児童が言語を基に対象に関する概念を構築していくためには,体験したことを整理して,それを言葉で表すなどの言語活動が必要となる。平成20年の答申においては,個人差等はあるものの,一般的に,小学校低学年から中学年までは,体験的な理解や具体物を活用した思考や理解,反復学習などの繰り返し学習等の工夫による「読み・書き・計算」の能力の育成を重視し,中学年から高学年にかけて以降は,体験と理論の往復による概念や方法の獲得,討論・観察・実験による試行や理解を重視するといった指導上の工夫が有効であるとしている。このため,具体的な言語活動を実施する場合にも,児童の発達の段階に配慮する必要があり,例えば以下のような点を参考にすることが望まれる。
【低学年】 |
【中学年】 |
【高学年】 |
言語活動については,国語科で培った能力を基本に,すべての教科等において充実する必要がある。その際,各教科等の特質を踏まえつつ国語科との関連を図りながら,言語活動の考え方や諸点に留意して取り組むことが必要である。
「話すこと・聞くこと」,「書くこと」及び「読むこと」の各領域では,日常生活に必要とされる記録,説明,報告,紹介,感想,討論などの言語活動を行う能力を確実に身に付けることができるよう,継続的に指導することとし,課題に応じて必要な文章や資料等を取り上げ,基礎的・基本的な知識・技能を活用し,相互に思考を深めたりまとめたりしながら解決していく能力の育成を重視する。
○平成20年答申の国語科改訂の趣旨に示す「実生活で生きてはたらき,各教科等の学習の基本ともなる国語の能力を身に付けること」を一層重視して国語科の授業改善を図ることが求められる。
○そのためには,学習指導要領の内容の(2)に示す言語活動例を基に,具体的な言語活動を通して指導事項を指導することが大切である。その際,「ここで音読する」「ここで話し合う」といったばらばらの活動ではなく,児童が自ら学び,課題を解決していくための学習過程を明確化し,単元を貫く言語活動を位置付けることが必要である。
○このような単元構想を進めるためには,年間指導計画と児童の実態とを踏まえて,【1】当該単元で重点的に指導すべき指導事項を確定する,【2】その指導事項を指導するのにふさわしい言語活動を選定する,【3】言語活動を位置付けることで育成すべき国語の能力の一層の明確化・具体化を図る,【4】それら育成すべき能力を身に付けるための指導過程を構築する,といった手順で考えていくことが有効である。
○特に「C読むこと」においては,指導事項に示す読むことの内容を児童に確実に身に付けるため,無目的に場面ごと,段落ごとに平板に読み取らせる指導を改善することが求められる。すなわち,児童自身にとっての読む目的を明確にして本や文章を選んだり,目的に応じて内容を的確にとらえたり,自分の考えをまとめて交流したりするなど,児童に必要な読む能力を調和的に育成することが重要である。またそのためにも,言語活動例を具体化し,授業における読書活動を一層充実していくことが重要である。
○そのための基盤として,シリーズで読む,好きな作品を見付けて読む,目的に応じて本や文章を比べて読むといったことが可能となるよう,学校図書館の充実や地域の図書館との連携が求められる。
○なお,内容の(2)に示す言語活動例は例示であるため,これらのすべてを行わなければならないものではなく,それ以外の言語活動を取り上げることも考えられる。
作業的・体験的な学習や問題解決的な学習を一層充実させることにより,学習や生活の基盤となる知識・技能を習得させるとともに,それらを活用して観察・調査したり,各種の資料から必要な情報を集めて読み取ったりしたことを的確に記録し,比較・関連付け・総合しながら再構成する学習や考えたことを自分の言葉でまとめ伝え合うことによりお互いの考えを深めていく学習の充実を図る。
○調べたことや考えたことを表現する力を育てるようにする。
・第3学年及び第4学年においては,調べたことや地域社会の社会的事象の特色や相互の関連などについて考えたことを,相手にも分かるように表現できるようにすることが大切である。
・第5学年においては,調べたことや社会的事象の意味について考えたことを,根拠や解釈を示しながら図や文章などで表現し説明できるようにすることが大切である。
・第6学年においては,調べたことや社会的事象の意味について広い視野から考えたことを,根拠や解釈を示しながら図や文章などで表現し説明できるようにすることが大切である。
○観察や調査・見学などの体験的な活動を指導計画に適切に位置づけて,調べたことや考えたことを表現する力を育てるようにすることが重要である。
数学的な思考力,判断力,表現力等は,合理的,論理的に考えを進めるとともに,互いの知的なコミュニケーションを図るために重要な役割を果たすものである。この数学的な思考力,判断力,表現力等を育成するため,見通しをもち根拠を明らかにし筋道を立てて考える学習活動を充実する。また,言葉や数,式,図,表,グラフなどの相互の関連を理解するとともに,それらを適切に用いて,問題を解決したり,自分の考えを分かりやすく説明したり,互いに自分の考えを表現し合ったりする学習活動などを充実する。
○考えを表現する過程で,そのよさや誤りに気付いたり,筋道を立てて考えを進めたり,よりよい考えを作ったりすることができるよう指導を充実することが重要である。
○授業の中では,様々な考えを出し合い,お互いに学び合っていくことができるよう指導を充実する。
○問題を解決したり,判断したり,推論したりする過程において,見通しをもち,筋道を立てて考えたり表現したりする力を育むことが重要であり,その際,帰納的な考えや類推的な考え,演繹的な考えを用いることができるようにする。
科学的な思考力・表現力の育成を図る観点から,学年や発達の段階,指導内容に応じて,例えば観察・実験の結果を整理し考察する学習活動,科学的な言葉や概念を使用して考えたり説明したりする学習活動を充実する。
○小学校理科の学習は,問題解決の過程を経ることにより実現されることから,その過程において科学的な言葉や概念を使用して考え表現することを充実させることにより言語活動の充実を図る。
○予想や仮説を立てる場面では,問題に対する考えを記述したり,児童相互の話合いを適宜行うことにより,条件に着目したり視点を明確にしたりして自らの考えを顕在化させることが考えられる。
○結果を整理し,考察し,結論をまとめる場面では,観察,実験の結果を表やグラフに整理し,予想や仮説と関係付けながら考察を言語化し,表現することを一層重視する。
身近な人々,社会及び自然との関わりや自分自身について考えたり,気付きの質を高めたりするため,活動や体験したことを振り返ったり,他者と交流したりするなどの学習活動を充実する。
○互いのことを理解し合ったり,心を通わせたりして関わることの楽しさが分かり,身の回りの多様な人々と交流することができるように,自分たちの生活や地域の出来事を身近な人々と伝え合う学習活動を行う。
○具体的な活動や体験を通して気付いたことを基に考えさせるため,見付ける,比べる,例えるなどの多様な学習活動を工夫する。
表現や鑑賞の活動において,音楽を特徴付けている要素や音楽の仕組みを聴き取り,それらの働きが生み出すよさや面白さ,美しさを感じ取る学習や,感じ取ったことを基に,音楽表現を工夫し,どのように表すかについて思いや意図をもって音楽表現したり,音楽全体を味わって聴いたりする学習を充実する。
○鑑賞の活動において,感じ取ったことを言葉で表すなどの活動を位置付け,楽曲や演奏の楽しさに気付いたり,楽曲の特徴や演奏のよさに気付いたり理解したりする能力の育成を重視する。
○合唱や合奏,グループによる音楽づくりの活動において,どのように表すかについて思いや意図を伝え合ったり,他者の考えに共感したりしながら,皆で一つの音楽をつくっていく指導を重視する。
○歌唱表現において,歌詞の内容や言葉の特徴を生かして歌ったり,日本語のもつ美しさを味わったりするなど,言語と音楽との関係を大切にした指導を重視する。
表現や鑑賞の活動において,形や色,材料の感じ,表し方の変化,表現の意図や特徴などをとらえながら,感じたことや思ったことを話したり,友人と話し合ったりするなどの学習活動を充実する。
○表現や鑑賞の活動を通して,感性を働かせながら,つくりだす喜びを味わうようにするとともに,造形的な創造活動の基礎的な能力を培い,豊かな情操を養うことが求められる。
○表現においては,発想や構想の能力,創造的な技能を高めるために,材料や場所の特徴,表したいことや用途などについて,考えたことを伝え合ったり,形や色,材料の感じなどを生かして表現したりするなどの学習を一層重視することが考えられる。
○鑑賞においては,鑑賞の能力を高めるために,感じたことや思ったことを話したり,友人と語り合ったりしながら,材料による感じの違い,表し方の変化などをとらえ,身近にある作品や親しみのある作品などのよさや美しさなどを感じ取るような指導を充実することが望ましい。
○指導計画の作成に当たっては,形や色,イメージなどの〔共通事項〕を視点に,図画工作科で育てようとする資質や能力を具体的に育成するような言語活動の充実を工夫することが重要である。
言語を豊かにし,知識及び技能を活用して生活の課題を解決する能力を育む観点から,衣食住など生活の中の様々な言葉を実感を伴って理解する学習活動や,自分の生活における課題を解決するために言葉や図表などを用いて生活をよりよくする方法を考えたり,説明したりするなどの学習活動を充実する。
○生活の中の様々な言葉を実感を伴って理解するため,実習や観察などの実践的・体験的な活動を行い,レポートの作成や考察,思考したことを発表するなどの学習活動を充実する。
○自分の生活における課題を解決するための問題解決的な学習を充実する。その際,インタビューや体験を通して課題をつかませたり,比較実験や調べる活動を行い,その結果から分かったことや考えたことを図表やグラフ,言葉にまとめ,それを発表し合い活用の仕方を考えるなどの学習活動を充実する。
コミュニケーション能力を育成したり,論理的思考力を育んだりする観点から,ゲームや練習などにおける励ましや協力をすること,及び練習方法や作戦を考えたり,成果を振り返ったりするために話し合う活動などを充実する。また,健康・安全に関する知識を活用する学習活動を充実する。
○運動領域では,他者とのコミュニケーション能力を育成するため,身体表現や,ゲーム場面での意思疎通などの集団的活動で互いに励まし合ったり,相手チームの健闘を称えたりして,協力して学び合う活動を,保健領域では,実習や実験などを実施した際の観察や体験を基に話合いを行い,考察し,身近な生活における課題や解決の方法を見付けたり,選んだりするなどの活動を充実する。
○運動領域では,論理的思考力を育成するため,資料を基に練習方法や作戦を考えて教え合ったり,その成果や課題について話し合ったり,学習カードにまとめたりする活動を,保健領域では,健康に関わる概念や原則を基に,自分の生活と比較したり,身近な生活との関係を見付けたりしたことを説明するなどの活動を重視する。
道徳的価値の自覚及び自己の生き方についての考えを深める観点から,書く活動や語り合う活動など一人一人の感じ方や考え方を表現する機会を充実し,自らの道徳的な成長を実感できるようにする。
○児童が問題意識をもち,意欲的に考え,主体的に話し合うことができるよう,ねらい,児童の実態,資料や学習指導過程などに応じて,発問,話合い,書く活動,表現活動など指導方法の工夫が求められる。
○資料や体験などから感じたこと,考えたことをまとめ,発表し合ったり,討論や討議などにより意見の異なる人の考えに接し,協同的に議論したり,考えをまとめたりするなど,言葉の能力を総動員させて学習に取り組ませる。
○人に感動を与える心の美しさや強さを浮き彫りとした教材等を活用することが考えられる。
○自分自身と集団や社会との関わりについての考えを深めるため,公正,社会正義などの道徳的諸価値に関わる様々な課題について討論等を行い考察させるような指導を行うことが考えられる。
小学校の段階においては,外国語でのコミュニケーションを体験する機会を通して,中学校や高等学校での外国語科につながるコミュニケーション能力の素地を育成する学習活動を充実する。
○外国語でのコミュニケーションを通して,その楽しさを経験し,言語を用いてコミュニケーションを図ることの大切さに気付かせ,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成することが重要である。
○体験的に外国語を聞いたり,話したりすることを通して,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませるとともに,日本語との違いを知ることで言葉の面白さや豊かさ等に気付かせることが重要である。
問題の解決や探究活動の過程においては,他者と協同して問題を解決しようとする学習活動や,言語により分析したり,まとめたり表現したりするなどの学習活動が行われるようにする(※1)。
○探究的な学習活動を充実するため,PISA型読解力(※2)における読解のプロセスを参考とした「課題の設定」→「情報の収集」→「整理・分析」→「まとめ・表現」という探究の過程を重視する。
○多様な情報の入手,他者の尊重と自らの役割の自覚,交流の広がりと深まりの実現に向けて,他者と協同して取り組む多様な学習活動を行う。
○体験したことや収集した情報を整理したり,分析したりして思考する活動へと高めるとともに,他者に伝えたりまとめたりして自分の考えを明らかにする学習活動を行う。
よりよい生活や人間関係を築くために,自己の考えや思いを自分の言葉で主張できる子どもを育て,考え方の違いや多様性が十分に発揮できるようにするとともに,その違いや多様性を超えて集団として意見をまとめ,総意を決め,協力して実現する活動を重視する。
また,自分に自信をもてず,人間関係に不安を感じていたり,好ましい人間関係を築けず社会性の育成が不十分であったりする状況が見られたりすることから,自由に意見を述べ合える望ましい集団を育成するとともに,人間的な触れ合いによる温かい交流的な実践活動や体験活動を通して,他者を理解したりよりよい人間関係を築いたりする力を形成する活動,他者から認められて自分の良さに自信をもつ活動,自己の役割を果たし合って協同して生活する活動,多様な異年齢の子どもたちからなる集団による活動を一層重視する。特に実践活動や体験活動については,実践や体験を通して感じたり,気付いたりしたことを振り返り,言葉でまとめたり,発表し合ったりする活動を重視する。
○学校や学級における生活上の問題を,言葉や話合いを通して解決する活動を一層重視する。
○その際,学級会や児童会など様々な会議の方法について,国語科で学習した内容を体験的に理解したり実践したりできるようにする。
○望ましい人間関係や集団生活の形成に必要な言語に関する能力を育成するため,協同の目標の下に行う同年齢や異学年,幼児,高齢者などとの異年齢による言葉の交流活動を効果的に展開し,相手意識をもって接する活動や,自分や他者の多様な考えをよりよい方向へまとめていくような活動を充実させる。
○実生活や実社会で役立つ言語に関する能力を育成するため,よりよいあいさつや言葉遣いの在り方について考えたり,それらを啓発する活動,地域の方々との交流活動を重視する。その際,児童会と地域の人々との合同会議などを通して,正しい言葉によるコミュニケーションを促したりすることも考えられる。
○学校図書館の仕組みの理解や利用の仕方に関連して指導したり,日常の読書指導との関連を考慮したりするとともに,日常の学習に学校図書館を活用する態度の育成に努める。
○実践したことや体験したことを自分の言葉でまとめ,発表し合ったり,報告文や記録文に表したことを自己の生き方についての考えを深めるために活用する活動を一層重視する。
(※1)この際、『今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(総合的な学習の時間を核とした課題発見・解決能力,論理的思考力,コミュニケーション能力等向上に関する指導資料)』(平成22年11月
文部科学省)を活用することが望まれる。
(※2)Programme for International
Student Assessment(PISA:ピザ)の略。生徒の学習到達度調査と訳される。経済協力開発機構(OECD)が実施。主に,読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーの3分野について調査を実施。PISAにおいて,読解力とは「自らの目標を達成し,自らの知識と可能性を発達させ,効果的に社会に参加するために,書かれたテキストを理解し,利用し,熟考し,これに取り組む能力」と定義されており,側面別には,「情報へのアクセス・取り出し」「統合・解釈」「熟考・評価」の3つに分類し,到達度を測定。
初等中等教育局教育課程課教育課程企画室
-- 登録:平成23年01月 --