ここまで単純集計により、都道府県・政令市並びに市町村教育委員会における虐待対応の実態について14年度調査との比較を含めて考察してきた。虐待防止法や児童福祉法の改訂を受けて、虐待対応のシステム構築は市町村を中心としたものを指向しつつある。すでに平成16年度に厚生労働省が実施した市町村虐待防止ネットワークの実態調査においても、市町村レベルのネットワークには九割以上の比率で教育委員会が構成員として参加していた。
そこで、クロス分析においては、回答数も圧倒的に多い市町村教育委員会に焦点を当て、現時点でのネットワークの構築状況ごとに、各設問についての違いを検討することにする。その後、市町村規模の観点から群分けを行い、ネットワークの設置状況との関連を見ることにする。
(1)群分けの方法
群分けに当たっては、まず文部科学省事業である学校と関係機関の行動連携のためのネットワーク事業を受けているかどうか、市町村虐待防止ネットワークが設置されているかどうか、という点で全体を以下の四群に分類した。
第一群 行動連携ネットワークと虐待防止ネットワークをともに設置している市町村
第二群 行動連携ネットワークは設置しているが、虐待防止ネットワークは設置していない市町村
第三群 行動連携ネットワークは設置していないが、虐待防止ネットワークは設置している市町村
第四群 行動連携ネットワークも虐待防止ネットワークも設置していない市町村
ネットワークの設置状況による市町村の群分け
|
次に、市町村の規模による群分けを行った。自由記述においても、「該当するケースがない」という趣旨の記載は数多く見られ、虐待防止への取組には実態としての深刻度が影響していることは十分に予測できる。
今回は、市町村規模として便宜的に小学校の児童数による分類を行った。市町村教育委員会が管轄する小学校の児童数によって以下の三群に分類した。
第一群 児童数が1,000人以下
第二群 児童数が1,001人以上で5,000人以下
第三群 児童数が5,001人以上
小学校の児童数による市町村規模の分類
|
(2)クロス集計の結果
ネットワークの設置状況による群分け:
問3において、市町村虐待防止ネットワークが設置されていない場合に、虐待事例への検討をめぐっての関係機関との検討会に教育委員会が参加しているかどうかの質問をしている。これは、第二群と第四群の比較ということになる。結果、第二群では「参加の経験がある」が55.8パーセントであるのに対して第四群では23.7パーセント、「参加の経験がない」では第二群が44.2パーセントであるに対して第四群が76.3パーセントであり、いずれも1パーセント水準の有意差が認められた。行動連携ネットワークが設置されていることで、教育委員会が関係機関との連携協議の場に参加する機会は確実に増加すると言うことができる。
教育委員会に対して行ったアンケートの中の自由記述においても、「校長会を通じてネットワークに参加」「現場の教員がネットワークに参加」といった回答のほか、「事務局として参加している」というより積極的な取組も報告されていた。
問4では、学校現場が虐待事例を通告するに当たっての教育委員会への報告形態について質問しているが、この点については群ごとの差は以下の通りである。
ネットワークの設置状況と虐待事例の報告形態との関連
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
学校現場から教育委員会への通告報告については、ネットワークの状況との関連が明確ではない。虐待防止ネットワークがある市町村(第一群と第三群)では、報告が明確に指導されている傾向が高いことは窺われるが、報告が校長判断であるとする市町村教育委員会においては、必ずしも通告が教育委員会に報告される傾向とネットワークの種別とには明確な関連性がないようである。
自由記述においても、すでに虐待防止ネットワークを設置している市町村では、学校現場からまず福祉機関やネットワーク事務局に通告がなされ、その機関から市町村教育委員会に報告されるという経路をとっているという記載も見られている通り、虐待防止に軸足を置いたネットワークが実質的に運営され始めれば、学校から教育委員会という教育行政上の構造よりも、ネットワークの事務局に情報が集約される形態に進むものと考えられる。
問5では、虐待防止ネットワークが設置されていない市町村に限って、どのような関係機関との連携強化を図っているかについて質問している。第二群と第四群の比較ということになる。連携強化の努力を「している」と回答したのは第二群で86.4パーセント、第四群で64.5パーセント、「していない」と回答したのは第二群で13.6パーセント、第四群で35.5パーセントであり、いずれも1パーセント水準の有意差が認められた。第二群は行動連携ネットワークを設置している市町村であり、これは当然の結果と言えるだろう。
問5と並んで問6においても、関係機関との連携強化についての教育行政の取組について自由記述を求めているが、この内容に関しては後の章で考察を加える。以下のようにまとめることができる。
問7では、虐待防止法の改正に伴う周知作業や実態の変化について質問しているが、結果は以下の通りである。
法の趣旨等について管下の学校への周知とネットワーク状況との関連
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
法の趣旨等について管下の学校の教職員への周知とネットワーク状況との関連
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
学校への周知、教職員への周知のいずれについても、ネットワークが設置されていない市町村(第四群)の取組がやや鈍いことが窺える。
法の改正による虐待防止に関する取組の変化とネットワーク状況との関連
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
虐待防止ネットワークが設置されている市町村(第一群と第三群)では、法改正によって「現場からの通告事例数の増加」「学校現場からの相談の増加」「研修機会の増加」などの面で変化を感じている。しかし、類似の傾向は行動連携ネットワークのみが設置されている市町村(第二群)でも、まったくネットワークをもたない市町村に対しては見いだされている。
問8では、地域・家庭向けの広報活動についての質問であるが、虐待防止ネットワークを設置している市町村(第一群と第三群)では、「平成15年度以前から継続して実施」「平成15年度以前には実施したが平成16年度には未実施」の回答が有意に高い。特に「平成15年度以前から継続して実施」については、他のどの群に対しても1パーセント水準の有意差を示しており、取組が非常に早かったことを示している。対して、行動連携ネットワークのみが設置されている市町村では、虐待防止ネットワークが設置されている市町村(第一群と第三群)に比べて「未実施」の比率が有意に高い。行動連携ネットワークは、学校現場において家庭との連携がきわめて困難な事態に対処することを趣旨としており、虐待事例は当然そうした事例の一類型として含まれることになる。こうした趣旨のネットワークにおいては、地域や家庭への広報までは踏み込んでいないという実態も推測できる。
問9は虐待防止に関する啓発資料の作成や研修の実施についての質問である。
まず、教師向けの啓発資料については、地域・家庭への広報活動と同様の傾向が認められた。すなわち、虐待防止ネットワークが設置されている町村では「平成15年度以前に作成」「平成16年度に改正を踏まえて作成」「平成15年度以前のものを改訂」といった回答について、有意に高い比率を示している。これに対して、ネットワークをまったく設置していない市町村では、虐待防止ネットワークを設置している群に比べて「作成していない」という回答比率が有意に高かった。作成にあたった機関については目立った違いは見られないものの、行動連携と虐待防止の両ネットワークが設置されている市町村では虐待防止ネットワークのみの市町村に比べて検討委員会を設置している比率が高く、検討委員会に教育委員会が参加したかどうかについては明言できないものの、関係機関の連携による作業が進んでいる可能性が示唆されている。また、行動連携ネットワークのみが設置されている市町村では、虐待防止ネットワークのみが設置されている市町村に比べて外部機関に作成を委託している比率が有意に高い。
作成された資料等の周知については群ごとの差が見られない。
教職員研修の実施については以下の通りである。
児童虐待に関わる教職員研修の実施有無とネットワーク状況との関連
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ここに示されているのは、行動連携であれ虐待防止であれ、ネットワークが設置されている場合にはなんらかの研修が実施される機会があること、両ネットワークがそろっている場合にはその傾向が顕著になることである。研修の実施機関、回数については目立った差は認められない。ただし、対象者についてはなんらかのネットワークを設置している群で、第四群に比べて「生徒指導主事」を対象とする比率が有意に高かった。これまでにも述べた通り、学校現場が関係機関との連携を図る上での窓口として生徒指導機能はきわめて重要であり、ネットワークが運営されているとこうした実態に即した研修が企画されることになるものと考えられる。
教師用の相談窓口については、なんらかの形でネットワークを設置している市町村では、第四群に比べて「設置している」の比率が有意に高かった。相談内容については目立った違いは見られない。
市町村規模による群分け:
これまでに見てきた通り、なんらかのネットワークが設置されることで、教育行政としても確実に機関連携への取組は強化され、研修の機会も増え、研修内容が実態に即したものになっていく傾向が確認された。では、こうしたネットワークの設置に市町村の規模は関連しているのかどうかということを見たのが下記の表である。
| ネットワーク設置状況 | 児童数による市町村規模 | 比率1 | 比率2 | 比率差 | 統計量 | P値 | 有意差判定 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 第一群 | 1,000人以下 | 1,001人以上5,000人以下 | 1.2パーセント | 6.7パーセント | 5.5パーセント | 6.0152 | 0.0000 | [**] |
| 1,000人以下 | 5,001人以上 | 1.2パーセント | 21パーセント | 19.8パーセント | 12.6708 | 0.0000 | [**] | |
| 1,001人以上5,000人以下 | 5,001人以上 | 6.7パーセント | 21パーセント | 14.3パーセント | 6.3402 | 0.0000 | [**] | |
| 第二群 | 1,000人以下 | 1,001人以上5,000人以下 | 0.5パーセント | 4.7パーセント | 4.2パーセント | 5.7268 | 0.0000 | [**] |
| 1,000人以下 | 5,001人以上 | 0.5パーセント | 3.3パーセント | 2.8パーセント | 3.9040 | 0.0001 | [**] | |
| 1,001人以上5,000人以下 | 5,001人以上 | 4.7パーセント | 3.3パーセント | 1.4パーセント | 0.9699 | 0.3321 | [ ] | |
| 第三群 | 1,000人以下 | 1,001人以上5,000人以下 | 27.1パーセント | 44.7パーセント | 17.6パーセント | 7.3459 | 0.0000 | [**] |
| 1,000人以下 | 5,001人以上 | 27.1パーセント | 57.9パーセント | 30.8パーセント | 9.4921 | 0.0000 | [**] | |
| 1,001人以上5,000人以下 | 5,001人以上 | 44.7パーセント | 57.9パーセント | 13.2パーセント | 3.6596 | 0.0003 | [**] | |
| 第四群 | 1,000人以下 | 1,001人以上5,000人以下 | 71.1パーセント | 43.8パーセント | 27.3パーセント | 11.0676 | 0.0000 | [**] |
| 1,000人以下 | 5,001人以上 | 71.1パーセント | 17.7パーセント | 53.4パーセント | 15.8709 | 0.0000 | [**] | |
| 1,001人以上5,000人以下 | 5,001人以上 | 43.8パーセント | 17.7パーセント | 26.1パーセント | 7.5142 | 0.0000 | [**] | |
関連性は一目瞭然であり、市町村の規模が大きくなるほどにネットワークの設置は進んでいる。また、行動連携ネットワークについては、虐待防止ネットワークよりも小規模の市町村でもモデル事業を受けているものと思われる。
厚生労働省による市町村虐待防止ネットワークの実態調査では、ネットワークを設置していない市町村の理由として「人材の不足」を挙げるところが多く、規模の小さい市町村ではこうした事情が重大な影響を及ぼすことも考えられる。一方、自由記述からは、規模の小さい市町村で「該当するケースがない」といった趣旨の回答も多く見られていて、そもそもネットワーク設置に対する深刻度が低いことも予想できる。
しかしながら、ネットワークの設置が、学校現場にも教育行政にも関係機関との連携の意識づけにつながることはこれまでの検討でも明らかであり、学校教育の実をあげる意味でもネットワークの重要性は高いと思われる。だとすれば、教育行政が事務局を担う行動連携ネットワークについては、あまねく設置されていく方向が望ましいと考えられる。
教育委員会調査のまとめ:
以上述べてきた内容を概観する。
ア 教育委員会が虐待防止に関して実効的な機能を発揮する上では、機関間のネットワークの存在が欠かせない。ネットワークの一員として位置づけられることで実質的な役割分担と責任分担が明確になると思われる。この点は、虐待防止ネットワークの設置の有無による教育委員会の検討会参加頻度の違いによっても明らかである。
イ 児童虐待防止法の改正によって、虐待対応の1次機能が市町村に降りたことで、教育行政における報告等の仕組み作りは進展している。しかし、一方で関係機関の連携努力は都道府県レベルでの方が進んでいる実態もある。ここから導かれるのは、実際的な現場支援を担う市町村教育委員会と、適切なスーパービジョンを提供できる都道府県・政令市教育委員会との役割分担の発想の必要性である。
ウ ネットワークは、必ずしも虐待防止ネットワークに限らない。文部科学省事業である行動連携ネットワークは、教育行政主導であるという点で学校現場にとっては敷居の低いネットワーク機能になりうる。クロス集計から見いだされるのは、必要なことは、必ずしも虐待防止に特化したネットワークに参加することではなく、学校現場を教育委員会が主導しながらネットワークの一員として位置づけることにあるということである。
| 前のページへ | 次のページへ |
Copyright (C) Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology