広島県教育委員会からの御意見

所属・現職等

広島県教育委員会 教育委員長(有限会社平田観光農園代表取締役会長) 平田 克明 氏

御意見

1 今日の高校教育が抱える問題点

(1)全般に深い教養が培われていない。グローバル社会に於ける多様な状況下で、自分の言葉で語り、他人の悩みを感じ取り、自らの判断で行動できる、実践的総合力を育むことが喫緊の課題である。
(2)教育内容が普通学科に極度に偏重しており、国内産業が求める人材とマッチングしていないと共に,個性を生かす教育内容になっていない。すなわち99%を占める中小企業の人材が空洞化し、外国人に頼らざるを得ない状況になっている。その結果、世界に誇れる日本古来の伝統的な技術が継承できない深刻な事態に陥っている。一方で、フリーター、ニート、早期離職の増加を招いている。
(3)負の環境を糧として、立派な子どもに育つ時代から、残念ながら経済力が学力を決める時代となった。子どもたちが自分で夢を培い、自ら高い夢と希望を育み、自ら自分の道を切り開いていく力を涵養するため、高い知情意の総合力を養う教育が求められる。
(4)諸外国に比べて、外国語(特に英会話)によるコミュニケーション力が極度に劣るため、日本が国際的に孤立し、総合的に強い力を持ちながら、自信を失ってきている。従来の読み、書き偏重の外国語教育から、実社会で役立つコミュニケーション力涵養に重点を移行すべきである。
(5)過去において、農村及び漁村から優秀な人材を輩出し、今も続いている。近年、一次産業の衰退と共にこの地域の過疎少子化が急速に進み、学校が存亡の危機に瀕している。この地域は都市部に比べて収入が少ないのに加えて、多大な教育費が必要であり、過疎化に拍車をかける悪循環をまねいており、品格ある国家形成や食料の安全保障にも大きな影を落としている。

2 その解決策

(1)避けることのできない国際化を視野に入れ、高い目標を持ち続け、それを達成するスキルを磨くために、豊富な読書、旅行、スポーツ、野外活動、キャリア教育などで知恵と強い精神力を体得する多様な体験を、幼児期~高校まで、生涯教育を組み込んだ形で導入すべきである。高校生活は、自分のある程度の将来設計ができあがる重要なタームポイントであり、意識改革が求められる。
 そのために、コミュニケーション力を培う、グループ、コラボレーション、プロジェクト学習等を多く取り入れると共に、地域はもとより世界で活躍する識者から学べる環境も整えるべきである。
(2)学科編成をヨーロッパを参考に、個性を生かし、日本の産業に適合した学科編成とし、学力一辺倒でなく、全ての子どもたちが幸せな人生を歩める学校体制を構築する。特に、工業、化学、農業、医療、土木、福祉、食品加工、調理、音楽、美術、工芸、デザイナー、スポーツ等々の多様な人材育成を早い段階から行う。
(3)18歳までに、自立できる人間力の育成が重要である。一方で、教育は生涯に渡り、継続して行われるものであり、自分に適した職業の機会は、年齢に関係なく常にあることを学ばせるべきである。すなわち、職業も時代と共に、特に最近では短期間で変還し、「時代に適応できる能力」の育成が重要なスキルとなる時代となっている。自立は主として親が育む教育であるが、残念ながら、近年は親に期待できない環境が生まれている。そこで、社会(親、学校、地域、企業等)全体で子どもを支える教育体制が求められている。
(4)幼―小学校期で、ヒアリングを中心に外国語に馴染ませて、中学校で会話の楽しさを体験し、高校教育で最低でも日常生活で十分意思疎通ができる会話力を培い、大学で専門的な分野をこなせる外国語のスキルを磨く外国語教育は欠かせない時代環境になっている。
(5)広島県では避地における小規模校の特色づくりと充実、存続に向けて地域や複数校の連携で、地域資源や芸能を生かし特色ある学校づくりを行い、成果をあげてきている。国においても、小規模校の存続に向けて、政策及び財政面で支援し、次世代を荷う優秀な人材育成の条件を緊急に整えるべきである。

所属・現職等

広島県教育委員会 教育委員長職務代理者(放送大学広島学習センター所長) 二宮 皓 氏

御意見

1 今日の高校教育が抱える問題点

  •  グローバル化の影響もあって地域経済・地場産業等が弱体化し、高校生などの就職が難しくなってきている。またそれに加えて、就職しても3年程度で離職・転職する傾向は依然として続いている。そうした現実の就職状況等を考えると、高校のあり方を抜本的に再構築しなくてはならない。大学に進学した者も就職できない状況が出てきていることを考えると、高校から大学に進学すればそれで高校の役割を果たしたと考えるわけにはいかない。高校のカリキュラムが現実社会とのレリバンスを持たず、「社会への準備」をしっかりと行うという高校の基本的機能や使命が果たされていない。
  •  グローバル化時代への対応として、英語教育も重要であるが、さらにアジア域内の相互交流の増大などを見据えた高校教育のあり方として、たとえばアジアの言葉を選択的に学ぶ学習、アジアの国への修学旅行(Study Abroad)の積極的な展開、などアジアを意識したグローバル化への対応が求められる。
  •  「勤労生徒のための定時制高校」はその存在意味を失っているのではないか。全日制高校の弾力化とより充実した新しい通信制課程の創出で十分にニーズに対応できるのではないか、と思っている。インターネットも発達しているので、そうしたICT技術を駆使しながら、一人ひとりの学習スタイルのニーズに応える高校のあり方を考えることが大切ではないだろうか。

2 その解決策

  •  就職できないという問題の解決としては、中高連携、高大連携のシステムの中で、就職できる、自立できるための教育・カリキュラムのあり方を考え、一貫した教育を行えるようにすることが大切である。キャリア―教育も重要であるが、職業意識だけを育成してもそれでは就職できない。高校卒業時、あるいは大学卒業時に実際に就職できるための教育のあり方が検討されるべきであろう。
       たとえば日本版“Gap Year”制度を高校と大学が連携して開設し、高大接続のあり方を基本から見直すこともできるだろうし、大学卒業後も就職するまでの間、社会で実際に体験したり、学んだりし、その後就職あるいは就社するといった制度の開発が有効であろう。

所属・現職等

広島県教育委員会 教育委員(株式会社大野石油店代表取締役社長) 大野 徹 氏

御意見

1 今日の高校教育が抱える問題点

(1)通学区域を全県一円化して、特色ある高等学校づくりを推進しているが、県内の人口分布の二極化が進行すると同時に、少子化の進展による中学校卒業者数の減少によって、地域間格差と学校間格差が生じている。

(2)成人年齢を引き下げようという議論も生じており、高等学校を卒業すると同時に、進学するか就職するかを問わず、一人前の社会人としてスタートするという自覚を促す教育が求められるが、義務教育の延長として、いつまでも子供扱いしてしまう傾向が見受けられる。

2 その解決策

(1)「学校経営」の取り組みを更に推進し、上意下達に終わることなく、一歩進んで、管理職と教職員が一体となった盛り上がりを作り出すと同時に、教員の授業力を高めて、生徒の学ぶ意欲を育てる教育ができるような施策を展開する必要がある。また、昨年度より実施している小規模校連携の取り組みを一歩進めて、特色ある学校づくりにつながるように高めていく必要がある。

(2)現在取り組んでいるキャリア教育を、より広く、より深く展開し、働くことの意味を考えることができ、また、社会と個人の関わりといったことまで学び取ることができるようにもっていく必要がある。

所属・現職等

広島県教育委員会 教育委員(弁護士) 平谷 優子 氏

御意見

1 今日の高校教育が抱える問題点

 高校進学率98%の現状において,中学3年生のほとんどの生徒の本音は,全日制普通科への進学を希望しているように感じている。
 しかし,貧困等に由来する多忙により子どもを見る時間がとれない保護者(多くはひとり親),あるいは養育能力が乏しい保護者等のもとで育った生徒は,都市化し核家族化した社会において,誰にも勉強のフォローを受けられず,小学校中学年あたりから年次に応じた学力を十分に身につけられないままに学年だけ進んでいきがちである。そして,本人が高校受験を意識する中学2年後半ころには,取り戻すことが難しい状態となっている。
 こうした子どもたちの一部は,全日制を諦めて入学しやすい定時制高校へ進学する。しかし,高校無償化等により定時制高校の中には受験倍率が上昇して不合格者を出す事態となり,今年度,その子どもたちの多くは通信制高校へ入学することとなった。しかし,通信制高校は従来学習意欲の高い生徒へ対応する体制であり,このような学習意欲自体を丁寧に引き揚げる必要のある生徒への対応には限界がある。

2 その解決の方向性

 まずは早期対策として小学校3,4年生の勉強が難しくなるあたりから,放課後に学習支援ができる無料の学びの場を整備すべきと考える。これは厚労省が実施している「子どもの健全育成支援事業」に通じるものである。小学生中学年あたりからは子どもに問題行動の芽が見て取れる。この子たちの将来の問題行動の予兆に気付きながら,小学校が何もせず中学へ送り出すことに疑問を感じる。保護者の多忙等のため家庭に居場所のない子どもに継続性のある(手続的に面倒でない)居場所をつくり,そこで学習支援等を行い中3で顕在化する上記問題を軽減する施策が必要である。
 二つ目には,十分学力をつけずに高校進学せざるを得なかった子どもたちも丁寧に指導できる昼間定時の単独校や,通信制課程を併せ持つ定時制高校を,県全域をカバーできる程度の数整備することである。中学時代に不登校を余儀なくされて義務教育を受ける機会を奪われた子の再チャレンジの場としても重要な意義がある。
 家庭教育が機能しないために生じる問題を子どもの不利益とするのは,生まれる場を選べない子どもにとって余りに不公平である。例示した以外にも課題を克服する施策を講ずるには,子どもの学力や生徒指導対策に加え,貧困対策さらには非行対策を絡める必要がある。文科省と厚労省,さらに法務省(更生保護部門),場合により内閣府も含め,省庁の垣根を越えて手を取り合って施策を実行していただくことを切に願う。

所属・現職等

広島県教育委員会 教育委員(株式会社サンエス代表取締役社長) 佐藤 卓已 氏

御意見

1 今日の高校教育が抱える問題点

  個別高校の問題はさておき、激しい変化を遂げている日本社会の中で、高校教育全般に感じる思いを一つに絞って申し上げます。
  大学希望者全入の時代を迎え、大多数の高校生が進学を希望する中、「社会生活基礎教育の完結機関」と「更なる高等教育に対する準備機関」の位置付けが曖昧であり、就職なり進学なり生徒を次のステージへ送り出すための定型的教育に陥っている懸念が有ります。
  そのため、多くの生徒は受動的であり、自らの目的意識を確立せぬまま卒業しているように思えます。高卒就職3年未満離職率が高いのも、海外留学希望者の減少も、大学就職内定率が低いのも、確たる「志」が高校生時代に形成されてない為と感じます。
  少子高齢化が進み、国力の停滞が続き、我が国で夢を語ることが少なくなった今こそ、次代を担う高校生が大小様々な夢を掲げ、その実現を目指す活力を与えられる教育環境が必要と考えます。
   また、グローバル時代に必要不可欠な、個々人の個性や差異を互いに認め合う生徒の人間観づくりも、今以上に必要と感じます。

2 その解決策

(1)日本が直面している課題(政治、経済、福祉、etc.)を知ること
(2)世界の変化(政治、経済、紛争、貧困、etc.)を知ること
(3)日本や地域の歴史、文化の素晴らしさを知ること
 これらを知ることの中で、自らの生きる道を探し、生きる力に必要な資質を学ぶ自立性を身につけることが必要と思います。
 そのためには、社会との接点(職場体験、企業訪問、史跡巡り、海外視察、海外交換学生、社会人による講義、各種ボランティアetc.)を数多く持つカリキュラムが求められます。
 更に、生徒同士によるディベートや模擬企業経営、模擬政治など取り入れ、自主性を尊重した授業も重要と考えます。
 雑駁な意見で恐縮ですが、現在の日本が抱える多くの問題は、誰かが解決してくれるものではなく、まさに現在の高校生がその矢面に立たされる、その危機意識を生徒と共有することが必要と考えます。

所属・現職等

広島県教育委員会 教育長 榎田 好一 氏

御意見

1 今日の高校教育が抱える問題点

  近年,高校生の中には,ルールを遵守する意識が希薄で,自己中心的であり,言葉を通じて問題を解決する能力が十分でなく,また,善悪の判断に基づいて自分の欲望や衝動を抑えることができず,自尊感情も低い傾向にある生徒が見られるなど,精神的・社会的自立が遅れ,創造力やチャレンジ精神も乏しく,「生きる力」が十分に身に付いていない状況がある。

2 その解決策

  「生きる力」を身に付けさせるには,生徒の自己肯定感を高め,物事を前向きに考え,行動する力を身に付けさせたり,成功・失敗体験を通して,自身の言動に責任を持つ態度を養い,問題解決能力を身に付けさせるなどの教育を展開させる必要がある。
  本県においては,高等学校入学以前の小・中学校段階において,学校・家庭・地域が一体となって地域ぐるみで子どもを育てる体制を整えることが必要であると考え,来年度から,地域との連携を強化する中で,共通の目標を設定し,その解決に向けて,学校が家庭・地域と一体となった体験活動に取り組むことにより,児童生徒が役割と責任を果たす場と機会の充実につなげていくため,「心の元気を育てる地域支援事業」を実施することとしている。
  また,県立高等学校の生徒が,自立心,創造力,チャレンジ精神及び協調性などを発揮し,自分たちの学校を日本一にすることを目指す活動を支援するため,来年度から,「『わたしたちの学校は日本一!』事業」に取り組むこととしている。
   こうした取組が,子どもたちの自尊感情を高め,社会参画の意欲等豊かな心を育てるとともに,「生きる力」を身に付けさせることにつながるものと考える。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年05月 --