うと身もふたもありませんから、丁寧に説明しますと、伝統文化を尊重するのは国際化社会で生きなければならないから伝統文化を尊重するという、わざわざ言わなければいけないことが起きたということなんです。つまり国際化がどんどん進んでいって、グローバリズムがどんどん進んでいきますと、すべての国で、それぞれの国が長年かけてつくってきた遺産、伝統文化というものを大切にすることで、世界平和が実現するわけです。違った国が、違った考え方、違った価値観でぶつかっても、それぞれの国がつくり上げてきた、それぞれの地域がつくり上げてきた伝統文化は、それぞれ価値があるとして大事にしようと、これは実はユネスコの考えなんですけど、そうみんなが思えば平和になるのです。宗教の違いで戦争は起きないのです。
 ですから、そういうことを考えれば、伝統文化を大事にするというのが基本法に入ってくるのは当たり前だと私なんかは思うんですけれども、なかなかご理解いただけない向きもあって、えらい苦労しているわけですけれども、一つのそういう意味では方向性だろうと思っています。
 ちょっと申し上げましたように、実はブレアの改革も全く同じ改革でありまして、今のような流れの中で、国際化ということを意識して、日本の国民の意識の中に、さらに徹底的に入れていかないと、将来、日本の国民が平和な社会の中で十分に活躍するためには、グローバリズムという意識を徹底的に入れておく必要があるだろうと。それを、実は『中等教育資料』の5月号に書けというので書かされました。ことしの5月号ですから、もしかするとお読みになられた方がいらっしゃるかもしれませんが、まさに国際化、グローバリズムというのは、本格的にこれから新しい学習指導要領のもとで実施されていく必要があるだろうと思います。
 それを申し上げる前提として──どうもレジュメから外れて申しわけないのですけれども、つい最近、もう帰ってしまったから言っていいと思うんですけれども、イタリア大使とちょっと仲がよかったものですから、3年勤務を終えて帰るので昼飯を食おうというので、ちょっと昼飯を食ったのです。そしたら、彼が「田村さん、帰ったら私は家を買う」と言うのです。「何で?」と言ったら、日本に3年勤務すると家が買えるんだそうです。「どうして?」と言ったら、日本に勤務すると給料が3倍になるんだそうですよ。「何でですか?」と言ったら、僻地手当がつくんですって。これはびっくりして、イギリス大使というのは私の学校の理事ですから、聞いてみたら、そのとおりだと言うんです。そのとき、イタリア大使は親しかったから、「何で日本が僻地なんですか?」と聞いたら、彼は10ぐらいの理由をすぐ言いました。さすが外交官だと思ったけど、一番ショックだったのは、アルファベットが通じない国だというのです。これは僻地だそうです。それから、いろいろくだらないことを言っていましたけど、もう一つ印象的だったのは、蒸し暑い、これはしようがないのかなと思いますけど。
 申し上げたいのは、私たちの国は僻地であるという意識を我々大人が持って、国際化というものを常に言ってないと、ほんとうに僻地に生きる人間になってしまうということなんです。つまり僻地というのは、自分たちの中で都合のいいように考えて、都合のいいような生活をして満足してしまうという、こういうことです。
 私、実はことしショックだったことがあるんです。サミットがありましたね。あのサミットでは、ブレアが言い出して、グレンイーグルのイギリスのサミット以来、ずっとやっているんですけれども、高校生サミット、ジュニアサミットというのをやっているんです。ジュニアサミットがヨーロッパで何回か行われて、今回日本に来たのです。今までのジュニアサミットは、ヨーロッパで行われていたものは全部、参加者が200人前後です。今回、どれぐらい来るのかなと思って期待していたのです。外務省の担当官に聞いたら、何と39人だそうです。びっくりしまして、「39人ってどうしちゃったの?」と言ったら、「先生、ここは来にくいところなんですよ」と言われました。
 だから、やっぱり僻地なんです。僻地だということのよさもあるけど、僻地で、まずさみたいなものは、次の世代が持ってしまっていると。次の世代、30年後、40年後というのは、確実に国際化していく社会ですから、日本人として国際化した社会の中で活躍しなければいけないわけです。そのことをよく考えないと、ほんとうにぐあいが悪いと思うので、それを教育でしっかりと表現していくことが生かされる必要があるだろうと思います。伝統文化を尊重するということと、国際化というのは、実は両立しなければいけない考え方です。
 もう一つ、申し上げましょう。テーマだけ申し上げて申しわけないのですが、小学校の英語の話です。実は、自分が中・高の校長をしているんですけれども、私の学校では中国の高校と交流しています。北京のいわゆる重点高校と言われる学校と姉妹校提携をして、よく先生や生徒の交流をやっているのですけれども、その交流のことで、「へえ」と思うことがあるのです。何だと思いますか。つまり先生、生徒の交流、基本的に言葉は英語なんです。うちの生徒は、相当英語はできます。先生方も一応できますから、向こうとの交流は英語でやるのです。中国も重点高校ですと、生徒はみんな英語がベラベラですから、普通にできるのです。そのときに中国の人に何て言われたと思いますか。日本はいいですねと。中国に来て、英語で交流できる。その上に中国語が学べるんですからと言われたのです。向こうの人の感覚は、そういう感覚なんですよ。つまり数十年先に国際語として役に立つのは、英語と中国語だと思っているんです。だから、日本語なんか学んだってしようがないと中国人は思っているんです。
 人数の上で言えば、それが常識ですよね。それを気づかないと、少なくとも、それを次の世代に伝えておかないと、英語を何で小学校でやらなければいけないのといったら、そういう状況があるんだよと。それについて、あなたはどう思うと。それでも英語を一生懸命やらなくてもいい、中国語も学ばなくていいという生き方もあるけれども、しかし世界の常識はそうなんだから、困るときが出てくるんじゃないのと、こういうことですよね。グローバリズムというのは、そういう考え方をどのように適切に現場の教育に導入していくかということだろうと思っています。
 あと、何分でしたか。──20分ですか。では、急いでやります。
 そうなると、初等中等教育の中で、まず現在持っている課題は何だろうかということを確実に認識する。そして、それが将来どういう方向に行くんだろうかということを考えながら、日常の教育活動をおやりになる必要がある。学習指導要領は、大綱的に知識を伝授する仕組み、シラバスと言いますが、こういうものを示していますけれども、しかし、それはあくまでも参考であって、その方向性については現場の先生方がしっかりと考えて、どういう方向にこれから社会が行くんだろうか、どうしてこういうことを学んでいかなければいけないんだろうかということを、生徒たちに示していきながら教える必要があるだろうと思います。
 そのことを考えた場合、方向性の中で全員が共通して認識しておく言葉があるのです。それは、21世紀は知識基盤社会だ、こういう言葉です。「ナレッジ・ベースド・ソサエティー(knowledge-based society)」。これは私が言っているのではなくて、ユネスコで議論され、国連の総会で議論されて、現在、世界で「ナレッジ・ベースド・ソサエティー」というのが基本的な概念として考えられている将来の社会の形です。
 私は、生徒に校長としてよく話すんですけど、「ナレッジ・ベースド・ソサエティー」を中学生にも話します。わからないんだよね。簡単に言えば、我々の世代は、地位が高かったり、うんとお金を持っていたりすると、すごい得した社会だった。これから君らが生きる社会は、ナレッジがしっかり身についてないと損する。ナレッジがないと、すごい損する社会だよと。そのかわり、あるとすごい得するぞと。この間リーマン・ブラザーズの事件が起きたので、生徒はすぐわかって、納得したと言っていましたけども、そういう社会です。
 その前のナレッジというのは、定義がありまして、知識を持っているとか、考える、記憶する力がある、あるいは計算が速いとか、これはナレッジの一部なんです。それに加えて、それらのものを使って、将来に向けて課題を発見し、解決法を考える。さらに加えて、それを人に説得できる力、人を巻き込んで、そういうふうに説明し切る力。言葉で言えば、ディスカッションとディベートという言葉がありますが、ディスカッションではなくてディベートの力です。これがナレッジの将来の定義の中に入ってくるということを知っておかないといけない。
 これは先ほど局長がおっしゃられたDe.Se.CoとかAHELOという新しい高等教育のラーニング・アウトカムのチェックの問題に、その部分が入ってきます。ですから、知識を持っていても、それを人に伝える、わからせる力が必要。しかも、巻き込んで、相手にそう思わせてしまう力もナレッジに入る。そういうのを持っているやつはすごい得するという時代ですから、そういう教育をしておく必要があるのです。先生方の意識の上で、考え方の中で、そういうものを持ってないといけないと思います。そうすれば、将来、あの先生に言われたことは、こういうことかなと子供たちが思ってくれれば最高ですよね。
 そのようなことを示しているのが学習指導要領の変遷、つまり生きる力とか、学力観の変遷です。学力というのは、我々の世代を含めて、先生方のほとんどがそうだと思いますが、いわゆる構造主義というやつで、とにかくわかっても、わからなくてもいいから、覚えろと。計算訓練しろと。理屈なんかどうでもいいという、こういう形で学力はつくと教わって、それを実行してきたわけです。今はそれでは身につかないと考えられているわけです。本人が納得する、必要だとほんとうに思う、そう思えば効果が全然違うんだということが、いろんなことで実証されてきたのです。
 これは例のアメリカのフリースクールの実験ですけれども、本気になってやる気になったら、6年間の教育のカリキュラムを2カ月ぐらいで覚えてしまったという例が出たのです。それは、その子がやろうと思うと、そういう結果が出てくるのです。教えたわけでもなくて。もちろん能力の問題はありますけれども、能力が多少違っても、6年間を2カ月で教えられませんよ。だけど、本人がやる気になっていたらできたのです。
 そういうので、いろいろと学力についての定義とか、意欲の考え方は、今はどんどん変わってきているわけです。認知科学という学問がありますが、これはものすごく変わっています。それから、もっと言えば、文科省が10年計画でやっていますけれども、脳科学の研究です。脳みその研究、これで随分考え方が変わってきているのです。
 そういうのを先生方はお調べになられて、ご自身でお考えをお持ちになって、それを現場の指導的立場にいらっしゃるわけですから、伝えていってやる、こういうことがこれからの変革の時代にも大事なポイントの一つになるだろうと思います。
 そういう違ってきたということを意識するために、具体的な例をいつも申し上げているのが、PISAテストです。PISAテストというショックは、私たち教育者に、ゲームのルールが変わったという大変なショックを与えたわけです。つまり私たちは、教育はこういうことをやって、こういう力をつければ、それでオーケーだと思っていたわけです。それは、実はゲームのルールでしかなかったのです。ゲームのルールが変わってしまったのです。だから、知識量をふやして、計算力が速くて、記憶力を高める、そういう訓練をすれば教育の仕事は終わりだと思ったら、そうではなくて、それに加えて、それを使って人を説得するとか、納得させるというところまでやらなければいけないという、ゲームのルールの変化なんです。
 それを調べるようなテストが、PISAで初めて示されたわけです。それで、その部分が低いというので、ショックを与えてしまった。必要以上に自信を失ってしまった。必要以上に自信を失ったということは、我々のやってきたことは、そんなに間違ったことではなかった。そんなに学力低下もしてないのです。ただし、ルールが変わると評価が下がってしまうのはしようがない。ルールなんだから。いつも申し上げるのは、ツー・テン・ジャックというゲームがあるでしょう。あれはクローバーを集めれば点が入るのです。ダイヤだったか、それを集めるとマイナスになるのでしょう。プラスになるというのでクローバーを一生懸命集めていたら、中途で突然ルールが変わって、クローバーを持っているやつはマイナスだと言われたら、これはどうやっていいかわからなくなりますよね。日本の教育界は、それに近いのです。だから、ここのところはゲームのルールが変わったという認識をしっかりと持つ必要があると思います。ですから、やってきたことは間違いでないけど、それだけでは次の世代の人が満足しないということだけは間違いないようです。
 OECDというところが、関係国の認知科学の専門家とか教育の関係者とか脳の研究者というのを何十人か集めて、何年かかけてつくった試験がPISAというテストなんです。「Programme for International Student Assessment」ということです。このPISAという試験は、そういう意味では、よくできています。非常に参考になります。ですから、ルールは変更したけど、ばかにはしないで参考にしていただく必要があるだろと思います。
 実は、これについて話があるんですけど、フランスという国は、フランス革命以降、徹底的な中央集権の国ですから、国民教育省というところが教育の制度、現場の先生の教え方、教科書の使い方まで全部決めて、そのとおりさせているわけです。それが実はPISAのテストは、世界の平均でいうと真ん中ぐらいなんです。真ん中よりちょっと上ぐらいかな。これは当然フランスの教育省はショックを受けていただろうと思っていたのです。1カ月ぐらい前、文科省の国立教育政策研究所がフランスの国民教育省の視学官何人か、何かで来たらしいのですが、ちょうどいいから、それで意見交換をしようと、意見交換をする場があったのです。
 私も暇だったので──いつも暇なんですけれども、おもしろいから出たのです。それで、PISAについてどう考えているか聞きたいので聞いてみたのです。そしたら、こういう返事でした。そのままお伝えすると、フランスはPISAなんか相手にしてないと。ただ、PISAは、確かにカナダとかフィンランドという、ああいう教育システムをとっているところは点が高かった。それは知っている。それから、アメリカがフランスよりもちょっと低いのです。それからイギリスがフランスよりもちょっと高いのです。ドイツは、そういった一連のECの国の中では真ん中の下で、一番低いのです。ドイツという国は、それをすごく気にして、教育制度まで変えて対応しようとしていると。こういう解説をした後で、フランスは気にしてないというんですけど、気にしてないなら、そんなこと知らないはずなんだけど、知っているということは気にしているんですよね。おもしろいなと思ったんですけど、だから対応をやるのでしょう。
 実は、このPISAの考え方は高等教育にも使われます。先ほど局長先生がご説明になった、いわゆるAHELOとかDe.Se.Coと言われるテストが既につくられて、ラーニング・アウトカムと言いますけど、大学で学んだ結果を国際的に比較して、その大学で行われている教育の優劣を評価できるかどうかという試験を今始めているんです。
 この間、東京大学の先生に聞いたんですけど、De.Se.Coという試験が、東大とハーバードの学生を比較するために行われました。あまり、これは言わないのです。あまりよくないから言わないのではないかと思うんだけど、どうなのかと思ってしつこく聞いてみたら、結果はわかってきたのです。De.Se.Coというのは、実は6つのカテゴリーで試験をするのです。最初は、うんとものを知っているかとか、正確に理解できているかとか、使い方を知っているかとか、こういうことのテストです。後半のほうのカテゴリーになると、持った知識を使ってものが考えられるか、創造的に活用できるか、あるいは人を説得できるかというような、こういう能力を試す6つのカテゴリーのテストなんです。
 結果は想像どおりです。上のほうの部分は、東大の学生のほうがハーバードより上なんです。ものを知っているとか、正確さとか、計算力の速さはずっと上なんです。ところが、下のほうに行くと、ハーバードに全然かなわないのです。それがいいのかどうかは、よくわかりませんよね。ノーベル賞をうんと取っているんだから、いいのかなと思うときもあるんだけど、だけど商売したり、つき合ったりするときは、これからの時代は間違いなく損しますよね。
 だから、日本が過剰に自信を失う必要はないけれども、そういう大きな変革があるんだということを現場の先生方が意識しておく必要があると。外部には、日本は日本のやり方があるといって威張っていればいいんですけれども、しかし心の中では、ちょっと変えるところは変えて、きちっと対応しなければいけないというふうに考える必要があるのではないかと私は思って、いつもこういうことを話しております。
 実は、こういう考え方は、今度の学習指導要領の変更の中に幾つも出てきます。ですから、何でかなと思われたら、今の原則を、つまりゲームのルールが変わってしまった。それから、もう一つは、パラダイムの変化と言っていますけれども、伝統文化を大事にするという、この2つを切り口にしてお考えいただくと、今回の改訂の意味をよくご理解いただけるのではないかと思っています。
 最後に、幾つかの問題が具体的なものとして出てきますので、ちょっとその辺のところをお伝えしてみたいと思います。
 1つは、教育の世界に評価が入ってきたということです。レビューが入ってきた。ここには、政策評価、事業評価、実績評価、総合評価という、こういった手順が示されていますけれども、これは教育の世界に入ってきた。これは社会の変化なんです。日本の教育には、今までレビューはなかったのです。つまり、やりっ放しだったのです。文部科学省を初めとして、すべてがやりっ放しだったのです。それでは税金が使えなくなってきたということなんです。
 だから、これは私が言ったのではないですよ、文科省の高官から聞いたんですけど、教員の定数を増やすなら、それが必要であるということを示せるものを、つまり社会的に納得できるものをきちんと政策評価をして、手続をとって、そして世の中の人が納得できるようなものを示せないと予算は増えない。目が輝いているとか、元気いっぱいというのでは、だめなんですよ。目が輝いているというのは、どういう政策評価になるんですかね。それは個人的な印象でしょう。全員が、なるほどなと思うものを、例えば全体の平均が何点上がったとか、くだらない例ですけども、そういうものを示さないと、もう世の中は動いてくれないのです。だから、これからは定数改善の場合は少人数のほうが明らかにいい教育ができるというのを、数字的に世の中が納得するような形で示せるかどうかにかかりますよね。それができないと、もうお金がこないです。そういう時代だと僕は思っているんですけど、間違っていたらごめんなさい。
 どこでもそういうことを要求される時代。というのは、日本社会全体がそういう社会に変わりつつある。なあなあで何となくやっていけたという時代は、もう終わって、国際化、グローバリズムの影響だと思います。言葉が通じない、考え方もわからない人たちが納得するためには、明確な証拠がないと世の中は動かないということです。目はものを言うという社会は終わってしまったのです。だから、やらなければならないということだろうと思います。
 それから、義務教育の構造改革も全くそれから生じてくる。これは、ほんとうに教育格差という非常に危険な現象が起きますから、現場にいる先生方は、ほんとうに配慮していかなければいけません。お願いしたいのは、人のせいにしないことなんです。今、私たちが目指している社会というのは、民主主義社会なんです。民主主義社会と違う社会は何だというのが、京都大学の田中美知太郎先生がよく定義しているんですけど、民主主義社会というのは、何かやろうという人が集まった社会が民主主義社会。何かしてもらおうという人が集まった社会が、奴隷社会なんだそうです。
 ですから、私たちの社会は民主主義社会なんですから、何ができるかをみんなが考えるということですよね。だから、教育を全体でやろうというのは、そこから来るわけです。自分たちもやるよ、そのかわり周りもやってよと。自分たちがやらないから、やってちょうだいというのでは、これは動かない。民主主義社会ですからね。民主主義社会の成員をつくり出すというのが、実は近代国家での教育の目標ですよね。ジャンジャック・ルソーが言った、教育することによって人間が考える力を持つ理由は、民主主義社会の一員として活躍できるという、そういう意味でジャンジャック・ルソーは定義したんだろうと思うんですけど、それは全く変わらない、今でも不変の真理ですから、もう一回考え直して、子供を育てるとき、教育の場にある先生方は特に、これは21世紀、これからも社会はますますそういう社会になると思います。何かしてもらおうというのではなくて、自分が何ができるかを考える人を、とにかくつくり出す。
 日常的に頑張っておられる先生方に、そんなことを言うのも気が引けるんですけれども、私の考えを言えということですから、申し上げさせていただいております。
 それから、もう一つ、特徴として言えるのは、教育の地方分権です。典型的なのは、構造改革特別区域研究開発学校設置事業802号というもので、既にこれは小学校で英語を教えるということをテーマにして、全国的に何百という小学校が学習指導要領違反をやっているわけです。それは特区開発という名前で、それをやる。これはまさに地方分権、教育改革をしようという場合は、社会の要求に対して流動的に対応しよう。それは子供が要求し、家庭が要求している、タックスペイヤアが求めているなら、そうしようというのは、今の行政の考え方ですよね。そうでなければいけないのだろうと思っています。ですから、そういうことを国は始めています。
 特区研開と言っていますけれども、特区研開にかかわらず、構造改革特区を巻き込んで、地域再生とか、中心市街地活性化とか、都市再生という、そういう4種類の法律を統合して、地域活性化統合本部をつくって、そして地域活性化法という法律をつくって、具体的に動き出しています。
 ですから、国が決めたことを全国一斉にやるということによる弊害をなるべく起こさないようにしようと。それができるような法的な整備をしようというので、国はそれをやっていますよね。ご存じの方はたくさんいらっしゃると思いますけど。現場は、もちろんそうなっているということを意識して行動すべきです。国が決まっているんだから、もうできないとお考えにならないことですよね。必要だったら、それを言える、そして工夫するという、そういう時代に入っているということだと思っています。これは怒られてしまうかもしれませんけど、私の考えですから、そういうことであります。ですから、政府一体となった地域活性化というのは、そういう意味だとご理解いただければと思います。
 最後に入る前に一つ言います。それは、これからの教育でキーワードが幾つもあるんですけど、一つ非常に重要なことは、ESDです。持続可能性という問題です。すべての教育、人間の活動のすべてが持続可能かどうかという観点で判断するという時代が始まっているんです。ですから、国際会議が開かれます。世界中でいろいろなところで開かれていますが、いろんなテーマで開かれる国際会議、すべて例外なしに持続可能かどうかというキーワードが必ず入っています。
 教育という現場では、そういうことを伝える最先端であり、一番大事な言葉だということを子供たちに伝えていく役割があるということを、ぜひ認識していただきたい。今度、学習指導要領には、長年のお願いがかないまして、「持続可能」という言葉が入っています。文章になっています、言葉に入っていますから、ぜひ研究開発をやって、学習指導要領に書いてあると研究開発ができますから、ぜひやっていただいて、それを広げていっていただきたい。これは、今回の学習指導要領の改革の大きな前進だと思っています。
 それから、もう一つ、今進んでいるのは就学前教育です。世界中の国が近代化を目指して教育をしなければいけないというので始めたのが、大体5歳から6歳の年代で義務教育という制度をやって、近代化を目指したわけです。ところが、先進国が中心ですが、世界中で社会が変わってしまったのです。そのために、子育てが5歳から6歳では済まなくなってしまったのです。イギリスは、そのために義務教育年限を1年早めました。フランスは、エコル・マテルネルという子供学校というのをつくって、ゼロ歳からやろうというので始めています。でも、この運動は、スタートは北欧です。北欧では、そういう運動が着実に進んできています。
 私たちの国も、やっぱり子供のうちからやらないとまずいということは、気がつき出したのです。これはアメリカで研究がありまして、3歳のときにきちんとした幼児教育をするグループと、それから全然しないグループと分けて、それを1年間やって、その後は同じにして20年かけて結果を調べたのです。そしたら、きちっとした3歳児の教育をしたグループは、犯罪者が圧倒的に少ないんだそうです。犯罪者が多発すると、捕まえるためにおまわりさんを雇わなければならないし、税金を使うんです。そうすると、そのほうがはるかに金がかかるということがわかって、アメリカも3歳児教育をしっかりやろうというふうに社会が変わったのです。
 今までは、これは実は家庭でやっていたのです。だから、やる必要がなかった。だけど、できなくなった。就学前教育は、これから10年間の間に確実に起きてくる大きな変化だと思います。だから、就学前教育を受けて小学校があるんだから、そういう意識を持つ必要があるだろうと思います。
 それから、もう一つ、アドバンスト・プレイスメントの問題があります。これは韓国が今悩んでいるんですけども、優秀な高校生がみんなアメリカの大学に引っ張られていっているんです。これは、国として大きな問題になりかけています。アメリカは、そういう政策を持っていまして、もともと移民の国ですから、優秀なやつを世界中から集めるという作戦で、奨学金をくっつけて優秀なやつを世界中から集め出しているんです。日本は幸いかどうか英語ができませんから、なかなか対象にならなかったんですけど、でも最近、高校生ができるようになってきたんです。だから、危ないのです。これは近々起きると思います。ですから、高等教育をよっぽどしっかり日本でやらないと、ほんとうにノーベル賞が出なくなってしまうと思います。
 それから、最後に申し上げます。教育委員会の役割です。これが、これからすごく大事です。私は、教育委員会は、どんなことがあっても残さなければいけないと思っている人間の一人なんです。それは、現状の教育委員会がいいから、そう言っているのではないのです。ちっともいいとも思ってないのです。だけど、教育委員会というのは、日本の社会が民主主義社会になるためのシンボルなんです。歴史経緯を調べていくと、あれを導入して、日本は本格的に民主主義社会というものにスタートしたのです。だけど、現状は民主主義的な社会の一つの役割として十分に機能しているかというと、私は非常に疑問に感じます。教育委員会は人事の決裁しかやっていない。実際、何もやってない。私が言っているのではないですよ。教育委員会の人から聞いたのです。何人もの人に聞いて、みんな同じ疑問を持っているのです。
 だから、なったときは、レーマンコントロールですから、教育に素人だけど、何か教育界で発言できると思って、喜び勇んでなるのです。実際は、全部お役人がおぜん立てして、それに判こを押すだけと。そうすると、大体2年任期が多いですから、2年たつと嫌になって、優秀な人ほどやめてしまうのです。こんなことを続けていたら、ほんとうに日本はおかしくなるだろうと思います。だから、本気になって教育委員会は民主的な活動ができる、レーマンコントロールの意味をよく反映できるような組織として生かしていきたい、生かしてもらいたいと個人的には思っています。これは、現場の先生方の意識が大事なのです。つまり、教育委員を突き上げることです。教育委員会の名前、皆さん知っていますよね。実は、私はつい最近まで知らなくて、ある地域で恥をかいたことがあったんですけど、それではだめなんですね。それは、ものすごく大事なことだと思っております。
 ちょっとまとまらないお話になったかもしれませんが、あと必要と思われる資料を幾つかつけてありますので、ごらんいただければと思っています。
 最後に、今回のそういう意味での教育改革の流れは、教育振興基本計画という形になって実って、それが毎年チェックされて実行されていくことで教育の内容がよくなっていくという、こういう仕組みがつくられましたから、これこそが教育委員会の役割ではないかと思ったのです。それをぜひ支えていただいて、教育がよくなるようなきっかけに、ぜひしていただきたいと思って、ご説明を終わらせていただきます。
 まとまらないお話で、静かに聞いていただいて、ありがとうございました。生徒の気持ちがわかったのではないかという気がします。ありがとうございます。(拍手)

○司会(寺門)

 ありがとうございました。
 それでは、これよりご講演並びに行政説明に対する質疑応答の時間とさせていただきたいと思います。
 本日、ご質問にお答えをさせていただきますのは、今ほどご講演をいただきました田村先生、また教育振興基本計画の概要を説明させていただきました清水生涯学習政策局長、並びに初等中等教育局から初等中等教育企画課制度教育改革室の佐藤室長、また高等教育局からは専門教育課の教員養成企画室長の堀室長に対応させていただきます。
 本日は、できるだけ数多くの方にご発言をいただきますように、発言は簡潔に、また本日の講演、説明内容に関するご質問、ご意見等をお願いしたいと存じます。
 ご意見等ございます方、挙手を願いまして、担当がマイクをお持ちいたしますので、よろしくお願いいたします。
 では、後ろの挙手をなさっている男性の方、お願いいたします。

○参加者

 栃木県のほうからまいりました。関東地区は東京なものですから、那須のふもとにおりますので、こちらのほうが近いということで、本日こちらのほうにお邪魔させていただきました。
 今、先生からお話がありました持続可能性というので、きょう私は非常にショックを受けまして、40代の先生が、ちょうど今、定期異動の時期ですから、異動に関する調書を持ってきたのですが、相談をしながら次年度への希望などを話し合ったのですが、「退職をしたい」と。「疲れました、学校へ来ても意欲がわきません。子供たちに大変迷惑をかけてしまう、同僚にも迷惑をかけてしまう」ということで、きょう、私は非常にショックを受けまして、どうしようかな、これはまだ行けるかなと思って来たんですが、人格の完成を目指す教育理念を達成するための基盤をなすものは、やはり学校教育にあると私は考えます。現在、多方性を持った教育が展開されておりますが、もちろん保護者、地域、広くは社会全体の教育力を無視するわけではありません。むしろ、健全な育成には必須の条件であると思います。
 現在、教育現場では教員は多忙感から疲弊感を強く感じていると思います。これは私の考えです。それは再び社会は教員にゼネラリストであることを求めていることではないかと感じております。
 先生方の勤務は、まず教科指導、活用、研究、高い学力が求められております。道徳教育、規範意識の醸成、キャリア教育、体験学習、普通学級における支援教育、そのほか生徒指導、地域によっては部活動、シーズン中はほとんど休めないような状況が続いております。
 今回の資料の中にも、基本的方針2の中に、教職員定数のあり方について検討する。あとは、教育振興基本計画のQ&Aが出ておりますが、その中でも一人一人の子供に教員が十分向き合うことができる環境をつくる教員配置の適正化、これを進めていくということで書いてありますが、私も文科省のいろいろなこういったセミナーには参加をしておりますが、文科省が非常に努力していることも理解できます。予算獲得に大変苦労されていることも理解できます。できれば、この教員の適正配置や、一人一人の子供に教員が十分向き合うことのできる環境づくり、この文字が大きく前面に出てくるような努力を、ぜひこれからも続けていただきたいと思います。よろしくお願いします。

○司会(寺門)

 ありがとうございました。貴重なご意見として承らせていただきたいと存じます。
 ほかにいらっしゃいませんでしょうか。──では、お願いいたします。

○参加者

 郡山市の者です。本日は、田村先生、そして清水先生にご講義をいただきまして、ほんとうにありがとうございました。
 その中で、清水先生のほうから、教育振興基本計画の全容につきましてご説明をいただいたわけですが、その基本の方向性の1番目として、学校支援地域本部事業につきまして、文科省のほうの重点施策の一つとして教育振興基本計画の中にも位置づけられているわけですが、教員の子供たちと向き合う時間の確保、そしてまた、地域の教育力の向上という観点からも、非常に有効な施策と私たちのほうでも考えまして、本市でも来年度からの実施に向けまして、その準備を進めているところではあるんですが、その中で必ず出てくるのが、財政との折衝の中で、委託事業として3年間という期限があるわけですが、こうした教育振興基本計画の中に位置づけられているものが、国のほうで3年間の中で打ち切りという形になったときに、各地方で実施していく上で、国のほうの財政的なものが切られたときに、どうするんだということが必ず出てきます。そういう中で、きょう、今後の方向性などにつきまして、ご享受いただければ大変ありがたいと思います。それが、まず第1点でございます。
 もう一点が、田村先生のほうからは、小学校の英語の必要性につきましてお話をいただいたわけですが、本市では英語教育特区ということで、平成17年度から、小学校が56校あるわけですが、すべての学校で小学校1年生から6年生まで英語表現科という教科にしまして、英語活動を展開してきたわけですが、今回の学習指導要領の提示によりまして、5年生と6年生については外国語活動ということで位置づけられていると。そうしますと、本市では平成17年度からの、わずかではありますが、英語教育をやってきた財産がありますので、来年度の移行措置からも、1年生から4年生も英語表現科という教科をこれからも継続していきたい。そして、5年生、6年生については、やはり英語表現科という教科の中で、文科省のほうから提示されている英語ノートなども活用し、または本市で独自に作成したイーブックという教科書があるわけですが、それも併用しながらやっていきたいという考えを持っております。
 そういう中で、文科省のほうに、今、英語教育特区というのはないと。内閣府での特区は終了したと。これからは、改めて文科省のほうに再申請をして、学習指導要領によらない教育課程を組むことができるという説明があって、再申請をする準備を進めているわけですが、これまでやってきたことが生かされるような申請、そしてそれを認めていただくということでの確認をいただければありがたいと思っております。よろしくお願いいたします。

○清水生涯学習政策局長

 最初、私ども教職員定数のことについて、これは初等中等教育のみならず、省全体としても教員と向き合う時間をつくるというのは重要課題であります。そういう意味での実現に向けて、私の担当局ではありませんけれども、とにかく省全体としての重要課題ということで、私どもとしても頑張りたいと、こういうことでございます。
 それから、今お尋ねがございました学校支援地域本部事業でございますが、これは時々モデル事業ということで言われたりもするのですが、純粋に学校支援地域本部事業、それ自体というのは、例えば、いい意味でのそれぞれの取り組みというのを全国的に参考にしながら、その成果を見ながら、それを全国的に展開していく、そういう意味でのモデル事業とは違うものだと思っております。私どもの目標としては、今、中学校区、全部で1万ですか、全市町村1万地域本部というものを早い機会に実現したいと思っております。
 そういう意味で、委託事業という中で、通常、予算上のルールとしては3年間の委託という議論はあります。今、実はそのあたりのあり方をめぐって、財務省といろいろな議論をしているというのは事実でありますけれども、3年間で打ち切ることは全く考えていないということだけは申し上げさせていただければと思っております。
 それから、実務的な話を、今の特区の関係につきまして、佐藤のほうから説明させていただきます。

○佐藤(初等中等教育局初等中等教育企画課)

 ご質問ありがとうございます。まさに先進的に今回の指導要領の改善以前に、そういうお取り組みをしていただいていた。大変これはありがたいところでございまして、今お話の中にありましたように、従来、内閣府のほうに構造改革特区のご申請を出していただいて、そのご申請が通った、言ってみれば、例えばこちらであれば、郡山市の特区計画の中で内閣府が認定したものを実施している。認定するに当たって、内閣府と文科省が協議をするという制度設計だったものが、特にこの4月以降、言ってみれば特区が全国化されるという形で、文科省に直接ご申請をいただいて、文科省の、これは学校教育法の施行規則という省令がございますけれども、この省令の特例規定によって直接ご申請をいただき、各地域のニーズに応じて、さまざまな取り組みができるような申請ができるようになりました。
 ですから、今のようなお取り組みを既にご実績として、特に小学校1年生、2年生においてやってくださっているのであれば、ぜひそういったものが今後も活用できるように、我々のほうでも、そういった実績を踏まえて、できる限り、一応ご申請いただくことにはなってございますけれども、当然これまでのご実績というものを見させていただいた上での評価になりますので、そういったものは前向きに検討させていただくことになるだろうと思います。ただ、手続がちょっと変わってしまったということは、言ってみれば、これまでのさまざまなそういう特区上の取り組みを、できるだけいろいろな形でいろいろな自治体にやっていただきたいということから、こういう手続の変更になったとご理解いただいて、できるだけ、そういうお取り組みにチャレンジしていただければと思います。

○司会(寺門)

 ありがとうございました。

○田村哲夫氏

 今のご説明で十分ご理解されたと思いますが、私が聞いた範囲では、ほかのところからも聞いたんですが、要するに総理大臣がオーケーというのではなくて、文科大臣がオーケーというんだから、随分変わったと、こういうふうに言っておられました。だから、今までの特区は気が重かったんですけど、今度は文科大臣がいいと言えばいいんだと、こういうふうに変わったので、随分変わったようです。そんなことを、ほかから聞いたことがあります。

○司会(寺門)

 ほかにいかがでございますでしょうか。──では、お願いいたします。

○参加者

 宮城県から来た者です。2つ質問したいのですが、1つは、「今後10年間を通じて目指すべき教育の姿」という中で、「義務教育修了までに、すべての子どもに、自立して社会で生きていく」という言葉が入っています。この中身について、ちょっとだけわからないことがあるのは、後期中等教育をどう位置づけているかという問題が一つあるんだろうと思います。
 高校教育がかなり大きく問題化されているんですが、この中で言っている義務教育修了までにすべての子供に自立して社会で生きていくとなれば、例えば15歳では運転免許証は取れません。どういう意味なのか、どこまでが自立なのか、そこをちょっと明確に説明していただきたいと思いました。
 2つ目は、国際人権規約の第13条の(b)項、(c)項が、日本では留保されているわけですが、批准されていないわけで、その中で、特に後期中等教育の無償化の問題があるような気がしているわけです。それから、高等教育の無償化の問題。このことについて、文科省はどうお考えなのか、そこをお聞かせ願えればいいなと思っております。
 以上です。

○清水生涯学習政策局長

 最初の教育振興基本計画のお尋ねでありますけれども、パンフレットでもご覧いただけますし、また本文の部分で、例えば教育振興基本計画の本体もお手元の資料にあると思います。ここで申し上げている、「義務教育修了までに、すべての子どもに、自立して社会で生きていく基礎を育てます」ということで、そこの中では、自立して社会で生き、個人として豊かな人生を送ることができるよう、その基礎となる力を育てるということになるわけです。
 基礎となる力というのは、要は、ここのところが教育基本法で義務教育という義務として、まさに義務を課していることとして書こうとして、あるいは学校教育の中で何をすべきなのか、どこまでを負うべきなのかということについて、義務教育というのを一つの明確な修了まで、それは中身としては、例えば指導要領等、さまざまな指導要領で示されている部分があるわけでありますけれども、義務教育という部分を一つの明確な学校制度のラインとして、もう一度はっきり義務までにしなければならないことというのを、一言で言えば明確にしていこうと、こういうことになるわけです。具体的なことについて言えば、例えば指導要領の中で、そこのところは示されるわけであります。
 それから、当然のことながら、後期中等教育、あるいは人権規約との関係でありますが、私どもとして、政府として、後期中等教育の無償化、あるいは高等教育の無償化ということについては、そういう考え方はとっていないということであります。
 詳しくは、また佐藤さん、お願いします。

○佐藤(初等中等教育局初等中等教育企画課)

 今のご質問の後半の後期中等教育の位置づけについて、できるだけご負担を軽くする、教育費負担という問題からどうするかという議論は、これは人権規約の問題とともにあるわけでございますけれども、そういった観点から、我々としても無償化という人権規約の規定もさることながら、まず高校にお子さんを抱えていらっしゃるご家庭の家庭負担、保護者負担をいかに軽減していくかという視点は大変重要だろうと思ってございまして、多分、皆さん方ご承知だと思いますけど、各県において、今、奨学金事業をかなり充実してやってくださっておりますし、あと、そういったものに対して、もともとは日本学生支援機構のほうからの移管事業として、奨学金事業を各県にご委託をして、10年程度、交付金としてお渡しをするという形で、今、事業をやっているわけでございますけれども、そういった点も含めて、少しご家庭のご負担を、できるだけ我々、これは必ずしも高等教育だけではございません。先ほど来、出ております就学前教育の保護者負担も、特に高校世代の親御さんよりは若い親御さんのほうがご負担が非常に重いだろうということもあって、幼児教育や就学前教育のご家庭のご負担も、あわせてこれも軽減していく必要があるだろうというご意見も、また一方ではあります。
 ですから、できるだけご家庭の中での教育費負担を軽くしていくということは、我々としても財政の問題がいろいろございますけれども、考えておりますが、そういった課題は我々としても受けとめておりますので、また引き続き考えてまいりたいと思います。

○司会(寺門)

 ありがとうございました。続けて、いかがでございますでしょうか。──では、よろしくお願いいたします。

○参加者

 双葉町教育委員会の者です。
 きょうは、「今後10年間を通じて目指すべき教育の姿」ということで、2つあるわけですが、今の義務教育修了までにということと、それから社会を支える。これは学校教育、それから生涯学習という観点かなと思うんですが、それについて、今、町のほうでは作成中なんですが、生涯学習に向けて、つまり町で言えば、町民がどんな姿が望ましいのか。それに向けての学校教育の子供たちの姿、これを考えているわけですけれども、こんなふうに考えていくと、生涯学習に取り込まれた、その一部の学校教育、児童生徒の姿を考えていけばいいのか。そんなふうに、どういうふうに接続というか、国の教育振興基本計画を参酌するということですから、どんなふうに考えていけばいいのか、少しその辺をご説明お願いしたいと思います。
 我々、今現場でどんなふうに教育振興基本計画を借りて、そして租借してやっていくのか、ちょっと悩んでいる町村の教育委員会がありますので、よろしくお願いいたします。

○清水生涯学習政策局長

 10年間の姿ということで、義務教育修了までに子供にという部分なんです。まさにそこで、おっしゃるように、社会全体で子供を育てようという中に、例えば私どもがやっている学校支援地域本部というのがあるのですが、実は私ども、ある意味で、例えば学校支援地域本部事業なり、いろいろな地域の方々のお力をお借りしながら、学校の活動、あるいは学校の家庭外の活動をサポートしていただく。それが、ある意味でいえば、そこをきずなとして地域が、ということなんですけど、もう一つ、生涯学習という観点で、依然として残っているのは大人なんです。生涯学習は大人なんです。例えば、昨日は公民館のさまざまな全国の大会があって、私も行ってきたわけですが、そのときに私が申し上げたことは、例えば地域の社会の未来は子供である、それは正しい。でもあるけれども、子供の居場所づくり、例えば子供の居場所を支えるのは大人だよね。大人の居場所こそが、今一番地域の課題であると。
 ある意味で、生涯学習という観点からいえば、まさに幼児から含めて、すべての生涯の各段階にわたって、こちらが基本的な理念ではありますけれども、例えば今まで公民館の活動の中で、あるいは婦人会の活動の中で、さまざまな活動の機能としての、例えば図書館活動の中で、あるいはいろいろな学習活動、むしろ今は、いわゆる従来の社会教育とか、そういうのを超えて、地域づくりのために、みんなどんなことができるか、そういうことをやっていこうとか、どんどん広がっている。
 そういう意味でいえば、広く概念としては、もちろん含むんですけれども、あくまでも10年を目指すべき姿というのは、教育がやる姿として、何がほんとうに10年間の中で淘汰して、大きく絞って、前面に示すとしたら何だろうねというご議論の中で、2つに絞ろうと。まず、教育が果たすべき学校教育の姿、育てるべき、いわば学校教育で果たさなければならないもの、はっきりとしたイメージで示したいと。これはむしろ田村先生のほうからあるかもしれませんが、そういう目指すべき姿をとにかく示そうとしたということで、そういうことで生涯学習の領域、あるいは役割というものを、また別な形で、学校とのかかわりを超えて、さらに大きなものがあるということではないかと思いますけど、今おっしゃった意味を取り違えているかもしれませんけれども、何か田村先生ありましたら。

○田村哲夫氏

 私的には、これから日本の教育が取り組まなければならない順番は、やっぱり就学前教育だと思っているのです。つまり、0歳から5歳をどうするか。これは実はその後の大きな問題に全部つながっているという考え方で、イギリスの場合は、ブレアがそれをはっきり目標を立てて、そのための対策を具体的にどんどんつくって、お金を投入して、徹底的な就学前教育をやっています。
 その最初は、まず1年義務化を始めたというところから始まって、その前のナースリーの段階、0歳からの保育をどう扱うかというところから、OECDの諸国も大体そこがすごく重要だということを最近は言っているのです。僕もそうだろうと思うんです。
 ですから、もちろん先ほどご質問があったように、後期中等教育は非常に重要なんですけれども、順番からいうと、とにかくそこをまずやっておく必要があるだろうと。そこは、実はOECDの教育費の比較を見ても、日本はほとんど金をかけてないのです。みんな家庭に頼んでいるのです。それで済んでいたんだけど、家庭が変わってきたから、結局割を食っているのは子供という状態が起きているんです。だから、まずそこをしっかりやると、随分変わるのではないかと思います。
 だから、何となく子育ての不安があるんですよね。それも仕事を持っている人が不安を持っているというよりは、子育て専門にしている人が、子育てについて、すごい不安を持っているのです。就学前教育はそういうことを意識して、僕は早急に手当しなければいけないのではないかと考えています。
 後期中等教育は、それができた後でしょうね。義務教育という区切りをしたのは、おそらくそういう考え方だと思います。そこを、まずしっかりやろうと。ただ、あとは先ほどちょっと触れましたが、格差が起きないように、それは考えてやらなければいけないのですけど、今のような考え方だけでいくと、放っておくと格差が起きる可能性がありますから、そこはしっかり手当する。
 まず第一に、就学前教育と考えるのが順番ではないかと私は思っているんですけど、ご批判があれば、ぜひお聞かせいただきたいと思います。ありがとうございました。

○司会(寺門)

 それでは、よろしゅうございますでしょうか。予定しておりました時刻を若干超過しましたので。──最後にお一人、申しわけございません。失礼いたしました。お願いいたします。

○参加者

 桂村教育委員会の者ですが、最後に教育委員会に関しては、あまり触れてなかったものですから、教育委員会の機能強化というと、教育委員会というのは、今お話があった生涯教育も含めて幅広く議論されるべきだと思うんですが、その辺のことをもう少し田村先生のほうからお伺いしたいんですが、お願いします。

○田村哲夫氏

 後で、文部科学省の人からきちっと間違いがないように言っていただきますけども、私は教育委員会が頑張らなければいけない時代だと思っているんです。つまり、日本の民主化というのは、私なりに言うと完成してないのです。ですから、民主化を完成するために、ほんとうに教育委員会が頑張ってほしいというのは、これは抽象的な話です。
 そのためには、具体的に何があるかというと、現状のやり方では教育費がほとんど使われていない。関係している教育庁のお役人の言い方、うまく聞いていただきたいんですけど、隠れみのになっている危険があるのです。ですから、実質的にやらせるという、そのことが必要だと。
 レーマンコントロールを効果的に生かすために、手段ができてきました。つまり、教育振興基本計画がそれです。教育振興基本計画を教育委員会がおつくりになって、それの評価、実施状況等をきちっとチェックすると。あと、日常のことは教育委員がやることはできませんから、今やるということになっていますけれども、あれは僕はできないのをやらされているのではないかという感じがしてしようがないんです。いろいろな人に聞けば聞くほど、みんなそういうお返事をなさいますから、だから教育振興基本計画に限って、そのかわり、それはきちっとやって、それができなければ責任をとってもらうというぐらいにやらないと、今現状の教育委員会で最大の問題は、責任の所在がはっきりしないのです。何が起きても、何となくうやむやで、だれも影響を受けないで、独立しているということで、みんな遠慮して口を出さない、手を出さないで、何となく終わっているという。ほんとうにどうしようもない問題になると、新聞が騒ぎだすから、そこで初めて動くみたいな、実にぐあいの悪い状況があるので、何とかこれを活性化したい。それは日本の民主主義につながるのです。
 教育というのは、そこなんです。民主主義というのは、要するに自分の責任で自分のやれることを社会のために尽くすという、そういう考えを持つ人間を育てる、こういうことです。人にしてもらうのではなくて、頼るのではなくて。それをやるのが、レーマンコントロールの教育委員が活動すること以外にないのではないかという気がしているんですけどね。
 あとは、文部科学省の方からお話をいただきます。どなたですかね。すみません、勝手なこと言ってます。

○佐藤(初等中等教育局初等中等教育企画課)

 今の田村先生のお話に尽きるところがありますし、あと、本日お配りいただいた大分県の汚職事件についての読売新聞のコメントからも、教育委員会の今抱えている課題が浮き彫りになっているかなと思います。
 特に、大分県の今回の問題を見ても、やはり閉鎖性であるとか、例えば教員採用等の人事行政に関するいろいろなプロセスにおいて、これはどういう形で教育委員の方がきちんとコミットをしていたのかということや、点検に当たってのチェック体制はどうだったのかという点も大変課題になっているところでございます。
 ただ、今回の問題に限らず、レーマンコントロールの観点から、教育委員の人選の過程で、必ずしも教育の分野だけではなくて、例えば、最近ではNPOの活動をされている方や今まで全く教育とは関係なかったような方々に入っていただくケース、それから教育委員会の運営の仕方という点でも、情報公開を十分に行っていただくほか、教育委員の方による学校訪問というのもしていただくと、大分アプローチの仕方も変わってくるのではないかと思います。
 要するに、教育委員の方が直接現場を知る機会がなかなかないがゆえに、教育委員会の事務局から間接的に話を聞くということだけでは、情報が一方通行になったり、自分自身の価値判断がなかなかしにくいということがよく言われます。ですから、学校現場に、直接、教育委員の方がお邪魔して、直接、先生からお話を聞く、保護者から意見を聞く、地域の人から意見を聞くことによって活性化をしている地域もございます。
 今の制度の中でも、いろいろな工夫ができると思います。ただ、その一方、教育委員会の活動をどう評価・検証していくのかということは、いろいろな観点から言われておりますので、我々もどういった改善の余地があるのかということは、いろいろな教育委員会の取り組みをお聞きしながら検証作業をしっかりやっていきたいと思います。いろいろな取り組みの中で非常にうまくいっているケース、例えば今の学校訪問のケースや情報公開、人選などについては、我々として、できるだけ皆様方に、いろいろな県のお取り組み、いろいろな市町村のお取り組みを情報発信していければと思っておりますので、ご期待いただければと思います。よろしくお願いします。

○司会(寺門)

 どうぞ。最後にお願いいたします。

○参加者

 時間が過ぎているところ、大変恐縮です。本日は、ほんとうにありがとうございます。郡山市内で小学校の教員をしております。
 先ほど、田村先生のお話の中に、本日のような貴重なセミナーによります、情報を現場に伝えていくという、その重要性についてお話いただきました。まさに、この情報が流れていく先であります、担任をしており、また子供たちの実は一番最前線にいるのだと考えたときに、この確かな情報を解釈するのは、一人一人の私たち教師にかかっているのかと思いますと、責任感を感じるのと同時に、大変自分の不勉強さを感じると、危機感を感じるところが常でございます。
 そうしたときに、今回の学習指導要領改訂に先立って、先生も委員をされております中央教育審議会の教員養成部会で出された3本の柱の一つに、教職大学院ということがございました。今回、先ほどご説明受けました教育振興基本計画の基本的方向3の中に「大学院教育を抜本的に強化します」という文言がございましたが、先に出された教職大学院ということも含めた抜本的な教科と理解してよろしいのかどうか、勉強する機会ということで求めている一人として教えていただければ幸いです。すみません、よろしくお願いいたします。

○堀(高等教育局専門教育課)

 お答えいたします。今のご質問ありました高等教育における大学院の位置づけ、これは今後ますます重要になってきておりまして、研究活動のみならず、教育の部分でも非常に増していく。その中で、ご指摘ありました教職大学院でございます。ことしから新たに始まった制度でございまして、全国19の大学で、もう既に4月から始まってございます。
 こちらに来る学生としましては、現職の先生、これが一つの大きな柱でございます。教職経験15年、20年ある現職の先生が、大学院で学び直したいというニーズにおこたえする大学院教育でございます。
 もともと、どうして新しい制度をつくったのかといいますと、現場の学校の先生方の中で、いわゆる実践的な部分でございます教科指導でございますとか、理科の実験のやり方がなかなかできずにいる、あるいは生徒指導の部分とか、あるいは教科指導等の部分で、実践性が不足しているのではないかといった問題意識等々がございまして、新たな大学院の中の教職大学院というシステム、具体的に例えば大学院と申しますと、研究室にこもって2年間やれば修士を得られるといったイメージがあるかと思いますけれども、この教職大学院は、かなり研修の分でございまして、公立学校のほうで実際に研究テーマを持って研修して、例えば授業支援をするといったところでございますとか、あるいは、今、大学の先生は一般に教授とイメージしますけれども、かなり現職の先生、校長経験者でありますとか、指導主事の経験者が教員として大学に入って教鞭をとっております。教員の実践性を高める,指導力を高めるといった観点からの教職大学院は、今後ますます先生の実践力の付与といった面から活用していただければと思っております。
 本県、福島県にはまだ教職大学院はないわけでございますけれども、他県に行っていただく、あるいは教育委員会の派遣制度も充実していただいて、今後はますます活用していただきたいと思っている部分でございます。
 以上です。

○司会(寺門)

 ありがとうございました。
 それでは、予定した時間を超過しておりますけれども、おかげをもちまして、すべての予定を終了いたしました。これにて教育改革セミナーin郡山を終了いたします。本日はまことにありがとうございました。(拍手)

※セミナー開催にあたってのお願い・事務的な説明については、一部省略しています。

—— 了 ——

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-- 登録:平成21年以前 --