2.(3)30.愛知県三好町立三好中学校

社会に学び、将来を切り開く力を育む

はじめに

 本校は、三好町の南西部に位置し、町の中心部にあたる。全校生徒数447名、各学年4学級、特別支援学級1学級の13学級の中規模校である。校訓「たくましく うるわしく かがやかしく」のもと、「自主、創造に富み、個性豊かでたくましく、誠実な人間の育成」を教育目標としている。
 創立60周年を迎え、町内では一番伝統がある学校である。校区には3つの小学校があり、その児童のほとんどが本校の生徒となる。本校の生徒は誰とでもあいさつができ、明るい生徒が多い。また、行事や自分たちが興味をもったことに対しては意欲的に取り組むことができる。反面、学校生活の中で目的意識が低く、向上心に欠ける場面も見られる。
 そこで、常に目標を持ち、見通しと意欲をもって取り組めるようになってほしいと考え、様々な実践をした。

全体計画

 本校では、体験活動前の事前・事後学習を重視するとともに、「5daysチャレンジ(5日間の職場体験活動)」を中核に、1年生を事前学習、3年生を事後学習と考え、3年間を見通した実践を目指している。

推進組織

 三好中学校の組織だけでなく、愛知教育大学教授である、竹内登規夫教授を委員長に三好町教育委員会、三好町商工会、三好町工業経済会、ライオンズクラブ、三好町PTA、4中学校推進担当者で「キャリア・スタート・ウィーク実行委員会」を組織し、三好町全体で取り組んでいる。

2年次での活動について(職場体験学習)

(1)実施日

平成18年8月21日(月曜日)〜25日(金曜日)

(2)参加生徒数

第2学年 159名

(3)受入先及び活動人数(全62事業所)

  • 1医療・福祉(12事業所57名)
  • 2卸売り、小売業(15事業所、33名)
  • 3サービス業(6事業所、8名)
  • 4飲食店、宿泊業(6事業所、8名)
  • 5農業(5事業所、9名)
  • 6製造業(5事業所、11名)
  • 7教育、学習支援業(2事業所、3名)
  • 8公務(8事業所、24名)
  • 9運輸業(1事業所、3名)
  • 10その他(2事業所、3名)

(4)本校の取り組み

13年間を見通した題材系統図の作成

 本校では、職場体験活動は生徒全員が自己有用感を獲得できる場であると考え、職場体験活動を中学校生活3年間の中核として取り組むことにした。職場体験活動の事前学習・事後学習を大切にするとともに、3年間を見通し、1年生では、発表の力を育てたり、職業に対する意識を高める事前学習、3年生では、職場体験活動で学んだことを自分なりに地域に生かしたり、上級学校との円滑な接続をしたりする事後学習の機会と考え、題材系統図を作成した。

三好中学校 題材系統図 第3学年

2全校職員でのバックアップ

 今まで、第2学年だけの実践という意識が否めなかった。そのため、各事業所への打ち合わせ、生徒一人一人への声かけ、励ましが少なかった。そこで、全職員で第2学年の生徒とかかわるようにした。まず、学級活動の時間で学級担任以外の全校職員によるゲーム的要素を取り入れた人間関係作りのエクササイズを行った。また、活動前に教員一人一人の激励の言葉が書かれたお便りを配ったり、体験時には、各事業所を回り、激励を行った。

3職場体験通信の発行

 生徒の活動の様子紹介や教師・保護者・事業所の激励の言葉などを載せた通信を職場体験活動期間中毎日発行した。生徒たちも、励ましの言葉や他の職場の生徒の様子を知り、やる気になっていった。また、各事業所にも配り、好評だった。

4保護者ボランティアの協力

 6月に職場体験活動の保護者ボランティアを募り、説明会を行った。保護者ボランティアは、事業所へ行き、生徒を励ますとともに、活動の様子を写真に撮ったり、お便りに載せる記事を書いたりした。今年度は20名程度であったが、生徒の活動の様子を見たいという保護者や、来年のために1年生の保護者も参加したいという意見があり、来年度はさらに人数が増えそうである。

5下学年とのかかわり

 職場体験活動の発表会の時には、事業所の方と1年生を招待した。2年生にとっては、来年職場体験を行う1年生のために役立ったという自己有用感につながり、1年生にとっては、来年に向けての心がまえをつくる機会とした。お世話になった事業所の方に声をかけられ、2年生にとっては活動の価値を自覚する良い機会となった。

【「職場体験通信」の例】

 真夏を思わせるような暑さにも負けず,三好中学校初めての取り組みである,「社会に学ぶ『5daysチャレンジ』に,2年生が挑戦をスタートさせました。保護者ボランティアの方々が戻ってこられるたびに,子供たちの元気な姿や緊張した様子を話してくださり,がんばってくれている生徒の姿を実感として捉えることができました。
 また,どの事業所の方も子供たちを温かく受け入れてくださっているという話を聞くことができました。事業所の方々や保護者ボランティアの方々のご協力に,心から感謝しております。

『5daysチャレンジ』1日目の様子です。
わかば保育園

一人は砂場で、一人はプールに入っていて二人とも園児に囲まれていました。まだ緊張している様子もあり、園児になつかれているところもあり、先生方も温かく見守っていてくださいました。

(保護者ボランティア 石河千佐子さん)

さつき

入っていったところ、お皿やカップを拭いているところでした。緊張しているとのこと。「頑張って」と声をかけてきました。

(保護者ボランティア 石河千佐子さん)

  • 以下略

(5)活動日程と概要

〔事前学習〕

6月
  • 1職場訪問(1年)をふり返り、働く意義を考える。
  • 2興味ある事業所の調査
  • 3職場体験の目標を考え、さらに保護者の願いを知る(生徒が考えた目標に対して保護者からコメントをもらう)
  • 4電話のかけ方やマナーの確認(電話をかけるときの話し方や言葉使い、注意することを考える)
  • 5事業所と電話で打ち合わせ(受け入れの確認、事前訪問日と時間の打合せを行う)
7月
  • 6自己紹介カードの作成(自己理解を深めるとともに、体験に向けて)
  • 7事業所について調べる(場所、仕事の内容、事業所で質問すること)
  • 8事前打ち合わせの訪問計画を立てる。
  • 9事前訪問(活動時間、活動内容、持ち物などを確認する)
〔体験当日〕(三好町民病院の例)
9時 環境整備・おむつ交換・検温
11時 おむつ交換・食事介助
12時30分 昼食・休憩
13時30分 入浴介助・コミュニケーション
15時30分 反省会
  • 教員と保護者ボランティアは、半日日程で各事業所を巡回した。

〔事後学習〕

9月
  • 1職場体験のふり返り(仕事内容、話したこと、できたこと、できなかったことを感想文としてまとめ、冊子にし、事業所へ配付する)
  • 2原稿用紙に感想をまとめ冊子にする。
  • 3お礼の手紙を書き、事業所へ届けお礼を述べる。発表会の案内状を渡す。
10月
  • 4活動の様子をポスターにまとめ、発表原稿を作成する。
  • 5職場の方、保護者、1年生を招待して発表会を行う。
  • 希望しても希望通りの事業所にいけなかった生徒について本校では、基本的に三好町近隣で自分で事業所を選択した。そのため希望通りに行かなかった生徒は少なかった。
     しかし、近隣に希望の事業所がないと言う生徒もいたため、そういう生徒には、担当の教諭が休み時間などを使い、キャリアカウンセリングを行い、生徒の希望になるべく沿う形で体験先を決定した。

○希望通りの事業所にいけなかった例(M男)

 5月中旬 職場体験ガイダンス(職場体験の説明会)
 その後、生徒の興味関心を中心とした第1回希望調査を行った。M男は、第1回希望調査では、スタントマンの経験をしたいと言っていた。しかし、実際に三好町近辺では、そのような経験ができるところはないため、担当教諭は、数回M男とキャリアカウンセリングをして、本人の希望である、体を動かす職業、ものづくりができる職業をキーワードに建設会社に体験に行くことにした。決定時期は、7月初旬であった。

 希望通りの生徒も第1回目の希望調査後、自分の適性や自分のよさを知る学級活動の授業、働く意義や職業の特性を考える授業などを行った後、キャリアカウンセリングを行い、興味関心だけでなく、自分の特性も考えながら体験先を決定した。

【事後の自己評価表の例】

「社会に学ぶ『5daysチャレンジ』」を振り返って(事後アンケート)

成果と課題

(1)成果

  • 5日間体験することで、働くことの表面的な喜びから、より深い感動を実感するまでに高まった。(1日目「くたくた」、2日目「患者さんから答えが返ってくる喜び」、3日目「自分の行動を戒める」、4日目「初めて患者さんが笑顔を見せた感動の4日目」、5日目「このまま体験を続けたい!いっぱいの感動いっぱいの感謝」生徒の感想より)
  • 事業所の方と生徒とのつながりができ、保育園の育児ボランティアに参加するなど職場体験後もその職場に再度訪問する生徒も出てきた。
  • 事業所の方に職場体験後、いくつかアンケートをとったところ、「中学生や学校への理解は?」という質問に85パーセントの事業所が、「深まった」「どちらかというと深まった」と答えており、保護者や教師が事業所を巡回したことで、事業所の学校への理解や協力が高まった。
  • 職場体験活動について親子で話し合う時間がもて、生徒との良いコミュニケーションがとれるようになったなど、生徒に好ましい変化が見られた家庭が約7割もあり、保護者の支持が高まった。

(2)課題

  • 目的意識を十分に持たせることができないケースもあった。自分が体験する職場で働く目的を見出し、より主体的に取り組む工夫が必要である。
  • 進路学習としての学級活動(事前学習)の時間が十分に確保できなかった。来年度は、7月に行っていた自然教室を2月に移動するなどの行事の見直しや、進路学習を職場体験学習と関連づけながら充実させることが必要である。

1年次での活動について(職場訪問)

 2年次での活動の「事前学習」に当たる1年次では、以下のような活動をしている。

 1年生の総合的な学習では、夢や希望とは何か、「働く」とは何かを知り、さらに自己理解を深めることを通して、将来へのより具体的な目標をもつことを一つのねらいとしている。1年生の生徒は、これまで、夏休みを利用して、主に保護者の勤務先を訪問先として職場訪問を行ってきた。保護者の働く姿を見ることで「働く」ということのもつ多様な面を感じとることができた。また、発表会でたくさんの職業について聞き、自分の将来の職業について意識を高めることができた。
 そこで今回は、自分で選択した職場を訪問しようと考えた。自分で選択した職種を体験先とすることで、生徒はより自発的な学習に取り組むことができると考えたからである。まず、職場訪問の前に、学級活動で自分の適性や特徴を知り、それをふまえて職場を決めさせた。また、職場を決めた理由を明確にして課題を作り、その課題を解決させるための質問作りにも取り組む。事後には、聞いたり、見たりした内容をポスターにまとめ、保護者を呼んで発表会を開くこととした。

子どもにかける願い

  •  自分で興味をもった職種への職場訪問を通して、働く人の願いや仕事への熱意などを感じ取ることによって、自分の将来の生き方を深く考えてほしい。

(1)単元目標

  • 1自分の興味や適性検査の結果から訪問先を選び、自分の課題を決め、解決しようとすることができる。(意志決定能力)
  • 2事業所などへの職場訪問を通して、仕事の内容や働く人の思いを知るとともに、将来への夢や希望を実現しようとする意欲や態度を身につけることができる。(将来設計能力)
  • 3社会生活や職業生活を営む上でのマナーやルールとしての規律、礼儀、言葉遣いなどの大切さを知る。(人間関係形成能力)
  • 4インタビューした内容を相手にわかりやすく伝えられるように、発表の仕方を工夫することができる。(情報活用能力)

(2)事前学習

  • 1自分史作成を通した振り返り
  • 2身の回りの「職業」について考える学活
  • 3「家族愛」に迫る道徳
  • 4働く家族の思い

(3)職場訪問

 自分の希望する職場を決め、訪問を実施した。62箇所の受け入れ事業所に1〜3人に分かれて訪問をした。時間は30分程度を予定していたが、事業所によってはとても丁寧に説明をしていただいた。中には2時間近く時間を割いていただいた事業所もあった。

■自分の夢をかなえるために・・・

<自動車部品会社を訪問した生徒の感想>

 40分前には会社についてしまい、会社の近くで待っていた時間がとても怖かった。いざ、会社の前に行ってみると入り口がわからず困っていたところを従業員の方が声をかけてくれました。本当ならこっちが聞かないといけないのにと思いました。
 見学したのは実際にバネを作っている現場でした。うるさい機械がいっぱいあって驚きました。インタビューでは担当の人と話をしました。質問の中で、「バネづくりに大切なことは?」と聞くと、「お客様に迷惑にならないバネをつくること。」という返事が返ってきました。ものづくりに大切なことは、使う人に迷惑がかからない部品・製品をつくることだと思いました。
 帰路では自分の将来のことを考えていました。自分の夢をかなえるためにもっと勉強しないといけないなと思いました。

(4)事後学習−ポスターセッションをしよう!−

 はじめはグループ発表として、学級を解体して様々な職種の発表が見られるようにグループ分けをして実施した。グループ発表の結果、代表者を1人ずつ選び、代表者24人の発表会を行った。発表者と聞き手を6グループずつに分け、聞き手が2箇所の発表を聞く形式とした。発表者は2回目ということで、前回の反省を生かして方法を改善しながら発表することができた。
 この発表会でお互いの職場訪問での成果を認め合うとともに日常生活のなかでも職業について、また人の生き方について考えることができるようになってきた。

(5)成果と課題

 今回の職場訪問では自分の希望の職業、またはそれに近い職業を見ることができるということで、生徒の意欲もより高まった状態で取り組むことができた。体験後は「次はこうしたい!」という気持ちをもつことができた生徒が多かったように感じる。2年生での「5DAYSチャレンジ」に発展させていきたい。また、自分でポスターを作り、発表をすることや友達の発表を見ることによって体験が共有できた。
 生徒の行ってきた活動は素晴らしいものであった。しかし、自分の活動の価値に気づくためには教師の働きかけが不可欠である。例えば「つまらなかった。」という感想しかもてなかった生徒にも、教師の言葉がけによって、少しでも成長した自分に気づき、活動に価値が見出せると考える。活動の後に活動の振り返りと教師の言葉がけの場面をもっとつくる必要があると感じた。面接時間の確保やワークシートへの朱書きの活用を今後の課題としていきたい。

  • このほか、1年の3月には、三好中まわりのどぶ掃除やゴミ拾いなどを行う、奉仕体験も行った。また、「1年社会人学級」と称し、豊田市を中心に活躍している、豊田お笑い劇団笑劇派の座長早香結(さやかゆい)さんをお招きして、「夢を実現するために−今何をがんばればいいの−」をテーマに話をしていただいた。早香さんの中学・高校時代の思い出から、夫である南平さんとの出会い、お笑い芸人を志し、劇団を旗揚げするまでを冗談をふまえながらお話していただいた。また、自分の中学時代の目的を持たずやる気のない生活だったことを例に上げ、目的をもって取り組むことの大切さを教えていただいた。

3年次での活動について(社会貢献活動)

 学習や毎日の学校生活のなかで目的意識がもてず、受け身的に物事に取り組んでしまう生徒たちがいた。しかし、体育大会や合唱コンクールなど、自ら目的を見出したときには主体的に動くこともできる。また、1、2年生における職場体験や選択ボランティアを通して、「人の役に立ちたい」「すすんで人のために働きたい」という気持ちが芽生えてきている時期でもある。
また、自分の考えや思ったことなどを発言できる生徒が少ない。それは本人が自信をもてないという点と周りの生徒の認め合う雰囲気に欠けるという点に起因するのではないか。また、相手の気持ちを理解できず、自分本位な言動をする生徒も少なくない。

子どもにかける願い

  •  人とかかわりながら互いを認める関係を築くなかで、自信をもって自分を表現し、相手の立場になって物事を考え、行動できるようになってほしい。

(1)単元構想・目標

  • 1 ボランティア活動を、3つのカテゴリー(福祉施設訪問・独居老人宅訪問・環境美化活動)に分け、そのなかで自分が興味や関心をもったもの、自分の力が生かせそうなものを選択し、グループ単位でボランティア活動を行う。
  • 2 後期の総合的な学習の時間や学級活動の時間を使って事前学習を行い、奉仕活動の日にそれぞれの場所で活動をする。(終日)
  • 3 奉仕活動後や総合的な学習の時間を使いながら、報告書をまとめ、発表をするとともに、ボランティアを行う意味、自分の将来(就きたい職業)や、そのためにこれからできることを考える。

≪カテゴリー学習の例:福祉B 『独居老人宅への訪問活動』(30名)≫

ア、ねらい

 独り暮らしの在宅高齢者の方に対する介護などについて具体的な活動を進めるなかで、相手の気持ちになって、見方を新たにするとともに、福祉に対する意識を高め、自分にできることを自ら見出し、積極的に活動を展開する。

イ、活動内容

 独り暮らしをしている方のところに、事前訪問を含めて、お年寄りとかかわる場を複数設定し、そのお年寄りに合わせた活動内容を検討したうえで、計画準備をする。当日は一日日程でお年寄りの自宅を訪問し、交流を深めてくる。(昼食作り、クラフト、談話など)

(2)事前学習−目的意識を明確にし,活動への思いを高める−(独居老人宅訪問の場合)

11,2年の職場訪問・選択ボランティアにおける自分の学びを振り返る

【ねらい】

 職場体験・訪問、社会人学級、選択ボランティアにおいて、自分は何に興味や関心があり、何を学んだのかを振り返ることで、社会貢献活動で自分がどんな活動をしたらよいのかを考えるきっかけとする。

【ポイント】

 「興味関心の履歴」と「活動の履歴」を併せて「自分の学び」を具体的に振り返ることのできるワークシートを作成し、肯定的に受け入れる朱書きを入れる。

2道徳・学級活動を通して、社会に貢献する価値を感じさせる

【ねらい】
  • ボランティア活動の意義を理解し、地域社会に貢献するために、自分たちにできることは何かを考えさせる。
  • 今回の社会貢献活動で接する高齢者の方や障害者の方についての理解を深め、活動をする際に少しでも相手の気持ちになれるようにする。
【ポイント】
  • 2つのねらいに沿ったビデオを視聴させた後に感想文を書かせ、どこに価値を感じたかわかるように朱を入れる。
  • その感想文をもとに学年通信をつくり、配付。学級に広めたり、朝・帰りの会の話題にしたりすることで、社会貢献活動へ向かう気持ちを少しずつ高める。
(例)「ぼくたちにもできることは何だろうか」と考え始めた生徒たち
  • 道徳「心の中のゴールが見えた−障害児とその子を支える周りの人々−」
    …盲学校の小学生がサッカーに取り組むにあたって,本人がぶつかる壁をどう乗り越えたのか。また,そのために周囲の人々があえて厳しく接し,独り立ちさせようと支えていく姿が描かれている。生徒たちは「甘やかすことが優しさじゃない。一人前に成長するためにも厳しくすることも大切」と感じていた。

3現場の方からのお話をうかがう

【ねらい】

 社会貢献活動への意識を持ち始めた生徒たちに、障害者・高齢者福祉施設で働く現場の方の体験談や思いを直接聞くなかで、「人の役に立ちたい、自分もやってみたい」という実践意欲を高める。

【ポイント】

 「興味関心の履歴」と「活動の履歴」を併せて「自分の学び」を具体的に振り返ることのできるワークシートを作成し、肯定的に受け入れる朱書きを入れる。

4事前訪問前に「自己紹介手紙」を書くなかで目的と活動を確かめる

【ねらい】
  • 相手を意識した手紙を書くことで、生徒自身がどんな思いで訪問し、どんな活動をしたいと思っているのかを本気で考える。
  • 事前訪問で初対面する前に、生徒の顔写真入りの「自己紹介お手紙」を見てもらうことで、お年寄りの不安と緊張感をやわらげ、出会いをスムーズにする。
【ポイント】

 手紙の雛型になかに「訪問の目的と活動したい内容」「お年寄りとの接点(話題)になりそうなもの」が含まれるように、記入項目を列挙しておいた。

5事前訪問で話をし、活動内容を決めるなかで、相手意識を高める

【ねらい】
  • お年寄りと直接会い、実際に話をするなかで、「この方のために」という相手意識を高めたり、その暮らしぶりを自分の目で確かめることで「もっとこんなことができそうだ」という活動計画の見直しができる。
  • 直接生徒にあってもらうことで、貢献日当日への不安を解消し、訪問を楽しみにしてもらえるようにする。
【ポイント】

 「打ち合わせ例」を事前に配付し、進め方を説明。その時に「どんな活動を予定しているか」を、自分たちの口からはっきり言えるように口頭練習させた。

6他活動の生徒・現場の方とのかかわりから活動を客観的に見直す

【ねらい】
  • 「貢献」という同じキーワードをもとに活動している、他の活動グループと活動計画を伝え合い、悩み解決に向けて話し合うなかで、自分の目的や計画を客観的に見つめ直す。
  • 貢献先の現場の方の声を生徒たちに伝えることで、自分たちの考えの甘さに気づき、どんな心構えで活動をするのか、思いを新たにする。
【ポイント】
  • 活動が違う者同士でグループを編成し、自分の活動目的と悩みを具体的に提示させた。
  • VTRを通して、現場の方の願いや心構えを具体的に話してもらった。

7教師の事前訪問後、各班と対話するなかで、活動内容を明確にし、目的意識を高める

【ねらい】
  • 教師が双方の思いを伝え、お年寄りの求めと生徒たちの求めをすりあわせることで、互いのズレを解消し、活動への期待と見通しをもたせる。
  • 教師を通して、今回の訪問の目的を知ってもらうなかで、お年寄りができそうな活動内容を明らかにし、当日への気持ちの準備もしていただく。
【ポイント】

 お年寄りとの会話をもとに「追加情報」を作成し、各グループとの対話の時間を設け、「可能な時間」と「お年寄りが楽しみにしていた」ことも伝えた。

お年寄りの思いを受けとめる…「あれから考えたんです,先生」
  •  生徒たちとお年寄りとの話がかみ合っていないことを感じたので,教師がそれぞれのお年寄りを訪ね,こちらの意図を話しつつ,趣味や生活の様子を雑談。そのなかで当日できそうなことを相談。
  •  生徒の相手のお年寄り(「その辺でトランプしとっていいよ」の方)は,「あれから,私なりにいろいろ考えたんです。畑で一緒に野菜を穫って,たいしたもんはできんけど子どもさんと一緒になんか作ろうかなって…」とお話ししてくださった。この話を生徒の班との対話で話したときの,「ちょっと先が見えてきた」という表情は印象的。
  •  他の生徒には「和紙の花作り」を教えてくれること,「来てくれること本当に楽しみにしていたよ」ということを伝えた。その生徒の顔には安堵感。双方の真意が伝わっていないケースがあったので,教師がパイプ役となって,互いにとってよりよいものになるようコーディネートする必要あり。

8当日持っていくプレゼントを作るなど、事前準備で思いを高める

【ねらい】

 相手のお年寄りを意識したプレゼントや準備をする過程を設け、活動をするなかで「お年寄りの喜んでもらいたい」という思いを高める。

【ポイント】

 生徒へのアドバイスや相談の時に、「そうすることでまるまるさんが喜ぶんだね?」と常にお年寄りの名前を出しながら生徒たちに問いかけるよう心がけた。

9直前の学年集会で徹底事項を確認しつつ、目標を再確認する

(例)「来てくれてよかった,また来てね」のことばをもらおう
  • 訪問直前の学年集会で生徒たちには,安全面や各施設での注意事項などを確認した後,「相手の方から『来てくれてよかった,また来てね』というような言葉をいただけたら,みんなの目標が達成されたことになるね」と話をした。もう一度ここで「何のために自分たちは貢献活動をするのか」を再確認させ,少しでも目的意識をもって当日に臨ませようと考えた。
  • 単元を通して,活動の目的を象徴するようなキャッチフレーズを学年で統一して掲げておくことも大切である。全体が集まる集会の場やグループで考えるような場でも常に子どもの頭の片隅にとどまっているようなものがあるとよい。

(3)当日の活動−求める活動を保障し、主体的な動きを引き出す−

 事前学習までに,教師からの「これだけはおさえたい」ということを生徒たちに伝え,指導をしたら,その後はできるだけ生徒たちの立てた計画やアイディアを尊重する。安全性やお年寄りに大きな迷惑をかけないようなものであれば,認めた。失敗やうまくいかない恐れがあるものについては,事前にお年寄りにお願いしておくことも大切である。

【これだけはおさえたい】

  • 活動の目的を個人で,グループで具体的にもたせる。
  • 自分たちだけが楽しむ「自分本意」の姿勢は厳禁。相手のお年寄りの生活や気持ちを考えた「お年寄りに寄り添う」姿勢で取り組ませる。
  • 「してあげる」という上からの目線ではなく,「させていただく」「喜んでいただく」という尊敬・尊重の念をもって取り組ませる。
  • 当日だけのお祭り騒ぎではなく,当日までの準備を,訪問が終わってからのつながりが自然とできるように取り組ませる。(当日後の訪問は強制しない)

1生徒たちがお年寄りと相談して決めた活動内容

  • 昼食作り
    • 昔ながらの料理,郷土料理を教えてもらう。
    • 畑で収穫した野菜を使って一緒に調理。
    • 子どもが得意な料理をごちそうする。
  • 手作りのお菓子をお茶うけにおしゃべり
    • 家庭科室で作ってお土産として持参。
    • 休日に班のメンバーが集まって作る。
    • 三好の昔の話,戦争の時のお話,家族の大切さ,今までの人生を振り返ってなど今の子どもたちに伝えたいことをお話ししてもらう。
  • 畑で野菜収穫のお手伝い
  • 庭や家周りの草取りや清掃
  • クラフト活動
    • 一緒に折紙で部品を作り,併せて大きな立体を作り,部屋の飾りに。
    • お年寄りが習っている和紙花や折り紙による飾りなどを教えてもらう。
  • 昔の遊び
    • けん玉,お手玉大会
    • 花札,トランプ
  • おばあちゃんの得意技披露
    • 大正琴

2当日の教師の動き

  • 事前に訪問しておいたことで各班を巡回し,生徒たちの様子をうかがう。写真やビデオに記録し,後のまとめ作りやお礼の手紙,通信に活用する。教師自身,事前にお年寄りと会っていたため,「よー来てくれました」と迎えてくださり,緊張せずに部屋に入ることができた。お年寄りの方とも堅苦しいあいさつは抜きで,子どものことを中心にお話することができた。
  • 巡回時にとらえた子どもの姿を大切に巡回して思ったことは,日頃とはまた違う豊かな表情を見せる生徒が多かったこと(特に男子)。同年代でもない,先生でもない,お年寄りと接するときに見せる柔らかい表情や素直に人を気遣う思いやりのある態度。こうした姿をとらえて,通信で知らせるのも良いが,担任の先生にきちんと伝えることが大切であると感じた。その姿をもとに子どもに声をかけてもらったり,保護者に話してもらったりすれば,自己有用感にもつながる。そういう点ではもっと具体的な姿を担任の先生方に伝えなければならなかったと反省している。また,自分自身,後の学校生活で生徒に声をかけるときに,その場面での生徒の生き生きとした姿をふまえたうえで話ができると考える。

(4)事後学習−活動先の方の意見を生かし、活動の価値を自覚させる−

1アンケート結果の伝達

  • 訪問日に生徒にもたせたアンケートに記入してもらい,学校へ送ってもらう。お年寄りが書いてくれたアンケート結果,コメントをもとに,相手の立場になって自分たちを評価する機会を設けた。お年寄りのなかには一人一人へ手紙を下さった方もいた。
  • 生徒たちは点数や書いてある文章の長さにとらわれることもあるので,アンケートには現れていないお年寄りのことばを,教師がフォローして伝える必要がある。

2活動レポートとお礼の手紙の記入

  • アンケートも参考にしながら,当日の活動やお年寄りとのやりとりを振り返って,自分は何ができたのか,自分は何を学ぶことができたのか,お年寄りや自分に対して何を思ったかを文章にする。

3お礼の手紙を子どもの手で届ける

  • 幸い独居老人訪問グループは徒歩か自転車で行ける訪問先ばかりなので,お礼の手紙を自分たちの手で届けに行くようにした。子どもたちが届けることで,単発的な行事に終わらず,今後も交流が続いていくことを期待した。子どもたちのなかには,「年賀状を書いたら,返事をくれたよ」「高校合格したら報告に行ってくるね」と連絡を取り合っている生徒もいる。

(5)成果と課題

【独居老人の方】

 来てくださった生徒さんは手際よく料理ができ,感心しました。孫と一緒に食べているようで,とてもおいしかったです。若いエネルギーをもらい,楽しく過ごさせていただきました。またいつかできたらうれしいなあ・・・。

【訪問した生徒】

 Aさんと一緒に,折り紙を折ったこと,昔の話をしたこと,もっと知りたいと思うことがいっぱいで,できるのなら,もっとお話ししていたかったです。今度は個人的に行きたいです。Aさんの家に行くと,まるでおばあちゃんの家にいるみたいで,とても,ほっとできました。Aさんから,「孫と一緒に料理をしている感じ,ほんとうに来てくれてありがとう」と言っていただけて,とてもうれしかったです。

【社会性についてのアンケート結果より】

 大人とのかかわりにおいて、「気持ちを考慮する」「人の役に立つ」「人を助ける」という項目などで、実践前の9月と比較して、広がりがみられる。

3年 大人との人間関係上に現れた社会性

1訪問先の吟味選定

 カテゴリー(接する相手)によって、生徒の学びの深さ・広がりが違ってしまう。例えば、独居老人の訪問は双方が良い関係で展開でき、生徒も得るものが多かった。一方、障害者の方の施設では、相手の生活を乱してはいけないということもあり、現状を理解するうえでは成果があったが、交流による自己有用感という点では十分ではなかったようである。

  • →交流による自己有用感という点を重視した訪問先の選定。教師による事前の意図説明が必要。
2進路相談・学習の時間との兼ね合い実施時期が進路決定の時期と重なったため、事前・事後学習と進路学習の時間の確保が困難であった。
  • →見通しをもった単元構想を立て、訪問先の決定の時期を早めることで、余裕をもたせた計画にする。
3教師による個人・グループとの対話

 事前学習をしたものの、目的意識や切実感がなかなか高まらない生徒がおり、活動時にも十分な取組ができなかった生徒がいる。

  • →担当教師や担任による、グループ・個人での対話の時間の確保が必要。生徒任せにするのではなくて、教師が間に入って、活動の目的を両者に理解させ、お年寄りの方々やグループに合わせた内容を練り上げていくことが必要である。

-- 登録:平成21年以前 --