特別支援教育について

和歌山県 和歌山東高等学校(公立)

都道府県名 和歌山県
学校名 和歌山県立和歌山東高等学校
学校所在地 和歌山県和歌山市森小手穂136
研究期間 平成21~22年度

1.概要

1 研究課題

 発達障害により特別な教育的支援を必要としている生徒に対して、個別の支援を行うと共に、授業方法等においても「わかる授業」を工夫し取り組むことは、発達障害のある生徒だけでなく、全ての生徒の学力向上につながっていくという認識のもと、教務部や教育課程委員会と連携をしながら、カリキュラムの充実及び教材の精選や授業方法・授業形態の工夫などの授業研究を実施する。また、高等学校における特別支援教育のセンター校として、県内各高等学校での現職教育等の研修講師や巡回指導の実施、及び高等学校コーディネーター会議を開催し、高等学校全体の体制整備を推進する。

2 研究の概要

1.高等学校における特別支援教育のセンター的役割

 高等学校における特別支援教育のセンター校として、担当教員や管理職、スクールカウンセラーを中心に県内各高等学校での現職教育等の研修講師や依頼校への巡回指導を実施する。

2.各高等学校コーディネーター会議の開催による高等学校全体の体制整備の推進

 当該校担当(特別支援教育コーディネーター)を中心に、各高等学校コーディネーター会議(一年目は県内各ブロック10校程度指定)を開催し、高等学校全体の体制整備を推進する。

3.カリキュラムの充実及び教材の精選、授業方法・授業形態の工夫等の授業研究

 支援が必要な生徒に対し、「わかる授業」を工夫し取り組むことは、発達障害のある生徒だけでなく、全ての生徒の学力向上につながっていくという認識のもと、教務部や教育課程委員会と連携をしながら、カリキュラムの充実及び教材の精選や授業方法・授業形態の工夫などの授業研究を実施する。

4.「Q‐Uアンケート」の活用による学級集団づくり

 「Q‐Uアンケート」を活用し、一人ひとりの力が発揮できる生き生きとした学級集団づくりをめざすことによって、発達障害のある生徒に対しても学級集団としてサポートできる体制を作っていく。またソーシャルスキルトレーニングを全ての生徒に実施する機会を作る。※「Q‐Uアンケート」について・・・Q‐U(QUESTIONNARIE‐UTILITIES)は、『楽しい学校生活を送るためのアンケート』という標準化された心理検査のひとつで、小学校1~3年用、4~6年用、中学校用、高校用の4種類があり、子どもたちの学級生活での満足度と意欲、学級集団の状態を、質問紙によって測定するものである。

5.専門機関との連携による就労支援体制の構築

 専門機関との連携を行い、学校として専門家チームを編成し、保護者・生徒への就労支援体制を構築する。

3 研究成果の概要

 これまでの取組により、特別支援教育の校内支援体制が構築された。それとともに、本校が今直面している課題についての時機を得た校内研修会や事例検討会を通して、発達障害や特別支援教育への理解がさらに深まり、そのことが生徒への具体的な支援につながった。特に教育相談委員会が担任、学年会や他の分掌と連携を取りながら、生徒の状況について把握し、職員の共通理解のもと組織的に活動することができたことにより、職員全体が特別支援教育の視点に立って、生徒を多面的に把握できるようになった。
 また教育相談室等を活用した個別の支援だけではなく、その基盤となる全体の支援として、基礎学力の定着を図るための取組や、学級集団としてのサポート体制作りを目指した取組が進むとともに、発達障害のある生徒はもとより、彼らを支える周囲の生徒たちも着実に成長している。さらに、高等学校コーディネーター会議を開催し、県下の高等学校における特別支援教育の推進及び支援体制の整備に努めている。

2.詳細報告

1 研究の内容

(1)発達障害のある生徒に対する指導方針
ア 生徒の実態(把握方法も含めて)

(ア)4月の学年の引き継ぎ会議に出席し、支援を必要とする生徒の把握や昨年度の支援の状況を報告する。新入生については、中学校からの申し送り事項を紹介する。その後スクールカウンセラーによる、「発達障害」についての学習会及び事例検討会を開く。

(イ)これまでの教師の日常観察や面接法による生徒理解だけでなく、客観的で多面的な資料となる「楽しい学校生活を送るためのQ―Uアンケート」を活用し、生徒理解に係る学年会などで活用した。

学年 生徒数 障害・診断名等
1年 6(1) 軽度精神遅滞 (1)
2年 11(4) アスペルガー障害(2) ・高機能自閉症(1) ・ADHD(1)
3年 7(4) アスペルガー障害(1) ・高機能自閉症(1)
軽度精神遅滞(1) ・過敏性腸症候群(1)
イ 指導方針

 上記の実態を踏まえ、診断の有無にかかわらず、支援を必要としている生徒に対しては、担任・学年会・特別支援教育部が連携を取りながら、教育相談委員会(校内支援委員会)で、情報交換及び具体的な支援の方法について検討する。また、個別の指導計画を作成し、職員会議で全職員の共通理解を図り、指導体制を考える。さらに、カウンセリングを通して生徒・保護者の支援に努め、必要に応じて医療機関や専門機関との連携も図っていく。

ウ 成果と課題

(ア)担任・教科担当及びクラブ顧問などがそれぞれの立場で行動観察を行い、問題点を把握することによって、早期の支援につながっている。また行動観察等で得た情報については、時機を逸することなく常に情報交換が行われ、特別支援教育部や教育相談委員会で集約されている。

(イ)保護者とのカウンセリングや担任が保護者と連絡を密に取ることにより、生徒の状況を逐次把握し、担任・学年会・教育相談室・保護者が連携しながら、それぞれ役割分担をし、支援することができた。

(ウ)上記(ア)(イ)の様な情報交換や連携に加えて、生徒の状況、特に学習面での課題を把握するため、今後「気づきシート」を作成し、その活用を図っていく。

(2)発達障害のある生徒に対する授業やテストにおける評価方法等の工夫
ア 授業の際の配慮事項等

(ア)障害の有無にかかわらず、英語・数学・国語・簿記の授業において、習熟度別授業や少人数授業を実施し、基礎学力の定着・向上に努めている。

(イ)学習上の課題を抱えている生徒に対しては、授業担当者会議を開き、担任・授業担当者・クラブ顧問・県単独事業によって配置されている「学力アップ非常勤講師」などが、授業中やクラス、クラブでの様子及び本人の困っている状況などを情報交換し、支援の工夫について話し合っている。
 具体的には、座席の配慮、板書の工夫、プリント教材の活用をはじめ、グループワークや体育の実技(特に球技)や調理実習などにおけるT・T等の形で支援している。

(ウ)「学力アップ非常勤講師」を活用し、定期考査前の放課後や夏休み・冬休みなどに「自主勉強会」を開催した。障害の有無にかかわらず広く全校生徒に呼びかけ、生徒の自主的な「学び合いの場」を設けた。また担任、教科担当やクラブ顧問等も加わり、参加生徒の学習支援を行った。またこの「自主勉強会」がクラス単位や学年単位の勉強会へと拡がってきている。

イ テストにおける配慮事項等

 支援が必要な生徒には、教職員の共通理解のもと、別室(教育相談室)受検を実施し、生徒の心理的な負担を軽減している。また1年生にはテスト監督の複数配置や各階に2名ずつ廊下監督を配置することで、落ち着いた受検環境となる配慮をしている。

ウ 評価における配慮事項等

 障害の有無にかかわらず、教科会議等において常に議論をしている内容であり、具体的には、テストの成績だけではなく、出席状況や提出物、授業態度等を総合的に捉え評価を行っている。また「シラバス集」や「選択科目ガイドブック」を作成し、生徒に授業内容や評価方法などを事前に説明している。

エ 成果と課題

(ア)「習熟度別授業」や「少人数授業」等の授業形態の工夫や授業方法等の改善により、「わかる授業」づくりに取り組むことは、発達障害のある生徒だけでなく、すべての生徒の学力向上につながるという認識のもと、特別支援学校と小学校での授業参観や意見交換によって得られた情報を、教育課程委員会などで共有した。また、生徒の授業に対するアンケートを基に、教科会議などで意見交換する機会を多く持つことによって授業研究を進めている。

(イ)在籍している発達障害のある生徒に対して、早い段階で対応し、授業の欠課やそれに伴う問題行動の未然防止に努めるため、教務部・教育課程委員会でカリキュラムの工夫や授業方法の工夫を検討するとともに、平成20年度に導入した「朝の読書の時間」と「授業カード」等の利用により、生徒の授業に対する取組が改善され、落ち着いた授業環境が生まれた。また欠課時数オーバーによる中途退学生徒が激減している。また、生徒が「シラバス集」や「選択科目ガイドブック」を活用することにより、3コース制をによる3年間の学習及び進路選択に見通しを持って望むことができるようになった。

(ウ)教育課程を平成20年度に改編し、基礎学力の定着を図るために1年生を対象に「ステップC」(総合的な学習の時間)の時間を週に1単位設け、数学(算数)・国語・英語の三教科において基礎・基本に立ち返った教材を作成し取り組んだ。さらに数学・英語においては、生徒の到達度に応じて「基礎」「標準」「発展」の3段階に分けた授業クラスを編成した。生徒のアンケートでは、「忘れてしまっていることが多いなあと感じた。」「自分の苦手な科目がはっきりした。」「自分のためになった。」や「今までできなかったところができるようになった。」などの前向きな感想が多かった。また、教材については毎時間の反省をもとに担当者で話し合って毎回作成している。さらに、その話し合いが生徒のつまずきの発見や学習形態の工夫、「わかる授業」への工夫につながっている。来年度実施する各教科の「学び直し」において、この取組の成果を活かし、つまずきの発見及び未学習・不足学習も含め、より系統的に生徒の「学び直し」を支援していきたい。

(3)発達障害のある生徒に対する就労支援
ア 支援の方策と内容

 ハローワーク・障害者職業センター・発達障害者支援センターと連携し、保護者・本人と共に就労相談をする。主治医の意見書等を参考にしながら、福祉的就労が望ましい生徒については、障害者地域共同作業所にて就労体験をし、作業所訪問・日誌の交換等を通して、本人の状況を把握し、専門機関・スクールカウンセラー・教育相談担当・保護者も交えて今後の進路に向けての話し合う機会を数多く持ってきた。また卒業後も職場訪問やカウンセリングを継続することによって、就労の定着を図っている。

イ 成果と課題

(ア)今年度は「軽度精神遅滞」の診断のあった生徒の就労に関して、適宜支援会議を開いた。

 構成メンバー
 コーディネーター・スクールカウンセラー・進路指導部長・ジョブサポートティーチャー・該当担任・保護者・クラブ顧問ハローワーク担当職員
 障害者職業センターにおける職業評価をもとに、本人の就労支援について何度も話し合いを重ねる。その結果、学校斡旋にて就職に至る。(4.その他特記事項参照)

(イ)就労前や自立に向けて必要な力を身につけていくための支援の方法については、進路指導部が放課後に「スキルアップ講座」(学年別全校生徒対象)を定期的に開講している。また発達障害のある生徒に対しては、教育相談室でコミュニケーション能力を高めたり、ソーシャルスキルトレーニングを昼休みに機会を捉えて実施し、十分な効果が認められた。

(ウ)特に今年度は就労に関する支援会議の開催によって、今まで以上に進路指導部と連携を取ることができた。

(4)一般の生徒に対する理解推進等の指導の在り方
ア 指導の工夫と取組

(ア)障害のある生徒だけでなく、彼らを取り巻く学級集団の力を共に高めていく取組として、「自己受容」・「他者理解」・「仲間づくり」をテーマとした「エンパワーメント」のLHRを隔月に実施した。

(イ)事前のHRや自閉症を題材とした映画『ぼくはうみがみたくなりました』の鑑賞を、3月に第1・2学年対象に実施した。その結果自閉症に関する理解が深まった。また鑑賞後、生徒に感想などを記入させ、必要に応じて個別指導を行った。

イ 成果と課題

(ア)担任、教科担当や教育相談担当の日頃からの一貫した支援、時によっては危機介入としての専門的な対応によって、年ごとに一般の生徒の「発達障害」に対する理解が深まってきた。今後、より一層の理解を深め、学級集団としてのサポート体制づくりを目指していきたい。

(イ)自閉症についての映画鑑賞と事前・事後学習によって、生徒は自閉症に対する理解だけではなく、仲間づくりについても学んだ。

(5)教職員や保護者の研修等
ア 研修会開催の回数・時期・研修内容等

4月24日 第1回現職教育「発達障害の生徒の理解と支援」(事例研究を含む)
 本校スクールカウンセラー
 昨年度の支援の状況を説明するとともに、発達障害全般の学習をする。

5月22日 担任説明会を開催(5/27のQ‐Uアンケートの実施における事前説明)

5月27日 第1回Q‐Uアンケート実施(全クラス)

7月14日 事例検討会
 学年ごとにQ‐Uアンケートの分析と事例検討会を行い、集計結果の効果的な活用方法や、今後の学級経営にどの様に活かしていくかについて協議する。

10月21日 第2回現職教育「今どきの高校生~子育てを通して考えよう~」
 本校スクールカウンセラー
 職員・保護者合同研修会の形態で実施。最近の高校生の悩み及び子どもの発達課題を中心とした講演の中で、生きていくことの辛さを抱えた生徒の様子にも触れる。

11月18日 第2回Q‐Uアンケート実施(第1学年)

12月18日 第3回現職教育(特別支援教育講演会)
 「高等学校における特別支援教育の推進」
 講師:大阪教育大学名誉教授 竹田契一先生
 (大阪医科大学LDセンター顧問)
 当講演会は現職教育のみならず、特別支援教育への啓発の観点からも保護者・PTA役員にも呼びかけ出席を得た。また小・中・高の連携を深め、系統的な支援及び早期支援につなげる観点において、和歌山市内の小学校・中学校の教員、そして高等学校におけるにおける特別支援教育に関する学校独自の課題及び共通の課題について共に学ぶ機会を持つ意味で県内の高等学校教員も参加対象とし、発達障害の生徒に関する理解を深め、支援教育の推進・充実に努めた。

3月12日 事例検討会
 1年学年会において、2回のQ‐Uアンケートのデータの比較をもとに事例検討を行う。これまでの教師やクラスの生徒同士の関わりによって、個々の生徒や学級集団がどう変化・成長したかについて、生徒の具体的な状況を報告し、多面的・総合的に対象生徒の理解がすすんだ。今後様々な機会を捉えて活用し、次年度の指導・支援に活かしていきたい。

イ 成果と課題

(ア)教職員の発達障害や特別支援教育への理解が深まるとともに、職員全体が特別支援教育の視点に立って、生徒を多面的に把握できるようになった。またそのことが支援の必要な生徒への早期の対応・支援につながっている。研修のスタイルとして教職員間のワークや体験的なものを設定していくことが今後の課題である。

(イ)保護者との合同研修会やあらゆる機会を通じて、保護者と教職員が共に学び、話し合うことによって、保護者の生徒理解が深まった。また毎月発行している「教育相談室便り」を通して、特別支援教育や教育相談室の状況の理解・啓発に努めた。

(6)その他の支援に関する工夫

 「書道」の授業における自己表現活動の取組
 平成18年度から「書道」の授業において、詩、短歌、テーマ作文などの創作活動に取り組んでいる。自己表現力を高めると共に、これまでの体験を振り返り文章化し、それを書によって表現することを目標においた授業であるが、そのことによって、個別の支援を必要とする生徒にとって言語化による振り返りのよい教材となった。

2 研究の方法

(1)研究委員会の設置
ア 保健・人権・特別支援教育部に設置する。

(ア)構成

NO 所属・職名 備考
1 部長(教育相談委員長)・ 教諭 特別支援教育コーディネーター
2 教諭
3 教諭
4 保健主事 ・教諭
5 養護教諭
6 養護助教諭
7 スクールカウンセラー 臨床心理士
8 学力アップ非常勤講師 県単独事業による配置

(イ)委員会開催回数

 生徒の実態把握や情報交換及び具体的な支援の検討については、ほぼ毎日実施している。研修会の計画・啓発等については月に1回定期的に開催した。

検討内容

  • 生徒の実態把握や状況把握、情報交換
  • 具体的な支援について方針を検討
  • 教職員の研修会の計画・内容検討
  • 保護者・生徒への啓発の方法
  • Q‐Uアンケートの分析及び校内委員会での事例研究
イ さらに、教育相談委員会(校内支援委員会)を開催、該当担任も会議に参加し、個別の指導計画を立てる。

(ア)構成

NO 所属・職名 備考
1 教育相談委員長(保健・人権・特別支援教育部長) 教諭 特別支援教育コーディネーター
2 教務部(長) ・教諭
3 生活指導部(長) ・教諭
4 養護教諭 保健・人権・特別支援教育部
5 教頭 特別支援教育コーディネーター
6 教頭
7 1学年主任 ・教諭
8 2学年主任 ・教諭
9 3学年主任 ・教諭

※検討内容によって、進路指導部長、ジョブサポートティーチャー、クラブ顧問などがメンバーとして入る場合もある。また、学習面において支援が必要と思われる場合は、授業担当者会議を開き、授業中の情報交換や支援の工夫について話し合っている。

(イ)委員会開催回数・検討内容

第1回
対人関係のトラブルで教室に入りづらい生徒の支援方法と全校生徒への啓発方法の検討
第2回
 不登校の生徒・アスペルガー障害の生徒の個別の指導計画の作成
 在校生については気になる生徒の情報交換を、新入生については中学校からの申し送り事項を紹介し、支援方法の検討をする。
第3回
 低学力の生徒の情報交換及び授業における支援方法の検討
 (授業担当者会議)
第4回
 軽度精神遅滞と診断されている生徒の情報交換及び授業における支援方法の検討(授業担当者会議)
第5回
 精神的に不安定な生徒の状況報告
第6回
 精神的に不安定な生徒の個別の指導計画の作成
第7回
 不登校の生徒の個別の指導計画の見直し(今後の進路)
第8回
 アスペルガー障害の生徒の個別の指導計画の見直し
第9回
 精神的に不安定な生徒の状況報告と個別の指導計画の見直し
第10回
 アスペルガー障害の生徒の評価方法の検討と今後の進路
第11回
 精神的に不安定な生徒の状況報告と個別の指導計画の見直し
 WISC3.の読み取り方の研修
第12回
 精神的に不安定な生徒の状況報告と授業における支援方法の検討
 WISC3.の読み取り方の研修(授業担当者会議)
第13回
 高機能自閉症と思われる生徒の状況報告と個別の指導計画の見直し
第14回
 低学力の生徒の心理検査におけるアセスメントと個別の指導計画の見直し
第15回
 1年間の支援の検証及び取組の総括

ウ 特別支援教育コーディネーターの指名や個別の教育支援計画の策定等具体的な方策

(ア)特別支援教育コーディネーターは、保健・人権・特別支援教育部長または教育相談委員長が兼務する。なお、教育相談委員会(校内支援委員会)の構成メンバーの中に、必ず保健・人権・特別支援教育部員が入っている。(上記2研究の方法(1)ア構成欄参照)

(イ)個別の指導計画については、教育相談委員会(校内支援委員会)または授業担当者会議にて作成するとともに、その後、スクールカウンセラー、保護者、専門機関(医療機関、発達障害者センター、障害者地域共同作業所など)と連携を取り、助言・指導を得た。また、その指導計画については、職員会議で報告し、教職員の共通理解を得ている。

エ 成果と課題

(ア)研究委員会、教育相談委員会や授業担当者会議の開催など、あらゆる機会を通して、生徒の情報交換や支援の方法を検討することによって、担任・学年集団・他の校務分掌との連携がより密になり、教職員の共通理解が深まった。個別の支援が必要な生徒に対して、教職員の共通理解のもと組織的に活動することができている。

(イ)特別支援教育コーディネーターの業務内容が、関係諸機関との連絡調整、地域や保護者からの相談窓口、小学校・中学校・特別支援学校及び県内外の高等学校との連携、また校内的には職員へのコンサルテーション、現職教育や教育相談委員会などの企画・運営等多岐の分野にわたっている。このことから昨年度の課題をもとに、今年度は特別支援教育コーディネーターを二人体制(うち一人は教頭)とした。このことによって、特別支援教育の要となる管理職との連携がよりスムーズに行われた。

(2)専門家チームの活用
ア 構成
NO 所属・職名 備考
1 - -
2 - -
3 - -
4 - -
5 - -
イ 専門家チームの活用状況

 特にチームとしては構成していないが、必要に応じて保護者の承諾を得て、県立医科大学やメンタルクリニックの精神科医と協議し、支援方法について助言を得ている。

ウ 成果と課題

 本校にスクールカウンセラーが配置された平成15年度より、常時スクールカウンセラーと連携を取りながら生徒の支援をすすめており、そのことによって医療機関や子ども・女性・障害者相談センター、障害者職業センターなど他の公的機関との連携がよりスムーズに行われている。さらに今年度は前述(2.1(3)イ(ア))した様に、専門機関を交えた就労に関する支援会議を数回実施することによって、生徒の就労実現に至った。

(3)関係機関との連携
ア 他の高等学校や特別支援学校との連携

(ア)他の高等学校との連携

 特別支援教育の現状と課題について、他校の担当者と情報交換会議を開いたり、他校の現職教育等において本校の取組状況を報告することによって発信している。報告内容としては「発達障害の理解と支援」から「特別支援教育における校内支援体制の構築」へといったテーマが変化しつつある傾向が見られる。
・「高等学校における特別支援教育推進委員会」
 今年度は、県教育委員会特別支援教育室と連携し、標記委員会を本校で開催した。県立高等学校10校の特別支援教育コーディネーター11名が参加し、各校での特別支援教育の実施状況(校内委員会の構成及び活動状況・特別支援教育実施のための課題・特色ある効果的な取組等)について情報交換するとともに、今後の高等学校全体の体制整備の推進に関して協議を行った。(高等学校の特別支援教育コーディネーター会議の提案と実施に向けて)協議では2グループに分かれての協議形態をとることで、討議が活発に行われた。
○情報交換の中から
 スクールカウンセラーの時間制限のあるサポートを継続したものとするため、教育相談担当や担任の協力は欠かせないものである。
 卒業後の進路を視野に、社会自立を目指す取組が重要であると思うが、どこまで特別支援として配慮すべきなのか判断が難しい。
 高等学校の中で「コーディネーター」がどのような役割を果たすべきなのかわかりづらい。
欠課時数や生徒指導上の対応による配慮など、各ケースで障害の程度や背景が異なり一律の対応となりがたい。
高等学校という枠組みに入るための教育ではないことの確認が必要。
中学校進路指導との連携の在り方について研究をする必要がある。

  • 現職教育実施校への発信 古座高校(5月) 星林高校(10月)
  • 「高等学校における特別支援教育推進委員会」の開催(10月・1月)
  • 情報交換会議での発信 熊野高校(7月) 三重県立菰野高校(8月) 佐賀県立太良高校(9月) 岡山県立林野高校(10月) 東京都立足立東高校(10月) 北海道立札幌北高校(12月)

(イ)特別支援学校との連携

 紀伊コスモス支援学校や紀北支援学校での授業参観や、紀伊コスモス支援学校の公開研修「発達を考える会」において、本校の取組を報告し、それぞれの校種における特別支援教育の取組や授業の工夫について共に学び合う機会を持った。

イ 発達障害者支援センターやハローワーク等関係機関との連携

(ア)障害者職業センターやハローワークにて、生徒・保護者と共に就労相談を受け、職業評価に基づき本人の就労支援について、時には専門機関も交えた支援会議を数回開いた。その結果一般就労に至った。(2.1(3)イ(ア)参照)

ウ 地域の教育施設や人材等の活用

(ア)以前から行っている和歌山市内の中学校との「教育懇談会」を、今年度は「特別支援教育講演会」の形態で開催し、共に学ぶ機会を持った。

(イ)1学年のステップC担当者(2.1(2)エ(ウ)参照)で、地域の小学校を訪問し授業参観ををおこなった。そこで得た授業や教材・教具の工夫などをステップCの指導方法や教材の作成等に活用した。

(ウ)地域の人材の活用

6/3・4 講演「生きている喜び」1、2年生対象
 自己受容・自尊感情の向上と他者理解の姿勢を育む。

6/19 ワークショップ「他者理解と自己発見」2年生対象
 「協力」や「信頼関係」を体験し、人間関係の構築及び仲間づくりを図る。
生徒はいずれの活動もいきいきと参加し、普段の授業では見られない一面を見ることができた。今後も講義形式の授業だけでなく、このような体験活動やグループワークの要素も取り入れていきたい。

エ 成果と課題

 他校の現職教育や各種研究会(研修会)へ出向き、本校の取り組みについて報告したり、地域の小学校・中学校、特別支援学校での授業参観や講演会を通して、校種を越えたつながりや連帯感が生まれたように思う。さらに中・高の引き継ぎをより円滑にし、早期かつ適切な支援につなげていくために、「連携支援シート」を作成し活用していきたい。
 また「高等学校における特別支援教育推進委員会」を開催し、本校の取組を発信するとともに、互いに学び合いながら高等学校における特別支援教育の啓発や発展に貢献できればと思っている。

(4)関連事業等との連携
ア 「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業」における地域別研修や理解啓発セミナーへの参加。

3.今後の我が国における発達障害のある生徒の支援の在り方についての提案等

 「特別」ではない特別支援教育の実現をめざして

(1)今後の特別支援教育において、特別支援学級だけではなく通常の学級に在籍する特別なニーズを要する生徒の支援の方策が大きな課題となる。そのためには、特別支援教育は、特別支援学校、特別支援学級の担任やいわゆる専門家に任せる「特別」なものであるという認識を捨て、学校全体として組織的に取り組まなければならない。そうするには校内研修や事例検討会の機会を多く持ち、職員全体のテーマとし組織的に取り組んでいかなければならない。

(2)一人ひとりのニーズに合わせた個別の支援だけではなく、障害の有無に関わらずお互いに学び合い育ち合う、集団の力が発揮できる「学級づくり」と生徒が意欲的に参加できる「誰にもわかる授業づくり」が今後の特別支援教育の基盤となると思う。しかしその成果を上げるためにはあらゆる方向から研究していかなければならず、これをより一層効果的なものにするためにも、適正規模の学級編制をはじめ教育条件の整備が望まれる。

4.その他特記事項(エピソードを含む)

 「書道」の授業における自己表現活動の取組から
 アスペルガー障害と診断されている2年生のAさんは、言葉で自分の気持ちを伝えることが苦手であったが、昨年度作文において評価されたことが本人の大きな自信につながり自己肯定感が高まった。また1年生の2学期まで「場面緘黙」の状態であった別の2年生のBさんは、自分のこれまでのいじめられた経験など、これまで心の中に凍結してきた想いを言語化することにより、精神面において強くなった。彼女の詩は最優秀作品に選ばれ、そのことが大きな自信につながると共に、前述したもう一人の女子生徒との間で、賞を競う姿が見られるようになった。

2年生女子生徒B
 あなたは多分知らないだろう
 あなたが言いはなった一言で
 相手がどんなに苦しんで、悲しんだかを。
 あなたにとっては冗談でも、
 相手にとっては
 冗談じゃ通じないこともあるんだよ。
 あなたが傷つけた心は、
 もう二度と治らないんだよ。
 傷ついた人は、その心の傷を背負って、
 それからずっと生きて行かなきゃいけないんだ
 その傷を背負い切れなくて
 その一言で命を奪い去ることだってあるんだ
 命を奪ってから、
 どんなに悲しんだり後悔しても、
 その命は、もう二度と戻ってこないんだ。*題名は省略しています。

 この詩を全学年において「エンパワーメント」のHRの教材として取り上げ、『人間の尊厳』について考える機会とした
 

 クラブ活動による支援から
 体育部に所属しているC君は、1年生の3学期に顧問の勧めで教育相談室に来談した。主訴は学習の遅れと卒業後の進路に対する不安であった。顧問も交えたカウンセリングを数回行い、保護者の承諾を得て専門機関で発達検査を受ける。その結果「軽度精神遅滞」と診断され、療育手帳B2を取得した。診断結果を受け、授業担当者会議を開催し、実態の把握とともに支援策の検討を行った。授業内容が理解できず寝ていることが多かったため、注意喚起、ノートや課題の提出の援助、放課後の勉強会への参加を促す、指示は明確かつ1つにしぼる、できたことはその場で評価する等の具体的な支援策について話し合い、実践を行った。
 一方クラブ活動においては、競技技術だけでなく礼儀、挨拶、ユニフォームの着脱、対人関係のスキル等を日常的に指導し、顧問はじめ先輩・後輩も含め部員全員でサポートした。
 その結果3年進級後の授業担当者会議では、1~3において彼の成長の様子が話された。

  1. 1年生に比べてできる事が確実に増えた。
  2. 授業中に寝なくなった。
  3. クラブだけでなくクラスにもサポートしてくれる生徒がいる。

 さらにクラブ活動でも全国大会に出場するとともに、並行して行われた就労に関するチーム支援の結果、学校斡旋による就職内定を得ることができた。
 本生徒は3月に卒業を迎えた。本人の成長は本校職員だけでなく、中学校時代の担任も知るところとなり喜んでいる。

5.モデル校の概要

1 学級数と生徒数 (平成21年5月現在)

課程 学科 第1学年 第2学年 第3学年 合計
学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数
全日制 普通科 6 256 6 223 6 177 18 656
6 256 6 223 6 177 18 656
256 6 223 6 177 18 656

2 教職員数(平成21年5月現在)

校長 教頭 教諭 養護教諭 非常勤講師 実習助手 ALT スクールカウンセ ラー 事務職員 司書 その他
1 2 43 2 13 1 1 1 6 1 2 73

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成22年07月 --