学校における体験活動は、特定の教科等や学級での取組にとどまらず、教育課程上、独自のねらい、活動計画、評価計画を持ち、継続的かつ系統的な教育活動の一つとして明確に位置付けてこそ大きな成果が期待できるものである。
どのような体験活動をどのように行うかは、各学校において子どもたちや学校、地域の実情等を踏まえ、教育目標の達成に資する観点から、様々な体験活動を適切に計画・実施することとなる。
体験活動を実施する際の具体の目的、[ねらい]をどのように設定するかによって、体験活動期間中の細かい内容はずいぶん変わってくる。どのような子どもの資質、能力の向上を図り、どのようなことを学ばせるかの[ねらい]をしっかり定めた上で、それが体験活動期間外の他の教育課程の時間での学習内容と関連させながら実践されるよう、各校の教育目標の効果的な実現に資する体験プログラムを検討することが大切である。
このためには、体験活動が、その内容面においても時間数においても一定の「まとまり」を有し、系統立てて実施されることが必要である。現状では、例えば学校行事や総合的な学習の時間で展開されても、その場その場の指導にとどまっていて体系性に欠けていたり、次の体験活動や教科学習に結びついていかない、という状況がしばしば見られる。この時間を活用して実施し、学んだ事柄は次にどの教育活動につながっていくのか。この時間で学ぶことは以前学習したことのどこと連動性を持っているのか。教職員はこの点を絶えず意識しながら、体験活動を「知」の総合化につなげていく必要がある。
例えば、「『探求』の精神を子どもに身に付けさせたい」という思いから、学校行事に総合的な学習の時間を組み合わせて全体を組み立てる。共通に学ばせる価値のある体験を、集団の中での協働作業の中で取り組ませ、そこから、個々の子どもが追究したい課題を調べるなどの探求学習に繋げていく。自然教室の中に総合的な学習の時間を組み入れて、壮大な学びを実現するということである。前後の学年での体験活動と関連付ける必要もある。発達段階や体験活動の特質等に応じ、グループディスカッション、インタビュー、比較研究、実習交流などの様々な体験学習や集団活動にじっくり取り組むといったボリュームのある学習活動が、長期間の計画になれば可能となる。
体験活動が効果的に行われるためには、子どもの発達段階に応じた活動を計画的に実施することが大切である。一般的には、学年が進むにつれ生活体験や社会体験なども一定程度深まっており、より高度な内容や専門的な内容を学習することができる。地域や学校等の実態、そのときの子どもの様子や状況、興味・関心、希望等を踏まえた活動内容とする必要がある。その際、前の学年次での子どもの状況について十分調べておくこと、次の学年での体験活動との関係性を持たせ、数年間かけた教育目標の達成を意図することも意義がある。
体験活動は、学校全体として取り組むことで効果が上がるものであり、また、実施のために学校が一体となって対応することが不可欠である。前年度から次年度への継続的・系統的な指導のためにも、また、前年度に取り組んで明らかになった諸々の課題等について次の学年の子どもたちへの指導に生かしていくためにも、校内の連携した指導体制の確立を図ることが重要である。例えば、体験活動を企画する上で中核となるプロジェクトチームを組むなど協力的な指導体制を整えたり、子どもへの情報提供や相談に応じる支援センター的な校内組織を設けている取組例も見られる。校長等が学校運営の方向性を明確に示すとともに、教育指導のために効果があることは教職員が協力して取り組もうとする雰囲気を作り出し、自校の子どもの姿に照らしつつ、体験活動の重要性や取組の進め方などについて校内で共通理解を図っていくことが大切である。
また、先進的な体験活動についての情報を積極的に収集し、それらを教職員の研修・研究に活用し、子どもたちが体験活動を通じて学び成長する意義を十分理解し、その指導力を高めていく体制を整えることが大切である。教育委員会においては、学校の教職員が体験活動に関する指導力を高めるとともに、学校外の関係機関等とも円滑に連携協力しながら体験活動の充実を図ることができるよう、関係機関等の協力も得ながら、体験活動の指導方法や受入先との関わり方などについて教職員に対する研修の機会を充実することが求められる。
体験活動は、学校を離れて行う活動が多いため、子ども一人ひとりの健康管理や食アレルギーなど個別的に配慮を要する児童生徒への対応に十分配慮する必要がある。活動の内容等を踏まえつつ、子どもの健康状態を把握するとともに、必要に応じ実地調査による事前の検討・点検、活動の際の専門家の立会等が求められる。特に、宿泊体験等において屋外での活動や自然の中での活動を行う場合には、安全の確保等の観点から、季節や天候、地形や水量、動植物の状況等に十分留意するとともに、各分野の専門家や地元の人の助言や協力を得ることも大切である。受入先の地域や施設における医療機関との協力体制や留守中の学校の安全管理体制の確保についても、事前に十分確認する必要がある。
万一事故等が発生した場合に備え、傷害保険等に加入した上での活動が望ましい。文部科学省では14年11月25日付け事務連絡において示しているとおり、体験活動実施に際して保険の加入等を進めているところであり、教育委員会や学校にあっても適切に判断されたい。
体験活動は、当然ながら保護者の理解を得て、その協力の下で実施することが重要である。体験活動の意義や効果とともに、期間中の安全管理体制等について保護者に粘り強く説明し、理解を得るよう努めなければならない。特に、保護者に一定の実費負担等を求めることが多い長期宿泊体験については、子どもの健康面等で不安を持つ保護者も多いため、PTA集会や体験活動推進協議会の場などを積極的に利用していくことも考えられる。
活動内容によっては、より専門的な知見を有する指導員の指導を仰いで活動を実施する方が望ましいことがある。関係機関等と連携する中で、こうした指導員に関する情報を事前に入手し、事前の打ち合わせを行うなどして、体験活動の趣旨・目的につき共通理解を得た上で、実施に当たることが大切である。
また、特に宿泊体験活動の際の生活指導等に当たっては、例えば、活動地域の近隣の大学の学生など、子どもと年齢が近く「お兄さん」「お姉さん」としての役割が期待される若者を活用することも考えられる。教員養成課程にある若者にとっては、子どもとふれあう機会を得て、教師としての資質向上につなげることもできるであろう。このような指導員については、受入先の地域や施設から紹介してもらえることもあるので、後述のプログラムの場合と同様、受入先と幅広く相談することが望まれる。
平成13年の学校教育法の改正で、学校における体験活動の実施に際しては社会教育関係団体その他の関係機関との連携に十分配慮しなければならないことが新たに規定された。文部科学省では、14年3月には、厚生労働省と連携を図り、奉仕活動・体験活動の推進に当たっての福祉担当部局との連携について通知を発出し、社会福祉施設等における活動実施上の留意点を示している。
体験活動の円滑な実施に際しては、地域の関係機関・団体等との連携に十分配慮するとともに、学校外の指導者の協力を得ることが必要である。活動の内容に応じて、教職員間の連絡を密にしながら学校外の専門家や関係者の協力を得ることが求められる。保護者、自治会、社会教育関係団体、青少年団体、NPO団体、企業等の関係者で構成する「学校支援委員会」等の委員会を設けるなどして、学校の活動に支援を得る体制を整えることが大切である。
また、このような委員会の活動を通じ、例えば、地域において体験活動に活用できる場や協力してもらえる人々・団体の情報を進め、それらのマップやリストづくりを進め、情報バンク化することも考えられる。教育委員会が、体験活動に関する支援センターを設置し、コーディネーターを配置するなどして、体験活動の場や機会、指導者に関する情報の収集・整理・提供を行い、学校からの相談への対応や調整等を行う仕組を整えることも意義深いことである。
特に宿泊体験活動を実施するに当たっては、受入施設や場所をどうやって選ぶかが重要な問題となる。近隣にある地域を教育委員会等に手配してもらったり、教職員が個人的に知っている場所等を活用する場合等を除いて、学校自らが活動場所を選ぶ必要が出てくる。場所が決まらなければ、実施プログラムも検討できない。プログラムづくりにしても、宿泊体験活動に初めて取り組む先生であればかなりの負担となる。一朝一夕にできるものではない。
このため、日頃から受入プログラムや組織体制を整えている地域や施設との協力関係を構築する、連絡協議会を開催する、先方のコーディネート組織との連絡を密にとるなどの対応が求められる。旅行会社や観光産業関係者に問い合わせるのもよいであろう。プログラムづくりに際しても、「あまり作りこみすぎず、考えすぎず、まずは相談する」。どういうことができるのかという相談も含め、受入先の施設や地域に対しどういうプログラムを提供してもらえるか等をまず学校側から早期に確認し、「子どもたちにこういった学習もさせたい」「こういったテーマについて知見を深めてもらいたい」等といった学校側の要望を伝えつつ、相談しながらプログラムづくりを進めていくことが大切である。
青少年教育施設や体験活動実施可能な農林漁家・民宿等を有する地域にあっては、日頃からこれらの情報を一元化して、外部からの問い合わせ等に対応できるようなコーディネート組織を備えておくことが期待される。また、地域の指導員やボランティアに係る情報を集約しておくとともに、雨天時の対応も含めた様々な活動プログラムを備えておくことも期待される。
教育活動全体の授業時数には限りがあるが、可能な限り[ねらい]や内容に照らし、適当なまとまった期間にわたり体験活動を実施することが望ましい。特に長期宿泊体験活動にあっては、既に述べたとおり、経験則上、3泊目頃からその効果がより現れるようになってくるといわれてい。体験活動の時間の実施が長期休業期間中や土曜日又は日曜日となることも考えられるので、学校管理規則を改定し授業日を弾力的に設定することなども、必要に応じ教育委員会と相談するなどして、検討されたい。
また、指導計画の作成に当たっては、活動内容をあまり詰め込みすぎず、子どもたちが自分で考え、判断・選択し、行動できる時間をより確保するよう工夫したい。事前の子どもの希望や考えに応じて、選択できる場面をできるだけ盛り込んだり、活動の際にも、教職員や指導員が「関わるべき範囲」と子どもに「任せる範囲」を分け、主体性を重んじることが大切である。実際に現地に行くと、予定していたことがうまくいかないことも当然あるため、行ってみて「こういうこともできる」ということを見つけて、子どもの発意や問題意識を生かしながらプログラムを修正していく、という場合も考えられる。何でも教師で準備するのではなく、活動内容の精選と対応の柔軟性が必要である。
体験活動の[ねらい]が子どもに効果的に定着するよう、体験活動の実施に際し、子どもに調べる活動を積極的にさせたり、いろいろな準備をさせるということが極めて大切である。これにより、子ども自身が自ら問題意識や活動のめあて、意欲をもって活動に取り組むことができるようになるとともに、一人ひとりのやりたいことや得意分野について教職員が配慮した上で活動に移行でき、教育効果を高めることができる。体験活動期間中において、異学級・異年齢にわたる集団構成による活動を行う場合には、その集団内での交流の機会を事前に持つなどする(アイスブレーキングの時間)ことも効果的だと考えられる。
また、体験活動終了後には、活動を終えて感じたこと、気付いたこと、考えたこと等について課題を与え、自分自身で振り返らせ、自分の中で深めた上でまとめさせるような事後指導が必須である。体験活動実施期間中には様々なことが発生し、いろんな思いを持つので、平時の学習環境に戻った後に、それらを自身で整理し、体験活動の効果をより自分の中で確固たるものにすることで、その後の各教科等の学習に生かすことができる。活動中のことを思い出させ、効果的に振り返らせるために、例えば期間中お世話になった方に手紙を出したり、それらの人々を発表会に招待する取組なども考えられる。
このほか、教育課程で実践した体験活動を、生徒会・児童会活動などの、子どもの主体性が最も発揮されうる機会での活動に継続・発展させていくことも考えられる(なお、高等学校では学校外での活動を単位認定することもできるので(学校教育法施行規則第63条の4)、活用が期待される。)。
-- 登録:平成21年以前 --