複合化公立学校施設PFI事業のための手引書 第3章 複合化公立学校施設PFI事業の進め方1(4)2)


←前ページ 次ページ→

2) PFI導入の検討

1 事業の発案
 基本構想、基本計画の策定の後に、公共施設の整備等の実施に当たり、その事業手法について、従来型手法によることとするのか、PFIを導入することとするのか検討することとなります。PFIは事業実施のための一手法であり、PFIの導入に当たっては、その趣旨や目的、可能性などを明確にすることが必要となります。なお、PFI法第4条において、民間事業者からの発案による事業も想定されています。

2 アドバイザーの選定
 PFI事業は、財務、法務、建築等の専門知識やノウハウを必要とするため、一般的にはこの段階から外部のアドバイザーに委託をして、導入可能性調査からPFI事業契約に至るまで検討を行います。

3 PFI導入可能性調査
 PFI導入可能性調査は、施設の整備目的や事業内容を考慮しながら、PFIの導入目的を明確化するとともに、PFI導入の可否を判断し、PFI事業の実施段階における公募条件の基礎的な検討となるものです。
ア) 事業内容の整理
 整備することとなる公共施設の基本理念、施設の在り方、対象とする業務内容の整理など、PFI導入の可能性を把握するために必要な条件を整理します。

イ) PFI導入範囲の検討
 公立学校における学校教育については、「学校教育法」等により地方公共団体の教育委員会が行うこととされており、学校施設の維持補修等のメンテナンス、清掃、警備等の事実上の業務については従来より民間事業者に対して委託することは可能です(参照ページはこちら)。
 一方、併設施設については、法令の規定により限定がなされていない限りにおいて、運営業務についてもPFI事業の対象となり得るため、その事業範囲について検討を行うこととなります。

ウ) PFI事業の枠組みの検討
 次に、事業方式や事業形態、事業期間など基本的な事業の枠組みの検討を行います。
 公立学校施設、併設施設それぞれに各々最適な事業の枠組みを検討するとともに、複合化施設全体としてPFI効果が発揮できる枠組みを構築することが必要となります。場合によっては、異なる方式を組み合わせた枠組みとすることも可能です。
事業方式の検討(BTO、BOT方式等)
 特に、併設施設について、次のような観点から、最も適切な事業方式を検討します。
  民間事業者の創意工夫
  補助金適用の有無
  税負担の違い 等
事業形態の検討(サービス購入型、ジョイントベンチャー型、独立採算型)
 施設や業務の特性により、サービス購入型、独立採算型、ジョイントベンチャー型など、公共からの適切な支払方法を検討します。なお、学校施設と併設施設において異なる支払方法を組み合わせた事業スキームとすることも考えられます。
事業期間の設定
 施設や業務の特性を踏まえ、以下の事項に留意して検討を行います。現在事業者の公募が行われている事業は10~15年、長いもので20年に設定されている事業が多くなっています。また、少数ですが30年の事業もあります。
資金調達(民間事業者が固定金利で調達可能な範囲2での設定)
財政負担の削減(VFMが達成可能な範囲での設定)
その他(民間事業者の投資回収期間など)
   併設施設の場合、適切と考えられる事業期間が学校施設と異なることも考えられます。その場合には、施設ごとに異なる事業期間を設定することも考えられます。

エ) リスク分担の検討
 リスク分担はPFI事業において非常に重要な取り決めとなります。計画・設計段階から維持管理・運営段階までの想定されるリスクを抽出し、従来型 手法の場合のリスク分担を明確にした上で、PFIによる場合のリスク分担を検討します。
 検討に当たっては、公共と民間事業者のうち「最もリスクを適切に管理できるもの」がそのリスクを負担することが原則とされています3
 具体的には、導入可能性調査の段階では、リスク分担の概略について検討を行い、実務段階においては契約書(案)への条件提示を念頭に置きつつ、リスクを細分化してより詳細な検討が必要となります。検討の際には、民間事業者や金融機関、保険会社等にヒアリングを行い、これらに対して過度なリスク分担となっていないか確認することが望ましいと考えられます。
 また、特定事業の選定においては、リスクの定量化(貨幣換算)を行い、VFMの評価を行うことが必要となります。

オ) VFMの検討
 VFMはPFI導入の可否を評価する基準の一つであり、「従来型手法で実施する場合の公共財政負担額の現在価値」(PSC)と「PFIを導入する場合の公共財政負担額の現在価値(PFI-LCC)」の差によって算出します。また、PFI-LCCは、「サービス対価」の算定を行った上で、計算します。

計算の図


a. 割引率の設定
 PFI基本方針4においては、PSCとPFI-LCCを比較する際は現在価値に換算して比較することが定められています。
 金銭価値は、物価や金利の変動の影響を受け、時間とともに低下することが一般的です。PFI事業は長期にわたることから、この間の物価や金利の変動はその収支に大きな影響を与えることになります。したがって、事業性を評価するに当たっては将来に得られる収入や発生する費用を現在の価値に割り戻して評価する必要があります。
 割り戻す際に利用されるのが、割引率です。割引率は長期金利動向やインフレ率などが相互に影響しあいます。「VFMに関するガイドライン」では、リスクフリーレートを用いることが適当とされており、長期国債利回りの過去平均等が例示されています。

b. 物価上昇率の設定
 物価上昇率についても、事業期間等を勘案の上、設定します。

c. PSCの算出方法
 公共が従来型手法により公共事業を実施した場合の公共負担額であり、PFIを実施した場合の公共負担額と比較するために算出します。
<PSC算出項目>
項目 内容
供用開始前 1事業準備費 設計者の選定、積算、入札事務等に係る人件費などの費用を計上
2建設費等 建設費等 調査費(地盤調査、周辺影響調査等委託費)や設計費、建設費を積算し、国庫補助分を除く費用を計上
資金調達コスト 建設費の調達方法を補助金、一般財源額、起債発行額、発行条件(金利、返済期間等)等から設定
管理運営段階 3運営費 PFI事業者に委託する業務に係る費用を計上
4維持管理費 PFI事業者に委託する業務に係る費用を計上
5修繕費 PFI事業者に委託する業務に係る費用を計上

d. PFI-LCCの算出方法
 PFIを実施した場合に公共が負担する額を算出するものであり、公共から民間に支払うサービス対価以外に、事業者選定のための費用など公共が自ら必要とする費用や、公租公課など公共の収入となる部分も含めて算出します。
<PFI-LCCの算出項目>
項目 内容
供用開始前 1事業準備費 アドバイザー選定費用、募集要項作成等に要する人件費やアドバイザー(技術・金融・法務)委託費用などを計上
管理運営段階 2サービス対価 PFI事業者に委託するサービス内容を勘案し適正な対価を設定し計上
3モニタリング費用 PFI事業者が実施するサービスに係るモニタリングに要する費用
4公租公課 PFI事業者が支払う公租公課のうち当該地方公共団体が徴収するものを計上

e. サービス対価の算出方法
 サービス提供に当たって民間事業者が要する費用を算出し、これに民間事業者の利益を加えたものがPFIを導入した場合のサービス対価の額となります。
<サービス対価の算出項目>
項目 内容
供用開始前 1事業準備費 施設整備に係る手続諸費用、アドバイザー費用などを計上
2建設費等 建設費等 調査費(地盤調査、周辺影響調査等)や設計費、建設費を積算し、国庫補助を除く費用を計上
資金調達コスト 出資金、銀行借入の額、借入条件(金利、返済期間等)を設定
管理運営段階 3運営費 PFI事業者に委託する業務に係る費用を計上
4維持管理費 PFI事業者に委託する業務に係る費用を計上
5修繕費 PFI事業者に委託する業務に係る費用を計上
6公租公課 登録免許税、不動産取得税、固定資産税、都市計画税、法人税等民間事業者が支払う公租公課を計上

f. 各項目の費用の設定方法
 PFIにおいては、設計・建設・維持管理・運営を一括に委託することや性能発注5によることなどによりコスト縮減が図られることが想定されますが、その費用の算出に際しては、既存の類似公共施設との比較、PFIの先行事例、民間事業者ヒアリング等が参考になると考えられます。

g. 民間事業者の事業採算性の検討
 PFI事業として成立するためには、公共の側としてはVFMが達成されていることが必要となりますが、一方、民間事業者の側としては、民間事業者の利益が確保できることや、資金調達が可能であることなど事業の採算性が必要となります。
2   現在の金融市場では固定金利で調達可能な期間は10~15年といわれています。途中での金利改定を前提として事業期間を20年としている例もあります。
3   民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する事業の実施に関する基本方針 三-2-4
4   民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する事業の実施に関する基本方針
5   発注者が、施工方法、資材などを詳細に規定した設計書及び仕様書等を事業者に示す発注方法(仕様発注)ではなく、事業者の創意工夫を十分に生かすために、基本的な施設の性能や最終的なサービス内容・水準を示すことにとどめる発注方法。

複合化公立学校施設PFI事業の留意事項
併設施設の運営について
 学校施設と一体的に整備することとなる併設施設は、学校教育上の効果や地域における施設の位置づけなど、そのコンセプトを明確化した上で、対象施設を検討する必要があります。その上で併設施設の管理運営業務について、民間事業者に委託するかどうか、次のような視点からその可能性を検討することになります。
  法制度(民間事業者に委託することが法制度上問題ないか)
  リスク管理(民間事業者が担った場合、過大なリスク分担とならないか、リスク分担が明確化されているか)
  事業の継続性(既存の業務との整合性や継続性の観点から民間事業者に任せることが可能か)
  民間事業者の採算性(民間事業者が参画できる採算の確保が可能か、長期間安定したサービス需要が見込めるか)
  事業実施の競争性の有無(一定数の事業者が存在しない事業をPFIにより実施したとしてもコスト縮減等の効果が減少すると考えられる)
   また、学校施設の地域への開放や併設施設の運営について地域住民やボランティアの参加を計画する場合は、公共、PFI事業者及びそれら関係者の三者間における役割分担や責任の範囲について、民間事業者の意向も踏まえつつ検討する必要があります。
 
<参考>PFI導入の可能性についての検討の例
PFI導入の可能性についての検討の例の図

←前ページ 次ページ→

 

-- 登録:平成21年以前 --