教科書採択の在り方の改善について(通知)


平成2年3月20日

各都道府県教育委員会教育長  殿

文部省初等中等教育局長

教科書採択の在り方の改善について(通知)

  このたび,「教科書採択の在り方に関する調査研究協力者会議」により,教科書採択の在り方に係る改善方策について別添の報告(以下,「報告書」という。)が取りまとめられました。
  報告書においては,教科書採択の在り方に関し,教科用図書選定審議会,教科用図書採択地区,教科用図書の展示,採択理由等の周知・公表等の各事項について種々の改善方策が提言されております。
  新学習指導要領に基づく新しい教科書の採択が平成3年度から行われることになりますが,各都道府県教育委員会におかれては,それに向けて教科書採択の在り方に関し報告書で提言された各事項等について検討を加えその改善を図るとともに,併せて貴管下の市町村教育委員会に対しても同様の検討,改善方について指導されるよう願います。
  なお,報告書のII−1−(3)の教科書の見本及び編集趣意書の送付時期を早めること,II−3−(3)の教科書展示会の開催時期,II−6の採択期間の延長等については別途文部省において検討し,その結果については追って連絡することとしております。




教科書採択の在り方について(報告)

平成2年3月6日
教科書採択の在り方に関する調査研究協力者会議
座長  原田  親貞

 

  本協力者会議は,臨時教育審議会第3次答申における教科書採択に関する提言を踏まえ,昭和63年4月以来9回の会議を開催し,今後の教科書採択の在り方について調査研究を行ってきた。
  その結果,教科書採択の在り方にかかる改善方策について下記のとおりとりまとめたので報告する。

I.基本的な考え方

(1)  教科書は,小・中・高等学校等において主たる教材として使用義務が課されている図書であり,児童生徒の教育を行う上で極めて重要な役割を果たしている。したがって,教科書検定制度の下で各種目ごとに数種類発行されている教科書の中から,学校で使用する一種類の教科書を決定すること(採択)は,教育委員会のなすべき仕事のうちで最も大切なことの一つといえる。

(2)  教科書採択制度は,戦後教科書検定制度とともに開始され,その後,義務教育に関しては,教科書無償給与制度の導入に伴い,採択に係る都道府県教育委員会の役割,教科用図書選定審議会の設置,採択地区における共同採択等について制度が整備され現在に至っている。今日ではこの採択制度はおおむね定着してきているところであるが,次の3つの観点から更にその改善を図っていく必要があると考える。

(3)  第1は,専門的な教科書研究の充実である。適切な採択のためには,教科書内容についての十分かつ綿密な調査研究を欠かすことはできない。このため,都道府県教育委員会,採択地区等において,適切な採択組織・手続による専門的な教科書研究の一層の充実を図ることが重要である。
  第2は,適正かつ公正な採択の確保である。採択は,採択についての権限を有する者の責任において,適正かつ公正に行われる必要があり,このため採択における適正,公正の確保の徹底を図るとともに,このことについて採択関係者の一層の自覚を促すことが必要である。
  第3は,開かれた採択の推進である。教科書は児童生徒や教員はもちろんのこと保護者にとっても身近なものであり,教科書や教科書採択に対する国民の関心は高いところである。その意味で,教科書採択にはこうした保護者等の意見がよりよく反映されるような工夫をするとともに,採択結果等の周知・公表など保護者等の関心に応えるような方策を講じるなど,採択をより開かれたものにしていくことが必要である。

(4)  以上の3つの観点からIIに述べるような具体的な改善方策を講ずることにより,より適切な教科書の採択が行われ,ひいてはよりよい教科書の著作編集が行われることを期待するものである。


II.具体的な改善方策

1.教科用図書選定審議会について

(1)  都道府県教育委員会は,教科用図書選定審議会(以下「選定審議会」という。)の調査審議の結果に基づいて採択基準及び選定に必要な資料を作成し,これを採択権者である市町村の教育委員会や国立,私立学校の校長に提供することによって,これらの者の行う採択に関する事務について指導,助言,援助を行っている。都道府県教育委員会は,この役割を十分に果たすため,採択基準,選定資料等が採択権者においてより参考になるものとなるよう,その作成について更に工夫,充実していく必要がある。

(2)  選定審議会は,校長,教員,教育委員会関係者及び学識経験者の委員で構成されているが,教科書の採択に当たっては,地域の実情に応じ学識経験者の枠内で保護者の代表を委員に加えていくことが望ましい。なお,保護者代表委員の選任については,より幅広い視野に立った意見を求める観点から工夫していく必要がある。

(3)  選定審議会における教科書内容についての調査研究は教科書の見本や編集趣意書の到着の後でなければ行うことができないものであるから,選定審議会における実質的な調査研究期間を確保するため,教科書の見本及び編集趣意書の送付時期を早めることを検討する必要がある。

2.教科用図書採択地区と採択手続について

(1)  市町村立の義務教育諸学校で使用される教科書については,都道府県教育委員会が様々な条件を考慮して設定した採択地区(市若しくは郡の区域又はこれらの区域を合わせた地域)ごとに地区内の市町村教育委員会が共同して同一の教科書を採択することとされている。採択地区において各市町村教育委員会は,都道府県教育委員会の指導,助言又は援助の下で教科書の調査研究を十分に行い,適切な教科書の採択を行うよう努める必要がある。このため,採択地区においては,各地域の実績に応じて各教科ごとに適切な数の調査員を配置するなど調査研究体制の充実を図ることが必要である。

(2)  採択は,採択権者が自らの権限と責任において,適正かつ公正に行う必要がある。このことは,教科書に対する国民の信頼を確保するためにも,極めて重要なことである。このため,教科書発行者の適当な宣伝行為等の外部からの影響に採択結果が左右されることのないよう,採択における公正確保の徹底を図るための措置を講ずる必要がある。また,教職員の投票によって採択教科書が決定される等採択権者の責任が不明確になることのないよう,採択手続の適正化を図ることも重要である。

(3)  採択に保護者等の意見を取り入れていくことについては,現在,保護者代表として,地区内の市町村の教育委員が採択地区協議会の委員に加わっているところもあるが,採択により広い視野からの意見を反映させるために,これをさらに充実させることが望ましい。また,採択地区協議会やその下部組織の委員に,新たに保護者代表等を加えていくことも考えられる。


3.教科用図書の展示について

(1)  教科書展示会は,教科書の採択に当たり,校長,教員や採択関係者等の調査研究に資するために都道府県教育委員会が開催するものであり,各都道府県が教員等の教科書研究のために設置している教科書の常設展示場(教科書センター)などで行われている。教科書に対する教員や保護者の関心を高めるためにこの開催方法を見直し,各学校を訪問して行う移動展示会や,図書館,公民館など教員や保護者が足を運びやすいでの展示会をより拡充・充実させるとともに,展示会の開催期間以外においても,常時図書館等で教科書を見ることができるようにすることが望ましい。

(2)  教科書見本の献本については,教科書定価の抑制及び公正取引の確保の観点から一定冊数以内に制限する措置がとられているところであり,(1)で述べた展示会の拡充・充実に必要な教科書の見本については,都道府県教育委員会の指導・助言の下で都道府県教育委員会,採択地区,市町村教育委員会及び教科書センターの間で十分に協議して調整することが必要である。また,展示又は調査研究のために使用した後の教科書の見本については,図書館,公民館等において広く一般に利用できるようにするなど,その活用を図ることも考慮すべきである。

(3)  教科書展示会は,毎年,文部大臣が指示する時期に開催することとなっており,その時期は例年7月1日から10日間とされている。しかしながら,7月上旬は教員にとって学期末の多忙な時期に当たることから,展示会がその役割を十分に果たすようにするため,展示時期を早めることについて検討する必要がある。また,現在の10日間よりも長期にわたって開催することも検討すべきである。

4.高等学校用教科書の採択について

  高等学校においては,採択に当たり,各学校ごとに教科書の調査研究が行われているが,中には必ずしも生徒の実態に即した教科書が採択されていないような例も見られる。都道府県教育委員会は,採択権者として各高等学校に対して十分な指導・助言を行うことができるように,高等学校用教科書のための調査・研究組織を設けるなどして恒常的に教科書の調査研究を行っていくことが望まれる。

5.採択理由などの周知・公表について

(1)  採択結果及び理由については基本的に公表を予定しないものであるが,他方でこれを公表することは,教員や保護者にとってその採択地区で使用される教科書の特徴をつかみ理解を深めるとともに,教科書編集者にとって今後の教科書編集に資するという意義もある。したがって,採択権者においては,各地域の実情に応じて,採択事務の円滑な遂行に支障を来さない範囲内で公表していくことが望まれる。なお,採択理由を公表する場合には,教科書の特色等に留意し,単に教科書に優劣をつけるようなものにならないよう配慮する必要がある。

(2)  都道府県教育委員会における選定審議会の委員名及び採択地区における採択地区協議会等の委員名については,採択関係者の責任を明確にする意味からも,各地域の実情に応じて,できるだけ公表していくことが望ましい。なお,公表する場合には,採択の公正確保の観点から採択終了後とすることが適当である。

(3)教科書展示会の開催時期,場所等の周知については,展示会が教員のほか広く一般の国民にも利用されるべきものであることに鑑み,各学校に通知するのみではなく,県や市町村の広報紙,PTAだより,マスコミ等を利用して,積極的に周知を図っていく必要がある。その際,展示会開催の意義・目的,教科書採択の仕組み等についても併せて周知を図ることが望ましい。


6.採択期間の延長について

  義務教育諸学校において使用する教科用図書について同一の教科用図書を採択する期間は現在3年とされているが,新学習指導要領に基づいて編集される教科用図書の検定から検定周期が4年に延長されることに伴い,この採択期間についても4年に延長することが必要である。

(初等中等教育局教科書課)

-- 登録:平成21年以前 --