第2章 第4節 2.カナダ(トロント)の取組

  カナダ(トロント市)の児童虐待防止への取組は、1894年にカソリックの司祭が中心となった活動として、孤児や育児放棄をされていた子どもを対象として救済活動を始められ、既に100年以上の活動の歴史がある。
  虐待防止に関して中心的な役割を担っているのは、「トロント市チルドレン・エイド・ソサイエティ(以下、CASと略)」であるが、ここでは、380万人(16歳未満)の子どもの数のうち、33,351人の被虐待児童生徒(うち29,920人が家庭での支援を受けている)と13,755家族を支援している。
  児童虐待の実態として、「1家庭での支援を受けている被虐待児童生徒の65パーセントが貧困家庭にいる。2支援を受けている家族の51パーセントが一人親家庭である(一人親の平均は17パーセント)。3(CASの)支援を受けている家族の44パーセントが社会的な支援を受けている。4支援を受けている家族の51パーセント及び虐待児童の42パーセントがマイノリティである。」等がある。
  我が国の児童虐待防止法の制定は2000年であり、虐待防止先進国のカナダに学ぶべきことは多い。調査班は、カナダのトロント市の公立学校、教育委員会、ゲートハウス(民間機関)、CAS、児童虐待防止センターを訪問し、児童虐待防止に向けた取組について現地調査を行った。

(1)現地の学校での取組で注目すべき点

  • 虐待の兆候を発見した時の通告システムの確立
  • 校内にSchool Social Worker(以下SWr.と記す)を配置
  • 外部機関との連携
  • 児童虐待防止のための生徒への教育プログラムの確立、実践

(2)虐待防止対応の実際

1.虐待の兆候の発見

  • 児童虐待を疑いうる立場にいる全ての者達は、CASに通告しなければいけない。
  • 通告の際、他の者に任せたりせず虐待を疑った者が直接CASに通告しなければいけない。
  • 学校の教員を含めた特定の者達は、継続的に当該児童の経過を通告しなければならない。
  • 通告を怠った場合には1,000ドルの罰金が科せられる。
  • 通告した者は公的機関から守られる。

2.虐待の通告

  • 教員達がCASに通告するに際して、不明な点がある場合にはSWrに相談する。
  • 調査はしてはいけない。
  • 個人情報の取り扱いには注意しなければならない。
  • 秘密の保持を約束してはいけない。
  • 校長に報告しなければいけない。
  • 調査は、CASの担当官か警察が行わなければいけない。
  • 記録は、教育委員会が作成した特別な児童虐待のための書類に残さなければいけない。
  • それ以外の書類も保存しなければいけない。

3.通告後の対応

  • 当該児童生徒のサポート:CASや警察が到着するまで、信用されている大人が付き添っていなければいけない。
  • 児童生徒が望めば、インタビューの最中にサポートする者が付き添いすることができる。
  • 校長はSWrに連絡し、その後の支援を依頼しなければならない。

4.SWr.の活動

ア 「仕組み」

  SWrの仕組みは、州政府の教育省により、児童生徒が学習に際して社会的・経済的・情緒的な影響を受けることから必要であると認定され、各地区の教育委員会に雇用されている。SWrの認定や資質向上等に関しては、SWr協会が行っている。

イ 「資格」

  SWrの資格としては、大学において学士、修士又は博士の学位を持っている必要がある。大抵のSWrは修士の学位を持っている。

ウ 「役割」

  SWrは、児童虐待のみならず、不登校、暴力行為、いじめ、いわゆる学級崩壊、家庭内暴力、貧困、自殺、離婚等子ども達の学習において、障害要因となりうる事項について、子ども、家庭及び学校を助け、地域の関係機関と連携しながら対処する役割を果たしている。具体的な活動としては、アセスメント、カウンセリング、介入、関係機関との連携、虐待防止・いじめ防止対策プログラムの実施、危機管理、ケーススタディ、学級介入等について、子ども、家庭及び学校への支援を行っている。

エ 「効果」

  • 子ども達に対しては、自己理解の促進、自尊心の向上、対人関係能力の改善、ストレス対応、出席改善、自己決定能力の促進、学習成果などの効果が考えられる。
  • 保護者に対しては、子どもの教育に対する積極的な関与、子どもの理解増進、学校教育及び地域に関する理解と協力、学校及び地域のリソースの活用、保護者教育へのつなぎなどの効果が考えられる。
  • 学校に対しては、子ども達の学習能力に影響を及ぼす要因(社会、家族、情緒又は経済的要因)に関する理解の増進、子ども達の社会的、経済的及び情緒的に支援するために必要となるリソースの活用促進、子ども達の社会的、経済的及び情緒的に支援するために必要となる取組の促進などの効果が考えられる。
  • 地域に対しては、学校教育への理解増進、子どもの学習に障害となる要因の軽減、子どもや家庭のニーズにあったリソースの提供促進などの効果が考えられる。

オ 「SWr協会の役割」

  SWr協会は、SWrの活動の促進を目的として、州政府の教育省との窓口、州政府のSWrに関する施策への助言等、SWrの活動に関する相談活動、年に2回のSWrの活動に関する調査等を実施している。

5.外部機関との連携

  • 民間機関で「ゲートハウス」というものがあり、虐待を受けた子ども達の居場所を提供し、相談活動を行うことを目的としている。例えば、警察が、虐待を受けた子ども達に対してインタビューする時にゲートハウスを活用していたりする。
  • ゲートハウスでは、虐待を受けた子ども達のケアについて、1人につき職員1人をつけるメンター制度で行っている。
  • 職員は、相談活動も行うが、細かい情報には触れないでただサポートするだけ。
  • その他、学校や警察に訪問し、講演活動などを実施している。
  • 地域やSWrとの連携も密接である。

6.児童虐待防止プログラム

ア 「児童虐待防止プログラム」の概要

  • 「児童虐待防止センター」が作成したプログラムで、「I'm a great kid(11歳対象)」、「I'm a great little kid(6歳対象)」の2つがある。

イ 「実施方法等」

  • 同プログラムは、SWrがメインとなって、教職員と連携しながら実施する。
  • 同プログラムは、子ども達に自尊感情や自信、及び危険を回避するスキルを身につけさせることを目的としている。
  • 同プログラムは、「自尊心、コミュニケーション、意思決定、尊敬、接触、助けをどこにどのように求めれば良いのか」という内容で構成されている。
  • 同プログラムは、毎週1回1時間、計6週間で終了する。
  • 同プログラムにおいては、「I'm a great kid(11歳対象)」は、ドラマ形式のビデオを見せ、子ども達に劇をやらせる形で実施している。一方、「I'm a great little kid(6歳対象)」は、絵本を見せ、例えば、「自分の名前の由来を親から聞く」などのアクティビティーを行う。

7.職員が虐待者であった場合の対応

  • 虐待者が教育委員会・学校関係者だった場合には、発見した者は、校長に報告しなければいけない。
  • 校長は監査官に連絡しなければいけない。
  • CASに直ちに報告しなければいけない。
  • 調査は、警察官かCAS担当官が行わなければいけない。
  • 警察への報告がなされるまで保護者に連絡をしてはいけない。
  • 当該被害児童生徒に対しては、学校の職員が事情聴取をしてはいけない。
  • 警察やCASへの報告の後、校長は当該加害職員に連絡すること。教育長は事態が深刻と判断した場合には、当該加害職員を当該児童生徒から引き離すための措置をとる。
  • 教育委員会関係者が子ども達の虐待者だった場合には、校長は、CAS及び警察に連絡することとなっているが、教育委員会にも連絡が来ることとなっており、教育委員会も独自の調査をすることとなっている。
  • 同教育委員会に3万人の教職員があるが、毎年3~4件の事例がある。
  • SWrの役割としては、そのような事件があった際に、他の教員や子ども達をケアすることが求められる。

8.職員の研修

  • 教育委員会は、SWrの研修等は実施していない。
  • SWrの活動はSWr協会が年に2回調査をして評価している。ただし、SWr協会は、教育委員会と密接な連携をとるものの、行政からは独立した存在。
  • 研修は、例えば、トロント児童虐待防止センターが実施しており、研修に来る者は年間5千人くらいいる。この研修プログラムは2日間を1ユニットとして、年5回実施する。1回の研修には35人程度が参加する。

9.児童虐待防止に関する研究・開発

  • トロント児童虐待防止センターは、トロント市からは独立した非営利集団である。
  • トロント児童虐待防止センターは、児童虐待防止に向けたプログラムの研究・開発、虐待を受けた子ども達へのプログラムの提供・実施、SWrの研修、講演活動等を実施している。
  • トロント児童虐待防止センターは、トロント市から出される補助金、トロント市のホッケーチーム等からの寄付金及び虐待防止プログラムの売り上げ経費によって運営している。
  • ヨーク大学やトロント大学の授業においても、ショートプログラムやグループプログラムの提供をしている。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --