○ 弱視児童生徒の多くは、通常の検定教科書の活用が困難であることから、検定教科書の文字や図形等を拡大して複製した「拡大教科書」を用いての指導が行われている。
○ 文部科学省では、特別支援学校(視覚障害)や特別支援学級(弱視学級)で使用される拡大教科書に加え、平成16年度から、小中学校の通常の学級に在籍する視覚に障害のある児童生徒に対しても拡大教科書の無償給与を行っているが、この拡大教科書については、教科書発行者や拡大教材製作会社から発行されるものが少なく、多くがボランティア団体等によって手書きやパソコンの活用などによって製作されており、拡大教科書を必要とする児童生徒に行き渡っているとは言い難い状況にある(※1)。
16年度 | 17年度 | 18年度 | |
給与人数 | 538人 | 604人 | 634人 |
給与冊数 | 4,421冊 | 8,949冊 | 11,298冊 |
実績額 | 3,296万円 | 6,005万円 | 8,593万円 |
合計 | 11,298冊(100%) | |
内 訳 |
ボランティア団体 | 9,157冊(81%) |
民間発行者 | 1,547冊(14%) | |
教科書発行者 | 594冊(5%) |
(注)
また、パソコンの活用によって製作する場合は、教科書発行者から提供されるデジタルデータが重要な役割を果たすが、その種類・内容とも十分ではない。
○ 平成18年7月と平成20年3月には、文部科学大臣から各教科書発行者の代表者に対し、自社版の拡大教科書の発行や、保有するデジタルデータのボランティア団体への提供を要請する書簡が送付され、これらについての取組が促されてきたが、その普及充実が必ずしも十分に進展していない状況にある(※2)。
○ 弱視児童生徒が拡大教科書を使用できるようにすることは、教育の機会均等の観点からも重要であり、必要とする児童生徒に拡大教科書が速やかに、かつ確実に給与されるよう措置することが喫緊の課題となっている。
※1 拡大教科書の編集に当たっては、単純な検定教科書のコピーではなく、弱視の児童生徒が使いやすいように、検定教科書のレイアウトや配色など様々な体様や体裁の変更を行っている。また、ボランティア団体が製作する場合は、弱視の児童生徒の一人一人に合わせて作成されることが多いため、それぞれの視機能に応じた個別の対応が求められている。
※2 平成19年12月に、平成20年度使用教科書の一部について、社団法人教科書協会を通じて教科書デジタルデータのボランティア団体等への試験的な提供が開始された。具体的には、教科書発行者によってテキスト形式等に変換された教科書本文等のデジタルデータを、社団法人教科書協会が取りまとめ、依頼のあったボランティア団体(拡大教科書や点字教科書製作者、音声読み上げ教材を製作する非営利団体)にCD‐ROMで送付されたところである。
しかしながら、提供された教科書デジタルデータは、その変換に要する作業量や費用などの理由により小中学校の教科書全427点中42点に留まっているところであり、また、図や写真等については、著作権者や原版の所有者との間で締結されている契約が第三者への提供を許容するような内容となっていなかったことなどから、提供対象とはされなかった。
○ 平成20年4月21日、文部科学省に、本「拡大教科書普及推進会議」が設置された。
本会議は、視覚障害教育の専門家や教科書発行者、ボランティア団体の関係者等の各委員により構成され、「拡大教科書標準規格」「教科書デジタルデータ提供促進」「高校における弱視生徒への教育方法・教材のあり方」の3つのワーキンググループを設置し、以下の事項について拡大教科書を普及充実するための具体的方策の検討を行ってきた。
○ 拡大教科書など、障害のある児童生徒が検定教科書に代えて使用する「教科用特定図書等(※3)」の普及促進を図るため、平成20年6月、第169国会において、「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」(以下「教科用特定図書等普及促進法」という。)が全会一致により成立した(6月10日成立、同18日公布、9月17日施行)。
同法は、教育の機会均等の趣旨にのっとり、障害のある児童生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等を図り、児童生徒が障害その他の特性の有無にかかわらず十分な教育が受けられる学校教育の推進に資することを目的としており、その主な内容としては以下の事項が規定され、平成21年度において使用される教科書から適用することとされている。
同法の成立を受けて、文部科学省においては関連の政省令の整備を行い、教育委員会等が行う受領報告など教科用特定図書等の無償給与の手続が規定された。
○ 同法の成立により、拡大教科書の普及促進に関しては、文部科学大臣がその標準的な規格を策定・公表することとし、各教科書発行者は、それに適合する標準的な拡大教科書(以下「標準拡大教科書」という。)を発行する努力義務を負うこととなった。
更に、教科書デジタルデータの提供については、教科書発行者に文部科学大臣等へのデータ提供義務が課され、当該提供されたデータをボランティア団体等へ円滑に提供する仕組みを構築することとなり、これらの事項について、平成21年度において使用される教科書からの適用に向け、本会議において速やかに具体的な方策の成案を得ることが必要となった。
※3 教科用特定図書等普及促進法において、「視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため文字、図形等を拡大して検定教科用図書等を複製した図書、点字により検定教科用図書等を複製した図書その他障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため作成した教材であって検定教科用図書等に代えて使用し得るもの」と定義されている。
※4 なお、同法において著作権法の改正も行われ、教科用特定図書等普及促進法に基づき教科書デジタルデータの提供を行う者は、その提供のために必要と認められる限度において、当該著作物を利用できることが規定された(目的外使用の防止についても規定)。
これにより、従来から可能であった、弱視の児童又は生徒の学習の用に供するための教科書の単純な複製に加えて、当該複製のために図や写真等も含めて教科書デジタルデータを提供することについても、著作権侵害とならないことが明らかにされた。
○ 拡大教科書の普及推進に当たっては、第一に、できるだけ多くの弱視児童生徒のニーズがカバーできるよう、図や写真、文字やルビの取扱いなどの体裁・体様の具体的内容について規定した標準規格を文部科学大臣が策定し、これに適合した標準拡大教科書が教科書発行者からできるだけ多く発行されることが必要である。
これにより、現在の、拡大教科書の発行の多くをボランティア団体等に依存している状態の改善を図りながら、拡大教科書の普及を推進していくことが可能となる。
○ また一方で、弱視児童生徒の見え方は多様であり、同じ視力値であっても視野や色覚等の視機能は一人一人異なっているため、これらの標準拡大教科書がそれらすべての弱視児童生徒に対応することは困難なことから、これらの標準拡大教科書では対応できない児童生徒に対しては、引き続きボランティア団体等による、個々の児童生徒の見え方などに配慮した個別の拡大教科書の製作が要請される。
○ これについては、ボランティア団体等が、教科書発行者が保有する教科書デジタルデータを円滑に活用して、個々の児童生徒に対応した拡大教科書の製作ができるよう、教科書デジタルデータの提供に係るシステムの構築が不可欠である。
豊富な種類・内容のデータが提供されるためには、教科書発行者が簡易に、かつ安心してデータを提供できる仕組みであること、また、ボランティア団体等の正確な作業に資する使い勝手の良いデータがボランティア団体等に提供されることが必要である。
○ 更に、拡大教科書の普及充実のためには、標準規格自体や拡大教科書作成のノウハウが教科書発行者やボランティア団体等に広く普及啓発されることも重要である。
○ 以上のような考え方に基づき、本会議においては、これらの具体的な方策について、「拡大教科書標準規格」ワーキンググループ及び「教科書デジタルデータ提供促進」ワーキンググループでの検討を進めてきたが、この度、本会議としての成案を得たことから、これを本会議の「第一次報告」として公表するものである。
なお、本「第一次報告」の内容は、基本的に小学校及び中学校段階を対象としている。高等学校段階における弱視生徒への教育方法・教材のあり方等については、本会議の「高校における弱視生徒への教育方法・教材のあり方」ワーキンググループにおいて検討を行っているところであり、これについても今後引き続き検討を進めていく予定である。
初等中等教育局教科書課
-- 登録:平成21年以前 --