島根県教育委員会からの御意見

所属・現職等

島根県教育委員会 教育委員長(宗教法人出雲教代表役員) 北島 建孝 氏

御意見

今日の高校教育が抱える問題点として大きく2点取り上げたい。
1.働く意欲の乏しい生徒が増えていること
2.教諭の社会的地位が低く見られていること
以下、その所見と解決策について記す。

1.将来の職業を高校時代に選ぶことは難しいことではあるが、それ以前の問題として、働く意欲を持たない学生が増えているようである。様々な要因があると思われるが、一生懸命働いて来た大人がリストラにより職を失い、再就職にも苦労している姿を身近で見ていたり、また、定職に就かなくても生活が保障されている社会情勢を見聞きしていることも就労意欲を薄くしている原因の一つではなかろうかと愚考する。

   その解決策としては、現在各県、各学校が取り組んでいることが基本であろうが、働くことはいかなる職種であっても貴いものであるということ、また、苦しみなどではなく、社会に貢献することで楽しさ喜びを得ることができることを、徹底して学ばせる必要があると考える。そして「働かざる者食うべからず」の意識を育む必要があると考える。具体的には、そのような仕事を実践している人と触れ合う機会を増やすことであろうが、家庭で親や子どもを取り巻く大人等が真摯に働いている姿を見せ、語ることであろう。一番身近なことでは、家庭での家事に対して一生懸命取り組む姿を見せることは意義があると考える。

2.近年多忙感を訴える教諭が増えている。正規の時間外の勤務も月100時間を超える教諭も少なくないようだ。授業の準備以外の職務も増加傾向にあるようだ。校内事務のみならず、最近は保護者に対して個々の対応が必要とされ、その精神的負担は他事ながら容易に想像できる。そういったことが近年教諭の懲戒処分事案に影響しているのではないかと考える。処分を受けた教諭に指導を受けた生徒は少なからず動揺があるであろうし、それ以外の生徒や保護者も教師という職に不審を抱く要因にもなってしまう。このことのみが原因とは思わないが、現在教師という職業の社会的地位が低く捉えられていることは問題であると考える。

 その解決策としては、教諭に精神的なゆとりを持たせるためにも、時間外勤務を減らさねばならない。仕事に今や欠かせない物がパソコンだが、現状ではデーターを校外に持ち出せないために、校内に残らざるを得ないのではないか。データーを持ち帰れる工夫はないものか。また、研修が多すぎるのではないか。現場での上司、先輩等から直接経験に立った指導で充分事足りるものもあるのではないか。そうすることにより、相互のコミュニケーションも取れると思う。いわゆるモンスターペアレント等にも担任を始め関係者は理不尽なことに対しては、「駄目」と毅然として対応すべきだ。そのためにも後ろ盾となる校長はできるだけ校内にいることが望ましい。いざとなれば、自ら矢面に立つことが必要だ。校長は種々理由はあると思うが、校内不在の時間が多いと聞く。責任者が不在がちな学校では充実した環境には成り難いと考える。

所属・現職等

島根県教育委員会 教育委員(健康体操指導者) 安藤 珠美 氏

御意見

今日の高校教育のあり方に関する問題点とその対策について、次の3つの視点から考えてみました。

1.社会全体の問題

  最近、子どもたちの学力の低下や不況による就職難などのために、ますます学歴偏重や競争社会の傾向が強まっています。そのことで、子どもたちの成長と発達の問題が忘れられ、未熟なままで将来への夢が描けずに大人になる人が増えています。高校時代を、人格形成の大事な時期として認識して対策を考えるべきです。「自分で考えて自分で決めて自分が実行する」という人間としての成長のために支援は必要ですが、学力やスポーツに数値目標を掲げてそれに向かわせる方法ではなく、自己決定に主眼をおいた方法を行うべきです。

2.大人の問題

  今の高校生の親世代は、大学進学に向けた受験競争や数値目標を掲げて競い合い、経済成長の中で経済性と簡便さを追求した世の中で育っています。彼らの子育ても同様の価値観のもとに行われているため、子どもへの支援も数値と結果に目標が置かれているのではないでしょうか。今こそ大人たちは、多様な価値観のもとで子どもたちをサポートしていくべきです。高校生活が周りの大人たちに見守られながら、そして子ども自身が自分で将来の夢が描けるように応援していくことが大事です。

3.子どもの問題

  上記のような大人に育てられている子どもたちは、いつも数値や成果に気を取られ、期待に添うことが日々の目標となり、高校生活の中でじっくり自分自身と向き合って将来の自分を考えるゆとりがなくなっています。その上インターネットや携帯電話の悪影響も加わり、親子関係、友だち関係、教師との関係など、いろいろな場においてコミュニケーションの問題で悩む子どもも増えています。これは単に高校生活だけの問題ではなく、それまでの教育にも問題があることは言うまでもありません。しかし、高校生活は大人社会に入る前の重要な時期です。この時期に自分たちが主役であるという意識を持って、大人社会に目を向け、自分自身の価値観に基づく自己主張ができるようになるべきです。

所属・現職等

島根県教育委員会 教育委員(松江市総合文化センタ―館長) 山本 弘正 氏

御意見

 本県の人口は昭和60年から減少し、現在716,000人余りである。人口減少社会に移行している中で、少子超高齢化や核家族化、過疎化は全国よりもそのスピ―ドは速く、本県では深刻であるといわざるを得ない。子どもは、家庭だけでなく、社会全体、人類共通の宝であると思っております。特に、短期的に夢を託していくのは、少年期から青年期へと成長する高校生であり、その時期に人格形成や社会性の醸成を成し遂げることが最も大切であると考えます。
 学校は知識を陶冶するところだとする単純なものではなく、将来的には、人や社会の中で自己実現していける、そういう人材を育成していくことが学校教育の最終的な機能ではないでしょうか。
 ややもすると、高校では、大学進学または就職を一つのゴ―ルととらえている先生方がたくさんおられるように思います。
 人間形成の一つの過程であるという認識から次のことを速やかに実現させてはどうかと考え、提案をさせていただきます。

1.人格形成、社会性の醸成のために

(1)5教科を中心としたカリキュラムではなく、保健体育・音楽・美術・書道・家庭科(被服・調理)等の幅広い授業を実施する。(高校2年生までとし、3年進級時に将来を見据え選択科目を決定する。)
(2)倫理・道徳・道義心の衰退は国家衰亡の危機にあるといっても過言ではないと思います。社会全体のふるまいが劣化していることから、規範意識・コミュニケーション力・基本的な生活行動、生活習慣の向上・確立をさせていかねばならない。
 道徳教育を教科化し、専門の教師や人生経験豊かな社会人を活用したりし、奉仕活動、自然体験、職場体験、芸術・文化体験等を実施する。
 本県においては、この「ふるまい向上プロジェクト」を強力に推進するため、ふるまい向上推進県民運動として進めていこうと事業展開を図っているところである。
(3)平成14年4月から完全学校週5日制が実施され、学校教育法施行規則第61条で日曜日及び土曜日が休業日となっている。しかし、核家族化や少子化の進行などにより、家庭の教育力の低下や地域の教育力の低下により学力低下が社会問題となっている。変化の激しい社会の中での「生きる力」をはぐくむために、高校は義務教育ではないので、授業時間数を各県の独自の判断で増やすことができるよう柔軟に対応し、学力低下や規範意識の改善を図ったらどうか。
 (例)・月2回を限度として土曜日を登校日とする。なお上限を年15回程度とし、夏休みなどの長期の休み期間で調整する。
(4)それぞれの県の特徴、各学校の特徴を出すため、たとえば『国際科』、『文化観光科』、『福祉科』などの学科を自由に創設できるよう、地域に大きな裁量を与え、自由闊達な学校づくりをしてはどうか。≪地域主権≫
 こういう学科を創設することから教員の数や、特殊技術を持った職員の数については、地方の裁量に任せるとし、財源については一括交付金の中で賄うこととしてはどうか。

2.高等教育機関の改革

  高等学校までは学習指導要領の改訂などにより、改善が図られている。しかし高等教育機関においては、学歴偏重社会の中にあって、企業のための人材育成が優先され、独自性を持った特徴がなかなか打ち出されてこない状況にある。このことが大学入試に反映されてしまい、せっかく高等学校において、知・徳・体の全人教育を目指していても、受験準備のため詰め込み型授業に多くの時間が割かれ、生徒は、生活や心を圧迫されるため自ら考え、自主的に判断をし、行動、問題を解決する力などが欠如することとなっているようにも思える。
 選抜のためだけの教育から脱皮するためセンタ―試験を廃止し、大学入試を内申書による評価など多様化した判断基準により実施したらどうか検討されたい。

所属・現職等

島根県教育委員会 教育委員(いっしょに子育て研究所所長、マザリー産科婦人科医院副院長) 渋川 あゆみ 氏

御意見

 職業柄、妊産婦とパートナー(夫)や子育て中の親子と関わることが多いので、教育に関しては高校教育だけが抱える問題というより、母子や家族(家庭)、幼稚園・保育園から起因していること、世代間連鎖による問題などいろいろ感じるところがある。しかし今回は高校教育ということなので、そこに焦点を絞って上げてみたいと思う。

・キャリア教育について
 キャリア教育という言葉だけが飛び交い、キャリア教育の内容が具体的に伝わっておらず理解されていないように思う。特に普通高校においてキャリア教育は今までの「進路指導」とどう違うのか、なぜキャリア教育と表現しなければならないのかあまりよく分からない。もっと日本語を大切にして日本語で表現したらどうだろうかとも思う。また教育全体が、あまりにも手取り足取りし過ぎていて過保護状態なのではと感じる。過保護傾向は高校教育に限らないが、その結果、自分自身で考えて行動すること(意志と責任)が苦手な若者が増えていると思う。就職や進学についても、本人の意志より失敗しないようにすることが優先しているのではないかと感じる。その結果、いま失敗(挫折)に弱く、病んでしまう大人が増えているのではないだろうか。失敗をしなければ成長はない。人には多少の挫折が必要で、それを乗り越えることで逞しさや強さを獲得し、他人への思いやりや優しさが育つと思う。幼い頃から人との関わり方を自然と身につけられる環境作りが一番だと思う。そして生き生きと働いている大人に魅力を感じることで、夢を持ち、将来の目標ができるのだ。それには身近な学校の先生が生き生きと仕事をしていることも重要である(教師の質向上と多忙感対策、労働環境改善なども必要)。キャリア教育という言葉だけが一人歩きしないで、この時期の若者の発達段階に必要な経験ができるような教育環境が大切だと考える。

・学力向上とセンター試験の廃止について
 学力の問題は、義務教育の問題、週休二日の影響もかなりあると思う。全体の学力向上は必要であるが、一方で正解・不正解の二者択一の思考しか育っていないことも問題である。その一つの要因にセンター試験があるのではないだろうか。偏差値により大学が選ばれることや、センター試験の結果で受験する大学を変更したりすることなども問題だと感じる。大学側の改善も必要で、現状は就職予備校化していると感じることもある。来年度から慶応義塾大学が大学入試センター試験を利用しないというが、センター試験を見直す時期はとうに来ていると思う。例えば、高校卒業試験をするとか、大学受験資格試験でマッチングにより大学進学し、大学での教育を充実させ、大学を卒業するハードルをより高くするなど考えてみてはどうだろうか。

・第一次産業担い手の育成について
 普通高校への進学希望が多くなっている中、専門高校での教育は素晴らしい発展をしていると感じる。専門教育の充実、地域との連携など、様々な手法で子どものやる気を伸ばし就職・進学に成果を出している。ところが、一番必要と思われる林業には全く手をつけられていない。島根県には海や山・田畑があり、この豊かな自然を次世代まで存続させることが大切だと思う。そのためには第一次産業の担い手を育成すること、特に林業の後継者育成が必要である。山が荒廃すると災害で山崩れなどが起こりやすくなり、生態系が崩れ、きれいな海も失いかねないと言われている。第一次産業は生計が成り立たず、後継者がなかなか育たない時代だが、高校教育の中で林業の組織(経営あるいは連携)を作り、その中で人材育成をするシステムを構築するという手法はどうだろうか。以前、林業の生き残り企業の特番で、伐採した木を運ぶための水(雨)で崩れない道作りや、1本1本の木をPCでデータ管理し枝打ちの作業をしやすくするなどの紹介をしていた。中山間地域では高齢化も進んでいる。山の道作りからでも良いと思う。高校で人材を育て、そこで就業するような仕組みを作ることで、地域活性化にもつながるのではないかと考える。

所属・現職等

島根県教育委員会 教育委員(土田産業株式会社代表取締役社長) 土田 好明 氏

御意見

§今日の高校教育が抱える問題点

 全国的に少子化が進んでいる現状において、過疎地域を多く抱える島根県においては、より一層、中学校卒業者の数が減少し、高等学校が小規模化している。
 小規模になると競争原理が働きにくくなり、学力低下につながるとともに、部活動においても切磋琢磨する環境が損なわれることが懸念される。 
☆中学校卒業者数の推移
  (平成11年)  9,777人      ・高校4校統合 (37校→35校)
      ↓(-2,612人)  ・46学級削減  (193学級→147学級)
 (平成20年)  7,165人      ・定員減1,840人( 7,720人→ 5,880人)
      ↓(-1,034人)  ・30学級程度の削減が必要
  (平成30年)  6,131人 ・・・平成17年国勢調査よりの推計値

1.小規模化の問題点
(1)学習面
  ○配置教員数の制約
    各教科に必要十分な教員数の配置が困難となり、各教科においてさまざまな専門性をもった教員の
   確保が困難となる。
  ○カリキュラムの制約
    カリキュラムが画一的となり、学習内容の選択幅が低くなり、生徒それぞれの興味関心や進路希望に
   そった科目の選択が困難となる。 
(2)課外活動などの学校生活
 高校3年間は、子どもから大人への一歩手前の大切な時期である。この時期においては、多様な個性や価値観をもった友人と出会い、部活動、生徒会活動、学校行事といった集団活動の中で切磋琢磨しながら社会性や協調性を培うことが重要である。
  ○部活動
     サッカー、バスケットボール、硬式野球など団体競技の運営に困難が伴う。
  ○学校行事
     学園祭(体育祭、文化祭)における企画内容が限定される。

2.今後について
 生徒の通学事情を考慮する必要はあるが、ある程度広域的エリアで小規模校を統合し、望ましい規模の高校に再編成することが急務と考える。

3.国への要望

  •  再編成に伴う施設整備等にかかる経費の助成制度の創設
  •  通学支援等にかかる経費の助成制度の創設 

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年05月 --