上野信雄氏(千葉大学大学院融合科学研究科教授)意見発表

【上野氏】

 上野でございます。私たちは高校2年生からの飛び入学を13年やっております。それに加えてCOEを随分長いことやっておりまして、どういうふうな観点から育てるのがいいのかという経験を積んできていると思われますので、そういう経験から少しこういうことがありますよということを申し上げたいと思います。
 左の図を見ていただきますと、私たちは大学におりますので、大学を最終的にどうやって高度化するかということを随分検討しておりました。結局、大学というのは、最終的な大学院をよくする以外にはないということはだれでもわかるんですけれども、それをどうするかというのは、結局、学生さんを高度化するということに努力しないとうまくいかない。そこで、最終的な案として考え出したのが、高校3年生を卒業する前に大学に入れてしまった方がうまくいくんじゃなかろうかということで、当時の文部省等から随分御援助いただきまして、17歳の飛び入学を開始したわけであります。
 ここにありますような年次進行といいましょうか、第1期は何が何でも制度を定着させないといけないということで、非常に大きな努力を払いました。第2期は、大学院へいよいよ展開できるような状況になって、より世界的な行き来をやるような体制を組もうというので努力をし続けております。そういう意味で、理念というのは、グローバルCOEをはじめ21世紀COEでの若手育成というキーワードと連携しているわけです。
 それに加えて大事な取組の一つは、可能性のある高校生を早く大学に入れて教育をやろうとしますと、高校での生徒さんの教育にかなりの支援をしないといけないということがわかっておりましたので、独自の大学・高校の連携ネットワークをつくって、様々な活動を当時からずっと続けております。
 1つの例を御紹介したいと思います。下のグラフは主要各国のノーベル賞受賞者です。上に書いてありますのが、ノーベル賞を取った人たちの全体の中でアメリカで一体何歳で学士を取っているか、すなわち大学を卒業しているかというのをまとめたものです。ざっと見ていただきますと、要は21歳以下で大学を卒業している人たちが80%あります。22歳以降、いわゆる日本と同じタイプですね。20才以下は45%。ノーベル賞を取ることがいいこととは限りませんけれども、大事なことは、物理学分野でノーベル賞受賞者の半数以上が何らかの飛び級、早期教育を経験しているという事実があります。これは当然、昔ほどそういう比率が高いわけです。
 飛び入学の現状をさっとまとめてみますとこのようになります。左の棒グラフは受験生と合格者数を表しています。黄色いのが合格者数です。へこんだり盛り上がったりしておりますけれども、おおむね増加傾向にあると考えてよかろうと思います。日本地図が描いてあります右の図は、日本のどこから受験生が来ているかということです。非常におもしろいのは、当初、ある県では教育委員会を挙げて反対していたところからも最近は受験生が来るようになっております。海外からも合計3カ国から来ております。
 飛び入学した者の状況をざっとまとめますとこのようになります。右の円グラフを見ていただきますと、卒業もしくは早期修了した者は現在39名おりますけれども、千葉大の大学院へ行った者が12名、東大の大学院へ行った者が13名、京大が5名、およびその他。おおむね千葉大が3分の1、東京大3分の1、あとの3分の1がその他です。千葉大へ来た人たちはすぐにアメリカの大学院へ行かせるということも努力しておりまして、2名アメリカで学位を既に取得していて、現在、留学中の者が2名おります。
 これが少しおもしろいデータかと思いますけれども、いわゆる修士課程から博士後期課程への進学者の比率を、いろいろな大学の工学系の研究科であるとか理学系の研究科の進学率と、先進科学プログラムを経て博士課程へ行った者の比率を書いてございます。先進科学プログラムを経た者は前期課程から後期課程への進学率が68.4%で、かなり意欲を持っているということがわかります。
 どういうふうにして選抜してきたかというのは非常に興味のあるところだと思います。問題はどういうふうな才能を才能として考えるかということですけれども、後で、私たちがずっとメモってきておりました才能の素才能とも言うべき能力を御紹介したいと思います。
 現在行っている入試は2つありまして、まず1つ目はこれです。1日詰め込みで教科書を見てもいい、何を見てもいい、自由に休んでもいいという状況の中で、答えがたった1つとは限らないという問題、課題1を出す。それから、課題2としては、一般入試の範囲を考えると極めて難解と思われる物理学の課題を出しますが、一歩一歩考えると先に進めるように工夫をしてあります。数学に関しては当初は面接の中で数学をやっておりましたけれども、現在は大学の講義についてこられるかどうかを見るための極めて基本的な数学を、これは何も見ないでやりなさいという方法でやらせております。その後で面接を45分から1時間。当初、1時間ないし、さらに1時間以上やっておりましたけれども、現在は45分から1時間で済むような状況になっております。それは私たち自身がいろいろな経験を積んできたということの反映でもあります。
 最終的な判定は、いわゆる筆記試験と面接をやっておりますので、普通は点を足していくんですが、そういう方法ではなくて、あるところが非常にいいということになりますと、そこをピックアップできるような足し算じゃない総合判定法をとっております。そのために、点をつけるということも筆記試験についてはやりますけれども、例えばAプラス、A、Aマイナスとか、そういうざっくりとした判定も同時に行うということで総合判定に役立てております。
 問題は、日本の高校からの推薦状が本当の推薦状として得にくいということが昔からわかっていたんですけれども、推薦状のフォーマットをこちらで用意させていただいて、それにマーキングしていただくと、ある程度浮き上がってくるという推薦状の形式をつくっております。にもかかわらず、まだこの子はここがすばらしいんだとか、そういうことを書けないのが高等学校のような気がしております。そこに多分、大きな問題が集中して存在しているということがおわかりいただけるんじゃないかと思います。
 実は平成20年から新しい方式を並行して入試として導入しております。先ほどの1番目の方式は極めて難解な問題を出します。難解といっても、一歩一歩進んでいくと必ず解ける問題を高校生でも出しておりますけれども、新しい第2の方式は前期課程の筆記試験を使います。すなわち高3が受ける試験と同じものを受けていただく。それプラス、長時間の面接を併用します。もちろん高等学校までの時代にいろいろな経験をした実績を高く評価します。例えば数学オリンピック、物理オリンピック系とかいろいろございますよね。ああいうものであるとか、いろいろな科学コンクールがありますね。日本の大きなのは、朝日新聞社のJSECと読売新聞社がやっておられる日本学生科学賞、そういうものの実績を非常に高く評価しております。
 そういうことがあって、現在は、先ほどの方式1は12月に試験を行いますけれども、方式2は大学の前期日程試験を受けますので2月25日と、あと面接は3月に入ってからやっています。この2系統で行っております。この前期日程試験のかわりにセンター試験を利用できるということになると、もっと可能性は広がると思っております。
 当時、私たちが持った課題というのは、一言で言うと四面楚歌で、極めていばらの道の中でやっておりました。そのときに一番感じたことは、まず1行目に書いてあることです。大学もそうです、高校もそうです、社会全体もそうです、その意識改革の必要性があったんです。その意識改革というのはなかなか難しいキーワードで、意識だけ改革しても実は行動に移れないということがあって、言葉をかえると気風というような、意識とともに行動に移れる気風というのを何がしか近しい人からお願いしていくという努力をしてまいりました。そのために行ったことは、一挙に多数の方にアナウンスするという方法よりは、一歩一歩フェース・トゥ・フェースで、コミュニケーションによってこちらの意図を伝達していくという方法をとりまして、結果としてそれが成功した理由の大きな一つでもあります。
 いろいろな問題がありましたけれども、その次、下の少し赤っぽい色をつけたところを見ていただきますと、当時は17歳であるがゆえに特別なケアを社会から要求されたという問題があります。これの理由は、まだ子供だから大学生活にはついていけないだろう、もう一つは、一人での生活は不安ですと。ところが、実際にはあっという間になじみます。文部科学省の方々等に見学もしていただいておりますけれども、普通の入学生に比べると、平気でいろいろな人と話ができます。
 入試方法につきましては、優れた資質・才能というのは一体何かというのは、実は当初、私たちもおぼろげながらにはあることを想定しておりましたけれども、具体的にわかっていたとは言えないわけです。そのために毎年、試験を改善しております。場合によっては、これ、うまくいかなかったねということもございますけれども、そういうふうにして改良を繰り返しながら現在に至っております。だから、実験をやらせてみたり、集団でいくら議論してもよろしいと行った方法です。それは例えばリーダーシップを見るとか、そういうことです。いろいろなことを導入して、現在に至っております。結果としては長い面接をするということで、私たちそのものが賢くなったといいましょうか、いい経験を積ませていただいているということは非常に重要なことであります。
 キーとなった方法はなぜうまくいったか。一番上に書いてあるところを見ていただきますと、基本方針をずうっと変えなかったんです。多くの場合、人がかわるとすぐ変わっちゃうんですけれども、これはキープしました。これが非常に大きなことだったんです。要するに大将が一貫していると、兵隊が機能するということです。第2番目は、研究の力及び様々な活動能力、情熱の優れた教員を一本釣りでピックアップして、中心的な運営、中枢に据えたことがあります。第3番目はコミュニケーション。直接顔と顔を合わしてコミュニケーションをとって、情報伝達をするということをやったことです。
 それで、どういうふうな才能があるかということを少しまとめたものがこれです。大きく第1グループと第2グループに分けることができます。第1グループは、いわゆる成績優秀者に必要な基本的才能、記憶力です。この記憶力は、記憶したものをいかに短時間に正確に引き出すかという能力と一体化しております。第2番目は、記憶した知識をいかに連携させるか。これは発想というキーワードにも関連しております。論理的に結びつけられるとか、それをいかに速くやれるか。これに関連して計算力とか、計算速度もこの部類に入ると考えております。第3番目は表現する力です。例えば文章力がないといい成績を上げられません。表現力には別な表現力があるので、表現力にも1というのをつけてあります。
 次、第2グループは、おそらく2つのグループに分けられるのではなかろうかと思います。第2のAグループは開拓者に必要な才能です。好奇心と知識欲。これは非常にわかりやすい言葉で言いますと、あした生きるために今日は御飯を食べないといけない。食欲旺盛な人は生き残る可能性が強いです。生き残るための一つに食欲があります。その次に、私は高校生によく言うんですけれども、非常にわかりやすいこととして、もう一つ若者がよく持っている欲があります。性欲です。これは確実に将来まで生き残らないといけない欲として体に与えられている。好奇心と知識欲はさらに長期。何がしかの災害が来たときに、それに対処するためにインプットされている欲だよと。要するに長期的な生き残りのための才能ということになります。
 その次、発想、記憶知識の連携の2番目ですけれども、卓越した創造性に関することです。これは非論理的な、記憶したもののリンクの能力です。記憶と記憶をトンネル効果でつなげちゃっているとか、論理でつなげるわけじゃないです。これがいわゆる卓越した発想につながる能力です。
 重要なのがまだたくさんあります。持続力、これは確実に必要なことです。さらに、逆境に対する耐性、これは楽観的性格ということと若干関連している可能性がございますけれども、持続力だけではだめで、逆境のときにいかに耐えて持続させるかという能力です。あとは決断力です。あと、冒険心も必要です。それから、もう一つ大事なのはインデペンデンスです。他に依存しなくとも平気な性格といいましょうか、胆力ですね。インデペンデンスは極めて重要です。
 Bグループは、どこかとグループを組んでやっていくときに、極めてその能力が有効に働くという力があります。表現力の2というのがこれに関連しています。そして技術的表現、技術的な創造性。例えば実験をやらせるとすごい上手だとか、物をつくらせるとすばらしいものをつくるなど。これは特殊な能力です。あと、図形とか、記号表現をうまくやる人とか、あるいはそれを一瞬のうちに認識する能力とかがございます。逆に言うと、そういう能力に欠けている人が存在しているということがあります。あとは立体の認識を即座にできる人、時間の認識を常に持っている人、非常に細やかな注意深さも非常に大事な能力です。あとはリーダーの資質です。
 そういうことをできるだけいろいろな資料及び面接を通して判断するわけですけれども、極めて難しいということは想像していただけると思います。
 そういうふうな経験から、現在、どういう課題があるかというのをまとめてあります。おそらく一番大事なことは、高校・社会で教育のとらえ方。教育は国家存亡にかかわる礎という感覚が極めて希薄になってしまっているということがあります。高校の先生方による大学の理解というのと世界の状況といいましょうか、教育状況、その認識が非常に低い。だから、それを解決する必要がある。千葉県は随分努力して解決しつつありますけれども、まだ努力目標です。
 あと、私たちが生徒の力を信頼できない問題というのがあります。これはいわゆる過保護的なことに表れてしまう。先ほど申しましたように、1年早く入った学生は普通に育ってしまう、もっとたくましく育ってしまうというのは事実としてあります。先ほど申し上げましたように、推薦状をなかなか書けないのが現在の高校教育界を表しているかなという感じがいたします。
 もう一つは、高校もそうだと思いますけれども、大学生も国の将来を憂うといいましょうか、担う誇りというのがないんです。これは大学に入ってすぐに得られるものではなくて、教育の過程で築き上げていかないといけない問題です。そういう意味では、大学も大きく改革していく必要があるわけです。例えば高校だけをもう少し具体的に考えてみますと、基本的には私たちは随分たくさんの方の御協力を得て、御意見を伺っていますので、たった一言で言うと、教員養成段階で教員養成をもう少し知恵を出して改革する必要があるなというのがございます。なかなか難しい問題だろうとは思いますけれども。
 例えば具体的な改善策は、要は各種書類、文書を簡素化する。高校の先生方をはじめ小中学校もそうだと思いますけれども、本来、教育に能力を発揮したすばらしい先生こそ、こういうので埋まってしまっているというのは御存知のとおりです。
 あとは保護者対応の問題です。ほどほどにしないといけないんですけれども、それには学校側の信念と、先ほど申し上げた意味での気風が必要かなという気がします。
 また、特に公立学校のガバナンス問題とか、インデペンデンス問題とか、責任者のあり方の研究を広くやる必要があります。
 それで、理科離れ問題もよく御存知だと思うんですけれども、1つだけ申し上げます。おそらく日本だと、文系教員の理数教養の向上を図らないとだめです。理系の先生は日常から文系の勉強はできるんですけれども、文系はなかなか難しいということがあります。これは後で見ていただくといいと思いますけれども、マスメディアとの協力ということをもう少し強力に推進していく必要があろうかと思っております。
 こういうふうな方々の御支援、御協力を得て、現在に至っております。
 以上です。

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-- 登録:平成23年07月 --