第3章 第3節 1.関係機関との連携

  児童虐待防止法改正により、児童虐待を受けた児童等に対する支援として、「国及び地方公共団体は、児童虐待を受けた児童がその年齢及び能力に応じ充分な教育が受けられるようにするため、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。」と付け加えられた。
  学校は、今まで「虐待を受けた児童」について通告の義務が課せられていたにとどまっていたが、「虐待を受けたと思われる児童」に対する早期発見とその後の早期対応が求められることとなった。これからは児童虐待防止にかかわる、より重要な担い手としての役割が求められている。
  虐待を受けた児童の特徴として、大人との関係では反抗的、過度の緊張、虚言、無差別的愛着傾向等、友達との関係では暴力、乱暴な言動、孤立、他の児童とのトラブル等、情緒行動では万引き等の非行、徘徊、自傷行為、自己否定等、学校での様子では遅刻、欠席、忘れ物、保健室登校、学力の低下等様々な問題を抱えていることが多い。こうした児童に対して、学校では対応に苦慮し、いわゆる学級崩壊の一因ともなっていることは否めない。
  このような行動は学校のみで現れるのではなく、家庭、地域の問題ともなっている。ことに家庭の養育機能の低下の問題もあり、児童のみならず、その家族を含めた対応が重要である。
  また、虐待を受けたと思われる児童を発見した後の早期対応については、それぞれ学校によって異なっているのが現状であり、学校の中で組織としての役割分担など明確にすることが必要である。虐待を受けた児童の早期発見、通告からその対象となっている児童への充分な教育をしていくために、学校教職員の個別技量のみに頼ることなく、学校における対応組織として、子どもとその家族を含めたきめ細かい支援をしていく上で、関係機関との連携が極めて重要となってきていることはいうまでもない。
  関係機関として児童相談所、児童家庭支援センター、子ども家庭支援センター、保健所、保健相談所、発達障害者支援センター、警察、福祉事務所、保育園、幼稚園、小学校、中学校、養護学校、教育委員会、児童館、学童クラブ、母子生活支援施設、児童福祉施設(児童養護施設、児童自立支援施設、乳児院、障害児施設等)、社会福祉協議会など、また、関係者として医師、歯科医師、民生・児童委員、主任児童委員、保護司、弁護士、里親、保育士、保健師、社会福祉士、臨床心理士(カウンセラー)、人権擁護委員などが挙げられる。

【コラム】 関係機関の役割と機能

児童相談所

  児童相談所は、児童福祉法第15条にもとづいて現在47都道府県と13指定市に設置され、0歳から18歳未満の子どもに関する相談に応じる専門の相談機関である。
  虐待、養育等についての養護相談をはじめ、保健、身体障害、知的障害、発達障害、非行、育成等のさまざまな相談に応じている。専門のスタッフとして、児童福祉司、児童心理司、医師などが配置されている。家庭で養育できない子どもを、児童福祉施設(乳児院、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設、知的障害児施設、肢体不自由児施設など)に入所措置を決定する機関でもある。
  また、緊急に保護を必要とする場合や、生活指導を行いながら子どもの行動観察を必要とする場合、一時保護所で一時保護をする機能を有している。子どもへの虐待事件、相談の増加に伴い、平成16年の改正児童福祉法の施行に合わせて児童福祉司の配置基準の見直しがなされ、「人口10万~13万人に対して1人」から「人口5万~8万人に対して1人」に引き上げられた。
  虐待防止のネットワークにはどの地域でも必ず関わり、虐待ケースについては重要な役割を担う機関である。専門家集団として、十分その機能を発揮することが期待されている。しかしながら虐待を受けた児童の急激な増加、虐待通報の増加の中で、児童福祉司が相談ケースに十分対応しきれなくなるような状態が続いている。虐待を受けた児童の対応については、児童家庭支援センター、こども家庭支援センターとの連携により、その役割を分担し、より重篤なケースにかかわれるような方向となっている。

児童家庭支援センター、こども家庭支援センター

  平成10年の児童福祉法改正によって児童養護施設に付置されるようになった「児童家庭支援センター」、東京都の単独事業としての「こども家庭支援センター」は、児童虐待、あるいは要保護児童に関する支援をするためのネットワークを構成する場合の中核機関としての役割と機能をもつことが期待されている。
  都では児童虐待の通報がまず、こども家庭支援センターに入り、そこで軽微なケース、重篤なケースにわけ、重篤なケースについては従来どおりの児童相談所に、軽微な場合にはセンターのネットワークの中で支援していくということが行われ始めてきた。また、ショートステイ、トワイライトステイなどの子育て支援の事業を通して、虐待予防の役割も果たしている。しかしながら、センターには事務局的な機能が主となり、児童虐待に関する専門職の配置がなされるなど、より人的な整備を図ることが必要である。
  児童家庭支援センターは、地域の児童の福祉に関する問題につき、児童、母子家庭その他の家庭、地域住民その他からの相談に応じ、必要な助言を行うとともに、第二十六条第一項第二号及び第二十七条第一項第二号の規程による指導を行い、あわせて児童相談所、児童福祉施設等との連絡調整その他厚生労働省令の定める援助を総合的に行うことを目的とする施設である。(児童福祉法第44条の2)

児童養護施設等の児童福祉施設

  従来児童養護施設には、両親のいない、あるいは一人親家庭、貧困など、の理由で入所していたケースが多かったが、戦災孤児、災害、サラ金、カード負債、核家族化、家庭の養育力の低下等、その時代の社会状況によって入所理由が変遷してきた。特に近年において、児童虐待が社会問題となっている現在、児童養護施設には最近、虐待を受けた児童の入所が急増し、さらに定員いっぱいの状態が続いている中で対応が困難となってきている。ことに、地域の学校が児童養護施設の児童を受け入れることについて問題となっているケースが増えてきている。
  児童養護施設の児童を受け入れている学校は必然的に虐待を受けている児童が多く、学校は、その受け皿として、対応できるよう専門知識をもった職員の配置がなされていないことがある。さらに、児童養護施設には発達障害も含めて多くの支援を必要とする児童が多く、とりわけ児童養護施設の児童を受け入れている学校には対応ができるよう、学校の教職員の理解と特別な専門知識を持った職員の配置が必要と思われる。また、児童養護施設は教職員の虐待を受けた児童への対応の研修の場としての機能をもっている。
  さらに、豊富な子育ての経験は地域の子育て支援の役割を担える機能も持っている。しかしながら、児童養護施設は都道府県の管轄となっており、同じ児童福祉施設である保育園などと異なり、市区町村事業として位置づけられていないため、また、全体としての設置数が少なく、各市区町村すべてに設置されていないこともあるが、次世代育成支援対策、地域の子育て支援対策の関係機関として外れてしまうことが多い。市区町村との関わりは、児童養護施設の機能を利用してのショートステイ、トワイライトスティなどがあるが、まだ、市区町村によって取組に格差が生じている。
  児童養護施設では家庭復帰支援員(ファミリーソーシャルワーカー)、心理職が配置され、虐待を受けた児童へのカウンセリングとともに家族再統合を推進している。家庭復帰したのちの家庭支援は重要であり、家庭復帰した地域、転校した学校での支援ネットワークの中で児童相談所ならびに地域での見守りの体制が大切となっている。
  また、里親への委託を受けた児童に対する学校および地域の支援体制も重要である。

発達障害者支援センター

  発達障害者支援センターでは,LD,ADHD,高機能自閉症などの発達障害をもつ子どもや大人、またその家族からの相談に応じ,専門的な指導及び助言を行い,就学前の発達支援から就労支援までライフステージに応じた支援を行っている。また、発達障害児(者)に携わる医療,保健,福祉,教育等に従事する方々に対し,発達障害についての情報提供及び研修を行っている。現在、全都道府県に配置されるよう整備が進んでいる。

児童福祉施設に次のような施設がある。

児童養護施設

  保護者のない児童(乳児を除く。ただし、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要がある場合には、乳児を含む。)、虐待されている児童、その他環境上養護を要する児童を入所させてこれを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設である。(児童福祉法第41条)
  全国557箇所(児童養護施設の数) 約30,000名(在所者数)

情緒障害児短期治療施設

  軽度の情緒障害を有する児童を、短期間入所させ、または保護者の下から通わせてその情緒障害を治し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設である。(児童福祉法第43条の5)

児童自立支援施設

  不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設である。(児童福祉法第44条)

乳児院

  乳児(保健上、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、幼児を含む。)を入院させて、これを養育し、あわせて退院した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設である。(児童福祉法第37条)
現在全国115箇所、約3,000名

母子生活支援施設

  配偶者のいない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその他の看護すべき児童を入所させて、これらの物を保護するとともに、これらの物の自立の促進のためにその生活を支援し、あわせて対処したものについて相談その他の援助を行うことを目的とする施設である。(児童福祉法第38条)


  平成12年に施行された「児童虐待の防止等に関する法律」において「国及び地方公共団体は、関係機関及び民間団体の連携強化その他児童虐待の防止等のために必要な体制の整備に努める」とされている。これを受けて、各関係機関、関係者との連携による児童虐待防止体制の整備に向けた検討が各市区町村で行われ、それぞれの児童虐待防止マニュアルを策定、虐待防止にかかわるネットワークを構成しているところがではじめてきた。
  児童虐待の予防、虐待の早期発見、通告から虐待を受けた児童とその家族への支援を行うために、より効果的な関係機関のあり方、ネットワークのあり方が求められている。
  虐待を受けている子どもなど、要保護児童とその家庭への支援にあたり、地域の保健、医療、教育、福祉、警察などによって構成される関係機関として「要保護児童対策地域協議会」を法的に位置づけ、その設置促進が図られている。しかしながら、地域協議会または虐待防止ネットワークが未設置の市町村は多く、大きな地域間格差がある。
  市区町村が行っているネットワークには対象とするケース(少年非行、児童虐待等)によって関係機関、関係者の構成メンバーが異なっている場合など、さまざまな特徴をもった組み合わせのネットワークができている。

【コラム】「ネットワークについて」

1 様々なネットワークの例

  • 子育て支援ネットワーク
  • 児童虐待防止ネットワーク
  • 教育委員会を主体とするネットワーク
  • 虐待対応プロジェクトチーム、ケースワークチーム
  • 教育相談員等連絡会での虐待防止ネットワーク
  • 民生児童委員会との合同会議サポートチーム連絡協議会
  • 教育委員会主催の学校との連絡会
  • 教育委員会、学校現場との情報交換(スクールカウンセラー、教育相談員、生徒指導担当)
  • 教育相談員が必要に応じて個別ケース会議
  • 学校、幼稚園の代表者が福祉地区ごとに設置された地域ネットワーク
  • 校長会で児童虐待に関する情報交換会
  • 児童福祉連絡会
  • 相談機関連絡会
    (児童相談所、子育て支援課、総合教育センター、青少年センター、指導課の代表)

2 具体的な実践事例

(事例1)「サポートチーム(学校、教育委員会、警察、児童相談所を中心)」
  関係諸機関として、学校、教育委員会、警察、児童相談所、民生・児童委員協議会、保護司会等で、事務局を教育委員会に置き、各機関より対象児童を直接処遇できる者を実務担当者として構成している。このネットワークの特徴としては学校における生徒の非行等、問題ケースについての対応が主としている点である。

(事例2)「こども家庭支援センター、学校、民生・児童委員、主任児童委員、児童相談所、福祉事務所(母子相談員、家庭相談員)、保育園、学童クラブを中心としたネットワーク」
  「小学生1年生の子が時々不登校になる」と、学校長から担当地域の主任児童委員に相談があり、主任児童委員が調査したところ、「夜10時まで3歳の弟と2人だけで待つこともある」とのことであった。そして、主任児童委員からこども家庭支援センターに連絡をとる。主任児童委員が、母親と何回も連絡を試みた後、ようやく連絡が取れるようになり、母親と地区担当の民生・児童委員とも連絡を取り、福祉事務所の母子相談員、家庭相談員とともに児童相談所で協議する。そして、学校、保育園への入園による保育園、学童クラブ、担当主任児童委員などによる見守りの体制をつくり、さらに母子相談員、家庭相談員などによる親へのサポートといった対応をしてここでは主任児童委員がコーディネーターの役割を担っている。

(事例3)「児童相談所、母子相談員、主任児童委員、学校等を中心としたネットワーク」
  近隣より「早朝、子ども(5歳女児)が裸足で母親を探してふらついている。昼食を食べていないため、近所で面倒を見ている。母親が大声で怒鳴っている時がある。」等、児童虐待を疑う通報が児童相談所に入り、児童相談所より主任児童委員に調査の依頼をする。
  そして、主任児童委員が家庭訪問するが、面会できず、リーフレットをポストへ入れる。その後、母子相談員、児童福祉司が家庭訪問するが、やはり会えない。
  早朝、当該児童が母親を探して泣いているところへ母親が帰宅。その後、家の中で子どもを叱る声が聞こえ、警察介入し、児童相談所で一時保護となった。
  母親から主任児童委員へ「子どもが連れて行かれた」と連絡が入り、そこから母親とのつながりができた。
  2週間ほどで、地域でのサポートを条件に子どもが母親の元にもどす。
  児童相談所、母子相談員、主任児童委員でサポートチームをつくり、対応をする。
  子どもは保育園に入園し、母親へは就労指導を開始する。
  小学校就学時に転居したため、入学予定校とコンタクト、学校と情報交換。当該担当主任児童委員に引き継ぎ、またケースワーカーによる母親の指導に結びつける。


  ネットワークを構成する多くの関係機関の機能については、まだ、虐待を受けた児童への適切な支援が十分にできる体制とはなっていないのが現状である。
  それぞれの機関で児童虐待に関する専門的知識、技量をもった職員等の配置が必要とされ、また、関係者においても、児童虐待に関する知識について研修等をとおして向上していくことが必要である。
  さらに、それぞれのケースにおいて、まず、どこに通報し、その後、誰がコーディネートし、支援するのかについてが明確となっていない。各地域で児童虐待について発見、通報が入った場合には、まず、決まったセンター的機関にすべてつながり、そこでケースに応じた関係機関、関係者等との連携をはかり、早期に対応できるシステムとなっていることが望まれる。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --