2.(1)15.千葉市教育委員会/千葉市立生浜西小学校

子どもいきいき農山村ホームステイ

市の取組について

(1)千葉市農山村留学について

 千葉市では、「生きる力」の基盤となる多様な体験の在り方を模索し、平成12年度に児童生徒の体験活動の充実に関する「千葉市子どもいきいきプラン」を策定した。
 このことを受け、平成13年度から「千葉市農山村留学推進事業」を実施している。この事業において、子どもたちは、千葉の地を遠く離れ、長野県を訪問し、その豊かな大自然の懐に抱かれながら、農業体験や林業体験などの体験活動を行っている。
 とりわけ、その中で実施するホームステイでの生活体験は、千葉を遠く離れた地で生活することで、家族のありがたさや友情と協力の大切さを実感し、その後の生活や学習に大いに生かされ、自らの人生をたくましく切り拓くための「生きる力」を身に付けることにつながるものと、強く期待している。

平成13年度

 「農山村留学推進モデル校」:市内の小学校7校(小規模校や同一中学校区内の複数の小学校)を指定し、6年生全児童139名が、教育課程の中で長野県上伊那郡長谷村(現伊那市長谷)を訪問して、長谷小学校児童との交流や現地でのホームステイなどの生活体験、化石発掘等の自然体験など、多彩な活動を6泊7日で実施
↓年々拡大

平成17年度

千葉市少年自然の家の開設に伴い、県内での農山村留学と併せて全6年生での実施が実現

平成19年度

23校1,033名の6年生が長野県18市町村で4泊5日の農山村留学を実施

(2)長野県内のあらゆる方々とのかかわりや支援

 農山村留学事業の推進に当たっては、長野県市町村自治体の支援が欠かせない。訪問地の方々と千葉市が、一緒になって青少年の人づくりを行うという事業であり、行政や非営利の組織が協働して推進している。
 受入先の市町村では「千葉市農山村留学推進協議会(事務局:伊那市長谷総合支所)」を設置し、長野県市町村連絡会として事業に関する連絡調整を担うなど、行政や非営利組織の協働、ホームステイ先の各家庭の協力など、活動を支援する体制も整ってきている。
 このように、訪問地の方々の惜しみない協力により実現している本事業は、長野県の訪問地には活性化効果を、千葉市には長野の豊かな自然と長野の方々の人柄から、豊かな人間性の育成、第二のふるさとづくりの効果をもたらすことが期待される。

(3)実行委員会の体制

 実施に当たっては、合同実施校(概ね3校程度が合同で実施)ごとに農山村留学実行委員会を組織し、それぞれの受入先市町村と連携をとりながら、本事業の理念の共有化を図るとともに、ホームステイ先の理解と協力を得るなど、試行錯誤を重ねながらも様々な課題を克服し、今日に至っている。
 こうした実行委員会体制の中で、ゆったりとした計画を採用するなどして、職員の負担などの課題に対して心身の負担の軽減を図っている。養護教諭など特定の職員にのみ負担がかからないように工夫し、市教育委員会事務局職員とも連携しながら、対処するようにしている。各市町村の協力を得て、医療機関との十分な連携も図っている。
 連携に当たっては、何よりも、今の子どもたちにとって、何が必要で、将来にわたっての何を身に付けさせることが重要か、関係者間でその方向を認識することが肝要である。

【新任教員による「グループティーチャ−」について】

 長野県における千葉市農山村留学では、「グループティーチャ−」制を採っている。これは、千葉市内の全小・中学校に勤務する新任教員を、本事業において「グループティーチャ−」として子どもたちと同時に長野県に派遣し、新任教員も自然体験活動のあり方や児童へのかかわり方等を学びとりながら、小学6年生の様々な自然体験活動を支援する。
 グループは、長野県の農山村ごとに、千葉市内の小学校2〜3校の小学6年生、つまり互いに見知らぬ児童からなる6〜7人を基本として構成している。つまり、新任教員はまったく新しいグループを任され、活動を支援することになり、本事業の目標の達成に大きく寄与している。

  •  千葉市農山村留学は通常8月下旬の夏休み最後の時期における全児童による活動として実施されるため、新任採用職員を派遣することによる本来の勤務校への影響を最小限に抑えることができる。

(4)農山村留学に対する評価

 農山村留学の4泊5日という期間がもたらす体験活動の実施による教育的効果は、児童や保護者の感想等によって確認されているところである。
 長野県市町村担当者からは次のような評価の言葉が聞かれる。

  •  受入市町村では、交流実施による精神的な満足感が得られ、町村の風土や文化に対する自信の復活・再発見と文化維持の確認ができた。交流自体が、高齢化の進む村の一般家庭にとって充実した時間となるとともに、子どもたちの喜びを確認することで、自分たちの村とその文化に対する自信が甦った。
  •  事業をきっかけとして、様々な千葉市との交流事業へつなげることが可能となった(19年度は、9市町村が千葉市民産業まつりへの出店参加、千葉市内小学校PTAバザーへの参加、総合的な学習の時間等における「成果発表」への参加、ホームステイ先家族と児童との文通、家族一緒での再訪など)。
     千葉市の児童と地元児童との交流では、「千葉市の子どもたちの生活の様子、考え方の一端を理解する良い機会となっている。」「準備を子どもたちが行い、普段の学校生活ではできない体験となっている。」など、大きな成果に結びついている。
     お互いの魅力を共有する中で、互恵的な関係ができつつあり、今後も理念を共通認識しながら、いっそうの交流を図っていきたいと考えている。長野は夏休みが短く、8月20日過ぎから新学期が始まるので、千葉の子どもたちが自分たちの夏休み期間中に訪れても、長野県ではすでに二学期が始まっており、訪問地の子どもたちに迷惑をかけないで交流することが可能である。

(5)今後について

 農山村留学推進事業は、学校内における平素の学習効果を一層高めるとともに、通常の学校生活では得がたい体験を得させるため、学校の教育課程に位置付けて実施する教育活動である。訪問地の豊かな自然や地域の特性を生かした学習教材や学習方法を工夫し、一人一人の課題解決的な学習を進め、学校での学習を補完する教育活動であり、先導的なモデル事業としてスタートしたという思いがある。今後は、長野県における農山村留学を教育課程により明確に位置付け、継続・発展したいと考えている。

基本プログラム(例)

  • 基本的な構成は市教委が示すが、詳細な部分は学校の判断による。
  8月22日 8月23日 8月24日 8月25日 8月26日
児童宿泊 集合宿泊 集合宿泊 ホームステイ
(民宿)
ホームステイ
(民宿)
 
活動内容 移動7時発 体験活動1 体験活動3
(登山等)
ホームステイ先での体験活動 お別れ式等
14時到着
オリエンテーリング
散策など
体験活動2 ホームステイ先へ引越し 帰路11時
引率者 集合宿泊 集合宿泊 集合宿泊 集合宿泊  

  児童4泊のうち、2泊をホームステイとすることが基本。

  • 形態は、農家民泊、一般家庭、民宿等、市町村事情により異なる。
【体験活動(例)】
  •  訪問地の人々との交流(体験活動やホームステイ)を持つようにする。訪問した地域の特色を生かし、地域の方々とふれあえる場として、あわただしくなく、ゆったりとした時間の中で、豊かな体験ができるようにする。
  •  訪問地の学校と交流活動を持つようにする(手紙等による事前の情報交換などの交流を含むようにする。)。
  •  訪問地の地域の特色等に応じた体験活動を取り入れるようにする。例えば、
    • 登山や川遊びなどの活動などの自然にかかわる体験活動
    • そば打ち、おやきづくりなどの郷土料理や生産にかかわる体験活動
    • 林業体験、野菜の収穫体験などの農林業などにかかわる体験活動
    • 太鼓体験、遺跡見学、化石収集などの文化的な体験活動
    • 小学校交流などの交流活動

<参考>平成19年度農山村留学推進事業実施市町村(担当課)

学校の取組について(市立生浜西小学校による大鹿村訪問を中心に)

(1)取組の目的−大自然の中で、心と体をきたえよう−

  • 以下、子ども向けの栞より

 南アルプスの美しい緑と清らかな水、澄んだ空気や輝く太陽、夜にはこぼれるほどの星たち・・。辰野町・飯島町・大鹿村の大自然の中で野外活動や集団生活を通して、学校では得がたい体験ができます。心身ともにたくましく、一回り大きな人間に成長したいものです。そのために、次のことに心がけて生活しましょう。

1自然の美しさを感じ取りましょう。

 変化に富んだ地形、山、川、森、山々に生えている植物や生物などを観察しましょう。そして、この土地を大切に育て上げた人々の働く姿を、自然の美しさを自分の目で、肌で、心で感じ取れるよう思う存分活動しましょう。

2友達とともに過ごすことの楽しさや喜びを味わいましょう。

 食事も風呂も寝るのも一緒の5日間。他の学校の人とも仲良くなり、友達の良いところをたくさん見つけましょう。お互いに気を配り、協力し合って、気持ちよく過ごせるように心掛け、楽しい思い出を作りましょう。

3感謝の気持ちを持ち、行動で表しましょう。

 この農山村留学は、たくさんの方々の協力があってはじめてできるものです。辰野町、飯島町の方々、大鹿村の方々、お世話をしてくださる先生方、準備をしてくれた家の人々に「ありがとうございます。」「おはようございます。」「ごちそうさま。」などの言葉とてきぱきした行動で、その心を表しましょう。

4いろいろな活動に進んで参加し、楽しい思い出をたくさんつくろう。

 農業体験、林業体験、ハイキング、各小学校との交流などの活動には積極的に参加し、小学校生活の楽しい思い出となる農山村留学にしましょう。

(2)実施までの流れ(19年度)

【2月20日】

 合同実施校と受入自治体の決定について、市教委より連絡が入る。

  •  19年度は大鹿村、飯島町、辰野町を寒川小、弁天小、生浜西小で訪問することが決定。この段階で、19年度の学校の年間授業計画は農山村留学実施を前提とした内容を前提に組んでいたが、この連絡を受けて、確定し、4月最初の職員会議にて正式に提案。

【4月18日】

 3校の実務担当者間での顔合わせ、日程の調整。

【4月24日】

 市教委主催による、農山村留学説明会の実施。その後、3校間の担当者による簡単な打合せを持つ。

【4月下旬〜5月上旬】

 電話により関係者に挨拶。下見計画を作成するとともに、訪問先の担当者(各町村においてコーディネートを行っている首長部局の方)とも電話連絡をとり、日程調整を行う。下見に必要なJR乗車券・レンタカーを手配するとともに、体験活動実施に必要なバスの手配を始める。

【4月28日】

 生浜西小において保護者説明会を実施し、理解と協力を求める。親の同意書を作成するとともに、アレルギーの有無等健康管理に関する事柄もこの時に確認する。

【5月15日】

 農山村留学に帯同するグループティーチャ−(初任採用職員)の決定通知が市教委よりなされる。

【5月23日〜5月24日】

 農山村留学の下見の実施(3町村を一緒に回る)。担当者間で、各宿泊施設の状況と受入人数、地域の環境、日程と体験プログラムの内容、その他活動施設や場所の様子などについて、打合せを実施。

  • 大鹿村については、昨年度も実施したこともあり、昨年度に準じた日程を基本としたが、木工作とストーンアートは選択制にするなど、昨年度の結果と本年度の諸般の状況を踏まえて、アレンジ。雨天等で行事を中止する場合は千葉市側の実行委員長が決定する、保健室を本部宿舎に1部屋確保するなどの緊急対応についても決定。村の診療所の方とは、児童の診察に際し必要なものを確認。現地の大鹿小学校とは、交流活動プログラムについて相談し、概略を決定。

【6月8日】

 生浜西小児童に対し、農山村体験の説明会を実施。

【6月11日】

 3校の関係者と市教委による第1回実行委員会を開催。その結果を踏まえ、活動の栞作成に入る。

  •  実行委員会は本来は下見前の実施が考えられるが、初めての農山村留学ではなかったため、今回は下見後に実施。

【6月26日】

 教育センター主催による、グループティーチャ−向け説明会の実施。

【7月20日】

 第2回実行委員会。バスのことや保険のこと、予算関係のことについて協議。

  • →7月24に実施計画について市教委に最終的な届出。

【7月30日】

 農山村留学結団式を寒川小で実施。児童はここで初めて、期間中に一緒に活動する他校の児童やグループティーチャ−と対面する。

  •  授業負担等も考え、子ども同士の事前の交流は一度にとどめる。

【8月上旬】

 ホームステイ先に対し、個別の児童ごとの健康状態や留意点(アレルギーや薬のことなど)等について連絡する。これらも踏まえ、受入地側で会議を持ち、最終的な受入分担等が決定される。

【8月21日】

 第3回実行委員会。最終確認。

【8月22日〜8月26日】

 農山村留学の実施

【9月以降】

  • 第4回実行委員会を開催し、反省や次年度以降の課題等について協議。
  • 子どもたちにお礼の手紙を作成させ、ホームステイ先に送付する。
  • 報告文書の作成や精算作業等を行う。
  • このほか、eメールによる連絡調整等も適時実施。

(3)活動の模様−大鹿小学校との交流活動やホームステイを中心に−

 農山村留学の活動の中で、特に成果を期待していたのが、大鹿小学校との交流活動とホームステイである。

1大鹿小学校との交流活動

 ゲームを通して相互に紹介をし合った後、魚のつかみ取りと飯ごう炊さんを行った。最初、なかなか魚を捕まえられなかった子ども達も、捕まえ方を相談するなど工夫するようになり、魚を追い込む人と捕まえる人に分かれて仕事分担するなど協力する姿が見られるようになった。また捕まえた魚の腹を割いたりすることに抵抗感のあった千葉の子ども達も、大鹿の子ども達に教えてもらいながら取り組むことができた。でき上がった昼食はご飯とみそ汁、焼き魚にキュウリ一本というメニューだが、最高の食事となった。大鹿小との交流会は、他の地域の人たちと仲良くなるという楽しさもあったが、千葉市の子ども達にとっては、「食べるということは、まさに命を頂いているのだ」という事を実感した体験活動でもあった。
 なお、簡易水道の準備や重機を持ち込んで魚を放すプール作りなど、この活動は天竜川河川事務所の全面的な協力のもとに行なわれた。子ども達も、この活動がたくさんの人々の協力によって支えられていることを知り、感謝の気持ちを持つことができた。

2ホームステイ

 4泊5日のうちの2泊を、現地の家庭にお世話になった。子ども達のほとんどは親戚の家などに泊まった経験はあるが、全く知らない人のお宅へお邪魔するのは初めてなので、行く前は大変な緊張感があった。しかし、迎えてくれたおじいさんやおばあさんがやさしく接してくれて大変楽しく過ごすことができた。ホームステイは子ども達にとって、全く異次元の体験の連続である。昔ながらの趣のある家とすばらしい景色。夜は家族みんなで食事を頂きながら昔話に花が咲き、朝は庭の畑で一緒に野菜の収穫をする。そんな中で、子ども達は「お客様」にならないように、自分たちにできることはないかとお手伝いをし、自分のことは自分でするように心がけるようになった。ホームステイを受け入れてくださった皆さんも、農山村留学の趣旨をよく理解して下さり、大鹿村ならではの生活を味わえるよう、自然体で接してくださったため、子ども達がホームシックになることなく、充実して過ごすことができた。

(4)活動を終えて

 農山村留学実施前、ほとんどの保護者やまだ農山村留学を経験したことのない職員から、小学校6年生にとって4泊5日は長いのではないか、などと懸念する声が聞かれた。しかし、この5日間でたくさんのことを経験することができた。様々な生活や人々との出会い、新しい体験に裏打ちされた知識の広がり、親元を離れて過ごした自信。それぞれの子どもがそれぞれの成果をあげて戻ってくることが出来た。そのことは、帰ってきた子どもの様子を目の当たりにした保護者からの感想にもよく現れている。長期宿泊体験やホームステイの効果に驚いている保護者も少なからずいた。中には、受け入れた方に「今度ディズニーランドに招待しましょうか」と伝えるなど、家族ぐるみの交流につながるような反応もあった。

  • 最初、知らない人の家に泊まることに大変不安を感じていたが、ホームステイの方が親切にしてくださり、無事に過ごすことができたことに本当に感謝している。
  • 帰ってきて第一声が、「話したいことがたくさんありすぎて、何から話していいか分からない。」だった。いかに充実した生活が送れたかが伝わってきた。
  • はじめは4泊5日と期間が大変長いので不安だったが、帰ってきた子供がうれしそうに話す姿を見て、感謝の気持ちでいっぱいになった。
  • おとなしい子で心配していたが、おじいさんやおばあさんと仲良くなり、その後電話で話しをしている姿を見て、成長を実感することが出来た。

(5)今後の改善点

  • 学校間の交流プログラムは、交流する双方の学校の教員や児童によって、さらに体験的な学習活動が展開できるようなプログラム作りに取り組んでいきたい。遊びだけでなく、地域性や独特の文化を生かし、さらに子どもの視野を広げていくための活動を検討したい。
  • 引率教員は、子どもの様子を見て、何か問題が起こるのではないかという不安と実施期間中の子どもの管理を考え、大きな負担を予想していたが、経験してみるとそれほど大きな負担感を持たずに過ごせたと話している。その上、寝起きを共にする生活や他人の家での宿泊体験は、強烈な印象とともに、社会生活のルールや礼儀作法といったことを短期間に体験する機会となり、社会性の育成に大きな効果があったと実感している。
  • 理科や社会などと農山村留学での体験活動を関係付けていくことができれば、学習内容の理解をさらに深めることができるだろう。農山村留学中に特別授業など、いろいろと工夫をしながら取り組んでいきたい。
  • 農山村留学は、子供の社会性の育成に大変大きな役割を果たしていて、結果として生徒指導面、学級経営面で大きなプラス効果がある。しかし、現行の4泊5日では、向上した社会性を定着させるにはまだ短いように思う。できれば一週間程度の期間が最も効果的だと考える。

-- 登録:平成21年以前 --