佐賀県教育委員会からの御意見

所属・現職等

佐賀県教育委員会 教育委員長(弁護士) 安永 宏 氏

御意見

 高校教育が抱える問題点とその解決策 

○ 問題点

 私達の小、中、高校時代には、病気以外で学校を休む者はまずいなかった。どんな状況にあっても学校へは行かねばならないもの、学校では学ばねばならず欠席などはしてはいけないものとの、刷り込まれたような意識が親にも子にもあり、それは学校教育を根本から支える普遍的価値観であったと言っても差支えないものであった。
 それが、現在はどうか。不登校、休学は必ず一定の割合で存在するありふれた事象となってきている。かつてと比べて、学校環境の中でこれ程の様変わりはあるまいと思うのだが、結果としては、そのことが、「学校は学ぶところ」という基本的感覚を国民意識の面において総体的に希薄化せしめてしまっているように思えてならない。
 今回のヒアリングは高校教育に関するものであるが、近時の新聞報道によると、関東圏においてではあるが、「九九もできず、アルファベットも書けない」など、小学校低学年のレベルの学力もおぼつかない生徒が相当数いるとの報道がなされていた。また、PISA調査結果による15歳学力国際調査に見られる、成績上位層が薄く「社会生活に支障を来す可能性がある」と懸念される成績下位層が10%を超えているという実情を目の当たりにすると、どうしても、「学校は学ぶところ」という認識の希薄化が学校軽視の風潮となって低学年時から滲透し、高校段階にまで至っているように思えてならない。
 そうだとすると、高校になってからその対策を考えるというのでは遅すぎるのであり、それ以前の小学校、中学校時代から不登校対策にもっと意を用いるべきであると思う。それこそが、高校教育の今日的問題解決の出発点になるのだと考えている。

○ 解決策

 各種アンケートや調査結果による、不登校の原因は多様であり、当面、一概にこれといった決め手になるものがあるわけではない。
 しかしその中で、やはり心理的にも肉体的にも主要な部分を占めるのは「いじめ」と家庭環境であろう。
 現代のいじめは集団的かつ反覆的である。我々の小、中、高校時代を振り返り比べてみても、このような形での仲間外しはなかったし、どこかに「それ以上は」という子どもながらの自制が見られた。それに対して、現在の態様は余りに陰湿であり、被害者が登校を避けて引きこもりとなってしまうのも無理はない。もちろんその被害者には何の責任もないことであるが、このようにして不登校となった児童生徒の存在が一定の割合になってデータ上の独立した数値となってくると、それが普通のこととして受け止められ、不登校となる児童生徒の存在そのものを疑わなくなり、その行き着くところが「少ないに越したことはないのだが」という程度の認識に落ち着いてしまっているのではないかと思う。
 かつてはそうではなかったことが、僅か30~40年間位のことで何故にこれほど様変わりしてしまったのか、その原因を、国家プロジェクトとして、教育の面からのみならず、社会学、心理学、医学などの諸観点から総合的に研究してほしいと考えている。

所属・現職等

佐賀県教育委員会 教育委員 森田 久代 氏

御意見

学校教育に望むこと

  •  今日の社会では、子ども達は、高校生活を通して職業について考えると言われていますが、自分の将来について考えていくのは、むしろ中学あるいは小学校高学年の時期から始めた方がよいと思います。
     せっかく大学を卒業しても、自分の将来について確固たる見通しを持っていないために、いざ就職という段になって自分の将来が見えずにいる方がたくさんいるように思えます。目的意識が希薄なために、何のために大学に入り、何のために勉強してきたのかさえわからないような学生を見かけます。
     職業について考えていくことは自分探しの旅です。当然、初めは漠然としたところから始めなければならないと思いますが、成長段階に応じて、学校や家庭、地域活動を通して、自分のしたいことを少しずつ見つけ自立すること、つまずいても立ち止まって考え、調べ、やり直しすることのできるたくましい、そんな力を身につけてほしいと思います。
     そのためにも、高校の三年間だけではなく、もっと早い段階からキャリア教育が行われることを望みます。
  •  人は、生きていくうえで競争心は必要です。マスコミ等でよく言われる「勝ち組」「負け組」という言葉にも象徴されるように今日の競争社会は若者にも厳しい現実を突き付けています。
     しかし、そのような世相だからこそ、「優しい心」、「他を思いやる心」が必要だと考えます。人は、自分一人で生きているわけではなく、お互いに助け合いながら生きているということを生徒たちにも実感してもらいたいとも思います。
     そのためには、学校教育の場においても、生きていくためのたくましい力を身につけさせると同時に、思いやりのあるあたたかい心の育成にも力を注いでほしいと願わずにはいられません。

所属・現職等

佐賀県教育委員会 教育委員(元県立学校長) 真木 昭男 氏

御意見

1 高等学校の更なる特色化が不可欠

  •  高等学校にあっては、学校間での学力格差が見られ、普通科・専門学科を問わず、その指導の面で中途半端な実態を目にすることがある。
     学校は限られた教職員数、限られた時間枠の中で教育を行う場である。ところが今日の学校教育にはあまりにも多くのことが求められすぎているのではないだろうか。
     今一度学校教育の原点に戻り国民的意識改革を行うことが必要ではないかと考えている。
     学校・家庭・地域社会で子どもを育てるための役割分担を本気で考え、行動に移す時が来ていると思う。学校教育はもっとシンプルなものとなし、生きる力の基礎・基本を全ての子ども達に身につけさせる場として、学校教育でしかできない教育活動に集中させてやりたい。
  •  普通科でもかなりの学力格差が見られる。また、校内でも生徒一人ひとりの学力格差が大きい学校も見られる中で、大学入試の在り様に振りまわされながら教育がなされている実態がある。
     専門高校にあっては、入学当初から進学希望者向けのカリキュラムを準備し、普通科とあまり変わらない教育をするなどスペシャリスト育成とは思えない教育の実態等も見られる。
     普通科といえども学校の特色化は深められると思うし、専門高校にあっては、スペシャリストの育成のために在学期間が短すぎるようなら1~2年間の延長を認めるなどのことをして、高校への進路意識をしっかり持たせる点からも特色化をしっかりと深めることがあってよくないか。
  •  各学校は特色を打ち出した以上、学校の使命としてその実現に取り組まなくてはいけない。そのためには魅力ある教育の実践に期待したい。今日のように若者のモラルの低下や価値観の多様化などいろいろと言われている中での生徒たちでも、興味・関心を示すような魅力ある教育を実践することにより、向上心を持って高校生活を送ることを期待したい。

2 教員の資質の向上とキャリア教育の限界

  •  魅力ある教育が行われるには、それに相応しい実践力を持った教員が不可欠であるが、現場の教員にはかなりの多忙感が見られる。
     特に予備校もない地方では、生徒や保護者の期待を受けて授業の外に日々の課外指導、土・日曜日の部活動の指導や曜日に関係なく生徒指導や保護者との対応等に追われる日が続く。これでは教材研究すら十分にできない状況となる。
     このような状況では、これからの高校教育に魅力ある教育を期待することは無理かもしれない。しかし、教員には頑張ってもらわなくては困る。魅力ある教育の実践は教員の人間性を含めた高い教育力によって可能になると考える。教員は自らの教育実践力を高めるため、常日頃の研鑽と研修が大切であろう。できることなら、少しでも多く研修の機会を持たせる工夫に期待したい。
  •  キャリア教育が重視されることは喜ばしいことである。
     しかしながら、今日の社会の激しい変化に対し、関心を持ち理解できている教員はどれ程いるのだろうか。
     経済に無関心でありながら経済のことを語ったり、国際化について実際外国へ行ったこともない教師が国際感覚を持って指導に当たれるものであろうか。
     教師の今日の多忙感の中では自発的な研修を深めていくことを期待するのは心もとないことである。生徒にとって重要なキャリア教育のために教員に積極的な研修の場を与えていただきたい。
     今のままではキャリア教育に限界を感じるのは私だけだろうか。

所属・現職等

佐賀県教育委員会 教育委員(会社役員) 川添 悦子 氏

御意見

今後の高校教育について

  •  現在、高等学校への進学率は全日制で96%、定時制・通信制を含めるとほぼ100%、大学等への進学率も50%を超えています。
     戦後、我が国は、昭和23年に新しい学制ができてから60数年間、国民の学力総嵩上げを目指してきました。このままの高学歴化が進めば、ほとんどが大卒となり、学歴の側面で見ると、逆三角形の構成になりかねません。
     私は、大学を目指し勉強したい人は普通科高校に行き、大学でもしっかり学び、国際社会でも負けない日本を目指してもらいたいと考えています。
     しかし、その一方で教科の勉強よりも技術を学び、身につけたいと考える人には、無理に進学するより、工業系、農業系、水産系、コンピュータ系など、得意な部門を伸ばして、今までのような、技術力の高い日本を目指し、日本文化を継続していくべきだと思います。
     今日の社会では、これまで以上に、旋盤工、大工、文化財補修、木工芸、金工芸、日本の食生活を支える農業、水産、次世代を担うコンピュータなど、それぞれの分野において高い技術力が求められています。 
  •  もう一つ、今の高校生は、幼児期からゲーム機、携帯電話、パソコンなどの電子機器があふれた環境の中で育ち、人と向き合って話すことが少なくなっており、コミュニケーション能力が低くなってきております。
     また、少子化が進み、子ども達は親の判断の中で育っており、自己判断力が低くなってきていると思います。
     私は、高校時代に1ヶ月くらいの職場体験ができればと望みます。
     大学の先生から、今の大学生は、大学に入学することが目的になってしまっているので、なかなか就職をしたがらない学生が増えてきていると聞いたことがあります。そのためにも、仮にひと月位の期間であっても、そうした体験を積めば、社会性も身につき、少しは自信になるかと思います。制度化するなど、ぜひ取り入れていただきたいと考えます。

所属・現職等

佐賀県教育委員会 教育委員(会社役員) 村岡 安廣 氏

御意見

今日の高校教育が抱える問題点について

  •  今日の高等学校には、高度化社会、成熟化社会に対応すべく高校生一人ひとりの自立と共生のための教育が求められておるものと存じます。
  •  特に、一人の社会人としての自立の礎となる進路選択について、学校や家庭における指導のあり方が問われていると存じます。より適確な選択のための情報開示や情報収集についてさらなる改善を望みます。進路をより明確なものとし、この「生きる力」により学校活動を活性化させるための手だてが求められておると存じます。
  •  自由と平等な社会は、競争社会でもあります。競争社会にあって自立と共生を確保していくために、生きる力とともに共生のための、他を思いやる力、そして表現力が求められると存じます。これらの「考える力」を醸成するカリキュラムが不足していると考えます。
     競争社会では、たゆまぬ学業は不可欠ですが、自然との共生や歴史伝統の継承も重要であると存じます。こうした面のカリキュラムもいささか不足しているように思われます。
  •  こうしたことから、今日の高校教育が抱える課題として、私は、特に次の3点をあげたいと存じます。
     (1)プロ教師の育成
     (2)徳育を含めた社会教育、家庭教育の充実
     (3)情報の共有の推進

所属・現職等

佐賀県教育委員会 教育長 川﨑 俊広 氏

御意見

今後の高校教育の在り方について

  •  今日の日本社会は、国民の生活水準が飛躍的に向上する一方で、急激な国際化の進展や地域間格差の増大、少子高齢化の進行などの変化に伴い、教育を取り巻く環境も激変してきました。
     高等学校の現状は、ほぼ全員が進学してくる状況にあり、学習内容を含め準義務教育化した感があります。そのため、高等学校の果たすべき役割について、義務教育の延長と位置づけた対応をなすべきか、高度な学問や技能を身につけるための高等教育の場としての対応をなすべきか、国の施策を含め、曖昧なままになっているように感じます。
  •  私自身の思いとしては、生徒一人ひとりの能力と適性に応じて、「普通科は、より高度な学問を志向する者が学ぶ場として、大学教育を見据えた教科指導を徹底すべき」であり、一方で、「専門学科については、実社会で活用できる知識や技能を取得する場として、技術立国日本の伝統を受け継ぎ発展させる意味からも、産業界からのニーズも踏まえながら、働くことへの関心や意欲を引き出し、産業界の求める人材の育成を目的とした職業教育を重視すべき」であるが、実際の指導ということでは、必ずしもそうはなっていない。制度的にも、学習指導要領における教科指導の制限が大きく、十分な進路指導が行われないまま、安易な職業選択による、いわゆる就職のミスマッチを引き起こしていると考えています。
  •  こうしたことから、国には、教育課程全体の充実・見直しを含め、改めて、社会の現状と将来を展望した新たな高校教育の基本理念を明確にし、日本の未来を切り拓く人材の育成に向けた教育の実現に取り組んでいただくよう、切に求めます。

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初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年05月 --