複合化公立学校施設PFI事業のための手引書 第2章 公立学校施設PFI事業の現状1


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1. PFIの概要
(1) PFIとは
 「PFI(Private Finance Initiative)」とは、公共施設等の整備等(建設、維持管理若しくは運営又はこれらに関する企画をいい、国民に対するサービスの提供を含む)に関する事業を、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用することにより効率的かつ効果的に実施し、公共サービスの向上やトータルコストの削減を図ることを期待する手法です。
 PFIは1992年にイギリスにおいて正式に導入され、我が国においては行財政改革の流れの中で平成11年にPFI法1が制定されました。また、平成12年にPFI事業の実施に関する基本方針2が定められ、さらに、PFI事業を実施する上での実務上の指針として、平成13年及び平成15年に5つのガイドラインが示されています。
  PFI事業実施プロセスに関するガイドライン(平成13年1月22日)
  PFI事業におけるリスク分担等に関するガイドライン(平成13年1月22日)
  VFM(Value For Money)に関するガイドライン(平成13年7月27日)
  契約に関するガイドライン-PFI事業契約における留意事項について-(平成15年6月23日)
  モニタリングに関するガイドライン(平成15年6月23日)

 
1   民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律
2   民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する事業の実施に関する基本方針

 
(2) PFIの基本理念
 PFI事業を実施するに当たっては、PFIの基本理念を十分に理解して進めることが重要です。PFIの基本理念としては、まずVFMの達成や官民の適切なリスク分担が必要であり、国の基本方針においてもその実現のために必要な5原則3主義を掲げています。
1) VFMの達成
 PFIの概念の基礎には、VFMという考え方があります。VFMとは、「支払に対して最も価値の高いサービスを供給する」という考え方です3。支払に対して価値の高いサービスを供給する場合に「VFMがある」と言い、そうでない場合「VFMがない」と言います。
 実際にPFI事業として実施するかどうかについては、このVFMが確保されているかどうかを確認する必要があります。
 民間事業者に委ねることにより、公共サービスが同一の水準にある場合において事業期間全体を通じた公的財政負担の縮減を期待できること、または、公的財政負担が同一の水準にある場合においても公共サービスの水準の向上を期待できることを基準に判断します4
 VFMは、従来型手法で実施した場合の公的財政負担の推計額(PSC5Public Sector Comparator))とPFIで実施した場合の公共財政負担の推計額(PFI-LCC6(PFILife Cycle Cost))との比較から求めます。PFI事業が事業期間全体を通してのコスト縮減を目指していることから、比較においては、事業期間全体におけるコスト(企画段階、建設段階、維持管理段階、運営段階を含めた事業全体のコストの総計)によって行います。また、PSC、PFI-LCCの比較においては、現在価値7で行うことが国の基本方針において求められています。

3   VFMに関するガイドライン一-1-(1)
4   民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する事業の実施に関する基本方針1-3-(1)
5   PSC:公共が自ら実施する場合の事業期間全体にわたる公的財政支出見込額の現在価値。
6   PFI-LCC:PFI事業として実施する場合の事業期間全体にわたる公的財政支出見込額の現在価値。
7   現在価値:複数年にわたる事業の経済的価値を測るために、各年のキャッシュフローに時間の概念を取り入れた考え方で、現在を比較の基準とし、将来受け取るキャッシュが現時点ではどのくらいの価値があるのかを示したもの。

 
<VFM概念図>
 前述した通り、VFMの見方には2通りがありますが、ここでは、「公共サービスがが同一の水準にある場合」の公共負担額の比較を行う場合の考え方を示します。
 PFI事業では、従来なかった民間事業者の利益や法人税、固定資産税等の税金の負担が生じるほか、公共と民間の信用力の差から来る支払利息の増加分も見込む必要があります。一方、建設費・運営費の面においては、一括発注や性能発注、民間の工夫・効率によりコストの縮減が期待されます。また、従来は公共が負っていたリスクの一部をPFI事業者に移転することによるコスト縮減も期待できます。
VFM概念図
※需要の変動、天災、物価の上昇等の経済状況の変化等、予見できない事態により損失等が発生する可能性をリスクという(PFI事業におけるリスク分担等に関するガイドライン一-1)。

  2) リスクの明確化と官民の適切なリスク分担
 事業の実施に当たっては、事故、需要の変動、経済状況の変化、計画の変更、天災等予見できない事態により損失等が発生するリスクがあります。
 公共がほとんどのリスクを負担していた従来型手法に対し、PFIでは「リスクを最も適切に管理することができる者が当該リスクを分担する」という考え方が前提となります。このため、公共と民間事業者がリスクを明確かつ適切に分担し、それぞれの役割を契約で規定することが必要となります。

  3) PFI事業における5原則3主義
 PFIの基本理念や期待される効果を実現するために、国のPFI基本方針には、PFIを実施する上で必要な5つの原則と3つの主義が示されています。PFI導入手続きを進める際には、これらの考え方を踏まえる必要があります。
<5つの原則>    
公共性原則 公共性のある事業を原則とする。
民間経営資源活用原則 民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用すること。
効率性原則 民間事業者の自主性と創意工夫を尊重することにより、効率的かつ効果的に実施すること。
公平性原則 特定事業の選定及び民間事業者の選定においては公平性が担保されること。
透明性原則 特定事業の発案から終結に至る全過程を通じて透明性が確保されること。

<3つの主義>
   
客観主義 各段階での評価決定について客観性があること。
契約主義 公共施設等の管理者等と選定事業者との間の合意について、明文により当事者の役割及び責任分担等の契約内容を明確にすること。
独立主義 事業を担う企業体の法人格上の独立性又は事業部門における区分経理上の独立性を確保すること。

 
(3) PFIの基本的な仕組み
 ここではPFI事業の仕組みの要となる事業の枠組みについて説明します。
1) 事業の枠組み
 PFI事業では個々の事業の性質によって様々な事業の枠組みが考えられますが、一般的には、下図のような形となります。
 PFI事業では、公共施設の管理者であり発注者である公共と実際に事業を担うPFI事業者、PFI事業に必要な資金を融資する金融機関が三大プレイヤーとして大きな役割を担っています。
 公共は、提供するサービスの内容や水準を確定し、PFI事業として実施することを決定して入札等により事業者を選定します。事業開始後はモニタリングを行い、サービスの提供が適切に行われるよう指導します。
 PFI事業者は、PFI事業に応募しようとする複数の企業によるコンソーシアムを組成し、入札に参加します。事業者に選定されたコンソーシアムの構成員はそれぞれが出資して「特別目的会社(SPC)8」を設立し、公共と事業契約を締結します。PFI事業者はコンソーシアムに参加している企業等と工事請負契約や運営委託契約などの個別契約を結びPFI事業を実施します。また、保険会社との契約により必要な保険を付保します。
 金融機関はPFI事業者に融資を行いますが、プロジェクトファイナンス(次頁参照)という手法を採用することが多いです。また、PFI事業者の破綻等により事業遂行に支障が生じた場合の対応を定めた直接協定を公共と締結する場合が一般的です。

8   特別目的会社(SPC:Special Purpose Company):ある特定の事業を実施する目的で設立された事業会社。PFI事業では、プロジェクトファイナンスにより資金調達を行うケースが多く、この場合、特定のプロジェクトから生み出されるキャッシュフローを親会社の信用力と切り離すことがポイントとなり、その独立性を保つために、PFI事業のみを目的とする特別目的会社が事業者によって設立されることが多い。

<PFI事業の枠組みのイメージ>
PFI事業の枠組みのイメージの図

◆参考 プロジェクトファイナンスについて◆
   PFI事業ではプロジェクトファイナンスという資金調達手法が採用されるケースが多くなります。
 コーポレートファイナンスが親会社の信用力(親会社の保証や資産等)を担保に資金を調達する方法であるのに対し、プロジェクトファイナンスは、返済原資をその事業から生み出されるキャッシュフローのみに依存し、担保はその事業に関連する資産(契約上の権利を含む)のみとする調達方法です。
 したがって、プロジェクトファイナンスにおいては、事業から生み出されるキャッシュフローを維持するために、ファイナンスを組成する過程で複数の関係者間のリスクの適正負担が求められるので、事業遂行に係る様々なリスクを分散することが可能になります。
 PFIにおいては、基本的に当該PFI事業のみを行うSPCが設立されること、収入は当該PFI事業により生み出されるキャッシュフローに限られること、公共と民間とのリスク分担が決められており、一方が包括的に事業リスクを負うものではないことからプロジェクトファイナンスによる資金調達になじみやすいものとなっており、実際にプロジェクトファイナンスによる資金調達が多くの事業で行われています。

 
2) 事業形態
 一般的に、PFI事業では下図のように公共がPFI事業者に支払うサービス対価によって事業費を賄う「サービス購入型」、利用者から徴収する利用料金収入によって事業費を賄う「独立採算型」、及び両方を合わせた「ジョイントベンチャー(中間)型」の3タイプがあります。
サービス購入型
民間事業者がサービスを提供し、公共がこれを購入する。
サービス購入型の図
独立採算型
公共が民間事業者に公共施設等の建設・運営の許可を与え、民間事業者が建設・運営コストを料金収入によって回収する。公共の関与は計画策定、認可、法的手続きなどの実施に限定される。
独立採算型の図
ジョイントベンチャー(中間)型
公共と民間事業者が事業費等を分担して公共施設整備を進めるもので、運営は民間事業者が行う。例えば、公共からのサービス対価と利用者からの利用料金収入で投資回収を行うような事業を指す。
ジョイントベンチャー(中間)型の図

3) 事業方式
一般的にPFI事業は施設の所有方法の違いにより、主に次の3つのタイプに分けられます。
1BTO【Build-Transfer-Operate
 PFI事業者が自ら資金調達を行い、施設を建設(Build)した後、その施設の所有権を公共に移転(Transfer)した上で、契約期間にわたりPFI事業者がその施設の維持管理・運営(Operate)を行う方式です。

2BOT【Build-Operate-Transfer
 PFI事業者が自ら資金調達を行い、施設を建設(Build)し、契約期間にわたり、維持管理・運営(Operate)を行い、事業期間終了後、公共にその施設を移転(Transfer)する方式です。

3BOO【Build-Operate-Own
 PFI事業者が自ら資金調達を行って施設を建設(Build)し、契約期間にわたり維持管理・運営(Operate)を行った後、その施設の所有権の移転は行わず、民間事業者が保有(Own)し続けるか、または事業終了後に撤去することとなります。

4) 事業選定方式
 PFI事業の事業者選定方法は公募の方法等によることとされており(PFI法第7条第1項)、自治事務次官通知(平成12年3月29日付け自治画第67号)では総合評価一般競争入札方式によることを原則としています。公募型プロポーザル方式を採用する場合には、地方自治法による随意契約による条件に該当するかどうかの確認が必要です。なお、政令指定都市の場合にはWTO政府調達協定の規定についても確認を行った上で選定方式を選択する必要があります。
 両者の特徴をまとめれば、下表のとおりです。
方式 総合評価一般競争入札方式 公募型プロポーザル方式
概要 評価の最も高い事業提案を行った者を落札者とする。 評価の最も高い事業提案を行った者を優先交渉権者とする。
契約書(案)の作成 入札前に公共より契約書(案)として提示する。 公共は公募前に契約書(案)の骨格を提示することでも可能。
地方自治法上の位置づけ 入札 随意契約
法令上求められる条件・手続き等
事前に落札基準を定めること9
1総合評価方式を採用する時、2落札者を決めようとする時、または3落札基準を定めようとする時は、あらかじめ学識経験者の意見を聞くこと10
入札を行おうとする場合に総合評価方式を採用すること及び落札基準について公告すること11
地方自治法上の随意契約の要件を満たすこと12
WTO政府調達協定の規定を満たすこと13

9   地方自治法施行令第167条の10の2第3項
10   地方自治法施行令第167条の10の2第4項
11   地方自治法施行令第167条の10の2第5項
12   地方自治法施行令第167条の2第1項のどの条項に該当するかを確認する必要があり、判例(昭和62年3月20日最高裁第2小法廷判決等)を踏まえた適切な判断が求められる。
13   WTO政府調達協定の適用を受ける契約では、地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続きの特例を定める政令第10条の規定も満たすかどうか確認が必要となる。

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