【中学校・交流に関わる体験活動】 小中連携の活動を通した自己有用感を育てる体験活動 兵庫県神戸市立向洋中学校

学校の概要
  1. 学校規模
    • 学級数:14学級(内障害児学級1学級)
    • 生徒数:466人
    • 教職員数:28人
    • 活動の対象学年:第2学年・150人
  2. 体験活動の観点などから見た学校環境
    • 本校は、神戸市が開発した人工島六甲アイランドを校区とする。地域の人々はコンパクトタウン化を目指して街作りを進めており、島内で生活が完結できる。従って、生徒が島外の人々と交流する場面が少ない。また、人工島であることから自然とのふれあいが少ない。
    • 外国人の居住が多く、外国人だけの住む住居棟や外国人をサポートする商店、外国人学校もある。また、生徒も英語実用検定に多数受験し資格を得ている。
    • 学校に対する支援や児童・生徒の育成に対して地域は熱心である。トライやる・ウィークの受け入れ先でも、島内だけで55カ所の事業所に加え、3名の指導ボランティアの方の協力があった。
  3. 連絡先
    • 〒658‐0032
       神戸市東灘区向洋町中2丁目
    • 電話:078‐857‐2481
    • FAX:078‐857‐2482
    • ホームページ:http://www.kobe-c.ed.jp/koy-ms/
体験活動の概要
  1. 活動のねらい
    • 体験活動を通して、自己有用感や自尊感情を育てる。
    • 異文化への理解と日本との同質性の発見、日本の良さの再発見を通して、21世紀に生きる国際人と資質を磨く。
    • 色々な人々との交流を通して、コミュニケーション能力を育てる。
    • 人や社会に奉仕する心を育てる。
  2. 活動内容と教育課程上の位置付け
    (単位時間数、日数)
    • 帰国生徒を迎えた交流会
        (総合的な学習の時間4時間)
    • 外国人研修生との交流会
        (総合的な学習の時間6時間)
    • JICA(ジャイカ)のOB・OGとの交流会
        (総合的な学習の時間6時間)
    • 小学生児童との交流・英語ゲストティーチャー
        (総合的な学習の時間4時間)
    • アイマスク体験と講演会
        (総合的な学習の時間6時間)
    • 校区内清掃活動
        (総合的な学習の時間4時間)
    • 校区を紹介する
        (総合的な学習の時間4時間)
    • 三土中学校との交流
        (学校行事5時間、授業1時間、総合的な学習の時間2時間)

1 活動に関する学校の全体計画

(1)活動のねらい

  昨年度の本校での活動は、これまでの本校教育活動の中にあった様々な体験活動を、新教育課程に位置付けることから始まった。従って、昨年度は多様な体験活動が混在し、系統立てることなく実施することとなった。また、本校と小学校・高等学校との連携も、年度当初に打ち合わせができなかったため、時間的な制約などから十分に行うことができなかった。
  このような反省から、本年度は、1各学期に核となる体験活動を一つずつ行う(特に本校の環境から2~3学期の国際理解単元に重きを置く。)、2小学校、高等学校との交流活動を年度当初に決めておく、3関係諸機関との打ち合わせを十分行うことなどを課題としてまとめた。そうして、第1学年3学期の活動を引き続く形で、生徒の自己有用感と自尊感情が育つ体験活動を行うこととした。(表1参照)

  ※ 自己有用感とは、自分がこの集団の中で役に立っている、この集団に必要な人間であるという実感のことである。これを持つ時、人間のモチベーション、意欲が高まると言われている。この自己有用感を持つ生徒は、プラス思考であり何事にも積極的に参加し活動する。神戸市校長会編『変容する子どもたち』1)の中では、自己有用感、安定感、充実感の3つを「生き甲斐の3つの視点」としてまとめている。

  さらに小学校や高等学校などの異校種間の交流、特に小学校との交流活動を行うことで、小中連携の課題について研究を進めることとした。特に、本年度、神戸市では、「アクティブプラン」)の中で「まっすぐ育て9年プラン」を策定することを定めている。本校では、本事業の交流活動の中で、問題点を探ろうとした。
  なお、そのプランの必要性については、以下のように述べられている。

  「まっすぐ育て9年プラン」を策定し、児童生徒の健全育成をさらに進める。・・・小学校から義務教育の9年間を通じて規範意識や倫理観の育成を図っている。中学校2年生で急に規範意識の変容がみられるが、その素地は小学校期に形成される。・・・小学校と中学校が生徒指導の面で連携・協力していくことが大切であり、従来の情報交換から一歩進んで行動連携を図っていく。

<表1>自己有用感を育てるためには

(2)全体の指導計画

  本年度第2学年で実施する体験活動を以下の<表2>にあげる。

   活動名称 活動内容、教育課程上の位置付け
1 4
  ~
  7
トライやる・ウィーク 65 兵庫県全県で第2学年で1週間にわたり体験活動をおこなう。本校では60カ所の事業所ボランティアの方の協力で実施した。)
  
[総合的な学習の時間、特別活動、道徳]
7
  9
美しいまち・人・学校校区
   清掃活動
4 校区内を全校生で分担し、保護者も参加して清掃活動。2学期は、小学校との合同作業も計画。
  
[総合的な学習の時間]
2 9 体育会
   社会福祉施設との交流
2 デイケア施設のお年寄りを招待。付き添いやお世話は、六甲アイランド高校生徒。接待の係生徒を中心に、校内では高校生と協力してお世話をする。
[特別活動/学校行事]
10
   ~
   11
三土中学校との交流
   校区を紹介する文化祭授業公開ウィーク
4
   5
   3
本校と交流をしている佐用郡南光町にある三土中学校)との交流。文化祭及び授業公開ウィークにおける本校での交流。地域を紹介するレポートを作成し、三土中学校に送付。(これは英語版を製作する予定)
[特別活動/学校行事、総合的な学習の時間]
10 文化祭展示 7 校歌額の作製
[総合的な学習の時間]
11 人権旬間
   アイマスク体験・講演会
7 ねらい:アイマスク体験(福祉体験)をすることで、人権に関する意識を高める。本校では、11月に全学年で人権旬間として人権について考える時間を設けている。
  
[総合的な学習の時間、特別活動、道徳]
12 外国を知ろう
   JICA(ジャイカ)のOB・OGによる講演会
8 ねらい:外国事情の把握。外国で活躍する日本人を知る。JICA(ジャイカ)と連携して講演会を実施する。なお、国際理解単元の導入として道徳教材を利用する。また、社会科夏休みの課題として自分の興味ある国を調べる。
  
[総合的な学習の時間、道徳、社会]
12 外国語を教えよう
   小学校児童との交流
   総合英語での活動
7 小学校総合の時間に、生徒が小集団でゲストティーチャーとして活動する。2つの小学校で実施。事前事後指導は英語科の時間におこなう。
  
[総合的な学習の時間、英語]
3 1 市民救命士講習会 4 1時間がビデオ、2時間が実習で心肺蘇生の実技を学習する。応急手当普及員が講師となる。
  
[総合的な学習の時間、道徳]
2 外国を知ろうパート2
   外国人研修生との交流
10 発展途上国から日本にきている研修生の方との交流。交流を通して外国を知る。事前指導として、当該国の国調べを社会の時間におこなう。また、最後に外国の方とどのように交流するかを考える時間をもうける。
  
[総合的な学習の時間、社会]
2 新入生説明会 7 新入生を迎えて、生活・学習について小学校6年生に説明をする。
  
[総合的な学習の時間]

  <表2>本年度第2学年の体験活動一覧 太字が本事業の活動。時数は事前事後活動を含む。

2 活動の実際

  <表1>であげたように、本校の活動は4つの大きな活動を2年間にわたっておこなう中で、当初のねらいを達成しようとしている。そこで、ここでは、昨年度実施した新入生説明会の活動と本年度実施した小学校生徒との交流を述べることとする。

(1)新入生説明会の活動<表3>新入生説明会単元の流れ

1.事前指導

   事前・事後指導を含む全体の流れを右の<表3>に示した。このほか、班長のみの班長指導を行っている。

2.活動の展開

  当日は、2小学校の6年生徒を12班ずつに分けて説明をした。本校生徒は24班に分かれて小集団で説明するようにした。当日は、14教室を利用した。説明内容については、事前に担任教師がチェックをした。いろいろなパフォーマンスも認めた。そこで、標準服を見せたり、教科書を回覧したりする班もあった<図1参照>。教師は生徒の主体性を大切にしながら、側面から支援した。事後指導で小学生にアンケートをとるという活動を事前に知らせていたので、中学生の方が緊張した面持ちであった。小学生は、当初緊張していたが、だんだんリラックスして説明を聞いていた。

3.事後指導

   事後に、小学校生徒へのアンケートを実施し、その集計をもとに自己評価をさせた。

(2)外国語を教えよう‐小学校総合でのゲストティーチャー‐での活動1事前指導

1.事前指導

   英語の時間に3時間実施。10月の考査時に、活動の趣旨を伝えやりたい活動をあげさせていた。その後、英語によるゲームを各班ごとに企画し練習する。

2.活動の展開

   当日は、2小学校の4年生徒を対象に交流活動を行う。今回は、中学生が小学校に出向いて活動する。新入生説明会同様小集団に別れて活動する。小学校は、総合的な学習の時間を充当する。

3.事後指導

   国際理解単元の最初の部分に当たる活動である。国際理解単元終了後、まとめて評価をする。

  <表3>新入生説明会 単元の流れ

日時 [テーマ] ねらい
  1月22日
   集会
[活動のねらい]
  1. 活動のねらいについて、説明を聞き、全体の流れを確認できる。
1 1月24日
   総合
[発表の分担]
  1. 発表の内容を大まかに決めることができる。
  2. 班員で、役割を分担することができる。
  3. 発表の原稿を作成することができる。
      
2 [原稿作り]
  1. わかりやすさを考えて発表の原稿を作成することができる。
  2月5日
   集会
[全体注意]
  1. 全体の流れについて再確認することができる。
  2. 会場準備の要領について確認できる。
      
3 2月5日 [会場準備]
  1. 班員で協力して会場を準備することができる。
      
3

4
2月5日
   2月6日
[事前練習]
  1. 班員で協力して、発表の事前練習ができる。
  2. 練習の反省から、発表内容を練り直すことができる。
5 2月6日 [新入生説明会]
  1. 班員で協力して、新入生に向洋中学校の生活・学習について説明できる。
      
6 2月7日 [ふり返り]
  1. 活動内容についてふり返りをして、自己評価をすることができる。
  2. ワークシートをまとめることができる。
      

<図1>新入生説明会の様子
<図1>新入生説明会の様子

3 体験活動の実施体制

(1)学校支援委員会の体制

  本校では、学校支援委員会として、これまであった「トライやる・ウィーク推進委員会」を基礎に組織している。メンバーは、校長、教頭、地域振興会代表、自治会代表、婦人会代表、青少年育成協議会代表、児童館館長、2小学校校長、高等学校長、PTA代表、3校担当者である。すでに、トライやる・ウィークの活動の中で、地域の人々の意向を十分にくみ上げる組織として機能している組織を拡大した。本年度は、校区内の外国人の方について紹介をして頂いたりして、側面からの支援をいただいている。また、校内には豊かな体験活動推進委員会を組織し、月1回定例的に会議を持っている。

4 体験活動の評価の工夫と指導の改善

  前記の2つの体験活動では、ポートフォリオ評価を行った。活動終了後に評価表を書かせた。体験活動全体の評価は、年度末の総合的な学習の時間の評価活動の中で行うことにしている。

5 体験活動の成果と課題

  昨年度の新入生説明会などの活動を通して見られた体験活動の成果と課題は以下の通りである。

成果

  1. 小学生の不安を取り除き中学生活に希望を持たせることができたこと。
  2. 中学生に自己有用感、自尊感情を育てることができたこと。
  3. 神戸マイスター講演会やトライやる・ウィークの活動を通して、大人への尊敬とあこがれを持つ生徒が増えたこと。
  4. 小学校と中学校の教師間での連絡が密になったこと。また、JICA(ジャイカ)などの関係諸機関との連携が、これまで以上にとれるようになったこと

課題

  1. 小中で活動のねらいが異なること。従って、ねらいをお互いに明確にする必要があること。
  2. 中学校は各小学校で、同時期に同様の内容で活動を行う必要があること。
  3. 教育課程や時程のちがいから日程の決定が難しいこと。
  4. 交流の意義の再確認をする必要があること。

  <表5>にあげたように、中学生の自己評価は大変厳しい。これは、これまでの各種活動での自己評価で共通してみられる傾向であり、そのままの数値だけで計ることはできない。現に記述部分では、「小学生の人全員を中学生になる希望を持てるようにしないといけなかったと思う」というように、全員を満足させられなければ活動が失敗であると考えていることがわかる。さらに、「今まで一番下の学年で、教えるんじゃなくて教えられる方が多かったので、やっぱり緊張したけど、そういうものになれておかないと、4月から困るなあと思った。あと、先輩ってこんなのかと、少しつかめた気がした」、「今度入学してくる新入生に、先輩としてふさわしい態度で親切にしてあげたいと思う。先輩という自覚を持って行動したい」という記述も見られた。このことから、生徒たちに「自分が学校の代表として、先輩として接している」という感覚が生まれていることがわかる。
  また、小学生も<表4>にあげたように、大多数の児童が肯定的な評価を下している。記述部分では「とてもやさしく、わかりやすかったです。いい先輩たちだと思い、中学校に早く行きたくなりました。ありがとうございました」や「最初は不安でしたが中学生の人たちが楽しそうにしていたの<表4>小学生による評価で、不安がなくなりました。説明ありがとうございました」という記述が多くあった。このことから、小学生にも肯定的な感覚をよび起こした活動であったことがわかる。
  さらに、評価で留意すべきは、2年間の活動の中で個々の生徒が如何に変容したかを見ていくことが必要だという点である。この点では、新入生説明会、神戸マイスター講演会、トライやる・ウィーク(特に事後発表会)、小学校でのゲストティーチャー活動で、発表する力やコミュニケーション能力が養われてきている。

評価項目 ×
中学校の生活やようすがわかったか 23.4 73 3.6 0
中学生の説明はどうだったか 29.2 55.5 15.3 0
説明の声はどうだったか 34.3 49.6 16.1 0
中学生の態度はていねいだったか 35 56.9 8 0
中学生になる希望を持てたか 29.2 58.4 10.9 1.5

  <表4>小学生による自己評価

自己評価項目 大変よくできた よくできた あまりできなかった できなかった
活動を始める前にこの活動に大変興味関心を持っていた 15.4 48.5 33.1 2.9
活動のねらいがよくわかりそれに従って毎時間活動できた 8.1 56.6 34.6 0.7
班員で役割分担ができた 53.7 34.3 10.4 1.5
自分の役割分担を確実にやり遂げた 34.8 48.1 15.6 1.5
原稿をしっかり書くことができた 22.2 50.4 23 4.4
中学校の生活と学習について小学生に伝えることができた 15.8 59.4 21.1 3.8
大きな声ではきはきと発表できた 19.4 41 37.3 2.2
小学生の立場に立って行動ができた 4.5 44 47.8 3.7
上級生らしい活動ができた 8.2 55.2 35.1 1.5

  <表5>中学生による自己評価

参考文献

  • 1)神戸市立中学校校長会編『変容する子どもたち』2003 みるめ書房 ISBN4‐901324‐10‐1
  • 2)神戸市教育委員会「平成15年度特色ある神戸の教育推進アクティブプラン」2003
  • 3)トライやる・ウィークについては、兵庫県教育委員会「地域に学ぶ中学生・体験活動週間トライやる・ウィーク指導の手引きH15」参照。また、神戸市内の中学校の活動については、伊藤博「兵庫県の「トライやる・ウィーク」に学ぶ地域教育プランとしての総合的な学習」(今谷順重編『総合的な学習で人生設計能力を育てる』2000ミネルヴァ書房ISBN4‐623‐03235‐3所収)に詳しい。本校の活動については文集を製作している。
  • 4)佐用郡南光町宍粟郡山崎町三土中学校事務組合立三土中学校「宍粟郡へき地教育研究発表会研究紀要」2002

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初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --