教科書の改善・充実に関する研究報告書(概要)-文部科学省委嘱事業「教科書の改善・充実に関する研究事業」-

1.趣旨

 本調査研究は、小学校の国語及び算数の教科書を対象として、現行教科書における改善・充実が望まれる点や、その方向性・方策について専門家会議で検討を行い、その成果を各発行者に伝えることにより、各発行者の教科書の改善・充実のための参考に資するためのものである。

2.調査研究の概要

1.研究事業

(1)事業の概要

・対象教科

小学校国語、小学校算数

・委嘱先

みずほ総合研究所株式会社

・実施期間

平成18年度、平成19年度

  • みずほ総合研究所株式会社において、専門家会議の提言を報告書としてとりまとめた。

(2)研究事業の概要

 大学等の研究者、現職教員、指導主事、著者で構成する専門家会議を設置。
 教員・保護者に対するアンケートを実施し、その結果の分析などを踏まえ、教科書の改善・充実に向けた提言についての報告書をとりまとめ、このたび、教科書発行者に配付するとともに、ホームページに概要を掲載。

(3)アンケートの概要

○対象

 シェア上位3社(国語:計95.4パーセント、算数:計82.6パーセント)のいずれかの教科書を使用している教員及び児童の保護者

○人数

 国語・算数をあわせ、全国でのべ約1,400名の教員、約600名の保護者を対象にアンケートを実施し、約6割から回答を得た。

2.小学校国語について

アンケート結果の概要

教員対象
【国語指導に対する教員の好感度と国語教科書に対する満足度】

 国語指導は好きと答えた教師が多いことに比べ(80.7パーセント(「好き」39.0パーセント、「まあ好き」41.7パーセント))、教科書に対する満足度は低い(48.9パーセント(「満足」5.3パーセント、「まあ満足」43.6パーセント))。
Q6.国語の指導は好きか
Q21.国語の教科書についての満足度

【学習活動に対する教科書の工夫や配慮についての意識】

 国語教科書について「学習活動の方法・手順」に対する工夫・配慮がなされていると感じている教員は多いが(69.5パーセント(「十分工夫」13.6パーセント、「やや工夫」55.9パーセント))、「学習内容の定着」に対する工夫・配慮がなされていると感じている教員は少ない(23.1パーセント(「十分工夫」1.8パーセント、「やや工夫」21.3パーセント))。
Q10.教科書の工夫度合い

【副教材等の使用】

 副教材を使用する教員は約半数。主な使用理由は「教科書の練習問題の分量が少ない」など。
Q14.教科書に準拠した副教材や補助教材の使用有無
Q14_1.副教材や補助教材を使用している理由(複数回答)

【文章・教材の分量】

 文章量及び教材の数については、「話すこと、聞くこと」「書くこと」「言語事項」よりも、「読むこと」(「説明的文章」と「文学的文章」)について少ないと感じる教員が多い。

  • 文章の量
    • 説明的文章 20.9パーセント(「少ない」5.3パーセント、「やや少ない」15.6パーセント)
    • 文学的文章 25.6パーセント(「少ない」7.2パーセント、「やや少ない」18.4パーセント)
  • 教材の数
    • 説明的文章 33.3パーセント(「少ない」7.9パーセント、「やや少ない」25.4パーセント)
    • 文学的文章 49.8パーセント(「少ない」14.3パーセント、「やや少ない」35.5パーセント)
Q18.文章及び教材の分量はどの程度適しているか
保護者対象
【国語教科書に対する満足度】

 教員に比べ、満足度は高いが(63.6パーセント(「満足」10.2パーセント、「まあ満足」53.4パーセント))、自由記述では「分量的にやや物足りなさを感じる」、「子どもはもう少し難しい文章や長い文章も読んだり理解したりできるのではないか」等の意見があった。
Q4.教科書の満足度(保護者)

 このようなアンケート結果を参考に、専門家会議では国語教科書の改善・充実に向けた方策について、11の提言事項としてまとめている。提言事項については、次ページのとおり。

【11の提言事項】

3.小学校算数について

アンケート結果の概要

教員対象
【算数指導に対する教員の好感度と指導の重点】

 算数指導は好きであり(94.3パーセント(「好き」56.7パーセント、「まあ好き」37.6パーセント))、「基礎・基本の定着」が最も重要と考えている(72.0パーセント)。
Q6.算数の指導は好きか
Q8.算数の指導にあたって、最も重要と考えているもの

【副教材等の使用】

 教科書の他に副教材を使用する教員が多い(79.7パーセント)。その理由としては、「教科書の練習問題の量が少ないこと(80.6パーセント)」や「問題が多様性に欠けているから(7.2パーセント)」があげられている。
Q15.教科書に準拠した副教材や補助教材の使用有無
Q15_1.副教材や補助教材を使用している理由

【教科書記述の視覚的効果】

 イラストや写真について、ほとんどの教員が適切に関連付けられていると感じているが(93.4パーセント(「適切に関連付け」34.3パーセント、「まあ関連付け」59.1パーセント))、分量については多いと感じている教員も見受けられる(20.1パーセント(「多い」3.1パーセントプラス「やや多い」17.0パーセント))。
Q12.イラスト、写真等の使用は本文と適切に関連付けられているか
Q13.使用されているイラスト・写真等の分量は適切か

【算数教科書の工夫や配慮】

 図形問題、文章問題、計算問題ともに、「児童の理解度に応じた指導が行えること」、「児童のつまずきやすい箇所に丁寧な説明」、「単元の内容が定着したかの指導」については否定的な回答も見られた。
Q11.教科書の工夫度合い

保護者対象
【算数教科書の適切さ】

 「児童の興味関心を引く学習内容」、「理解しやすい説明や記述への配慮」、「イラストや写真、吹き出しの配慮」については適していると感じている保護者が多い。
 これらの観点に比べ、「教材・単元等、教科書の分量」、「練習問題等の量」、「自宅での自習」については、適していない、あまり適していないと感じている保護者が多い。
Q3.各項目における教科書の適切度

 このようなアンケート結果を参考に、専門家会議では、算数教科書の改善・充実の方向性について、4の提言事項としてまとめている。提言事項については、次ページのとおり。

算数教科書の改善・充実に関する提言

1 練習問題の増加

 保護者へのアンケート結果には「練習問題の量が少ない」という意見が多かったことや、「今の教科書は、自宅での学習に適している」「まあ適している」を合わせても約2割ほどしかなく、保護者の不満があることから、練習問題を増加させることが望ましい。

2 新しい単元に入るときの導入の工夫

 優れた「導入」により算数への興味が増せば算数勉強への意欲が高まることから、一層の努力をして教科書の質をさらに高め、導入の頁数を倍増させるなどといった思い切った策をとることが望ましい。

3 イラストに頼りすぎず、文書記述の重視

 保護者の意見の中には「文字離れしている子どもには見やすいが、文字離れの助長になるという懸念をもつ」などがあった。また児童の意見の中にも「6年生だから絵や写真は少なくてよい」もあったことから、イラストの使い方を工夫し、文章記述を重視して、文章理解を通じて思考する力を育てることが大切である。

4 つまずきやすい箇所での一層の配慮

 分かり方は児童によって違うので、教科書は一度つまずいて分からなくなった児童に対して十分な配慮をする必要がある。特に文章題での一層の工夫が求められている。

算数専門家会議メンバー(五十音順、敬称肩書き略、平成20年3月末日)
  • 青山泰浩(京都市立嵐山小学校)
  • 下線ここから飯高茂(学習院大学)下線ここまで
  • 家田晴行(東京家政大学)
  • 大澤隆之(学習院初等科)
  • 國宗進(静岡大学)
  • 鈴木正則(豊田市教育委員会)
  • 田端輝彦(宮城教育大学)
  • 夏坂哲也(筑波大学附属小学校)
  • 町田彰一郎(文教大学)
  • 溝内哲也(香川県教育委員会)
  • 八木陽(八千代市立萱田小学校)
  • 芳沢光雄(桜美林大学)
  • 下線は座長を示す。

-- 登録:平成21年以前 --