第3節 公民

第1款 目標

 広い視野に立って、現代の社会について理解を深めさせるとともに、人間としての在り方生き方についての自覚を育て、民主的、平和的な国家・社会の有為な形成者として必要な公民としての資質を養う。

第2款 各科目

第1 現代社会

1 目標

 人間の尊重と科学的な探究の精神に基づいて、広い視野に立って、現代の社会と人間についての理解を深めさせ、現代社会の基本的な問題に対する判断力の基礎を培うとともに自ら人間としての在り方生き方について考える力を養い、良識ある公民として必要な能力と態度を育てる。

2 内容

(1)現代社会における人間と文化

 現代世界における文化の多様性・複合性に着目させるとともに日本の生活文化と伝統について理解させ、異なった文化への理解を深めさせる。また、現代社会の特質とそこに生きる人間について理解させるとともに、現代における青年期の課題について自覚を深めさせる。

ア 風土と生活
 様々な民族から成る世界には、それぞれの風土や宗教などに根ざした多様な文化が存在し、その中で人間生活が営まれていることを理解させるとともに、文化交流について考えさせ、文化の共通性にも気付かせる。

イ 日本の生活文化と伝統
 日本の生活文化と伝統を理解させ、それらが行動の基盤になっていることを考えさせることにより自己理解を深めさせるとともに、人生における宗教や芸術の意義について考えさせる。

ウ 現代社会の特質と青年期の課題
 大衆社会、高齢化社会、情報化社会など現代社会の特質を理解させ、それとの関連で学ぶことの意義及び青年期における自己形成の課題について認識を深めさせ、進路の選択と併せてよく生きることと生きがいの追求について自覚を深めさせる。

(2)環境と人間生活

 環境と人間生活とのかかわりについて理解させるとともに、環境にどうかかわて生きるかについて考えさせる。

ア 環境と生活
 科学技術の発達、資源・エネルギーの需給、都市化の進展及び人口の動きなどを理解させ、環境と生活とのかかわりについて考えさせる。

イ 環境保全と倫理
 人間が生態系の中で生存していることに着目させて公害の防止など環境保全の重要性を理解させ、自然と人間の調和の在り方について考えさせるとともに、科学的なものの考え方と哲学的なものの考え方について理解させ、諸問題への対処の仕方について考えさせる。

(3)現代の政治・経済と人間

 国民の生活が経済や政治と密接にかかわっていることを理解させるとともに、国民生活の向上と民主化の進展について考えさせ、民主社会の倫理について自覚を深めさせる。

ア 地域社会の変化と住民の生活
 地域社会の変化に着目させ、地方自治と住民福祉について理解させ、住民の生活と政治・経済の動きとのかかわりについて考えさせるとともに、地域社会の一員としての自覚を深めさせる。

イ 国民福祉と政府の経済活動
 現代の市場と企業、技術革新などと情報化や国際化の進展について理解させ、我が国の経済社会の変化について考えさせる。また、国民所得の動き、産業構造の変化、雇用問題と労働関係、消費者保護と契約、社会保障の充実、社会資本の整備などについての理解を深めさせるとともに、公的部門の役割と租税の意義について考えさせ、国民生活の向上と福祉の増大に対する認識を深めさせる。

 ウ 日本国憲法と民主政治
 基本的人件の保障と法の支配、国民主権と議会制民主主義、平和主義と我が国の安全についての理解を深めさせ、日本国憲法の基本的原則について国民生活とのかかわりから認識を深めさせる。また、世界の主な政治体制の動向に触れながら、世論形成と政治参加の意義について理解させるとともに、民主政治における個人と国家について考えさせる。

エ 民主社会の倫理
 生命の尊重、自由・権利と責任・義務、人間の尊厳と平等などについて考えさせ、民主社会において自ら生きる倫理について自覚を深めさせる。

(4)国際社会と人類の課題

 国際的な相互依存関係の緊密化に伴う国際社会の変化及び日本経済の国際化について理解させ、国際秩序の形成・維持と平和の実現及び生活の向上と福祉の増大が人類の課題であることを把握させるとともに、これからの国際社会における日本の役割及び日本人の生き方について考えさせる。

ア 国際政治の変化
 国家主権と国際法、国際連合と集団安全保障、国際社会の多極化と国際的相互依存関係の深化など国際社会の特質と動向について理解させるとともに、我が国の安全保障と防衛について考えさせる。

イ 国際経済の動向と国際協力
 経済における世界的な相互依存関係の緊密化、南北問題などの世界的な課題、日本経済の国際的なかかわりなどについて理解させ、世界の経済体制の動向に触れながら、国際協力の意義について考えさせる。

ウ 人類の課題
 人権、領土などに関する国際法、地域紛争と国際秩序の形成・維持、人種・民族問題、核兵器と軍縮問題など国際平和を推進する上での課題について理解させ、これからの国際社会における人類の連帯の意識を認識させ、国際社会における日本の役割及び日本人の生き方について考えさせる。

3 内容の取扱い

(1)内容の全体にわたって、次の事項に配慮するものとする。
 ア 中学校社会科及び道徳並びに公民科に属する他の科目、地理歴史科、家庭科及び特別活動などとの関連を図るとともに、項目相互の関連に留意しながら、全体としてのまとまりを工夫し、特定の事項だけに偏らないようにすること。
 イ 社会的事象は相互に関連し合っていることに留意し、できるだけ相互的な視点から理解させ考えさせるとともに、生徒が主体的に自己の生き方にかかわって考えるよう学習指導の展開を工夫すること。
 ウ 科目の目標に即して基本的な事項・事柄を精選して指導内容を構成するものとし、細かな事象や高度な事項・事柄には深入りしないこと。
 エ 的確な資料に基づいて、社会的事象に対する客観的かつ公正なものの見方や考え方を育成するとともに、学び方の習得を図ること。その際、統計などの資料の見方やその意味、情報の検索や処理の仕方、簡単な社会調査の方法などについて、具体的、実際的に指導するように留意すること。
 オ 政治及び宗教に関する事項の取扱いについては、教育基本法第8条及び第9条の規定に基づき、適切に行うこと。

(2)内容の取扱いに当たっては、次の事項に配慮するものとする。
 ア 内容の(1)については、次の事項に留意するものとする。
 (ア)「青年期における自己形成の課題」については、青年期の心理的、社会的な問題、適応と個性の形成などについて理解させるとともに、生涯にわたる学習の意義について考えさせるようにすること。
 (イ)「進路の選択」については、自己の人生と職業生活及び余暇について考えさせるよう工夫すること。
 イ 内容の(2)については、自然環境とともに社会環境も取り上げ、人間生活とのかかわりについて考えさせること。
 ウ 内容の(3)については、民主政治の展開と経済発展とのかかわりにも気付かせるようにすること。
 エ 内容の(4)については、単なる制度や機構に関する細かな事柄の学習に終わらないようにするとともに、国際政治と経済とのかかわりに関心をもたせるようにすること。

第2 倫理

1 目標

 人間尊重の精神に基づいて、青年期における自己形成と人間としての在り方生き方について理解と思索を深めさせるとともに、人格の形成に努める実戦的意欲を高め、良識ある公民として必要な能力と態度を育てる。

2 内容

(1)青年期と人間としての在り方生き方

 生涯において青年期がもつ意義を理解させるとともに、先哲の基本的な考え方を手掛かりとして、人間の存在や価値について思索を深めさせる。

ア 青年期の課題と自己形成
 人間性の特質、適応と個性の形成など生涯において青年期がもつ意義と課題を理解させ、現代社会における青年の生き方について考えさせる。

イ 人間としての自覚
 自己探求と倫理的自覚、人生における哲学、宗教、芸術のもつ意義などについて理解させ、人間としての在り方生き方を考えさせる。

(2)現代社会と倫理

 現代社会の特質について理解させ、現代に生きる人間の倫理的な課題について思索を深めさせる。

ア 現代社会の特質と人間
 現代の人間像に触れながら、核家族化、高齢化、情報化、国際化などの現代社会の特質への理解を深め、人間と社会のかかわりを考えさせる。

イ 現代社会を生きる倫理
 人間の尊厳と生命への畏敬、自然や科学技術と人間のかかわり、社会参加と奉仕、自己実現と幸福などについての理解を深め、民主社会を形成する人間としての在り方生き方を考えさせる。

(3)国際化と日本人としての自覚

 日本の思想や文化の特色について理解させ、国際社会における主体性のある日本人としての在り方生き方について思索を深めさせる。

ア 日本の風土と日本人の考え方
 日本人にみられる人間観、自然観、宗教観を日本の風土とのかかわりで考えさせる。

イ 外来思想の受容と日本の伝統
 仏教、儒教、西洋の思想や文化など受容と独自な思想の形成にみられる日本の伝統について考えさせる。

ウ 世界の中の日本人
 人類の福祉と国際平和の確立、地球と人類社会などについて理解させ、国際社会における日本人としての在り方生き方を考えさせる。

3 内容の取扱い

(1)内容の全体にわたって、次の事項に配慮するものとする。
 ア 中学校社会科及び道徳並びに公民科に属する他の科目、地理歴史科及び特別活動などとの関連を図るとともに、全体としてのまとまりを工夫し、特定の事項だけに偏らないようにすること。
 イ 先哲の基本的な考え方を取り上げるに当たっては、内容と関連が深く生徒の発達や学習段階に適した代表的な先哲やその言説を精選し、細かな事象や高度な事項・事柄には深入りしないこと。また、生徒自らが人生観、世界観を確立するための手掛かりを得させるよう様々な工夫を行うこと。
 ウ 政治及び宗教に関する事項の取扱いについては、教育基本法第8条及び第9条の規定に基づき、適切に行うこと。

(2)内容の取扱いに当たっては、次の事項に配慮するものとする。
 ア 内容の(1)については、この科目全体の導入部分としての性格をもつものであることに留意し、以後の学習への意欲を喚起すること。
 イ 内容の(1)のイについては、ギリシアの思想、キリスト教、仏教、儒教などの基本的な考え方を代表する先哲の思想を取り上げる程度とすること。
 ウ 内容の(2)については、美術作品などを引用して現代の人間像を紹介するなど工夫し、併せて現代社会を生きるための倫理に関する代表的な先哲の思想を手掛かりに学習すること。
 エ 内容の(3)については、古来の日本人の考え方や代表的な日本の先哲の思想を手掛かりに学習すること。

第3 政治・経済

1 目標

 広い視野に立って、民主主義の本質に関する理解を深めさせ、現代における政治、経済、国際関係などについて客観的に理解させるとともにそれらに関する諸課題について考察させ、良識ある公民として必要な能力と態度を育てる。

2 内容

(1)現代の世界と日本

 世界の情勢を概観して、国際関係を動かす基礎となる事柄や国際社会における日本の地位と役割について理解させるとともに、現代の世界と日本にかかわる基本的な課題について総合的に考察させる。

ア 国際社会の変容と日本
 第二次世界大戦を契機とする国際社会の変容、地理的、文化的諸条件を含む国際環境とのかかわりでみた日本の近代化の特質について理解させるとともに、世界の情勢や日本の国際的地位の変化について考察させる。

イ 国際社会の動向と課題
 科学技術の発達に伴う政治・経済・文化にわたる国際交流の拡大と相互依存関係の進化の状況、発展途上国の現状と動向、先進国と発展途上国との関係などについて理解させるとともに、環境、資源、人口など人類全体にかかわる基本的な課題について考察せる。

(2)現代の政治と民主社会

 基本的人権と議会制民主主義を尊重し擁護することの意義や民主政治の本質について深く理解させるとともに、政治の在り方について広い視野から考察させる。

ア 民主政治の基本原理
 政治社会の特質、国民の参政の意義、人権保障の発達、法の支配の原則、権利と義務の関係などについて理解させるとともに、議会制民主主義の本質と望ましい政治の在り方について世界の主な政治体制を比較しつつ考察させる。

イ 日本国憲法と民主政治
 日本国憲法の基本的性格、基本的人権の保障及び国会、内閣、裁判所、地方自治などの機構と機能について理解させるとともに、政党政治と選挙、行政機能の拡大と民主化、世論と現代政治の課題などについて考察させる。

ウ 国際政治と日本
 国際政治の特質と動向、人権、領土などに関する国際法の意義と役割、国際連合と国際協力、我が国の防衛を含む安全保障の問題、国際平和と人類の福祉に寄与する日本の地位と役割について理解させるとともに、軍縮問題、人種・民族問題など国際政治の諸課題について考察させる。

(3)現代の経済と国民生活

 経済生活の急激な変化と発展、日本経済の国際化、現代経済の機能と特質及びその問題点について理解させるとともに、日本及び世界経済の抱える諸課題について考察させる。

ア 経済社会の変容と経済体制
 19世紀の自由主義経済から経済政策の役割が大きくなった現代に至る資本主義経済の発展と変容、国民経済における家計、企業の働きと政府の役割、社会主義経済とその現状について理解させるとともに、現代経済の基本的性格について考察させる。

イ 現代経済の仕組み
 市場経済の仕組み、資金の循環と金融機関の働き、財政の仕組みと租税の意義・役割、経済成長政策と景気変動対策について理解させるとともに、それらの現状と課題について考察させる。

ウ 現代経済と福祉の向上
 産業構造及び人口構成並びに労働条件の変化、経済の発展と福祉の向上との関連について理解させるとともに、食料と農業、資源・エネルギー、環境保全と公害防止、物価、消費者保護、中小企業問題、労使関係と労働市場、社会保障と社会福祉など、経済生活に関する諸課題について考察させる。

エ 国民経済と国際経済
 貿易と国際収支の現状や為替相場の仕組み、国際協調の必要性や国際経済機関の役割、経済協力の動向について理解させるとともに、経済摩擦問題や国際経済における日本の役割について考察させる。

3 内容の取扱い

(1) 内容の全体にわたって、次の事項に配慮するものとする。
 ア 中学校社会科、公民科に属する他の科目、地理歴史科及び家庭科などとの関連を図るとともに、全体としてのまとまりを工夫し、特定の事項だけに偏らないようにすること。
 イ 科目の目標に即して基本的な事項・事柄を精選して指導内容を構成するものとし、細かな事象や高度な事項・事柄には深入りしないこと。また、客観的な資料と関連させて具体的に理解させるとともに、政治や経済についての公正かつ客観的な見方や考え方を深めさせること。
 ウ 現在の状況と課題を理解させる指導に当たっては、現在の我が国で実現されている法的、制度的な面についての基本的な理解の上に立って、理論と現実の相互関連を理解させること。
 エ 内容と関連のある現代の諸問題や時事的事象の取扱いについては、教育基本法第8条の規定に基づき、適切に行うこと。

(2) 内容の取扱いに当たっては、次の事項に配慮するものとする。
 ア 内容の(1)については、この科目全体の導入部分としての性格をもつものであることに留意し、基本的な事柄の理解と考察を通じて以後の学習の手掛かりを得させるようにすること。
 イ 内容の(2)については、主権者としての政治に対する関心を高め、主体的な参政の在り方について理解させること。

第3款 各科目にわたる内容の取扱い

 指導の全般を通じて、情報を主体的に活用する学習活動を重視するとともに、作業的、体験的な学習を取り入れるよう配慮するものとする。そのため、各種の統計、年鑑、白書、新聞、読み物、その他の資料に親しみ、活用すること、観察、見学及び調査・研究したことを発表したり報告書にまとめたりすることなど様々な学習活動を取り入れるとともに、教育機器などの有効な利用を工夫して学習効果を上げるようにする必要がある。

お問合せ先

初等中等教育局

-- 登録:平成21年以前 --