第2章 第3節 平成14年度の文部科学省科学研究費補助金による現職教員対象の調査と今回の厚生労働科学研究による調査との比較分析

  今回の厚生労働科学研究による調査は必ずしも平成14年度の文部科学省科学研究費補助金による調査とまったく同一ではないが、学校現場における虐待対応の実態把握という意味では比較可能な設問が多い。学校における虐待対応の外形的な特徴についての比較を以下に記す。

1 学校現場における虐待事例の発見ないし対応の実態

(1)事例数

  14年度調査では、小中学校の教員で虐待事例に関与した経験があると回答していたのは全体の20.1パーセントであった。今回の調査では小中学校ともにこの数値は上昇していて、とりわけ、学校単位で見た場合には小学校での増加が顕著である。学校現場に虐待を疑う視点が定着しつつあることの現れであると同時に、虐待件数そのものの増加の結果とも言える。
  小学校段階は、学級担任による子どもの状況把握力が高いと考えられるため、より早期の発見とチーム対応を可能にするための仕掛けが必要になろう。同時に、就学前の段階から把握されている虐待ケースに対する学校での対応力も求められることになると思われる。

(2)事例の虐待種別

  今回の調査が14年度調査と際立って異なっているのは、ネグレクトの比率が高くなっていることである。ここには主たる虐待種別を統計的に処理する際、身体的虐待があった場合にはこれを優先して採用するというからくりが絡むと思われる。14年度調査の時点では、学校は福祉サイドからの虐待種別に関する判断を受け止める側にとどまっていた可能性もある。学校という組織特性からして、ネグレクトはきわめて疑いを持ちやすい虐待であることは14年度調査でも指摘していることであり、今回の調査での比率の上昇は、学校の意識向上の現れと判断していいものと思われる。

2 学校における対応の管理

  今回の調査では、小学校においては学校長、中学校においては生徒指導主任という結果が明瞭に示されている。14年度調査でも、機関間連携の窓口は実質的に生徒指導主任が担う傾向はあきらかになっていた。生徒指導の機能が小中学校で一貫した体制を整えられるかどうかが今後の課題である。

3 通告等、機関間連携の実態について

  14年度調査に比べ、通告等への踏み込みは確実に改善されていると思われる。小中学校とも8割前後の比率でなんらかの相談・通告がなされており、14年度調査で最終的に通告に至った事例が5割であったことを考えれば、虐待に関して抱え込むという構造は薄れつつあると考えられる。通告後の連携についても高率で連携がとれていると回答している。
  ただし、機関間連携を求めた時点での「確信」についてはやはり5割のラインであり、学校が虐待の確証を得ることの困難さを示している。もともと児童虐待防止法が教職員に求めているのは疑いの時点での通告であり、「確証を得ようとする」学校の姿勢はしばしば福祉領域などでは問題視されることもある。
  しかし、14年度調査とほぼ変わらないこの数値に、学校という組織が地域社会の中で占めている位置と機能の特性が示されていると考えるべきであり、こうした特性を踏まえた学校現場への支援策が検討されなければならない。
  教育行政の枠内で見た場合、機関間連携をとるケースでも必ずしも教育委員会を経由しているとは限らないという結果が今回の調査で示されており、教育委員会の機能についての検討も迫られる。教育委員会と学校現場、という教育行政内部の直線的な関係だけではなく、要保護児童対策地域協議会の中の教育委員会という横の関係の中で、教育行政や学校現場の組織特性を踏まえた方針策定をしていく能力が求められていくことも考えられる。
  また、通告等をしなかった理由として、学校種を問わず「対応可能だった」「軽度だった」という回答が上位に来ている。14年度調査ではこうした虐待の程度に関する選択肢が存在していなかったため明確に比較はできないが、学校が程度判断に踏み込むようになってきたという言い方もできる。しかし、これが虐待対応システムに学校を位置づけるという目的に照らした場合、すべて是とは言いがたい側面もあるかもしれない。虐待の程度判断にはリスクアセスメントが必須であり、そもそも学校現場には確証を得にくい特性がある以上、アセスメントに必要な情報が欠落することも十分にあり得るからである。
  このことは、今後の通告意志を尋ねた設問でも明確であり、「疑ったら通告」という考え方はまだ学校現場に浸透しているとは言いがたい。しかし、本研究会議の立場からすれば、これを「学校の無理解」と解するのではなく、「学校システムに準じた啓発・研修の不足」ととらえるべきではないかと思われる。

4 児童虐待防止法の理解

  今回の調査結果でやや気掛かりなのは、児童虐待防止法に規定された通告義務についての周知度が、14年度調査よりも落ちているのではないかと推測されることである。14年度調査では通告義務について「知らない」と回答したのは11.6パーセントであったが、今回は小学校・中学校とも3割を超えている。14年度調査では、紙媒体による啓発資料が学校現場ではほとんど活用されていないという実態もあきらかになっており、周知活動が形骸化しつつある危険性もある。虐待事例にいつ誰が遭遇するかは予測できないものであり、基本的な対応の枠組みとなる法的な規定については、くり返して周知する必要があると思われる。

5 教育行政への期待

  学校現場が教育行政に期待するものの内容は、14年度調査とほぼ同一で、専門性の確保と人的な支援の2点が突出している。この点では、ノウハウの提供という研修的な対応でどこまでカバーできるのかという点の見極めも必要であるが、基本的には14年度調査によって行った提言が現在も同様の意義を持っていると言うことができると思われる。

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