学校教育の情報化に関する懇談会(第1回) 議事概要 

議事概要

1 日時

平成22年4月22日(木曜日)16時~18時

2 場所

文部科学省東館3F講堂

3 委員出席者(敬称略)

 天野一、新井紀子、安西祐一郎、五十嵐俊子、市川寛、馬野耕至、大路幹生、小城武彦、陰山英男、國定勇人、重木昭信(角田代理)、玉置崇、千葉薫、中村伊知哉、西野和典、野中陽一、堀田龍也、三宅なほみ、宮澤賀津雄、村上輝康、若井田正文

4 文部科学省出席者


鈴木文部科学副大臣、坂田文部科学事務次官、清水文部科学審議官、山中官房長、板東生涯学習政策局長、川上審議官(生涯学習政策局担当)、德久審議官(初等中等教育局担当)、戸渡審議官(文化庁)、齋藤参事官(学習情報政策担当)、増子情報政策室長

5 議事概要

(1)議事の公開について資料3のとおり決定。座長に安西委員、副座長に三宅委員が就任。

(2)鈴木副大臣挨拶

 社会の情報化の急速な進展に伴い、ICTを最大限活用した21世紀にふさわしい学校づくり、学びが求められている。主に初等中等教育段階における学校教育あるいは学びの情報化に関する推進方策について懇談をいただきたい。
 21世紀は、ICTの社会への普及によって、単なる技術革命ではなく、情報社会革命とも呼ぶべき文明論的転換が生じている。すなわち、物の生産よりも、情報、文化、コミュニケーションが、社会活動、人間活動の極めて中心的な要素を占めるという歴史的転換期にある。こうしたなかで、次の時代を担う人材を養成する学校現場、あるいは学びそのものが、そうした新しい歴史創造を先導することを構想していきたい。
 今までのマスエデュケーション自体も、コンセプトから変わっていく。単なる理念だけではなく、まさにICT、あるいはデジタルコミュニケーション環境、情報機器によって、個に応じた学習、あるいはそうした個と個によるコラボレィティブな学び、膨大なアーカイブ、様々なシミュレーションも可能になっていく。これらは、無限の可能性を秘めており、例えば、個別の児童・生徒の学びの履歴、あるいは成長も、相当な程度で把握可能になり、これに基づいたカスタマイズされた学びもデザインできるだろう。また、時間と空間を超えて、場合によって、国境を超えたコラボレィティブな学習も可能になる。こうした中で、学びの本質論にも立ち返りつつ、21世紀の学びを再構築、再構成していきたい。
 具体的には、例えばデジタル教科書、教材、あるいは情報端末、デジタル機器を議論の対象とする。その際、次のパラダイムをどのようにしていくべきかについても、きちんと理解し、そして近い将来の的確な導入についてのロードマップも見すえていく。また、新しい学習環境における教員、教員をサポートする人材、学校をデザインすることを検討する。校務も、ICTを活用することによって、劇的に効率化し、また改善をすることができる。教員へのさまざまなサポートについても、議論の対象にしたい。
 ヒアリングを随時行いながら、6月あるいは7月を目途に、文部科学省として、教育の情報化ビジョンの骨子、枠組みをとりまとめ、来年度の概算要求などにもつなげていきたい。その後は具体的な課題に即してワーキンググループを設置し、年度内に教育の情報化ビジョンを策定したい。IT戦略本部における政府全体の新たなIT戦略の策定動向との整合性も図りながら、教育の情報化ビジョンを策定してまいりたい。
 21世紀のまさに新しい日本人をつくっていくという観点に立ち返って、皆さんと一緒に新しいパラダイムを切り開いていきたいので、よろしくお願いしたい。

(3)意見交換

【天野委員】
 保護者の立場からは、ICTを活用することによって、子供たちも大きな変化をしていくと思う。子供たちは、情報機器の操作や理解が大変速い。情報機器は、教科書以上に、授業への関心や興味、あるいは意欲を高めてくれるのではないか。
 他方、情報機器により、操作が得意な教員にとっては負担軽減になるが、苦手の教員にとってはかえって負担になることがある。教員のICT活用に格差が出て、それが子供たちの学力差に表れてしまうのではないかという懸念もある。

【新井委員】
 国立情報学研究所では、2005年からNet Commonsというソフトウエアを、オープンソース、完全にプログラムの中味を公開した形で、無償で配布している。このソフトウエアにより、学校のホームページが非常にきれいに構築できるだけではなく、日々更新して学校の情報を発信できる。あるいはうまくメールと連動させると、それが不審者情報の配信システムにも使える。保護者から学校評価のアンケートをとったり、保護者にだけ見えるPTA用の部屋が用意されたり、教員用のグループウエアが整備されていたり、子供たちが協調しながら学習ができるような場、基礎学力の繰り返しのテストができるようなシステムを提供している。現在までに全国で2,500ほどの学校で利用されており、例えば鳥取県、神戸市、前橋市、佐野市などでは、全学校で使用されている。
 一番ICTの支援が必要で、子供たちにとってもICTに触れて情報活用能力を学んでいかなければいけないのは、小中学校ではないか。アイデアや使えるお金の額は、市町村の規模によって様々であり、教育委員会に任せる形だとどうしても格差が出てしまう。ICTの基盤部分をクラウド化、SaaS化してコストを10分の1、50分の1に下げることも考えるべきではないか。

【五十嵐委員】
 日野市の教育の情報化のポイントは、授業の充実、校務の情報化、広報であり、優れた実践校には、市独自のICTマークを授与する仕組みを整備している。これまでの日野市のICT化の成果の要因は、教育の情報化の戦略本部を設け(教育CIO)、ICT活用教育推進室を設置し、学校のマネジメント体制(学校CIO)を整え、市が示した明確なビジョンの実現を目指したことである。とくにメディアコーディネータ(ICT支援員)が、ハード面の整備より授業創りの支援をしてきた点が特色である。
 日野市では、ICTを活用して、個に応じた学習を実現している。クラス、学年、学校を超えた共同学習も行っている。今はPDAを使って、発見したことをその場でメモして、その情報を共有するという取り組みも始めている。学習過程、学び合いの振り返りのポートフォリオの活用も増えてきた。教科を深めるために分析ツールとしての活用も行っている。また、思考を深めるため、様々な図形を、子どもたちが実際に操作、活用している。デジタルコンテンツのうち、理科ねっとわーくは、理科を教える教員はみんな使おうと取り組んできた。
 校務支援システムは、効率的であるだけではなく、教育の質を向上させるということがだんだん見えてきた。見える学校づくりということで、Webサイトについては技術がなくても発信できるように、全校にCMSを入れ、最初は校長から発信した。前提となるセキュリティ対策も整えてきた。
 今後の課題として、次のことを指摘したい。サポート体制について、いろいろな自治体がゼロからの立ち上げを始めている。日野市の経験を生かしながらモデル地域に対する助言の機会を得たが、それらの自治体は素晴らしい成果を上げているので、その成果がもっと広められたらいい。
 指導主事がいない自治体もあるなかで、小規模の教育委員会に対する支援を真剣に考えなくてはならない。新任教員の中にも、ICTの教育利用に否定的な考えを持っている初任者が少なくないように思うが、教員養成課程に課題があるのではないか。
 学校がICTをどんどん使える段階にあり、もっと教科の学びを深めたいときに、教員のニーズにこたえられるようなソフトをすぐに調達できる仕組みがあればよいと思う。

【市川委員】
 従来、一般的に言われているデジタル教科書は、教室で教員が補助資料として使う提示用教材である。最近よく使用されるようになった理由は、第一に、視覚効果があって非常に楽しく、学習意欲や授業への集中力が高まることだ。また、教員にとっては、準備のロス等が大分省けてきた。AETの先生が、デジタル教材を使った授業の子供たちの発音は、去年自分が教えていたクラスと全く違うと述べていた。
 ICTを活用していくためには、多くの教員が、早くICT、それからその教材の活用に慣れ親しむことではないか。そのためには、機器は格差なく学校にそろえられるということが最優先である。韓国では、2007年以前に、全学校にデジタルテレビなど、デジタルコンテンツを提示する大型のビジョンが普通教室に配備されていた。まず環境整備をしっかりしてほしい。
 「生きる力」と、OECDの21世紀のスキルを踏まえると、教員の指導用、あるいは生徒用の、デジタルコンテンツの開発が必要ではないか。また教科書会社としては、著作権の問題と、それから標準化の問題等があると思う。

 【馬野委員】
 デジタル教科書について、印刷物でないと教科書にすることができないのかどうか。デジタル教科書にせよデジタル機器にせよ、専用のものを開発するのか、それとも既に市販されている汎用のものを活用するのか。教育現場への導入をいつごろ想定しているのか。これらを確認したい。
  これらの開発や普及を促進させるには、情報通信技術、ICTの利用環境の整備が不可欠である。全校に無線LANを整備するよう、従来の目標水準を引き上げるべきではないか。ICT利用環境の具体的な目標設定、その実現に向けた工程表の作成が急がれるべきと思う。また、過去の戦略期間中に達成できなかった原因を究明することが大切。これを究明した上で、予算措置のあり方も含めて今後の対策を明確に打ち出すことが求められる。
 NIE(Newspaper In Education)として、学校などで新聞を教材として活用するという事業を全国的に展開している。OECDの調査でも、読解力向上には新聞が有効であるという結果が示されている。
 新聞社が保有するデジタル化された情報資産としては、記事や写真のデータベースがある。本年1月現在、日本新聞協会加盟社のうち54社がデータベース提供事業を行っている。例えば読売新聞社の場合、学校向けの記事データベースサービス「スクールヨミダス」は、国語や社会、総合的な学習などの授業のほかに、小論文、レポートづくり、ディベートに備えた資料収集に活用されている。また明治7年の創刊から、現在までの記事をオンラインで検索、閲覧することができる「ヨミダス歴史館」というサービスを使えば生徒・児童たちの近現代史の理解を深めることに役立つのではないか。

【大路委員】
 NHKの学校放送番組は、小学校の68.2%で利用されているというデータがある。他方、デジタル教材については、今年度、600本の番組と約3,000本の動画クリップを公開しているものの、利用率は27%と若干低い状況にある。認知しているが利用していない学校の先生方に伺うと、ネット環境が整えば利用したいといった声がよく聞かれる。
 NHKクリエィティブライブラリーは、昨年10月末にスタートした新しいサービスであるが、過去の映像素材、NHKが撮影してきた様々な自然、風景、CG等の素材を、無料で、インターネットにより提供している。3月末時点で3,000本であるが、一層増やしていくために取り組んでいる。簡易編集ソフトを入れており、子ども、若い人たちが、これを使って簡単な映像作品を作れるということが売りである。また、著作権フリーの音楽も何種類か入れており、ミュージックビデオも作れる。創造性教育、映像リテラシーの教育に利用いただきたい。
 他に、「戦争証言アーカイブス」として、今年の夏から再開するサービスがある。太平洋戦争の激戦地で苦労した兵士、市民、さまざまな方々の証言を、400件程度集めてインターネットですべて公開しようという計画であり、年表・地図も入れて、授業でも使えるようにしたい。環境、平和、生き方、情報といったテーマで、過去の特集番組等のDVDを無料で貸し出すサービスも学校向けに行っている。
 これらと並行し、デジタル教材を学校で利用していただくため、教員のための講座を行っている。今年度は全国で10回程度開催する予定。教員を志望する学生に向けて、教え方教室も実施している。回数は年5回程度であるが、講師派遣等も実施している。課題は、学校のICT環境の整備の一層の充実である。動作環境、先生方にとって非常に使い勝手の悪い環境にある学校が少なくない。これは自治体によっても差があり、教員が黒板の前で見せる分にはよいが、パソコン教室で全員が一斉にアクセスするととまってしまったりする現状がある。フィルタリングのためNHKのクリエィティブライブラリーが見られない学校もある。
 今後、ICTのすそ野を広げていくためには、教育現場を支えていくためのサポート体制をさらに充実するとともに、ICTの活用ノウハウを身につけるための教育プログラムを考えていく必要がある。

【小城委員】
 大学の教育分野でのデジタル化では、教科書について、米国が大変進んでおり、現状はまだ5%程度であるが、2012年には全体の教科書の10%から15%がデジタル化されるだろうと思われている。単なる内容で差異化するだけではなく、教員が自由に編集できたり、補助教材がついていたり、学生の成績管理等の機能がついていることが大変多い。また電子書籍端末については、大学等で実験が始まっており、Amazonのキンドル等が大学で配布され、トライアルが始まっている。電子図書館についても、日本でも若干始まっているが、アメリカが一歩先行している。また特にITを活用した学習環境デザインについて、いわゆるアクティブ・ラーニングが日本では東京大学を中心とし、また、アメリカでも進んでおり、効果としては、成績優秀者の力がより伸びる傾向があると言われている。
 アナログ、デジタルを2分割で考えず、それぞれのよさをハイブリッド化して、トータルで効用を増すという発想が大変重要である。また、単なる教材のIT化、デジタル化だけではなく、やはり学習環境全体をデザインする視点が重要である。特に電子図書館については、聞くところによると、現状の本がある図書館については、未だIT化が途上であると伺っており、それをやらないと、なかなか電子化は難しいと考えている。

【隂山委員】
 本年3月にシンガポールで、ICTを使った教育の国際コンクールの審査員を務めたが、非常に衝撃的だったのは、圧倒的に日本が遅れており、完全にアジアのトップから見れば抜き去られている状態であることだ。教職員の大量退職によります新規参入が今後10年大きく進む。こうした中で、教員免許の更新制をはじめ、教職員のあり方についての議論が高まっている今だからこそ、本懇談会は非常に意味があると思う。また、新しい学習指導要領が提起され、教材が変わってくる。これは学ぶ内容も変わってくるわけであるが、キンドル、iPad等がいよいよ登場し、ごく普通に日常生活の中に馴染んでくれば、自然に子供たちが使うようになる。この場合に、デジタル教科書もごく自然に子供たちに入ってくるのではないかと思う。もっと国策として導くべきであり、根本から改めるべきではないか。
 立命館小学校に、DS-iという新しいDSを入れた。2面式になっていて、画面があり、書くところがある。いわば教科書とノートの関係である。もっと教育用に特化したものが考えられていいのではないか。そしてこれを全国に普及していくためには大量のお金が要ると思う。予算のあり方からひっくるめて、日本の教育全体を改める必要があるのではないか。教育の分権化は、基本的には正しいとは思うが、一時期、いっぺん中央集権に戻してはどうかというぐらいのことを思っている。

【國定委員】
 三条市では、昨年度の補正予算によって簡易型の電子黒板を大量に導入した。子供たちを集中させる効果が非常に高いという意味で、教員に極めてよい評価をいただいている。現時点での学校現場の情報化水準からすれば、この電子黒板を如何に活用させていくのかに予算、財源、人材をすべて集中投資してもいいのではないか。個別端末に可能性を追求していくことももちろん大切だが、限られた財源を考えたときには、せっかく今、全国に普及をし始めた簡易型の電子黒板、これを活用するソフトを充実させていかなければいけない。何と言っても最良・最強のコンテンツは教科書であるので、現在一部に限られている教科書のデジタル化にまずは全力投球するべきではないか。このデジタル化を強力に推進するためにも、紙ベースの教科書の無償給与を準用するような形で、自治体間格差を生まないための、国からの積極的な財政支援も必要ではないか。
 特別支援教育に対する支援も大事な視点である。発達の障害のレベル、そして発達の段階に応じて、といったときに、ICTほど親和性の高いものはないと思う。これこそ国、行政が積極的に入り込んでいく分野だと考えており、ハード、ソフト、両面にわたって、これから先かなり力を入れていくべき分野である。
  校務支援システムは絶対に必要である。校務支援システムについては、恐らく全国の市町村、ほぼ一律の中味で十分だと思っている。例えばクラウドコンピューティング、地域情報化プラットホームといったような、統一的な共通基盤を得ないと、自治体が今陥っている、いわゆる基幹系の電算システムが個別のシステムベンダーによってかなり高いところでとどまっている状況の二の舞を踏むことになる。したがって、全国的で統一的なシステムの導入を目指していくべきである。
 自治体への財政支援については、教育版一括交付金の創設を期待している。そうすれば、各自治体がハード、ソフトの整備などを複数年度の計画で行うことができ、結果として全国的に均(なら)される形になるだろう。

【重木委員(角田代理)】
 教育に関するICTの利用について、デジタル機器の導入や、通信環境の整備だけではなく、教材、コンテンツの整備が重要である。コンテンツの整備については、現場に任せるだけでは足りない。標準的なコンテンツの供給、流通体制の整備が、今後求められる。また、専門的な理解なしに使えるような環境での配備、提供が望ましい。
 カリキュラムに沿った標準的なコンテンツ作成については、中央で集中的に行って、それを現場に提供するという形があり、現場では、それを改善し、現場でつくったものをさらに集中管理していくことが、自由に可能な環境整備が必要になるのではないか。
 情報化社会に関する教育が、従来に増して必要になる。単にパソコンの使い方を教えるというだけではなく、情報の取得、蓄積方法、分析技術、発表方法など、コンピューターの利用有無にかかわらず、一連のコミュニケーション方法、情報活用方法を中心に教えていく必要がある。
 ICTによる校務支援については、教職員1人1台のパソコンとネットワーク接続環境が望ましい。多くの学校は、教職員の数で見ると、企業で言えば零細企業、小規模な企業に該当する。そうした意味では、ICTの専門家をそれぞれに設置するということは実質的に難しいため、例えば区ごとに専門メンバーを配置するなどして、複数の学校のICT化を一括して進めるというふうなやり方が、現実的には望ましい。また、個別にプログラムとかシステムを作るのは高価になるため、業務の標準化が必要になる。

【玉置委員】
 校務の情報化によって、学校は間違いなく元気になる。保護者からの信頼が生まれる。小牧市の実践により、教職間の情報の共有が素早くでき、お互いの情報をオープンに見られることで、教職員の力も向上した。1年間で、A4で20ページぐらいの情報を保護者に提供している。そして全職員で子供を育てようという目的で、「いいとこ見つけ」という取り組みとして、グループウエアの中に各職員が見つけた子供のいいところを書いておくと、それが通知表のところに自動的に差し込まれ、子供はいろいろな先生から自分を認めてもらったというコメントを読むことができる。保護者も、学校の先生は我が子を一人一人を見ていてくれていると考える。また、ホームページにCMSを導入し、365日学校ホームページを更新した。いわゆる学校を見えるようにすることによって、保護者からの声が入り、双方向のやりとりができることを実感している。
 課題としては、校務の情報化が学校のマネジメントを大きく変えるという認識がまだ広がっていないことだ。教育行政にいると、調査、文書がたくさんあるが、ICTを使って、国レベルで集約をし、利用していくことができないかと思う。

【千葉委員】
 学校支援地域本部地域コーディネーターという仕事をしながら学校を幾つか回ってみたが、例えば、生保内小学校では、先月電子黒板が入った。例えば、理科の授業では、自然現象をつかませる上で、視覚的な教材の効果は非常に大きいという感想を聞いている。また、教材についても、非常に効率的に作成することができるという感想を聞いている。さらに、教師が本来やるべき業務に携わることができるようになったという感想も聞いている。

【中村委員】
 デジタル教科書を普及させる協議会の設立を民間有志で進めているところである。デジタル教科書といっても、我々は、教科書の教材だけではなく、端末機、それらをつなぐトータルなネットワーク環境、アプリケーションのシステムを含むトータルな学習環境を意味している。
 例えば端末のスペックについても、大きさ、軽さ、強さ、画像の精細度、通信機能について考えていくべきと思う。また、それ以上に、そしてそれ以前にトータルな教育環境をどうするのか、学習効果はどう検証するのか、教員の負担、教育法はどのようなものかを広く考えていく必要がある。そのため、文部科学省との連携、現場の先生方等の考え、経験を広く取り入れながらオープンに進めていきたい。
 知的財産計画の骨子にもデジタル教科書の普及について記述されており、この分野は、教育、成長戦略としても、今注目されている。

【西野委員】
 学校教育の情報化において、3つの大事なステージがあると考えている。1つめは、授業で有効に使われるような情報機器を開発し選定したりして、学校に導入すること。2つめは、導入した情報機器がうまく授業で有効に使われるようになること。それには、先生方が授業で有効に使うためのスキル、これが必要である。3つめは、それらの情報機器を、今度は児童・生徒が有効に利用することができるようになることであり、すなわち情報教育である。
 2005年に米国の小中高等学校へ、情報教育、教育の情報化の視察に行ったが、全教室に電子黒板やプロジェクターがあり、有効に授業に使われていた。情報教育もとても進んでいた。最近、ヨーロッパ、韓国、オーストラリア等と比較すると、日本の教育の情報化と情報教育は大変遅れていると感じざるを得ない。
 九州工業大学では、平成19年度から情報教育支援士養成講座を実施している。これは、学校の情報化に資する人材を育成するとともに、実際に情報教育の授業に入っていき、教員のもとで生徒に指導するものである。課題としては、卒業した情報教育支援士がなかなか有効に働けないという現実があることだ。財政的な問題があり、市の教育委員会等々で雇用できないという問題もあると思う。加えて、学校現場のほうから、それが声として上がってこない。地域の教育CIO、あるいは学校のCIOという方々がうまく機能していないということが背景にあるのではないか。

【野中委員】
 日本の学校、特に小中学校ではICT活用も情報教育も、普及・定着にはほど遠い状況にある。現在は、先生方の努力や工夫によって、かなりの部分依存している状況にあり、今後総合的に条件整備をしていくことは非常に重要な課題である。例えば、韓国では2001年にインフラの整備が終わっており、その後普及に4~5年かけている。英国では、2003年ぐらいから電子黒板の導入を始め、どこの教室でも電子黒板を使っていたが、教員が手間無く活用できるICTの環境整備を行ってきた。また、相当な予算をつぎ込んでいるという実態がある。一斉授業をするときに先生が手間を感じるようでは、普及はあり得ない。
 全国学力・学習状況調査における学校質問紙で、ICT活用の状況について問うた項目がある。インターネットを活用した授業を行っていない学校の割合が非常に低い。小学校に比べ、中学校はもっと低い。例えば地域間格差という話もあり、同じ整備がされていても学校間の差もある。教員が使いやすいかとか、今までやっている授業スタイルに馴染んでいるかというところからスタートしない限り、その後の整備、活用の促進には至らないのではないか。
 大ざっぱであるが、ICT環境が整えば活用頻度が上がるというデータは出ている。活用頻度が高くなると、国語・算数の学力が若干上がるというデータもある。ただICTを活用しただけではだめで、ICTを活用する先生の授業力や、その活用の仕方によるので、複合要因であって、はっきりとは出ないのであるが、そのようなデータは出ている。
 提示用コンテンツとしてのデジタル教科書は、学力向上に寄与するだろう。日本で多く行われている学習スタイルは、一斉指導の次はおそらくグループ別学習である。学習指導要領の中に教科におけるICT活用、情報教育の話が盛り込まれたが、「教育の情報化に関する手引」は、ほとんどの先生に読まれていないのではないか。学習指導要領の総則あたりで、体系的にこういう学年でこういう能力を育てるということを明示すべきではないか。
 教員の育成と同時に、教育委員会で整備を担当する指導主事、あるいはCIO、CIO補佐官の人材育成、ICT支援員の活用が重要。また、韓国では、KERISという機関があって、継続的に調査・分析をしたうえで、次の展望を出している。英国にはBECTAという組織がある。ぜひ国として機関を設置して、継続的に行わないと、この問題は解決しないのではないか。

【堀田委員】
 教員は、子供たちにもっと勉強をわかってほしいと思っているので、さまざまな教え方の工夫をしており、ICTにも非常に期待している。ICTをあまり使っていない現場の教員についてマスコミ等が責めたてることが多いが、物が導入されていないので使いようがないし、使う機会があまりない。一般的に、パソコンを使えない先生は、もはやほとんどいない。授業で便利なものが十分に入っておらず、使うチャンスが十分に保証されていないことが問題である。
 教員の多忙化との関係では、ICTも教員から見れば多くのことのうちの1つである。ICT活用を重点化するための戦略が必要であると思う。
 我が国は教科書の質が非常に高い。これは世界的に見た日本の大きな特徴である。良質な教育内容をきちんと子供たちに習得させるということ自体は、否定されるべきことではない。教員がそのことを特に義務教育において行うことについて、もっとICTがバックアップできるような形にならなければならない。
 教員の教え方を変えるようにと、外から強く言われることが多いが、教員はなかなか同調しにくいのではないか。むしろ現在の学校文化を助けるところで、ICTを活用し、そこから新しい教え方にスライドしていくような戦略をとらなければならないのではないか。
 日本では130年間ずっと、一斉授業を中心に進めてきた。これは日本の強味。その教育技術が教師にはあり、これに役に立つICT教材をインストールしていくべきではないか。
 英国はどちらかといえばICT活用に成功した国だが、ICTが授業で使われていくには5段階ある。最初は、慣れる・親しむ、そして活用してみる、それから初めてインテグレーションが起こって、授業の見直しが起こって進化していく。最初から進化を追うのではなく、馴染む段階がどうしても必要である。
 今までの日本の教員の授業スタイルを最初はあまり崩さず、指導時の提示用のデジタル教科書から入り、同じものを子供も使える、家庭でも使える、というプロセスをとりながら、さまざまな外部情報をその教科書にリンクしていくことにより、高品質な教科書を持っている我が国の強みを生かしていけるのではないか。
 教員養成の学部では、1段階目(慣れる・親しむ)、2段階目(活用してみる)ぐらいの基本的な事項は体験してから教員になってほしい。そうした制度も検討していくべきではないか。

【三宅副座長】
 東京大学の大学発教育支援コンソーシアム推進機構は、大学が知を発信していく場所であるならば小中高等学校の教育にも資するような努力をすべきではないか、ということで創設された。大学知を活用できるよう現場の教育の質を上げるためには、教員が説明するのではなく、ICTも活用して、学習者自身が知識を構成していくような学びの場をつくり出してゆく必要がある、そのために、インターネットを駆使した情報の受発信ができる等ICTをきちんとした形で学校の中に入れ、常に活用できる状態に整えておく必要があると考えている。
 これは、世界的に希求されており、3月に米国で出されたオバマ大統領の教育リフォーム、Reforming American Education Powered by Technologyでも重視されている。提言の骨子の一つは子どもたちが学校をきちんと修了して社会に出、活躍できるようにしようというもの。学校を出た先の社会では、ICTを十分に使いこなしている人々が改革を牽引している。学校ではそのような高度なリテラシーの獲得を目指すと同時に、今ICTに関しては普通の人たちが使っているのと同じような形で使えることが社会の中で役に立つ最低条件なのだから、学校では最低でも普通にツールとしてICTがきちんと使える、特にインターネットがきちんと使える、という状況をつくり、学校を出たときにはそのような力が備わっているようにしよう、というものである。この基準に合わせて考えるなら、日本の現在の学校におけるインターネット環境を大幅に変える必要がある。
 ヨーロッパでは、Assessment & Teaching of 21st Century Skillsというプロジェクトが、企業とOECDを巻き込んで行われており、インターネットがつながっていることが、世界的に、全体として教育の質を上げる基盤と考えられている。

【宮澤委員】
 15年前に比べ、機器は相当ふんだんに提供され、情報も非常に多く提供されるようになったが、現場の教員にとって、よい機器、よい学習環境、よいコンテンツの取捨選択が非常に難しくなってきたように思う。
 情報過多の中で、きちんととらまえて活用できる教員と、その情報の中に飲まれてしまう教員の2つに分かれてしまっているのではないか。
 教育の情報化は一体何のためにやるのか、ぜひ戦略・戦術を明確にしていくべき。
 国としてどのような人材をつくるかを明確にした上で、何を使ってどのようにするかという具体的な方策を導くべきと考える。

【村上委員】
 デジタル化の範囲については、例えば小学校の期間には一切デジタル機器を教育現場には持ち込まず、中学校から一気に進めるべきではないか。そのかわり高校以上についてはできるだけ早く、コストのことを考えるのであれば、紙の教科書をなくしてしまうというようなデジタル化の全面展開をやるような、メリハリのきいたアプローチが重要ではないか。
 インターネットは、コンテンツについてはほとんど何でも入手できるすべを我々に与えてくれたが、何をどのように学ぶのかという、学び方のオペレーティングシステムについては与えてくれるものではない。この学び方のOSというべきものは、おそらくデジタルであるよりも、最初はアナログの方がよいのではないか。
 他方、校務の情報化は、小学校も含めて広範にデジタル化を推進すべきと思う。
 教科書、教材のデジタル化、あるいは校務の支援システムを効率的に推進していくために、クラウドコンピューティング技術の活用が不可欠。セキュリティー水準の高い教育クラウド、SaaSを活用した教育、校務にかかわる標準化されたアプリケーション、標準化された教科書、教材コンテンツの共同利用が、費用の削減というところで大きく寄与するはず。端末については、ワイヤレス接続は必須だが、できるだけ汎用的な端末、皆が使っている端末を標準端末にするのがよいのではないか。
 学校教育の情報化には、教職員、児童・生徒、保護者をつなぐ、安全・安心な個人認証基盤の確立がかぎになってくる。新しい国民ID基盤の確立に向けての動きと歩調を合わせたような取り組みが大事ではないか。
 学校教育のデジタル化、校務の情報化の推進のかぎを握るのは、児童・生徒、教員、教育委員会、保護者に対する適切なICTリテラシー教育、研修である。この役割を担い、システムアドミニストレーションの役割を担う、ICT支援員のような機能については、職種として、全校に悉皆で、しかも恒常的に入れていくことがかぎになる。
 デジタル化を進めていくため、従来の一方向の放送型の学習から、双方向の対話型の学習にするという、非常に大きなパラダイム転換を実現していくには、米国のBECTAや韓国のKERISのように、デジタル時代の教育のICT化の戦略的な推進について責任を持ち、カリキュラムの開発、評価、教師向けの研修、ニーズの吸収等を専門的に実施する執行機関が必要ではないか。
 以上、第一回なので、あまり資源的な制約を考えないで提案を行った。

【若井田委員】
 世田谷区は、平成20年度から23年度までの「世田谷区教育の情報化推進計画」を進めている。この推進計画は、ICTを活用した教育活動の充実と学力の向上、地域とともに進める教育の情報化、これらすべてを支えるセキュリティーの確立という4つの目標を設定して、進めているところである。
 世田谷区では、平成19、20年度で、教員1人1台のパソコン環境を整備した。また、それらをすべて校務ネットワークシステムで結んでいる。教育ネットワークと別途に専用線を導入して、独立したネットワークとして稼働している。これらに対応するヘルプデスクを整備した。

【安西座長】
 明治以来の追いつけ追い越せ、大量生産を、日本でリードしてきたのが、特に初等中等教育であった。しかし、大きな時代の転換があり、これには特にインターネットの影響が大きかったと思うが、多極化、グローバル化の時代になり、これからは日本で生きていく人たちが、一人ひとり、自分でものを考えて、自分で行動していかなければならない時代に入ってきた。それには、今まで成功してきた初等中等教育が成功に浸ることなく、これからの日本の時代のあり方を見すえて、変わっていかなければならないのではないか。
 このためには、子供たちそれぞれに受け身の教育、学びではなく、もちろん双方向の学習も含め、これからの時代の学びのあり方があり、ICTはそのために非常に重要な、不可欠の道具になってくるだろう。また、情報化を進めるのであれば、一方で身体、社会、責任、軋轢、人の心の痛みがわかることなど、バランスをとっていく必要がある。
 ネットをベースにするということになると、子供たち一人一人の伸びる教育ということに目が行くが、鍛える教育も必要である。その繰り返し教育、あるいは鍛える教育のミニマムラインをきちんとつくって、それを全国できちんとできるかどうかということも、考えていただきたい。
 これまで、デジタル化あるいはICT導入への移行は待ったなしという意見と、現場の教員あるいは日本の今の教育のあり方にかんがみ、一歩一歩着実にやってくべきとの意見があったと考えている。

【隂山委員】
 ICTの教育を進める上において、ハードウエア、ソフトウエア等について、民間企業に頼る部分が大変大きい。メーカーと学校現場とがうまくWin-Winの関係で流れていくガイドラインがつくれないものか。 -16-

【安西座長】
 個別企業あるいは製品開発等々を聞くことも重要であると思うので、第2回(5月18日)、第3回(5月21日)は、非公開のヒアリングとしたい。

【鈴木副大臣】
 ソフト、ヒューマン、ネットワークを含むハードウエアがきちんとかみ合い、トータルデザインの中で具体的なアクションプログラムを示していくことが重要。皆さんと共に、日本の児童生徒の学びをイノベートしていくというゴールに向かってベストを尽くしていきたい。

(以上)

お問合せ先

文部科学省生涯学習政策局情報教育課

(文部科学省生涯学習政策局情報教育課)

-- 登録:平成22年08月 --