第2章第2節 3効果的な学習教材の選定・開発

   学習教材を選定・開発するに当たっては、学習教材の活用により児童生徒が自ら考えることができるようにするなどの教育効果を高めるため、身近な事柄を取り上げたり、児童生徒の興味・関心等を生かすなどの創意工夫を行う。なお、このことは、身近ではない課題を取り上げないということではなく、そのような課題を取り上げることによって逆に身近な課題についての認識が深まり、人権問題と自らとのつながりが見えてくることも考えられる。生命の大切さに気付くことができる教材、様々な人権問題に気付くことができる教材、それぞれの人権問題を深く考えるための教材、自分自身を深く見つめることを意図した教材、技能を学ぶ教材など学習の目的に応じて多様に選定・開発する。
 この点で、保護者をはじめ地域の人々の生き方・考え方や歴史等豊かな地域教材を開発・活用することが重要である。
 また、学習教材の選定・開発に際しては、児童生徒の発達段階を十分考慮すると共に、その内容を公正な観点から吟味する。さらに、例えば身近な事柄を取り上げる場合など教材の内容によっては、プライバシーの保護等にも十分配慮することが重要である。

【参考】 「効果的な教材の例」
1: 地域の教材化
 地域におけるフィールドワークなどとの関連を図りながら、地域の歴史や産業などを採り上げて教材化する。区市町村においては、これに関連する資料等が図書館などに保管されていることも多いので、それらの活用は可能であり、容易であろう。但し、活用に当たっては、児童生徒の実態や発達段階を踏まえ、また、学校がねらいとしている人権課題との関連等の点から検討する。

2: 視聴覚教材など児童生徒の感性に訴える教材の活用
 人権劇や映画、ビデオなど、学校がねらいとしている人権課題を採り上げたものが活用できる。読み物資料も視聴覚教材として再編集することにより、児童生徒の関心を高め、学習効果を向上させることが可能となる。パソコンの活用なども考えられる。例えば、児童生徒が自ら演じる「人権劇」などは、当事者としての意識を高めるだけでなく、観劇する児童生徒達にとっては、効果的な教材となる可能性を持っている。

3: 外部講師の講話やふれあいの教材化
 福祉作業所や老人ホームなどにおいて人権課題と直接関わって働く人、また、高齢者や障害のある人などの講話や談話は、児童生徒に自分の生き方を振り返らせ、人権課題と真摯に向かい合わさせる契機となる。また、地域の人や人権課題に直接関わる人から直接出されるメッセージは、生活課題と結び付いて、児童生徒に深く考え自らを見つめ直させる教材として効果的である。なお、高齢者や障害のある人と直接触れ合い学ぶ場合には、人権上の配慮に基づいた十分な事前指導を行う必要がある。

4: 生命の大切さに関する教材
 自殺・いじめ・不登校などの問題や、それとの関連で生じることもある生命に関する指導に当たっては、できるだけ共に生きる喜びや大切さに気付けるよう、発達段階に応じて、建設的で肯定的な教材を選定することが望ましい。発達段階を踏まえて、生きることを肯定し、生きることを志向するような教材を選定したい。
 具体的には、
医療機関や消防署等で救命活動に直接関わる人々からの講話や体験談の教材化
保護者や産院等の協力を得る誕生の記録の教材化
保育所や幼稚園で働く人の講話の教材化
妊婦をゲストティーチャーとした講話の教材化などの工夫が考えられる

5: 小説・詩・歌などの作品の教材化
 学習教材は、一人一人の児童生徒が自らの体験を十分に追体験できるものであることが望ましい。
児童生徒の実態を踏まえ、採り上げようとしている人権課題のねらいを明確にして活用したい。また、採り上げ方によっては、ねらいから外れてしまう危険性も考慮し、指導過程上どこでどのように活用していくのか事前に想定して開発していく。

6: 同世代の児童生徒の書いた作品の教材化
 人権作文・人権標語・人権ポスター、また、総合的な学習の時間等の作品など、同世代の児童生徒たちが取り組んだ作品は、児童生徒にとって身近な学習教材である。広く社会にその成果が認められた作品はもちろんであるが、当該校の児童生徒による人権作文などは、特に興味や関心を高めるために効果的な学習教材であり、十分に児童生徒の心に迫るものである。但し、活用に当たっては、誤解や偏見を生じさせないよう、事前に人権上の配慮をしておくことが重要である。

7: 保護者や地域関係者と共に作る教材
 児童生徒と関わる大勢の人達との協働による教材の開発は、学校における人権教育への理解を深めると共に、共に児童生徒を育てるという人権教育の基盤づくりにもつながるものであり、意図的に設定していきたい。学校だけが主導権を握るのでなく、地域の人権擁護委員会など、公の組織や団体の支援を積極的に採り入れていくことが、成功につながる。

8: 情報交換できるシステムの活用
 ホームページやメールなどの活用を通して、情報の共有化を図り、教材開発や選定における開かれた体制づくりを心がけることが求められる。相互の交流や情報交換を通して、広い視野で収集されたメッセージは、児童生徒の実態に迫る資料開発、より望ましい教材の選定に向けて十分な成果が期待される。

9: 教材を通して、よりよい出会いをつくるための教材
 教材開発と選定は、人として共に生きていく上での、よりよい出会いをつくるためのものであるが、考えるための基礎・基本として、「権利に関する知識」「憲法、世界人権宣言、子どもの権利条約等、条文化された法の理解」「知識を通して行動や態度の変容を促し実践へとつなぐ学習」などを教材とする、知識としての学習が必要である。また、技能を学ぶ教材としては、エンカウンターを始めとするものが必要となってくることを心に留めておきたい。

10: 歴史的事象の教材化
 児童生徒の発達段階を踏まえ、歴史上、人権課題に直面した人物の生き方にふれさせたり、人権侵害の出来事について考えさせるような教材を選定することも重要である。


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