2.命の大切さを学ばせる体験 32.栃木県鹿沼市立北押原中学校

命を大切にできる心豊かな生徒の育成をめざして

【活動のポイント】

  •  実社会で不足がちな異世代間交流を1対1のパートナー関係を軸に体験し、慈しみの心や自己有用感・自己肯定感を育みながら、命の尊さを体感させる。
  •  思いやりについて考え、集団を醸成しながら、人と人とが触れ合う上で必要なコミュニケーションのトレーニングを行う。
  •  保護者と良好な関係を築いたり、親(保護者)から大切にされているという感情を持ったりすることは、生徒に自信を持たせ、社会に出て行く勇気や自他を大切にする感情を育んでいく力になると考え、保護者との関係を促進する活動を設定することで、自尊感情や自己の有用感を育んでいく力にしていく。

全体の指導計画

学年等 体験活動の名称・内容 期間・日数・単位時間数 教育課程上の位置付け
3学年
2学年
  • 「保育園・老人介護施設との継続的な交流活動」
    • 1対1のパートナー関係を基にした交流活動。
6月〜翌年3月
8回かける2時間
総合的な学習の時間
  • 交流のための事前学習・準備
6時間  
全学年
  • 「ゲストティーチャーを迎えた道徳の授業」
    「命」に関わるテーマを基にした道徳の授業実践。
4月〜翌3月
2回かける1時間
道徳
3学年
2学年
  • 「コミュニケーションスキル学習・GWT」
    • グループワークトレーニング、レクリエーション学習、電話のかけ方・面接練習等
4月〜翌3月
12時間
総合的な学習の時間
学級活動
全学年
  • 「親子でどう解く(道徳)」
    • 親子で道徳的資料について話し合う。
    • 道徳の授業参観。
      • 親子道徳の推進
夏季休業中の課題として2時間
道徳1時間程度
夏季休業中
道徳
2学年
  • 保護者との関係を促進する活動
    • 立志式に寄せる保護者から生徒、生徒から保護者への手紙を送る活動を互いに内緒で実施。
2月
計2時間
学校行事
  • 立志記念行事スキー学習

17年度の取り組みについて

<活動のねらい>

 本校は指定を受け、平成17年度は第2学年、平成18年度は第2学年と第3学年を対象学年に設定し、具体的な活動を計画し、実践してきた。まず、「命を大切にできる心豊かな生徒」を育成していくにはどこに視点を当てて、どのような活動を設定すればよいかを、様々な実践や事例、近年の青少年の問題行動、本校生徒の実態等を踏まえながら仮説を立て、研究に取り組んだ。
 研究を始めるにあたり、キーワードとして浮かび上がってきた「コミュニケーション」を軸とした活動や「仮説」から導き出した学校として取り組む課題を設定し、体験活動を計画した。特に中心となる交流活動では、「畏敬の念」「生命の尊重」に視点をあてた実践に力を入れ、実施にあたっては『いのちにふれる授業−鳥取・赤碕高校の取り組み−』(高塚人志著*現鳥取大学医学部助教授)を参考に、高塚先生が鳥取県立赤碕高校で実践され、成果を挙げてきた「人間関係体験学習」の手法を取り入れて、1対1のパートナー関係を軸とした交流活動を設定してみた。その他、上記「体験活動の概要」に示した各活動とねらいを設定した結果、次のような成果が得られた。

<成果>

  • 交流に意欲的に参加し、子どもを好きになった生徒が増えた。
  • 1対1のコミュニケーションへの不安が減り、明るく声かけができるようになった。
  • ご協力いただいた施設に趣旨を理解していただき、好意的に関わって頂けた。また、保護者においても関心を寄せ、保護者との活動面で大変協力的に関わっていただくことができた。

 以上のような成果を確認できたが、平成18年度の課題として次のものが浮かび上がってきた。

<課題>

  • 「命の大切さ」に関連付けた成果の検証・数的な変化の把握
  • 交流活動の更に望ましい在り方と成果との関連の研究
  • 更に充実した道徳教育の取組の研究
  • 生徒の心の変容の把握(方法の検討)

 以上のような課題の更なる追求を18年度のねらいとして、実践を行ってきた。

活動内容 【保育園・老人介護施設との1対1の関係を基本とした継続的な交流活動】(対象:3年生)

<事前指導>

 ワークシートや資料を用いて、交流のねらいについて説明し、保育園児や高齢者の方々について理解を深めた。また、言葉遣いや挨拶についてGWT(グループワークトレーニング)を通して学習した。さらに、自己紹介カードを作成するなど、パートナーとの交流に向けた活動を行った。

<活動の展開>

 各施設の活動は通常のまま行ってもらい、そこに参加するという形で、一緒に保育活動を行ったり、介護補助等をさせていただきながらコミュニケーションを図っていく活動を行った。

個別指導計画

  •  施設の割り振りに関しては、クラス単位で活動するか、希望に応じたグループを編成して活動するかにつき検討した。その結果、配置できる引率の教員数や引率上の安全確保等の配慮、事前事後指導、ねらいである「学級作りや学級を母体としたコミュニケーション能力の醸成」などを十分検討した結果、学級を中心にした活動として位置付けた。したがって、7箇所の施設について、引率しやすいよう距離が近い施設を4つのグループにグルーピングした。
     また、協力施設には、趣旨を説明した上で、ねらいを達成できるような年齢の集団(グループやクラス)について相談し、交流人数を提示して一クラスの交流人数にほぼ一致するようことができるよう、話し合った。
     さらに、事前に交流の意義や内容について生徒にオリエンテーションをしながら、事前学習も兼ねて、「交流希望調査」を行い、幼少者や高齢者に対する意識調査や、交流希望内容、希望対象を把握しておき、それぞれのグルーピングにあった希望数と合致するよう交流対象学級を設定した。調査の結果から、幼少者との交流希望が多いことなども考慮し、施設側にはそれに見合った数の交流対象者を設定してもらった。
     また、「希望はあくまでも希望」としつつも、生徒の希望をできるだけ尊重し、施設と協力しながら人数調整をした。クラスの関係で本校生徒1に対してパートナーが2になるような場合も柔軟に取り入れながらペアリングをクラスで話し合って決めた。
  •  パートナーとの1対1を確保するため、3〜4人が訪問して行う職場体験学習的な参加と違い、1施設に中学生が小さな教室に10人〜20人という大人数で押しかけることは過去に例がなく、交流施設にとっては抵抗があった。これらの点については、「保育学習」や「介護ボランティア」などの視点ではなく、あくまで命ある主体としてのパートナーと1対1で交流することの意義について十分説明した。他人と関わりを持てない生徒ほど、逃げ場のない1対1の関係の中で、長い時間をかけて相手の気持ちに寄り添い、次第に心を開いて互いを受け入れ、自己肯定感や「自分も受け入れてもらえるんだ」という気持ちを体感していく作業が、互いの存在や命を大切にしていく貴重な体験となることを説明し、理解が得られるよう努めた。併せて、施設側の不安についても十分配慮し、ねらいに沿った交流ができるよう、本校生徒に対しても多くの時間をかけ、幼少者・高齢者理解についての事前学習の時間をとったり、事前指導についてかなりの時間を費やして計画的に指導に力をいれ、交流に望めるよう配慮した。

<事後指導>

 自分が立てたその日の交流目標や評価項目について自己評価を行い、感想や反省をまとめながら次回の交流に生かしていく。学年通信などで、生徒の感想や交流の様子を掲載しながら成果を還元しつつ、保護者への報告や啓発も行った。

体験活動の支援体制

 交流施設長やPTA、民生委員を含めた学校支援委員会において、地域の施設や高齢者との交流のあり方について意見交換を行い、交流活動に活かした。学校の事前指導だけでなく、交流施設の施設長や担当者から直接話を聞き、パートナーへの安全上の配慮や交流時のマナー、配慮事項について充分指導を受けられるよう時間をとった。生徒の移動時の安全に配慮し、交通指導担当と連携をとり、引率経路や手段、引率教諭の配置などについても充分配慮して計画を作成した。交通ルールの遵守については特に毎回の交流の度に意識させ、充分指導を行った。

体験活動の成果と課題

 初年度は交流活動を実施する上で、特に「命」は意識させず交流自体を楽しませたいという思いが強かった。今年度は、2年間の交流活動の経験を踏まえ、「交流を通して自分の中で変わったと思うこと」「命についてどのように考えるようになったか」ということを初めて具体的にふり返らせた。自己評価表の項目以上に、自由に記述された評価カードには各自が交流から感じ取った貴重な「命」の学びが書かれており、人とのつながりの大切さや、小さな子を育てる親の気持ちに思いをはせ、両親に感謝する記述もあった。人は人と接することでしか学べない「貴重なもの」があることを漠然と感じ始めている。更に研究を進め、命を大切にできる生徒の育成に努めていけるよう努力していきたい。

体験活動の評価の工夫

【各施設からアンケート結果・生徒の感想より】

「受入れ前と受入れ後の施設側の意識調査」

「命」に対する認識の変化

 交流学習を通して、目の前のパートナーと関わることで、「命を大切にしていこうという思いを深めることができた」と答えている生徒の割合が多い。


-- 登録:平成21年以前 --