学校教育の情報化に関する懇談会(第10回)議事概要

1 日時

平成23年2月4日(金曜日)10時~12時

2 場所

文部科学省旧館6F講堂

3 委員出席者(敬称略)

天野一、新井紀子、安西祐一郎、五十嵐俊子、市川寛、馬野耕至、大路幹生、國定勇人、重木昭信、関口和一、千葉薫、西野和典、野中陽一、堀田龍也、三宅なほみ、宮澤賀津雄、若井田正文

4 文部科学省出席者

鈴木文部科学副大臣、笠文部科学政務官、清水文部科学事務次官、金森文部科学審議官、板東生涯学習政策局長、山中初等中等教育局長、伊藤大臣官房審議官(生涯学習政策局担当)、尾崎大臣官房審議官(初等中等教育局担当)、平林初等中等教育局教育課程課長、森初等中等教育局教科書課長、齋藤参事官(学習情報政策担当)、増子参事官付情報政策室長、中澤国立教育政策研究所教育研究情報センター長

5 議事概要

(1)笠文部科学政務官挨拶

委員の皆様方におかれては、昨年8月の「教育の情報化ビジョン(骨子)」の取りまとめに当たって、大変精力的に検討を深めていただいたこと、また、それぞれのワーキンググループにおいて、様々な議論を重ねていただいたことに感謝申し上げたい。

 社会の急速な情報化が進展をする中で、教育の情報化を進めることは、まさに子どもたちに質の高い教育機会を提供する上で大変重要な意味を持っている。

 昨年末に予算編成を行い、現在、国会で予算案の審議が行われているが、平成23年度の政府予算案においては、「教育の情報化ビジョン(骨子)」を踏まえ、新たに「学びのイノベーション事業」として、学校種あるいは子どもたちの発達段階、教科等を考慮してデジタル教科書・教材、一人一台の情報端末などに関する総合的な実証研究などを行う経費を計上し、ビジョンの具体化を視野に入れた準備を進めているところ。各ワーキンググループからの報告及び議論を踏まえ、「教育の情報化ビジョン」が策定され、教育の情報化が一層進展することを期待する。

(2)齋藤参事官より、資料1(ワーキンググループ開催状況等)、参考資料1(学びのイノベーション事業)及び参考資料2(フューチャースクール推進事業)に基づき説明。

(3)西野委員(教員支援ワーキンググループ主査)より、資料2(教員支援ワーキンググループ検討のまとめ)に基づき説明。

【三宅委員】

 全体的な印象として、どのようにワーキンググループ間の連携をとっていくのか見えないのではないか。また、この教員支援ワーキンググループでは、教員養成、教員採用、研修、サポート体制の4つに分けているが、その中のプライオリティ、どのように物事をやっていったら書いてあることが実際に動くのか、ということがあるととても良いと思う。

 海外に持っていくとそれはいいねと合意されるが、実際にどのようにやっていくのか。先ほど齋藤参事官から出ていた「学びのイノベーション」で、今までと違うことをやっていく、そのためにこれはどう連携して動いていくかについて、一言いただきたい。これを4つうまく回していくためには、こういうことをしなくてはいけない、というのがあるといいと思う。

【西野委員】  

 3つのグループの間の連携については、この3回の懇談会の場であろうと思うが、まとめていき、いいものに仕上げていかなければいけないと思っている。

 どのように実行するかというプライオリティに関しても、恐らく3つを並行に走らせるのか、それを組み合わせてやっていくのか、いずれにしても実証研究を進めていくということから始めていくことになろうかと思う。

【三宅委員】  

 プライオリティについては、この教員支援ワーキンググループの中の4つについて、ワーキンググループの中でこういう順序でやっていったらうまくいくのではないかということが議論なされたのではないかと思っているが、そこを教えていただきたい。

【西野委員】  

 教員の養成、採用、研修の件か。

【三宅委員】  

 研修があり、養成があり、採用があるといっても、研修をきちんと受けた人がいないということになると採用できないという話になってしまう。4つがうまくプライオリティを決めてがっちり動き出さないから静止している感じがする。

【西野委員】  

 そういった意味では同時にやっていくということだと思う。

【安西座長】  

 ワーキンググループは、それぞれある意味独立にやってきており、一方で予算を立てていただいた学びのイノベーション事業、フューチャースクールもそうだが、実証事業として動くだろうという状況になっているので、今日を含めて3回の懇談会で、是非横断的な、これからの具体的な段取りまで含めて議論していただければ大変有り難い。

【重木委員】  

 校務関係文書のICT化で提案をしたいと思うが、まず、指導要録を例に上げ、実施していくことが良いのではないか、といったことについて異論はないが、将来的にICT化していったときに、ICT化されたデータベースを原本にするということをもう少しきちんと書いておくべきではないか。長い時間をかけてICT化をする場合、ICTの原本と紙の原本とどちらが本当の原本なのかがわからなくなり、混乱する事態が結構現場で起きている。短い間に移行するならば余り問題は起きないが、長い間かけて実行しようとすると必ず問題になる。押印の扱いが触れられているが、紙の場合の押印の役割と電子化されたときの押印にかわるものというのは、多分、電子署名みたいなものを使ってやる役割とは若干違ってくるニュアンスもあり、混在期の扱いは非常に難しくなる危険性がある。できるだけ早めに原本をICT化するということを示していただいた方がやりやすいという気がする。

【安西座長】  

 そこは大事なところだと思う。

【西野委員】  

 押印に至るまでの軌道がきちんと踏まえられていれば、電子化されたものであっても、今までの紙ベースのものであっても同じだと思う。重要なところはそれまでのプロセスを担保するということであろうと考えている。押印というか電子化も含めて。

【新井委員】  

 教員の養成に関して、21世紀の教育を担う教員として、ICTを活用しながら本来の教育の質を上げていくという教育が重要なのは大変よくわかる。しかし、現在課題になっているのが、教科の教育の質の担保の問題。先般の教員養成の改訂の際に、教科教育の時間が削られたため、現在においても特に理数系の小中学校での教科教育の質を上げるために十分ではないのではないかという指摘が各方面からある。

 教科教育の時間が足りていないところに、時間数をどのように確保するかというのは非常に大きな問題で、特に二種免許との兼ね合いも含めて、きちんと検討していかなければいけないと思うが、ワーキンググループの方ではその教員養成における時間数の問題については議論されたか。

【西野委員】  

 恐らくそれぞれの教科の内容をきちんと教えるという能力だろうと思うが、本ワーキンググループに関しては教員のICT活用指導力に関する向上、その養成ということを中心に話をしてきた。そういった意味では、教職に関する科目の中での教育の方法及び技術、情報機器の操作について、内容を整えてやっていくとか、あるいは新たに校務の情報化に関するような科目を設定してもいいのではないか、という意見も出た。

【新井委員】  

 教職課程のための単位数が決まっているため、一個増やすと他は減ることになり、今のままでは分捕り合戦になってしまうことは避けられない。そうすると、専門的な、例えば理科とか数学について、きちんとした指導力を身につけるための授業は今でも減っているので、そのようなところの兼ね合いはどうなのか。

【西野委員】  

 そのあたりに関しては、話合いはされていない。

【國定委員】  

 今、三条市を含めた新潟県の市町村で、税務とか住基とか福祉関係とかのクラウド化をして、システムを更新するための予算をできるだけ平準化しよう、あるいは一自治体当たりの財政負担を減らしていこうという取り組みを始めているが、電算化して市町村はかなり長い歴史を持っているので、まとめ上げるのに非常に苦労する。

 1点目は住基にしても税にしても福祉関係にしても、基本的には国の政省令によってほとんど様式は定められているにも関わらず、結果的には市区町村の細かい癖が出て、その結果、まとまりたくてもまとまれない動きがある。もう1点目は、更新を一斉にしておらず、来年が更新時期だったり、ある自治体は再来年更新時期だったり、もう1つの自治体は5年後更新時期となると、あわせるのは非常に難しいことがある。

 目に見える形での補助制度があれば有り難いが、恐らくこの校務関係のICT化は、地方財政措置で措置したと言われるのではないかと半ばあきらめているが、自治体の財政を見ているセクションからすると、校務のICT化は踏み込みにくい分野。その中で校務のICT化を推進するためには、教員の先生方が楽になるということはもちろん大事なことだが、さほど開発コスト、運用コストもかからないということも同時に示していかないと、なかなか自治体は乗ってこないのでは。

 全国的にまだ校務システムが広がりを見せていないというのが、逆にチャンスだと思っている。今現実の考えられる選択肢の中で、より安く調達しようということを考えると、クラウド・コンピューティングをはじめとする共用化から入っていくのがいいと思う。そうすると、国の支援の在り方として金銭的支援が一番有り難いが、そうは言わなくとも、クラウド化をしようとか、共同運用、共同開発をしようといったグループを持つ自治体に対し、何らかのインセンティブを積極的に付与するということを、この「参考様式」を基本とするということに併せてもたらさないとなかなか追いついてこないのではないか。あるいは県内で、例えば三条市だけが実施したといった格好になり、結果的に税や住基といった世界と同じ歴史を繰り返しかねないと思う。多くの自治体の人たちが本当はこうしたいと思っているはずの共同的な運用の方向に向かい、もう少し仕組みとしてバックアップするような記述が、今後取りまとめの中で求められるのではないか。

【安西座長】  

 ICTを入れようと思うと、その時点でお金がかかることは事実であり、いろんな組織の問題もあると思う。

【野中委員】  

 1点目は、今のことに関連して、例えば韓国はトップダウンですべての校務情報化をやっているが、そういうことを日本でもできないかという検討がなされたのかどうか。むしろ、ほかの教育的な側面よりも校務の方がトップダウンで早くできると思うので、それをすべきだと思うという意見もつけ加える。

 2点目はICT支援員の充実の中に「ICTの活用環境の開発・管理運用をしゅん別し、教員はICT活用に集中。各校の活用環境の開発・管理運用は、ICT支援員等が分担」とあるが、これは完全な雇用を想定しないとかなり難しい話である。「教育の情報化に関する手引」のときの議論では、ICT支援員というのは授業の相談や支援が中心で、技術支援というのは、学校とかに導入をするときにそれをセットで保守・管理・運用の部分も含めて購入するというのが前提であるという議論をしたが、このようにしてしまうと、かなりICT支援員の負荷がかかってしまい、少し厳しいのではないかと思う。

 また、「持続可能性の観点が重要」と記載されている。これは多分予算があるため国として配置するとは書けないから、このような書き方をしたのだと思うが、このビジョンの方向で進めていったときに、ICT支援員がいなかったら絶対に学校は回らないと思う。ここは強く国として配置するなり、それに関する費用を何か負担するということが不可欠だと思う。

【西野委員】  

 まず、校務の情報化について、特に韓国の事例等を参考にしたわけではないが、その方向に向かっていかなければいけないのではないかと考えている。特にそれについて議論が行われたわけではないが。2点目として、教員のサポート体制の在り方のICT支援員の件だが、おっしゃるとおりである。特にこのICT支援員の配置がなければ、それぞれの学校での開発環境、管理運用については難しいと思う。

 ここで言わんとしていることは、学校の中でのICTの活用の管理や開発等を教員がやるのではなく、教員はICT指導力の向上、授業でのICT活用を進めていき、その管理運用に関してはICT支援員がやっていくというようにきちんと分ける。つまり、教員は授業に集中できるようにする、ということである。

(4)鈴木文部科学副大臣挨拶

 3つのワーキンググループで委員の先生方にリードしていただき、大変活発な議論を頂いたことを感謝申し上げたい。今日の議論も踏まえ、この年度末を目途に教育情報化ビジョンをまとめていきたい。

 来年度は「学びのイノベーション事業」として、文部科学省として3億円計上しており、フューチャースクール事業等とも連携しながら、ビジョンに基づいて実証研究を一つ一つ進めていきたい。実証研究からのフィードバックを得ながら、現場に根づいた、着実なものにしていきたいと思っている。

 なお、要するにICTが増えると他が減るといった新井先生の御指摘はごもっともである。昨年の6月に中教審に教員養成の特別部会を設けており、特に教科教育の点については、理数科からもそういった意見が寄せられている。実は理数科だけでなく、社会科や地理について不十分であるという意見もある。

 そもそも、現状の枠の中で、一方で、例えば生徒指導等で非常に複雑化しており、その教員の養成についてゼロサムの中で議論していくということにかなり無理があるのではないかという議論もある。引き続き特別部会の方で提案を伺っていくとともに、この委員会のミッションとしては情報化を進めていく上で教員に必要な資質を挙げ、最終的には特別部会の方で整理をしながら、新しい21世紀に向けての教員養成のフレームワークをつくっていきたいと考えている。

(5)堀田委員(情報活用能力ワーキンググループ主査)より、資料3(情報活用能力ワーキンググループの検討のまとめ)に基づき説明。

【國定委員】  

 ワーキンググループでの取りまとめはこの通りなのだろうと思うが、先々週、新潟県のPTA連合会の50周年記念事業というのが三条で行われた。携帯やネットに子どもたちがどう向き合うか、というテーマだった。この二、三年間でPTA連合会の空気感が前進したなと思ったのは、それまではいかに子どもたちから携帯やネットを切り離すかという議論ばかりだったが、結局、携帯やネットは悪いという話一辺倒だった。つまり入り口論で、もう心を閉ざしている親御さんが非常に多い。

 新潟県が通常の感覚ということであれば、PTA、親御さんは若いにもかかわらず、意外とそういったものが苦手で、防御してしまう。携帯やネットにいたずらに逃げ過ぎていると思う。その問題は携帯やネットの問題ではない。携帯があろうがなかろうが、それは親のせいであり、そうさせてしまった社会のせいである。情報教育を、安易にすべての社会課題のスケープゴートにしてしまうものが、風潮としてまだ強いと思った。

 ごく当たり前の議論に入る前に、そもそも情報はツールであること。情報が悪だという入り口論の世界からは、既に脱却すべき時期に来ているということを改めて書かなければいけないのではないかと感じたので、感想を述べさせていただいた。

【若井田委員】  

 私も情報活用能力の確実な育成は非常に重要だと思っている。指導体制の整備充実、情報モラル教育の重要性など、課題を解決するということを考えた場合に、学校を指導していく都道府県教委、市町村教委の指導主事の役割は非常に大きい。それから、教育センターの役割というのも大きいと思っているが、その指導主事、また教育センター等の役割をしっかり果たしていくというために、何か話合いがあったのか、その点についてお尋ねしたい。

【堀田委員】  

 そのことについては議論が出ている。本文の5ページの上から2つ目の丸のところになるが、情報活用能力を育成するのは、子どもたちの目の前にいる一般の教員である。一般の教員に対していろいろな形で啓発あるいは予算整備も含めた形を行うのは管理職、あるいは教育委員会等である。彼らに対する情報活用能力の育成の観点からの教員研修が必要であり、そこを重点化すべきであるというような意見は出ている。

 それを、具体的にどこが、幾らかけてについては、そこまでの所掌範囲ではないので記載していないが、そういうことが重要であるという意見は出ていた。

【三宅委員】  

 情報活用能力ワーキンググループの資料の中で、一番欲しいが今はないところは、情報の適切な活用ということの具体的な形。今まで先生方がやってきたことでいいことを並べたということを超えて、このビジョンに出ている新しい教育に結びついていくという実感を持てるような言説がないのではないか。

 子どもたちが、19世紀のようにゴールが決まっていることをみんな同じようにできればいいのではなく、新しいことを、情報を取り入れて統合し、自分なりの意見を持ち、それを周りとぶつけて、実際にそれをどう使えるのかという議論をしてもらうためには、情報を集められないと無理である。その授業はこういう形でないとできないだろうと、指導するには先生方がまず見せてくれていないと、そもそも情報教育は日本の中で今以上の形で発展していくことはないだろう。それでいいのか、ということを現場の教員はよくわかっていると思う。それを、文部科学省が国としてやってくれることを私たちが示していかないと、日本自体が世界の中で情報活用能力ということで立ち遅れていく、というメッセージなのではないかと思う。それがここの中で「情報の適切な活用」というどのようにもとれる言葉で書かれているということは残念に思う。

【堀田委員】  

 これ以上書けなかったというのが正直なところ。それを、具体的にどうするべきか、というのはポリシーの部分である。是非この懇談会にこれを報告して議論していただき、情報活用能力ワーキングで出てきたものをどのように位置づけ、価値づけて使っていくかというように委ねようという形で話したつもりである。

(6)五十嵐委員(デジタル教科書・教材、情報端末ワーキンググループ副主査)より、資料4(デジタル教科書・教材、情報端末ワーキンググループ検討のまとめ)に基づき説明。

【馬野委員】  

 資料4の21ページの参考資料、デジタル教科書・教材のイメージ例ということだが、これでいいのかどうかについては、デジタル教科書をどう定義するかということになる。検討のまとめでは、デジタル教科書に期待される、あるいは備えるべき機能の例示はあるが、定義については何ら言及がない。この分野では、日本より韓国が先行しており、ワーキンググループの資料3、26~27ページ、特に27ページのところに、韓国におけるデジタル教科書の定義、「既存の教科書内容に加え、参考書・問題集・用語解説集などのコンテンツを有し、その内容を動画、アニメーション、仮想現実などのマルチメディアに統合したもので、様々な相互作用機能を持ち、児童生徒の個性や能力水準に合わせた学習が可能となる教材」とある。これは非常にうまく定義していると個人的には思う。

 要するにデジタル教科書というのは、ただ単に教科書の内容をテキストや画像、動画にして見せるだけではなく、通信機能を活用し、個別学習や個別指導をも可能にするインタラクティブなものだと思うが、仮に日本も韓国と同様の定義にする場合、先ほどの参考資料1のイメージの中で、この学習者用表現・協働ツールというのは、デジタル教科書の範ちゅうに入っていない、分野が違う。これも本来はピンク色にならなくではいけないと思う。

 憲法26条の義務教育無償のこの精神を実現するために、デジタル教科書も紙の教科書と同様に義務教育段階で無償給付制度を採用するということになれば、参考資料1のイメージだとウェブブラウザとかOSを積んだ情報端末と学習者用表現・協働学習ツールは無償給付の対象外になってしまう。そうすると児童生徒がそれぞれ自分で購入するのかということになる。情報端末は児童生徒一人に一台ずつ行き渡るように、必要な台数を各学校に機材として配備すればよいのかもしれないが、学習者用表現・協働学習ツールはどうするかという問題が残る。そうした問題をクリアするためには、この学習者用表現・協働学習ツールというのも学習者用デジタル教科書の中に含めるのではないかと考える。いずれにしろ、最初この段階で、デジタル教科書をどう定義するかということをきちんと明記しておく必要がある。

【五十嵐委員】  

 様々な意見がある中で、こうであると言えないのが現状だった。これはワーキンググループの中での一例として、議論を進める上でのある程度のイメージとしてのものである。今おっしゃられたオレンジ色の学習者用表現・協働学習ツールということも、どちらにも入る可能性があるという議論もあったので、なかなかそこを決めるのは今の段階では難しいのではないかというのが、グループの中での意見だった。

【安西座長】  

 ここは是非この親委員会で議論をしていただきたい。特に今、馬野委員が言われたノートの部分は、学習者が自分で書き込んだり、いろいろなことをする部分と、教科によってだと思うが、教科書がもう既に一体化している状況にあるものもある。どこまでをデジタル教科書と呼ぶのか、デジタル教科書というのは一体どういう概念をもって言うのか、アーキテクチャーはどういうふうにするのかということは是非ここで議論していただきたい。今、五十嵐副主査が言われたように、ワーキンググループとしては一応、例としてこれを出しているが、是非ここで議論いただきたい。

【三宅委員】  

 21ページの図はビジョンとして出るのはとても大切なことだが、個別学習があり、一斉授業があり、それと切り離されたものとして協働があってということではない。協働的な話をうまく動かすためには、みんながばらばらに調べ、ばらばらに発表し、みんなの発表がうまかったねというのでは成り立たない。共通に学ぶべきテーマと問いがあり、協働するためには個別で調べることが必要で、一斉授業が必要で、その上でこういうものがあって、協働でねらっているのはこういうゴールなのだというところである。これはピンクでないと、今、初めて発言を聞いて気がついたが、全体が何となく同じようにつながっているというぐらいの形なのか。

 こういうものをばらでやっていればいいのであれば、ICTを使わずに先生が今までのやり方でやればいい。しかしここで、一斉授業でやったこと、個別学習でやったことについて、先生も子どもが何をやったかについての履歴が即時で見られて、子どもたちもお互いに何をやってきたのかというのが見られる環境がないと、同じ6歳から12歳の間でしか教育できないとしたら、ここをつないでいないといけない。もう一歩でICTの必要性が見えるような絵になると思う。

 韓国について、うまくいっているという、大学生のTOEICの英語のスコアが900いっているといった話が出てくる。しかし、韓国で今、一番問題になっているのは、今までやってきたことはいわゆる試験対策にしかなっていないことである。点数が上がるということで頑張ってやってきたが、上がった点数で培われたはずの知識を実際に活用するところに持っていかないと、この教育はいずれ瓦解するという意見が、韓国の上層部の中にもある。それが隠されているということをこちらがわかった上で、でも、韓国の提言には書き込みが最初に来ているし、学習者の履歴管理ということもはっきり出てきている。韓国もこれでいいとは思っていないということを私たちは見据え、書き込んでいくべきだと思う。

【新井委員】  

 実証実験と学力と健康のあたりで気になることがある。学力の効果を普通のペーパーのテストの点がよくなったとか有意差があったとか、そういう話になると多分、20世紀型の教育を強化してしまう可能性もある。何の効果を図りたいのか、指針を出さないといけない。

 認知がどうなるかという変化について心配している。フューチャースクールを拝見したが、お子さんたちが長いテキストを深く読む力が厳しいというか、すぐにリンクをクリックしてしまうのがすごく気になった。集中して長時間同じものを見て深く読むという力が保証されなければいけないと認識している。

 障害のあるお子さんに対する対応について、現在のデジタル端末が、今、既に知られている幾つかのタイプの障害を持つお子さんにとって朗報になるということは認識している。例えば拡大機能であるとか読み上げ機能であるとか、割合近年まで学習障害だと認識されていなかったタイプのお子さんに朗報であるということはよく認識をしている。

 ただ、一方、新たなタイプのメディアが登場したときに、必ずそのメディアに対応できない新たな障害が発見されるということは歴史の不文律である。例えば、フラッシュのコンテンツでは理解できないとか、特にデジタル端末は一覧性が低い。例えば社会の教科書がある、ここに地図帳がある、ここに年表があるという机に広げて同時に見るということではなく、後ろでアプリケーションが全部立ち上がっているのはわかるが、切りかわってしまう。そのことが認知に与える影響については、もう教育工学で多くの方が指摘している。そういうふうになると学習障害が起こるというお子さんが新たに生まれる可能性がある。今知られている障害だけではなく、今後起こる可能性がある学習障害についても考える必要がある。

【安西座長】  

 読み方が変わるということについての実験結果はあるようであるが、確かに少し視点がきちんとしていないので申し訳ないが、今、言われたようなことをちゃんと調査していくことは大事だと思う。

【堀田委員】  

 21ページの図について、この図のようなものが提示されることは具体的なイメージとして非常によいことだと思う。これらがどう関係しているのかということが重要。

 一方で、これらは学習形態あるいは学習活動として提示されている。これらが求めている、いわゆる学力は何なのか、というところがもっと打ち出されるといいのかなと思う。ICTが一人一台ない時代の授業でも、一斉のことは当然やっているし、個別ごともやっているし、話し合って何かをやるみたいなことは山ほど行われている。それが一人一台の端末を使ってこそできる部分はどういうところなのか、あるいは今までのやり方を置きかえてできる部分はどういうことなのか。それを学力の観点から論じるようなことが、このワーキングで議論されたのかどうかを聞きたい。

 新井先生が言われた長い文章のことは、一般の大学生でも今はそうだが、そういう力は別にICTうんぬんの前に多分指導していることだと思う。むしろICTを使う前にやらなければいけないことは小学校や中学校の義務教育ではたくさんあるような気がしている。

 21ページに示されているのは、そういった様々な下支えとなる能力を育成し、それを使ってこういう活動をやるという話ではないかと考えると、下支えする力はどのようなものをイメージし、ここで使っている力はどのような力をイメージしていてという議論がされたのか。

【五十嵐委員】  

 それが大事だという議論はあったが、そこまで深い議論にはならなかった。例えば個別学習一つとっても、学習形態によっては、個別学習がすべて基礎・基本の定着かというとそうではない。実際にその端末の中で操作活動をすることで思考を深めることは十分ある。一つ一つの学習活動でもそれに何を育成するかというのはその場面によって違ってくる。そういった部分の育てたい力とこういう学習形態とそれに加えて一番大事な指導方法を加えたような図を何とかつくりたいとは思っていたが、ここに出すまでには至っていないのが現実である。

【野中委員】  

 このワーキングの設置のときに、文部科学副大臣決定としてデジタル教科書・教材、情報端末ワーキンググループの検討事項の2として、「教育情報ナショナルセンターに関する機能・体制強化について」という項目があった。ところが冒頭、予算説明の中でそれについては停止ということが簡単に触れられたが、このワーキングでは、この件についてどのような検討がなされたのか。各ワーキングからの報告書を見ると、例えばデジタル教科書ワーキングでは12ページに、「教育の情報化を推進する基盤の確保」ということがあり、「『新たな情報通信技術戦略』工程表記載の教育情報ナショナルセンターに係る教育情報データベースを、平成23年度以降に民間団体等で活用可能とすることや、教育の情報化に関する総合的、継続的な調査研究及び推進を行う基盤を確保することは不可欠である」と、ほかの文章よりもかなり強く書かれている。

 更に他のワーキングでも、例えば情報活用能力ワーキングでは、同じような文言が9ページに、それから、教員支援ワーキングでは7ページに同じ記載がある。ということはワーキングあるいは懇談会のメンバーは、これについて総意でかなり重要だと思っているにもかかわらず、これを廃止するという決定がなされた。しかもこれはビジョンの骨子の段階でも22ページに書かれているし、さらに、新たな情報通信技術の工程表の中にも教育情報ナショナルセンターの体制機能の強化、当然書かれている。これが、予算が通らなかった、の一言で片づけられるのは、この懇談会を軽視しているのではないかと思うが、いかがか。

【伊藤審議官】  

 いわゆるNICER、教育情報ナショナルセンターの予算については、関連の運用の経費が残念ながら認められなかったという現状がある。

 そういう状況を各ワーキングで説明させていただきながら、いずれのワーキングからも、一つはそのNICERの中に蓄積されてきたこれまでのいろいろなデジタル教材のリンクに関するデータベースの重要性、また、そもそも親委員会あるいは工程表で触れられている今後の本格化に向けて、より抜本的にその機能を強化していかなければいけない、という観点からの指摘が重ねてあったところである。

 各ワーキングでの指摘を踏まえた記述が本日の報告書に載っていると理解しているが、そういった状況の中で、例えばこの資料4の12ページの欄外に、NICERのLOM情報については速やかに民間団体、教育関係者に無償提供うんぬんということが書かれているが、残念ながら予算のつかないこういう状況の中では、短期的にはこれまでの成果をどういうふうに生かしていくのかという検討を現在、関係機関と鋭意検討しているところである。

 加えて、中長期的な今後実証研究と並行しながらいろいろなデータが出てくるので、どのような形で収集し、また発信していくかについては、24年度以降の予算要求も含め、中長期的な課題として認識しているところである。

【安西座長】  

 私もNICERの役割は重要であったと思うが、これから更にもっと広く大きな組織基盤をつくっていかないと、せっかくこの懇談会でやっていることが生きていかないのではないかということは、事務局サイドには申し上げているところ。デジタル教科書、先ほどアーキテクチャーの話があったが、一体どこまでサポートすればいいのか、また地域等々でのICTの教育への活用のためにどういうことをしなければいけないのか、そのためにコンテンツへのリンクをどういうふうに維持して向上させていかなければいけないのか、そういうことをかなり広く基盤として持っていく必要があるのではないかということは申し上げているところである。

【堀田委員】  

 例えば韓国が大分引用されているが、韓国にもKERISという組織があり、そこが調査事項とか、支援とか、指針といったことを国と連携してつくってきたという経緯がある。イギリスには同じようにBECTAという組織があるが、つい先ごろ、規模縮小に向かっているという報道がある。

 韓国やそのような国が今まで十何年ずっと推進し、うまくいってきていて、地方やあるいは学校に任せられる段階に来たという判断で縮小にあると考えると、今後力を入れていく我が国においては、体制の整備、教材の集中的な開発、あるいは提供といったことは、いよいよ重要になると考える。例えば情報活用能力の育成についても、ありとあらゆるインターネット情報を子どもたちに生で見せることについて、選び方を覚えていく段階では、一定の良質な情報が組織的に提供されるのは不可欠だと考えている。義務教育を考えると、強く推進していただきたいと思う。

(了)

お問合せ先

初等中等教育局情報教育・外国語教育課

(初等中等教育局情報教育・外国語教育課)

-- 登録:平成24年07月 --