第3章 職場のボランティア活動支援の役割と地域体制づくり

  第2章のアンケート調査結果では、ボランティア活動に対する関心を高める、あるいは心理的障壁を低減する環境として、勤労者が所属する職場を通じてボランティア活動について見聞きする経験や、自治会や学校等地域の機関を通じて単発的であれ何らかのボランティア活動を体験してみることの重要性が示された。
  市民のボランティア活動への関心を高めるには、人々が所属しその日常行動に影響を与える中間集団(企業、自治会、学校、グループ・サークル等)の役割が重要である。本章前段ではこうした観点から、特に勤労者に影響を与える中間集団として企業の、ボランティア活動の社会的気運醸成に果たす役割について検討する。
  また後段では、ボランティア活動を促進するための気運醸成に係る地域体制づくりについて、体験活動ボランティア活動支援センターに対して実施した調査結果を基に、当該センターの役割を軸として検討する。

3‐1 企業のボランティア支援策と社会的気運醸成

3‐1‐1 企業の取り組み事例

  ここでは、企業として活発に社会貢献活動・ボランティア活動を実施している大手企業三社(内一つは組合主導の取り組み)を取り上げ、その内容を整理した。これとともに各社とも担当者にヒアリングを行い、社員のボランティアに対する関心を高めるための課題について整理した。

(1)社会貢献事業の狙いと取り組み内容

  企業が率先して社会貢献活動を推進している二社では、自社が「企業市民」として社会から信頼され発展することを掲げ、社会貢献活動を推進していた。対して、組合が主導する企業では組合員のボランティア活動の推進を通して、社会全体の福祉向上を目指している。各社で取り組んでいる社会貢献事業(企業のボランティア活動、社員のボランティア支援含む)の内容は以下のとおりである。

図表 3_1 社会貢献事業の内容(ボランティア支援含む)
日本電気株式会社 1.NECMake a Difference Day
  工場、営業所など拠点ごとに任命されたNECグループ社員実施担当者が、それぞれの地域社会の実情に合った活動を企画推進する。活動のテーマは“地球環境保全(Nature)”、“青少年の育成活動(Education)”、“地域課題へのチャレンジ(Community)”がメインとなっている。
2.ボラボラクラブ(10年間実施)
  社員によるボランティアサークルで、ボランティアに興味を持つ者の集まりであり、現在350名のネットワークとなっている。ボランティア活動の情報をこのサークルに配信すると、構成員が核となり周辺の社員にその活動趣旨を口コミで伝達し、ボランティア活動を行なう大きな組織ができあがる。活動例としては、1995年の阪神・淡路大震災の時、ボラボラクラブは、段ボール250個にも及ぶ、救援物資を送ることができた。
3.NECサイバースターズ(4年間実施)
  インターネットが全世界に普及し、膨大な情報が飛び交っている昨今、違法情報や子ども達に有害な情報、ネット犯罪が増加している。そこで、ネット社会における安全なインターネットの活用方法や楽しみ方を体験しながら学んでもらうことを目的に、NPO法人日本ガーディアン・エンジェルス、NECソフトウェアグループと協力して、小学生とその保護者を対象に「NECネット安全教室」を実施している。
4.コンサートクラブ
  コンサート好きの40名で構成されており、各地で開催されるコンサート運営の支援を行なっている。
5.ホームページサイト“ボランティアワールド”の運営
  ボランティアに関する情報のインターネット・ホームページを運営しており、ボランティア募集情報、関連団体情報、参考書籍情報など、全国のボランティア情報を掲載している。
6.その他
  日常的に誰でもできる収集活動的なものもある。
  ex)使用済みの切手、書き損じはがき、外国コイン
アメリカンファミリー生命保険会社 1.AFLACキッズサポートシステム
  • AFLACペアレンツハウス…日本初の総合支援センター。都内外の専門病院から30分圏内にある。子供が小児がんなどの難病で、その治療の為に上京された親が1泊1,000円で宿泊できる施設。
  • 公益信託アフラックがん遺児奨学基金…がんで親を亡くされた高校生を対象に月額25,000円(年間300,000円・返還不用)の奨学支援を行う。
  • 小児がんの子どもたちの絵画展…小児がんの子どもたちの絵を、メッセージやエピソードとともに展示。
  • 元気がでる絵本…小児がんをはじめとする病気と闘う子ども達を励ますことを目的にオリジナル絵本を作成。
2.イベント
  • チャリティコンサート&フォーラム…1994年より毎年全国5~6ヶ所で開催。
  • AFLACフォーラム…1991年より毎年全国1~2ヶ所で開催。各界著名人のトークとともに「いのち」や「家族」について考える。
3.社員ボランティア
  • ONE HUNDRED CLUB(ワンハンドレッドクラブ)…社員が1口100円(任意口数)を毎月の給与より寄付する活動。
  • テトラ基金…書き損じ葉書を集め換金し、施設に熱帯魚(テトラ種)の水槽を贈る活動
  • バレンタイン基金…阪神淡路大震災を機に発足。年間を通じて最も血液が不足する時期に活動。
  • 災害時の義援金支援…イントラネットの活用により、緊急寄付に即座に対応。
  • 「軽ボラ」シリーズ…社員の自主的なボランティア活動として10以上の継続的ボランティア活動が定着している。(例:花ボラ/パンジーの苗を育て寄付。パンボラ/手作りパンを社内販売等。)
コマツユニオン 1.社会貢献活動・未使用葉書の収集活動…キャンペーン期間を設け、社団法人日本青年奉仕協会に送付。
  • 愛のかがり火募金…ボランティア基金からの拠出を合わせて地域施設に寄付。
  • カンボジア学校建設プロジェクト…96年の組合結成50年を記念しての事業。個人カンパ、チャリティ、バザーの収益金で7,655,255円を寄付。
2.組合員のボランティア支援
  • ボランティア基金の運営…各支部単位のボランティア活動への資金援助を実施。
  • ボランティア休暇制度…91年より導入。長期は1ヵ月から2年で休職扱いとし給与相当額の援助金を支払い、短期は年間12日で特別休暇とするというもの。
  • 情報提供…50周年記念事業の一環として「ライフデザイン&ボランティアガイドブック」を発行。初めてボランティアに参加する人にもわかりやすく解説。

(2)企業ボランティア活動への取り組みによる従業員の意識変化

  ヒアリングでは、いずれの企業でもボランティアの推進、参加によって、従業員の間にボランティアに対する関心が高まったとの指摘がなされた。
  特に会社が社会貢献活動を率先する生命保険会社では、新人研修時にボランティアに関する募金体験を含む研修が行われていた。社員はこの体験を通じてボランティアに対する意識を喚起されていた。労働組合が主導する企業では、ボランティアに対する経済的な支援基金の設立や途上国に対する学校建設プロジェクトといった大きな社会貢献事業の存在それ自体が社員の関心向上につながっているということであった。

<ヒアリングより>
  • NEC
    • 定年前の社員の関心度が高まっている。時間的余裕があるため、実際にボランティア活動に参加し、その楽しさを体験し、関心度・参加度が高まっている。
  • アメリカンファミリー
    • 90年頃からボランティアを推奨する社会的な気運がみられ、当社でもいわゆる“できることからはじめる”ボランティア活動が自然と根付いてきた。
    • 新入社員研修では2時間に渡り、社会貢献、ボランティアのプログラムを行っており、実際に街へ出て、がん遺児奨学基金の募金活動を行う。直接、募金を受け取る社員は感動し、モチベーションが高められていく。
  • コマツユニオン
    • 以前は組合員の一部有志による活動から始まったが、昭和61年の組合結成40周年記念事業としての「ボランティア基金」設立以降その気運の高まりが見られた。
    • その後、50周年での「カンボジア学校建設プロジェクト」、「ライフプラン基金」の設立等大きな事業による後押しの効果もあり、多少ではあるが関心が高まってきた。
企業ボランティアの推進が社員のボランティア意識向上と参加につながる

  これらの企業では、自社の社会貢献のあり方についてWEBサイトを構築し、内外に情報発信している。中でもNECでは、ボランティア活動に関する各種情報提供を行うWEBサイト「ボランティアワールド」を運営している。その中では、各種ボランティアの機会に関する情報に加え、「楽しんでいます。私のボランティア」として、社内ボランティア活動経験者の活動状況とそこで得た感想など、本人から写真入りで紹介してもらうコーナー等もあり非常に充実したものとなっている(以下参照)。
  これらの企業がボランティア活動を推進しその仕組みを整えることは、それ自体が社員のボランティア活動に対する意識を喚起する環境としての役割を果たしていると言え、職場内でボランティア活動について見聞きした経験がある人はボランティア活動に対する関心が高いとする、先の意識調査の結果を裏付けるものといえる。
  また先のWEBサイト「ボランティアワールド」における「楽しんでいます。私のボランティア」では、社内ボランティアへの参加が一つの契機となり、地域のボランティア活動に継続して参加するようになった社員たちの声が生き生きと掲載されている。例えば以下のような声である。企業のボランティア推進は、直接的にも間接的にも従業員のボランティア活動への関心と行動が生起する重要なファクターであることが窺える。

<NEC「ボランティアワールド」サイト内「楽しんでいます。私のボランティア」より抜粋>

  この活動をはじめたきっかけは?
  会社が以前行っていた「こどもネイチャーキャンプ」に現在活動している福祉施設の子が参加していたのをきっかけに、キャンプの後も参加したスタッフの有志が定期的に訪問して子どもたちと遊んでいました。私は遊ぶだけの訪問には迷いがありました。あるとき、職員の方とお話する機会があり『実験や工作が好きな子が居るけど、職員は科学が疎いので、実験などをやりに訪問してみませんか。』という誘いを受けました。特に実験の経験があるわけではなかったのですが、テーマを持って行くのならとっつきやすいかと思い、実験の小道具を抱えて訪問に合流するようになりました。

図表 3_2 NECのWEBサイト「ボランティアワールド」の表紙画面

  図表 3_2 NECのWEBサイト「ボランティアワールド」の表紙画面

(3)気運醸成(=企業社員のボランティア意識を高める)のための方策

  社員のボランティア意識を高めるための方策について尋ねたところ、単なる情報提供に留まらず、社員の動機づけを高める戦略的アプローチの方法や、企業としての取り組みやすさの原則論まで、様々な指摘がなされた。
  中でも、ボランティアのきっかけづくりを強力なものとすること、さらには楽しさの演出等を大切にすること等は先の意識調査結果と呼応するものであり、企業の場においても地域社会においても、人々をボランティアの場に引き出す課題は変わらない。また企業がボランティアに取り組む上で特徴的なのは、トップからの情報発信と事業ドメインとの適合性といった部分であり、ボランティアが企業活動の一環として正当化されることが重要であることを示している。要点は以下のとおりである。

<ヒアリングより>
  • 強力なきっかけづくり(コマツユニオン)
      まだまだボランティアに対する意識は今一つ定着しているとはいえず、最初の一歩が踏み出せない様子がうかがえる。一度参加してしまえば、継続して活動する場合が多いので、きっかけ作りとして最初は半強制的にでも参加を求めていき、その後、自発性に委ねていきたい。
  • トップの理解と情報発信(アメリカンファミリー)
      社員のボランティア活動を高めるためには、企業の活動の一環として上層部がそれを伝え、ともに活動する姿勢を見せることが重要といえる。当社の上層部はAFLACフォーラム等の社会貢献活動に関するイベントへの参加を最優先に考えている。
  • 社員の動機づけを意識した戦略的な展開(NEC)
      ボランティア活動への参加度を高めるには、バラバラな対応をしているだけでは不十分であり、企業のマーケティング活動と同様に戦略的なアプローチが必要といえる。
    • ボランティア活動の企画段階…社員に対しての興味づけが重要であり、“おみやげ”、“有名な講師の招待”など誘い水的なアイデアが必要。これらによって、まずは、現場にひき出す。
    • ボランティア活動の実施段階…やはり「楽しかった」という体験がない限り、リピートにはつながらないので、単にホスピタリティ精神だけではなく、参加者が楽しめる演出に注力する。
  • 象徴的な大事業と地域的活動の組み合わせ(コマツユニオン)
      また、参加者を増やす為には、日常的な地域での活動だけでなく、カンボジアプロジェクトのような大きな企画を提案することで、きっかけを作っていくことが有効な方法と考えられる。
  • 企業ドメインとフィットした活動展開(コマツユニオン)
       阻害要因として労働時間が長いことが理由になることもあるようだが、やはり企業がボランティア活動を推進する場合、本業との関係が重要であり、別分野でのボランティア活動では、その正当性の理解が難しい。

(4)地域の協力体制構築に向けたニーズと取り組み

1.協力体制に対するニーズ

  企業がボランティア活動を行うときには、ボランティア活動の場を得たり、有効な活動をするために、地域の行政、市民団体や福祉施設等との連携の下に実施するケースが多い。
  今回の調査においても、今後の連携等を不可欠とするニーズは強い。
  こうした中、今後の学校との新たな連携についても可能性が表明された。また有効な連携には目的の共有を必要すること、さらにはシナジー効果を発揮し得る総合的な協力体制が必要とされた。

<ヒアリングより>
  • 企業ボランティアには地域における連携が不可欠
    • 地域社会への貢献が大きなテーマである以上、「地域社会との共同」「できるだけたくさんの社員の参加」が重要となる。NPO、地域行政、市民団体との連携は必要条件といえる。(NEC)
    • 他機関との連携は絶対に必要と考える。当社のペアレンツハウスの場合においても厚生省(当時)と「がんの子供を守る会」なくしては実現できなかった。小児がんの子供を持つ親は絶望しており、その気持ちを受け止めてくれているのはこういった団体のハウスマネージャーである。(アメリカンファミリー)
  • 学校との新たな連携の模索
    • もう1つの大きな存在としては、若いパワーのある学生がおり、また充実した施設を保有している学校というセクターがあげられる。(NEC)
  • 目的を共有し、シナジー効果を発揮する総合的な連携体制
    • 連携を促すにも、ただ協力して欲しいというスタンスだけではなく、企業の方針、目的を明確にし、共同事業として同じ目的に向かって行えることが重要となる。(アメリカンファミリー)
    • 今後は、産・官・民・学の4つのセクターが協力する必要があり、それによってより大きなシナジーが生まれるものと考えている。(NEC)
2.具体的な協力体制づくりの例

  前項で記載した、企業の地域貢献、ボランティア活動支援等を促進するための協力態勢づくり・ネットワークづくりは、一部ではあるが具体的な取り組みが始まっている。
  以下の「みなとネット」は大手企業を中心とした独自のネットワークである。これに対して「さがみはら企業の社会貢献推進会議」は、NPOを中心に、商工事業者と市民、行政等が結びつく地域社会の関係に根づいたネットワークである。
  中小諸都市においては、事業者単独で充実した社会貢献を行うのは困難な場合が多い。しかしながら、NPOや商工会・商工会議所等を中心に連帯することにより(商店街事業等地域活性化においてそのような例は既に多い)、有効な社会貢献事業・ボランティア活動を展開できる可能性がある。また相模原の例は、このネットワーク自体が有効な情報発信装置となり、ボランティアに係る地域レベルの社会的気運醸成を促進する有効な手立てとなり得る可能性を持っている。

<大手企業を中心とした企業社会貢献のネットワーク;みなとネット>
  • 概要
      1996年4月に設立。東京都港区内に立地する企業各社(大手企業中心の19社及)の社会貢献担当者のネットワーク。港区に根を張った地域社会貢献活動を推進するとともに、これを通して各社社員のボランティア参加による交流を行っている。会費が無い、会則が無い(運営のルールはある)、代表者が居ない、というのが特徴であり、会員全員で工夫し楽しみながら運営している。
  • 主な活動内容
      【定例会開催】
       月1回の定例会を開催。各企業の社会貢献活動に関する情報交換を行い、企業の社会貢献活動の活性化を図っている。さまざまな活動の情報交換をする中で、多くのヒントをもらい、各社の社会貢献活動の参考にしたり、活動を協働で企画したり、担当者の学びの場となっている。時々はさまざまなNPO団体が活動の紹介に訪問し、企業とNPOの交流が図られている。
      【イベント開催】
      年に2回程度、みなとネットの独自企画でNPO団体と協働した活動を実施している。参加各社の社員、港区民が参加できるボランティアイベントを実施することで、各社社員の交流、各社社員と港区民の交流が図られている。
    (参加団体)
    • 伊藤忠商事株式会社
    • NEC
    • 森永エンゼル財団
    • 沖電気工業株式会社
    • キーコーヒー株式会社
    • キッコーマン株式会社
    • 共栄火災海上保険相互会社
    • コスモ石油株式会社
    • サントリー株式会社
    • 株式会社ジャパンエナジー
    • 株式会社ダイエー ・東京ガス株式会社
    • 株式会社東芝
    • 日本たばこ産業株式会社
    • 株式会社日立ハイテクノロジーズ
    • 富士ゼロックス株式会社
    • 本田技研工業株式会社
    • 松下電器産業株式会社
    • ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社
    • 社会福祉法人港区ボランティアセンター
<市民団体と企業が連携した地域レベルのタスクフォース;さがみはら「企業の社会貢献推進会議」>
  • 概要
      さがみはら「企業の社会貢献」推進会議は、市民が自らの力で、支え合い育ちあう豊かな市民社会をめざし、市民活動団体との連携のもと、企業の社会貢献を推進するシステム作りを研究する企業有志の会議である。17年3月までの期間限定で1年間の研究実践を行う。
      当該地域のまちづくりを推進するNPO等が中心的な役割を果たし、企業関係者、地域行政等が参加する。
  • 主な活動内容
    • 1)相模原市内の企業の社会貢献事例の調査
    • 2)企業の社会貢献についての学習会の開催
    • 3)企業と市民・市民活動団体との意見交換会の開催
    • 4)企業と市民活動団体による協働事業の模索研究
    • 5)企業と市民との協働事業のモデル的実践
    • 6)企業の社会貢献のシステム作りに向けた提言書の作成と配付
    • 7)「企業の社会貢献」フォーラムの開催
    • 8)企業と市民、行政等の協働事業案の公募
    • 9)ホームページ、メーリングリストによる情報発信
        
図表 3_3 事業構築フローチャート(概念図)

  図表 3_3 事業構築フローチャート(概念図)

図表 3_4 さがみはら「企業の社会貢献」推進会議 年間スケジュール

  図表 3_4 さがみはら「企業の社会貢献」推進会議 年間スケジュール

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生涯学習政策局社会教育課

-- 登録:平成21年以前 --