外国人児童生徒等における教科用図書の使用上の困難の軽減に関する検討会議(第2回)議事録

 1.日時

令和元年10月2日(水曜日)15時30分~17時30分

2.場所

文部科学省東館5階5F1会議室

3.議題

1.音声教材の使用により期待される効果等について

2.その他

※本会議時に発表のあった「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成30年度)」の結果については、令和2年1月10日に訂正が発表されました。訂正版は、「『日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成30年度)』の結果の訂正について」を御覧ください。

4.出席者

委員

齋藤座長、金森座長代理、井阪委員、犬飼委員、小澤委員、河村委員、築樋委員、土屋委員

文部科学省

中野教科書課長、季武教科書課長補佐、小林男女共同参画共生社会学習・安全課専門官

5.議事録

外国人児童生徒等における教科用図書の使用上の困難の軽減に関する検討会議(第2回)

令和元年10月2日



【齋藤座長】 ただいまから,第2回外国人児童生徒等における教科用図書の使用上の困難の軽減に関する検討会議を開催いたします。
まず初めに,事務局から配付資料の確認をお願いいたします。
【季武課長補佐】 資料につきまして,一番上に付けております議事次第に沿って,資料1,資料2,資料3-1と3-2とあります。資料3は,いずれも小澤先生から御提出を頂いたもので,3-1が報告資料,3-2がその参考資料となっております。それから資料4,今後のスケジュール,ということになっております。
もし不足等がございましたら,おっしゃっていただければと思います。よろしいでしょうか。
【齋藤座長】 ありがとうございました。
それでは,ここから議題に移らせていただきます。
カメラ,ビデオカメラ等による撮影はここまでとさせていただきますので,よろしくお願いします。
まず,前回会議の御意見等について,事務局からお願いいたします。
【季武課長補佐】 まず,資料1に沿って,簡単に前回頂いた御意見等を説明させていただきます。
前回頂いた御意見を,それぞれ関連項目ごとに分けさせていただいております。まず,「外国人児童生徒を取り巻く環境」ということで,外国人児童生徒等の置かれている状況につきまして,「日本国籍を持っていても,日本語教育が必要という生徒さんが増えている。特に外国籍の生徒に限らずに,そういった生徒への対応も必要である」という御意見を頂きました。
また,「特別支援教育が必要で,かつ日本語教育が必要という二重の負担を抱えている生徒も多く,そういった生徒への支援の検討も必要」との御意見を頂きました。
また,外国人児童生徒等に求められる支援としまして,「外国人児童生徒等に効果的な支援は,個人の置かれている状況によって,大きく異なる」ということで,「例えば,海外の方で,母国語では学習の土台がしっかり出来上がっている,という生徒については,母国語の教材や,母国語の教科用語の対訳集を活用することで,効果が高く得られるのではないか。一方で,海外でほとんど学校に通えていない等,元々の学習の土台がまだできていないという生徒については,また異なった支援が必要になるのではないか」という御意見を頂きました。
また次いで,「外国人児童生徒等を指導する教員の方が,教材に関する情報をどのように収集するか,また,その教材をどういうふうに丁寧に扱えるのか」という点について,文科省でも,かすたねっと等,ホームページ上で掲載しているようなものもあるというお話をさせていただきましたが,更に今後そうした情報を,どのように収集し,使っていくのか,という点について課題があるという御意見を頂きました。
また次いで,「外国人児童生徒等には,単純に日本語教育を行えば良いということではない。取り出し授業ばかりではなく,クラスの子たちの交流等を通じて,学校にもなじめるようにする必要がある」といった御意見も頂きました。
続いて,また別の次のくくりとしまして,「ICTを活用した教材等の現状等」ということで,まずデジタル教科書について,「障害を持つ子供向けの機能が充実していて,教科用特定図書等に近付いてきている」という御意見を頂きました。
また,「外国人児童生徒等を指導されている教員の方には,まだ音声教材の存在が,そもそも認知されていないのではないか」という御指摘を頂きました。
また,先ほどの外国人児童生徒等に求められる支援ともつながる話ですが,「海外から来日した外国人児童生徒等のうち,学習の土台ができていらっしゃるような生徒の場合には,母語の教科書等が,オンラインで入手できるような場合もあるので,そういった教材を活用していくということが考えられるのではないか」という御意見を頂きました。
また,「読みに困難を抱えていらっしゃる児童生徒には,分かち書き機能を使えるようにするということが有効だ」という御発表も頂きましたが,それに併せて,「教科書発行者において,デジタル教科書の作成等で,分かち書き機能を備えている場合には,そういったデータをボランティア団体の方等と共有することで,連携をより深めることができないか」といった御指摘も頂きました。
続きまして,「ICTを活用した教材等の活用により期待される効果」について,こちらも,生徒個人の状況によって,効果的な支援が大きく異なってくる中で,具体的にどういった支援がICT教材でできるのかということで,「例えば,文字の認識と文字を音声化するというプロセスにおける困難,例えば『漢字が読めない』,『発音が不正確』といった困難を抱えている場合には,読み上げの音声を聞きながら,文字との対応関係を学ぶことが有効と考えられる。一方で,語彙の意味の捉え方や使う場面についての知識,技能等や,文章の構造,文法面での知識等については,分かち書き等の機能を活用しつつ,教材だけでなく,指導をどのように行っていくのかといったことも検討をしていく必要があるのではないか」と御指摘を頂いたところでございます。
以上です。
【齋藤座長】 ありがとうございました。
確認したい点,補足したい点などがあれば,お願いいたします。いかがでしょうか。
【河村委員】 よろしいですか。
【齋藤座長】 お願いします。
【河村委員】 二重の負担を抱える児童生徒という形で,特別支援の課題を抱えると同時に,日本語に通じていない子供の存在が整理されているわけですけれども,それに関連して,実は,母語の普通の教科書を手に入れてということではなく,例えばブラジルでは,ほとんどの教科書はデイジー化されており,デイジー教科書が手に入る状態ができている、ということを前回申し上げました。
この二重の負担を抱えているお子さんは,ポルトガル語であっても,恐らく読みの障害を持っているという範疇に入るのではないかということを考えており,更にマラケシュ条約を両国とも批准しているので,すぐにでもポルトガル語のデイジー教科書が手に入りますと。
一般的には,外国籍であるというだけでは,著作権を制限して作った教科書等は使えません。ただ,二重の負担を抱えていると判断されているお子さんたちは,間違いなく,著作権を制限して作った教科書・教材等を使えるので,今のところ,全体で,特別支援学校に在籍する321人だったと思いますが,そのお子さんたちについては,自分が既に持っている言語的基盤のある言語による特別支援教育用の教材,例えばデイジー教科書であれば,オンラインで取り寄せることが可能です,という趣旨で申し上げたところです。
そういう趣旨ですので,一般的な教科書ではなく,デイジー教科書等について,私は意見を申し上げたつもりです。
【齋藤座長】 ありがとうございます。「ICTを活用した教材等の現状等」の3つ目の丸のところとの関係ですね。
【河村委員】 そうです。
【齋藤座長】 ありがとうございました。
よろしいですか。
【金森座長代理】 よろしいですか。
【齋藤座長】 はい。どうぞ。
【金森座長代理】 「ICTを活用した教材等の現状等」の最初のところ,「障害を持つ」という表現ですが,教育の世界ではこの表現は使われていないので,「障害のある」という表現にしていただいた方が良いと思います。
【齋藤座長】 ありがとうございます。今後も含めて,「障害のある」という表現で統一をお願いいたします。
【季武課長補佐】 頂いた御指摘は,次回までに反映させて,修正させていただきます。
【齋藤座長】 お願いします。
他には,何かお気付きの点,ありますか。よろしいでしょうか。
この資料1というのは,どういう形で,今後,記録されていくのですか。
【季武課長補佐】 これについては,次回も,今回頂いた御意見を反映して,報告書の素案として考えるためのたたき台として扱えればと考えております。事前に御説明しておらず,申し訳ございません。
【齋藤座長】 分かりました。お気付きになったことがありましたら,是非お声掛けください。今後も機会がありましたら,特に表現等,全体で統一することもあるかもしれませんが,よろしくお願いいたします。
これ以上はよろしいでしょうか。ありませんでしょうか。
では,頂いた御意見は,また次回までに反映させてくださるそうなので,よろしくお願いいたします。
それでは,次の御説明に移りたいと思います。
続きまして,資料2を御覧ください。「音声教材に期待される効果について」という資料ですが,これについて,井阪委員より御発表をお願いできますでしょうか。よろしくお願いいたします。
【井阪委員】 それでは,御報告いたします。
私は和泉市に勤務しております。和泉市においても,外国人児童生徒,日本語指導が必要な児童生徒は増加しております。また,使用する言語も多様になってきております。児童生徒の現状に合わせて,適切に音声教材を使用することが,その後の日本語習得や本来持っている能力を発揮するということにつながると考えています。
今回は児童生徒の実態に着眼し,指導という観点から,音声教材の効果について報告させていただきます。
まず,「外国人児童生徒の段階別学びの現状」ということで,指導者の視点から,段階別に捉えたものを,ここに表記させていただきました。それがJSL評価参照枠と合致するところがありまして,少し言葉を変えた形になっています。
更に,日本語を習得すれば,支援も減っていくということが,支援の形を表にしたところで,分かるかなと思います。
ただし,言語習得能力や児童生徒の置かれた環境によって,どの段階に当たるのか,また,どの段階にどのぐらいの期間を過ごすことになるのかということは,個人によって,異なります。
その言語習得能力を,図にさせていただきました。まず,言語習得の基の力となる「音韻認識」や,「認知機能」といったものが,子供たちに備わっていて,そこから,「聞く」,「話す」,「読む」,「書く」という活動になっていきます。
その「話す」という活動では,発音が非常に大事であり,「読む」という活動では,音・文字合わせというところが大事であって,ここに課題を持つと,弱さが目立ってくるということになります。
これらの活動の中で,双方向的に活用していくことで,語彙力やコミュニケーション力が向上していきます。
そうして力が付いていくことで,言語能力を習得し,実際に学習の中で,知識・技能,思考力・判断力・表現力,学びに向かう力・人間性といったところに,活用できていくものと考えています。
また,「児童生徒の置かれた環境」について,子供たちが移住する前の環境であったり,母語であったり,移住した年齢であったり,学校での環境であったり,それぞれが様々であって,児童生徒個人によって,置かれた環境は本当に人それぞれと言えます。
次に,「言語習得能力に対する音声教材の効果」について御報告いたします。
外国人児童生徒の学びの現状から,その置かれた環境や言語習得能力の違いによって,日本語習得の特性は異なります。
一方で,言語習得能力の育ちは,母語を日本語とする児童生徒と同じ過程をたどると言えます。
まず1つ目として,「聞く→話す」の段階です。文字を必要としない,聞いたり,話したりというところでは,音を話すというところで,発音という課題が浮かび上がってきます。シンプルな音の日本語は,舌を回して,多様な発音をする外国語からすると,発音が,かえって難しいと思います。
母語によっては,本当に日本語を母語とする子供たちと同じように,構音障害と同じような状態が起こっています。
次に,「読む」段階です。読む段階は,文字が必要になります。ここで,平仮名は,1文字に1音ですので,比較的習得されやすく,片仮名も,同じように習得されやすいです。
しかし,漢字は形の似たものがあったり,読み方も幾つもあったりするために,習得が難しいです。音・文字合わせの弱さを持つ場合は,平仮名,片仮名も難しいのですが,漢字では,更に困難さが増すと言えます。
次に,「書く」段階では,「読む」ことができる文字は,「書く」ことにつながりやすいです。前述の発音がうまくいかない場合,これは構音障害の子供たちにもよくあることなのですが,自分の発音した文字を書くことで,文字を間違えてしまいます。
さらに,漢字になると,形が複雑で,読み方も多様であり,違う形でも同じ読み方がたくさんあります。そのため,音・文字合わせの弱さを持つ場合は,「書く」段階でも,更に困難が生じます。
以上のことを踏まえて,「読む」段階で,いかに音声教材が効果的であるかということを,次に述べさせていただきます。
資料は,平成30年に日本LD学会で,ポスター発表させていただいたものから引用しました。これは金森先生との研究協力で,文科省からの受託事業の中で,効果があったものを表示させていただいております。
対象児童は1年生で,全員,境界知能と言えるところにいる子供たちです。1学期の終業時に,平仮名を読めなかった3人のことを書かせていただきました。
「Ⅲ.手続」のところで書かせていただいたことは,支援機器をどのように使ったかということなのですが,テストの問題,一般の市販のテストをデイジー化しました。最初は,自作もしていたのですが,金森先生に,シナノケンシのPLEXTALKを使って全部作っていただいたので,この子たちが,9月にテストをする頃には,それで全て行いました。
参考資料のA児というところを先に見てください。「視線追尾システムによる11月と2月の比較。いずれも初見の文章を読んでいる。」というところですが,11月には,一字一字の文字想起に非常に時間が掛かっていました。停留点が大きく表示されています。1文字当たり2.21秒です。
それが,毎日,デイジー教科書で練習していたところ,2月には,1文字当たり1.16秒になりました。非常にスムーズに読めるようになってきていて,停留点も小さくなっていますし,真っすぐに読めるようになっているということが,見ていただけるかと思います。
その横の結果で,この子たちにテストをしたときに,テストを見せた途端,「読めないので,無理」と返してきました。それで,金森先生に作っていただいた支援機器を使ってデイジー化したiPadを見せたところ,「これならできる」と,1年生ですが,必死にタッチしながら,その問題をやり遂げました。
そうしたら,驚いたことに、学習していた内容は理解していたので,100点を取れました。内容理解が不足しているときは,十分に点数が取れないこともあったのですが,ほぼ100点を取れるぐらい理解できていたというのは,やはりデイジー教科書や支援機器の効果かと思います。そのことを,事例1のところに書かせていただいています。
その児童は,今年度,3年生になりまして,6月には,音読潜時も1秒程度となっています。更に,毎日デイジー教科書を使うことで,音・文字合わせの弱さが改善してきていると言えます。
事例2のところには,父が日本人,母がフィリピン人という児童のことを書かせていただきました。その児童も,1年生の1学期の段階で,平仮名を半分程度しか覚えられなかったため,通級しました。
この子は,発音がとても曖昧で,担任も,保護者も,何を言っているか十分に聞き取れないという状態でしたが,デイジー教科書を使うことと構音指導とを並行して行ったところ,発音も改善してきましたし,単語として捉える力が向上して,そういう単語,発音という観点と,単語で言葉を捉えるという力の向上というところでも,改善した例と言えます。
事例3について,この子は,4年生から通級で,デイジー教科書を使った子です。この子の場合は,読みもややたどたどしかったのですが,4年生になっていたので,ある程度は読めていました。ただ,漢字の読み書きが苦手でした。
様々な他のトレーニングもしながら,デイジー教科書も,毎日,読み続けました。本来持っていたこの子自身の経験や知識と文字が対応して,語彙力になりました。文字としての単語を習得することで,自分の頭の中にあった言葉,語彙とマッチするといいましょうか,それによって,随分と力が向上しました。理解力も進み,漢字自体も覚える手掛かりになったようです。書く力が向上しました。
6年生になり,1学期はルビ付きテストを使用していましたが,最近,本人の希望で,ルビなしで,テストを受け始めたところです。
この場合,語彙力,漢字の読み能力に加えて,漢字を書く能力も向上した例として,紹介させていただきました。
更に,「外国人児童生徒の置かれた環境と指導場面別音声教材の利用」について,簡単に表にさせていただきました。
「母語ボランティア支援でできる支援機器活用(通常学級において)」というものと,「個別の日本語指導,個別の教科指導でできる支援機器利用」に分けて,書かせていただきました。
ここでは,いずれにしましても,手元に支援機器や音声教材や翻訳アプリなどを置きながら,指導を行っていくということが「指導法」なのですが,支援機器の有効性としては,やはり,そこで音・文字合わせがスムーズに行える文字習得につながるという点にあると考えています。
配慮したい点としては,サポートする方が,音声教材に慣れていないことが,まだまだあるというところです。スマホやタブレットを使用するような場合は,学校という現場だと,なかなか難しいところかと思います。
最後に,まとめに入らせていただきます。
音声教材の利用は,母語を日本語とする児童生徒の文字習得段階から単語習得段階において,大変有効であると考えます。文字を覚える段階から,文章理解の段階まで,幅広く利用できるものであり,また,効果を上げるためには,できる限り,音声教材を毎日,多くの教科で利用できることが望ましいです。
また必要に応じて,試験問題についても,デイジー化や音声化による支援があることが望まれます。
現場の教員として,本当に感じることを,最後に課題として書かせていただきました。
支援機器は,まず,その費用をどこから出すのかという課題があります。本当に使いたいけれども,タブレットをどうしようという声も聞きます。タブレットを使うというところで,使い慣れない教員も多くて,使い方のサポートをどうするのかということも課題かと思います。
次に,課題2です。個別の教育支援計画に子供の弱さを記載して,小学校での実践を中学校に引き継いでも,実践を継続できないことが多いです。また,高校入試で,受験の配慮として,ルビ振りさえ認めない,実績がないという自治体もあります。そのために,支援機器を利用した受験は,さらに障壁が高いのではないかと考えております。その辺りも,配慮として明確に記載して,実績を積んでいくことが大事であると考えております。
以上です。
【齋藤座長】 ありがとうございました。
井阪委員の御発表について,何か御質問がありましたら,お願いいたします。
土屋委員,お願いいたします。
【土屋委員】 よろしくお願いいたします。大きな3番の「外国人児童生徒の置かれた環境と指導場面別音声教材の利用」表のところで,上の部分が通常学級において,下の部分が個別の日本語指導においてというふうに,表が分かれているのですが,これは,実際に,通常学級,一斉の授業の中で,ここに該当するお子さんが,支援機器を使用されたということでしょうか。
【井阪委員】 そうですね。実際,そういう子もいたので,書かせていただきました。
【土屋委員】 例えば,一斉授業の中で,音声が出ることで,周りの子たちの影響等といった部分で,他の子たちの反応は,どのようなものがありましたでしょうか。
【井阪委員】 前回も申し上げたかもしれませんが,学級担任が,一斉指導の中で,少し考えさせたり,書かせたりする作業に入ったときに,他の子供たちは自学をしている状態で,対象児童の横に付いて,自分のスマホに入っている翻訳アプリを使用しながら,説明するということがありました。
そのときの子供たちは,対象児童に対しての理解がありましたので,全く反応することなく,大変静かに学んでおりました。
【土屋委員】 ありがとうございます。
【齋藤座長】 他にいかがでしょうか。
では,この音声教材も,在籍学級で利用された御経験があるということですが,その場合,音はイヤホン等で聞くのですか。
【井阪委員】 はい,そうです。通常学級で利用するときは,イヤホンを使って,個別にタブレットやパソコンを置いて,使用させています。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
他にございませんか。いかがでしょう。よろしいですか。
後で,全体討議の時間が大分ございますので,井阪委員の御発表に関しても,また思い当たるような事柄,質問等がありましたら,そのときに御発言を頂ければと思います。
それでは,続きまして,資料3を御覧ください。「外国人児童生等の音声教材の使用による学習について」,小澤委員から御説明をお願いいたします。
【小澤委員】 資料が2部になっておりまして,1つがパワーポイントを印刷したもの,その後ろに4枚ほど拡大した資料が付いております。後ほど一部を御覧いただきます。
また,日本障害者リハビリテーション協会が,年度末に行っていますデイジー教科書利用者アンケートの平成30年度版を参考資料としてお渡ししてあります。
本日の報告内容ですけれども,まず,外国人児童生徒が直面している学びの困難さは,どの程度のものなのかについて,金森委員とともに実施した「読み困難度」調査に注目して,その内容を報告させていただきます。
次に,2008年に教科書バリアフリー法が制定されて以降,読みに困難のある児童生徒に対して,教科用特定図書が配付されていますが,そのうちの音声教材の1つであるデイジー教科書を取り上げて,利用者アンケートの分析から,外国人児童生徒に対する音声教材の効果について,分析を試みた結果を報告させていただきます。
そして最後に,2009年度から10年あまりにわたって,外国人児童に対して,ICT学習支援を行ってきましたが,そうした体験,知見に基づいて,支援を振り返りながら,直面する課題を整理したいと思います。
さて、これが視線追尾の機械ですけれども,こうした機械を使って,外国人児童生徒が直面する読み困難度を,日本人児童のうち読みに障害を持つ児童と一般児童について同じ基準で比較してみました。こうした研究は,私たちのプロジェクト以前には,試みられてきませんでした。
調査で使用した文章の事例は資料3-1の4ページを御覧ください。学年相応の縦書きテキストを用意し,初見のテキストを提示して,記録データをとりました。
調査結果データを映像データでお見せしましょう。
(映像上映)
【小澤委員】 これは,読みの困難度がかなり高いと思われる外国人児童の事例です。丸の大きさが,視線が止まっている時間の長さを,丸が多いと,視線が止まっている場所が多いことを示しています。
一般的に,私たちは,5,6文字ずつぐらいまとめて見ていくので,小さな点が文字列に添って順序よく並ぶことになりますが,この児童の場合,このように停留点が多くなりますし,この児童の場合、動物の「かば」を,「かばん」と何度も読み間違えています。
この検査を手伝ってくださった大学生が成人ディスレクシアでしたが,この検査をやる前に試しに読んでもらったところ,同様に「かばん」と読んだので驚きました。このように,文字の認識に困難さを抱える場合,示す症状というのは,極めてよく似ています。ですから,外国人のお子さんも,読み困難のお子さんも,極めて似た症状をよく見せます。
次にこちらの視線追尾検査結果の事例を見ていきましょう。
(映像上映)
【小澤委員】 途中で止めておきます。これは,外国人児童になじみがない,日本文化に関する文章ですが,そうした場合も,自分自身の体験に照らして,想像,推察することが難しいためか,読みが困難な事例が多いです。
(映像上映)
【小澤委員】 この事例の場合は,特に片仮名の読みに困難が見られます。外国から来られたお子さんで,片仮名に苦慮するケースは比較的多いです。この検査では, 3つのデータに注目しました。
つまり,1つ目は,文字に目が留まっている,文字列を注視している時間,これを停留時間と呼びます。
2つ目に,文字を順序よく読めるかというデータです。読みづらいと行きつ戻りつしてしまいます。このスコアが100%であれば,順序よく読めているということになります。
3つ目に,読みの速さと正確性を掛け合わせて,「パフォーマンススコア」として数値化をしてみました。
8ページの「分析結果」における右側の2つのグループは,いずれも日本人です。日本人で「読みに困難のある児童」と「読みに困難のない児童」に分けています。「読みに困難のある児童」は,特別支援教室・学級,通級指導教室に通っている児童です。
こうして統計分析をしてみますと,外国人児童は,読みに困難がある児童と同じグループに属すると言えます。データを見ると,場合によっては,読みに困難のある児童以上の悪い数値が出ているということがお分かりいただけるかと思います。
以上を簡単にまとめておきます。
この視線追尾検査から見る限り,日本語に通じない外国人児童生徒等の読み困難度は,日本人の読みが困難な児童と同等,若しくは,それ以上です。
ただし,この調査に当たっては,担任,保護者,本人から同意書をとるプロセスが,どうしても必須になります。したがって,たくさんの人数を検査することができませんので,データ抽出の歪みも考慮する必要があります。担任,保護者が気に掛かる児童生徒,あるいは,保護者が教育熱心で,検査をしてもらいたいというふうに積極的に言ってくる,といったフィルターが掛かっているということは,確かです。
こういった第1回目の調査の反省に立って,2回目の調査をしてみました。それ以外の読み困難度に関する検査も組み合わせ,また,縦書きと横書きの違いについても,見ていくことにしました。具体的には,10ページのような調査をしました。
調査に関して,詳しく説明をしておきます。STRAWは,一般にディスレクシアの子供たちのスクリーニング検査ですが,平仮名1文字と片仮名1文字,それから平仮名,片仮名及び漢字の単語を読ませたり,書かせたりする検査になっています。
具体的には12ページのような文字を読ませていくことになります。漢字は,一,二学年下の学年相応の漢字を読ませることになります。ディスレクシア児童は,学習習得の進度が遅いということに配慮して,検査がなされています。
レーヴン色彩マトリックス検査は,RMと略称されますけれども,言語を介さずに,知的能力の状態を測定するもので,13ページのように,上の図形に,下のどの図形が当てはまるかというような検査です。言語を使用しない,文化も影響しないといった利点がある,いわば知能指数の検査の一種です。この例は非常に簡単に思えるかもしれませんが,後の方になっていきますと,図形の変化の法則が徐々に複雑化して,難しい問題になっていきます。
DEM検査は,14ページを御覧いただくと,数字が縦横に並んでいますけれども,眼球を正確にコントロールできるかを見るものです。といいますのも,ディスレクシアの読み障害の1種として,眼球コントロールの異常から生じる運動性障害の場合がありますが,それを確認するものです。
ATLAN,適応型言語能力検査は,大阪教育大学の高橋登先生が開発されたもので,このキットの中に,15ページのような図があって,「『おんぶ』はどれですか」とか,「『焦る』はどのような意味ですか」等に対する答えを選ばせて,語彙力を見ていくキットがあります。
また、この図には線が引いてありますが,幼稚園年中から中学校3年生までのレベルが判定されるという非常に便利な語彙検査です。
これらの検査の結果については,お手元の報告資料2を見ていただきますと,第2回目に調査しました21名の児童の結果がまとめられております。
日本での滞在年数,学年,年齢,性別,エスニック背景,家庭言語なども調べた上で,データがまとめてあります。
詳細に見ていくと,時間が掛かってしまいますので,簡単に特徴だけを抽出して説明します。まず,黄色くハイライトされた児童を見ていきます。
S1の児童の両親は中国から来られた方で,日本国籍を取得されており,日本文化志向が非常に高く,家庭では片言の日本語が使われています。中国語は使いません。この子のレーヴン色彩マトリックス検査の結果は非常に高く,高いIQであることが推察されます。この子は,どの検査も全てできています。
次に,S5の方を見ていきます。この児童は,両親とも韓国人ですが,2年前までアメリカに在住していました。語学能力は非常に優れていますが,本人のプライドも高く,担任も全く問題を感じていませんが,視線追尾検査の結果からは,読みの正確性が悪いことが見てとれます。
Y2の児童は,視線追尾検査で,うまくデータがとれなかったので,何とも言えませんが,他のデータから見る限り,問題は見当たりません。
STRAW検査の結果に注目すると,特に片仮名,漢字で困難度が高い児童が多いようです。また,読みよりも書きに問題を抱えている児童が多いようです。ふだんの漢字テストでは良い点をとれるために,担任も安心している児童の中にも,STRAW検査において漢字で点数が低くなるケースがあります。漢字力の長期定着が難しいケースですが,担任は気付いていません。
また,一番下のM4の児童に注目しますと,レーヴン色彩マトリックス検査の結果がだいぶ低いことが分かります。語彙力も低く,特別支援の対象ではないかと思われますが,通常クラスで学んでいます。
まとめておきますと,この調査結果から,読み困難児童の判定と同じ基準で見た場合,読み困難ということでは7割程度,書き困難ということでは9割程度の外国人児童が問題を抱えていると推察されます。この読み困難度の考え方については,また御議論を頂ければと思います。
読み困難が見られない児童は,「漢字圏から来た」,「日本で生まれて育った」,「家庭で日本語が使用されている」,「非常に長い間日本に滞在しており,日本に慣れている」,あるいは,「保護者が教育熱心」といった場合に限られます。
学校側が「問題なし」と判断している児童でも,読みに何らかの困難が見られるケースも非常に多いです。
次に,こうして,読みに困難を抱えている状況を確認した上で,デイジー教科書の効果を分析していきます。日本障害者リハビリテーション協会が,年度末にデイジー教科書の利用者からアンケートを回収しております。金森委員のグループが,その詳細分析を行っています。自由筆記欄から見て,外国人児童生徒と判断できた22名のデータについて,そのメンバーの1人である楠敬太さんから,日本障害者リハビリテーション協会の了解を頂いた上で,詳細データの提供を受けることができました。そのデータを分析したものが,以下の結果です。
こちらは,資料3-1の中に縦長の小澤報告資料3がありますが,そちらを見ていただくか,スクリーンを見ていただくと分かりやすいかと思います。
さて,どういう問いかといいますと,「デイジー教科書を使ってみて,以前と比べて,児童にどんな変化がありましたか」という質問です。項目が幾つかありますけれども,上から5項目までは要するに読みの能力に関する項目だと思われます。
前回,築樋委員から,デイジー教科書に指導者側から期待されることについて,詳しく御報告を頂いて,非常に参考になりました。今回の結果は,実際に使ってみた外国人児童生徒のデイジー教材申請者が,アンケートに答えたものです。
これらの5項目の結果について比の差の検定を行ってみると,外国人の児童生徒においても統計的に有意な差はありません。これは22名と,データ数が少ないからだと思われます。ただし、もっと多ければ統計的にも有意な差になる可能性があります。「読みがスムーズになった」と感じている人数は,外国人児童生徒の方が,比較的多い傾向が見て取れます。「読める漢字が増えた」と感じている外国人児童生徒も,児童生徒全体に比べて,多くなっていっています。これに対して,3番目の「文節区切りが上手になった」は,さすがに低いです。
次に,中ほどの第6~第9項目は,読み以上に言葉の理解に関係するものかと思われますが,児童生徒全体の数値で,「そう思わない」と答える項目が非常に多いのです。「文章の理解度がよくなった」という項目だけ,デイジー教科書を使用した児童生徒全体について,「そう思う」という数値は,統計的な有意性はありませんが,68.1%と多くなっています。
それに対して,「会話等で使用する語彙が増えた」,「テストの点があがった」という項目については,デイジー教科書はそもそも弱みを持っており,「そう思わない」という外国人の児童生徒の比率は,比較的多くなっています。
さて,「文章の理解度がよくなった」という結果の解釈についてですが,デイジー教科書で音声が付いていたからといって,理解度が直ちに良くなるとは思えません。恐らく,そういった教材を使ったために,指導者に余裕ができ,丁寧な指導ができたから,児童生徒側の文章理解度が良くなったと考えるべきではないかと,私は思っています。
デイジー教科書は,子供たちの態度の変更,意識の変更にも,影響がありまして,こちらが,第10~第16項目のデータ結果になっております。
ここでは,非常に面白いデータがとれました。児童生徒全体というところで見ていっていただければ分かるのですが,一般的に,いずれの項目に関してもデイジー教科書に対しては肯定的な意見が多いのです。
ところが,外国人児童が,「読むことに興味,関心がでてきた 進んで一般の本などを読もうとする姿勢が出てきた」という項目に対しては,有意水準1%で,統計的有意に少ないのです。
「自己肯定感や自尊感情が増した」という項目も,有意水準5%で,統計的有意に少ないという結果が出ています。
音声教材化が追求されたとしても,日本語の障壁がいかに高いかということを物語るデータかと思われます。
簡単にまとめますと,教科書の読み支援において,デイジー教科書,そして,音声教材について一般的に言えることかと思いますが,確かに効果があります。ただし,音節区切りの読みの力に関しては,現在の形態では,その効果は限定的です。また,教科の内容理解の向上という点でも,現在の形態では,その効果は限定的です。
デイジー教科書は,児童生徒の認識フレームや態度変更にも影響を及ぼしますが,自尊心や学習意欲の涵養という面ではそうとは言えず,課題を抱えていると捉えることができると思います。
私は, 2008年度から,滋賀県の日系ブラジル人学校に支援に入りまして,ICTを使った支援を開始しています。2008年といいますと,リーマン・ショックが起こって,児童生徒はどんどん減っていくという,つらい時期でした。
その翌2009年度には,熱心な先生と児童生徒が協力してくれて,ブラジル人児童生徒が描いた「ブラジルの夢」という絵と,先生が児童生徒にインタビューをしてまとめた文章を基に,児童生徒の音読を録音して,多言語デイジー絵本を作成しました。絵本はクリスマスにプレゼントをしたのですが,その効果は,先生に対しても,児童生徒に対しても,絶大なものがありました。
これは,ジム・カミンズという方が概念化したアイデンティティー・テキストそのものでした。こうした経験から,アイデンティティー支援がいかに重要かということを身に染みて理解することができました。
その後も様々な場面で,音声教材を使用して外国人児童を支援してきました。本報告では,3つのケースについて,支援の内容と課題を振り返っておきたいと思います。
ケースの1つは,日本語初期指導教室支援です。御承知のように,日本語能力が不十分な来日間もない児童生徒を受け入れて,基本的に3か月,学校入学前に日本語の導入的教育指導を行っている公立学校で開設している教室です。
私たちが入った滋賀県日本語初期指導教室の先生は非常に熱心で,この3か月の間に,日本語とポルトガル語が併記されている絵カードを巧みに使用し,理想的には800語と言っていましたが,「600語程度の基本単語を習得させること」,「子供たちが習得した言語によって,自己表現する喜びを実感できるようなトレーニングを目指すこと」,そして,最終的には,「小学校1年から3年の国語教科書の中から,子供たちが興味を持てる単元を選び,教科書も読解させること」を目標にしていました。
私たちは,多言語併記の絵カードと100語程度の基本動詞を使った例文のデイジー教材等を作った上に,低学年の国語教科書の日本語とポルトガル語,スペイン語,英語,中国語,両言語併記のデイジー教科書を作りました。これは,著作権法の旧35条に基づいて作成したものです。
26ページの図1が翻訳事例の1つです。少し見づらいですが,「てがみ」という,今は使われなくなった教材ですが,小学校1年生向けの易しい物語です。キツネの子が,過去を振り返りながら,話し始めます。非常にかわいらしい,本当にほんのりとする物語です。
良い物語なのですが,時制文法が異なる言語では,いきなり過去分詞形が登場することになります。恐らく,学校の先生は,こうした時制文法の異なる外国人児童が,実は難しい文章に対峙していることは,つゆ自覚していないと思われます。
また,26ページの図2は,まだ使われていると思いますが,「おおきなかぶ」という物語です。「あまい,あまいおおきなかぶでした」というところがあるのですが,ポルトガル語に翻訳する際,ブラジル人翻訳者は,「おかしい」と言うのです。「甘いカブは考えられない」と,「甘さは飽くまでもチョコレートのような甘さで,野菜が甘いというのはとても変だ」と言いました。
こうして,多言語化の作業から,日本文化の中の見えない壁を自覚することができました。多文化共生社会を構築しようとするときに,教育現場で,こうした知見から,感覚を鋭くしていくことは,とても重要です。ですから,教科書の多言語化は必須だとさえ言えましょう。
ところが,私たち以外にも,母語支援をする団体はたくさんあるのですが,多言語化された多様な教材・資料は,今,実は埋もれていて,著作権法の運用の限界から共有化・活用ができないという非常に残念な状況にあります。
次のケースは,放課後学習支援です。校長室で学習困難な学習遅延の外国人児童を支援させていただく中で,デイジー教科書も使ってみました。
ただ,デイジー教科書は,読み支援として効果が高いということは確認できたのですが,児童生徒はすぐ飽きてしまうのです。ですから,興味・関心を引き出すために,多様な学習アプリを活用して,楽しさを追求しました。デイジー教科書だけで,学習意欲を引き出すことは,なかなか難しいということを痛感させられました。
こうした経験を基に,昨年度のところでは,中国から来られた大学院生に入っていただいて,母語ややさしい日本語,図等を多用した,予習用と復習用の副教材(ワークシート)を一緒に制作し,そのワークシートを使った支援に,デイジー教科書による学習支援を複合化させるという学習支援モデルを打ち立てました。
配付しました小澤報告資料4,5を見ていただければと思います。こちらは未熟なもので,決して理想的な形態ではありませんが,こうした副教材があることで,外国人の児童生徒たちのやる気が出てきていました。この副教材を音声教材化することができれば,自学自習も可能になっていくのではないかと思われます。
音声教材化されたデジタル副教材の開発を活性化する施策,あるいは,著作権法上の運用について,必要であれば,改訂が模索されると大変助かると,今,感じているところです。
最後に,まとめです。トロント大学教育学部教授だったジム・カミンズというICT支援に関する学者は,北米での膨大なデータに基づいて,「認知能力の必要度が低く,場面依存度が高いサバイバルレベルの対話力,一般的に言う日常的な会話能力は,1,2年で習得可能である。その反対に,認知能力の必要性が高く,場面依存度が低い状況下で要求される言語能力,一般的に言う学習言語能力の習得には,母語で学校経験のある8歳以降に入国した場合は,5年から7年,8歳以前に入国した場合は,7年から10年の年月が必要である」と結論しています。
しかし,これを日本語という非常に習得が難しい言語の場合に置き換えますと,我々は,これ以上の障壁を覚悟しなければならないと思われます。
私たちの調査データからは,大多数の日本語に通じない外国人児童生徒等の読み困難度は,すでに支援を受けている読み困難な日本人児童生徒(ディスレクシア児童生徒)と同等,若しくは,それ以上と推測されます。
読み困難な児童生徒に配付されているデイジー教科書の効果分析からは,音声教材は,外国人児童生徒に対して,読み支援・内容理解支援・学びに対する姿勢の好転でも,一定の効果があることは明らかです。来年度からは文節区切りの音声教材も加わることから,特に読み支援における効果は,更に高まることが期待されます。
それ故に,教科書バリアフリー法の精神に則って,義務教育期間中には,教科用特定教科書を日本語に通じない外国人児童生徒に対して積極活用していく政策が望まれます。
しかし,既存の音声教材は,教科学習の障壁を緩和するに当たっては課題も抱えており,同時に多言語化,やさしい日本語・図像,図や絵の活用による副教材の制作や,その音声教材化も必須になると思われます。
こうした副教材の制作・開発を促進するような政策や著作権法の運用・改訂も,是非,検討していただきたいと思います。
以上で,報告を終わらせていただきます。
【齋藤座長】 ありがとうございました。
では,今の御発表について,御質問等がございましたら,お願いします。相当な量の資料で,内容も非常に中身のあるものでしたけれども,いかがでしょうか。
【河村委員】 よろしいですか。
【齋藤座長】 どうぞ。
【河村委員】 内容の大変豊富な御報告をありがとうございました。
著作権法の解釈のところで,33条の3,35条ともに,改変はできないというふうに御理解をされたのか,それとも,改変はできるというふうに御理解をされたのかについて伺いたいと思います。
【小澤委員】 著作権の副次利用ということで,いずれにしても,35条の場合は,今,デジタル化するとき,著作権許諾を取らなければならないような現状になっているとお聞きしております。
そのときに,デジタル化することに関して,教科書発行者側の方は,先生がされるという範囲で理解をされていました。それは,従来どおりであれば,補助者も含めて,我々がボランティアで入ってできるということなのでしょうか。著作権法35条について,教科書発行者の方は,どのように解釈されていますか。
【犬飼委員】 テキストをデジタル化するということですか。
【小澤委員】 はい。その点について,まだやり取りの途中にあるのですが,我々は,35条で,著作権者の許諾を取ろうとしているところです。
【犬飼委員】 私は法令について,詳しく知らないところはあるのですが,基本的に教科書の複製に当たっては,先生方が複製をすることに限っており,現状では難しいのではないかと思います。
この点については,確認をする必要があります。
【小澤委員】 河村先生に対しての答えとしては,一応,副次利用ですから,改変も含めてのお願いはいずれしようかと思っているのですが,今現在は,そのままを頂いて,多言語化するというところを,まず第一歩として考えているところです。
【河村委員】 分かりました。質問した趣旨は,33条の3が教科書バリアフリー法の骨に当たるところになっていると思うのです。
障害のある児童生徒に対しては,視覚障害のある場合は37条を使うことができるので,37条を使った場合には,もっと広範な著作権の制限ができるということは御存じだと思いますが,外国人の児童生徒の場合には,必ずしも障害があるとは限りませんので,37条が使えないわけです。
ただ,33条の3が,教科書バリアフリー法とは言っていないまでも,その趣旨に基づいているということ,元々,義務教育の児童生徒は,教科書を使わなければいけないという義務を定めたところから来ているものなので,それにアクセスできなければいけないということは,自明の理であるわけです。
そういう点で,37条の著作権の制限の範囲と,技術的には非常に一致していることが多いと思うのです。国際的に見ましても,簡易な,語彙数の少ない表現に置き換えることは,シンプル・ランゲージやイージー・リーディングということで,国連の障害者権利条約においても含まれていると解釈されております。
ですから,そこの整合性をとっていく,つまり,様々な理由でアクセスできないものを,アクセスできるようにしていく1つの手段として,限られた語彙で表現できるようにしていくという技術があります。
Google等は,それをどうやって自動化するかということを,AIを使って,既に開発を進めております。ここは,語彙を制限してしまって,同じ意味を表現するということですので,かなりAIが有効に働く部分だと思うのです。
ですから,そういった技術の進歩を考慮に入れて,その技術の成果を,等しく課題を抱えていて,義務教育の障壁にぶつかっている子供たちにも,享受できるようにしていくということは,33条の3の趣旨とは,全く異なることはないと私は思います。
33条の3の本来の趣旨からいくと,必要な改変も含まれるべきと理解して,その方向で著作権者との合意形成を図っていくことが必要ではないのかなと思うのですが,御発表を聞いておりまして,ますますそれが必要であると思った次第です。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
著作権法については,時間をきちんと作って,しかも,それぞれの条項を見ながら検討しなければ,ここで判断できないことかとは思うのですが,今後,教科書の利用に関して検討する上では,必須の事柄かと思いますので,また検討を続けていくということでお願いできればと思います。
そのほかございますか。今の著作権法については,改めてしっかりと私たちの中で確認するということを,次回辺りの宿題と考えた上で,いかがでしょうか。
【小澤委員】 付言させていただきます。
資料3-2としてお配りさせていただいたデイジー教科書利用者アンケートの平成30年度版について,17ページありますが,特に13ページの問9の「特筆すべき児童生徒の変化」というところで,デイジー教科書を申請された方たちが,この音声教材を使って,特筆すべき変化として「こんなことが起こりましたよ」ということが自由筆記欄に書かれてあります。お目を通していただくと,本日の音声教材の効果,デイジー教科書や教材の効果といった点について,非常に参考になる記述がたくさんあります。
先ほども報告しましたように,外国人児童生徒に対する支援と,読みに困難のある日本人の支援と,実は非常に重なる部分があるのです。したがって,その効果に関しても,比較的同質的な部分が多いのです。
ただし,今回調査データからピックアップされた外国人児童22名については,この項目は空欄になっておりました。その記述があれば,本日報告できたところなのですが,こちらのデータを読み込んで,推察・理解していくことは,可能かと思います。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
それでは,皆様方,お時間がありましたら,是非,この問9の自由記述の回答についても,検討を頂ければと思います。
それでは,少しお時間を頂きまして,実は文部科学省から,先週末ですけれども,日本語指導が必要な外国人児童生徒の受け入れ等に関する調査が公開されました。
小林専門官から,大きな変化等について,少しピックアップして,御紹介を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。
まずは,「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」からお願いできますか。
【小林専門官】 では,説明させていただきます。
今,座長から御案内を頂きましたが,2年に1度,公立の小学校,中学校,高等学校等における日本語指導が必要な児童生徒の受入状況に関する調査を実施しております。先日,平成30年度の調査結果を公表したところでございます。
2ページに,青いグラフを掲載しております。こちらが,日本語指導が必要な外国籍の児童生徒の数でございまして,一番右の「平成30年度」のグラフが,最新のデータでございます。
前回の会議でこのデータを御紹介した際は,まだ平成28年度のものが最新でしたが,平成30年度の結果が出まして,現状,日本語指導が必要な外国籍の児童生徒数は,4万人を超えております。
3ページが,日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒数でございます。こちらも,平成30年度は1万人を超す児童生徒数となっておりますので,合わせますと,大体5万人以上の子供たちが,日本語指導が必要であると,学校において理解されているということになります。
ですので,前回の会議で御説明をした時よりも,更に対象の児童生徒数は増えているところでございます。
そのほかの資料につきましては,またお時間があるときに,御覧になっていただければと思います。
言語の数も,母語若しくは家庭で主に使用する言語等,多様であるということは変わらない状況にあります。
もう一つの「外国人の子供の就学状況等調査結果」につきましては,御参考になりますけれども,文部科学省で,今回初めて外国人の子供の就学状況等について調査を行いました。
2ページを御覧いただければと思います。各自治体に問い合わせを行いまして,義務教育諸学校に就学をしている外国人の子供の数,また,それ以外の外国人学校等に就学している子供の数や,就学していない子供の数,就学状況が確認できていない子供の数等も,今回,初めて把握することができたところでございます。
就学していない子供又は状況確認ができていない子供の数も,非常に多い状況ですので,こちらは御参考ではありますが,このような調査も行っているということを,御承知おきいただければと思います。
以上でございます。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
この調査結果について,御質問,御確認が必要であれば,いかがですか。よろしいでしょうか。
日本語指導が必要な児童生徒が,前々回の調査でも非常に増え,今回もまた非常に増えたということで,五,六年前から比べると,急激な増加傾向を見せているということが見てとれるかと思うのですが,教科書に関する子供たちの困難についても,ますます非常に大きな課題になってくると言えるかと思います。
特別の教育課程の実施も大分増えているので,学校の教員が関わっているという子供が増えているということも,教科書使用における困難の軽減について検討する上で,非常に大きな意味があるかと思います。
【小林専門官】 そうですね。御紹介を頂きました「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」の5ページの調査結果ですけれども,下のグラフを御覧ください。平成26年度から,特別の教育課程を,日本語指導について編成,実施することが可能となりましたけれども,こちらのグラフは特別の教育課程を編成して,日本語指導を受けている児童生徒の割合を示しております。
だんだんと増えてきていまして,現状としては,6割程度の子供たちがこういった教育課程の中で,教科書を使って,教員の指導を受けております。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
それでは,全体討議を行いたいと思います。本日,2つの御発題,御発表を頂きましたが,テーマとしましては,音声教材の効果や,今後,その運用に当たって,どのようなことが検討のポイントになるのかといったようなことです。皆様方に,一つ一つの御発表についての質問も含め,御意見等を頂ければと思います。いかがでしょうか。
私から1つよろしいですか。
小澤委員からは,「理解に直接結び付くかどうかは難しいところである」というお話がありました。
一方で,井阪委員の御発表の中では,「理解につながっていく」という,「読めるようになると,語彙が理解でき,すらすら読めるようになると,内容理解は進む」というふうな結果があったかと思います。
私の想像としましては,教科の内容の学習に関して,先生方によるデジタル教材を使った支援以外の教育活動というものがあった上で,デイジー教科書等を読むことによって,語彙が理解できていることが確認できるということなのではないかと推測しています。
その辺り,デイジー教科書等による支援のほかに,その子に対して,同じ教材に関してどういった支援といいますか,学習サポートがあるのかというところについてお話しいただけると,音声教材の活用の仕方についてヒントが得られるかと思いますが,いかがでしょうか。
【井阪委員】 今,国語で利用している子供たちは,学習の指導もしますので,その辺の評価が難しいのですが,私は,コーディネーターとしても,各校の中で,様々な子供たちに対応しています。
以前,読みに困難あるが,まだ通級対応とまではいかない1年生の子供たちに,デイジー教科書を読ませてあげたところ,「そう見るのか」と言った子供が何人かいました。その子たちは,IQは通常域なのですが,デイジー教科書がハイライトしてくれることによって,目の動きや,固まりで見るということを習得して,「そう見たら分かる」と言って,その後2週間程度,デイジー教科書を利用しただけで,「先生,もう大丈夫」と言って,利用しなくなったということはありました。
子供たちの中には,ある程度知的能力というものは必要かもしれませんが,デイジー教科書によって,教科書の見方,文章の見方が分かることで,理解につながる子もいます。
別の子供ですけれども,読んでもらうことによって,耳から習得できるという子もいます。耳からの情報と文字が両方入ってくることによって,今まで分からなかったことがイメージにつながり,理解が深まるという子供もいます。ですので,その指導だけではないと,私は考えています。
【齋藤座長】 小澤委員,お願いします。
【小澤委員】 昨年度のところで,留学生に頑張っていただいたことは,先ほどの予習・復習シートだけではなくて,やはり,本文の母語訳なのです。それに加えて,難しいタームや,キーワードの母語訳もしていただきました。
そうして母語が分かる子供と,母語が分からない子供に対しては,先ほど河村委員が言われていたプレーン・ランゲージ,日本語で言うなら「やさしい日本語」での言葉の言い換えが付いていますと,非常に,読み支援に加え,語彙獲得の手助けになっていくかと思います。
現場の先生からお聞きしたことなのですが,先ほど井阪委員が言われていた,テストでの音声教材化も,非常に重要かと思います。
外国人児童生徒の場合,現場の先生の話では,例えば,「物が落下する」とテストに書いてあると,それで分からなくなってしまうのですけれども,「物が落ちる」と書いてあると,問題を解ける場合があるとのことです。いわゆるプレーン・ランゲージ,やさしい日本語への言い換えがいかに重要かということも,しみじみと感じているところです。
通常のテキストもそうですし,単元テストや期末テストの際にも,そういう配慮があると,障壁が大分緩和されるかと思います。
【齋藤座長】 ありがとうございました。
それでは,外国人児童生徒等の教育活動をされている築樋先生,あるいは,今,その先生方のコーディネート等のお仕事をされている土屋先生はいかがでしょうか。
【土屋委員】 本日のお二方の御発表を伺いまして,大変勉強になりました。
私も国際教室を長年担当していたのですが,児童生徒が授業に参加するに当たって,最初のハードルは,やはり教科書が読めないというところになります。
デイジー教科書,デイジー教材については,その利用が即座に内容理解につながるわけではありません。ただ,「教科書の字が読める」というところについては,日本語指導が必要な子供たちにとっても,教科指導の導入として,「参加したい」という意欲に非常につながっているとは感じています。
また,以前,中国人の生徒に教えていたときに,中国の生徒なので,漢字があれば,特に読み方が分からなくても,意味が分かるだろうと思っていたのですが,生徒に聞いてみると,中国人の生徒でも,「漢字に平仮名のルビが付いている方が,理解がよくできるから,ルビを付けてほしい」と言っていました。
ですから,先ほど「落下」と「落ちる」という話もありましたが,元々,漢字では意味が分かっても,今まで自分たちが最初に勉強した平仮名の単語の言葉とリンクしないというところで,平仮名があることで,その読みの理解につながっているとは感じております。
ただ,課題としましては,先ほど多言語化というお話もございましたが,ある程度学年が上がっていて,母語が習得できている子にとっては,母語で書かれていることによって,理解が非常に深まると思います。しかし,日本生まれや,早い段階に日本に来ているといった場合には,母語の内容がそもそも分かっていないことがあります。
また,使用者側がデイジー教科書をどのように使用するのかというところを,ある程度,分かっていないといけません。
加えて,先ほど,一斉の授業の中で,「周りの子たちの理解が非常にあるから,誰も何にも言わない」とのお話がありました。そういった環境の学校であれば良いとは思うのですが,なかなかそういったことに慣れていない学校だと,「あれは何だ」という形で,逆に混乱してしまう場合があります。
デイジー教科書については,その使い方の部分や,教科指導の導入としての効果は非常にあると私も思っておりますが,そこからどのようにつなげていくか,環境の整備等も必要ではないかと思いました。
ありがとうございました。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
では,続いて,築樋委員,お願いします。
【築樋委員】 本日は大変勉強させていただいて,本当にありがとうございました。
そして,デイジー教科書について,そこまで詳しく知っていたわけではないのですが,例えば,デイジー教科書を,日本語の習得の段階によって,あるいは,読みの困難な段階によって,うまく合わせて使用することができれば,有効な活用ができるという印象を受けました。
小澤委員の報告では,デイジー教科書に加えて,たくさんの支援を付けておられました。例えば,予習・復習のシートであったり,母語訳であったり,やさしい日本語であったり,そういったことが共有されていくと良いのではないかと,非常に思ったのです。
豊橋や横浜のように,日本語指導が必要な児童生徒が集中している地域では,先生方はかなり情報を共有されるので,例えばデイジー教科書の使い方についても,啓発活動や補習を行えば,ある程度知られていくだろうとは思うのですが,そうした児童生徒が分散している地域や,ぽつぽつと入ってきている地域では,そういった情報があまり入っていかないということがあると思います。
デイジー教科書の機能を,デジタル教科書に載せることはできないのでしょうか。デイジー教科書はデイジー教科書として非常に活用されていると思うのですが,デジタル教科書の中で,例えば,やさしい日本語に変換する,あるいは,少し母語訳を付けていく等といったことはできないのかと少し思いながら伺っていました。
雑多な感想になってしまいましたが,ありがとうございました。
【齋藤座長】 ありがとうございます。音声教材以外にも,デジタル化された教科書の活用の方法等も,併せて検討できればという御意見かと思いましたが,他の委員の皆さん,いかがでしょうか。
【金森座長代理】 井阪委員からあったかと思いますけれども,やはり,学校の理解とクラスの友達の理解が必要かと思います。
私の実践から言いますと,まず,ある小学校の教職員を対象に,マルチメディアデイジー教科書とはどのようなものかということを話させていただいて,その後,クラスの友達の理解ということで,児童生徒に対して「マルチメディアデイジー教科書はこういうものだよ」ということをお話しします。文部科学省の研究助成で作らせてもらって,アニメーションができましたので,そちらを使っていただければ,クラスの友達の理解を得ることができるのではないかと思います。
実際に,井阪委員のところで,小学校5年生の4クラスで実践させてもらったのですが,「マルチメディアデイジー教科書はこんなものだと」いうものを,実際に十数台持っていき,他の子にも触っていただいて理解していただくことで,通級に通っていた児童が使っていても,特に違和感がなくなったということがあります。
今,デジタル教科書とマルチメディアデイジー教科書が話になっているかと思いますけれども,デジタル教科書の特別支援教育に関する機能を見ていますと,結構,マルチメディアデイジー教科書と同じような内容を,既に入れていただいております。
来年度から,一部導入されるということで,まだ全ての発行者が同じようなプラットフォームでやっているわけではないのですが,デジタル教科書の中には,特別支援教育ということで,読み又は書きに困難のある子たちへの配慮が行われているものが,既にできております。文字については,UDフォントで対応しようというところまで進んでおります。
【齋藤座長】 ありがとうございます。来年の教科書の改訂に合わせたデジタル版の教科書の仕組みや仕様等についても情報を頂きましたが,いかがでしょうか。犬飼委員,お願いします。
【犬飼委員】 本日は,発表をどうもありがとうございました。先生方のお話を聞いて,いわゆる教材としての役割とその指導という2つの側面があると思いました。
私としては,やはり教材の方がいろいろ気になるところです。小澤委員の御発表をお聞きして,デイジー教科書を使って研究をされている中でどういうところが問題なのかとか,視点の動きといった部分について,どういう構造になっているのかということが詳しく分かった気がします。
デイジー教科書の特徴として,以前にもルビや音声,ハイライトといった話がありました。デイジー教科書について子供のアンケートがありましたが,小澤委員から,音声教材のどういうところに,効果があるとお考えになっているのか,お聞かせいただけると,有り難いなと思います。
【齋藤座長】 では,お願いできますか。
【小澤委員】 この調査結果にありますように,読み支援では,効果がかなりあると思います。
ハイライトの付け方も,今後研究していくべきかと思いますけれども,文字と音とが,同時に頭の中に入ってくるという仕組みは,私たちが新しい言語を学んでいくときも含め,言語教育において効果があると推察されると思います。文字と音をつなげていく反復トレーニングは,非常に重要なものになると思います。
外国から来たお子さんの家庭での母語使用の現状を見ていただきましたが,日本語を使っていらっしゃる場合でも,部分的であったり,日本語が片言になったりするといったケースが多々あります。したがって,デジタルツールによって正しい発音が頭の中に入っていくということは,大切だと思います。
ですから,教室で使うという場面も想定されるでしょうし,放課後,あるいは自宅へ帰ってからの自学自習で使われていくことが,望まれると思います。
語学のトレーニングですから,時間の長さというよりは,毎日継続して続けていくことが重要です。その意味で,先生方が何度も読み聞かせるよりも,機械であるデジタルツールを使うので気兼ねなく何度も音声を聞くことができるという効果は非常に高いと思います。
これから私たちがチャレンジしていこうと思っていることは,デジタルですから,支援者が,支援ツールを作っていくときに,時間と空間を越えられます。
母語訳というと,教科書を作っている方たちは,とてつもない大変さを推察されるかと思います。しかし、外国人児童生徒にはそれぞれ出身の母国があるわけですので,そこにある大学や,教育機関と連携をしていくことができれば,デジタル多言語支援教材も作りやすくなるのではないかと思います。
将来的には教科書発行者においてデジタル教科書の中にデイジー教科書や音声教材等の機能を組み込んでいただくことが理想かと思いますが,現状,非常にハードルが高いこともありますし,教科用特定図書やデイジー教科書ばかりではなく,VOCA-PENや,東大先端研がやっておられるような様々な取組があります。様々なチャレンジがされているわけですので,そういったチャレンジが組み合わさることで理想的な形態が模索されていく過程が,現状では望まれているのではないかと思っています。
【犬飼委員】 ありがとうございます。
良いですか。
【齋藤座長】 どうぞ。
【犬飼委員】 今の小澤委員,先ほどの築樋委員,金森委員からのお話にもあったように,来年度から,新しい規格のデジタル教科書ができます。次回会議にてお話をさせていただく中で,デイジー教科書との違いや,教科書発行者が作るデジタル教科書の特徴についても聞いていただいて,外国人児童生徒に対応できるものかどうか,協議ができればと思っております。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
では,河村委員,いかがですか。
【河村委員】 よろしいですか。
【齋藤座長】 はい。
【河村委員】 今の直前のお話に関連して,デイジーというのは,完全に公開された,誰でも無償で使える規格ですので,教科書発行者は,実はデイジーの機能を一部,それぞれのデジタル教科書に取り入れていると考えていいと思います。
今の教科書発行者のプラットフォームは,いわゆるEPUBという規格とHTMLというウェブのページを作る規格のどちらかになっているかと思うのですが,デイジーは,元々ウェブの規格を応用して,インターネットにつながっていなくても,ウェブ上と全く同じように機能するように作った規格なのです。
ですから,ポータブル・ウェブ出版と呼ぶ人もいるくらいです。ウェブ上で便利だなと思う機能を,全部タブレットで,ネットにつないでいなくても実現できるようにするためには,どうしたらいいかということで,改良を重ねて,世界中が共同で作ってきた規格です。
ですから,教科書発行者が,デジタル教科書をデイジー規格で作るということが実現できれば,音声教材でできていることは,全てデジタル教科書でも実現できるのです。
ただ,デイジー規格を標準として使用することをいつも勧めているのですが,技術的に幾つか難しい点があるようで,教科書発行者の中でも,それを使いこなせる会社と使いこなせない会社とがあり,なかなか足並みをそろえられていないようです。そのため,文部科学省としても,標準として,音声教材等の機能を全部含むようにすることがまだできていないと,私は理解しております。
例えば,音声で読み上げているところを,ずっとハイライトさせることは,簡単にできそうですけれども,実は大変難しいため,できていないデジタル教科書はかなり多いと思います。
また,読み上げの際に,デイジー教科書ですとスピードを変えられます。早くしたり,遅くしたりということは,読み上げに慣れるという段階における重要な要素ですので,デイジー教科書の場合は,大体3倍から,遅い方は20%減ぐらいまで,好きなように変えられるようになっています。デイジー教科書では,スピードを変えても,ハイライト表示はついていくようになっているのですが,その辺りも,実際のデジタル教科書を拝見すると,なかなか難しいようです。
もう一つ重要なことは,デイジーの場合,デイジーの規格に合っていて,プレーヤーがデイジーに対応していれば,誰が作っても,作った人が思ったとおりに動作するということです。
現在,教科書発行者の幾つかからデジタル教科書として出展されているものは,大体コピー防止のため「DRM」と呼んでいるものが掛かってしまっているので,違うもののときには,違うアプリケーションを立ち上げないと,読めないのです。音声教材のデイジー教科書ですと,どこの会社のものも,全部自分が使っているデイジープレーヤーで読めます。
細々と申し上げましたが,そういった違いを,教科書発行者の方で,共通して使えるようにすることが重要かと考えます。1つのアプリケーションに慣れれば全て読めるようにすることで,子供にとっては絶対にハードルが低くなり,便利になると思います。
私は,デイジー規格を開発してきた立場ですので,是非,デジタル教科書にも使って,生かしていただきたいと思っています。教科書発行者が発行するデジタル教科書が,こういった機能を持ってくれていれば,全部解決するのではないかという課題が見えてきたような気がしております。
【齋藤座長】 ありがとうございました。そうした技術的なサポートがあってこそということで,是非,教科書においての困難さを軽減するというところで,デジタル教科書や音声教材が新しい技術等を活用していくようなものになっていけば良いのではないか,というふうにお伺いしておりました。
最後に,少しまとめさせていただきたいと思います。
本日は,井阪委員,小澤委員のお二人から,実際の使用の結果について,デイジー教科書等に関しての御報告を頂きまして,子供たちが,ふだんいかに教科書を音読するときに困難を抱えていて,その困難を軽減するための支援において,十分な手当てができていないかということを,私たちの中で非常に強く共有することができました。
その部分に関して,今回の御報告からもありましたように,子供たちが自分のペースで,何度も学べるということが大事なのではないかと思いました。小澤委員からの御発表の中でも,調査実験ではあるものの,先生が児童に「もう一度,最初からやってみて」と話す場面がありました。
自分のペースでできるということが保証されるということのすばらしさを改めて感じましたし,デイジー教科書や音声教材等が,子供自身が学ぶ,子供自身がアクセスして,自分のペースで学ぶための教材になるということを強く感じました。
一方で,犬飼委員から,教材をどのように利用して,教育指導していくかということと表裏一体ではあるけれども,教科書発行者としては,教材そのものに関心がある,というお話がありました。
ふだん,私はどちらかというと支援と教育活動の方に力が行ってしまいますが,両方の追求を同時進行あるいは並行して,あるいは相互作用させながら,補完的に検討していくことが必要なのだと改めて思いました。
その上で,本日の議論から,次の検討会議に向けて3つほどポイントを挙げさせていただきたいと思います。
1点目として,音と文字のマッチングが,デイジー教科書や音声教材において,中心の課題だったかと思うのですが,言語教育,言語習得のプロセスにおいては,意味と形式のマッチングが非常に重視されます。今,申し上げた「形式」の中に,文字と音声の両方が含まれます。
先ほど小澤委員と井阪委員の御報告の中で,理解に関しては多少違った結果が出ていました。井阪委員の場合は,直接指導した中で得られた結果で,小澤委員の場合は,実験的な調査として得られた結果というところに大きな違いがあるかと思うのですが,その中で,きっと,意味と形式のすり合わせという活動がどのように行われていたかという点が,結果に反映されたのかと思いますので,デジタル教材や音声教材の活用に関して検討するとき,あるいは,その上で教材がどういうものであることが有効であるのかを検討する上でも,重要なポイントになるかと思います。
2点目として,私が話を聞いたところの例ではあるのですが,外国から来て日本で育った学生が,大学で日本語の指導,日本語教師のコースに入って,大学教員に最初に言ったことが,「日本語について学んだことは,今回が初めてのような気がします」でした。
それは,もちろん,小さい頃のことを忘れているということが,1つだとは思うのですが,具体的な例として学生が話をしていたことは,「漢字の読みと書き方は教わったけれども,意味は教えてもらわなかった。練習して,次の日のテストは点数がとれたけど,結局,何だか分からなくて,使えなかった」ということです。
意味と形式のマッチングのその先として,理解したものをどのように活用していくかというところに,音声教材やデジタル教材が,どんな形でコミットすることができるのか,その場をうまくデザインしていくことができるのか等ということも検討できたら良いかと思います。音声教材やデジタル教材等の教材によって,全てが万全になり,何もかもが可能になるということでは,決してないと思うのです。
そうした中で,3点目としては,前回も,認知的な力もあり,母国での教科学習の経験もあり,力を持っているのに発揮できない場合と,認知的な側面の発達や学力面も,言葉の不十分さも,発達させられる可能性があるのに,発達させられていない場合があるというお話になったと思います。
後者の場合は,言葉を思考する活動と連動させて使っていくということが,どうしても求められると思うのです。先ほど小澤委員から学習言語のお話がありましたが,学習言語は,教科の用語としてだけではなく,思考するための土台になる言語の力と考えたときに,その思考というものを促すような側面での教材を,どのように検討できるのかということも,今回のデジタル教材と音声教材の議論の外側になるのかもしれませんが,一緒に検討して,この検討会で提案していくことが,現場の先生方の一番の課題である学習言語能力の発達と学力の保証,そして将来的には,アイデンティティーの話がありましたけれども,日本で暮らす上で,日本語等を,自分の暮らしと将来を開拓していくための大きな資源として活用できるような力にしていく上でも必要かと思いました。
少し長くなりましたけれども,非常に中身の濃い調査や実践の御報告を頂いたということで,次回の会議に向けて,ポイントを示させていただきました。次回,どうぞよろしくお願いいたします。
次回以降のスケジュールについて,よろしくお願いいたします。
【季武課長補佐】 次回以降のスケジュールにつきまして,資料4を御覧いただければと思います。
次回,第3回になりますが,日程については,11月18日月曜日の13時からとさせていただければと思います。会場等,また御連絡いたします。また,出欠についても,改めてとらせていただきますので,よろしくお願いします。
次回については,本日検討を頂いた内容を踏まえて,具体的にどういった御発表を頂くか等は今後決めていきますけれども,現在考えているところとしましては,本日,犬飼委員からも言っていただいたように,デジタル教科書等についても御発表いただいたりすることを想定しておりまして,今後の音声教材やデジタル教科書等の在り方,どういったことができるのか等について,発行者の立場ですとか,作成者の立場から御発表いただくことを検討しております。
また,報告書の取りまとめに向けた具体的な議論についても,次回,更に進めていければと考えておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。
また,第4回目については,年明けぐらいを想定しております。ここで,本格的に取りまとめをできればと考えているところでございます。
【齋藤座長】 ありがとうございました。
それでは,本日はここで閉会とさせていただきます。本日も積極的な御発言を頂きまして,ありがとうございました。次回以降もどうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

―― 了 ――
 

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