1 はじめに
2 教員採用の現状
(1)教員採用の仕組み
(2)教員採用の改善の経緯と各県市の取組状況
(3)教員採用者数の状況等
3 教員採用等の改善の基本方向
(1)教員として求められる資質能力
(2)改善の基本方向
4 教員採用等の改善方策
(1)採用選考の改善方策
【1】選考における評価の在り方
【2】試験問題の在り方
【3】面接方法の改善
【4】教育実習の評価等
【5】適性検査の在り方
【6】生活体験等を適切に評価した選考の実施
【7】定員を区分した選考の実施
【8】受験年齢制限の緩和
(2)優秀な人材確保のための方策
【1】採用スケジュールの早期化
【2】採用者数の平準化
【3】特に受験者の確保が困難な教科担当教員への対応
【4】優秀な人材確保のための広報活動の充実
【5】選考方法等についての情報提供
(3)その他
【1】教員養成機関と教育委員会の連携
【2】人事交流の促進等
【3】身体に障害のある者への配慮
【4】各県市の取組状況についての国における情報提供
5 むすび
ア 学校教育の成果は、その直接の担い手である教員の資質能力によるところが大きく、教員の養成・採用・研修の各段階を通じて総合的な施策を講じることが必要である。
このため、教員免許制度の改善、教員養成大学における課程等の見直し、初任者研修制度の創設等教員研修の体系的な整備に係る諸施策が講じられてきており、教員採用についても、採用の段階で教員としてふさわしい資質能力を備えた人材を確保するため、選考方法の多様化や採用内定時期の早期化等が図られてきた。
イ 教員採用については、社会の変化とともに学校教育を巡る課題が大きく変化しつつある中で、今後の学校教育を担うにふさわしい人材を確保することができるよう、選考方法に改善を加えていくことが求められる。
教員採用の改善については、臨時教育審議会第2次答申(昭和61年4月)において、選考方法を多様化する観点から提言がなされているが、この提言以来10年近く経過した現段階において、各都道府県・指定都市(以下「各県市」という。)教育委員会における改善の進捗状況を整理分析し、更なる改善を推進することが必要となっている。
とりわけ、採用者数の減少傾向等近年の教員採用を取り巻く状況を踏まえた上で、個性重視の教育の推進による指導の在り方の質的変化や、生徒指導上の諸問題についての指導力の向上など学校教育上の課題に適切に対応するよう、教員採用等の改善方策を検討し、優秀な人材確保のための具体的な方策を示すことが重要となっている。
ウ このような観点から、本協力者会議では、教員として優秀な人材を確保するため、教員採用選考方法の改善及び受験者確保の方策等について、平成6年1月から調査研究を行ってきた。
本協力者会議においては、教員採用等の改善について計14回にわたり審議を行ってきた。検討を進めるに当たっては、14の関係団体からのヒアリングや実態調査を実施し、その結果を踏まえるとともに、教員採用の改善のためのいくつかの課題について、3県の教育委員会の実践研究例を参考としてきた。
このたび、教員採用等の改善について、検討の結果を取りまとめたので報告する。
ア 公立の小学校、中学校、高等学校、特殊教育諸学校の教員採用は、任命権者である各県市教育委員会が、それぞれ教育長の選考を経て行うこととされている。
教員の採用については、一般の公務員の場合と異なり、競争試験ではなく選考によることとされているが、これは、教員には免許状制度があり、これにより教員たるに必要とされる一定の能力の実証が得られていること、また、児童生徒に対し教育指導を行う教職の性格に鑑み、教員としてふさわしい資質能力を備えた人材を得るためには、人物評価をより一層適正に行い得る選考による方が適当と考えられたことによる。
イ 教員採用に係る教育長の選考のため、各県市教育委員会では採用選考試験を実施している。
現在、ほとんどの県市においては、1次試験・2次試験という形で採用選考試験が実施されており、通常、一般・教職教養、教科専門等に関する筆記試験が行われ、面接、実技試験、作文・論文試験、適性検査等の結果とともに、総合的な判定のもとで採用候補者が決定される。
ウ このように、教員採用は各県市において教育委員会の責任により地域の実情に応じて行われるものであるが、各県市における採用の実態を勘案しながら全国的観点に立った教員採用等の改善方策を検討し、一層の改善を促す意義は大きいと考える。
ア 教員採用の改善については、既に、臨時教育審議会においても議論が行われ、教員としての能力適性等を多面的にみるため、選考方法の多様化(面接の充実、実技試験・論文試験の実施、ボランティア活動・クラブ活動などの実績の評価等)を図ること、また、教員採用スケジュールについては、一般のルールに従い、その早期化を図ることなどが提言された(昭和61年4月・第2次答申)。
これを踏まえ、文部省は、教員採用選考試験の改善について各県市教育委員会に対して通知を行った。
各県市教育委員会においては、これらの趣旨を踏まえて、教員採用等の改善を図ってきており、特に選考方法の多様化と採用スケジュールの早期化について見れば、表に示すように相当の改善工夫が見られる。
選考方法の多様化等の推移(単位:県市)
事項 | 昭和61年度 | 平成3年度 | 平成8年 | |
選考方法の多様化 | 一次二次共に面接 | 12 | 32 | 41 |
個人集団面接両方実施 | 41 | 50 | 57 | |
論文試験 | 50 | 55 | 58 | |
英語実技(中・高) | 33 | 47 | 48 | |
音楽実技(小) | 49 | 50 | 49 | |
体育実技(小) | 45 | 51 | 54 | |
適性検査 | 48 | 51 | 53 | |
クラブ活動の実績評価 | ― | 54 | 54 | |
ボランティア活動の実績評価 | ― | 44 | 50 | |
採用スケジュールの早期化 | 2次試験 | 8月:21 | 8月:26 | 8月:32 |
9月:10 | 9月:18 | 9月:22 | ||
10月~:21 | 10月~:10 | 10月~:2 | ||
合格発表 | 9月:0 | 9月:1 | 9月:8 | |
10月:11 | 10月:33 | 10月:48 | ||
11月:42 | 11月:24 | 11月:3 | ||
12月~:4 | 12月~:0 | 12月~:0 | ||
採用内定 | 10月:0 | 10月:22 | 10月:48 | |
11月:38 | 11月:22 | 11月:1 | ||
12月~:19 | 12月~:14 | 12月~:10 |
(注)総計は、昭和61年度で57県市、平成3年度は58県市、平成8年度は59県市となっている。「2次試験」の欄では、2次試験を実施していない県市を除外している。
このほか、集団討論、模擬授業等面接方法の工夫・充実、特定の分野において特に秀でた技能等を有する者の特別選考の実施、受験年齢制限の緩和など様々な取組が進められている。
本協力者会議では、今後とも各県市教育委員会が、選考方法や評価の在り方の改善について積極的に検討し、着実な取組を進めていくよう、教員採用等の改善方策について更に検討を行ったところである。
イ なお、臨時教育審議会答申は、上記のほか、選考体制の整備充実(試験問題作成の継続的取組、面接担当者の充実等)、教育実習の評価の適切な反映、適性検査の改善、試験問題改善のための教育委員会と大学等との連携による調査研究の推進が提言されている。これらについては、必ずしもまだ十分な検討がなされているわけではなく、実態として取組があまり進んでいないものもある。本協力者会議においては、これらの改善を図るための実施方策も検討したところである。
ア 教員の採用者総数については、児童生徒数の減少等に伴い、昭和61年度以降減少傾向が見られる。
平成元年度には、採用者数はやや増加し、平成3年度までは安定した状態となっていたが、平成3年度においてそれまでの教職員配置改善計画が終了し、さらに、以後児童生徒数や退職者数の減少が予測されること等により、平成4年度以降は再び減少に転じ、平成7年度は18,407人と10年前(昭和60年度:38,239人)の半数以下となっている。
平成5年度からティームティーチングの導入など個に応じた多様な教育を展開するための新たな教職員配置改善計画が実施されているが、児童生徒数の減少による自然減が改善による増加数を上回っており、全体としての教員数が減少していることから、採用者数の減少傾向が依然として続いている。
なお、今後も児童生徒数は減少し、また、定年退職者数も大幅に増加しないものと見込まれることから採用者数の減少傾向は当分の間継続するものと考えられる。
公立学校教員の採用者数等の推移
年度 | 受験者(A) (単位:人) |
採用者(B) (単位:人) |
倍率 (A/B) |
60 | 188,019 | 38,239 | 4.9 |
61 | 177,295 | 34,982 | 5.1 |
62 | 165,831 | 31,926 | 5.2 |
63 | 163,654 | 28,413 | 5.8 |
元 | 152,097 | 33,615 | 4.5 |
2 | 137,625 | 33,364 | 4.1 |
3 | 123,575 | 33,131 | 3.7 |
4 | 110,949 | 26,265 | 4.2 |
5 | 112,771 | 22,821 | 4.9 |
6 | 122,356 | 19,834 | 6.2 |
7 | 136,551 | 18,407 | 7.4 |
(注)小学校、中学校、高等学校、特殊教育諸学校の教諭及び養護教諭の総計
イ このような採用者数の減少傾向については、教員の年齢構成や教職志願者への影響等の問題があるが、教員採用の観点からは、特に最終合格者に多様な人材を確保することについての支障が危惧される。
すなわち、多数の受験者の中から少数の最終合格者を絞り込むことが、知識の量の測定に偏って行われる場合には、いわゆる成績の良い者のみが最終選考に残る可能性があり、必ずしも教育に対する情熱・使命感が高い者、あるいは高い教育実践力を持つ者が最終選考に残れず、学校教育への多様な人材の迎え入れという観点から改善の余地があると考える。
逆に、採用者数の減少により、受験者数が大量採用時に比べ減少していることは、よりきめ細かく人物の評価を行うのに望ましい状況となっていると捉えることもできる。
ア 教員採用等の改善の基本方向を示す上で、教員として求められる資質能力を見極めることは重要である。
現在、学校教育は、個性重視の教育の推進や自己教育力の育成の観点から、その質的転換が求められており、教員には多様な児童生徒の興味関心、能力・適性に対応して個に応じた指導を展開していく指導力や、教育内容の多様化に対応した指導力が求められている。
また、いじめ、登校拒否など生徒指導上の問題に適切に対応するためには、教職としての十分な使命感と豊かな生活体験に裏打ちされた指導力がより一層必要となっている。
特に、依然憂慮すべき状況にあるいじめなどの問題解決には、個々の教員の資質能力に頼るだけでなく学校全体として取り組むことが求められており、このため学校には、教員集団として様々な資質や体験を持った多様な人材の存在が必要となっていると言える。
このように、学校教育の質的変化が求められる今日、学校に求められる人材も多様化しており、必ずしも知識の量のみにとらわれず個性豊かで多様な人材を幅広く教員として確保していくことが必要である。
イ 教員として求められる資質能力については、これまでも様々な議論がなされてきたが本協力者会議では、教員採用の段階において教員として求められる資質能力を見極める視点として、次のような点に留意することが必要と考える。
すなわち、人間の成長・発達についての深い理解、とりわけ児童・生徒に対する教育的愛情を持つこと、教育者としての使命感を持つこと、豊かな教養と専門的知識を持つこと、また、指導力の背景となる豊かな生活体験を持つことがまず求められ、更には、教育者としての寛容性や柔軟性を兼ね備えていること、また、常に向上心を持ち積極性に富んでいることなども必要となると考える。
ウ もちろん、教員として求められる資質能力には、小学校・中学校・高等学校・特殊教育諸学校といった学校種別の特性によって特に重視されるもの、あるいは各県市の教育方針、直面する教育課題により特に重視されるものも当然あり得る。
教員としての資質能力を論ずる場合、その力点の置き方は様々であり、必ずしも一律に考えることはできないが、要は、子どもへの愛情、教育者としての使命感、豊かな生活体験を持っていること等、採用後教員として伸びるための基礎的資質能力を前提に、採用後の実務や研修を通して、更に教員としての資質能力の向上を図っていくという視点を持つことが重要である。
ア (1)でも述べたように、学校教育の質的変化が求められる中、児童生徒の人格形成に強い影響力を持つ教員には、多様性が求められている。
また、個々の学校ごとに抱える多様な教育課題に対応するためには、様々な生活体験に裏打ちされた指導力が必要となる。
各県市教育委員会では選考方法の多様化を進めているが、今後、児童生徒の多様性や学校教育の現実の多様性に対応し、教員へ幅広く多様な人材を確保していくためには、選考方法の多様化を更に進めるとともに、選考の尺度を多元的なものとするよう、より一層の取組が求められる。
イ もとより教員は、一定の専門的知識を有することがその採用の前提となると考えられるが、知識の量が過度に重視されることは、結果的に幅広い人材の選考が困難なものとなる。
各県市教育委員会では、試験問題について、単なる知識のみならず、実際の指導に生かせる思考力や表現力等をみる設問となるよう努めているが、ペーパーによる試験のみでは、受験者の多様な資質能力を見極めるには限界もあると考えられる。
今後は、筆記試験の成績を重視するよりも人物評価重視の方向に教員採用選考の在り方をより一層移行させていくことが必要である。
ウ もちろん、採用試験は、本来、公平性・客観性が厳に要求されるものであり、このことは常に留意されるべきであるが、各県市教育委員会における教員採用の実態は、ともすれば筆記試験の結果など点数等により客観的に評価がしやすい尺度を重視しがちな現状にあると考える。
今後の教員採用においては、採用が選考によることとされている本来の趣旨を活かして、志願者の能力適性を様々な側面から評価し、優れた個性を積極的に評価していくことが求められる。このため、人物評価重視の方向で選考方法の多様化、選考尺度の多元化を一層図っていくことが必要である。
エ 本協力者会議においては、以上のような観点に立って、各県市教育委員会における選考方法の多様化、選考尺度の多元化をより一層推進し、教員に優秀な人材を確保するための具体的方策について検討を行った。
本協力者会議では、3で述べた教員採用等の改善の基本方向に沿って検討を行ってきたが、その結果、採用選考等の改善方策、優秀な人材確保のための方策等について以下のように取りまとめた。
ア 既に述べたように選考方法の改善については、選考方法の多様化の方向で各県市教育委員会において努力が行われ、また、試験問題についても改善がなされてきた。
しかし、筆記試験等による資質能力の見極めには一定の限界があり、また、近年の採用者数の減少の結果、現在の選考方法においてもなお、知識の量の多い者や記憶力の良い者のみが合格しやすい選考方法となっているとの指摘もあり、このことは、教員としての能力適性を多面的に評価した多様な人材の確保という面で、必ずしも適切なものとはいえないと思われる。
イ 特に、現在の採用選考試験の評価においては、一次試験の筆記試験の成績が二次試験においても相当程度考慮されているのが現状である。
今後は、このような方法を改め、人物評価重視の観点に立ち、選考における評価の在り方を改善することが必要である。
その際、学校種別ごとの特性を十分に踏まえ、例えば、
・二次試験の選考において一次試験の結果を考慮に入れない、
・筆記試験をいわゆるスクリーニングとして活用するとの観点に立ち、一定程度の試験成績を修めた者の中から、面接・論文試験の成績上位者やスポーツ活動、文化活動、ボランティア活動等の諸活動の実績が優れた者等を評価して採用する、
などの方法を導入することも積極的に検討されてよいと考える。
ア 筆記試験の試験問題については、各県市教育委員会において、机上の知識だけでなく、実際の指導上の具体的問題への考え方を問うなど、工夫改善が進められている。今後も、知識の量、記憶力を問うものや、過度に高度な専門的知識を問うもののみに偏らず、広く教員として求められる資質能力を見極めることが可能な良問を継続的に作成していく取組が必要である。
イ しかし、各県市教育委員会では、試験問題作成にかかる要員の確保や業務量の負担が大きいといった課題を抱えており、このことがよりきめ細かな選考を行う上での一つの支障となっていると考えられる。
このような各県市教育委員会の事務負担を軽減するとともに、良質な試験問題を継続的に作成し得るようにするため、試験問題の作成・提供・採点を専門的・組織的に実施するような体制・方法を国や教育委員会関係団体等において検討していくことが求められる。
ア 教員としての資質能力、特に、意欲や情熱、指導力を適切に見極めるためには、面接による選考が極めて有効である。特に、面接を通じてより多角的にきめ細かく人物を見極めるためには、一人の受験者に対して複数の面接を行うことが効果的である。
面接機会の複数化は、個人面接・集団面接の二種類の面接の組合わせ等の方法により、ほとんどの県市において既に実施されているところであるが、今後とも、各県市教育委員会において、特定の課題に対する意見発表、集団討論の実施、模擬授業の導入などの工夫改善を更に進めていくことが期待される。
イ 面接機会を複数化する場合、多数の面接担当者を確保する必要があるが、その担当者の職種も従来の方法にこだわらず、単に教員人事担当者や校長などだけでなく、例えば、PTA等学校関係者や他の職域分野の者も含めるなど多様な構成で、幅広い観点から面接を行える担当者を確保し、幅広く評価を求めることも検討すべきである。
ウ また、面接をより効果的に行うためには、面接担当者に対し、面接の手法や、技術についての研修を実施し、人物評価に関する能力を高めることも必要である。
ア 教育実習は、学生が教員免許を取得する際に必ず履修しなければならないものであり、教育実習校の評価は大学の行う成績評価の一部となっている。教育実習に対する大学の関わり方を見ると、概ね、教育実習の実施は教育実習校に任され、その評価は教育実習校の行った評価の資料をもとに大学としての評価を行っているのが実態である。
イ 他方、教育実習は、教員になった場合の資質能力を総合的に評価できる機会でもある。教育実習校における評価を含めた教育実習の評価を教員採用選考に活かすことが可能となれば、人柄や意欲などの人物重視の評価や教員としての実践的指導力の評価にも有効なものと考えられる。
ただ、現状においては、大学4年次において教育実習を行っているところが多く、遅くとも教育実習が採用選考試験の評価に間に合う時期に行われなければ一般的に活用することは困難である。また、出身校における実習、教員養成大学の附属学校や公立の教育実習委託校における実習などの教育実習の現状においては、その評価の公平さや客観性という点で問題もある。
ウ 今後、大学や教育実習校側の理解のもとに、教育実習の時期をできるだけ早期に行うとともに、評価の在り方もできるだけ公平かつ客観的なものとするよう検討するなど、教育実習の実施方法を工夫し条件を整備していくことが期待される。
各県市教育委員会においては、このような条件整備の状況を勘案しつつ、教育実習の評価を選考における判断の資料として活用する方策を実施していくことが求められる。
エ また、教育委員会が大学等教員養成機関から推薦状を受けたり、また職歴がある者について当該雇用主、社会活動歴がある者についてその関係機関から推薦状を受けるなど、受験者の人柄や能力をよく知る者からの推薦を選考の一つの判断資料とする方法も併せて検討することが考えられる。
オ 現在、教員としての実践的指導力を適切に評価するため、多くの県市において面接等の一環として模擬授業や指導案の作成が行われているが、これを通常の面接と比較した場合、評定における得点分布状況の散らばりが大きくなるなど選考において有効な役割を果たしているとの意見がある。
各県市教育委員会においては、指導技術の評価のみに過度に偏らないよう配慮しつつ、多様な選考方法の一つとしてこれらの方法の導入を検討することも有効と考える。
カ また、小学校の受験者、中・高等学校の実技教科について実技試験が課されているが、今後は、例えば、英語についてのコミュニケーション能力や理科についての実験指導、職業教科についての実習指導など、実際の指導力をみるための実技試験の導入を進めるべきと考える。
ア 適性検査は、面接等による人物評価に加えて、教員としての適格性に関する資料を得るためのものであり、現在、ほとんどの県市において実施されている。
2種類以上の検査を組み合わせて実施しているところも多く、教員としての適格性を多面的に把握しようとする努力が見られる。
各県市教育委員会においては、適性検査をより効果的に活用するため、新規採用教員の採用後の勤務実績等との関係を調査分析するなど、適性検査の判定結果の有効性について検討していくことが求められる。
イ また、教員としての適格性の判断に資するための適性検査の改善工夫については、検査項目及び判定結果等について実証的なデータを蓄積していくことが必要であり、今後、研究者等との連携を図りつつ実証的な研究を実施していくことが望まれる。
ア 既に述べたように、教員採用においては、その指導力の背景となる豊かな生活体験が重視されるべきである。
イ 現在、ほとんどの県市においてクラブ活動、ボランティア活動等の実績について、志願書等への記入、面接における聴取等を通じて積極的に評価がなされている。各県市教育委員会においては、今後ともこのような方向で選考方法の改善工夫を一層推進していくとともに、その有効な評価の在り方について検討していくことが必要である。
ウ また、児童生徒の多様な価値観を育み、社会人として必要な資質を培っていくためには、教員が広い社会的視野を持つことが重要である。
様々な社会経験を有する教員を採用することは、学校において多様な人材からなる教員集団を構成できるのみならず、他の教員の社会的視野を広め、学校を活性化することにも資するものである。
また、採用選考試験受験者の中には、他県市の教員等として既に優れた教育実践を行い指導力を発揮している者もあり、これらの者の採用も上記と同様の観点から学校の活性化等に資するものと考える。
このような観点から、各県市教育委員会においては、民間企業経験者や教職経験者について、その社会経験を適切に評価した選考方法を検討することが求められる。
ア 現在、各県市教育委員会においては、一部の特別選考を除いて、学校種別や教科ごとに同一の選考方法を行うことが一般的であるが、今後は、選考における尺度の多元化を図り、志願者の能力適性を様々な側面から評価していくことができるよう、採用選考合格者の枠を区分して複数の尺度に基づく異なる選考方法を実施することも積極的に検討すべきものと考える。
イ このための方法として、例えば、合格定員の一部ごとに筆記試験や面接等の比重の置き方を変えたり、論文試験・実技試験等各種選考方法のうち特に重視する部分を設けたりすることが考えられる。
その際、【6】で述べた生活体験等を適切に評価した選考方法について定員を区分した選考を実施することも考えられる。
また、スポーツ、芸術等の分野において特に秀でた技能・実績を有する者の採用は、それらを持つに至った体験が、周りの教員の意識によい刺激を与えるほか、個性豊かな児童生徒の育成にとっても、良い効果をもたらすことが期待できる。今後は、いわゆる一芸に秀でた者の採用を一層促進するとの観点から、これらの者の特別選考の導入を検討することも求められる。
教員に豊かな生活体験を有する多様な人材を確保するとともに、中長期的視野から教員の年齢構成に配慮して採用を行うためには、必ずしも年齢制限にとらわれず選考を行うことは有意義なことである。
現在、ほとんどの県市において、採用選考試験に当たっての受験年齢制限があるものの、全体として年齢制限の緩和の方向へ向かっている。特に、受験者の確保が困難な特定教科や教職経験者に対しての特例を設けている県市も多く、今後とも、教員の年齢構成の現状など各県市の実情を踏まえつつ、受験年齢制限の緩和を図ることが期待される。
その際、民間企業経験者に対する年齢制限の特例も積極的に検討されるべきである。
ア 教員に優秀な人材を確保し、また、採用予定者に教職につくための心構えや自覚を持たせるためには、採用内定時期を可能な限り早めることが必要である。
現在、ほとんどの県市においては、10月に採用内定を行うなど採用スケジュールの早期化が相当進んでいるが、なお一層の取組を進め採用内定時期を、いわゆる就職協定等一般のルールに従って、できる限り早い時期とするよう努めることが求められる。
また、内定時期はもとより、受験者の募集時期や採用選考試験実施時期の早期化を図るなど、採用スケジュール全体の早期化を図ることが必要である。
イ 事前に退職者数の完全な把握が困難であることなどから、早期の内定については慎重に行わざるを得ないとの意見もあるが、多くの県市において、ある程度の予測をもとに内定を段階的に行っている。各県市教育委員会においては、できるだけ多くの者に対し早期に内定を行う観点から、段階的に内定通知を行い、早期に内定を行う者の比率を高めるなど内定方法について工夫することが求められる。
ア 2で述べたように、近年、採用者数は減少傾向にあるが、児童生徒数の減少は今後も継続することなどから、採用者数の減少傾向は当分の間継続するものと考えられる。現状においても、一部の県市では教科によっては、ほとんど採用がない場合もある。このような状況は、教職を目指す者に失望感を与え、優秀な教員の確保に支障が生じるほか、教員全体の年齢構成に不均衡が生じ、学校運営への支障も懸念されるところであり、各県市教育委員会では、できるだけ新規採用枠の確保を図ることが課題となっている。
イ 各県市教育委員会においては、採用者数の平準化をできるだけ図るため、学校種別ごとの採用区分の弾力化を図ったり、教員の全体的な年齢構成を視野に入れ、中長期的な退職者数や児童生徒数の推移等を的確に分析・把握し、中長期的視野からの計画的な教員採用・人事を行っていくことが求められる。
ア 中学校の数学・理科・技術、高等学校の農業・工業・水産及び看護など、受験者の確保が比較的困難と言われている特定の教科については、受験年齢制限を緩和する特例を設けて教員の確保に努めている県市も見られるが、このことは、広く人材を得る観点から、より一層積極的に進められてよいと考える。
イ 特に受験者の確保自体が非常に困難な教科・学科については、民間企業経験者等からも人材を求めるという観点から、通常の採用選考試験とは異なる方法で、別途、特別選考試験を実施することも考えられる。
また、当該教科や学科自体の魅力を積極的にアピールしていくとともに、これに深い関わりを持つ大学の学部・学科等の出身者を当該教科等の教員に迎え入れるための工夫が求められる。
ア 一般に学生が就職先を決定する場合、事前に就こうとする職の具体的な職務内容を十分理解することが必要である。教員の職務は、児童生徒に対する授業だけではなく、学校の業務全般にわたる多様な仕事を通して子どもの人格形成に携わるという魅力と責任のある職務であり、このことを教職志願者に対し積極的に広報周知していくことが求められる。
このような教員の職務を、教職志願者に対し早い時期から周知することは、明確な目的意識を持った教職志願者の確保につながるだけでなく、実際に教員となった者が、従来教員の職務に対し抱いていたイメージと現実の職務との落差に悩むケースをできるだけ解消することに資することになると思われる。
イ 各県市教育委員会においては、様々な工夫を通じて、教員の職務内容や実際に教員に採用された者の体験談などを知る機会を提供するなど、教員への優秀な人材確保のための広報活動をより一層充実していくことが必要である。
選考方法、日程等採用選考試験に関する情報については、できるだけ早い時期から詳細に教職志願者に提供することが望ましい。各県市教育委員会においては、どのような資質能力を有する教員を求めているのか、また、どのような観点で選考を行うのかを明確にし、このことを募集パンフレットや大学での説明会等において、教職志望者に情報提供していくことが求められる。
更に、できるだけ広く多様な人材を求める観点から、採用選考試験の方法等について、一般向けのメディアも活用して周知していくことも求められる。
ア 現状において、教育委員会側からは、大学の教員養成はその内容が採用及び現職研修の変化に十分対応できておらず、また、生徒指導などの実践的指導力の基礎が十分培われていないという不満が見られるところである。
一方、大学等教員養成機関側には、当該機関において培われた資質能力が、採用選考試験において十分評価・反映されていないとの不満も見られる。また、「採用が養成を規定する」という見方から、教員に求められる資質能力が多様化すると、大学での教員養成に対する期待が増大し、大学教育が過密になるとの意見も見られる。
イ 本来、教員の養成と採用は連続性を求められるものであり、このためには、教員養成機関と教育委員会とが十分連携し、その整合性を図っていくことが必要である。
両者が連携協力を密にしていくための種々の方策を講ずることにより、養成内容の採用選考試験への反映、教員養成機関における学校現場の課題のより一層の理解を図っていくことが可能になるものと考える。
ウ 具体的には、教員養成機関と教育委員会との定期的な協議の場をより一層充実させ、採用選考試験の方法、選考基準、大学側における養成カリキュラムの編成、教育実習の在り方等について、両者の意見交換・協議を継続的・組織的に行っていくことが必要である。その際、教育委員会側から教員採用に係る中長期的な需要動向を可能な範囲で情報提供していくことも求められる。
また、教育研修センターの講師スタッフに大学教員を活用したり、逆に大学の授業スタッフに公立学校の教員を活用したり、あるいは、教員養成大学の大学院の講座等を教育委員会の主催する各種研修プログラムの中に組み入れるなどして、教員養成大学と教育委員会が連携協力を深める方途を講じることは、両者がそれぞれの実態をよりよく理解することにも資するものと考える。
さらに、教員養成大学の学生等教職を目指す者が、学校現場の実情をより理解するため、教員養成機関と教育委員会との連携により、教員養成大学の学生と児童生徒が直接触れ合う機会や、学校現場における実際の学校運営の状況を学生に体験させる機会を設ける試みなども工夫されてよい。
ア 教員は、採用後実際の教職経験を経ながらその資質能力を向上させていくものであり、その観点から、できるだけ多様な教育実践を経験させ、資質能力の向上を図っていくことが重要である。このことは、ひいては学校教育全体の活性化にもつながっていくものである。
現在、大半の県市においては、小学校・中学校・高等学校・特殊教育諸学校の間で学校種を超えた人事交流が行われているが、なお一層の交流促進が期待される。
また、他県市との教員交流を行うことは、他の地域における教育実践の交流ができるのみならず、教員の年齢構成の適正化に資する場合もあると考えられ、今後、より積極的に各県間や県と指定都市間の人事交流を行っていくことが求められる。
その際、多くの教員が一定の期間、他県市の教職を経験し、元の職に復帰するような採用・人事システムを併せて検討していくことも必要である。
イ また、新規採用教員の配置に当たっては、採用時の意欲を維持向上させ、その能力を高めていくため、多くの先輩教員からその経験を踏まえた適切な指導助言を受け得るような環境についての配慮が望まれる。
公立学校教員への身体に障害のある者の採用については、各県市教育委員会において、身体に障害のある受験者が他の受験者と公平な条件の下で受験することができるよう様々な努力がなされている。
各県市教育委員会においては、『障害者の雇用の促進等に関する法律』の趣旨を踏まえつつ、身体に障害のある者について、単に障害のあることのみをもって教員採用選考において不合理な取扱いがなされることのないよう、選考方法上の工夫など適切な配慮を行うとともに、その工夫の内容等について広く教職を目指す者が了知しうるよう広報周知に努めることが必要である。
採用選考試験の実施方法や教員への優秀な人材確保のための方策については、既に述べたように毎年、各県市教育委員会において検討が行われており、多様化に向けて様々な改善が施されている。改善に当たっては、各県市教育委員会において、それぞれの選考方法に関し、その判定と採用後の勤務実績等の関係などの実証的な分析を行い、その結果をもとに更に選考方法の改善を図っていくことが必要と考えられる。
国においては、各県市教育委員会の取組を援助するため、各地における改善例や先導的な取組例を把握・整理し、積極的に情報提供していくことが望まれる。
以上のように本報告においては、教員採用等の現状や各県市教育委員会の取組状況を整理した上で、改善の基本方向を示し、教員に優秀な人材を幅広く求めるため、教員採用等の改善について種々の方策を提言した。特に、各県市教育委員会における教員採用等の更なる改善に資するよう、人物評価重視の方向で選考方法や評価の在り方の改善を促進するための具体的方策の提示に努めたものである。
各県市教育委員会においては、優れた教員確保のための採用段階における取組の重要性を改めて認識し、本報告において示された提言を有効に活用して、選考方法の多様化や選考尺度の多元化の観点から、具体的方策をより一層積極的に実施していくことを期待したい。
総合教育政策局教育人材政策課
-- 登録:平成21年以前 --