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2.(2)18.NPO法人グリーンウッド自然体験教育センター

「暮らし」は学びと成長の宝庫

センター設立の経緯

 今から約20年前、校内暴力やいじめ、子どもの自殺といった学校病理が、社会問題として深刻化していた。学校から地域に眼を転じれば、過疎が進む田舎でも過密が進む都会でも、外遊びをしない、できない子ども達が目立つようになってきた。
 この頃から、豊かな時間や空間、仲間たちといった子ども達の健全成長に不可欠な、当たり前のものが失われていることに危機感を抱く大人たちは少なくなかった。このような時代背景の中、子ども達が管理されず、伸び伸びと育つ場を地域に作り出すことの意義が高まっていた。
 平成5年、南信州の僻地イコール国道も信号もコンビニエンスストアもない泰阜村を拠点とする任意団体「グリーンウッド遊学センター」が立ち上げられ、小規模ながら組織としての基盤を創り上げた。その後しばらくは団体経営が苦しい時期が続いたが、理念や活動に賛同する参加者が徐々に増え始め、90年代後半に中央教育審議会が「生きる力」を唱えたことも追い風となり、参加者は全国から集まり、増加することになった。
 平成13年にNPO法人化し、現在は、1級僻地に拠点をおきながらも常勤スタッフ15人を擁する、国内でも有数の自然体験教育団体として先駆的な活動を続けている。

センターの教育活動について

(1)理念

 私たちは、「暮らし」の中に「学び」の原点があると考えている。日々の暮らしは、「生きる基本」を学ぶための優れた学校である。日本の農山村には、その風土によって創り出された独自の「暮らしの文化」があり、学ぶべき暮らしの「知恵」が豊富に存在している。暮らしが脈々と営まれてきた「地域」の持つ潜在的な教育力を重視し、体験活動の中にそれらの生活の知恵を取り入れつつ、暮らしの中にある様々な活動(働くこと、遊ぶこと、食べること)を通して助け合いや自立性について学び合うことを重視している。
 また、地域のお年寄りなどその地域を生き抜いてきた人々に協力を仰ぎながら、農作業や火の扱い、山で暮らすルール(「結い」(イコール協同作業))、話し合いによる課題解決(「寄り合い」)など様々なライフスキルを子どもに伝えてゆく。泰阜村という地域に根づく様々な生活の知恵を出来る限り体験活動の中に取り入れることで、子ども達や青年の健全な育ちと地域の活性化を目指している。
 この理念を具現化する教育活動が、長期山村留学事業の「暮らしの学校:だいだらぼっち」と、長期休暇を活用した自然体験教育事業「信州こども山賊キャンプ」である。

(2)特色

 私たちは、教育というものを考えるとき、軸足を短期的なスパンから長期的スパンに移すこと、つまりイベント的なプログラムからより暮らしに根づくプログラムへと移すことが、学習者(イコール子ども達)にとって非常に大事だと考えている。
 これまで日本各地で行われてきた1泊程度の短期プログラムではなく、少なくとも3泊以上の長期プログラムの場合は、結論を出すことを重視するよりは、結論を出そうとしてみんなで知恵を出し合う、まさにそのプロセスを重視する。大人が答えを出せばすぐ終わることを、子ども達が一つ一つ丁寧に話し合って解決していく。失敗して、ふりかえって、また頭をつきあわせる、そしてチャレンジして、また失敗する。このサイクルが次々と起こることにより、個人や集団は「学習」し「成長」していく。
 グリーンウッドの教育プログラムにおいて、参加者の持ち物の中で一番大事なものは、「やる気」だ。子ども達自身がキャンプ参加を決めることを重視する。なぜなら、長期プログラムを有効化する必要条件は、「学習者(イコール子ども達)の主体的な関わり」だからだ。つまり、「やる気」がないと、やらされているだけ、こなすだけに終わり、「学習」への積極的なチャレンジはない。
 どの教育現場でもそうだが、この「やる気」「主体性」を確保・継続していくことはたいへん困難なことだ。これを可能にするキーワードは「楽しさ」。「楽しい」ことには、積極的になり、やる気も起こるものである。
 私たちは、この「楽しさ」を、「生み出す暮らし」「自然の中での共同生活体験」の中で創り出していく考えを持っている。「信州こども山賊キャンプ」を始めとしたグリーンウッドの教育プログラムでは、食事作りに始まる暮らしのルールや仕事の分担、1日のみんなの時間の使い方や、活動期間の予定、全員の合意、そして子ども同士・子どもとスタッフとの信頼関係や人間関係作りまで含めて、「自然の中での生活」というトータルなモノを築き上げていく。
 「生み出す」という行為というのは、言葉をかえれば「関わる」という行為であり、自らが行動しようという「主体性」がなければ行為として成り立たない。ある教育学者の言葉をかりれば「認識とは、モノを作ることによって生まれる」「生産する過程から、自信が得られる」と言える。認識することや自信は、「やる気」を促し「楽しさ」を増幅させ、さらに次へのチャレンジへと自らを奮い立たせるようなサイクルを機能させる。そこに「学習」や「成長」があり、さらなる相乗効果が期待できる。
 言いかえれば、子ども達自らが工夫できる時空間、手をかけることのできる時空間がどれだけあるか、ということだ。その大きさ・広さによって、どの程度主体性が確保され、継続できるかが決まる。私たちは、できるだけ長期間、あびるほどの自然体験、仲間との共同生活という生活体験など、モノやヒトそして自然と「関わる」という行為を通して、主体性を育んでいきたいと願っている。

センターが実施する教育活動のポイント

 ここでは、夏に全国から子どもが1,100人とボランティアが330人集まる、日本有数の規模を誇る「信州こども山賊キャンプ」を紹介する。このキャンプは、私たちの理念や特色を具現化した形で、「ちょっと不便」を徹底的に楽しむプログラムだ。「ちょっと不便」というのは、泰阜村という僻地山村の暮らしの営みであり、かつ、待っていても何も産み出せない、自然と「関わらざるを得ない」状況である。そこに素朴ではあるが無限の「学び」がある。

(1)プログラム編成上のポイント

 「信州こども山賊キャンプ」では、以下の5つの視点でプログラムが編成されている。

1異年齢による協働生活体験を一方の軸に

 年齢だけでなく考え方や育った背景も違う仲間達と共に暮らしを築き上げることを、期間を通してのテーマの主軸としている。あえて不便さがつきまとう野外生活を基本とすることにより、何もない状態から子ども達が知恵を出し合い工夫して乗り越えていく時空間を創出すること、協力の必要性に気づいていくこと、自立と自律、多様性の共存のセンスを育むことをねらいとしている。

2自然体験をもう一方の軸に

 これまで子ども達が教室などで培ってきた抽象的な概念や疑問を実際に認識できる体験をもう一方のテーマの軸に据えた。期間を通して野外生活、川遊びなどの直接的な自然体験活動を盛り込むことにより、子ども達の心を素朴に解放させ、自然と人間が良いバランスで調和し共存している自然・里山の暮らしを体感させることをねらいとしている。

3子ども達の主体性と構成と非構成のバランス

 プログラム構成がたとえつながりのある有機的なものだとしても、つめこみすぎやよくばりすぎ、あるいは完全に大人によって最初から決められたプログラムとなっていたのでは、子ども達が創意工夫する時空間は保証されない。基本のプログラム構成は準備されているが、子ども達の意志決定や選択などに自由を持たせることをねらいとする「非構成」の部分を、全期間を通して確保している。

4明確な学習理論に基づく運営

 野外活動では、予期できない環境や体験が学習素材となる。そのような体験を体験のままで終わらせないために、体験学習法による「ふりかえり&フィードバック」の学習を重要視する。特に長老(ディレクター)はファシリテーター(促進者)として関わり、子ども達自らが自分自身の力を信じ、自ら立てた目標を達成する事を支援して、参加者自身はもちろんのこと、グループ、キャンプリーダーもが成長することを願う。

5チャレンジのこころ

 チャレンジとは、今まで自分が安住していたゾーンから1歩踏み出そうとすることだ。人間はまさにその一歩を踏み出すときに成長する。その成長の支援が可能となるように、プログラムに「チャレンジ」の要素を盛り込んだ。個人的なチャレンジは自らの可能性に気づくことをねらいとし、徐々にチームワークが必要なチャレンジに移行して、他人との関わりの中での自分に気づくことをねらいとしている。

プログラム編成のイメージ図

2007年の信州こども山賊キャンプは、4つのコースが設定されています。入門編のベーシックコース、ちょっと不便を徹底的に楽しむチャレンジコース、事前に内容が知らされていないミステリーコース、そして暮らしに舵を切る長期のスーパーコースの4つです。ここではそのうち、3つのコースのエピソードを紹介します。

【ベーシックコース】

 約50人の子どもが参加する入門編の4泊5日のコースです。子ども達は10人程度のグループに分かれて人員点呼や食事つくりを行います。そのうちのあるグループは、人任せでなかなか協力することができず、毎回の食事作りではいつもうまくご飯が炊けずに「芯ごはん」ばかりでした。グループの雰囲気も最悪になりそうな4日目の朝に、やっと上手に炊けておいしいご飯が食べることができました。ご飯をほおばった瞬間に、グループ全員で歓声をあげたようです。なかなか越えられなかったハードルをひとつ越え、協力すると良い結果が産み出されることを学習しました。その後はグループ内で助け合い、団結するようになりました。「ご飯がうまく炊けた」というシンプルな出来事から大きな事を学んでいきます。

【ミステリーコース】

 次は事前に内容が知らされていないミステリーコースですが、今回は、もう手の入れられなくなった元学校林で一から手作りのキャンプを行いました。学校林に到着した瞬間、子ども達はみな「ここで3日間暮らすのか…」と絶句です。まさに食う、寝る、出す(排泄)を快適に行えるところを自分達で創り出すキャンプです。最初何もなかった森ですが、子ども達は「食べる場所がほしい」と自分達でイスやテーブル作りました。次の日、斜面にこしらえたテーブルでは「斜めでうまく食べれない」と自分達で穴を掘ったりして水平になるよう工夫しました。五感を研ぎ澄まし、自分達の手間隙をかけてこの森が「暮らしの場」と感じられるようになったとき、「ここで1週間以上暮らしたいね」と言う言葉が子どもたちから出てくるようになりました。自分達でハードルを越え、何かを生み出したときに子どもたちが強くなりました。

【チャレンジコース】

 最後は、ちょっと不便を徹底的に楽しむチャレンジコースです。おかしら(リーダー)が2年生というグループがあり、6年生の子がそのおかしらの子をサポートしていました。2年生ということもありますが、このおかしらの子は周りをいらいらさせる言動が多かったようです。そんなおかしらの子が動けないことに6年生の子や周りの子がいらいらして、何度もけんかしてしまいました。最後の日の夕食に「このままでいいのかどうか」とみんなで話し合いをしました。おかしらの子に言いたいことをどんどん言う子がほとんどでしたが、小さい女の子が「でもみんなそんなこと言うけど、強引におかしらにさせたのはみんなじゃなかった?それでもがんばっているおかしらに悪口ばかり言っていると、おかしらだってますます嫌になるよ」と指摘。その後はみな良い雰囲気になったようです。勇気ある発言にこども達はみなハッとさせられたのでした。

(2)信州こども山賊キャンプが有する長所と社会への貢献について

●「安全であること」

 山賊キャンプで実施している安全対策は、いずれも基本中の基本といわれる対策だ。しかし、これらの対策は参加者(イコール子ども達)の主体的な関わりがあってはじめて効果的となる。特に、野外活動中の「安全」は、「Do it yourself(自己管理)」の意識が基本となる。大人による安全管理を“安全の外円”に例えるなら、参加者自身による安全管理は“安全の内円”となり、参加者自身の意識を育てるための安全5原則(手洗い、防止着用、水分補給、適度な休息、作成会議)を設定している。キャンプ中は常に安全5原則を参加者と共有し、参加者が自己管理能力を高められるよう配慮している。

●「環境への配慮」

 山賊キャンプでは可能な限りローインパクトで“地球にやさしい”キャンプをめざしていて、山や川を汚さない知恵を子ども達とともに考えながら、キャンプを行っている。
 簡易浄化槽しかないキャンプ場では、きれいな川で遊びたければ自分たちの汚れた皿をどのように洗うか知恵をしぼらなければいけない。米のとぎ汁は流さずに、食器の第一次洗浄の際に活用し、そのあと水道水ですすぐ。なべや鉄板のスス汚れは、灰や草を活用して汚れ落とす。調理時に出る野菜くずなどの生ゴミも、専用の野菜畑で堆肥化し、来春以降の野菜作りの肥料となる。いずれも、「とぎ汁」や「灰」「生ゴミ」という都会では捨てられるものを活用した生活の知恵だ。それはそのまま環境への配慮に結びつくものであり、具体的な環境教育でもある。

●「良質な指導者」

 キャンプのクオリティーを考える上で、いくらプログラムやフィールドが優れていても、子どもの活動を支援する指導者が良質でなければならない。グリーンウッドスタッフやキャンプを支えるボランティアリーダーは、それぞれ役割に応じた専門的なトレーニングに努めている。グリーンウッドとしても、専門資格取得の奨励やスキルアップ講座の開催などスタッフの良質化に取り組んでおり、一例を挙げれば、全員が救命救急国際認定スキルを習得している。また、自然体験活動指導者資格、河川安全管理国際資格をはじめ、教諭(学校・幼稚園)・保育士・栄養士・調理師などキャンプ活動に関連する資格を取得している。
 また、地域に密着し暮らしを重視する山賊キャンプは、幅広い視点で「指導者」について捉えている。安全かつ教育効果を最大に高めるためには、キャンプリーダーだけではなく、地元・地域の協力が不可欠だ。私たちが言う「指導者」とは、泰阜村行政、地元自治会、避難場所に使う村営施設、消防団、警察署、病院、バス会社、農家などの村民2,000人の方も含まれる。

●「青年教育の場・青年が社会貢献を行う場」

 山賊キャンプでは、例えば平成19年は全国から集まる330人以上のボランティアリーダーが子どもたちをサポートする。福祉系・教育系・環境系・医療系等の大学生、専門学校生を始め、教員などの社会人、高校生など多彩な顔ぶれだ。子どもの時に山賊キャンプに参加経験があり、OBとして後輩の子ども達にキャンプの楽しさを伝えに来ているリーダーも年々増えてきた。
 ドイツ・フランスなどヨーロッパでは、キャンプなどの自然体験活動は、子どもの教育の場と同時に青年の教育の場としても位置づけられていて、青年がキャンプなどにリーダーとして参加する社会制度が整っている。日本においては、子どもの教育の場としての役割のみがクローズアップされがちだが、グリーンウッドではいちはやくキャンプを青年教育の場として位置づけ、積極的に青年を受け入れてきた。
 また、キャンプは多くの青年に対して社会貢献の場を提供する役割も担っている。グリーンウッドは自然体験教育活動による社会貢献を目的としているが、その目的を達成する重要な役割を多くの青年に担っていただいている。キャンプにおける子どもたちのサポートを通して、青年は社会貢献活動に参加しながら、社会人としての資質を学んでいる。
 最近では、山賊キャンプが果たしてきた青年教育の機能を高く評価する大学などが増え、19年度も複数の大学が山賊キャンプを正規授業やインターンシップ研修として指定している。

  • 最も参加の多い愛知県立大学文学部では、教員志望学生が3泊4日以上のキャンプボランティアを経験することにより「サービスラーニング」の単位が得られる。同朋大学社会福祉学部では、保育園・幼稚園教諭志望学生が前期の講義に加えて3泊4日以上のキャンプボランティアを経験することにより「自然体験活動」の単位が得られる。長野大学社会福祉学部では、児童福祉を目指す学生が3泊4日以上のキャンプボランティアを経験することにより「社会福祉援助技術現場実習指導」の単位が得られる。順天堂大学や松本大学では、8日以上のキャンプ運営業務への参加により「インターンシップ研修」の単位が得られる。

●「村の自立への貢献」

 山賊キャンプが開催されている泰阜村は、人口2,000人の小さな山村だ。全国の市町村合併の流れの中にあって、泰阜村は、自治体経営の困難さを村民と共に分かち合いながら、自立を模索している。まさに、自立のコミュニティ作り、持続可能な泰阜村作りに向けて村民が一丸となって挑戦している先駆的な地域である。
 このような村に村の人口の半分以上の青少年が集う山賊キャンプは、村内の経済活性化や村民の環境保全意識の向上、村の価値再発見などに大きな波及効果を創出している。例えば、キャンプで消費する野菜などの食糧を地元の農家が供給することは、経済活性化の一助だけではなく、安心な野菜に対して「ありがとう」と感謝される喜びや生産者としてのプライドを高めることにつながる。
 また特筆すべきこととして、山賊キャンプは地域内各種機関、団体との強い協力関係によって支えられていて、それは結果としてコミュニティの力を維持・発展させ、村民が目指す自立した泰阜村の土台を形づくる一翼を担っていることがあげられる。グリーンウッドは、山賊キャンプを通していかに社会に貢献できるか、持続可能な地域づくりに貢献できるのか、ということを常に追い求めていきたいと考えている。

おわりに

 泰阜村という1級僻地にも関わらず、「地域に根ざし暮らしから学ぶ」という理念を掲げた教育活動を業として展開してきたことが評価され、グリーンウッドは平成18年度に多くの機関から表彰された。博報賞・教育活性化部門、オーライニッポン審査委員会長賞、山村力コンクール林野庁長官賞などである。19年度は、「信州こども山賊キャンプ」は文部科学省と林野庁の後援も受けている。
 人口2,000人の小さな村で、村民の応援のもとに20年以上教育活動を続けるグリーンウッドは、まさに村の公立学校に比肩する「自然学校」と言うべき存在だ。公立学校と自然学校が、共に地域に根ざし、その地域で脈々と営まれてきた暮らしの文化から学ぶ体験活動を協働して展開することは、今後日本で求められる学びのモデルとなるかもしれない。


-- 登録:平成21年以前 --