学校教育の情報化に関する懇談会(第11回)議事概要

1 日時

平成23年3月7日(月曜日)10時~12時

2 場所

文部科学省東館3F講堂

3 委員出席者(敬称略)

天野一、新井紀子、安西祐一郎、五十嵐俊子、馬野耕至、小城武彦、國定勇人、重木昭信、関口和一、玉置崇、千葉薫、中村伊知哉、西野和典、宮澤賀津雄、村上輝康

4 文部科学省出席者

鈴木文部科学副大臣、清水文部科学事務次官、金森文部科学審議官、森口文部科学審議官、板東生涯学習政策局長、山中初等中等教育局長、伊藤大臣官房審議官(生涯学習政策局担当)、尾崎大臣官房審議官(初等中等教育局担当)、德久大臣官房審議官(初等中等教育局担当)、平林初等中等教育局教育課程課長、梶山初等中等教育局教育課程企画室長、森初等中等教育局教科書課長、永山文化庁著作権課長、齋藤参事官(学習情報政策担当)、増子参事官付情報政策室長、中村参事官付企画官、妹尾参事官補佐、中澤国立教育政策研究所教育研究情報センター長、神代国立教育政策研究所教育課程研究センター長

5 議事概要

(1)鈴木文部科学副大臣挨拶

 前回は、各ワーキンググループから報告いただいた。その後、「熟議カケアイ」を実施し、このビジョンの骨子や各ワーキンググループの報告に対して、様々な意見を国民の方々から直接頂いた。

 本日は、これらをもとに、昨年8月に取りまとめた骨子を肉づけした教育情報化ビジョンの案を示させていただく。是非忌たんのない意見を頂きたい。

(2)齋藤参事官より、資料1(教育の情報化ビジョン(案))、及び資料2(「熟議カケアイ」の結果概要)について説明。

【馬野委員】

 前回の会議で、デジタル教科書の定義を明記するように求めたところ、ビジョン案の溶け込み版の9ページの一番下の丸に、デジタル教科書は、「既存の教科書の内容を含み高機能化した、情報端末やデジタル機器に提示されるコンテンツ等に相当するもの」と出てくる。コンテンツ等とは何なのかというと、脚注に「編集・採点など、デジタル教科書としての基本的な機能を含むものとする」とあって、基本的な機能には編集・採点の他にどんな機能があるのかが、このページ及び次のページを見てもわからない。恐らくそれは17ページの表の2、「今後デジタル教科書・教材、情報端末に期待される機能の例」、この中の、例えば音声の再生や、文字、画像拡大などといったものが基本的機能に含まれるのだろうと思うが、いずれにしろ読みづらいし、わかりにくい。ここは、デジタル教科書としての基本機能には何が入るのかということを期待される機能の中からきちんと仕分した上で、例えば高機能化した情報端末やデジタル機器向けの教育用コンテンツのうち、既存の教科書に加え、編集・採点、音声再生、文字、画像拡大などの機能を含むものというような記述にしてはどうか。

 以前、「検討する」や「検討を行う」というのは、世間一般にやらないという意味でとらえられている、余り多用しない方がよろしいのではないかと指摘したが、13ページの一番下の丸とその上の丸の文中に連続して出てくる。教育の情報化に対応した学校の施設の在り方、また高速ネットワーク環境等の整備の具体的な条件整備の方向性やスケジュール、費用負担の在り方、せめてこれらが短期的な課題なのか中期的な課題なのかを明示した方がよろしいのではないか。

【安西座長】  

 デジタル教科書については、議論がもう少しあるとよいと思う。附属資料のカラーの絵の中に学習者用表現ツールと書いてあるが、これはデジタル教科書の中に入るのか。今の教科書には、生徒・児童が書き込む部分まで掲載されているものもあるが、それをデジタル教科書ではどのように扱うのかということも含めて、意見を頂きたい。

【関口委員】  

 先ほどの馬野委員の指摘に関して、脚注にデジタル教科書の機能を含むものという表現があったと思う。表現が不明確な部分は修正してほしい。

【重木委員】  

 デジタル教材の部分で、「質の高いデジタル教材をデータベースとして集積・共有化していくために」という部分があるが、質の高いデジタル教材の全国レベルでの集積・共有化の在り方を検討することも重要であるという書き方になっているが、デジタル教材になった場合の一番のメリットは、劣化なしにコピーが可能で、著作権問題がクリアできれば、皆が共有でよいものを使えるというところに一番の特徴があると思うので、この重要性はもっと強調して、在り方を検討することも重要であるという程度ではなく、積極的に推進する必要があるとした方がよい。

【安西座長】  

 確かにデジタルであることの技術的なメリットが余り世の中では議論されることはないように思う。 

【関口委員】  

 大学入試における携帯電話による投稿問題というのは、恐らくインターネットと教育という関連で最も話題に上り、議論された出来事であると思う。教育の情報化ビジョンをまとめるに当たっては、具体的にどこかにそれについての言及があってもよいのではないか。

【新井委員】  

 学力の3要素に対応した授業像の例について、家庭学習に関する記述がないが、このことはよくないと思う。例えば、中学、高校等の各教科における家庭学習用教材のダウンロードや、レポートを提出するといった活動、つまり、自分の家の中でプリントをダウンロードし、印刷するようなことが記述されていないように思う。

 協働学習の部分について、「小学校、中学校、高等学校等の国語において、グループごとに適宜デジタルカメラやビデオ等を使って調べるとともに、調べた内容を学級新聞など新聞の形式で表す活動で」とあるが、学級新聞とは、通常は紙で書いた壁新聞のようなイメージだろうが、最近では紙だけではないと思うので、紙に限定しない方がより時代に合っていると思う。

 障害のある児童・生徒に対しての特別支援の教育における情報通信技術の活用の部分について、新たな情報通信技術が教育の現場に導入されることに伴って、学習においての困難さを感じるような学習障害が生まれる可能性がある。それについて常に注視し、障害があった場合、それを支援するというような緊急体制が必要だと思うので、必ず盛り込んでほしい。

【安西座長】  

 一斉授業がベースになってきた教育の在り方からの延長線上で積み上げていくという考え方と、インターネットとデジタル機器の導入によってどこでも学習ができるようになってくるという時代の流れとの折り合いをどのように具体的につけていくかということが非常に大きな課題になっていると思う。 

【玉置委員】  

 「学びの場における情報通信技術の活用」の部分で、学校でずっと授業をやってきた人間としては、「一斉指導による学びに加え」の「加え」という言葉、更に「一人一人の能力や特性に応じた学びや、子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学びを創造」の「創造」という言葉に少し引っかかりを覚えた。情報通信技術を活用しない現在の授業においても、すぐれた日本の教師は一斉指導をする中で個別学習により学びを強化する場面や、子供たちが学び合う学習を通して学びを高める場面を実際はたくさんつくり出している。「加え」と「創造」という言葉から、情報通信技術を活用することで何か新しい学習形態が生まれてくるというような解釈をされるのではないかと考える。今までの現場の先生たちがこれを読んだときに、何か否定されているようにとらえられたら、この懇談会の本意ではないのではないか。

 代案として、「これらの情報通信技術の活用は、一斉指導による学びにおける活用に加え、一人一人の能力や特性に応じた学びや、子供たち同士が教え合い学び合う協働的な学びにおいても活用する」といった、いわゆる情報通信技術を活用すると今やっている授業がより豊かになるというようにすればよいと思う。

【安西座長】  

 できるだけ今の教育現場からスムーズにつながらないといけないと思う。

【村上委員】  

 何をやるかということについては非常に明快なビジョンができたと思うが、NICERを前提としない環境の中で、誰がやるのかが気になった。そのことがもう少し具体的に見えるような記述があるとよい。

 「21世紀にふさわしい学びの環境」を図示したことで、非常にわかりやすくなったが、このようなアーキテクチャーで行くことを提示するのであれば、外部とのインターフェースをオープンにするということも書き込んでおく必要があると思う。

 今回、関口委員が御指摘になったような事件も起こったということがある。もう一度、これをもう少し厳しい視点で見る必要があると思う。デジタルディストラクションの問題、ネットワークを多用するような環境ができてくると、学習に対して集中をどういうふうに維持するかが先生方にとって非常に厳しいテーマになると思う。私の経験から言いたいことは、教室でのネットワークの接続のコントロールをだれができるのかということと、基準やガイドラインが必要になると思うが、それを教員が持てるようなファンクションは、この段階で入れ込んでおいた方がよいと思う。

 教育CIOについての記述がかなり詳細に記述されている。非常に重要なことだと思うが、IT戦略本部でも、これまで各省でやってきたCIOを国として取りまとめるようなCIO機能がいらないのか、これをどのようにしていくのかという議論をしている。教育委員会ベースで設置される学校CIOというのは非常に大事なことだが、国全体として見たときに、今どういう状態になっていて、どこがこれから重要なのかということをモニターして、新しい施策に組み込んでいけるようなファンクションが文部科学省になるわけだが、国のレベルでもあるとよいと思う。

【安西座長】  

 今後の進め方について、文部科学省の方で何かあるか。

【齋藤生涯学習政策局参事官】  

 来年度予算が成立したら実証研究を行っていく。その際には、第7章に示したように、推進協議会というこの懇談会を更に発展的にした形で、議論を引き続き行っていきたいと考えている。

【関口委員】  

 今回のこのビジョンは、教育現場における情報技術の活用・利用、インフラ整備、コンテンツの作成をうたっているが、もう一つの大事な要素として、教育市場を通じた日本の産業競争力の強化という側面があると思う。先週、ドイツのハノーバーでCeBITというITの世界最大の見本市に行ってきたが、日本のIT産業は国際市場の中でほとんど存在が見られない。中国系の企業は700社以上出展しており、韓国も85社出展している中で、日本は8社しか出展していない。中でも際立っていたのは電子政府、電子教育、電子医療の3分野で、そうした成長分野にいろいろなソリューションや製品を各国のメーカー、ベンダーが提供していた。各国の政府や自治体も自社のアプリケーション、ソリューションを展示しており、そこにも全く日本の存在がなかった。今回のこのビジョンはよくまとまっていると思うが、これでどういう教育のツールをつくっていくのかが見えてこない。タブレットやスマートフォンといったパソコンとは違う新しい端末が出てきたこのフェーズは、もう一回、日本が国際市場でITの競争力を強められるチャンスでもある。そういう意味では、教育は国際的に日本の技術力を広めていける最もいい分野だと思う。

 ITを通じた教育の発展や強化は大事だが、一方で教育を題材としてIT産業を強化していくためには、パソコンベースか、タブレットベースかといった戦略も重要だ。タブレットでやるならば、日本全体として共同で新しい仕様をつくっていったらどうか。そうすれば、国際的にリーダーシップが取れるものがつくれると思う。そういったメッセージがこのビジョンには全然入っていない。

【安西座長】  

 この問題は、懇談会の範囲かどうかわからないが、私見として、初等中等教育だけではなくて、生涯学習社会において、今言われたことはこれから非常に大きい話だと思っている。一方で、教育の現場サイドが本当に一生懸命やっていて、そこからの延長線上でやるべき点もあり、関口委員が言われたような方向もある。その一番基本のところをこの懇談会で出せればと思っている。

【五十嵐委員】  

 今、教育を題材にして産業界という話があったが、この懇談会はICTを介してこれからの未来を担う教育の在り方をよくしていくという非常に大事な議論の場であっただろうと考えている。ここで議論されたこのビジョンが各自治体のビジョンにつながり、ICT環境も整備され、サポート体制も確立され、そして大学における教員養成にも影響して、何より最終的には未来の次代を担う子供たちの学習環境がよりよくなって、21世紀型の学びにつながっていかなければ意味がないと思う。そういった観点では、まず初等中等教育においてこの議論を根づかせていかない限りは現場に定着しない。4月から新学習指導要領が始まるが、私はその内容をどう指導していくかという方法論として、ICTが強調されるとよいと思う。

 第5期の中教審の教育課程部会で議論が少しあったと思うが、議事録を読むと、これからの日本の教育の在り方を考えていくに当って、ICTに関しては、建設的な議論が出なかったようだ。今回、このビジョンがうまく取りまとめられた後、今後どうなるのかということに非常に大きな期待をしている。予算化をするための根拠としてだけでなく、今後の日本の教育の在り方をどうしていくべきかという議論に発展していければ思う。

 この懇談会の発展として検討がされるということだったが、できれば影響力もある中央審議会の専門部会としてこの懇談会を発展させてはどうか。教育の情報化特別部会などといった形で、今度はもっと方法論、子どもたちの学びを議論していき、現実の子どもたちの現場での学びが充実していけることにつながっていけばよいと思う。

【中村委員】  

 この懇談会での議論やビジョンの取りまとめの作業によって、民間企業サイドの議論も高まり、認識も共有されてきた。また、国際的な状況への危機感も高まってきている。大事なことは、この「教育情報化ビジョン(案)」の(案)を早くとって、いかに実行していくかということではないかと思う。ただ、なお2つの大きな問題があると感じている。

 一つは、漠然とした不安である。いろいろな方々とこの問題を話すと、まだデジタル化や情報化に対する漠然とした不安が特に年輩の方々に残っていて、デジタル教育を進めると字を読まなくなる、字を書かなくなる、画一的な教育になる、先生が不要になるといった指摘を受けることがある。それは、教育の情報化ビジョンを読まない多くの人々の声だろうと思うが、これが普及にとって大きな壁になっていると思う。これはきちんとした実態やアウトプットが不足をしているからだと思うので、実証実験などを進めていくということが急務だと思う。

 もう一つは、政府の姿勢である。一度は総務省の事業が仕分に遭ったり、NICERが仕分に遭ったりと、ビジョンを取りまとめても2020年まで本当に大丈夫かと不安である。鈴木副大臣に強いリーダーシップを発揮してもらうとともに、関係省庁間の連携と官民の連携といった縦横の連携を深めて力強く進めていく必要があるだろうと思う。 

【安西座長】  

 情報化と言うと、頭から否定されることも多い。政府として教育の情報化に対する取組を強く頑張ってもらえればと思う。

【鈴木文部科学副大臣】  

 政府を挙げて進めていきたいという思いを強く持っている。やはり国民の理解がなければ、幾ら政治主導で進めてもなかなかうまくいかないという部分も今回の教訓だったと思うので、粘り強く国民の理解を得るということと、百聞は一見にしかずなので、1つ1つの具体事例を着々と作っていく、その際、ICTの光・影をわきまえて、当然、現場に導入するときには、そのことをクリアしなければ入れられない、そのことをクリアして、今、先行的に取り組んでいただいているところは更にその取組を深めていただき、それをグッドプラクティスとして、それを参考にして横展開していくところが増えていくということを地道にやっていくということではないかと思っている。そのときに今回のこの教育の情報化ビジョンが1つの指針となって、実際、これをやるということになると、市区町村の教育委員会が学校の設置者であり、それに携わる教員の人事権は都道府県教育委員会にあるので、そうしたところの理解、あるいは、そこにきちんとわかった方々をどれだけ多く養成・配置していくのかという意味で、教育CIOや学校CIOという、学校のことも教育のことも、そしてICTのこともわかったチームを各教育委員会につくっていく。学校の教員や校長も入ったチームをつくっていく。そこにいろいろな、大学をはじめとする専門的なチームが具体的に支援をしていくということをどう広めていくのかというように、この着実な推進ということで今日の議論で改めて痛感した。

 私も、15年前は教育でIT産業を振興することをやっていた立場であった。バイイング・エージェントとしての調達官庁が産業の振興に占める影響は極めて大きいわけであるが、このビジョンは、そのことを否定するわけではないが、IT戦略本部や経済産業省、あるいは総務省で主として担当していて、それを内閣で束ねているという整理ということで理解いただきたい。

 将来、ICT産業を担う人材の育成というポイントはあってもよいのではないか。これはまさにそうした産業を目指す、あるいはそうした関連産業というのは、ICT関連のジャーナリストも含めて、ICTというもので人生を頑張っていこうという若い人が増えることは、ひいては産業の競争力、健全な情報社会の発展ということになる。教育委員会の担当になろうという人もいてよいと思うし、いろいろな分野でICTをベースにキャリアをつくっていこう、あるいは、キャリア教育・職業教育なども重視をしているので、そういう視点は初等中等教育、特に中等教育段階では1つ柱があってもよいと思う。

 今回の議論は家庭教育と学校教育と社会教育と地域教育との連携でという話でやっているわけであるが、その中で大事なのは、具体例で申し上げると、中学校や高等学校のパソコンクラブやITクラブである。ここは相当なポテンシャルを持っていて、今申し上げた将来ICTをキャリアにしていこう、あるいは大学でそういう学部・学科を専攻していこうという動機とかなり連携しているところがある。更に申し上げると、高等学校の国際情報オリンピックというのがあって、受賞者は毎年、文部科学省に来てくれているが、そのメンバーは日ごろから世界的な15歳、16歳と交流するサイトがあって、よい意味でコンペティティブに頑張っている。

 15歳とか16歳ぐらいからのグローバルなICTの天才たちのコミュニティーに日本の若者が入っていけば、近い将来、そういったところから新しい産業を興していく、あるいは社会的に非常に有意義なICTのツールなどのプラットフォームをつくっていく。大体、大学在学中にいろいろなこの世界のイノベーションというのは起こっている。ビル・ゲイツのような、大学中退の人が世界的に広がるものをつくっているわけであるが、そういう人たちはやっぱり中学・高校から非常にそういったことに、日本中のコミュニティーに参加し、今や世界中のコミュニティーに参加している。日本においても、iPhoneの最も人気のあるアプリは中学校3年生がつくっている。そうした人たちは、もう既に日本中で活躍をして世界中の友達と接している。そういった子供たちがモラルもきちんとわかりながら、バランスよく、しかし、自分の好きなこと、タレントを伸ばしていくというような環境をつくる。あるいは、そうした子供たちを指導するというのは相当に難しいことでもあるので、そうした視点も少し盛り込むということは、このビジョンの中では大いにやり得ることだと思う。

【関口委員】  

 文部科学省でICT産業の育成について責任を取ってほしいということではなく、重要なのはユーザーインターフェースをどうしていくかということだと思う。より使いやすいユーザーインターフェースをつくれば、それを日本のデファクトにして、更に2バイトコードのほかの国にも輸出して広めていくことが可能ではないかと思う。つまり、購買する側としてメーカー側に注文を付けていけるのが教育の分野ではないか。

【安西座長】  

 できる限り教育の在り方をベースにして、それをこれからの技術につなげられればよいと私見としては考えている。

【村上委員】  

 先ほど中村委員が漠然とした不安ということをおっしゃられたが、これは非常に大事なことだと思う。私は、情報セキュリティの分野にこの10年ぐらい関わっているが、情報セキュリティについては、国際比較では利用者にとって日本は世界で最も安全な国である。しかし、ネットに対する不安感はどうかと聞くと、世界で最も不安を持っている国民でもある。教育の情報化についても、1つは危機感と、もう1つは、どういうことがこれで達成できるのかという効用の側面に対して明快に主張していく必要がある。マイナスの面を強調する方は必ず出てくる。そういう議論に対して、効用の方はそれほど書き込んだりしないが、恐らく「はじめに」のところだと思うが、何ができるようになるのかということをもう少し打ち出しておく必要があるのではないか。学校教育の情報化分野で国際競争力を奪回しようというのは余り重視していない。むしろ教育システムの国際競争力が落ちているのではという危機感がある。日本の教育システムはこれまで世界に冠たるものだったが、このままでは21世紀にも世界に冠たるものであり続けるのは難しいのではないかという危機感がある。産業の国際競争力というよりも教育システムの国際競争力において、いろいろ問題が出てきている、PISAの評価の結果もこういう状況だということを、きちんと我々が共有し、その危機感を可視化しておくことが大事ではないか。そういうことをしておかないと、漠然とした不安というのは不安のままでずっととどまってしまうと思う。この問題についても、そういう配慮がすごく大事ではないかと思う。

【小城委員】  

 一般書籍の電子化について、恐らく今年中に市場が立ち上がってくると思う。いろいろな方と話をしている中で心配に思っていることがある。私たちは、紙の力をどうしても過小評価する癖があるということに最近気づいた。なぜかと言うと、我々自身が紙で教育を受けてきているからである。その人間が使いこなすデジタルと、初めからデジタルがメイン、若しくは、かなり大きなウエートを占めて育った方が使うデジタルが同じかどうかは少し心配である。私たち自身が無意識のうちに紙の本の力を過小評価する癖は明確に認識をした上で、どういうデジタル化がよいのかを考えていただきたい。

【安西座長】  

 デジタルで学ぶ際と紙で学ぶ際で、具体的にどこが違うかのデータは余りないと思う。文部科学省においてそのようなデータの積み上げを続けてほしいと思う。

【新井委員】  

 今のITの世界では、例えばフェイスブックやツイッターといった、一番外側に見えてくるものに注目をするわけだが、実際、裏で非常にばく大なお金を稼いでいるのは、いわゆる計算コンサルと呼ばれている外には見えない会社である。様々なデータを集めてきて、そういうものから社会システムを数理学的に読み解いた上で計算コンサルをして、そこで、例えばこの人は次にこういう消費行動をする、この人はあと残り余命がどのぐらいである、何回ぐらい離婚するであるなど、そういうことも含めて計算をする計算コンサルというものが存在する。そういうものがツイッターやフェイスブックなどが無償・無料のサービスであることを成り立たせている裏側の広告モデルとして動いている。日本の大学生が先日、ITのコンテストのようなものでアプリをつくったものを見ると、オタクコンテンツというか、実際にそういうタイプのものと比べると、どちらもある種のイノベーションではあるが、稼ぎ出すけたが全然違うということを考えなければならないと思う。日本の初等中等教育では、式と計算と呼ばれている算数・数学の単元が非常に多いが、そこで行われているのは、もうわかっている計算の仕組みの中で計算を実行して答えを出すということが明治時代以来、非常に大きな位置を占めている。しかし、実際に必要なのは新たな計算を生み出すような能力であって、それは幾ら計算練習だけをしても、電卓をたくさん使わせても、あるいはシミュレーションソフトをたくさん使わせても生み出すことができない。そこのところでアルゴリズムや計算の仕組み自体を概念としてたたき込むような授業を中高で行っていかないと、新たなタイプの概念的に計算を生み出すような能力は育成できないと思っている。

【安西座長】  

 これは大変よくわかる。今、新井委員のおっしゃったことが教育現場や文部科学省に共有されていないのではというのが、私の基本的な危機感である。

【西野委員】  

 将来、ICT産業で活躍したいと思えるような人材を教育の中でどう育成していくのかということだろうと思う。中学校、高校でICT活用に関する授業も当然行われているが、非常に時間的に少ない。したがって、その中で情報を専門的に大学で学ぼうとする意欲が生まれるのかどうかと思う。優秀なICT産業を担うような人材をどのようにつくっていくのかという項目を入れておく方がよいと考える。

 大学教員のICT活用指導力について、現場に行って、先生と一緒にICT指導力を育成するための教育方法や、教材を協働でというような意見があったということだが、重要なことは、教員を目指す学生のICT活用指導力の向上なので、「このことから、教職課程における大学教員のICT活用指導力の向上を図るため」と記述があるが、そうではなく、「教職を目指す学生のICT活用指導力の向上を図るため」とし、「大学間における優れた実践に関する好事例の共有うんぬん」と続けていった方がよいのではないか。

【安西座長】  

 先ほど私が申し上げたのは、ICT産業の要員を育成するためにということではなく、日本の教育の在り方自体のことを申し上げたつもりである。

【宮澤委員】  

 先生方をサポートするということで、教育委員会、学校における体制や、外部の専門スタッフというのがあるが、もう一つ観点として教員同士の垣根を越した上での情報共有というのが重要になると思っている。我が国で学校教育の情報化が十数年前に行われたときも、各教育委員会レベルごとに動いたが、そこの部分で大きな不安感やいろいろな方々が悩みを持ったときに、一番解決できたのは、全国レベルでの先生方の情報共有ということだったと思う。当時、ネットデイなども含めて、外部の方に入っていただいたり、民間ボランティアの方々とも連携を取りながら、先生方が自ら切り開いていくことを支援するという場があったと思う。その部分について、なかなか読み取れない部分があるので、この部分に先生方が自らこういう方向性について切り開いていくための支援の場をつくるということを書いていただけると、草の根レベルでの支援は非常に有効だと考えている。官の支援も重要だが、草の根レベルの共有というのも是非お願いしたいと思っている。

【千葉委員】  

 この懇談会の存在を知っている現場の先生方に、どのような感想を持っているかを聞いてみたが、多くの先生方は、将来に対してどうなるのかという不安の方が大きいと感じている。県の教育委員会や市の教育委員会にも聞いてみたが、同様の反応が返ってくる。2020年までどのようなタイムスケジュールで行くのかについて、地方の教育委員会や現場の先生方に対して、今後どのようなタイムスケジュール、で進んでいくのかという指針があると非常に助かるのではないかと思う。

 地理情報システムに関する記述について、これを使った情報は著作権で保護されている。今の著作権法35条では、授業中しかこの情報は使えないことになっているはずである。それをどういうふうに今後とらえるかというような問題はあるが、できれば著作権についての記述を加えてほしい。

【重木委員】  

 「外部の専門スタッフの活用」という表現について、ICT支援員の配置やヘルプデスクの設置が例示してあり、そういうことが大事だということと同時に、「情報通信技術を活用した授業等をすべての教員が自立して行えるよう支援」と記述されているが、これはICTの利用を広げていく場合に、支援員の役割は非常に重要だと思うが、恒久的に配置し続けることは、財政的な負担など様々な面から無理が生じると思う。最終的には、教員が自立してできるようにすることが、教員のICTに対するリテラシーを備えることにつながり、児童や生徒を教える前に教員もそういったこと身につけてもらう必要があると思う。支援員等の配置を強調するよりも、支援機能をきちんと導入時点において確保することを強調するような記述にしておいてほしい。

 これからはICTの技術を一部の人が支えるというよりも、社会全体がICTの利用によって大きな恩恵を受けてくるという時代に入ってくるはずなので、あらゆる分野で活躍される方にICTの利用に関する基礎知識は身につけておいていただき、その利用については、それぞれの場でいろいろ新しいアイデアを出していただく。その実現においてはICTの専門家も参加して、一緒になってつくっていく形が模索されると思うし、今回の学校の教育において情報化を進めるという点でも、一部の突出した専門家を育てるだけではなく、全体のレベルをICTの利用可能な状況に底上げしていくという点も大事だと思う。そういう観点も念頭に入れてほしい。

【五十嵐委員】  

 外部の専門的スタッフの活用について、究極の目標はすべての先生方が自立できることである。しかし、そういうものを身につけた教員が次に求めるのは、更に高度な学びを支援してほしいというニーズである。本来の自分のやりたい指導の充実に向けて夢が膨らむものである。そのときの支援は、単なる技術だけでは追いつかない部分がある。

【重木委員】  

 よく理解できる。教育的な側面と技術的な側面と両方を求められ始めてしまうと思う。そのときに、1人で両方具備した人を求められると、大変なことになってくる気がする。そういった問題に対して、どのように解決するかということについて何か組織的な対応方法を考えた方がよいというのが私の提言の趣旨であった。人を配置するというよりも、そういう支援の機能をきちんとつくり上げることが大事だと思う。

【五十嵐委員】  

 おっしゃるとおりだと思う。日野市でICT支援員、つまりメディアコーディネータ制度をやってきて思うことは、これは技術面だけではないということである。技術にたけた方はさほどいらっしゃらないし、これからの学びのことを計画できる人材もこれからである。その両面をほどよく持ち、教員とコミュニケーションをとりながら一緒に授業をつくっていくというイメージである。一方では、ICT化が進んで、校務も情報化されていくと、いろいろな面で専門的な管理をしなければいけない面も増えてくるので、そういう専門職も新たに必要となる面も生まれてきている。

【宮澤委員】  

 重木委員の御意見はごもっともだと思う。大変進んだ教育委員会もあると思うが、なかなか十分にはいかないという都市もあるので、記述としては機能の重視という形でもよいのではと思う。

【西野委員】  

 機能の充実ということだと思うが、具体的に支援員が学校に行って、そこのCIO、補佐の方とともに具体的に授業を計画するであるとか、そういった活動を今の段階では最も必要としていると思っている。将来的にはそういう機能ということになるだろうし、学校の先生が自立的にICTを活用する能力を身につけるということだが、現段階では支援員が必要であると私は考えている。

【五十嵐委員】  

 私も賛成である。むしろICT支援員を制度化すべきだと思う。人として学校に配置できるような制度が一番進みやすいのではないかと思う。教員と一緒にやっていく制度ができればと思っている。

【安西座長】  

 教育現場についての知識をトレーニングしていただくことは必要かもしれない。私見であるが、そういうものがあれば、その間のインターフェースはスムーズに行くのではと思う。

【千葉委員】  

 6ページの最初の丸のところだが、情報モラルが大変重視されている中で、従来の指導の在り方と情報の影の部分を2つの段落に分けられないかと思う。

(了)

お問合せ先

初等中等教育局情報教育・外国語教育課

(初等中等教育局情報教育・外国語教育課)

-- 登録:平成24年07月 --