学習指導要領「生きる力」

第3章 言語活動を充実させる指導と事例

(1)生徒の発達の段階に応じた指導の充実

  生徒が,対象に関する概念を構成したり拡大したりするためには,学んだことや体験したことなどを整理し価値付けして,それを言葉で表すなどの言語活動が大切である。
  平成20年の答申においては,基礎的・基本的な知識・技能の一層の習得・理解を図るためには,個人差等はあるものの,一般的に,小学校低学年から中学年までは,体験的な理解や具体物を活用した思考や理解,反復学習などの繰り返し学習等の工夫による「読み・書き・計算」の能力の育成を重視し,中学年から高学年にかけて以降は,体験と理論の往復による概念や方法の獲得,討論・観察・実験による試行や理解を重視するといった指導上の工夫が有効であるとしている。
  また,同答申では,思考力・判断力・表現力等の基盤となる言語の能力の育成に当たって,幼児期から小・中・高等学校への発達の段階が上がるにつれて,具体と抽象,感覚と論理,事実と意見,基礎と応用,習得・活用・探究など,認識できるものや実践できるものが変化するとしている。その上で,各教科等においては,記録,要約,説明,論述といった言語活動を発達の段階に応じて行うことが重要であるとしている。
  このため,具体的な言語活動を実施する場合にも,生徒の発達の段階に配慮する必要があり,例えば,
・帰納・類推,演繹などの推論を用いて,説明し伝え合う活動を行う。
・日常生活の中で気付いた問題について,自分の意見をまとめ説得力ある発表をする。
・社会生活の中から話題を決め,それぞれの視点や考えを明らかにし,資料などを活用して話し合う。
・グループで協同的に問題を解決するため,学習の見通しを立てたり,調査や観察等の結果を分析し解釈したりする話合いを行う。
・新聞,読み物,統計その他の資料を基に,根拠に基づいて考えをまとめ報告書を作成する。
・実験や観察の結果,調査結果などを整理し重点化し,相手に分かりやすく,ポスターやプレゼンテーション資料などに表現する。
・テーマを決めて複数の本や資料などを読み,内容を比較したり,批判的にとらえたりするなど,知識や考えを深める。
といった点を重視する必要がある。

~小学校版における参考点~

【高学年】
○演繹法や帰納法などの論理を用いて表現する。
○規則性やきまりなどを用いて表現する。
○互いの立場や意図をはっきりさせながら,計画的に話し合う。
○書いた物を発表し合い,表現の仕方に着目して助言し合う。
○本や文章などを読んで考えたことを発表し合い,自分の考えを広げたり深めたりする。

(2)教科等の特質を踏まえた指導の充実及び留意事項

  言語活動については,国語科で培った能力を基本に,すべての教科等において充実する必要がある。その際,第1章(3)で述べたように,言語活動は各教科等の目標の実現のための手立てであることに留意し,教科等の特質を踏まえつつ国語科との関連を図りながら取り組むことが必要である。
  国語科では,「話すこと・聞くこと」,「書くこと」及び「読むこと」の各領域において,言語活動を通して言語能力を育成している。他の教科等は,この言語能力や言語活動の経験を生かして指導することが大切である。そのために,例えば,国語科の年間指導計画の中に指導事項と言語活動を明記し,他の教科等との関連が図られるような取組が重要である。なお,各教科等には,それぞれの学習に必要な語彙や特別な意味をもつ語句があり,また,特有の言語表現の形式がある場合がある。言語活動を通して,これらを効果的に指導することも重要である。
  一方,国語科においては,他の教科等における学習の成果物を教材として取り上げたり,総合的な学習の時間や特別活動等における体験を言語活動の題材にしたりすることなどを,言語能力の育成のために効果的に取り入れることが考えられる。

<国語>

  「話すこと・聞くこと」,「書くこと」及び「読むこと」の各領域では,社会生活に必要とされる発表,案内,報告,編集,鑑賞,批評などの言語活動を行う能力を確実に身に付けることができるよう,継続的に指導することとし,課題に応じて必要な文章や資料等を取り上げ,基礎的・基本的な知識・技能を活用し,相互に思考を深めたりまとめたりしながら解決していく能力の育成を重視している。
○中央教育審議会答申(平成20年1月)の国語科改訂の趣旨に示す「実生活で生きてはたらき,各教科等の学習の基本ともなる国語の能力を身に付けること」を一層重視して国語科の授業改善を図ることが求められる。
○そのためには,学習指導要領の内容の(2)に示す言語活動例を基に,具体的な言語活動を通して指導事項を指導することが大切である。    その際,「考えを書く」「話し合う」といった活動が脈絡なく行われることのないよう,生徒が自ら学び,課題を解決していくための学習過程を明確化し,単元を貫く言語活動を位置付けることが必要である。
○このような単元構想を進めるためには,年間指導計画と生徒の実態とを踏まえて,(1)当該単元で重点的に指導すべき指導事項を確定する,(2)その指導事項を指導するのにふさわしい言語活動を選定する,(3)言語活動を位置付けることで育成すべき国語の能力の一層の明確化・具体化を図る,(4)それら育成すべき能力を身に付けるための指導過程を構築する,といった手順で考えていくことが有効である。
○特に「C読むこと」においては,無目的に場面ごと,段落ごとに平板に読み取らせることに偏った指導を改善し,指導事項に示す読むことの内容を生徒に確実に身に付けることが求められる。すなわち,生徒自身にとっての読む目的を明確にして本や文章を選んだり,目的に応じて内容を的確にとらえたり,自分の考えをまとめて交流したりするなど,生徒に必要な読む能力を調和的に育成することが重要である。またそのためにも,言語活動例を具体化し,授業における読書活動を一層充実していくことが重要であり,学校図書館の充実や地域の図書館との連携も求められる。
○なお,内容の(2)に示す言語活動例は例示であるため,これらのすべてを行わなければならないものではなく,それ以外の言語活動を取り上げることも考えられる。

<社会>

  社会科においては,社会的事象に関する基礎的・基本的な知識,概念や技能を習得するとともに,社会的な見方や考え方を養うことができるように,様々な資料を適切に収集・選択・活用して,社会的事象を多面的・多角的に考察し公正に判断するとともに適切に表現する学習活動を充実する。
○地理的分野においては,地図の読図や作図などの学習を通して思考力や表現力等の育成を図るとともに,世界の様々な地域の調査や身近な地域の調査において,地図を有効に活用して事象を説明したり,自分の解釈を加えて論述したり,意見交換したりするなどの学習活動を充実する。
○歴史的分野においては,学習した内容を活用してその時代を大観し表現する活動や,各時代における変革の特色を考えて時代の転換の様子をとらえる学習などを通じて,歴史的事象について考察・判断しその成果を自分の言葉で表現するなどの学習活動を充実する。
○公民的分野においては,習得した知識,概念や技能を活用して,社会的事象について考えたことを説明したり,自分の考えをまとめて論述したり,議論などを通して考えを深めたりするなどの学習活動を充実する。

<数学>

  数学科においては,生徒が学んだ数学を活用して考えたり判断したりすることをよりよく行うことができるよう,言葉や数,式,図,表,グラフなどの数学的な表現を用いて,論理的に考察し表現したり,その過程を振り返って考えを深めたりする学習活動を充実する。その際,以下の点に留意する。
○数学的な表現を適切に用いることができるよう,具体的な事象を数学的に表現したり,処理したりする技能を高める学習活動を充実する。
○数学的な推論を的確に進めることができるよう,思考の過程や判断の根拠などを数学的に表現して説明したり,数学的に表現されたものについて話し合って解釈したりする学習活動を充実する。
○数学的に表現したり,それを解釈したりすることのよさを実感できるよう,数や図形の性質などについて伝え合うことで,お互いの考えをよりよいものに改めたり,一人では気付くことのできなかったことを見いだしたりする機会を設けることに留意する。

<理科>

  理科においては,科学的な思考力・表現力の育成を図る観点から,生徒の状況,指導内容等に応じて,例えば問題を見いだし観察,実験を計画する学習活動,観察,実験の結果を分析し解釈する学習活動,科学的な概念を使用して考えたり説明したりするなどの学習活動を充実する。
○問題を見いだし観察,実験を計画する場面では,事実や根拠に基づいて結果を予想したり,検証方法を討論したりしながら考えを深め合うよう留意する。
○観察,実験の結果を分析し解釈する場面では,結果を図,表,グラフなどの多様な形式で表したり,モデルと比較したりするなど,考察する時間を十分に確保し考えをまとめ表現する学習活動を充実する。
○科学的な概念を使用して考えたり説明したりする場面では,レポートの作成,発表,討論など知識及び技能を活用する学習を工夫し充実を図る。

<音楽>

  音楽科においては,創意工夫して音楽表現をする能力や味わって聴く能力を育成する観点から,音楽を形づくっている要素を知覚し,それらの働きが生み出す特質や雰囲気を感受しながら,例えば,表現領域では,どのように音楽表現をしたいのかという思いや意図を言葉で表したり,鑑賞領域では,音楽を聴いて価値などを考え,批評したりする学習活動を充実する。
○音によるコミュニケーションの充実を図るため,音楽に対するイメージ,思い,意図などを相互に伝え合う活動を位置付けて,仲間とともに創意工夫して音楽を表現する喜びを味うようにしたり,鑑賞した音楽に対する様々な感じ取り方があることに気付いて一人一人の音楽に対する意識を広げたりする。
○言葉と音楽との関係を重視する観点から,歌唱表現において,歌詞の内容や言葉の特徴を生かして歌ったり,日本語のもつ美しさを味わったりする学習活動を充実する。
○鑑賞の能力を育むために,音楽的な特徴などを理由として挙げながら音楽のよさや美しさなどについて述べる活動を位置付けて,主体的,創造的に味わって聴くことができるようにする。

<美術>

  美術科においては,表現や鑑賞の能力を育成する観点から,形や色彩,材料の感情効果やイメージなどをとらえながら,アイデアスケッチ等により発想や構想を練ったり,作品などに対する自分の価値意識をもって批評し合うなどして幅広く味わったりするなどの学習活動を充実する。
○表現においては,発想や構想の能力を高めるために,アイデアスケッチで構想を練ったり,言葉で考えを整理したりするなどの学習を一層充実する。
○鑑賞においては,鑑賞の能力を高めるために,作品などに対する自分の価値意識をもって批評し合うなどして,造形的なよさや美しさ,作者の心情や意図と表現の工夫,美と機能性の調和,生活における美術の働きなどを感じ取り,対象の見方や感じ方を広げるなどの学習を一層充実する。
○指導計画の作成に当たっては,形や色彩,イメージなどの〔共通事項〕を視点に,美術科で育てようとする資質や能力を具体的に育成するような言語活動の充実を工夫することが重要である。

<保健体育>

  保健体育においては,生涯にわたって運動に親しみ,健康の保持増進を図る資質や能力の育成を図る観点から,主に体を動かす活動を通して,コミュニケーションや感性・情緒に関する学習活動及び知的活動を充実する。また,健康・安全に関する知識を活用する学習活動を充実する。
○体育分野においては,各運動場面で,体を動かす機会を適切に確保した上で,相手や仲間のよい演技に賞賛を送る,互いのよい演技を認め合う,互いに教え合うなどのコミュニケーションを図る学習活動を充実する。また,例えば,自己観察や他者観察などを活用し,仲間の演技からよい動き方を見付けたり,ビデオなどの映像を通して,自己の演技と仲間の演技の違いを比較したりすることで,自己の取り組むべき技術的な課題を明確にするなど,知識を実践的に活用する学習活動を充実する。
○保健分野においては,実習や実験などを実施した際の観察や体験を基に話し合い,考察し,個人生活における健康・安全に関する課題や解決の方法を見付けたり,選んだりするなどの活動を充実する。また,健康に関わる概念や原則を基に,自分たちの生活や事例と比較したり,関係を見付けたりしたことについて,筋道を立てて説明するなどの活動を充実する。

<技術・家庭>

  知識及び技術を活用して生活における課題を解決する能力を育む観点から,衣食住やものづくりに関する様々な語彙の意味を実感を伴って理解する学習活動や言葉・図表及び概念などを用いて考えたり,説明したりするなどの学習活動を充実する。
○技術分野においては,ものづくりなどの経験を通して,技術に関する重要な概念を思考等で利用できるような形にするといった学習活動を充実する。また,設計や計画の場面においては,製作図や栽培・飼育計画表,フローチャート等の技術特有の言語を用いて自らの考えを整理するとともに,よりよいアイディアを生み出すなどの学習活動を充実する。
○家庭分野においては,調理,製作,幼児と触れ合う活動などの実習を行った後に,体験から感じ取ったことや気付いたことをまとめたり,その結果を整理し考察したり,共有したりするなどの学習活動を充実する。また,衣食住などに関する知識や概念などを用いて課題を解決する方法を考えたり,生活の中の様々な情報を言葉や図表等にまとめて分析し,根拠に基づいて説明したりするなどの学習活動を充実する。

<外国語>

  外国語科においては,英語を理解し,英語で表現できる実践的な運用能力を育成する観点から,「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」の4領域にわたり,実際に言語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合うなどの学習活動や,文法事項等の言語材料について理解したり練習したりする学習活動を充実する。
○「聞くこと」については,英語を聞いて話し手の意向などを理解する学習活動を,「話すこと」については,英語を用いて自分の考えなどを話す学習活動を,「読むこと」については,英語を読んで書き手の意向などを理解する学習活動を,「書くこと」については,英語を用いて自分の考えなどを書く学習活動を,それぞれ充実するとともに,これら四つの技能を3年間を通してバランスよく育成することに留意する。
○実際に言語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合うなどの活動においては,具体的な場面や状況に合った適切な表現を自ら考えて活動ができるようにする。
○活動を行うに当たり,言語の使用場面(「特有の表現がよく使われる場面」など)や言語の働き(「コミュニケーションを円滑にする」など)を取り上げるようにする。

<道徳>

  道徳においては,道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方についての自覚 を深める観点から,自分とは異なる考えに接する中で,自分の考えを深め,自らの成長を実感できるよう,自分の考えを基に,書いたり討論したりするなどの表現する学習活動を充実する。
○人生の意味をどこに求め,いかによりよく生きるかといった人間としての生き方に関わって,生徒と生徒及び自分自身との対話が深まるよう,表現する活動の内容や場面の一層の工夫が求められる。
○終末の段階での書く活動を通して,その時間の学習を振り返ることに当てることが考えられる。
○展開の段階などで,討論などを通して,生徒同士が,相手の意見を言い負かしたり,自分の意見を発表するだけに終始するのではなく,資料中に描かれている登場人物等の生き方や他の生徒の意見を手がかりに自分自身の考えを練り上げていく,自分自身の考えをつきつめて厳しく吟味していくということが考えられる。

<総合的な学習の時間>

  問題の解決や探究活動の過程においては,他者と協同して問題を解決しようとする学習活動や,言語により分析したり,まとめたり表現したりするなどの学習活動が行われるようにする。(※3)
○探究的な学習活動を充実するため,PISA型読解力(※4)における読解のプロセスを参考とした「課題の設定」→「情報の収集」→「整理・分析」→「まとめ・表現」という探究の過程を重視する。
○多様な情報の入手,他者の尊重と自らの役割の自覚,交流の広がりと深まりの実現に向けて,他者と協同して取り組む多様な学習活動を行う。
○体験したことや収集した情報を整理したり,分析したりして思考する活動へと高めるとともに,他者に伝えたりまとめたりして自分の考えを明らかにする学習活動を行う。

<特別活動>

  特別活動においては,よりよい生活や人間関係を築く力を育成する観点から,自己の考えや思いを自分の言葉で適切に表現するとともに,考え方の違いや多様性を超えて集団として意見をまとめ,総意を決め,協力して実現する活動を重視する。
  また,自分に自信がもてず,人間関係に不安を感じていたり,好ましい人間関係を築けず社会性の発達が不十分であったりする状況が見られたりすることから,自由に意見を述べ合える望ましい集団を育成するとともに,人間的な触れ合いによる温かい交流的な実践活動や体験活動を通して,他者を理解したりよりよい人間関係を形成したりする力を養う活動,他者から認められて自分のよさに自信をもつ活動,自己の役割を果たし合って協同して生活する活動,異年齢の子どもたちからなる集団による活動を一層重視する。特に実践活動や体験活動については,思考力・判断力・表現力等を育成する観点から,実践や体験を通して感じたり,気付いたりしたことを振り返り,言葉でまとめたり,発表し合ったりする活動を重視する。
○学校や学級における生活上の問題を,話合いを通して解決する活動を一層重視する。その際,学級活動や生徒会活動で行う様々な会議の方法について,国語科で学習した内容を体験的に理解したり実践したりできるようにする。
○望ましい人間関係や集団生活の形成に必要な言語に関する能力を育成するため,同年齢のほか,異学年,幼児,高齢者,地域の人々などの異年齢の人たちとの言葉の交流活動を効果的に展開し,相手意識をもって接する活動や,自分や他者の多様な考えをよりよい方向へまとめていくような活動を充実する。
○実生活や実社会で役立つ言語に関する能力を育成するため,時と場に応じた挨拶や言葉遣いの在り方について考えたり,それらを啓発したりする活動を重視する。
○学校図書館の意義や役割に気付き,積極的に活用しようとする態度の育成に努める。
○実践したりしたことや体験したことを自分の言葉でまとめ,発表し合ったり,報告文や記録文に表したことを,自己の考えを深めるために活用する活動を一層重視する。


(※3)この際,『今,求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(総合的な学習の時間を核とした課題発見・解決能力,論理的思考力,コミュニケーション能力等向上に関する指導資料)』(平成22年11月文部科学省)を活用することが望まれる。
(※4)4ページ脚注1参照

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-- 登録:平成23年05月 --