熊本県教育委員会からの御意見

所属・現職等

熊本県教育委員会 教育委員長 古荘 文子 氏

御意見

※高校教育の課題

  1.  ほとんどの子どもたちが高校に進学する、という状況下で、勉強しなくても、また、勉強に対する意欲がなくても、とりあえず高校に入っておこう、という安易な動機で進学する子どもたちが増えてきている。そのことによる学力の低下、また、学校間格差が拡大している。
  2.  高校は、社会人として自立していくためのひとつのステップとなる教育の場であるべきだが、卒業しても、また、その後偏差値に見合った大学に進学できたとしても、就職できない者や早期離職者が増加しており、高校教育の質や内容が問われている。

※考えられる対応策

  1.  大学進学を目指す高校だけではなく、職業訓練校のような高校、自立していくための基本的なことを教える高校など、それぞれの子どもたちにできるだけ対応できるような多様化を図るべき。勉強が向いていなかったり、努力できない者、基礎ができていない子などに、一番適した学校を選択し、自立していくために最も適した教育を受けることができるように考えていくべき。中途転校を促すなどということも、その子どもの将来のためであれば、指導上あってもいいのではないか。
  2.  勤労教育を高校でしっかり行っていくべき。なぜ勉強するのか、どうしてその大学に行きたいのか、その大学に行って何を勉強するのか、それはどういう目的からか。
     また、自立して職業を持つことの意味、働くことの大切さ、向上心を持ち続けることなどの指導も必要。

所属・現職等

熊本県教育委員会 教育委員 竹屋 純子 氏

御意見

1 今日の高校教育が抱える問題点

 はじめに、私どもが直面している高校教育の問題点に関して、今回文科省が積極的に耳を傾けて戴けることに感謝申し上げます。
 熊本県が取り組んでいる高校再編も現在中期を迎えております。私ども教育委員は前期に再編対象となった学校は全て視察し、校長を始め教師・生徒の再編前後の環境の変化及び問題点等を聞いて参りました。その中で、常に問題点として出てきたのが“特色ある学校作りとは何か”という課題です。
 熊本は昔から、市内の伝統校である二つの公立高校に人気が集中し、この二校に入ることを目標としている子どもも親も少なくありません。其の為、必然的に学力アップだけを考え、将来に繋がる高校選びがなされていない点が指摘されています。また、郡部においても熊本市内への志向が強く、優秀な生徒は市内の高校に集中し、地方の高校のレベル低下が取りざたされております。そこで、地域の学校において特色ある学校作りの重要性が叫ばれているのです。しかしながら、特色ある学校とは何かという課題が常に問われています。
 また違った角度からの問題点として、自分達の個性や主張をきちんと伝えることが出来ない子どもたちが増えています。昨今の若者はコミュニケーションがうまく取れないと良く言われますが、高校生においても然りであり、正当な自己主張が出来ない、自分自身の将来像が描けていない、夢を語れないという生徒が増えています。勿論、ボランティア活動等を通して活発に社会活動に参加している生徒もおりますが、ほんの一握りであり、その背景には、画一的な教育体制の中にあって、自らの個性を発見する機会が乏しくなっているという現実が存在すると思われます。

2  解決法

  1で述べた問題点で共通するのは、校長をはじめとする教師の力量が試されているということです。トップの考え方次第で、学校を変えることも可能です。「特色ある高校」については、その高校の歴史的背景や伝統を大切にし、地域の協力を得て地域の特色を生かした学校作りが必要です。「生徒の個性」に関しては、時代の変化とともに教師の在り方も変わりつつある今こそ、単に学問を伝授するだけの教師ではなく、常に子どもたちに何が必要なのかを考え、生徒の個性を見出し、それを磨く指導力が問われています。加えて、家庭生活のなかで学ぶことが難しくなってきている、人間としての最低限のモラルや社会性の醸成という役割も学校に求められています。これらの課題を解決するには、校長の企画力と教師の指導力が不可欠です。教員のレベルアップには時間と労力がかかるでしょうが、子どもたちの将来を考えた教育者の育成制度の構築によって優れた高校教育体制が確立されることを望みます。

所属・現職等

熊本県教育委員会 教育委員(尚絅大学生活科学部教授) 坂田 敦子 氏

御意見

1 今日の高校教育が抱える問題点

 世界的に見ると、わが国は豊かな生活と教育環境が整えられているとても望ましい国の一つといえます。豊富な知識や多種多様な情報・技術を使いこなすわが国の高校生は頼もしくも思えます。
 しかし、一方では与えられた環境を甘受するのみで、外の社会や海外に向かってチャレンジする力、物事の原理や基本を常に深く考えて新規の視点や独創的な考えを生み出す力が乏しく、視野の狭い学生が多くなりつつあることも事実です。また先人の良識と弛まぬ努力で今のわが国があることへの感謝や意識が薄く、生きがいや使命感の追究、自己鍛錬などをとおしてどのように社会貢献していくか、真剣に自己と社会を地域から世界レベルで考える学生が少なくなっていることを危惧しています。
 また食生活や運動習慣の乱れから体力・気力低下、成人病や精神疾患などを抱える高校生が増える傾向にあり、将来わが国を担う健全な若者の育成のためにも、生活力を身につけ、自立した学生の育成が重要と感じています。

2 その解決策

 一朝一夕にはいきませんが、近現代の歴史をきちんと学び、色々な視点から現在の日本と世界を考えることが大切と考えます。日々のニュースや世界の出来事に常に関心をもってもらいたいです。

 また生活習慣の改善については、食育・保健指導はもちろん大切ですが、机上の学習ではなく、調理実習や体力創りなど体験をとおして身につけさせることが重要です。とかく受験科目に集中しがちな高校教育ですが、家庭教育力が低下しつつある今日、技術・家庭科や体育の時間はとても大切です。これらの科目を軽視せず指導強化し、基本的な生活力を向上させながら、高度な知識・技術、幅広い考え方を着実に学ぶことが重要か、と思います。

所属・現職等

熊本県教育委員会 教育委員(東光石油株式会社代表取締役会長) 石原 靖也 氏

御意見

高校教育の問題点

  「国際競争力に打ち勝つ人材の育成や国力の新たな担い手という、現代のわが国が抱える新たなテーマに対しての、高校教育が果すべき役割の方向性が示されておらず、国民の期待感に対し教育界そのものが対応ができていない。」

 わが国が抱える、国際的な脱落状況の因の一つである「時代に対応する人材不足」は、企業や大学という社会との接点のみに問題が投げられているのではなく、その基礎となる高校教育にこそ原因の一端があり、又、それだけに大きな解決方法があるとも考える。
 日本の高校教育、特に進学に於いては、国公立大学への進学結果のみが学校や教員の勲章とされるような偏重が強く、併せて、大学も大企業への就職率のみが最高学府としての使命と捉えられているとも思える偏重の連鎖が続いている。結果は、その企業までが海外の企業に買収されている悲しい現状がある。
 入学試験技術的な方法論だけが優先され、「創造性」という、「自分で考え、自分で答えを発見し、自分の力を自らが創造していく」という、米国の教育などにみられる、「自立型」「起業型」を本望とする、個々の独自な力の創出に関しては、まず教職員が経験もなく、当然その手法を持たず、教員そのものが現代の社会要求を満たすだけの教育力も、素質も低いというのが現状の本音ではないか。
 同時に、その精神的なバックグラウンドとなるはずの、ある意味哲学的な「生きる力」というテーマを、国の教育行政は、学校にも、教員にも、生徒たちにも投げながら、その根本となる「生きる意味」を徹底的に論議し、それを得心させるような、指導方法もそれを指導する教員の資質教育も果さず、単なる現場のカリキュラムとして放置しているとしか評価できない。
 高校教育は、「自分で創造性」へと向う方向性を示唆し、大学で、又は社会でその具体性を実現させる、重要な準備段階であるという、教員の意識変化とそれを指導する力の養成が急務であると考える。

解決方法

  •  留学の促進を前提とした教育カリキュラムを用意し、より多くの若者が日本の大学ではなかなか達成できない国際的な感覚、国際競争力の概念の習得を海外にて学ばせる。
     そのためには、日本の国公立大学入学の教育指導の偏重から脱皮し、個性の発見とそれぞれへの指導の対応を行う事が必要であると考える。
  •  地域の経営者等、社会人のボランティア教員制度を設け、高校生に対して「志」等様々な示唆を提供するカリキュラムを必須とする。
  •  「徴農制度」の施行であると考える。
     徴兵制度を有しないわが国で、国家の為の奉仕の精神を学ぶ場とする。
     一時的な体験の場としての捉え方ではなく、一次産業の社会的な重要性を体感するだけでなく、自らが生産者として産業の担い手となる達成感を学ぶところにある。

所属・現職等

熊本県教育委員会 教育委員(株式会社オジックテクノロジーズ) 金森 秀一 氏

御意見

今後の高校教育の在り方に関する意見

1.人格(人間力)を育てる教育
 ある経済研究所の調査によると「子供に身につけて欲しいこと」のトップは「礼儀、マナー」、二位は「思いやり、やさしさ」である。産業界が就職してくる学生に望む重要能力のひとつはコミュニケーション能力でありその基本は「挨拶」である。混沌とした時代に専門知識を活かし活躍するためにはこれらの人間力が不可欠である。高度成長時代のように方向性がはっきりした時代は偏差値教育が効果的だったであろう。しかし世の中は変わったのである。経済産業省は人間力を社会人基礎力と呼び3つの能力、12の要素に分けている。これらを活かして人間力を育てるカリキュラムが作れないだろうか?偏差値偏重教育から人間力重視教育へ少しずつでも舵を切る必要性を感じる。

2.教職員の総合力を発揮する仕組み作り(教職員間のコミュニケーション)
 教職員の「教育力向上」「多忙感」「ストレス」「不祥事」「モンスターペアレント」などの問題に直面するとき常に感じるのが当該教職員の孤立、周りの教職員のサポートの無さである。教職員間のコミュニケーションの欠如である。教職員でお互い相談し助け合い良いところは教え学び合う仕組みが必要と感じる。産業界で言うアメーバー経営のようなチームで動く仕組みを作ってはどうか?教職員が総合力発揮しその組織の中で組織を構成する教職員も成長するそのようなシステム構築が望まれる。そして優秀なチームや個人、難問を解決したりトラブルを未然に防げたチームや個人を思いっきり褒める(内輪で表彰するだけでなく広く世間に知らしめる)制度もつくるべきだと感じる。

所属・現職等

熊本県教育委員会 教育長 山本 隆生 氏

御意見

1 今日の高校教育が抱える問題点

 高等学校への進学率が98%を超える現在、義務教育段階の学習内容が充分に定着していない生徒が多数進学している。しかし、各学校の教育課程は学習指導要領の枠組みの中で編成され、必ずしもそのような生徒の実態に合わない教育活動が行われている状況がある。また、平成25年度から学年進行で実施される新学習指導要領においても、共通必履修科目として全ての生徒に「国語総合」、「数学1」、「コミュニケーション英語1」を履修することが求められ、これまでと同様に学習への動機付けの困難さから、中途退学等の課題が生じることを危惧している。
 各学校において、学校や生徒の実態に応じて、必要がある場合には義務教育段階の学習内容の確実な定着を図る工夫を行うことは可能であるが、義務教育段階の学習内容が充分に定着していない生徒に対し、学び直しに加え、新たに高校段階の学習内容を理解させその定着を求めることは現実には難しいところもある。
 したがって、このような学び直しの必要な生徒が多く在籍する高等学校では、各学校が編成する教育課程が生徒の実態に対応していないのではないかと考える。

2 その解決策

  基礎学力が充分に定着しておらず、それが引き金となって中学校の時に不登校状態であった生徒が高等学校へ進学し、少人数のクラスにおいてマンツーマンに近い環境で授業を受け、欠席することもなく生き生きと学校生活を送ったという事例がみられる。これは、その生徒の実態にあった教育課程を編成することが出来れば、生徒の学ぶ意欲を喚起し、生きる力を育成することは可能であるという一つの例ではなかろうか。
 そこで、98%を超え、授業料不徴収という事実上義務教育化している現状において、義務教育段階の学習内容が充分に定着していない生徒に対しては、学習指導要領に定められた必履修科目に一律に縛られることなく、学校独自の判断で、生徒の実態にあった弾力的な教育課程を編成することを可能にしてはどうであろうか。すなわち、学校によっては、学校や生徒の実態に応じて、必ずしも必履修科目に拘ることなく、小学校・中学校・高等学校の12年間で義務教育の内容や社会実践的なものをじっくりと学ばせることで、義務教育段階の学習内容の確実な定着を図り、まさに「生きる力」を備え、自信を持って実社会に出て活躍する生徒を育てることができるのではないだろうか。 

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年05月 --