2.(2)17.山口県十種ヶ峰青少年野外活動センター

「新しい自分に出会う」冒険

山口県十種ヶ峰青少年野外活動センターの活動の経緯

(1)センターの概要

 十種ヶ峰青少年野外活動センターは、緑地環境保全地域と特別鳥獣保護区に指定された霊峰十種ヶ峰(989.2メートル)の北斜面中腹、草花や野鳥などが四季それぞれに美しい変化をみせる恵まれた自然の中にある。
 登山やスキーをはじめ、いろいろな野外活動を通して大自然と楽しくふれあい、豊かでたくましい心を育てることをめざしている。
 現在の子どもたちは、のびのびと自然の中で遊ぶことが少なくなっている。人間が生きていくためには、社会性・創造力・体力が必要である。そのために、ここで自然にふれ、団体生活の中で「元気な心」を育てることをねらいにしている。

(2)センターの取組

 昭和49年4月に当センターが設置されて、今年度で32年を迎える。島根県との県境に位置する独立峰「十種ヶ峰」の自然の中で、これまでも様々な野外活動が展開されてきた。そして現在、自然体験活動が、青少年の健全な発達にとって大切であることが教育界で再認識されており、野外活動だけにとどまらない新しい視点での体験学習が求められている。
 山口県は平成元年から、「野外で展開される冒険教育」の手法の導入に努め、平成5年度から青少年自然体験活動推進事業を本格的に開始した。平成15年4月には、当センターに日本最大級の野外教育施設「とくさがみね森のチャレンジコース」が新設され、当野外活動センターの存在意義は、ますます大きなものになっている。
 近年、これらの施設を活用した体験学習の効果が注目され、学校教育や教員研修の分野まで広がりを見せている。そして、人間関係づくりの手法を取り入れた「不登校児童生徒支援事業」の体験活動による支援も当センターで実施され、子どもたちの自信と社会性の回復に対して大きな効果を上げている。

子どもの体験活動に当たって重視しているポイント

−冒険をテーマにした体験活動−

 冒険とは、リスクを受け入れることである。そしてリスクとは(危険・不利などを受けるかもしれない)危険や恐れのことで、受け入れるとはそれらを覚悟するということである。社会生活を営むにあたって我々は、さまざまな場面でリスクに挑戦しなければならない。リスクは、回避してばかりいると逆にストレスになって蓄積する。日常生活において困難に直面した時、これを避けて問題を先送りにするのではなく、積極的に立ち向かおうとする強い心は、冒険プログラムによって育てられる。
 冒険プログラムは、日常生活で起きている様々なリスクをプログラムの中で再展開し、解決の方法を探る一つの手法であり、決して心身を危険にさらすプログラムばかりではない。今の自分から一歩前進すると、そこには素晴らしいことが待っているよ!というメッセージが、「冒険」の中にある。だから、「変化を楽しもうよ!」が、冒険のテーマであると考えている。
 知らなかったことを知った時、出来なかったことができた時、「へぇー。そうなんだ。」「やった!できたぞ!」と、心が動く。この「学びの瞬間」が訪れれば訪れるほど、変化は顕著に現れ、自身の変化を実感することができる。しかし、心が開いていなければ学びを受け入れることはできず、そこに安心と楽しさがなければ心を開くことはできない。すなわち、学ぶための環境作りにおいては、安全で楽しいと感じることのできる環境作りが大切になる。
 人生は冒険の連続で、無意識のうちに冒険の機会をくり返しながら人は生きている。「変化」は、意識しないと始まらないから、日常の冒険をいかに意識して過ごしているかで「学びの瞬間」を得る機会が変わってくる。
 冒険プログラムとは、アドベンチャーを通して楽しむ方法を知り、「変化」を意識する練習をすることである。そしてそれが、日常に起こる様々なリスクに立ち向かう力となる。
 子どもたちには、ここでのプログラムが、その好奇心をくすぐる様々な冒険を体験する機会となり、その冒険を通して学びの楽しさ・おもしろさに気付く場になってほしい。そして、そうして培った力を、現実の生活で生かしてほしいと思う。
 多くの先生方には、十種ヶ峰での冒険プログラムの研修を通して、効果的に学びの瞬間をアレンジ・演出していく技術を身に付け、知的冒険を含めた現場での教育活動に生かしてほしいと願っている。

センターの教育活動の特色

(1)冒険教育プログラム(OBSプログラム)を活用した野外教育活動

 OBSとは世界的な冒険教育機関のことであり、アメリカのOBSで研修を積んだ県内のスタッフにより、山口県でのOBSスタイルの冒険教育プログラムが開発され、展開されている。

(2)PA(プロジェクト・アドベンチャー)の教育手法を活用したグループワーク

 PAの施設を活用し、教育活動を展開できる資格をもったスタッフによる体験学習プログラムが、十種ヶ峰を中心に県内で広く展開されている。

(3)AFPY-Adventure Friendship Program in Yamaguchi-(山口県独自の体験学習プログラム)の開発と研修の提供

 OBS概論やPAの冒険教育プログラムを教育現場で展開できるようにするため、山口県独自に開発された体験学習の手法で、センターでの研修はもとより、県内外の教職員研修に広く活用されている。

学校での体験活動の支援

冒険教育プログラムの実際(1)

冒険教育プログラム(OBSプログラム)を活用した野外教育活動 Self Discovery「自己再発見キャンプ」

1 目的

  • 自然とのふれ合いを通して、自分の可能性に気づき、自己をより高めていこうとする意欲を培う。
  • 仲間とのふれ合いを通して、協力することの大切さを認識させ、より強い仲間意識を培う。

2 期間

5月中旬 4泊5日

3 参加者

中学1年生(40人)

4 内容

冒険教育プログラムの実際(2)

PA(プロジェクト・アドベンチャー)の教育手法を活用したグループワーク FRIENDSHIP SEMINAR(フレンドシップセミナー)

1 目的

  • 体験を通して、友達との関わりについてじっくり考える。
  • 体験を通して、「思いやり」や「協調性」を高める。
  • 友達のよいところを発見することを通して、お互いを認め合う態度を育てる。

2 期間

6月中旬 2泊3日

3 参加者

中学2年生40名、引率教職員

4 内容

  1日目 2日目 3日目
6時30分   起床、洗面
朝の集い
清掃、朝食
起床、洗面
朝の集い
清掃、朝食
9時 入所式(11時)
オリエンテーション

目標の確認
グループの約束作り
【研修3
とくさがみね
森のチャレンジコース

グループの信頼関係を高める活動
【研修4
とくさがみね
森のチャレンジコース

グループ全体でのチャレンジ活動
12時 (昼食) (昼食) (昼食)
13時 【研修1
とくさがみね
森のチャレンジコース

グループの協力性を高める活動
【研修4
とくさがみね
森のチャレンジコース

個人のチャレンジを支えるグループの体感
退所式

現実の生活に還元するふりかえり活動
19時 【研修2
1日のふりかえり
就寝準備、就寝
【研修5
大切なことを考えよう
就寝準備、就寝
 

教職員へのプログラムの提供と実践(1)

冒険教育プログラムの指導者を育成するプログラム 森のチャレンジコース体験会・指導者養成講習会

教職員へのプログラムの提供と実践(2)

AFPY(体験学習の手法)を研修するプログラム 小・中学校等の校内研修等への協力・講師派遣

1 人間関係作り実践プロジェクト

 山口県教育委員会が主催する3年計画のプロジェクトで、県内40校の小・中・高等学校を対象にAFPY(山口県独自の体験学習の手法)の研修を行い、1年ごとに対象校を更新する。センターの主事や選抜された県内のAFPY指導者が各学校に派遣され、校内研修を通してその手法を先生方に伝えている。

2 校内研修や部会研修への講師派遣

 学校などの教育機関から依頼があれば、その研修にAFPYの講師として参加し、「体験学習の手法」を伝えている。授業での実践を目的にされている学校も多く、県内の指導実践をデータで集めてWEBで公開し、広く情報を提供している。
http://www.journey-k.com/~tokusagamine/
(※山口県十種ヶ峰青少年野外活動センターへリンク)

その他の特色ある事業の展開

不登校の子どもを支援するプログラム 不登校総合支援事業「ほっとひといきin十種ヶ峰」

1 事業のねらい

 学校を欠席しがちである児童生徒の「自信の回復」と学校生活を含む「社会生活に向けての、不安感の軽減」を支援する。

2 事業の特色

(1)生活リズムの回復

 野外での活動の大きな特徴は、「太陽のリズム」の中での行動である。太陽を感じて身体が目覚めていくことは、パニックにより実生活からずれた生活リズムを取り戻すための大きな支援になる。生活リズムの改善は、社会生活復帰へのベースになる。

(2)集団生活への適応

 自信を失った子どもたちの不安感・不信感を取り除くためにも、良質な人間関係の中で、自分の居場所を体験する機会が必要である。そのために、専門のスタッフが常駐し、参加者が無理をせず、ほっとできるようなゆったりとした時間を確保した上で、お互いが心を開いて何でも話せるような人間関係が築かれるグループ活動を行う。

(3)好奇心の活性化

 参加者の好奇心が膨らみ挑戦意識が湧くような、日常ではあまり取り組まない種類の活動メニューをふんだんに用意し、達成感や感動が生まれるようにする。そして、その活動を日常に向けて一般化し、感じた達成感や感動を日常生活に結びつける工夫をする。

(4)家庭・学校との連携

 活動中の参加者の様子を肯定的に保護者に伝え、社会生活復帰に向けて前進していることを知ってもらう。さらに、参加者の変化を学校に伝え、事業の趣旨を十分理解してもらった上で、相互に連携し合い、子どもたちが安住できる居場所づくりをする。

事業内容(全16回・延べ40日)

3 事業の成果

 この事業自体は、参加者全員の学校復帰を目標にしているわけではないが、エネルギーが回復した子どもたちの多くは、学校生活への復帰を望み、再び学校へ帰っていくケースも多い。「ほっとひといき」で好ましい変化があった子どもたちは、全参加者の9割を超え、学校を含めた教育施設復帰は半数に及んでいる。太陽と共に生活する自然体験が、子どもたちのエネルギー回復のために、大きな力になっていることは間違いない。


-- 登録:平成21年以前 --