東京大学教育学部附属中等教育学校の概要


1  学校環境
(1) 設置年度  平成12年度
(2) 学校名および所在地
  東京大学教育学部附属中等教育学校
東京都中野区南台1−15−1
(3) 地域の環境  小規模な商店街および木造家屋の密集地
(4) 実施形態  中等教育学校、後期課程は全日制・普通科
(5) 学校規模(クラス数、生徒数、教員数等)
  1学年3クラス    1クラス生徒40名    計720名
教員数  40名(副校長2名を含む)
(6) 学校の特色(教育課程以外の施設、生徒の活動、地域連携等の特色)
  1 特色ある施設
       総合教育棟(小教室・OA教室・多目的ホール・屋上緑地など中等教育学校
                  としてのカリキュラム実施に必要な施設のための校舎)
    カウンセリングルーム(教育学部の教育臨床総合教育研究センターの分室)
  2 生徒の活動
       高校受験がないため6年間という長いスパンでゆとりをもって青年期の発達課題を解決する活動ができている。具体的には、6年間を2年ずつに区切り、各期に、さまざまな総合学習に取り組んでいる。
  3 地域との連携
       本校の学区は東京都23区および周辺の10市であり、したがって地域から通学する生徒は多くはない。そのため、従来は地域との関わりは比較的薄かった。現在の関わりは、次のようである。
    本校が地域の広域避難場所に指定されており、1月に1回程度、地域住民、中野区、本校代表者による防災会議がひらかれている。
    地域の保育園、幼稚園の園児が本校のグランドと植え込みを保育の場として活用している。本校周辺は緑被率の低い地域であるため、構内の緑地は地域にとって貴重である。
    消防署が訓練の場としてグランドを定期的に活用している。中等教育学校への移行を機に、研究のセンターとして、関わりを深めていきたい。

2  教育内容
(1) 教育目標    「未来に開く自己の確立」
(2) 教育方針
1 学習の基礎である「5つの力」(ことばの力・論理の力・身体と表現の力・情報の力・関係の力)を獲得させる
2 教科の学習と総合学習を統合させ、未来を開いていく力を獲得させる「『知の総合』学習」を行う
(3) 教育の特色
   本校は創立以来半世紀にわたり中高一貫教育を行ってきた。今回、中等教育学校という新しい制度に移行したが、教育内容は従来と基本的に変わるものではない。しかし、50年間の実践をさらに充実、発展させるために次のような方策をかかげた。
   すなわち、「教科の学習」と「総合学習」を2本の柱とし、「5つの力」を獲得させることによって、それぞれの子どもたちが未来をひらいていく力、すなわち生きるちからを育てる「自分づくりの学び」をつくりだす。
   この課程においては、東京大学全学の連携・協力そして支援のもとに、その知的資  源をカリキュラムに生かしていく。
1 「5つの力」とは
  『ことばの力』 自分や社会、自然についてしっかり知り、自分の考えをことばを使ってはっきり伝える力
  『論理の力』 すじみちをたててきちんと考えることのできる力
  『身体と表現の力』 さまざまな技を身につけ、しなやかな発想や柔軟な身のこなしで自分を表現できる力
  『情報の力』 あふれる情報のなかから必要な情報を選び、発信することのできる力
  『関係の力』 他の人との関係を大切にし、対等な関係をきりむすぶことのできる力
2 「教科の学習」
     前期課程は中学校と、後期課程は高校と、ほぼ同等の教科の授業を行うが、一貫制度の特長を生かし教科内容や、通常の教科構成とは異なる教科編成を行うなどの工夫を取り入れている。本年度は、理科と技術科とを統合した「科学・技術科」と、家庭科と保健を統合した「健康・生活科」をたちあげ実践・研究にとりかかった。
     また、1・2年生では、ティーム・ティーチングや少人数による授業を導入し、6年間の教科学習の基礎固めをはかる。
     3・4年生では、高校進学というハードルがないことを生かし、一部の教科での選択制や習熟度別学習をとりいれることによって、自分の力で学んでいく力をじっくりとつける。学習遅進については、教育学部の心理学教室の援助を得て、落ちこぼれを作らない授業の研究を始めた。
     5・6年生においては、将来の進路も視野に入れ、多様な生徒の希望に答えるべく、広範な選択科目を置く。本年は、東京大学全学の協力を得て「数学特論」「現代宇宙論」「図書館情報学入門」「臨床心理学」の講座がもうけられた。
3 「総合学習」
     1・2年生では「総合学習入門」をおこなう。これは、「5つの力」の獲得を意図したさまざまな題材・手法を経験することによって総合的な学力の基礎を養うものである。
     3・4年生では「課題別学習」を行う。これは、用意された講座の中からそれぞ れの生徒が、関心の深いものを選び2学年混合でおこなう研究活動である。校外での調査活動や宿泊をともなうフィールドワークもふくみながら担当教師の指導で総合的な学習の手法や考え方を身につけることを意図している。
     5・6年では「卒業研究」を行う。これは一人一人の生徒が自分で決めたテーマ について2年間をかけて研究し、その成果を論文にまとめるものである。担当教師による個人指導を受けながら4年間の総合学習の総まとめとなり、研究が進路につながるケースも多い。

3  入学者の選抜・決定
  (1) 入学者の選抜・決定方法
       中等教育学校であるので「学力試験は行わない」という前提がある。この前提の上で推薦による入学選抜と一般の入学選抜との2種類の選抜を行っている。
       推薦による入学選抜は小学校長の推薦書・保護者の出願理由書・志願者の面接と作文を総合的に判定する方法であり、一般の入学選抜は、抽選で定員の6倍を選抜し(第1次)、その中から「適性検査」「作文」「実技」を通して日常の学習・生活態度・体験などさまざまな視点から6年間の本校の学習にふさしい(5つの力を身につけられる)生徒を選ぶ(第2次)
       推薦による選抜は、12月に行い、一般の入学検査は、2月初めに行っている。
  (2) これまでの出願状況
   
区  分 定  員 出  願  者 第一次合格者 合  格  者


10 248   13
10 288   13
小計 20 536   26


30 392 181 46
30 397 197 35
小計 60 789 378 81


40 34 32
34 32 14
異性 14 12
小計 40 82 76 20

4  設置経緯
  1997年
      創立50周年を次年度にひかえ、50年間の教育の総括を行う。ここでは、総合学習の成果が確認され、内容を精選していくことが確認された。また、教科の学習に重点を置き研究・実践を行うという方針がたてられた。50年間の教育実践は『中高一貫教育1/2世紀−学校の可能性への挑戦』(東京書籍)にまとめられた。
  1998年
  4月 中等教育学校への移行について校長より提案される。
    校内研究会「中等教育学校のメリットとデメリット」
        50周年を機に本校が行おうとしている研究と一致する部分が多いことが了解された。
  5月 教官会議において中等教育学校移行の方向が決定された。
  7月 校内1日研究会「夢と現実をむすぶカリキュラム作り」「教育課程審議会資料の学習」
  9月 校内カリキュラム改革検討委員会の結成
    教育学部教授会で附属改革検討委員会(学部側3名・附属学校長・附属学校側3名)の設置が決定される。以後、中等教育学校への移行については、この場で検討提案されることとなる。
  10月 カリキュラム改革検討委員会より「カリキュラム改革案」の提案。教官会議で審議。
  11月 12月・附属学校が中等教育学校に移行することの意味を教育学部に説明し承認を求める。
  1999年
  1月 教育学部教授会により「附属学校の中等教育学校への移行」が認められる。
    カリキュラム改革検討委員会と運営委員会による「カリキュラム全体構想」 「2−2−2制の新たな展開」立案。会議で説明される。
  4月 本校・名古屋大学附属学校・奈良女子大学附属学校による情報交換会
  6月 入学選抜方法を会議で決定。
  7月 校内合宿研究会「中等教育学校の教育計画」(南青山会館)
  9月 募集要項が教育学部教授会で了承される。
    中等教育学校のカリキュラムを会議で決定。
  10月 保護者向け「中等教育学校移行」の説明会を実施。
    中等教育学校移行に伴う入学検査についての説明会を実施。
  11月 大学本部より施設計画の提出を求められる。
  12月 概算要求が認められたことの内示があった。

5  設置に要した経費
  1) 中等教育学校整備 23,000千円
  2) 中等教育学校移行に伴う諸費   2,555千円
  3) 校舎棟仮設建物賃貸借(搬入、組立、電気工事含)   5,465千円(12年度)
 
    31,020千円

6  その他
    平成12年から研究開発学校として「前期課程と後期課程の連携を図る、柔軟なカリキュラムの研究開発」のテーマで研究と実践にとりくむ。