『生徒指導メールマガジン』 第3号

(平成16年12月24日)
文部科学省初等中等教育局児童生徒課

目次

  1. 巻頭言:「生徒指導における学校の体制について」(生徒指導調査官 森嶋昭伸)
  2. 広島県教育委員会:「生徒指導に関する広島県の取組みについて」
  3. 北九州市教育委員会:「生徒指導に関する北九州市の取組みの一端について」
  4. 施策紹介:
    • 「平成15年度生徒指導上の諸問題の現状について(12月公表分)」
    • 「教育相談体制の充実について」
  5. 各地域又は学校の優れた取組みの紹介
    • 『出席停止制度の適切な運用について』(神奈川県藤沢市立第一中学校)
  6. 主要行事の予定又は連絡事項等
  7. 施策に関する各地域からの提言又はQ&A

1 巻頭言:「生徒指導における学校の体制について」(生徒指導調査官 森嶋昭伸)

(1)はじめにー生徒指導体制とは

  生徒指導の問題は実に多様である。日常的には、朝の遅刻や授業中の態度、クラスの係や委員としての役割の遂行、服装や携行品など校則に関わる問題、学級(ホームルーム)内の人間関係など様々である。また、不登校、いじめや暴力行為、喫煙・飲酒等のより深刻な状況もある。さらに、児童生徒の安全や命を脅かす事件、逆に非行や犯罪行為等をおかす危険も視野に入れなければならない。まさに、生徒指導上の問題について、様々な内容といろいろなレベルを想定することが必要になっている。
  ところで、こうした生徒指導上の問題が起こるとき、まず問われるのは学校の生徒指導体制である。もちろん、生徒指導体制がしっかりしていても問題が発生する場合はあるが、生徒指導体制のどこかに欠陥があれば、問題状況の発生や拡大の危険は増していく。
 生徒指導体制というのは、生徒指導部など校務分掌の組織、学校全体の協力体制、組織内のリーダーシップやマネジメントの状況、メンバーの役割分担とモラール(道義心や意欲)、保護者やPTAとの関係性、さらには関係機関等との連携など、各学校の生徒指導の全体的な仕組みや機能を表す概念である。そのあり様は、小・中・高校などの学校段階、学校の規模や地域の状況等によって違いはあるが、どこでも一定の生徒指導体制がある。生徒指導の充実のためには、生徒指導体制について不断に点検し、もしも何らかの欠陥や課題を発見したらすぐに補修し、対応していくことである。そのためには、次のように生徒指導体制をいくつかの部分に分けて考えることが有効である。

  • A 生徒指導部など学校内の中心的な組織の状況
  • B 全教職員の協力を基盤とした学校全体の取組状況
  • C 家庭や地域、関係機関等を含んだ地域の健全育成の取組状況

  上記の視点は、生徒指導体制を考える切り口として示したものだが、もちろん各事項はそれぞれ重なり合い、相互に補完し還流しあっている。

(2)生徒指導部など学校内の中心的な組織の状況

  まず、生徒指導にかかわる校務分掌を考えてみよう。校務分掌の名称としては、生徒指導部が一般的であるが、その中には教育相談の分掌や学級(ホームルーム)担任などを含めて組織するケースもあれば、独立した部・委員会等を設けて連携するケースもある。
  こうした中核となる組織の存在は、学校段階や学校規模により異なる面もある。しかし、生徒指導部などの校務分掌が生徒指導の企画や立案等に当たり、生徒指導推進の中心的な役割を担うことは共通である。そこでは、生徒指導部等の役割分担、モラール、人間関係がまず重要である。生徒指導部が中核的な組織として職責を果たすためには、自校の児童生徒にどのような力を育んでいけばよいかを明確にし、他の校務分掌とも連携を密にし、生徒指導の推進に当たることが必要である。その際、特に学級(ホームルーム)担任や学年主任は、生徒指導部に属する教職員と連携を密にしていくことが重要である。
  生徒指導部は、生徒指導全体のコントロールタワー、シンクタンクという役割を担っているのである。こうした組織においては、どこでもそうだが生徒指導主事の力量と責任感、そしてメンバーの情熱と意欲が活性化の重要なカギとなる。

(3)全教職員の協力を基盤とした学校全体の取組状況

  生徒指導では、生徒指導部に属する教職員や学級(ホームルーム)担任の果たす役割は重要だが、それを支える学校全体の教職員の姿勢と協働も不可欠である。学校の指導・協力体制が確立されているとき、生徒指導が有効に機能することは常に指摘されてきた。
  例えば、学校にいじめの情報が寄せられたとき、すぐに全校生徒へのアンケート調査と人権尊重の教育の徹底、保護者へのアンケート調査と協力要請、そして学級や生徒会での話し合いを進め、問題を解決した中学校がある。また、非常ベルを鳴らす悪戯に対して、全校で緊急の職員会議をもち教職員の意思統一を図り、以後、そうした悪戯に対してすぐに全校放送を行い、各ホームルーム担任や授業担当の教師から人間としての社会的責任について全校生徒に問いかけて克服した高校の事例もある。学級が機能しない状況に陥った小学校のケースでも、学校・学年全体の協力体制で解決した事例が報告されている。
  こうした全校的な取組は、指導という面だけでなく、相談という面でも必要である。ある学校では、休み時間や放課後などに教職員ができるだけ学校内を歩き、児童生徒との日常の触れ合いを深めるとともに、学校として相談週間を設け、児童生徒や保護者がどの教職員にも自由に相談できる機会をもっている学校もある。また、スクールカウンセラーや子どもと親の相談員等の多くの力を結集して学校の総合的な教育力を高め、懐の深い豊かな生徒指導の実現に努力している学校も多い。こうした「開かれた生徒指導」の推進に当たっては、特に、管理職のリーダーとして資質・力量と教育的情熱が大切である。

(4)家庭や地域、関係機関等を含んだ地域の健全育成の取組状況

  ところで、現在の児童生徒の問題行動等は、そうした学校の指導体制や相談体制だけでは十分に対応できない問題もはらんでいる。児童生徒が内面に深刻な問題を抱えている場合、問題行動が突如でてくる場合もある。さらに、教育的指導のレベルをこえた犯罪的行為、医療の専門的知識などが要求される問題、児童虐待など家庭の養育環境から生じる問題行動など、学校の教育力だけでは対処しきれない問題も増加している。
  そうした中で、問題行動等(前兆も含む)や少年非行の対応に当たっては、学校、家庭、地域、関係機関等がネットワークを形成し、共に社会の一員として子ども育ていくという意識を持ち、連携協力を深めていくことが必要である。学校だけ、家庭だけ、教育機関だけという個別の発想でなく、共に社会の一員として子ども育ていくという意識改革をすすめ、協働していくことが大切である。まさに、「協働」と「共育」という視点から生徒指導体制を構築していくことが今日求められていると言えよう。

(5)生徒指導体制の充実・改善に向けて

  さて最後に、自校の生徒指導体制がどんな状況なのか振り返ってほしいと思う。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という諺がある。とても素晴らしい教育実践をしていた学校が荒れたケースがある。逆に、立ち直ったケースもある。学校は、児童生徒も保護者も教職員も変わっていく、そして時代や社会も変化していく。その中で、生徒指導の状況や課題を把握するうえで、学校の自己点検・自己評価や外部評価のもつ意味は大きい。
  昨年9月に児童生徒課から発出した『児童生徒の問題行動等への対応の在り方に関する点検について(報告のまとめ)』に記載されている「点検の項目例」は、その参考になるだろう。紙数の関係もあるので、項目だけ下に載せておくが、再度読んでほしい。

<参考>:

1.学校における管理・指導体制の在り方

  1.管理職のリーダーシップ 2.児童生徒に関する情報の共有化 3.指導方針に関する教職員間の共通理解と組織的な指導体制 4.豊かな人間関係づくりと教育相談の充実 5.緊急時に備えた校内体制の整備 6.児童生徒に関する情報の引き継ぎ

2.家庭・地域・関係機関との連携の在り方

  1.連携方針の確立と共通理解 2.保護者・地域住民との情報交換 3.保護者への啓発、援助等 4.地域住民等の意見の反映 5.関係機関との開かれた連携

3.基本的な道徳観・倫理観等の指導の在り方

  1.体験活動の活用など多様な指導方法による道徳教育の実践 2.特別活動等における創意工夫 3.規範意識の向上に向けた関係機関との連携による取組

  これをもとに、生徒指導体制のチェックリストを作成したり、教職員による生徒指導の自己点検・自己評価表をつくったり、さらに保護者や学校評議員等による外部評価を行うなど、いろいろな活用法が工夫される。そうしたアクションも、生徒指導の大切さと課題意識を根づかせる重要な取組と確信する。

2 広島県教育委員会:「生徒指導に関する広島県の取組みについて」

(1)はじめに

  広島県教育委員会は,平成10年5月に,当時の文部省から教育内容や学校運営に関して,法令等に照らして逸脱,あるいはそのおそれがあるなど不適切な実態があるとして,是正指導を受けた。以後,法令を遵守することを通して教育の中立性を確保するとともに,学習指導要領等に則った教育の実施と学校運営における校長権限の確立や主任制の機能化に向けた取組を進めてきた。「新たな『教育県ひろしま』の創造」に向けて,「知・徳・体の基礎基本の徹底」,「学校経営改革」,「教職員の資質・指導力の向上」を重点として教育改革に取り組み,県民の信頼にこたえる教育を目指して特色ある教育を進めている。
  本稿では,その中でも生徒指導の観点からその取組みの経過と現在の状況を辿ってみたい。

(2)広島県における生徒指導上の課題について

  近年の本県における暴力行為,いじめ,不登校及び中途退学等生徒指導上の諸問題については,関係者の努力により,概ね改善の傾向にあるが,なお全国平均より高いという課題がある。

(3)広島県における生徒指導の哲学

  かつて,広島県においては,児童生徒が問題行動を起こした場合に,児童生徒の責任より,問題行動の背景にある社会やおとなの責任を重視するということがあり,そのために児童生徒の行動の問題を厳しく指導することを教職員自身が躊躇してしまうという風潮があった。そのことも一因となり,児童生徒の問題行動をひとつの指導の機会として,善悪の判断をする力や,他人を思いやる心と態度を育てるという本来の取組みが結果的に不十分になっていたのではないかという指摘や反省があった。
  この反省を踏まえて,問題行動を未然に防止する積極的生徒指導と問題行動について直接指導を行う生徒指導のいずれについても各学校で充実した指導が出来るようさまざまな取組みを進めている。本県の生徒指導については「心を育てる生徒指導」を目指しているが,そのためには各教員が教育の原点に立ち返り「厳しくとも暖かみのある指導」を身につけていく必要があると考えている。そして,学校が組織的に生徒指導に取り組むことが重要であると考えている。
  また,基本的な生活習慣をしっかり身につけさせる指導を大切にしている。例えば,3食きちんと食べること,友だちと外で遊ぶこと,いろいろな本を読むことの3つの視点を通して教育の原点は家庭にあることを再認識してもらっている。学校では,挨拶,服装,遅刻の防止などまさに当たり前のことを当たり前にできるよう指導を徹底している。このように人間が生きていく上での基礎的な部分をきちんと身につけさせることが全ての「学び」に繋がる基本となっていることを意識している。

(4)生徒指導に関する広島県の施策

(ア)生徒指導資料の作成

  平成10年度,組織的な生徒指導及び指導力の向上のため,1.生徒指導に関する危機管理マニュアル,2.問題行動に関する防止学習プログラム,3.生徒指導ハンドブック,の3つの指導資料を作成した。この3つの指導資料は,平成13年3月に内容の一部改訂を加え,「生徒指導のてびき」として一冊にまとめ,中・高等学校の全教員に一部ずつ,小学校等に一定部数配布した。
  また,その時々の問題となっている事柄について,実態や対応の考え方,留意点などを整理し,具体的な指導の方法などを示した生徒指導資料を年1回程度作成して配布している。平成16年12月現在でナンバー26まで発行している。この資料は県教育委員会のホームページ(※ 県教育委員会ウェブサイトへリンク)(※ 別ウィンドウで開きます。)に載せているので,参考にして頂きたい。
  さらに,各学校において生徒指導の観点から授業を充実させるための「生徒指導の機能を生かした指導案集」,めざすべき生徒像や目標を明確に生徒に意識させるための「特色ある生徒指導を進めるための資料集~キャッチフレーズ・標語など」を作成し各学校に配布した。

(イ)警察との連携

  平成10年度以前,広島県の公立学校では,生徒の問題行動や非行の問題で警察と連携することを忌避する雰囲気があった。また,平成11年には,11月に行われる広島市のえびす神社大祭において暴走族と警官隊が衝突し,騒乱状態となるなど全国的にも少年非行の問題が社会問題となっていた。それまで,学校は学校で,警察は警察でそれぞれの業務として対応していたが,生徒のよりよき人格の形成のためには,学校や警察などの連携が不可欠であることに気づかされていった。このことが,平成11年4月から実施している県教育委員会と県警本部との人事交流につながり,平成13年1月1日から全国初の試みとして実施した少年非行に係る学校と警察の連絡制度へと発展していった。これらの取組みが,各学校の暴力行為の減少や少年非行の減少に繋がっていったと考えている。

(ウ)指定校方式による課題解決

  さらに,広島県教育委員会では,全県的に問題となっている中学校の暴力行為,高等学校の中途退学の集中的な解決を図るため,平成14年度から公立中学校25校,県立高等学校5校を「生徒指導重点校」として校名を公表して指定した。
  この生徒指導重点校は,中学校の暴力行為,高等学校の中途退学の解決を目指し,それぞれ1年間で半減させるという数値目標を掲げて取り組んだ。
  この方式では,校名や数値目標を公表することで,教職員の意識が統一され組織的に取り組むことができたと考えている。取組みの結果,平成14年度の中学校重点校25校の暴力行為の発生件数は,対前年度59%減,高等学校5校の中途退学者数は,39%減とほぼ目標を達成している。
  その後,生徒指導重点校は平成16年度も中学校15校,高等学校4校を指定している。この間,平成15年度の数値を生徒指導重点校を指定する前年度の平成13年度と比較すると,広島県における公立中学校の暴力行為発生件数は,35.5%減,公立高等学校全日制の中途退学者数は,25.9%減となるなど顕著な成果をあげることができた。
  平成16年度からは,「不登校対策実践指定校」として中学校区を単位として小学校,中学校各1校を組にして20組,計40校を指定して,不登校への対応に取り組んでいる。

(エ)小学校の生徒指導の充実

  生徒指導上の諸問題について統計を詳細に見てみると,小学校から中学校に進学することで数値が飛躍的に増加していることがわかる。この現象の一つの要因は,小学校で潜在的にあった問題が中学校で顕在化しているのではないかと考えている。このため,小中学校の連結を強化することに加えて,小学校の生徒指導体制を充実させることが必要と考えている。そこで,今年度から生徒指導関係の指定校及び児童生徒支援加配を行っている小学校に生徒指導部等を組織し,生徒指導主事を置くよう指導している。このことによって小学校の生徒指導を充実させるための基点を作ることができたと考えている。

(オ)道徳教育等を活かした課題解決

  広島県教育委員会では,平成14年度に組織改革を行い,道徳教育係,生徒指導係,人権教育係からなる指導第三課を設置した。今年度から健康教育係が加わった。このことから分かるように指導第三課は,心と健康・安全の面から取り組むという特徴を持っている。
  その中でも,道徳教育研究実践研究指定校の取組みを,全県に広める取組みがある。この取組みは,平成14・15年度の指定校小中30校が取り組んだ事例を「生徒指導充実のための道徳教育実践事例集」として冊子にまとめ県内小中高等学校に配布している。
  また,月に1回指定校の担当者が集まり情報交換や実践事例の交換を行う協議会の開催や指定校がリーダーとなり周辺校を巻き込んで道徳の充実を目指すなど指定校間等のネットワークを活用して特色ある取組みを進めてきた。
  その結果,基礎学力の向上がみられるとともに,平成14・15年度継続して指定した中学校7校では暴力行為の発生件数が前年度比40%減少し,小学校8校では不登校が前年度比45%減少するなどの顕著な成果が出ている。さらには,多くの児童生徒が「道徳の時間」を「楽しい」「ためになる」と受けとめるようになった。これらの指定事業の成果を全県に波及させ,道徳教育振興の新たな契機とするため平成16年8月には,「心の元気!」1000人フォーラムを開催した。これらの取組みや資料も県教育委員会のホームページ(※ 県教育委員会ウェブサイトへリンク)(※ 別ウィンドウで開きます。)に載せているので,参考にして頂きたい。

(5)おわりに

  広島県教育委員会としては,これまで述べてきたような取組みの他に,学習や生活の基盤である「ことばの力」を確実に身に付けコミュニケーション能力等を育成する「ことばの教育」の推進,「食べる!遊ぶ!読む!」キャンペーンによる家庭への啓発,知事部局・県警本部との連携による万引き防止を重点とした少年犯罪防止緊急対策などさまざま取組みを実施してきている。今後さらに「キャリア教育」の推進も視点に加えることが必要であると考えている。
  一方で,体罰に見られるような教員の指導力や依然として見られる抱え込みなどの指導のあり方の問題,学校と地域の関係機関等との連携ネットワークによる問題解決の在り方など取り組まなければならない課題は多いと考えている。これらは,一人ひとりの教員あるいは学校組織としての指導力の向上に繋がる取組みをどう具体化するか,学校と教育委員会の連携をどう図るかという課題でもあると考えている。

3 北九州市教育委員会:「生徒指導に関する北九州市の取組みの一端について」

  北九州市教育委員会では、現在、1.家庭や地域と一緒に取組む北九州市の子育てルール、「子どもを育てる10か条」の制定、2.市教育委員会を挙げて教育改革に取り組むための「北九州市教育改革プラン」の実施、3.北九州市の将来の教育の在り方を検討している「教育の北九州方式検討会議」の協議など、様々な教育改革に向けた取組みを実施している。(参照(※ 北九州市ウェブサイトへリンク)(※ 別ウィンドウで開きます。)
  ただ、今回は、そのうちの生徒指導に関することについて、その取組みの一端を以下の通り紹介したいと思う。

(1)体験を重視した不登校療育キャンプの取組

ワラビーキャンプ 《夏休みに5泊6日の不登校療育キャンプ》

  本市不登校施策の1つ。ワラビーの名の由来は、不登校の子どもたちを動物のワラビーに喩え、はやく袋から出てきて『自立して歩こうよ』という願いをこめて名付けられた。毎年、夏休みに5泊6日という長期間に渡る不登校療育キャンプを、平成元年から、すでに16年も行っている例は全国的に見ても、非常に稀である。また、ワラビーキャンプに参加した児童生徒の学校への復帰好転率は、これまで実に70%を越えており、長年の経験から考案されたプログラムは熟成されたものとなっている。

  • キャンプの最後の活動として、作文を8時間もかかって書き、何度も何度も書き換えるたびにできる消しゴムのかすを、「自分が頑張った証だから」といってティッシュに包んでもって帰り、学校に復帰した子ども。
    大きな変化をいくつも生んだ感動的なワラビーキャンプだが、これを紙上で論証するのは大変むずかしい。そこで、キャンプのポイントを簡易ではあるが紹介する。

  《その1》指導員は全員が小・中学校の教員であり、教育委員会が委任している。ただし、参加した子どもには「先生」であることを明かさない。従って、キャンプ中は、お互い「誰々のおじちゃん・誰々のおばちゃん」で通している。
  《その2》野営テントを含め24時間を指導員と寝食を共に過ごす。テントの中で子どもは「おいちゃん、仕事もせんで、こんなところでぶらぶらしとっていいと」「おいちゃん、実はね、ぼく学校行ってないんよ」と次第に自分をさらけ出す。テントというせまい空間は、時間が経つにつれて、とても大きな意味をもっている。
  《その3》最終日を除いて、グループごとに協力して、飯盒炊飯を行う。最初は指導員の協力なしではできなかった食事づくりも、日を追うごとに自分たちで出来るように導いている。最終日は、指導員への感謝をこめて自分たちだけで食事をつくる。
  《その4》初日の夜から、テントの中では「帰るコール」を連発し泣き叫ぶ子どもたちと根気強く向き合う指導員の姿が見られ、ワラビーならではの夜の光景となっている。指導員は夜のミーティングで綿密な打ち合せを行い、指導員同士連携をとり合い、時には、先輩指導員が後輩に代わり、粘り強く説得したり、誰かが叱り役をしたりしていく。そして、5泊6日を過ごした後の子どもの成就感、充実感に満ちた顔を知っている指導員たちは、決して安易に帰すようなことをしない。また、指導員同士も、子どもたちとのかかわりを通じて「自分が失敗したら誰かがフォローしてくれる」そんな信頼関係をより深めながら指導にあたっている。
  《その5》遊びを中心とした活動を通して、子どもたちは友だち同志の人間関係をより親密に築いていく。無論、けんかが起こることもある。しかし、5泊6日であればこそ、仲直りの後の良好な人間関係の世界があることも初めて体験するのである。
  以上、紙面の都合で大変簡潔な説明ではあるが、今、教育活動の中で体験活動に取組むことが重要視されている折、このワラビーキャンプが、有効な不登校対策事業として、参考にしていただければ幸いである。いづれにしても、このワラビーキャンプを通して、見えてきた不登校児童生徒とのかかわりにおいて大切なことは、

  • 受容‐あるがままの子どもの姿を受け入れていくこと
  • 共感‐子どもの思いに寄り添うこと
  • 支援‐子どもが困った時に適切な声かけをすること

  である。結論としては、プログラムを生かして指導する人イコール指導員がどうかかわるかが最も重要だと認識している。

(2)地域ぐるみによる学校の安全確保の取組

スクールヘルパー制度

  スクールヘルパー制度は、平成13年11月より、北九州市立の小学校における安全確保の取組として始められた。主に校内巡視を行い、来校者への声かけや校内での不審者の確認及び不審者等を発見した場合の通報を行うなどの活動を主な目的とする。しかし、子どもたちとのふれあいを重視するという観点から、子どもたちの相談に応じたり(相談ヘルパー)、「北九州 放課後教室」(希望参加による放課後の質問教室)の指導の補助をしたり(放課後ヘルパー)することも、活動の範囲として広められてきた。以下に、その概要を紹介する。

  《活動体制》1日に一校あたり2名を配置し、原則は半日単位での活動。ただし、本人の同意があれば、一日でも可としている。時間は、午前8時30分から12時、午後12時から15時30分とし、帽子、腕章、名札、笛の4点セットを着用して活動する。
  《手続きと謝金》希望者した方には、教育委員会からの登録票と委任状を小学校へ渡す。教育委員会は傷害保険への加入手続きを行い、謝礼は半日500円、1日1,000円とし、活動月の実績を集計して翌月下旬に学校から手渡す。
  《活動状況》平成14年度の実績では、地域のPTAや老人会、自治会などの協力により、スクールヘルパーの登録者数は、市内全域で3,500名を越え、一校あたりの平均は25名を越えている。具体的な活動内容については各学校によって違いがあるが、基本的な取組のモデルとして、A小学校の事例を紹介する。

  ※ 登録人数は、26名「地域の方6名、現PTA会員13名、PTAのOB7名」で、ほぼ毎日午前2名、午後2名が担当し、不審者の発見及び不審者に遭遇した場合の職員室への通報、子どもたちへの積極的な声かけ、あいさつの励行や清掃活動への参加、子どもたちのトラブル発見時の職員への連絡とその場での適切な指導等を行っている。

  《活動の成果》児童も教職員も、今ではスクールヘルパーの姿を見かければ安心できる存在となっている。学校内に保護者や校区の年長者が入ることで、学校での子どもたちや学校の様子を見ていただくことができ、閉鎖的といわれる学校を開く意味からも効果がある。スクールヘルパーの中には、進んでごみを拾って頂いたり、危険箇所を報告して頂いたりと、違う面からも学校を援助して頂いている。
  これらの活動が、当初の目的である不審者侵入の抑止力となって、学校での児童の安全確保に効果をあげていることは当然であるが、地域と学校の交流が進み、学校が休みの土、日曜日でも地域全体で子どもを見守る体制ができつつあるという成果も認められた。また。B小学校においては、いつも学校を巡回していただいているスクールヘルパーの方々を、卒業前のお別れ集会に招き、児童手づくりの感謝状を手渡したという心温まる新聞報道もあった。このような取組は、学校に通う子どもたちと地域の方との真の交流を深めていく一助にもなるものである。

4 施策紹介:

「平成15年度生徒指導上の諸問題の現状について(12月公表分)」

  例年実施している調査「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題の現状に関する調査」の平成15年度分については,本年8月に暴力行為,いじめ,不登校(速報値),中退の数値を公表しております。この度,出席停止,自殺,教育相談,体罰に関する数値の公表を行いましたので紹介します。 また,今回の公表においては,不登校の確定値及び暴力行為の一部(加害児童,生徒に対する措置状況)も併せて公表しておりますので御覧ください。
  なお,本調査の実施にあたっては,多大な御協力をいただき,ありがとうございました。

(1)出席停止

  公立の小・中学校において出席停止の措置がとられた件数は25件〔前年度37件〕であり,全て中学校における措置となっています。学年別にみると中学校3年生が最も多く,全体の48%を占めており,また,男女別では男子が100%となっています。出席停止の期間は,7~13日の区分が最も多く,全体の52%を占めています。出席停止期間中の主たる監護の場所は,25件中,本人の家庭が24件,児童相談所が1件となっています。出席停止にした理由としては,暴力行為(対教師暴力,生徒間暴力,対人暴力,器物損壊)を主たる理由とするものが22件となっており,全体の88%を占めています。
  出席停止制度については,平成13年7月に学校教育法が改正され(平成14年1月施行),1.要件の明確化,2.手続規定の整備,3.出席停止期間中の児童生徒への学習支援等の措置を講ずることを内容とする改善が図られたことは十分御承知のことと思います。運用上の主な留意点は,平成13年11月6日付け初等中等教育局長通知「出席停止制度の運用の在り方について」において示されており,本年9月に開催した平成16年度都道府県・指定都市生徒指導担当課長補佐(主幹)連絡会議においても資料を配布しているところです。
  出席停止制度は,学校の秩序を維持し,他の児童生徒の学校教育を受ける権利を保障するという観点から設けられた制度です。学校は児童生徒が安心して学ぶことができる場でなければならず,その生命及び心身の安全を確保することは学校及び教育委員会の基本的な責務です。もちろん,出席停止措置を講じる講じないにかかわらず,児童生徒の問題行動への対応にあたっては,日ごろからの生徒指導の充実が重要であり,その上で,問題行動の兆候を見逃さず,問題行動の発生に際し教職員が共通理解の下に毅然とした態度で指導に当たること,その際は,家庭,地域,関係機関等との連携を密にすることが必要となります。
  また,平成13年の学校教育法改正により,出席停止の期間における学習に対する支援その他の教育上必要な措置を講ずべきことが定められたことを踏まえ,市町村教育委員会は出席停止期間中の支援の充実に努める必要があり,都道府県教育委員会は,市町村教育委員会等に対し必要な指導,助言,援助を行うことが求められています。
  今後,文部科学省としても,出席停止措置事例の紹介等,必要な情報提供等を行っていきたいと考えており,各地域におかれても,引き続き出席停止制度の適切な運用について御指導等をお願いいたします。

(2)自殺

  公立の小・中・高等学校の児童生徒の自殺者は137人〔前年度123人〕となっています。原因別では,「家庭事情」が12.4%,「精神障害」が8.8%,「厭世」が5.1%などとなっています。子どもたちが自ら生命を絶つということは,理由の如何を問わず決してあってはならないことであり,生命を大切にする態度を身につけさせる指導の充実を図るとともに,悩みを持った子どもたちがいつでも気軽に相談できるような体制を整備していくことが重要です。また,当該学校及び教育委員会においては,児童生徒の自殺という事実の重さを認識し,状況の把握や自殺の理由の特定に努力していく姿勢も求められます。

(3)教育相談

  都道府県・政令指定都市の教育委員会が所管する教育相談機関は227カ所〔前年度235カ所〕であり,相談員として1,798人〔前年度1,808人〕が配置されています。総相談件数は,192,097件〔前年度180,889件〕であり,うち69.4%は電話相談が占めています。また,小・中・高校生に関する相談のうち,不登校に関する相談件数が37.6%,いじめに関する相談件数が4.6%を占めています。
  市町村(政令指定都市を除く)の教育委員会が所管する教育相談機関の数は1,973カ所〔前年度1,968カ所〕であり,相談員として5,552人〔前年度5,214人〕が配置されています。これらの機関における総教育相談件数は,713,203件〔前年度640,097件〕となっています。
  児童生徒の問題行動等が依然として憂慮すべき状況にあることを踏まえ,引き続き教育相談体制の充実を図っていくことが重要です。各地域におかれては,児童生徒の悩みや不安を受け止めて相談に当たり,適切に対応できるよう,文部科学省の事業等も活用しながら,教育相談体制の充実に努めていただけますようお願いいたします。

(4)体罰

  保護者や児童生徒から訴えや報告のあったものを含め,体罰ではないかとして公立の小・中・高等学校及び特殊教育諸学校で事実関係を調査した事件は938件〔前年度954件〕で,発生学校数は835校〔前年度829校〕となっています。
  調査した事件に関係した教員数は980人〔前年度962人〕,児童生徒数は1,516人〔前年度1,550人〕となっています。体罰に関する資料としては,「平成15年度教職員に係る懲戒処分等の状況について」が文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課から公表されており,その中に「体罰に係る懲戒処分等の状況」が含まれているので,併せて御覧下さい。
  体罰は、学校教育法第11条により厳に禁止されており,そのことは十分認識されていると思いますが,それでもなお,体罰に係り懲戒処分を受けた者の増加という結果が出ています。体罰による懲戒は,児童生徒の人権尊重という観点から許されるものではなく,児童生徒との信頼関係の上に立って指導を行うことが大切です。各地域におかれては,体罰の根絶について引き続き御指導等をお願いいたします。
  生徒指導上の諸問題の現状については,8月にも公表したとおり,不登校が2年連続で減少したとはいえ依然として相当数に上っていること,暴力行為やいじめが増加していること,児童生徒による重大事件が続いていることなどからも憂慮すべき状況にあると認識しています。8月に公表した数値と今回公表した出席停止,自殺,教育相談及び体罰に関する数値を併せて参考にしつつ,生徒指導に関する取組の一層の充実を図っていただけますようお願いいたします。

「学校における体験活動の推進について」

(1)体験活動の意義

  近年、都市化や少子化、地域社会における人間関係の希薄化等が進む中で、児童生徒の社会性や豊かな人間性を育むためには、成長段階に応じて、ボランティア活動など社会奉仕体験活動や自然体験活動をはじめ様々な体験活動を行うことが極めて有意義です。平成13年の学校教育法の改正や、平成14年度に出された中央教育審議会答申「青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等について」においても、学校教育における体験活動の充実が盛り込まれています。
  また、学習指導要領においては、豊かな人間性や自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を育成する観点から、「総合的な学習の時間」等をはじめ教育課程全体を通じて体験活動を積極的に取り入れることとしています。
  さらに、各学校においては、完全学校週5日制の実施により学校外における体験活動の機会が充実することを踏まえ、これらの活動との連携により、学校における体験活動の効果的な実施が図られるよう努めるとともに、児童生徒の学校外における体験活動の成果を学校における教育指導に生かされることとなるよう配慮することが求められています。

(2)体験活動の実施状況

  体験活動の実施状況については、平成16年1月に平成15年度における体験活動の実施状況調査(抽出調査)を行いました。結果、小学校においては、年間42単位時間、中学校においては31.2単位時間、高等学校においては32.6時間実施されており、平成14年度に引き続き、小・中学校において、体験活動を総合的な学習の時間等に積極的に位置付けて実施していることが明らかになりました。文部科学省としては、平成17年度までに全国の学校で7日間以上の体験活動を実施することを政策目標に掲げており、この目標の達成に向けて、以下に説明しております「豊かな体験活動推進事業」の実施等により、体験活動の推進を図っているところです。なお、本年も平成16年度の体験活動の実施状況について年明けに調査を行う予定ですので、ご協力をお願いいたします。

(3)豊かな体験活動推進事業

  文部科学省においては、学校教育における様々な体験活動を充実させるため、各都道府県に「体験活動推進地域・推進校」を指定し、他校のモデルとなるような体験活動に取り組むとともに、それらの先駆的な取組を、ブロック交流会の開催などを通じて普及し、すべての小・中・高等学校等において豊かな体験活動を展開することを目的として、平成14年度より「豊かな体験活動推進事業」を実施しています。平成16年度においては、全国で622校の推進校を指定し、ボランティアなど社会奉仕に関わる体験活動や、自然に関わる体験活動、職場・職業・就業に関わる体験活動など、多様な活動に取り組んでおります。
  また、平成15年度より97校の「地域間交流推進校」を指定し、都市部から農山漁村や自然が豊かな地域に出かけ、農林漁業体験や自然体験を行うなど、異なる環境における体験活動に取り組んでいます。地域間交流については、各都道府県ごとに、地域間交流を促進するためのプログラム開発を行っており、その一助とするため、16年3月に地域間交流の促進に関する研究会において中間報告を取りまとめ、各都道府県・指定都市の教育委員会に配布しました。この中で、地域間交流推進事業における取り組みの事例・成果・推進していくための考え方などをまとめており、各都道府県の地域の特色を生かしたプログラム開発に活用されることが望まれます。本年は3月を目途に最終報告を取りまとめる予定です。さらに、これらに加え、長期にわたる集団宿泊等の共同生活体験を行う、「長期宿泊体験推進校」を平成16年度より88校指定しています。これらの活動を普及させる場であるブロック交流会については、今年度は1月から2月にかけて各ブロックで行われます。詳細は各ブロックの担当都道府県にお問い合わせください。
  なお、平成17年度概算要求においては、上記の3事業に加え、命の大切さを学ばせる体験活動に関する調査研究を各都道府県に委託して実施していただくための経費を計上しているところです。また、地域間交流のプログラム開発に要する経費に代えて、作成したプログラムを普及・活用していくための経費を計上しております。政府予算案が示され次第、各都道府県にお示しすることとなりますので、積極的なご協力をお願いいたします。

(4)地方における特色ある取組

  地方においても、体験活動を推進するために、各地域の特色を生かした事業が行われています。例えば、東京都武蔵野市においては、学期中に授業の一部を自然に恵まれた場所で長期に滞在して行い、普段の学校生活(ファーストスクール)ではなかなか体験しにくい活動や学習を通して、自然体験、農林漁業体験、共同生活体験等の多様な体験学習活動並びに多くの人々との出会い及び交流を通し、子どもたちの個性豊かな人間的成長を図ることといったねらいのもと、「セカンドスクール」事業を実施しています。本事業では、市立小学校5年生全員、市立中学校1年生全員が民泊や青年の家等において4~9泊の合宿をしつつ、田植え、稲刈り等の農業体験活動や炭焼き等の森林体験、そば作り等の郷土料理作り、わら細工、和紙すき等の郷土芸能などの多様な体験を行っています。主な成果としては、現地の豊かな自然や地域の特性を生かした学習教材や学習方法を工夫することを通して、一人一人の児童生徒が課題解決的な学習を補完できるといったことや、多くの人々との交流や出会い、長期のゆとりある宿泊生活を通して、自立に必要な知識や技能を身につけるとともに協調性や連帯意識を醸成し豊かな人間性を育む一助になるといったことが挙げられます。
  文部科学省としても、このような取組が各地域、各学校で行われることが重要であると考えており、これからも、前述した「豊かな体験活動推進事業」の実施や、ブロック交流会の実施による先駆的な取組の普及等を図りながら、体験活動が一層推進されるように努めていくこととしています。

5 各地域又は学校の優れた取組みの紹介:

『出席停止制度の適切な運用について』(神奈川県藤沢市立第一中学校)

(1)はじめに:

  先日、中山文部科学大臣が藤沢市立第一中学校を訪問しました。その趣旨は、「過去に生徒指導上困難があったが、その後、教員達の頑張りによって成果が上がっている学校に行って、その実情と取組みの成果を見るとともに、教員達の頑張りを励ましてくる」ことにありました。
  同校を実際に視察してみると、同校は非常に落ち着いた学校となっているので、その現在の姿しか知らなければ、ごく普通の学校に見えたかもしれません。しかし、同校は、3年前まで問題行動が繰り返されていた学校であり、それが、出席停止制度の適切な活用を契機として、教員達が一丸となって問題行動対策に取り組み、その後も『人との関わり活動』を通じて積極的な生徒指導を展開することによって、現在の姿まで持ってきたのです。
  その成果を見て、大臣は、最後に「どんなに困難な状況であっても、教員達が一丸となって一生懸命頑張れば、学校が良くなることがよく分かった」と褒めておりました。今回は、その経過や教員達の頑張りを紹介するとともに、同校の改革の切っ掛けとなった「出席停止制度」について、紹介したいと思います。

(2)藤沢市立第一中学校(※ 藤沢市立第一中学校ウェブサイトへリンク)(※ 別ウィンドウで開きます。)の概要:

  藤沢市立第一中学校は、神奈川県藤沢市の繁華街を抱えた学区にある創立57年の学校であり、比較的長年にわたって地域に居住している家庭が多く、親や祖父母が卒業生であるケースも多いなど、保護者や地域の学校に対する関心は高い学校です。現在の学級数は、14クラスに特別支援学級2クラスをあわせた中規模校です。同校は、3年前までは、授業エスケープ、授業妨害、暴力行為又は破壊行為等の問題行動が校内で繰り返される状態であり、校内は暴力に怯える緊張した雰囲気が漂っていたようです。それが、ある事件をきっかけとして、出席停止措置を適用し、それによって教職員一同が暴力行為に対しては毅然とした態度で望むことを生徒及び保護者に示したことで学校から暴力を一掃するに至ったそうです。

(3)出席停止制度の活用の経緯と成果:

(ア)出席停止制度の活用以前:

  同校では、3年前まで校内において暴力行為が繰り返されていた状況にあったが、その度に「反省を促すための説諭」と「被害者に対する謝罪」に指導がとどまってしまい、また、被害者も仕返しを恐れて被害届けを提出するに至らなかったことから、事態の重大さを認識させ、真の反省に導くことができずにいた。さらに、生徒指導体制として度重なる暴力行為に対して、段階をおったレベルを上げる指導が組織的にできていなかった、ということもあった。

(イ) 出席停止制度に踏み切った切っ掛け及びその環境作り:

  上記のような状況下で、出席停止制度に踏み切ったのは、ある生徒間の暴力事件を契機としてである。
  出席停止制度の運用に関連した環境作りとして、1.先ず、加害生徒とその保護者に対して事情を聞くとともに、事の是非とその重大さについて認識させ、被害生徒等に対する謝罪を含めて指導したこと、2.教職員全員が一丸となって、暴力やいじめ等を絶対に許さず、それらに対しては毅然と臨む事を生徒や保護者に宣言したこと、3.「緊急全校集会」を開催し、上級生のあり方を考えさせ、暴力を許さない、不登校生徒のでない学校を築いていくことを全校生徒に確認するとともに、「全校保護者集会」を実施して、保護者、地域及び関係機関から学校の指導に対して理解と協力を得ることとしたこと、4.従来の校内巡視に加え、近隣の生徒の溜まり場となりそうな場所の巡回指導を実施したこと、5.スクールカウンセラーの協力を得て校内の教育相談体制を整え、心をケアする体制を整備するとともに暴力やいじめ等に対するアンテナを張るようにしたこと、6.暴力やいじめ等に対する各関係者の意識の高揚を図るため、生徒を対象とした講演会を実施したり、教職員を対象とした校内研修会を実施したり、各家庭に対する情報提供を強化したりしたことなどがある。

(ウ) 出席停止の手順:

  同校では、以上のような取組みを通じて、学校全体として一気に流れを変えていくとともに、出席停止制度を措置するに当たって、以下のような手順で出席停止措置を実施した。1.まず、加害生徒及び保護者から意見を聞くことをし、2.その上で、学校から暴力を一掃し、全校生徒の学習権を保障し、安心して生活できる学校を築くとともに、加害生徒自身に自らの行動を振り返らせる観点から出席停止措置を決断した。3.出席停止措置中の生徒の生活やルール作りを行うとともに、4.毎日、複数の職員で家庭訪問を行って指導を行う体制を整え、5.措置終了後の生活に向けての検討を行った。6.その上で市教育委員会に実施を依頼し、その結果を加害生徒と保護者に対して申し渡し、所要事項を記載した出席停止措置通知書を発出した。

(エ)出席停止制度の効果:
  • 限られた期間とはいえ加害生徒達の姿が校内から見えなくなったことにより、被害生徒をはじめ、それまでその脅威に怯えていた生徒達が安心して学校生活を再開することができた。
  • 暴力の結果が出席停止措置に至ったことで、校内に「暴力は絶対に許さないもの」という雰囲気が浸透し、生徒や保護者に「本校の教員は暴力等に対して毅然と対処してくれる」という信頼が生まれ、生徒の中にも自ら「暴力の無い学校を築こう」とする意識が醸成された。
  • 加害生徒にとっては、暴力行為やこれまでの振る舞いを見つめ直す機会となり、学校への復帰後も、本措置が行動への抑制となった。
  • 出席停止措置に至るまでの課程や措置中の加害生徒への関わりを通して、教職員全体の生徒指導に対する意識が向上した。

  生徒指導においては、日頃からの生徒指導の充実が必要ですし、教員が日頃からの指導を充実させることによって出席停止措置に至らないように最大限の努力することは、決して間違ってはいません。
  ただ、その一方で教員だって万能ではありません。最大限努力したにもかかわらず、事態が好転せず、他の児童生徒の教育に妨げがある場合だってあるのです。以前、現場の教員から「出席停止制度は『負け』だと思っている」旨話を聞いたことがありますが、私は、「日頃の生徒指導と出席停止制度とが相反するものとなる」とは考えておりません。むしろ、藤沢市立第一中学校のように、出席停止制度は、使い方次第で、ピンチをチャンスに変える、生徒指導上の重要な武器であり、被害生徒や一般生徒には「学校や先生方は、問題行動等に対して毅然とした態度を取ってくれるし、自分たちの事を守ってくれる」と思わせ、加害生徒に対しては『よくないことはしてはいけない』ということを教え、自らの行動を見直させる契機を与える制度だと思うのです。
  出席停止制度の運用に当たっては、単に出席停止制度を実施するだけでなく、同校のように、様々な方面への働きかけや取組みを、体系的かつ包括的に、しかも「一気呵成」に、全校の教職員が一丸となって実施することが、本制度を効果的に実施するために重要だと思います。

(4)出席停止措置後の取組み:

  さらに、同校の取組みで重要な点は、出席停止措置で終わらずに、それまでの学校の指導体制を見直し、「相互のコミュニケーションを大切にして人間関係を築いていく」方向性に向けて様々な取り組みを体系的に実施しているところです。
  具体的には、同校では、学校の教育目標を「互いの人格を認め合い、ともに生きる人になる」に改めるとともに、朝の挨拶運動や声かけ運動の励行、朝の10分間読書活動の実施、人との関わりを重視した体験活動の導入、グループエンカウンターやワークショップの実施、さらには相談活動やコミュニティ活動の実施等を行ってきております。その様々な取組みの成果を見て、中山文部科学大臣が「本校は、非常に落ち着いた良い学校だ。どんなに困難な状況であっても、教員達が一丸となって一生懸命頑張れば、学校が良くなることがよく分かった」と褒めることに繋がったのだと思います。

(5)藤沢市立第一中学校の取組みの紹介を通じて伝えたいこと:

  今回、同校の紹介を通じて伝えたい事は大きく2点あります。

  (ア)1つに、同校の取組みには「生徒指導上ピンチに陥った時の事態打開のコツ」が見られることです。もちろん、生徒指導上のピンチは、各校それぞれ抱えている状況に応じて異なるでしょうから、同校の手法をそのまま用いる事はできないでしょう。ただ、手法は各校で異なるにせよ、改革のコツは「学校を変えるのには、『一気呵成』に、全校が一致団結して、関係者全体をガっと動かす」ことにあるように見ました。
  同校の取組みの中でも、1.同校の教職員が一致団結して一枚岩になっており、生徒達に対しても保護者に対しても『ブレていなかった』こと、2.学校の取組みも単に事後対処型の取組み(出席停止や緊急集会等)だけでなく、予防対処型の取組み(校内研修や教育相談体制の整備等)も行うなど、言葉だけではなく『行動として学校の改革の意識が表れている』こと、3.学校が事を起こそうとするときに、加害生徒と保護者と校内の一部の関係者だけで処理しようとせず、生徒全体や保護者全体に話し、教育委員会、警察や児童相談所等の『関係機関全体に理解と協力を求めて働きかけを行っている』こと、4.『短期間で一気呵成に全体を動かしている』ことが見て取れます。児童生徒がピンチに陥った時も同じでしょうが、学校がピンチに陥った時に、「もう少し様子を見ましょう」として時間をかけても、事態がおさまる事はめったに無く、おさまったように見えても潜在化しただけであって、大抵の場合、事態は悪化するものだと思います。

  (イ)もう1つ伝えたいことが、もう既に上述したところですが、「出席停止制度に対する教職員の意識を変えること」です。
  御存知の通り、公立小中学校においては、停学や退学等の処分は、公立小中学校が児童生徒の学習権を保障する最後の砦であることから、学校教育法上、このような懲戒処分は認められておりません。しかし、それでは、仮に学校が処理できないような事態が生じた場合に他の児童生徒の学習権を保障できなくなる可能性もあるから、加害児童生徒への懲戒処分ではなく、学校の秩序を守り、他の児童生徒の学習権を保障するために、この「出席停止制度」があるのです。同制度は、意外と古くからある制度であり、本制度自体は学校教育法制定当初からある制度であり、また、同様の制度は既に明治時代の小学校令にも規定が見られるところです。
  同校の取組みの紹介を通じてみてきたとおり、確かに、出席停止制度の活用には、膨大な人的・時間的・精神的エネルギーを要します。しかし、そのプラスのエネルギーは、長い視野で総合的に見れば、将来的には、かかるエネルギーは逆に少ないかもしれません。
  学校の生徒指導上のピンチを打開する方法は多々あるでしょうし、出席停止制度を適用するか否かは、児童生徒の状況やその家庭の情況又は地域の実情に応じて、総合的な観点から市町村教育委員会が判断すればいいことです。ただ、学校のピンチを打開し、短期間で一気呵成に改革を行いたいのであれば、「出席停止制度が、ピンチをチャンスに変える、生徒指導上の有効な手段の1つであり、適切に活用すれば生徒指導上効果的である」ことを知っておいて頂ければ、困難な事態への武器も増えることになると思います。

6 主要行事の予定又は連絡事項等:

  (全てを記載しているわけではありませんので、必ず正式文書で確認をお願いします。)

  • 生徒指導メール・マガジン第4号
    (次回号は、福岡県教育委員会の取組みを紹介する予定です。) 1月28日(金曜日)
  • 平成16年度第2回 都道府県・指定都市生徒指導担当指導主事連絡会議 1月28日(金曜日)
  • 平成16年度全国不登校フォーラム 2月28日(月曜日)

7 施策に関する各地域からの提言又はQ&A:

  今回号は特に無し。

本件連絡先:

  • 文部科学省初等中等教育局児童生徒課 生徒指導企画係
  • メール・マガジン問い合わせ先 <jidou@mext.go.jp
  • 電話:03‐5253‐4111(内線3055)、FAX:03‐6734‐3735
  • ※ 生徒指導及び進路指導上の優れた実践事例を公募したいと思います。全国的に紹介したい事例がある場合には、ご執筆の上、送信いただきたいと思います(その際、執筆者が都道府県・指定都市教育委員会でなくても、学校又は市町村教育委員会の執筆でも可です)。内容を見て、「各地域又は学校の優れた取組みの紹介」の項で紹介していきたいと思います。
  • ※ 教育課題についての質問や提言、他の都道府県教育委員会へ伝えたいニュースや連絡事項などありましたら、上記アドレスまで返信メールの送信をお願いします。なお、恐縮ですが、質問に関しては、全体に周知する事が必要なものについて、本メール・マガジンで回答していきます。
  • ※ メール・マガジンは、文書による通知・連絡とは異なり、あくまでも文部科学省からの情報提供を目的としています。通知・連絡については、従来通りの方法にて行いますのでご留意願います。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --