第2章第1節 2学校としての組織的な取組とその点検・評価

   各学校においては、校長のリーダーシップの下、教職員が一体となって人権教育に取り組む体制を整え、人権教育の目標設定、指導計画の作成や教材の選定・開発などの取組を組織的・継続的に行うことが肝要である。また、こうした人権教育の取組については、学校教育活動全体の評価の中で自ら点検・評価を行い、その結果を基に学校が主体的にその取組の不断の見直しを行うと共に、保護者や地域の人々に積極的に情報を提供するよう努めることが求められる。
 その際、学校評議員制度を活用する、保護者等の意見を聞く機会を設けるなどの工夫も考えられる。

(1) 学校としての人権教育の目標設定
 学校として人権教育の目標を設定するに当たっては、様々な人権問題の解決に資する教育の大切さと共に、「人権が尊重される社会の実現」という未来志向的、建設的な学習目標の設定に留意することが重要である。
 また、「自分の大切さと共に他の人の大切さを認める」ことを意味する「人権感覚」の育成が、現在の人権教育の基本的な目標であることと合わせて共通理解を図ることが必要である。
 さらに、人権感覚を育成するに当たっては、自尊感情を培うことはもとより、共感能力や想像力、人間関係調整力を育むことが求められており、それらを踏まえると共に、これまで学校の中で取り組んできたことや児童生徒及び地域の実情等も踏まえ、自校の具体的目標を設定することが大切である。

(2) 校内推進体制の確立と充実
 組織的な取組を推進するに当たっては、校内推進体制の確立と共に、その効果的・効率的な役割の充実を図ることが求められる。
ア: 人権教育を推進する体制の確立
 児童生徒の意識・意欲・態度・表現力等を培い、人権感覚の育成という学習目標の具体化を一層図る観点からも、教職員の人権問題及び人権教育に関する研修に関する企画立案、人権教育の年間指導計画の策定や毎年の実践の点検・評価のとりまとめ等の役割を果たす体制の確立は、人権教育の推進にとってきわめて重要である。したがって、校長のリーダーシップのもと、人権教育担当者、学年主任をはじめ、進路指導部、生徒指導部、総合学習研究部等、関連研究部担当者が必要に応じて随時参加する機能的な構成が求められる。 

イ: 人権教育担当者の役割
 人権教育に関する企画立案、人権教育に関する研究部の統括及び学校運営全体との調整又は人権教育の推進に関するコーディネート等、学校全体の指導的役割を果たす人権教育担当者は、校内推進体制の要として重要である。また、人権侵害が生じた場合の迅速な対応や相談活動を行うことも大切である。

【参考例】 「校内推進組織図」

(3) 人権教育の全体計画・年間指導計画の策定
 
ア: 人権教育の全体計画・年間指導計画策定の観点
 人権教育の組織的な取組に当たっては、校内推進組織の確立と共に人権教育の全体計画及び各学年指導計画の策定が必要であり、計画策定に当たっては、指導計画の観点を明確にすることが重要である。

 
【参考例】 「人権教育の全体計画・年間指導計画の観点目標」:
 重点目標(全体計画)
 実践的課題
  人権教育における各学年の課題と年間指導計画
人権教材や地域等外部人材の活用
コミュニケーションや共感力等の育成(豊かな人間関係づくり)等
 教職員の人権認識を高める取組
 地域・保護者及び校種間連携及び校内研究推進組織の概要

イ: 人権教育の全体計画・年間指導計画の策定
 人権教育の全体計画・年間指導計画の策定に当たっては、管理職及び人権教育担当者による全体計画案の作成と運営委員会への提示を出発に、人権教育に関する研究部による具体的な実践的課題の設定、各学年による年間指導計画の作成と研究部によるとりまとめ、職員会議への提示による全教職員の共通理解等、組織的かつ機能的な学校としての対応が求められる。また、このような対応を通して、全教職員の人権教育の推進に対する参画意識を培うことが望ましい。

 
【参考】 「全体計画作成に当たって考えられること」
 学校や地域の特色を生かした取組、ボランティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動等の体験活動の充実や様々な人との交流活動の在り方を示したり、校種、学校や地域の実態等を踏まえた指導目標との関係を明確にしたりする。
 その際、小学校の重点として、体験・交流活動を通して、児童が自分で「ふれる」「気付く」こと、中学校では、他者に「気付く」ことを確かな認識に「深める」こと、高等学校では、自分自身の生き方と関連させ、解決に向け地域社会に「発信する」「行動する」ことを重点にした目標が望ましい。

【参考例】 「全体計画・充実のポイント(小学校版)」
  次の項目について、自校の全体計画を見直してみましょう!
   人権教育の意義やねらいを全教職員が共通理解し、作成に当たっている。
 児童の実態、家庭・地域及び教職員の願いを実態調査等から把握している。
 社会の課題や要請、関連法規、教育行政施策等を踏まえている。
 学校教育目標を達成するための人権教育目標が設定されている。
 児童の発達段階に即した関係学年別目標が設定され、目指す児童の姿が具体的に示されている。
 目標達成のため、各教科等においては、その特性に応じて、人権教育との関わりを考慮した方針及び特色ある教育活動の計画等が示されている。
 人権に関する重要課題への取組が、学校や地域の実情に応じたものとして示されている。
 家庭・地域及び関係機関(社会教育機関、人権擁護機関等)との連携について、具体的な内容・方法等が示されている。
 各目標などにおいて、肯定的な表現で記されている。
 年度ごとに、全体計画の見直しを行っている。

【参考】 「年間指導計画作成に当たって考えられること」
 身近な人権問題を扱ったり、ボランティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動等の体験活動、様々な人達との交流活動を積極的に取り入れたりする。そのことで、児童生徒が自ら課題に気付き、人権問題に直面した時に「おかしい」と直感したり、相手の心の痛みを自分の痛みとして感じたりすることができるように、人権教育の視点から教育活動を工夫する。

【参考例】 「年間指導計画・充実のポイント(中学校版)
  次の8項目を踏まえ、自校の年間指導計画の充実に努めましょう!
  1  小学校段階の学習を踏まえ、3年間で育てたい資質・能力を見据え、系統的な計画とする。その際、各人権重要課題の項目と共に人権週間などの具体的な取組も位置付ける。
2  全体計画に記述されている各教科等の指導のねらいを受け、「人権教育との関わり」から洗い出す観点(例:「確かな学力」、「基本的な生活習慣」、「自尊感情」、「自己表現力」、「コミュニケーション能力」など)を明らかにし、指導内容・方法等を明記する。
3  [自分の大切さと共に他の人の大切さを認めること]ができるような生徒の育成のため、次のような力や技能を総合的に培うことができるように関連のある教育活動を洗い出す。
  他の人の立場に立ってその人に必要なことやその人の考えや気持ちなどが分かるような想像力や共感的に理解する力
考えや気持ちを適切かつ豊かに表現し、また、的確に理解することができるような、伝え合い分かり合うためのコミュニケーションの能力やそのための技能
自分の要求を一方的に主張するのではなく建設的な手法により他の人との人間関係を調整する能力及び自他の要求を共に満たせる解決方法を見いだしてそれを実現させる能力やそのための技能
4  各教科では、学習内容や指導方法等から人権教育の目標と結びつく教育活動を洗い出す。その際、人権に関する直接的な学習内容を含む単元等、また、法の下の平等や個人の尊重、生命尊重に関する学習内容を含む単元等を設定する。
5  道徳の時間では、自己を見つめ、道徳的価値を内面的に自覚し、主体的に道徳的実践力を身に付けていくことが大切である。そのため、内容項目として、生命尊重、公正・公平等人間尊重の精神と関わりの深い項目を設定する。
6  特別活動では、望ましい集団活動を通して、よりよい生活を築いていこうとする自主的、実践的な態度を育てることが大切である。そのため、学級活動では、生活上の諸問題の解決や望ましい人間関係の育成に重点を置く。また、生徒会活動、学校行事においても、学校生活の充実と発展に寄与する体験的な活動を設定する。
7  総合的な学習の時間では、時間のねらいを踏まえ、横断的・総合的な課題、生徒の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題などについて、人権教育との関連から学習活動を設定する。
8  年度ごとに、指導計画の見直しを行う。

(4) 学校としての取組の点検・評価
 
ア: 教職員の点検・評価
 取組の点検・評価については、学校として組織的に学期や年度ごとに行うことが求められる。また、年間指導計画に沿って、点検を行い、次年度の学習指導や年間指導計画の改善を図ることが必要である。
 
【参考例】 「点検の視点や項目の例」
『点検の視点』
  1 学校・学年として継続性の確保
2 年度ごとの新しい(特色ある)取組
3 管理職、人権教育担当者―研究部―学年の有機的な連携
4 保護者、地域への説明責任
『点検の項目』
  1 人権教育の目標(課題)
2 各学年の取組
  子どもの実態
学習のねらい
学期ごとの取組概要(教材の活用、体験的な学習、地域の人材活用等)
地域、保護者や校種間の連携・協働
3 児童生徒の主体的な評価活動
4 コミュニケーション能力や他者への共感力を培う取組
 また、授業評価も教員相互で積極的に行うと共に、授業参観時での保護者にアンケートを求めることも説明責任という観点から大切である。さらに、一年間の取組後、教職員のアンケートを行うことも考えられる。

イ: 児童生徒による評価
 児童生徒が自らの学習について評価することは、人権教育に対する意欲・関心、達成感の状況を把握する上にとっても、また、学習の在り方を検証し、今後の指導方法等の工夫改善に生かすことにも不可欠の取組である。また、学習の状況、取組の節目ごとに児童生徒の評価活動を行うと共に、その評価を学級で共有することにより、児童生徒間相互の共通認識を図ることも必要である。さらに、一年間の取組後、児童生徒のアンケートを行うことも考えられる。

ウ: 保護者等による評価
 保護者等による評価を行うに当たっては、アンケート調査を実施し、その結果を保護者等に公表すると共に、学校運営協議会や学校評議員制度を活用し、保護者等の評価を基に意見交換や提言等を得ることも考えられる。また、積極的に授業参観等を行い、授業後に懇談会を開く中で学校・学年・学級の取組の報告や保護者からの感想や意見を求めることも大切である。さらに、一年間の取組後、保護者アンケートを行うことも考えられる。


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