教育改革セミナー in 岡山

1.日時

平成20年10月16日(木曜日)17時30分〜19時30分

2.場所

三光荘
(岡山県岡山市古京町1丁目7−36)

3.出席者

文部科学省大臣官房審議官 寺西 達弥
中央教育審議会委員 山本 恒夫

4.議事録

○司会(白井)

 教育改革セミナーin岡山を開催いたします。

 本日は、ご多忙のところ皆様にはご参加をいただきまして、まことにありがとうございます。

 私は、本日の司会を務めさせていただきます文部科学省生涯学習政策局の白井と申します。どうぞよろしくお願いします。

 文部科学省では、国の教育政策の広報・啓発のため、昨年度より全国各地で教育改革セミナーを行っているところでございます。本年度につきましては、この7月に閣議決定をされた教育振興基本計画をテーマにして、全国7会場でセミナーを開催する予定になっておりますが、今年は岡山が第1回目ということになります。

 本日のプログラムについてでございますけれども、おおむね前半の1時間、文部科学省の寺西大臣官房審議官より教育振興基本計画について行政説明をさせていただきまして、その後、質疑応答とさせていただきます。次に講演ですが、中央教育審議会委員でおられる山本恒夫先生から、教育振興基本計画を受けた今後の教育のあり方についてご講演をちょうだいすることになっております。その後、さらに質疑を挟みまして、おおむね19時半ごろに終了という予定になってございます。

 それでは、早速でございますけれども、文部科学省大臣官房審議官であります寺西から、教育振興基本計画の概要等について行政説明を申し上げます。

○寺西大臣官房審議官

 今、司会から話がございましたように、この7月に文部科学省を中心に政府全体として教育振興基本計画を策定いたしました。それを中心に45分間行政の一端をご説明し、ご参考に供したいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 お手元の資料に教育振興基本計画の本文と、それから緑色のパンフレットがあろうかと思います。それを適宜ご参照いただきながらお聞きいただければと思います。

 このスライドでございますけれども、ここにございますように教育振興基本計画というのは、一番下にございますように教育基本法が平成18年に施行され、新しく政府として教育の振興に関する施策について基本的な方針、講ずるべき政策等について基本的な計画を定め、これを国会に報告し公表するということが定められました。これに基づいて政府として初めて策定した教育についての総合計画でございます。

 後でご説明いたしますが、今後10年間を見通しまして、目指すべき教育のあり方、教育の姿を明らかにし、それを踏まえて今後5年間に取り組むべき施策を列挙いたしました。これを計画的、総合的に推進し、最終的には教育立国の実現を目指すと、そういうことになっております。

 なお、地方公共団体におきましては、国の計画を参酌していただいて、地域の実情に応じて計画を策定するようにお努めいただくということになっております。

 この策定の経緯でございますけれども、簡単に申しますと、今から8年前になりますが、総理大臣の私的諮問機関として教育改革国民会議というものが設置されました。その国民会議が教育を変える17の提言を出しました。その中に、教育基本法の見直しと教育振興基本計画の策定ということが盛り込まれておりました。

 これを受けまして、平成13年に中央教育審議会にこれを諮問いたしまして、15年に答申をいただきました。15年の答申では、教育基本法を改正した後に、政府全体として教育振興基本計画を速やかに策定することを期待するということがございまして、先ほど申しましたように18年の12月に教育基本法が施行されました。これを受けまして、昨年2月に文部科学大臣から中央教育審議会に対しまして、この教育振興基本計画について審議をしていただくようにということで要請いたしまして、ことしの4月にご答申をいただき、これを受けまして関係省庁との調整等を踏まえまして、ことしの7月に閣議決定したものでございます。

 この全体の構成は4章立てになっておりまして、第1章が教育をめぐる現状と課題ということで、現状と課題を踏まえまして、教育のあるべき使命、それから教育立国の実現に向けたあるべき姿というものを示した上で、第2章で、先ほど申しましたように今後10年間を通じて目指すべき教育の姿というのをしております。その中に、教育投資の方向についても示しております。これを踏まえまして第3章で、では今後5年間にどういうことに取り組んでいくかということで、基本的考え方、後で申しますけれども、教育をめぐる国、地方公共団体、あるいは民間も含めた横の連携をどうしていくか。それから、縦の接続ということで、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学を含めました全体の縦の接続をどうするか、生涯学習社会の実現をどうするかということが書いてございます。国、地方公共団体それぞれ役割をどうあるべきかということが書いてございます。具体的な施策といたしまして、基本的方向が4つ示されてございます。第4章で、これは今後のこの計画の進め方ということで、実施体制について書いてございます。

 今後10年間を通じて目指すべき教育の姿ということで、この計画が立てたものが2つございまして、1つは子どもたちに義務教育終了までに自立して社会で生きていく基礎を育てるということでございます。そのうちの1つが、公教育の質を高め、その信頼を確立するということでございます。具体的には、世界トップの学力水準を目指すとともに、責任ある社会の一員として自立していくための基礎となるような知性、徳性、体力、バランスのとれた子どもの育て方をする。

 それから、社会全体で子どもを育てるということでございますけれども、教育の出発点でございます家庭の教育、さらにこれを含めた地域全体で子どもをはぐくんでいく地域の教育力を高めていくということがうたわれております。

 2番目の社会を支え発展するとともに、国際社会をリードする人材を育てるというのは、主に高等学校や大学におけます教育の質の保証を行い、あるいはこの教育の質を高める。大学等の高等教育につきまして、知の創造、継承、発展に貢献できる人材を育成すると、こういった観点から国際的な競争力を持つ世界最高水準の教育拠点を重点的に形成すると。大学の国際化といっておりますけれども、国際的な競争力のあるような大学にし、留学生も受け入れていくということでございます。留学生30万人計画というものがございまして、今現状では12万人程度でございますが、これを2020年までに30万人にするということもうたわれております。

 そういったことを踏まえまして、幼児期、さらに義務教育、高等教育の各段階を通じた教育の充実を通じまして、生涯学習社会の実現を目指していくということでございます。そのために、目指すべき教育投資の方向ということで、この教育振興基本計画は規定しておりますのは、まず我が国の教育に対する公的な財政支出、これは他の先進国と比較して低い、決して高くないという指摘がある。我が国は、ご承知のように資源が乏しいわけでございまして、人材が非常に重要な資源の一つであると。教育というのは人材への投資でございまして、これは政策としては最優先の課題の一つであるということで、教育への公財政支出というのは社会の将来の発展のための礎であるということを規定しております。特に、欧米の先進国を上回るような教育投資、教育内容の充実を図っていく必要があるということでございます。

 そういった教育の実現を目指しまして、OECD諸国などの諸外国における公財政支出などの教育投資の状況を参考の一つとしながら、必要な予算について財源を確保していくということが必要であるというふうに書いてございます。

 それでは、諸外国と比較して、我が国の公財政支出が今どうなっているかということでございますが、最新の数字でございます。教育振興基本計画には、若干その前の年の数字が出ております。若干違っておりますけれども、この最新の数字でご説明いたしますと、社会教育費を除く全教育段階におきまして、対GDP比でございますけれども、OECD加盟国の平均が対GDP比で5%でございます。これに対して、我が国は3.4%でございます。ちなみに、アメリカは4.8%、イギリス5.0%というようなことで、欧米先進諸国に比べても我が国のGDP比は低いということが言えると思います。

 下に書いてございますのは、その主な内訳でございますが、就学前教育、幼児教育です。幼児教育では、我が国の教育投資、GDP比0.1%でございます。OECDの加盟国、これ28カ国の平均でございますが、0.3%ですけれども、これに比べて相当低い。欧米先進国と比べても相当低いということが言えると思います。

 初等中等教育段階、これは小学校、中学校、高校でございますけれども、OECDの平均が3.5%、欧米諸国がそれに近いような数字でございます。ドイツが2.8%ということでございますけれども、我が国はそれをも下回って2.6%ということでございます。

 高等教育、大学、大学院、短大等でございますけれども、OECDの平均は1.1%。欧米先進国は大体1%前後でございますが、我が国は0.5%でございます。これは、統計のある28カ国中、最下位でございます。

 子ども1人当たりの教育費の支出でございますが、これは公的支出と私的支出を足したものでございます。全体を足しますと、(1)でございますけれども、1人当たりの教育支出、これは我が国はOECDの平均と比較しまして、これを上回っているところもありますし、遜色ない状況でございます。単位は米ドルでございまして、日本は就学前教育が年間4,174ドル、42万円ぐらい使っているということでございます。

 就学前段階につきましては欧米よりも若干低いのですが、それでもOECDの平均に近い数字が出ているということで、全体として必ずしも低くはないわけでございますが、しかし、下を見ていただきますと、公私負担割合、公の支出と家計が負担している、あるいは私費で負担しているというものを比較したものが下の数字でございまして、就学前教育段階の幼稚園を見ますと、OECDの平均が公財政支出80%を超えております。欧米諸国大体90%超えているところもございますが、至らないところもございますが、我が国は44%ということで私費負担が55%、特に家計負担が40%近くに及んでいる。これは非常に重い負担になっております。

 初等中等教育段階でございますが、これは公財政支出の割合だけ見ますと、OECDの平均と余り変わりません。欧米諸国を見ましても我が国を下回っているところもございますし、上回っているところもある。大体、OECD平均並みに来ているというところでございます。

 高等教育段階でございますが、これは大学、短大、大学院等でございますけれども、見ていただきますとわかりますように公財政支出が非常に低くて、我が国は33.7%。私費負担が大きくなっているわけでございます。OECDの平均は73%でございます。アメリカが34%ということで我が国の数字と近くなっておりますけれども、アメリカの家計を見ていただきますと、我が国は53.4%が家計負担になっておりますが、アメリカは36.1%ということで、その他の私的部門、アメリカ29.2%、これは大学に対する企業の寄附金等がアメリカの場合かなり多いことがございまして、家計負担が相対的にその分低くなっているということで、我が国の家計負担が高等教育ではかなり重くなっているということが言えると思います。

 今後5年間に総合的にどういうふうに取り組んでいくかということで、その基本的考え方でございますけれども、いろいろな施策がございますけれども、この施策を通じまして、それぞれの施策についてPDCA(Plan、Do、Check、Action)そういうサイクルを重視いたしまして、効率で効果的な教育を行っていく。すなわち目標を明確に設定いたしまして、それに基づいて活動し、その活動の成果を検証し、そこで明らかになった課題をフィードバックして新たな取り組みに反映させていくと、こういうサイクルでございます。

 先ほど、申しましたように就学前教育段階、幼稚園から小学校、中学校、高校、大学、大学院と、生涯を通じた学習機会の提供という生涯学習社会を実現していくわけでございますけれども、そういった中で横の連携と申しますか、教育に対する社会全体の連携ということで、国、地方公共団体だけでなくて、学校、地域社会、家庭、企業が一体となって、その学習機会あるいは教育というものを支えていくと、そういう横の連携ともう一つは縦の接続ということでございまして、幼児教育と小学校、小学校と中学校、中学校と高校、高校と大学というふうな連携、縦の接続をしっかりと行う。あるいはまた、学校を卒業した後、学校教育と職業生活との連携、さらにまた、学校を卒業した後、もう一度勉強したい、あるいは途中で中断したものをもう一度再開したい、学び直しでございます、そういったものを含めますと、縦の接続というものは重要になってくるだろうということでございます。そういった中で、国と地方団体がそれぞれ明確な役割を持って、教育を分担していくという体制をとっていくべきだということが書いてございます。

 基本的方向が4つございますが、最初は生涯学習社会全体について書いてございます。昨今、地域におきます教育力が低下してきた、地縁、血縁が薄らいできて、核家族化が進んできて、地域で社会規範を教えていく、あるいは文化とか伝統を教えていくというようなことがだんだん少なくなってきたということで、地域の教育力の低下ということが言われております。

 一方で、家庭の教育力も低下しているというふうなことが指摘されておりまして、今言いましたように、核家族化かとか都市化が進んでいる。子育て支援に悩んでいるお母さんがたくさんおられるわけでございます。

 一方で、生涯学習ということで、だれでもいつでも学習できるような環境の整備が必要だろうということで、例えば中高年齢の皆さんの生きがいだとか、子育てを終わった母親の皆さんの新しい生き方、就職であるとか、新しい生き方に対する手助けであるとか、そういったことでいつでもだれでも学習できるような環境の整備を図っていく必要があるということで、実現すべき目標ということで、身近な場所での子育ての支援、だれもが身近な場所で地域ぐるみの子育て支援、教育支援を受けたり、こういった活動に参加することができる。

 それから、身近な場所での学習機会、学習者が身近な場所でそのニーズに応じた学習機会を得ることができるようにということに取り組んでいく必要があるということが書いてございます。
 今の現状でございますけれども、子どもを育てる上で地域がどういう役割を果たしていくかということで、これは平成18年に文部科学省の委託で始まった実態調査でございますが、社会の皆さんが一体どういうことをお考えになっているかということでございます。

 上から社会のルールを守ることを教え、あるいは自然環境を大切にする、人を思いやる、物を大切にする、歴史文化を重んじる、正しい言葉遣いを教える、ここら辺のことについては、社会が積極的にこういったことにかかわっていくべきだ、あるいはある程度社会としてかかわっていくべきだということについて、9割以上の皆さんが、そういったことに地域社会がかかわっていくべきだということを言われております。

 しかしながら、実際はどうかということでございますが、家の人とか学校の先生以外の大人、地域とかいろいろございますが、そういった人たちから注意されたことがあるか、一番上に書いてある、悪いことをしたときとか、近所の人にしかられたり注意された経験があるというのが2割程度でございます。2割にも至っていません。意外にそういった人たちは、よくされるとか時々されると、そういう人たちは余り多くはないということでございます。

 ただし、近所の人に道で会ったときに声をかけられる、あるいはよいことをしたとき、近所の人に褒められる、ここら辺はよくされる、時々されるを足しますと、近所の人に道で会ったとき声をかけられるは7割以上おられました。よいことをしたとき、近所の人に褒められる、5割近くがある。このあたりを見ますと、まだ地域の教育力、これから開拓していけば、基礎的にはまだあるのかなという感じはいたします。

 これは国の機関が平成17年度に行った青少年の自然体験活動に関する実態調査からお持ちしたものでございますが、大人から褒められたり、しかられたりした経験のある人のその生活習慣とか、その人の持つ道徳観、正義感との関係を調べたものでございまして、上の生活習慣のほうを見ていただきますと、横軸は朝、食事をちゃんととっているという、ちゃんとした生活習慣があるかどうかということで、そういった生活習慣が一番あるのが、一番左側のブルーの欄でございます。大体ある、中間的にあるというのが真ん中の小豆色なり黄色の部分でございます。右側が、ほとんどないという人たちでございますが、大人から褒められたりしかられたりした経験がある人ほど、そういった日ごろのきちんとした生活習慣を身につける傾向があるということが言われております。

 それから、大人から褒められたりしかられたりした経験があるという人の道徳観、正義感でございますが、電車やバスで体の不自由な人に、あるいはお年寄りに席を譲るというような、そういった道徳観、正義感をどの程度持っているかということで、同じように左が、あるというのがより道徳観、正義感を強く持っている人のグループでございます。右側がないということでございますが、人から褒められたりしかられたりした経験を持っていると、そういう道徳観とか正義感を持っている人の割合がふえてくるということが言われております。

 地域活動にどの程度大人の人が参加しているかということでございますけれども、これは野村総合研究所が平成15年に行った調査でございます。この黄色で囲った部分を見ていただきますと、男性も女性も40代以降の中高年齢層は、何らかの形で地域活動に参加する傾向があるということが言えます。ところが、男性も女性も10代、20代は、一番右端でございますが、ほとんど地域活動に参加していないという傾向があるということでございます。

 以上が地域の教育力の問題でございますが、家庭の教育力の問題でございますが、これは育児期に夫婦で、お父さん、お母さんの育児、家事あるいは仕事時間をどの程度やっているかということを各国で比較したものでございます。年代によってばらつきがあるんですけれども、ある程度の傾向はわかろうかと思います。これは内閣府の白書に出ているものでございますが、日本は2001年でございますけれども、女性のほうは育児の時間は欧米とそれほど変わりません。1.9時間ということで、欧米とそれほど変わらない。対し、男性は欧米の男性に比べると育児時間が非常に少ない。つまり、家庭で子どもと接する時間が非常に少ないということが言えると。家庭の教育力の一つの目安になろうかと思います。

 似たような話でございますけれども、これは厚生労働省が平成16年に行った調査でございますが、1週間のうち、家族そろって一緒に食事する日数を調べたものでございます。朝食と夕食でございますが、一番下、青が朝食でございますが、ほとんどないというのが3割近くあります。家族ばらばらに朝食をとっているというのが3割近く。真ん中のを見ていただきますと、夕食でございますが、1週間のうち二、三日は夕食を家族一緒にとるというのが36%でございます。3分の1以上がそういう人たちでございます。家族で食事をとる、食事の時間というのは、家族の会話もございますし、家族間で社会事象とか規範とか、いろいろなことを話し合う貴重な時間ではあるんですが、そういったことが必ずしも十分に行われていないという実態が浮かび上がっております。

 これは、親のしつけというものを国際比較したものでございます。これは、子どもの体験活動研究会という民間団体が国際比較調査をしたものでございます。幾つかございまして、ちゃんとあいさつしなさい、テレビを見過ぎるのをやめなさい、友達と仲よくしなさい、うそをつかないようにしなさい、これを左側がお父さんからどれだけ注意したか、右側がお母さんからどれだけ注意したかという表でございまして、日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツを比較しています。ちゃんとあいさつしなさいというのについては、ほとんど日本はお父さんは言わないというのが70%以上、お母さんも54%言わない。しかし、韓国、アメリカ、イギリスは言わない人も結構いますけれども、言うほうがかなり多い。ドイツは、なぜか日本と同じような傾向がございます。ただ、テレビを見過ぎだからやめなさいというのについては、お父さんは60%以上言わない。お母さんも半分近く言わないんですが、諸外国は、言うとか、たまに言うというのは3分の2以上を占めている。友達と仲よくしなさい、これも同じような傾向でございます。うそをつかないようにしなさい、同じような傾向でございまして、親のしつけが諸外国と比べて日本は若干緩いという傾向があろうかと思います。

 以上が家庭の教育力の問題でございます。実際に生涯学習を行っていく上で、こういった社会教育施設、公民館とか図書館、博物館その他施設、重要な意味を持っているわけでございます。全国に公民館というのは1万7,000カ所以上ございます。全国で1,800市町村ありますので、1市町村当たり10カ所程度あるわけでございますが、下を見ていただきますと、特に若者の世代が余り公民館、図書館、博物館もそうなのですが、特に公民館は余り使わない。10代、20代で、公民館を使っているのが11%ぐらいです。図書館が2割ぐらい、博物館で15%程度。かなり中高年齢層がよく利用しているという傾向がございます。

 これも生涯学習の一環として、大学に社会人がどの程度入っているかということでございます。各国を比較したものでございます。OECDの平均で、大学の社会人比率20%を超えております。日本は、2.7%ということで、非常に低い、最も少ない、この各国の比較の中では一番少ないということで、社会人が大学に必ずしも今入っていないというようなことで、生涯学習をさらに進めていく余地があろうかというようなことでございます。

 それで、こういった現状を踏まえまして、このパンフレットをごらんいただきますと、この教育振興基本計画には施策が書いてございます。このパンフレットの2ページ目でございます。ここにはいろいろ書いてございまして、学校、家庭、地域の連携を強化して、社会全体の教育力を向上させる。学校を地域が支えていくと。あるいは放課後を学校の空き部屋を使って、そういった地域のボランティアの人との交流を行うと。あるいは家庭の教育力をさらに増していくというようなことが具体的な施策として挙がっております。

 次に、基本的方向の2でございます。これは、初等中等教育を中心に書いたものでございます。小学校からの学校でございますが、幼児期から高等学校段階まで初等中等教育があるわけでございますが、これは個人個人がその人生を生きていく基礎をつくるわけでございます。一人一人が学ぶ意欲や学力を向上させる必要がもちろんあるわけでございますが、同時に豊かな心と健やかな体を育成する。子どもの可能性を最大限伸ばしていくと。一人一人の生きる力を育てていくということが必要なわけでございます。

 しかしながら、一方で子どもの生活習慣とか、一般社会のルールとか規範に対する意識が必ずしも向上していない。低下しつつある。不登校やいじめの問題もあると。一方で、また体力も低下してきております。そういったことで、個性を尊重しながら能力を伸ばして、個人として社会の一員として、この長い人生を生きていく基本を育てるということが基本的方向の2であります。その中で、確かな学力を身につけた子どもを育成する。

 先ほど申しましたように、世界トップの学力水準を目指していく。学力の高い層をふやすとともに、低い層を底上げを図っていく。それから、規範意識あるいは命の大切さ、他人への思いやりといった心を養うとともに、社会のルールや規範を守って、適切に行動できる人間を育成していく。学校の決まりを守る、学校生活が充実している、落ちついて授業を受けているというような子どもをふやしていくということでございます。

 他方で、子どもの体力は低下しております。昭和60年ごろがピークだったわけでありますが、長期的に体力が低下しております。身長、体重はふえておりますけれども、低下しております。

 学力の問題でございますが、文部科学省で、全国学力・学習状況調査というのを実施しております。本調査は平成19年度と20年度に実施しまして、平成19年度は大体出題した内容をおおむね理解している。ただし、知識としては理解しているが、知識・技能を活用する能力に課題があるということでございます。20年度は、これまでの調査で課題の見られた内容の問題や、解答に当たって、より正確な理解が必要な問題を多く出しまして、知識・技能の定着に一部課題があるということでございます。

 ただし、この調査では学力調査と並行して、同時に児童生徒に質問を配っておりまして、その傾向としまして、勉強の好きな割合が増えてきている。学習時間、読書時間が増加傾向にある。毎日朝食をとるというような基本的な生活習慣を身につけているというような改善が出てきています。こういった、例えば読書が好きだというような子どもほど、国語の正答率が高い傾向が見られます。あるいは、朝ご飯をちゃんと食べるという子どもほど正答率が高いという傾向も出ております。

 次に国際比較でございますが、下の欄、OECDの生徒の学習到達度調査でございますけれども、このPISA2006と略称しているものは、OECDにつきまして、各国15歳の子どもを対象に学力調査をやっております。

 日本では高校1年生が対象なのですが、科学的リテラシー、科学の理解力ですけれども、我が国は大体上位グループにおります。読解力につきましては、OECDの平均と同程度でございます。大体、OECDの30カ国中、12番目ぐらいのところにおります。前回調査の2003年比較して余り変化はありません。数学的リテラシー、数学の理解力ですが、これはOECDの平均よりは高い点をとっておりますけれども、2003年と比較すると平均点は低下しております。また、科学の興味とか、科学の楽しさを感じている生徒の割合が低いというような芳しくない傾向も出ております。

 TIMSSという、ある学会の調査につきましては、2003年に46カ国において調査を実施したのですが、1日あたりの宿題をする時間が日本は一番短かったという結果が出ております、1時間。一方で、1日あたりのテレビとかビデオを見る時間が46カ国中一番長かったそうであります、2.7時間。また、家事の手伝いは余りしないという傾向が出ています。学習への興味、関心、これは先ほどのPISAの調査でございますが、科学について学ぶことに興味がある生徒の割合、日本は50%程度に対し、国際平均では63%です。日本は国際平均を下回っているわけであります。やはりこのあたりにもう少し力を入れていく必要があろうと考えております。

 子どもたちの規範意識でございますが、これは中学生が絶対してはならないというふうにいうものについて、どういうことについてそういう意識を持っているかということなんですが、日本とアメリカと中国を比較したものでございますが、見ていただきましたように中国は、やっぱりやってはならないという意識が非常に高いわけであります。日本とアメリカは、アメリカのほうがもう少し高いわけでありますが、日本がこの中ではおおむね一番低いと。万引きだとか、友達をいじめるとか、たばこを吸うだとか、お酒を飲む、これがやってはいけないわけですけれども、そういったやってはいけないという意識が意外に低いわけであります。

 学校における暴力行為、これ18年度4万件を超えました。ここしばらくは横ばい傾向だったんですが、18年度は特にふえまして、これは深刻な状況になっております。特に、中学生のそこの棒グラフを見ていただきますと加害の生徒数ですが、圧倒的に多いことがわかると思います。

 不登校でございますが、不登校はこれも増えております。中学校で10万人を超えております。出現率2%を超えているんじゃないかと思うんですが、圧倒的に中学生が多い。一番下、高校生が5万7,000人、不登校で出現率1.65%、それよりも中学校が多いということでございます。

 先ほど申しました子どもの体力の問題ですが、昭和60年と比較して、体力が確実に落ちております。左側の濃いグラフが昭和60年、薄いグラフが平成19年、下の身長、体重は、60年に比べて体格がよくなっているわけですが、50メートル走、男の子で少し遅くなっている。女の子でも遅くなっている。ソフトボール投げは少し投げる距離が短くなっているということでございます。

 そういったことを踏まえまして、このパンフレットには基本的方向ということで、真ん中、2でございますが、確かな学力を確立、規範意識を養うというようなことがいろいろ具体的に施策として挙がっております。

 次は、高等教育に関してでございますが、高等教育、これは大学、大学院、短大等でも知の創造と継承、発展を担うわけでございますけれども、個人の人格形成だけではなくて、社会の、あるいは経済、文化の発展、あるいは国際競争力などに大きな貢献をするわけでございます。また、大学につきましては、大学の教育と研究だけではなくて、そういった教育と研究の成果を社会に貢献していく、社会に提供しこれを社会に貢献するということが教育基本法に新しく明記されております。そういったことを述べまして、豊かな教養と人間性、専門性を備えて、それぞれ幅広い分野で活躍できるような人材を養成する。そうやって社会を発展させていくということが基本的方向として出ています。

 実現すべき目標として、学習過程の成果として協調を求める能力を養成する。知の創造、継承、発展に貢献できる人材を養成する。国際的な競争力を確保する。大学間の連携を通じて、社会貢献といいますか、地域再生に貢献するということが書いてございます。

 大学の進学率、大学、短大です。進学率は55%でございます。50%を超えました。18歳人口は平成4年をピークにずっと下がってきておりまして、その右側は将来予測でございますが、今後もさらに18歳人口は減っていくだろうと。一方で、大学、短大の入学者数、実数は横ばいでございますけれども、人口がどんどん減ってきたので進学率がかなり上がってきております。収容力といいまして、大学進学を希望する者に対して、入学者がどれだけあったかというのが収容力という概念でございますけれども、これは上昇してきてございまして、92%にいっております。

 また、大学、短大の学校数も昭和35年の525校から、現在ではその倍以上になっているということでございます。それだけ学生の、大学の多様化が進んでいるということでございます。

 学習時間でございますが、概して中学校、高等学校あたりが時間としては一番多い。短大、大学、だんだん時間が減ってくるということでございまして、実際に講義を含めた学生の学習時間、1日3時間半程度でございますので、特に学部段階での教育の充実を図っていく必要があると。下の欄に、大学の機能別分化とございますが、先ほど申しましたように大学の数が大分ふえてまいりました。世界的な研究教育拠点、あるいは高度の専門人の育成、職業人の育成、幅広い職業人の育成、総合的な教養、教育、いろいろな機能があるようでございますが、大学が自主的な判断で機能分化を進めておりまして、いろいろな種類の大学、いろいろな機能を持った大学ができてきつつあるということでございます。

 各大学が重視する機能は、個性に応じた組織の見直しが進んできていると。そういった各大学の機能なり特色が多様になってきていますので、大学間がそれぞれ補い合って機能を相互補完するというようなことで、そういう動きも活発化しております。

 その一環として、大学間のコンソーシアムができております。全国40団体できておりまして、岡山にも大学コンソーシアム岡山というのができております。22大学、短大を含めまして、ここに岡山のコンソーシアムに参加してございますが、こういった地域の大学が連携することによりまして、教育研究のための資源を有効活用する。例えば、単位の互換をするというようなことがございます。そういったことによって、それぞれを補うと同時に、多様化、特色化をさらに進めていく、ひいてはそういったことで地域の人材を育成するというようなことの地域貢献を拡大するということでございます。

 留学生でございますが、先ほど申しましたように、留学生30万人計画というのを持っております。今現在12万人程度でございます。それでも、平成10年ぐらいは5万人程度だったので、この倍以上になっておりますが、まだまだOECDの各国に比べますと、日本への留学生は少ない。最下位ではございませんけれども、かなり下のほうでございます。留学生の受け入れ2.8%程度、OECDでは6.7%、まだ少ないということで、留学生30万人計画、関係省庁と連携してさらに進めていきたいというふうに考えてございます。

 日本の大学の国際競争力でございますが、論文の数、研究者が論文を世界的にどれだけ出したかというシェア、あるいは研究者の論文がどれだけほかの文献に引用されているかということを比較したものでございます。

 いずれも、アメリカの研究者が断トツでございますけれども、我が国は論文の量で言えば、世界第2位で9.1%。引用回数のシェアで言えば、世界第2位で8.0%。大体、欧州の主要国並みということで、世界的な活躍をしているというふうに言えるのではないかと思います。

 では、大学のランキングはどうであろうかということですが、これはイギリスの新聞社にタイムズ社というのがございますが、そこが大学のランキングをやっているんですけれども、トップ200大学をランキングやっております。下の評価指標、各国学者間同士の評価だとか、企業の採用担当者の評価等を総合的に評価したものでございますが、これで一概に大学のランキングが判断できるというわけではありませんけれども、一つの指標にはなろうかということでございます。

 上位10位に入っているのはアメリカとイギリスだけでございます。我が国は、一番高くて東京大学の19位、200以内に入っているのは10大学でございます。ということで、大学につきましては、さらにその教育を充実させるということで、取り組みを支援することで、来年度の予算要求ということで、これだけの要求をしています。

 最後に、子どもたちの安全、安心あるいは質の高い教育環境の整備ということでございます。基本的な方向として、子どもたちの安全、安心を確立するとともに、質の高い教育環境を確保する。子どもたちが、安全で安心したことができる空間で勉強し、恵まれた環境で勉強できるというようにするというのは非常に大事なことでございまして、これはひとり学校だけではなくて、地域の行政機関あるいはボランティアの協力によってもこういうことが必要だろうと、国と地方団体がそれぞれの役割を持ってやっていく必要があるということでございます。

 一方で、一番下に書いてございますが、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって学校に行けないというような人に対して、教育の機会を確保することも重要でございまして、こういったこともやっていく必要があるということでございます。

 公立の小中学校につきまして、地震が起こった際に耐震性がどれぐらいあるかということを調査いたしました。耐震性がない、あるいはまだ診断していないというものが37%以上ございます。そのうちで、全体で12万7,000棟あるんですが、そのうち4万8,000棟ぐらいはそういう。そのうちで、特に危険性が高いのは1万棟ございまして、それを優先して耐震化工事を行っていく、それを支援するということを今進めております。

 一方で、いろいろな凶悪な事件が発生しております。ここ数年で起こった事件だけを取り上げましても、これだけの皆さんに記憶に新しいところがあろうと思います。こういった凶悪な犯罪なり事件から子どもたちをどう守っていくかということが大きな課題になっております。

 他方で、就学する能力がありながら、経済的な理由で学校に行けない人たちが多くいるという話をしましたけれども、これは東京大学の大学院が調査したものでございます。一番上のオレンジの折れ線グラフ、これが4年制大学の進学率でございます。一番下のラインがございますように、親の収入が書いてございます。400万円以下、600万円以下、800万円、1,000万円、1,000万円超という収入が上がるに従って、4年制大学への進学率が高くなっていると。要するに、両親の年収が低いほどやっぱり進学が困難になっているという状況がございまして、こういった人たちをやっぱり助けていく必要があるだろうということでございます。

 ということで、時間が押し迫ってきて省略いたしますけれども、このパンフレットに個別の施策が基本的方向の3と4についても書いてございます。それで、国と地方の役割でございますが、文部科学省を中心とする国につきましては、関係省庁や関係事業者、NPO等と連携して、教育制度の枠組みや学習指導要領等の全国的な基準の設定を行います。また、全国的な教育の機会均等あるいは高等教育の質の保証等を行う役割も持っています。この計画を策定し、これをさらに順次推進していくということでございます。また、教育基本法には、各地方公共団体がこれを参酌して、その地方の実情に応じてそれぞれの計画をつくっていくということが書いてございます。

 都道府県の役割としては、市町村に対し指導、助言、援助を行うとともに、広域的な教育事業の実施、高校、大学の設置、管理等を行う。市町村は、小・中学校の設置、管理を行うことが役割として挙げられております。

 財政措置は、こういったことで国と地方団体がそれぞれの役割分担を持って財政措置をやっていく必要があるわけでありますが、国も地方も非常に財政状況が厳しゅうございます。施策を全般的に全体に推し進めるというよりも、選択と集中を行いまして、コストの縮減に取り組むと同時に、重要な施策について効果的にこれを進めていくということが必要だろうと。施策のスクラップ・アンド・ビルドを行っていくことも必要だろうということでございます。

 我が国の公共支出、教育の公共支出、地方団体が7割以上でございます。地方団体がいかに大きな比重を占めているかということがおわかりだろうと思います。それぞれの地域の実情を踏まえながら、そういう工夫を持って取り組んでいただくように期待しているところでございます。

 と申しましても、この教育振興基本計画、平成20年度から24年度までの5年間に取り組むべき姿を書いてございます。10年間を見越して5年間に取り組むべき姿ということでございますが、ここに書いてございますように歳出改革が去年からもう始まっております。例えば、義務教育の国庫負担金を減らしていくと。あるいは国立大学の交付金を毎年減らしていく、私学助成も減らしていく、総人件費の抑制もありまして、教員は児童生徒の減少に見合う数を上回る数を純減するということが法律で決められており、歳出改革と人件費改革が並行して行われているという状況です。いずれにしても厳しい環境にあるとございますけれども、必要な予算を確保するよう最大限努力していきたいということでございます。

 これは、先ほど申しましたように地方の予算が7割以上占めているということ。今後の計画の進め方でございますが、毎年度、アクションプランというものをつくる。これは文部科学省としてつくるものでございます。この計画自体は政府全体の計画でございますが、文部科学省としてアクションプランというものをつくってまいります。毎年度つくります。これを踏まえまして、教育基本計画を毎年点検いたしまして、必要に応じて見直しを行っていくということでございます。こういったことを行うために、去る9月に中央教育審議会に計画部会というものを設置して、今検討を進めるという体制をとっているところでございます。

 ちょっと長くなりました、雑駁になりましたけれども、説明を終わらせていただきます。ありがとうございました。

○司会(白井)

 質疑の時間、15分から20分程度とりたいと思いますが、できる限り多くの皆様にご発言いただけるように手短に発言をまとめていただければ幸いでございます。

 それでは、挙手をお願いいたします。どうぞ。

○参加者

 岡山県の者です。

 幾つかお尋ねしたいことがあるんですけれども、中でも時間が限られておりますので絞って行いたいと思います。1つ目は、教室の中の子どもたちは、今さまざまな状況にあって、支援を必要としている子どもたちが多くいるのは実情です。

 それに伴って、子どもたちに対応する職員室の教職員も、毎日汗を流しながら一人一人に丁寧に対応していこうということで努力しておりますが、そういった教室の状況であるということを踏まえて、先ほどの中にも予算的な措置を、これからもOECDの平均である数値を目指してのことで努力をするというふうなこともおっしゃっておられたんですけれども、ぜひ教職員の定数の改善であったりとか、そういう面でできるだけたくさんの子どもたちに丁寧な指導が当たれるような予算の確保について、今後具体的にはどういったアクションであったりであるとか、プランであったりとか、あるいは財務省に対してどういった働きかけを行っていくのかなということで、もし具体的にわかれば教えていただきたいと思います。

 2つ目なんですけれども、地域や家庭の役割が大切なのは、先ほどのたくさんのデータで非常によくわかりやすく教えていただきました。自分自身も反省させられる部分もあったりしながら聞かせていただきました。

 それと、また同じように学習指導要領の中で、子どもたちの学校の中にいる時間というのがふえていきます。こういったことと地域で、あるいは家庭で暮らす時間が学校の中にいる時間にこれからは差しかえられてしまうわけなんですけれども、ある意味ジレンマといいますか、家庭や地域の時間ももっとふやしたいという反面、授業時数も確保しなければならない。こういった部分のやりくりといいますか、うまいぐあいな調整みたいなものは今後求められるところだなと思っています。そういうことをどのようにこれから都道府県あるいは市町村が取り組んでいったらいいのかなということのヒントがあれば教えていただきたいと思います。

 最後なんですけれども、授業時数が増えるということもあり、それに伴って最初の質問にも関係しているんですが、子どもや教職員の負担は大きくなると思っています。授業についていけない子どもたちがこれから多くなったり、あるいは先ほどもありましたが、校内における子どもたちの落ちつきがなかなか取り戻せなかったり、学校内のルールが守れなかったりする子どもたちが、今後どのような状況に置かれていくのかなということは、20年前にたくさんの授業時数を費やしていたあの時期、確かに校内でのさまざまな諸問題が多くあったころを思い出さざるを得ないといった現場の状況です。こういったことに対して、具体的にはどのようなお考えがあるかというのがもしありましたら教えてください。

 以上3点ですけれども、どうぞよろしくお願いします。

○寺西大臣官房審議官

 全般的な話としてお答えいたしまして、個別の問題については担当のほうから説明させていただきます。

 教育振興基本計画に書いてございますように、我が国の教育公的支出は、OECDの数字に比べて低いわけでございますけれども、ただ一方で、教育振興基本計画におきましては、諸外国の公財政支出など教育投資の状況を参考にしながら、教育投資を確保するという方向性は明記されております。

 また、新しい学習指導要領の実施に向けました教職員定数のあり方を含めまして、基本的な条件整備の方向については、再度これを検討するということで、この基本計画には明記されておりまして、これを踏まえまして、厳しい状況ではございますけれども、毎年度概算要求がございますので、必要な予算を確保するようにさらに努力してまいりたいと思います。

 また、家庭や地域との子どもと学校との教育に時間をどうバランスをとるかというお話でございました。確かに、学校教育につきましては、必要な時間、子どもを学校に拘束して、必要な時間を確保する必要があります。一方で、家庭教育とか地域との交流というのもぜひ必要でございます。その観点で、私ども、学校支援地域本部という事業を今年度から実施しておりまして、このパンフレットにもございますように、これは学校と地域が一体となって、そこに地域教育協議会というのをつくりまして、そこで地域がどうやって学校を守っていくか、あるいは支援していくかというようなことを検討し、地域と学校が一体となって子どもを育てるということでございます。

 例えば、子どもの教育の中で、必要な場合に地域において、その知識と経験を持った人を授業に参加していただいて、一緒に授業をやってもらうとか、あるいは学校のクラブ活動でそういった人たちに入ってもらうとか、あるいは登下校を守ってもらうとか、あるいは花壇を整備してもらうというようなことで、地域の人たちをできるだけ活用し、地域との交流を深めていこうというような事業でございます。これは、翻して言えば、教職員の皆さんが子どもと向き合う時間を多少なりと余裕ができるわけでありまして、そういった地域の力をかりることによって、教職員の皆さんが子どもと向き合う時間を増やし、負担を多少なりと軽くするという面もあろうかと思いますので、こういった事業もぜひ活用していただきたいと思います。

○今井(初等中等教育局企画課)

 失礼いたします。私、初等中等教育局企画課の今井でございます。ただいま審議官のほうから総括的なご説明がございましたので、私どもの立場から補足の説明をさせていただきたいと思います。

 基本計画の中にも基本的に書かれております。私どもとして、やはり子どもの学力の向上を図るため、それから規範意識の育成を図るため、学校現場の教職員の先生方が本当に一生懸命取り組んでいただいていると思っております。

 その頑張っていただいている教員の先生方、これをやはり支援するということは、私ども文科省の大きな役割だと思っております。そういった意味で、教員の先生方が子どもと一人一人に向き合う環境づくり、そのための支援を国としても考えていきたいと思っております。

 そういった意味で、具体的な方策として定数改善のお話がございました。20年度につきましては、1,000名の定数改善、それから非常勤講師の7,000名の活用ということでございましたが、やはりこれからはさらに新しい学習指導要領、これにも着手していかなければいけないということで、現在21年度の概算要求、つまり文部科学省が財務省に対してお願いをしている状況をご報告をいたしますと、平成21年度の概算要求では、1,500名の定数改善、これをお願いをさせていただいているところでございます。

 また、いわゆる外部人材、社会人等の積極的な活用ということで、昨年7,000名お願いをさせていただいた部分につきましては、1万500人の拡充の方向で概算要求をさせていただいております。これらは、教員が子ども一人一人に向き合う環境をつくるという観点でお願いをしているところが多々ございますが、さらに、新しい学習指導要領の円滑な実施のための指導体制整備を図っていくということの観点から、こちらにつきましても非常勤講師の配置ということで、1万1,500名さらにプラスして配置できるよう経費の概算要求させていただいているところでございます。

 ただ、いずれにいたしましても、先ほどのご説明にもございましたが、政府全体といたしましては、やはり行革推進法なり、それから骨太の方針の中で求められている行財政改革、これは政府一丸となって取り組まなければいけません。そういった枠組みの中で、文部科学省として、精いっぱいできることを今させていただいている状況でございます。

 また、これから予算編成に入ってまいりますので、またご報告できるところは、来年の早々になるかなと思いますけれども、また文科省としてしっかりと取り組んでまいりたいと思っております。

○司会(白井)

 よろしいでしょうか。
 ほかにご質問、ご意見ございますでしょうか。どうぞ。

○参加者

 徳島県から来ました。

 先ほど、学校支援地域本部という取り組みということで説明があったんですけれども、私のほうでもそういった事業に取り組もうかなと一応考えたことがございます。内容的には、その地域の方が学習の支援とか、そのクラブの支援とか、そういった面では大変すばらしいことだなと思います。

 しかし、そういったボランティアの方に対する支援ということで、一番現場では困るというのは、どういう形で謝礼を出すのかなというところがやっぱり問題になるのではないかなと。しかし、この学校支援地域本部を見ると、そのコーディネーターの方には報酬等はありますけれども、そのボランティアの方には余りお金がないというような感じの計画ではなかったのかなと。だから、もう少し学校支援地域本部というものが緩んだら、もう少し活用というものができていくのではないかなと思いますけれども、その点についてご答弁をお願いします。

○寺西大臣官房審議官

 学校支援地域本部の運用についてご質問がございました。これは、全国で今年1,800カ所ということで、モデル的にもやっているところでございまして、委託事業でございます。

 今年度から始まったものでございまして、現場でいろいろな問題が、課題が起こってくることがあろうと思います。こういったことを踏まえまして、我々この事業のなお一層の柔軟な改善に取り組んでいきたいと考えておりますので、またいろいろご意見をお聞かせ願えればと思います。ありがとうございます。

○司会(白井)

 よろしいですか。

 ほかにご意見、ご質問ございますでしょうか。後ろのほうの方……。

○参加者

 貴重なご報告ありがとうございました。島根大学で教員をしている者です。

 私のほうは、基本的方向3の高等教育にかかわるところのことで一つご質問というか、実情はこういう形だということも踏まえてのお伺いしたい点なんですが、ここの中に学士課程という言葉が出てきています。今、とにかく高等教育では学士課程という言葉と学習成果という言葉が大きく出ていると思うんですけれども、なかなか学士課程という言葉、私たちも大教センターに行って一生懸命学内で言っていっているんですけれども、その現状としては、学部という構造がなかなかうまく突破できないという問題があります。

 なので、学士課程に関しての、今、中教審でも取りまとめが出てきて、答申がなかなか出てこない中でまた新しい諮問が出てきたということで、非常にどうなっているかと動向が気になっているところなんですけれども、そういう中で、国としてこの学士課程ということをこういうふうな形で出していくのであれば、それをもう少し政策的にしっかりと各大学に誘導していくような何か仕組みというか、言葉が要するに宙を舞ってしまっては意味がないわけなので、このあたりを本格的に進めていくための何か具体的な対策というかお考えみたいなものがあれば、少し私ども学内の中で考えていくときの参考にできるかなと思っております。

○氷見谷(高等教育局高等教育企画課)

 失礼いたします。高等教育企画課の氷見谷と申します。ただいま学士課程の教育につきましてご質問いただきまして、ご質問ありました学士課程教育の構築に向けてという、現在、中央教育審議会のほうで答申のほうが取りまとめの作業をやっておるというところでございまして、取りまとめの文言整理等は時間がかかっておりますけれども、これらにつきましては、そう遠くない時間で出させていただくというふうに考えております。そういった答申の中で、答申を踏まえまして、私どもとしては、大学自らが行われる学士課程の例えば教育内容、方法等のすぐれた実践を行うというような大学に対しましては、重点的な支援といったようなもの、また我が国の学位の水準維持向上に向けた枠組みづくりについて、例えば日本学術会議等と連携しまして、コアカリキュラムや教材の研究開発というようなところに対しまして、対応をしてまいりたいというふうに考えておるところでございます。

 また、もう一点ご質問のありましたその中長期的な高等教育のあり方についての諮問というところでございますが、これにつきましては、学位プログラムというような議論も出てきておりますけれども、これにつきましては、ご承知の方も多いかと思いますけれども、大学の全体像についての平成17年の答申(我が国の高等教育の将来像)というものがございます。その答申の中で言及があった学位プログラムの導入というようなことについて、今後中長期的な課題の中で検討をしていくというところでございまして、将来的にこの学士教育と当然絡んでくるところではございますけれども、当面といたしましては、この学士課程の教育の構築に向けてという答申をいただいて、それを着実に私どもとしては、それを踏まえて大学の取り組みというものを支援してまいりたいというふうに考えておるところでございます。

○参加者

 ということは、諮問の中では、学位プログラムという言葉が出てきていたんですが、学士課程という文言が実は一つも入っていなかったかと思うんですけれども、だからといって、その学士課程という発想自体を、要するにその新しい諮問の中で入っていなかったからといって、そこは重要視しないという話ではなくて、そこは基本的な方針としては、学士課程教育ということを恐らく今準備されて、答申も含めて準備していこうというふうにお考えだということで理解してよろしいですか。

○氷見谷(高等教育局高等教育企画課)

 ただいまご質問ありましたとおり、こちらの今日お配りさせていただきました教育振興基本計画にございましたように、今後5年間重点的に学士課程教育について実現すると、29ページでございますけれども、学士課程教育等実現するということで、これに積極的にこの部分について私どもとしては、大学の取り組みについて支援してまいりたいというところでございまして、学位プログラムの点につきましては、これは今お話しいただきましたように、中長期的な高等教育のあり方ということで、その課題を今から議論していこうというところでございまして、その学士課程教育、これからその学位プログラムについてご議論いただく中で当然今後進めていただくであろう学士課程教育の現状ですとか、今後5年間進んだ後でどうなっていくというようなところは、当然議論の中には入ってくるとは思いますけれども、その学士課程教育と学位プログラム自体、これは対立する概念では当然ないわけでございますけれども、学士課程教育のこの答申というのを全くなくなってしまって、新たに学位プログラムについて議論をし直して、そこから始めますというようなことでは当然ないということでございます。

○司会(白井)

 それでは、時間も迫っておりますので、もし最後に1問あればお受けいたしますが、よろしゅうございますか。ありがとうございました。

 それでは、質疑応答の時間はこれで終了させていただきます。

 次に、八洲学園大学長でいらっしゃいます山本恒夫先生からご講演をいただきます。

 山本先生については、ご紹介するまでもないかもしれませんけれども、長らく筑波大学等において生涯学習のご研究をされていらっしゃいまして、我が国の生涯学習研究の第一人者でいらっしゃいます。

 また、中央教育審議会におきましても、教育振興基本計画特別部会の委員をお務めいただきまして、今回の教育基本計画作成にご尽力をいただいたところでございます。

 それでは、早速でございますが、山本先生、よろしくお願いいたします。

○山本恒夫氏

 

 ご紹介いただきました山本でございます。

 それでは、少し時間をいただきまして、ここにございますような教育振興基本計画を受けた今後の教育のあり方ということで、その教育振興基本計画の特別部会で議論してきたことなどを少し整理しながらご報告、またそれをめぐって少し考えておりますこともお話し申し上げたいと思っております。

 この今の基本計画の前に教育基本法の改正もございました。そのときからずっと審議に参加させていただいて、今日見て大体こういうことかなというのは、いろいろ紆余曲折等々はございましたけれども、やはり先ほどの審議官の話の随所に出てまいりましたように、これから日本は生涯学習社会を目指すんだということでは皆さん意見が一致してきて、コンセンサスが得られてきたと思います。しかし、ここまで来るのに20年かかっています。ご存じの臨教審のところでそれが大々的に出てきて、それが言われてからもう20年近くということでございます。いろいろ検討して、そうなってくるということですから、時間がかかるのはしようがないかもしれません。でも、それが貫かれて今日まできているというのが一つございます。

 それからもう一つは、これは私どもがいろいろな先輩の方々とか行政のほうのかなりの経験の方々等々から伺ったりして、なるほどと思うんですけれども、教育改革というのはお金がかかるんです。ですから、お金のないときに教育改革をやってはいけないんだそうです。これは、世界的に見て、どこを見ても歴史的に見てもそうなんだそうです。

 ところが、先ほどの話にございました、日本は資源としては人材しかありませんから、厳しいとき、大変なときになると教育改革をやるわけです。しかし、お金がないんです。それで、非常に苦しいということになります。私ども、審議に参加していて、一番欲しかったのはデータです。データといっても、教育のデータはいろいろあるんですけれども、それをもとにして、じゃ社会にどういう貢献がなされてきたのか、また今これから先貢献できるのかといったあたりの推計をしていく、そういうところのデータがなかなか得られないということがございました。

 これに関しては、実は今私も国立教育政策研究所の評議員というのを承っているんですけれども、その会議が年に2回ぐらいございます。ついこの間もあったんですけれども、最後にそれを申し上げたんです。例えば、義務教育費の国庫負担金のときも、私ども最前線にいまして、担当の課長さんたち、補佐の方々と一生懸命検討したんですけれども、やはりいろいろなデータはあるんですけれども、肝心の決め手のところや何かへ来るとなかなか得られない。事例でもいいから欲しいとか、今回の基本計画でもそうですが、それに関して申し上げたらば、国立教育政策研究所のほうは、すぐ次の5年計画が来ますから、先ほどの審議官の生涯学習政策局とその国立教育政策研究所とでタイアップして、もう次のときに備えて今のようなデータや何かの準備をしていくというようなお話がございました。

 これは私どもとしましても大変ありがたい、ぜひそれで進めていただきたい。今まででも、文部科学省と国立教育政策研究所は連携しているんですけれども、より一層そういうところですぐにこたえられるようにしていかなければいけないんだということを考えてくださっているようです。

 それでは、話に入っていきたいと思うんですけれども、まずこの教育振興基本計画で、やはりこれから先、何を目指していくかということで議論をしたわけですが、皆さんがそうだと言ったのが教育立国です。これはほかの基本計画でも産業立国とか農業立国とか出てまいりますけれども、教育立国というのは明治のころから言われました。

 明治以来、そこにございますように、国民の知的水準を高めて非常に効果があったということですが、実は明治維新の後、日本の政府は何をやったか。これから先、日本をどういうふうに発展させていったらいいかということでいろいろ検討したんですが、アメリカへ行ってアンケートをやっているんです。日本はこれからどういう方向に向かうべきか。そのアンケートの対象というのは、よくわかりませんが、ハーバート・パッシン先生の本に出てくるんですけれども、その結果は、日本は小さな国だから、資源といっても人しかないんだから、教育をやれという結論だったというんです。

 そんなことがあって、ということだけではないんでしょうけれども、やはり教育に力を入れるというようなことになってきましたが、このときはお金がなかったわけです。ご存じのように大変な状況でした。私も今ご紹介いただいた筑波大学の前は埼玉大学の教員養成のほうにおりまして、埼玉大学教育学部100年史をつくりました。そのときに、埼玉の公文書館へ行きまして調べました。大正時代の町村の努力というのは、ここまでやるのかというぐらいです。教員の給与を確保するために、貧しい町村がどれだけの努力をしたかというのは数字で出てきます。大変だったんだなと思いました。明治から教員の給与は、国のほうへ行ったり、また地方に行ったり、いろいろ紆余曲折がありましたけれども、どちらにしても非常に苦労してきている。そういう中で、今日のこの成果が得られているということになるわけです。

 その次にございますけれども、改正教育基本法を受けて、今こそ我が国は、改めて教育立国を宣言すべきだということになり、さらにその下の矢印のところですけれども、すべての人に等しく学習の機会が開かれ、生涯を通じ一人一人が自己を磨き、高めることのできる社会、これが生涯学習社会のところになるわけです。その次を少し飛ばしますと、持続可能で豊かな社会を創造しというのがございます。もちろん、国際社会に貢献し、今こういう時代ですから食べるものにしましても外国からいただきますから、ギブ・アンド・テイクでやっていかなければなりませんのでそういうことがあります。

 この持続可能で豊かな社会というところについては、議論をしました。今、日本は劣化しているんではないかということが、そのときの議論に出ています。先ほどの子どもたちの数字を見ても衰えているとか。社会そのものもいろいろなところでほころびが出ている。これは劣化じゃないか。社会というのは発展期があります。それから、成熟期があります。その次に衰退社会があるんです。

 今、申し上げているのは、民族ということじゃなくて、今の国というものが衰退に向かっているんじゃないかという話です。ヨーロッパですと、民族も入り組んでいて、本当に厳しい状況がございます。我が国は幸い民族紛争は余りありませんけれども、国として盛衰があるんじゃないか。

 しかし、国連でも言っているように持続可能ということで、持続可能な社会にしていきたい。そうすると、明治のときの追いつき追い越せではなくて、持続可能な社会をつくるための教育立国だというところが、出てきているというところだろうと思うんです。

 それで、先ほどの話にありました、今回の教育振興基本計画の場合には、10年間で目指すべきこれからの教育というようなことで、先ほどのように2つほどございました。義務教育終了までに、子どもに自立して社会で生きていく、ところでは、自立でいいんですかという問題があります。これは生涯にわたって学習を続けていくという観点からすると、ここだけを取り出して見られたんでは困るということがございます。その先も見ませんと、持続可能な社会はつくれない。しかし、義務教育段階のときにはまず自立ですから、それがここに出てきています。

 それから、その次は、社会を支え発展させるというのは、先ほどの高等教育のことです。そして、最後にこれら各段階における教育の充実を通じて、生涯学習社会の実現を目指す。生涯学習社会って何だということになるわけです。それは、教育基本法の第3条に今度入りました。これについても、教育基本法の改正のときには、いろいろな議論がございました。生涯学習、学習と教育とはどこがどう違う。教育と学習はコインの表と裏だという議論が長らくありました。これはおかしい。学習というのは、教育の中だけで行われるわけではありません。ほかにもいろいろありますというようなことでさんざん議論をしまして、かなり時間はかかったんですけれども、生涯学習の理念というのは、ここにございますような生涯学習社会をつくっていく、それを目指していくということだということで落ちつきまして、こういう形になってきているわけでございます。

 その社会はどんな社会だということなんですけれども、簡単に言いますとこういうことなんです。まず、学習機会等の提供というのがございます。これは、学校教育も社会教育も学習機会を提供しています。この改革がここのところずっと進んできているわけです。しかし、その学習機会の提供といいましても、学校教育のほうはまだわかりやすいかもしれません。社会全体の中での学習機会等々になってきますと、非常にわかりにくいところにあります。学習機会を選択するというのを効率よくうまくやっていきませんとロスが多くなります。ですから、ここら辺のところの相談とか、いろいろなその支援をする仕組みをつくっていく必要があります。それが右側の学習機会等の選択援助です。

 私どもは、今、八洲学園大学という聞いたことのないであろう大学にいます。これは平成16年にできた大学で、インターネットライブの大学です。サイバー大学は、インターネットですけれども、オンデマンドです。先生方が授業をやって、それを録画しておいて見せます。我々は、ライブでやります。日本でここしかないんです。ようやくこの3月に卒業生を1回出して、セメスター制ですから、この間も卒業生をまた出したんですけれども、社会人ばかりです。学校の先生も結構来てくださっています。というのは何かというと、資格で取れるのは社会教育主事と司書、学芸員、それから企業なんかでの教育訓練等々する人たちとか、家庭教育の支援とか、そういうところの資格であるものですから、学校の先生で定年になった後、地域でいろいろな活動をしていきたいというようなときに、もう学芸員としての資格は使えないかもしれないけれども、それを持っているということで、地域でいろいろなことをやっていきたいとか、さまざまな皆さん計画を持っておいでくださっています。

 そういうところで、実は今一番問題にしているのが若者を中心にした再チャレンジのところです。それから、定年後再就職といいますか再チャレンジ、そのところです。このような再チャレンジでは、ミスマッチがものすごく多いので、4年かけてそこのところを診断するツールを開発しまして、開講したら受講者が非常に多く、関心が高いんだなと思いました。そういうのも全部この学習機会等選択援助なんです。

 しかし、それだけではうまくいかないんです。先ほどの教育基本法の場合には、学習した成果を社会で生かせるような生涯学習社会にしようといっています。学習した成果を、今、日本人の場合、どの程度使っているだろうか。日本人は勉強熱心だといいます。勉強した結果をどのぐらい使っているんでしょうか、何割ぐらい使っているんでしょうかというのがわからない。それをうまく使えばもっと社会は活性化して豊かになるかもしれないということで、学習成果を生かすということが入っています。でも、そのためには、こういう学習をしましたということの結果をきちんと示さなければなりません。

 それが、その左側にあります学習成果の認定、認証です。この認定、認証を持っていって、こういうことをやっている者ですと出すということです。そこのところは、まだ日本は一番遅れていて、評価はありますけれども、認定のところがないんです。文部科学省のほうでも、この教育基本法第3条を受けてすぐに始めたんですが、非常に大きなものですから、手がかりがつかめない。差し当たってはっきりしているのは検定なんです。もうこれだけブームで、ものすごい数の検定があります。ご当地検定まであります。このところで、これは大丈夫というものを認証する、JISマークをつけるというようなものをつくってみたらどうだろうというので、この半年間それをやってまいりまして、実はきのう、文部科学省のホームページにその中間整理段階のものがアップされています。

 こういう仕組みを作って、社会のほうでいろいろそれを使っていただくということにしたらどうなんだろうかということなんです。

 ところで、基本計画では5年間に取り組むべき課題を上げていますが、この5年というところで、先ほど縦軸、横軸というのが出てきました。下にその図がございます。時系列の次元と、それから社会の次元となっていますが、これは昭和40年にユネスコが生涯教育−当時は生涯教育といっていましたけれども−の考え方を出したときに使った軸なんです、縦軸、横軸というのは、人の一生という縦軸、それから生活社会の次元という横軸というので、こういうような考え方をずっと生涯学習のほうでは使ってきている。生涯教育が生涯学習に変わったのは、ご存じのように臨教審のときで、生涯教育ではなくて学習のほうから見るというのでそうなりました。ですから、今我々は、生涯学習というのは人々の学習で、それに対して支援をする、生涯学習支援とか振興とか、そういう形で教育も含めていろいろなことを考えているわけですけれども、縦軸、横軸というのをとって考えていただくとわかりやすいかなと思います。

 先ほどの審議官の説明にあったように、横軸のほうはネットワークです。ネットワーク社会にこれからなっていきますが、学校も含めて行政関係はネットワークが一番苦手です。今まで縦型のシステムで来ていますから、ネットワークの運び方というか、つくり方がうまくできないというところがあります。ネットワークの極意というのは、資源の交換でギブ・アンド・テイクです。お互いに得をする、とんとんが一番いいんですけれども、こちらが10出したら向こうも10くれたというのがいいんですけれども、とにかく、資源の交換というのがネットワークなんです。そこのところをやらないと、ネットワーク、横の連携は紙で書いただけに終わります。今までそれが非常に多かったということなんです。ですから、その辺をうまくやっていただくとこれは生きてきます。

 縦のほうは、先ほどのように教育制度としてこうなっていきますけれども、その先まで、つまり生涯にわたって教育の機会を提供していく、学習支援をしていくというようなことになってくるわけでございます。

 それで、基本的なところは申し上げたんですけれども、実は、一番申し上げたいところはその次にございます。終わりにとしてあるんですけれども、改正教育基本法のもとでの教育振興への期待とございます。これは、お手元にお配りした資料の中の色がついているほうは、実はスライドをそのままコピーしてくださいました。大変ご苦労いただいてありがたかったんですけれども、それと同時にもう一枚、実はスライドじゃ見にくいかなと思って私のほうでつくったA4の資料がございます。1ページ、2ページとございます。この2ページのところに、言葉の説明をちょっと入れておきました。資料というのは、教育振興基本計画を受けた今後の教育のあり方についてというので、2枚になっている資料でございます。そこのところを見ていただきたいんですが、これから先、生涯学習社会を目指していくというけれども、どのように仕組みをつくっていくのはわかった、問題はどこを目指していくのかというあたりです。これは議論の分かれるところですけれども、一つ縦軸のほうと、もう一つ横軸のほうで申し上げたいことがございます。

 まず、縦軸のほうから申し上げてみようと思うんですけれども、先ほど自立というのがございました。自立だけでは困るんだということを申し上げましたが、自立というのと、その上に成熟と書いてございます。実は大分前から、生涯にわたってどういうことを目指していったらいいんだろうというようなことをあれこれ検討したり、また、いろいろな地域なんかでいろいろな方に聞いたりしたんですけれども、自立というとどうしても経済的な面が強く出てきてしまって、そんなイメージを持つと言われて、成熟というのをつけておいたんです。成熟というのは、自立して何かができる状態という程度のファジー概念です。あいまいな概念ですね。自立して何かが自分でできるというような状態という程度の考え方、緩やかな考え方というので、これを採っています。

 実は日本の場合には、昔から社会的通念として一人前という考え方があります。子どものときには、一人前を目指して努力をする、働いたり学校へ行ったり、いろいろやりますけれども、大体家庭にしましても、地域にしましても一人前になるということが頭の中にありました。一人前になって、仕事をする、ある程度の年になると隠居をするというのがありました。隠居をする、引退する。

 しかし、今それを言ってもほとんど通用しません。時代が変わりました。そんなことで、私どもとしては、成熟とか自立ということの次のところで、今の時代にフィットすることは何だというので、完成というのを入れてみました。完成するというのは、自己の能力を十分に発揮できる状態という程度のこれもまた緩やかな考え方。普通完成というと完璧なものと考えてしまいますが、そうしないで自分の力を思うように発揮できる状態というふうに緩やかに考えてみる。

 例えば、教育界で言えば、教員になったとしても、最初は自立できるかどうかです。その後、完成というときには、自分でもこういう授業をやりたいとか、こういうことをやりたいということができるようになった状態だと思うんです。今の時代は、そこで終わりではないと思うんです。人生80年の時代です。人生60年の時代でしたら、完成で終わってもいいと思います。しかし、今やこういう時代ですので、その後に極めるというのを置いたらどうだろう。それは、終わることなく自己の能力を高めようとするという程度のこれも緩やかな考え方です。年をとってくると、幅広くいろいろなことに興味、関心を持っていろいろなことをやっていくというのはだんだんできなくなってきます。しかし、一つのことを深めるということはできるようになります。ですから、自分がいろいろやってきた中で、これは水準に達するすごいところまでいきたい、その人の中での水準でいいわけです。それをやっていきたいというのがあったら、それを極めていっていただく。それがかなりの水準で社会的に役立てば、社会で貢献するというところに使っていただくというようなことが考えられます。

 先ほど、ボランティアについてのご質問がありました。ボランティアというのはいろいろありまして、無償でただ本当に自分としてはこういうことをやっていきたいんだという精神を持ってやるボランティアと、もう一つありまして、日本ではまだそれが成熟していないんですが、ボランティア、セミプロ、プロになるという道があるんです。最初は、お金が取れないからボランティア、その次に、ある程度取れるようになったらセミプロ、それからプロというようなことがあるんです。

 例えば極めるというようなところで、水準以上のものになってくれば、地域でそれを活用していただく。場合によれば、先ほどのようにお金をいただいてもいいかもしれませんというようなこともあります。

 いずれにしましても、これから先、極めるということを考えていかなければならない少子高齢社会ではないでしょうか。

 それから、横軸のほうは何かということなんですけれども、これについてもいろいろ議論があると思います。しかし、根底のところで人間の社会というのは、経済的価値と人間的価値というものの調和をうまく保つということが必要なのではないか。先ほどの資料の2ページの下に書いておいたんですけれども、人間的価値というのは、人間のよさのことなんです。よさというのは、いろいろ皆さんそのときそのときで違うと思いますけれども、その時代でも違うけれども、とにかくよいというもの。心の豊かさとか責任感とか奉仕の精神とか、あるいは芸術、文化なども人間のよさです。

 それから、経済的価値というのは、人間が生み出しているわけですから、それから出てきているには違いないですけれども、財というのは別に物としてあります。その財のもたらすよさのこと、物の豊かさ、ものの生産のための技術、あるいはものの生産のための創造性、こういうものです。この調和を保つということが非常に実は大事だということになると思います。

 先ほど、審議官が出してくださった資料、あれをこのような目でもう一度見てください。要するに、第二次大戦後の日本が経済的価値中心でやってきました。それで、どういうことになったかというと、いろいろな問題が起こってきている。それだったらば、これからは人間的価値というものと経済的価値の調和を保つような社会を目指す。

 実を言いますと、これは別の言葉で今まで言われてきました。何かというと、経済と道徳の調和です。これは、日本でいったら江戸時代からあります。二宮尊徳とかいろいろあるんです。いろいろなところで受け継がれています。しかし、今経済と道徳の調和と言われたら、道徳に対するアレルギーがありますから、ほとんどノーという答えが返ってきます。

 昭和40年代に、日本の最も進歩的と言われる新聞が、経済と道徳の調和というキャンペーンを張ったことがありますが、全然反応がありませんでした。しかし、今アメリカはこんな経済状況ですけれども、その前の段階で、ここ10年前ぐらいから経済と道徳の調和が大事だといってます。我々は広げて今のような人間的価値というふうにしています。ですから、これから先、教育による新たな社会創造、いろいろ面が出てくると思いますけれども、やはり人間の社会、古今東西どこを見てもこれを置いていますから、そのあたりのところを我々としても根底のところで考えていく必要があるかなと思って、終わりにということで、今後の教育振興への期待で挙げさせていただきました。

 申し上げたいことは以上でございます。ご清聴ありがとうございました。

○司会(白井)

 山本先生、貴重なご講演をどうもありがとうございました。

 それでは、これから10分少々になりますが、今のご講演に関しまして、山本先生にご質問、ご意見等ございましたら、挙手をいただいて、先生からお答えをちょうだいしたいと思います。

 先ほどと同じように、指名された方はお名前を述べていただいて、手短なご発言にご協力いただければと思いますが、いかがでございましょうか。

○参加者

 広島の者です。よろしくお願いします。

 中教審で、道州制と教育機構等々の絡みの話は出ていないんでしょうか。そこらあたりを、もしあれば聞かせていただいたらと思うんですが。

○山本恒夫氏

 道州制ですね。

○参加者

 そうです。

○山本恒夫氏

 これは、実は義務教育国庫負担の話のときにございました。

 今政治の動きとかそういうところでそういうのが出てきていますよね。しかし、義務教育国庫負担金の問題のときに、それについては議論が進みませんでしたということです。よろしゅうございましょうか。

○参加者

 市町村で平成の大合併が進んで、無駄を省いてということの動きがあるだろうと思うんですが、土曜日の復活というのは、将来的に教育現場ではあり得ないんですか。土曜日、半日の教育の復活というのは。

○山本恒夫氏

 それはもう私どもじゃわかりませんが、例えば先ほど学校支援地域本部というのが出ていました。あれは、もともとが東京の杉並区の和田中学というところで、地域本部ってやっていたわけです。あそこのところは、学校と協力しながら土曜日にその地域の人たちでもって授業を実際にやっているわけです。ですので、今の制度の中でやるかどうかは別としても、そういう動きは出てきている。

 教育の本来の姿からしますと、もうきょうは時間がなかったんで申し上げなかったんですが、横の軸のネットワークというのは、もう学校を極度に合理化して、学校を社会から切り離してしまったために、学校が疲れているので、それを社会に戻そうということなんです。そういうところで言ったら、学校ができないところは、社会でやるというのがあってもいいわけです。ただし何をやるかというのは、またそれぞれ地域のご判断です。

 先ほどのお話がありましたけれども、学校地域支援本部という話です。その中に、地域教育協議会というのをちょっと入れてあるところがあるんです。これを活用していただきたいというのがあります。3年ごとにみんな予算が切れていきますよね。ですから、手が挙がらないんです。3年でその後どうするんですかと言われたらば、市町村でそれぞれやってください、そんなお金ありませんとなります。

 そこで、地域の方々、学校の先生方が、知恵を絞って、3年ごとに切れるけれども、これをうまくつないでいくやり方はないか。それをずっと継続的に検討するところとして、地域教育協議会という名前ですけれども、それを入れたらどうだろうというので入っています。

 ところが、その心はというのはほとんどわからないで、これは形式的に議論していればいいんだなという受けとめ方らしいんで、それはそうじゃないんです。名前は何でもいいのですが、地域で学校と一緒になって、さっきのような3年ごとに変わっていっちゃうものを何とかうまく継続的につなげていこうという知恵なんです。それは地域ごとにそれなりのものはあると思いますが、そのあたりをうまく生かしていただくと、地域の活性化、日本の活性化につながると思います。

○司会

ほかにご意見、ご質問ございますでしょうか。よろしゅうございますか。

 それでは、ちょうど定刻になりましたので、これをもちまして山本先生のご講演を終了とさせていただきます。山本先生、どうもありがとうございました。

 以上をもちまして、本日の教育改革セミナーの全プログラムを終了となります。教育改革セミナーに関して、きょうご意見等、なかなか発表できなかった方につきましては、アンケート用紙もしくはメールまたはFAX等において、私ども担当者のほうにご意見等をお寄せいただければと思っています。また、アンケートについても、ご協力をよろしくお願いいたします。

 本日は、長時間にわたりましてご参加いただきましてまことにありがとうございました。

※セミナー開催にあたってのお願い・事務的な説明については、一部省略しています

−了−

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