今回の調査研究会議の活動を終えるに当たり、得られた知見を概観するとともに、学校現場・教育行政分野における虐待対応に関する今後の取組の方向性についてまとめることにする。
1 調査研究会議で得られた知見
(1) 今回の調査結果では、学校現場における虐待への対応について、単に児童相談所への通告割合が大幅に増加したことだけでなく、各教職員の意識面でも、虐待への感度が高くなっていることが示されており、平成14年度・平成15年度の調査時点に比べれば、これまでの取組の成果が垣間見られるものとなっている。
また、虐待事例に対応した経験は、学校数においても教員個人のレベルにおいても明らかに増加しており、虐待に対する視点も定着しつつあることが示されている。
さらに、今回の調査結果では、各学校が、関係機関との連携の効果を認識し、積極的に関係機関と連携していこうとする傾向が顕著になってきていることなどが見られている。
その一方で、改正虐待防止法により、『虐待と思われるもの』についても通告する必要があるにもかかわらず、いまだに「虐待の確証」を得ようとするという傾向が変化していないことには、学校の組織的・機能的な特性があると思われる。また、これまでの取組の成果は見られるものの、通告への意識については、全体的にはいまだに十分であるとは言いがたい状況であることも示されており、今後とも、特に、虐待防止法等の趣旨や仕組みの周知とともに、研修の一層の充実を図るなど、取組の一層の推進が求められる。
(2) 教育委員会における対応については、なんらかの形でネットワークが設置されている市町村教育委員会では、そうではない市町村の教育委員会に比べて、あきらかに虐待対応が進んでいる実態が示された。教育行政が単独で問題に対処するのではなく、ヒューマンサービスの一員としてネットワーク対応を担うべきとする流れは、虐待防止に限らず、特別支援教育においても同様であることを考えれば、今後、教育委員会には学校現場への助言といった縦の機能とともに、他の関係機関との連携を図ることで学校現場を支援する横の機能も求められることになると考えられる。
(3) 海外視察においては、我が国が、学校における虐待対応については学校側に委ねる部分が多いのに比べ、視察したアメリカ合衆国及びカナダにおいては、「学校・教職員がするべきこと」について、日本よりも格段に限定されており、関係機関が明確な役割分担のもと、多層的に虐待対応に応じている実態が確認された。
また、虐待事例への対応において、家庭との関係や事実関係の確認、親と子どもへの治療的な枠づけなど全般について、スクールソーシャルワークの機能が確立されていることで、学校現場には自らの役割についての明確な判断が可能になっていると思われる。
このように、両国では、スクールソーシャルワークが効果を上げていたことから、我が国におけるスクールソーシャルワークの在り方についての研究が進むことが望まれる。
ただし、我が国とは異なる法律や制度によって規定されている虐待対応システムをそのまま導入することの是非は慎重に検討されるべきであり、特に、ソーシャルワーカーの活動範囲を限定したり、学校に警察官を配置するなどの方法は、制度や社会背景との関連で考慮されるべき事柄であるので、モデル事業等を通じてその在り方を検討することが必要であると考える。
(4) 調査回答に含まれている自由記述部分の分析などを通じ、学校における虐待対応にとって必要な視点が明確にされた。これらは、当面は各種の研修計画に活用されることになると思われる。そして、将来的には教員養成段階での取組、あるいは人的配置を可能にする制度的な検討にも進むべきものと考える。
2 今後の方向性への提言
以上のような、本調査研究会議で得られた知見を踏まえて、以下の4点の方向性を提言したい。
(1) まず、研修の一層の充実のための取組を進めることである。調査結果に見られるように、現在、虐待対応の社会的なシステムは、「保護」主体の段階を超えて、予防的・治療的対応の段階へ進むことを指向し始めている。学校現場及び教育行政においても、発見と対応への実践力の構築が求められている。虐待防止法においても、虐待を受けた子どもに対してその特性に応じた適切な教育環境の提供が謳われている。このことから、各関係者(虐待対応教員だけでなく、管理職、養護教諭、スクールカウンセラー、特別支援教育コーディネーター又は教育委員会関係者等)の研修が一層進むよう、児童虐待防止に向けた研修のモデル・コア・プログラムのようなものを作成することが望まれる。
(2) 第二に、今回の調査結果で関係機関との連携システムの重要性が改めて確認されたところであり、関係機関との連携を一層促進するとともに、スクールソーシャルワークの観点から学校における指導体制を検討することが求められる。上記のとおり、海外の取組や我が国における幾つかの地方公共団体の取組等を通じて、スクールソーシャルワークの効果は認められるものの、その実施の在り方には慎重に検討を要する部分もあり、我が国の実情に合致したスクールソーシャルワークの在り方を検討するため、モデル事業を実施して研究を進めることも一方策として考えられる。
(3) 第三に、虐待防止法の趣旨・仕組みの一層の周知・徹底を図ることである。今回の調査結果では、平成14年度・15年度の調査時点に比べ、都道府県及び市町村でも周知活動の実施率が低下しているだけでなく、通告の義務を知らない者が公立小中学校において3割以上もいるなど、周知の徹底に課題があることが示された。改めて法の趣旨、仕組み並びに学校及び教員の役割等について、会議や研修等を通じて周知・徹底に努めることが求められる。
(4) 最後に、現場における対応には、様々な要因が絡みあうことも想定され、地域性や問題の個別的な特性に応じた支援が必要とされる。市町村独自の、あるいは制度としての人的配置や専門性の担保方法などを検討していく上では、実証的かつ継続的な調査研究が今後も必要である。例えば、学校等と児童養護施設等との連携の在り方、発達障害の行動特徴を示す児童生徒への不適切な養育との関係性、教員養成段階や大学院教育の中に虐待対応の知識やトレーニングの位置づけなど、検討を要する課題は山積している。今後とも、様々な調査研究が今後も続けられ、その成果が上述の研修内容にフィードバックされていくことが期待される。
3 研修プログラムの構想
(1) 上述のような認識に立って、特に次年度の課題としては、学校現場及び教育行政における虐待の防止及び対応に関する研修のモデル・コア・プログラムの検討が必要と考える。その内容の方向性を示すとすれば、おおよそ以下のように柱立てることができると考えられる。
第一に、防止法の趣旨や機関間連携の重要さなど、虐待防止のシステムの中に学校や教育行政はどのように位置づけられるべきなのかという点についての周知を図るための研修である。
第二に、保護者、子どもへの具体的で現実的な対応のスキルアップを図る研修である。
第三に、虐待に関する基礎的な知識を、定例的に繰り返し確認するための研修である。
(2) 次年度においては、教員向けの学習教材を開発するとともに、試行的な研修プログラムを実施する計画であるが、教員の多忙さや学校現場に求められている要求の多様さを考えた場合、さほどの回数を期待することはできない。
また、すでに14年度調査でも明らかにされ、本報告書の中でも改めて指摘されている通り、教員はその職務によって虐待対応において求められる機能が異なってくる。したがって、画一的な研修では実効性が望めないことも十分に考えられる。
研修の考え方としては、いずれは教育委員会内に学校現場からの相談に対応し、教育行政としての指針を示せるような機能が付加されることが望ましい。したがって、国策レベルとしてはこうした実効性のある研修が各地域において可能になるように、中核的な人材を養成するための研修計画が必要になる。
虐待対応には多様なスキルが要求される。同時に、今後の教員向け研修では、対応の具体性や実効性が問われるのであり、啓発的な水準に留まることはゆるされない。このような観点から、学校現場と教育委員会における虐待対応にとって重要と思われる内容をモジュール化し、適宜、教員のニーズや職務等に応じて組み合わせて利用することができるようにすることを検討していくことにする。
(3) 以下に示すのは、今年度の調査研究会議の知見を踏まえた研修モジュールの案である。なお、どの職務向けにモジュールを適用するかについてはあくまでも仮説的な位置づけであり、次年度において教材開発とともに検討を加えたい。
| 【参考】 教職員向け虐待対応研修モデル・プログラムのモジュール(案) 1 研修プログラムのねらいと特性 (1) すでに虐待に関する基本的な情報は学校現場にも教育行政の場にも届いているという前提で、あくまでもネットワーク対応の一員としての学校という観点を強調する。これは、ひとつには「学校で抱え込まない」ということであり、同時に「学校は対応力も求められている」ということである。 (2) あくまでも学校という組織特性と、教育行政の特性を踏まえ、学校現場に対してだけではなく、教育委員会やスクールカウンセラーに対する研修も盛り込む。また、学校現場への研修では、職務分掌ごとに活用できるモジュールとする。 (3) 実際の学校現場の忙しさや、教員研修の過密さを考え、できるだけ内容を厳選し、次年度製作予定の視聴覚教材による自主的な学習と補い合うものと位置づける。 2 研修プログラム(案) (1) 教育委員会対象
(2) 学校現場対象
(3)モジュール組み合わせの例
|
| 前のページへ |
Copyright (C) Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology