第3章 第3節 3.虐待防止のネットワークづくりの成果と課題

ア 虐待防止ネットワークづくりの成果

  虐待防止ネットワークづくりの成果としては、「年2回の虐待防止ネットワークや月一回のモニタリングにより、円滑な情報交換が可能であり、見守りや改善の分担を、迅速かつ具体的に決定できるようになった」(M区)、「1虐待の把握率が高まった、2見極めが難しい子どもへの適切な援助が可能となった。3担当者同士の信頼感が形成された、4ケース担当者の精神的安定が図られた」(N区)、「今まで学校現場はプライバシーの関係で他の機関を受け入れにくい感があった。しかしネットワークができたことで少しずつ学校が開かれ、情報を共有し、児童生徒の諸問題の解決に取り組めるようになりつつあると思う。学校だけでは解決できない問題が多くなっているので」(U市)などが指摘されている。
  また、「関係機関との定期的な連絡会の中で、小中学生の気がかりな点についての情報交換をする際、虐待の現状だけでなく、非行や家出事案の背景に虐待の疑いがあるなどの事実を把握できたことが多かった」(F市)のように、様々な問題行動の背景にある虐待問題の認識を教育委員会が深めることができた点は大きな成果と言えよう。
  さらに、「子育ち支援・親育ち支援・親子関係育ち支援の3本柱で総合的な子ども施策を展開することで、虐待グレーゾーンから虐待へ進行することを防ぐことができたことにとどまらず、不登校などの学校不適応の未然防止ができるようになった」(S町)のように、ネットワークが虐待への介入のみならず、不登校などの問題に対しても予防的な意義があったことも指摘されている。

イ 「問題行動に対する地域における行動連携事業」の成果

  自由記述では、「問題行動に対する地域における行動連携事業」の成果に関する記述、また、このネットワークと他のネットワークをどのように整理、統合していくのかという問題に関わるものが複数見られた。ここでは、まずそれらの記述について紹介したい。

  • 「福祉部が主管する『虐待防止ネットワーク』と、教育委員会が主管する『問題行動に対する地域における行動連携事業』等の日頃からの情報交換・連携が大切となる。」、
  • 「本市では、『問題行動に対する地域における行動連携事業』として昨年度より自立支援教室事業に取り組んでいる。この事業で扱う事例は主にあそび・非行型の不登校児童・生徒が中心となっている。非行傾向のある児童・生徒の状況をみると保護者の養育態度が消極的であり、それが原因となっている場合も考えられる。問題行動を抱えた子どもたちの立ち直りに向けた支援システムを学校、地域、関係機関などの協力により構築してきたが、この支援システムを、虐待を受けた子どもたちの支援にも役立てられないかと思い、活用のあり方を検討していきたい。(H市)」、
  • 「行動連携ネットワークの設置により、学校・教育委員会・保健師・福祉課・警察・児童相談所・スクールカウンセラー等関係機関の連絡・連携を密にとりながら、種々の問題に速やかに適切に対応することができる体制を構築することにより、大きな事件・事故を未然に防ぐことができている。サポートチーム指導員の配置により、きめ細かな対応が可能となっている。家庭の養育に問題がある場合や、虐待が認められる場合に町で設置した『子ども相談窓口』とも連携しているが、一時保護が必要なケースなどにあっては、児童相談所の指導が必要不可欠と考えている」(S町)、
  • 「児童生徒の虐待に対応するとき、その両親や家庭内の詳細な情報が必要であり、学校・教育委員会だけでは十分な情報収集はできないと思いますが、行動連携ネットワーク(本町では「子育て支援情報連絡会」)の中では様々な角度からの情報提供が得られることから、適切な対応・予防策が立てられると思うので、有意義な機関である」などの声が出ている。

  このように、行動連携事業が関係諸機関の相互連携を深める契機になったこと、また、非行問題の背後にある家族問題などへの認識が深まったこと、など、その成果を指摘する記述が多く見られた。

ウ 他の様々なネットワークの取組

  「特別支援教育連携協議会を通じ、日頃から教育機関、福祉、社協、保健センター。保健師間連携をとっている。(T町)」、「適応指導教室を中心として、小学校・中学校、教育委員会、児童相談所、立川少年センター、家庭支援センター等の期間がスクーリングサポートネットワーク(SSN)を作り、日ごろより連携を図っている。(M市)」、「昨年までの不登校対策会議とSSN会議を一つにして、はごろもサポートネットワーク会議とし、虐待防止ネットワークの担当課(児童家庭課)や保護課等も参加しての会議を月一回開いている。その中で出た事例が虐待にあたりそうな場合は、その後の虐待防止ネットワークに引き継いでいる。その事例に関係する学校、教育委員会、民生委員等も参加している。(G市)」というように、特別支援教育連絡協議会や不登校の子どもの教育支援センター、適応指導教室、サポートネットワークなどを、虐待防止の取組にも生かしていく模索をしている自治体も出てきている。
  不登校、非行問題、特別支援教育等の問題と児童虐待の問題は多くの局面で重複したかたちで表れてきている。実際、自由記述を見ても、「教育相談室では、養育から虐待につながるケースが多くあります。不登校の陰に養育から虐待、保護者の精神的な問題を持つ多くの事例を抱えています。教育の問題だけでは済まされない」(H市)のように、不登校の背景にある、教育サイドだけでは対応できない虐待や保護者の精神的な問題が指摘されている。そして、「適応指導教室(はばたき教室)では、不登校児童生徒の家庭的な背景要因を捉え、必要に応じて福祉サービス課(子ども担当)や県南児童相談所および学校の教職員とのケース会議を開催してきた」(T市)というように、学校だけではなく、関係諸機関との連携の中で、不登校の背後にある家族問題への支援体制を築く取組を行っている自治体も出てきており、注目される。

エ サポートチームをめぐる問題

  虐待防止ネットワークが実際に機能するためには実働可能なチームが必要不可欠であるが、「虐待ではなく、『気になる子ども』として報告してもらい、虐待の判断は児童虐待防止ネットワークのコア会議で判断する。(T市)」というように、ネットワークの中に実働部隊であるコア会議を持っているところ、また、「サポートチームが虐待を通告する前から関わっている(長岡市、安来市など)」というように、通告するかどうかの判断をサポートチームで行う体制づくりが複数の自治体で進められている。
  また、「生徒指導の観点から、問題に対して、サポートチームを組織するように各校に指示している。事例の状況に応じて関係機関との連携を図り、サポートチームに入ってもらい、各立場の専門性を生かし実践している。ネットワークを組織しなければならないというより、事例に応じて自然発生的にサポートチームが立ち上がっているということである。そこで本年度はさらなる強化のため、関係機関と市教委との連絡会を月に一回実施している」(H市)というように、事例に応じてかなり柔軟にサポートチームを作ることができており、連絡会なども、そのような柔軟なサポートチームを作るための手だてとして取り組んでいる教育委員会も存在している。
  「平成16年度は、サポートチームが主体となり警察・福祉関係機関と連携を図ることができ、互いの良さを改めて発見しあいながら協力して活動ができるようになった。平成17年度においては、市児童家庭課が主体となり虐待防止ネットワークが組織され活動がはじまったので、サポートチームとどうしても重なる部分が出てきている。」(S市)という指摘に見られるように、サポートチームが機能している自治体では虐待防止ネットワークを新たに立ち上げた場合の、「両者の役割分担の明確化」の必要性を指摘する自治体も見られた。
  それと同時に、「サポートチームを活用して、密度の濃いネットワークに努めた。多くの人が保護者に関わりを持ちながらも保護者の意識や行動に変容が見られない事例がある。誰がどうやってどこまで関わりを持つのか、十年先を見越した対策の検討が必要である。」(S市)などもあり、具体的な事例について、「コーディネーターやスーパーバイザーをどの機関が引き受けるのか」(Z市)、というように、サポートチームの専門性と継続性の担保という点での課題も出されている。
  ただし、サポートチームの主管する機関や具体的な構成メンバーなどは自由記述の中だけでは必ずしも明確ではないので、サポートチームの実態、その意義と課題については、先進事例も含めてさらに検討していく必要があると考えられる。

オ 多様なネットワークの整理、統合の課題

  「現在、多くのネットワークが作られてきており、虐待、不登校、非行、特別支援教育、就学相談、などいろいろなネットワークがあり、該当する子どもや出席者がだぶったりするので、ネットワークの整理ができないか。(T区)」「非行ケースネットワーク、不登校ケースネットワーク、虐待ケースネットワークが個々に立ち上がっているが、ネットワーク内にある関係機関は共通している機関であり、それぞれに個別ケース会議を持とうとすると、とてつもなく日程的に厳しい現状がある。担当者の顔ぶれは、ほぼ同じであり、主にコーディネートする機関が異なるだけであることから、もっと効率的に事案に取り組める推進方法がないかが今後の課題」(T市)というように、それらのネットワークの整理・統合の必要性は多くの自治体から指摘されている。
  しかし、それと同時に、「一本化できればいいのだが、虐待は福祉課が中心、不登校・非行・いじめは教育委員会が中心となって解決を図るべき問題であるため、現実的には組織の一本化が難しいのが現状である。(S町)」と考えている自治体もある。
  このようにネットワークの統合を進めていく上での困難さも指摘されているが、深刻な不登校や非行、いじめの事例の中にも虐待事例は含まれているだけに、問題を「縦割り」ではなく、統一的に捉えてネットワークづくりを進めていくことが課題となってきている。

【コラム】静岡県の児童虐待対応について

  児童虐待や発達障害など、様々な要素が複雑に絡んで発生する子どもや家庭の問題が増加していることから、静岡県では、平成17年4月から医師(児童精神、小児)、ケースワーカー、心理士、保健師、教員のスタッフを配置したこども家庭相談センター「総合支援部」を発足させ、児童虐待防止、発達障害児・者への支援を行っている。この総合支援部には、支援の中核的施設である診療所「あいら」が平成17年12月にオープンし、医学的診断を基にした、保健、医療、福祉、教育等による包括的な支援を始めている。
  また、総合支援部は、発達障害者支援法に基づく発達障害者支援センターとして国の指定を受け、併せて業務を行っている。

1 「こども家庭相談センター『総合支援部』」の業務内容

(1)医学的診断に基づく支援計画の策定

  総合支援部に寄せられる相談のうち、虐待事例については、医学的診断を行った上で児童相談所につなげていき、発達障害については、専門医による医学的診断を行った上で、医師、ケースワーカー、心理士、保健師、教員のスタッフが一体となって個別支援計画を策定し、市町、地域での直接支援につなげている。

(2)市町村の体制整備、関係機関との連携

  個別の支援計画を策定した後は、相談者の住む地域で支援が行われることが望ましいことから、より身近に対応すべき市町村の体制整備を支援するとともに、医療、福祉、教育、労働といった様々な関係機関の連携の強化を図っている。

(3)人材の養成・支援者のネットワーク化

  児童相談に対応する市町村職員への研修や、自閉症・発達障害に対応できる専門家を養成するための研修を実施している。また、研修受講生の間でネットワークが創られることにより、地域での対応力をより向上させている。

2 診療所「あいら」の概要

  診療所では、医師、心理士等が診察や心理検査を実施して医学的診断を行い、それに基づきケースワーカー、心理士、保健師、教員の支援スタッフとチームを組み、保護者や関係者と協議しながら、個別の支援計画を策定する。

  • 開院日:月曜日~金曜日までの午前9時~正午、午後2時~午後5時(月曜日、金曜日は午後のみ)
  • 診療スタッフ:医師3名(児童精神、小児)、心理士2名、看護師2名
  • 支援スタッフ:ケースワーカー1名、心理士2名、教員2名、保健師2名

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --