第3章 第2節 2.支援体制の整備

1.関係部局との連携

  児童虐待の発生予防から早期発見・早期対応、保護支援までの一連の流れの中で教育委員会と関係部局とがそれぞれ独自に施策を講じているのでは、全体として効果を上げることは望めない。関係部局と教育委員会との役割分担、連携の在り方などを明確にするとともに、一体となって学校を支援する体制を整えることが大切である。

2.学校支援

  学校を支援する具体的方策としては、学校に対してスーパービジョンを行う体制を整えることが考えられる。通告の義務については周知が図られてきてはいるが、実際に通告するかどうかの場面では、「校内での対応が可能である」、「虐待の程度が軽い」、「虐待かどうかの判断に自信がない」、「家庭のプライバシーの侵害になる」などの懸念から躊躇する場合が多い。実際に、通告・連絡・相談に先立って市町村教育委員会との協議を行ったかどうかについては、「保育所、学校等関係機関における虐待対応のあり方に関する調査研究」(平成17年度厚生労働科学研究)においては、小学校47.4パーセント、中学校56.2パーセントとの結果が出ている。学校は、虐待の事案に遭遇した場合、教育委員会の支援を求めていると考えられる。したがって、学校に対して日常からスーパービジョンを行うことができる体制を整えておくことが重要である。
  また、学校から教育委員会へ報告する際の手続きを明確にする必要がある。まずは電話で第一報を報告し、その後文書で報告するという手続きを明確に示して対応しているところもある。できるだけ簡素化して、通告に結びつけることが望ましい。
  さらに、教員のメンタルケアに関する相談窓口を設置して教員を支援することも重要である。既に教育委員会で独自にスクールソーシャルワーカーを配置して、中学校単位のサポートチーム設置に中心的に関わり、虐待への対応にあたっている教育委員会も見受けられる。

3.機関連携のコーディネート

  教育委員会には、要保護児童対策地域協議会を構成する機関等と学校との連携をコーディネートする役割も求められる。学校は、要保護児童対策地域協議会の構成員として位置付けられている。学校の児童虐待対応担当者が機関連携を行う際の調整を行い、学校の取組を支援する役割が市町村教育委員会には求められる。教育委員会の指導主事等を児童虐待対応担当者として養成し、具体的に学校を支援できる能力を身に付けさせる取組を始めた教育委員会もある。

4.地域の力を結び、高める

  子どもたちの安心・安全の観点から地域で子どもを守る会の設立やこども110番の家の設置を行っている教育委員会も多い。地域全体で子育てに取り組むことを積極的に推進するとともに、あわせて近所の抑止力向上を図る取組を推進して、地域における気付き、情報を組織情報へと結び付け、虐待の早期発見と早期対応を行うことが重要であると考える。

5.指導資料・学習教材(児童虐待防止のための児童生徒への教育のための資料)の作成

  虐待防止法には、「学校は児童に対して児童虐待防止のための教育に努めなければならない」と規定されたが、現状では実践例がほとんどない。
  資料についても、虐待防止法の趣旨等の周知を図る資料については作成されてきてはいるが、児童生徒への教育を行うための学習教材はほとんど作成されていない。学校が独自に資料を作成することも考えられるが、教育委員会が主体となって編集委員会を設置し、教職員の意見を取り入れながら、どの学校も共通して取り組める学習教材を作成して配付することが望まれる。
  児童生徒への教育においては、子どもたち自身に、自分への不当な扱いに気付かせ、虐待に気付かせることをねらいとした教育資料を作成して、学校で活用し、教育実践が行えるようにする必要がある。京都市教育委員会では平成15年12月に子ども達自身が虐待を虐待として受け止め、それを回避するための力を培うための学習指導案をもとにした実践事例集「心と体を救う3」を作成した。埼玉県教育委員会においても平成18年3月に「児童虐待防止のための児童生徒への教育 指導事例集」を作成した。具体的な内容は、子どもたちに自分に対する不当な扱いや虐待に気付かせることをねらいとして、自分を大切にする、自分の置かれている状況を理解する、周囲の人に相談できる、話したいことを正しく伝える、不当な扱いから回避して改善の行動がとれるような力を身に付けさせることを目指すものである。

6.相談体制確立と周知

  親の育児不安や育児疲れによるストレス、社会からの孤立など養育者自身の悩み、また、子ども自身の養育者から受ける扱いに対する救済、さらには、地域住民からの相談などを受け入れる相談体制を確立することが重要である。メンタルフレンド(相談員)や子どもと親の相談員などを配置し、相談に当たっている教育委員会もある。
  また、教育委員会内に特設電話を設置してサポートコールとして位置付けている取組もある。相談体制の確立と併せて、活用されるよう広く周知を図りことが必要である。相談から通告へ結び付け、子どもの安全を守ることにつなげていきたい。
  さらに、教職員向けにスーパービジョンやメンタルケアを行う相談窓口については、設置しているところは都道府県は35都道府県、1,713市町村にとどまっている。学校現場を支援する上では欠かせないものであり、設置することが望まれる。

7.人的支援

  既にサイコロジスト、スクールソーシャルワーカー、臨床心理士などを教育委員会に配置して、児童虐待防止支援委員会を組織して学校を支援している例もある。また、学校から教育委員会に相談があると臨床心理士と指導主事とが学校に出向き、状況を詳細に調査して通告の可否を判断する体制を整えている教育委員会もある。学校の人的資源には限界があり、医学、心理学等の様々な観点から人的支援を行う体制整備も望まれる。

8.民間団体、NPOとの連携

  児童虐待防止に取り組んでいる民間団体やNPO法人との連携も重要となる。民間団体等には虐待防止を目的として関係職種間のコミュニケーションの促進、虐待とその対応に関する情報の蓄積と提供、被虐待児とその家族への援助、虐待に関する学術的セミナー等による専門家への研修、電話相談、啓発活動、虐待に関する調査研究、講師派遣などに積極的に取り組んでいるところも多い。目指しているところは同じであり、連携を図れる部分も多い。日常的に連携を図り、早期発見・早期対応、適切なケアに結び付けていきたい。

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初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --