高等学校中途退学問題について



  平成4年12月11日
学校不適応対策調査研究協力者会議報告(概要)

1  高等学校中途退学の現状等

1. 高等学校の中途退学の現状
(1)  中途退学に関する各年度ごとの全国調査
 文部省においては,昭和57年度から中途退学者数の全国調査がおこなわれている。
(2)  高等学校中途退学者進路状況等調査
 文部省において,都道府県教育委員会等の協力を得て,平成3年度に,平成元年度の公立高等学校の中途退学者について抽出でアンケート調査と面接調査を実施した。アンケート調査の有効回答者は1,860人であり,面接調査は156人に実施した。概要は以下のとおり。

 中学校時代の生活については,82.4%の者が「楽しかった」「まあ楽しかった」と感じているが,授業については,「むずかしかった」と思っていた者が20.2%,「少しむずかしかった」と思っていた者が34.5%となっている。

 中学校の進路指導への要望は,「高校の生活や勉強についてもっと教えてほしい」が最も多く,29.0%,続いて「将来の職業についてもっと教えてほしい」26.5%,「自分の入学したい学校を受けさせてほしい」24.7%,「将来の生き方についてもっと教えてほしい」20.6%などとなっている(複数回答)。

 高等学校での生活は,56.5%の者が「楽しかった」「まあ楽しかった」と感じているが,授業については,「むずかしかった」と思っていた者が35.1%,「少しむずかしかった」と思っていた者が30.6%となっている。

 30.1%の者が進級できなかったこと(原級留置)があると答えており,この中で原級留置が中途退学の原因になっていると回答した者は73.4%に上る。

 中途退学した理由については,学校生活・学業不適応が32.5%,その他が18.5%,進路変更が18.2%,問題行動等が10.6%となっている。
 その他の割合がかなり高くなっており,その中には「やりたい職業があったから」,「留年したから」など進路変更や学業不振に分類されるものが含まれている。

 中途退学時の具体的な状況については,進路の変更をしたいと「とても思っていた」「ある程度思っていた」者は52.7%,授業についていけないと「とても思っていた」「ある程度思っていた」者は49.0%,高等学校の生活が合わないと「とても思っていた」「ある程度思っていた」者は57.2%,勉強がきらいだと「とても思っていた」「ある程度思っていた」者は57.4%であった。

 高等学校への希望としては,「社会にでてから役立つようなことを教えてほしい」が42.6%で最も多く,続いて「もっと学校の規則やきまりをゆるやかにしてほしい」33.8%,「もっと興味のもてる教科・科目を設けてほしい」28.5%となっている(複数回答)。

 現在の状況については,「仕事をしていて学校へは行っていない者」が65.7%,「学校に行っている者」が11.7%,「仕事をしながら学校に行っている者」が9.3%,「仕事もしていないし,学校へも行っていない者」が11.5%となっている。

 「学校に行っている者」と「仕事をしながら学校に行っている者」(合わせて21.0%)のうち,64.4%が高等学校に在籍しており,24.9%が専修・各種学校に在籍している。
 また,「仕事をしていて学校へはいっていない者」と「仕事もしていないし,学校へも行っていない者」(合わせて77.2%)のうち,29.3%の者が将来の就学希望を持っている。

2. 高等学校中途退学の原因
 高等学校中途退学の原因については,いろいろな要因が複雑に絡み合って中途退学している場合が多く,その原因を特定することは困難であるが,概ね次のようにまとめられる。

 中学校においては,各高等学校の教育方針・教育内容や学科の特色等,高等学校で学ぶ意義や将来の進路との関わり,生徒の適性などについての理解を図る指導や相談がややもすると不足し,また,中学浪人をださないようにとの配慮から偏差値による進路指導を行っているというケースがみられる。

 高等学校側の問題としては,目的意識や学習意欲が不十分なまま高等学校に入学する生徒がいる中で,十分な適応指導が行われていない面がある。また,基礎的な学力が十分身についていないまま高等学校に入学したり,自己の興味・関心に従って選択履修したいとする生徒がいるにもかかわらず,ともすると画一的な教育課程,学習指導が依然として行われているという問題もある。

 原級留置が中途退学につながるケースが多い。
 また,他の学校や学科へ移動を希望しても困難であるという問題や普通科における職業教育,職業学科における進学希望者への対応が未だ不十分であるという問題もある。

 生徒側についても,高等学校で学ぶことの意義,入学する学校の教育方針や特色等についての十分な理解がなく,目的意識や学習意欲が不十分,あるいは基礎的な学力が身に付いていないまま高等学校に入学して授業についていけない,などで中途退学するケースがある。
 家庭の教育力の低下から基本的な生活習慣が身についておらず,学校生活に適応できないなどの理由で中途退学するなどのケースもある。

2  高等学校中途退学問題についての基本的認識

 これまで高等学校生徒の中途退学については,その数の多少や増減で一律に議論されてきた傾向があるが,中途退学の態様には様々なものがあり,今後,より多面的な認識や評価をしていく必要がある。

 高等学校中途退学には,各学校における指導の充実や学校と家庭との連携によってある程度防止できる場合と,就職や他の学校への入学など積極的な進路変更により中途退学するケースなど新たな進路への適切な配慮が求められる場合があり,それらを分けて考えることが必要である。
 特に後者の場合には,中途退学即学校不適応という視点だけではなく,退学して積極的に進路を変更するという意志を尊重するという視点からの考察も必要である。

 もとより,生徒が進路変更により中途退学しようとしているからといって,安易な指導に流れないよう留意しなければならない。

 生徒が充実感をもって学校生活を送れるよう「参加する授業」,「分かる授業」を行うようにするとともに,生徒の多様な実態に対応して,高等学校教育の多様化,柔軟化,個性化を推進することが重要である。

 中途退学者の中で再び高等学校で学びたいと希望する者が多くおり,転・編入学が円滑に行われるようにするなど中途退学者が再度就学できるようにしていくことが大切である。

3  今後の高等学校中途退学問題への対応

1. 高等学校中途退学問題への対応の基本的視点
 高等学校中途退学など学校不適応の問題は,今日の高等学校教育の在り方そのものにかかわるものであり,高等学校教育の多様化,柔軟化,個性化を進めていくことが重要である。

 中途退学の背景となる生徒の学校不適応の状況を的確に把握し,積極的進路変更を理由とする中途退学への指導の在り方を含め,個々に応じた指導が必要である。

 学校生活において様々な達成感や成就感を味わうことができるよう,学校において魅力ある教育活動を展開し,学校への適応を図っていく指導が重要である。

2. 高等学校中途退学問題への今後の対応方策
(1)  高等学校教育の多様化,柔軟化,個性化を推進すること
 高等学校における教育課程等の改善
 多様な教科・科目を設置するなど,生徒の能力・適性,進路等に応じた選択幅の広い教育課程を編成していく必要がある。その際,普通科において適切な職業に関する教科・科目の履修の機会の確保について配慮することなども大切である。

 卒業までの修得単位数について,生徒に過度の学習負担を課して逆に学習意欲を減退させることにならないよう,できる限り80単位に近づけていくよう,その取組を積極的に促進していく必要がある。

 各学校において,進路規定を生徒の実態に即して大幅に見直し,修業年限内に学校が定める卒業単位数を修得できる見込みがあればできるだけ,進級認定するなどの弾力化に努める必要がある。

 各学校において,生徒が自分の学校に対して帰属感をいだき誇りを持てるような特色ある,魅力あふれる学校作りを進める必要がある。

 中・高等学校における進路指導の改善・充実
 中学校において,平素の指導を通して,生徒に進路を主体的に考え選択する能力や態度を育成し,それが進路決定に生かされるよう適切な進路指導を行う必要がある。
 また,高等学校においても,入学後卒業までの時期に応じた計画的な進路指導が必要であり,進路指導部等の充実を図り,一貫した進路指導を行うとともに,教科・科目の選択等について十分な指導を行うなどの取組が必要である。

 中学校及び高等学校は相互に十分な連携をとりながら進路指導を進める必要があり,地区別連絡協議会の開催や体験入学の一層の充実など積極的に進めることが望まれる。

 また,人間としての在り方生き方に関する教育について,学校教育活動全体を通じて充実していくことが重要である。

(2)  個に応じた手厚い指導を行うこと
 高等学校における生徒指導の充実
 不本意入学者などに対して入学時の適切な適応指導や本人の疑問や不安にいつでも適切な相談を行うことのできる体制を整備・充実することが大切である。

 校則や校則に違反した場合の懲戒などが中途退学に結びつくケースもあることから,校則に違反した生徒については,その措置が単なる制裁にとどまることなく真に教育的効果を持つものとなるよう配慮する必要がある。

 「参加する授業」「分かる授業」の徹底等個に応じた学習指導の改善・充実
 高等学校の授業が理解でき興味をもって学習できるようにすることが中途退学を防止する上でも大切であり,「参加する授業」「分かる授業」を徹底していくことが重要である。

(3)  開かれた高等学校教育の仕組を整えること
 中途退学した生徒の中には再度高等学校に戻りたいと希望する者も少なくないという状況にかんがみ,できる限り本人の希望を尊重し,円滑に高等学校に戻れるよう,編入学の積極的な受入れを進めていくことが大切である。
 また,生徒が他の学校,学科での学習に興味を感じ,転校・転科を希望する場合には,可能な限り弾力的に認めていくことも大切である。

 生徒や保護者などに対し,転・編入学の制度が存在することやその手続き等について周知を図る必要がある。また,転・編入学の受入れに当たっては弾力的に対応していくことが大切であり,例えば,選択幅の広い教育課程編成を行ったり,学年を超えて履修できる科目を設けたりするなど教育課程編成の工夫が望まれる。
 さらに,転・編入学前の学習成果について可能な限り弾力的に評価することが必要である。

 進路変更を行う場合の就職や転学等についての相談に積極的に応じ,進路指導の充実を図るとともに,中途退学者が後々も気軽に相談することのできる窓口を学校に設置するなど,中途退学後の追指導を充実する必要がある。

3. 教育委員会及び国における重点的取組
(1)  高等学校教育の多様化,柔軟化,個性化を進める施策の充実
 各都道府県教育委員会等においては,高等学校教育の魅力づくり,個性化や弾力化のため,新しいタイプの高等学校の設置や魅力ある学科やコースの設置,既存の学科改編などについて積極的に取組む必要がある。

 高等学校教育の改革の推進に関する会議から提言等が行われている普通科・職業学科の枠を越えて生徒の幅広い主体的な選択を可能とする総合的な新学科の設置や,全日制課程における無学年制の導入,高等学校間の連携による単位互換などについて早急に制度化する必要がある。

 教育委員会においては,選抜方法の多様化,選抜尺度の多元化を一層進めることを基本的方向として,入学者選抜方法の改善に取り組む必要がある。
 その際,生徒の能力・適性等を様々な側面から評価していくことが大切であり,例えば,生徒の個性や優れた点に着目してそれを積極的に評価するために,調査書の学習成績の記録以外の記載事項にスポーツ活動,文化活動,ボランティア活動などの社会活動を盛り込んで積極的に活用することも期待される。また,自ら学ぶ意欲と思考力,判断力,表現力の育成を重視するという新しい教育課程のねらいを踏まえ,高等学校入学者選抜においてもこれらの能力が適切に評価されるような方策を工夫していくことが必要である。

(2)  各学校の積極的取組への重点的支援
 特に中途退学者が多数にのぼるような高等学校については,教員配置の充実による指導体制の強化を図っていくことが重要である。また,教育相談について専門的な知識・技術・経験を備えた教員の養成に努めることが必要である。

 国においても,各高等学校における生徒指導体制の一層の充実を図るため,教員を重点的に配置することができるような措置の拡充が必要であり,この場合,中途退学者が多数いる学校に対して特に配慮する必要がある。

 中途退学を防ぐためにも高等学校の多様化,柔軟化,個性化を推進することが大切であり,生徒の選択履修の幅の拡大が可能となるよう多様な教科・科目を開設する学校や普通科において職業系のコースを開設している学校などに対して教員配置を充実していく必要がある。

 普通科において必要に応じて適切な職業に関する各教科・科目の履修の機会を設けることに努めるほか,学校,関係機関,地域等が一体となって勤労体験学習の推進を図り,生徒の望ましい勤労観,職業観を育成できるよう所要の施策を推進していく必要がある。

 各学校の相談活動等の取組の支援のために,都道府県教育センターの教育相談員の一層の充実を図っていく必要がある。

(3)  中途退学する生徒に対する相談の充実及び就学先の確保
 転・編入学を希望する生徒に対する就学相談など各学校における追指導が充実するよう,教育委員会としても援助していくことが求められる。また,教育委員会に相談窓口を設置し,相談,情報提供等を行うことが大切である。

 学校側の受入れ体制を充実するため,転・編入学のための特別定員枠の設定や,単位制を重視した教育課程の編成,単位制高校の設置の促進,定時制・通信制課程の充実などを図ることが大切である。

4. 家庭や社会への要望
 退学後本人は何をしたいのか,学校に戻る気持ちはあるのかなど,建設的な事柄について本人と話合い,適切な助言をすることが望まれる。なおその際には,進路先や高等学校への編入学の手続き等について,高等学校と密に連携をとることが必要である。

 各家庭においては,子どもの高等学校進学に当たり,「子どものためを思えばこそ」という親の側の考えのみによって一方的に進路を決定したり,単に学習成績のみを参考として志願先高等学校を決定したりするのではなく,小さい頃からの子どもの興味・関心や長所等を十分に踏まえて,あくまで子どもの意志を尊重しつつ,親は温かい目をもって子どもの成長・自立を援助する観点に立って助言を行い,子どもが自主的に進路を決定していくようにすることが望まれる。

-- 登録:平成21年以前 --