鹿児島県教育委員会 「知識」「意識」「組織」を集結した PDCAサイクルの確立

はじめに

 平成19年度,県学力向上検証改善委員会を設置し,全国学力・学習状況調査や本県独自に実施している「基礎・基本」定着度調査等の結果の分析,本県のこれまでの諸施策を検証し,「鹿児島の学力向上に向けて‐学校改善支援プラン‐」を作成した。本書は,学力向上のための施策や学習指導のあり方等についての課題,改善方策を提言しており,各学校や各市町村教育委員会,県教育委員会等それぞれの段階において,学力向上の方策を検討する際のよりどころとなるものである。

鹿児島の学力向上に向けて‐学校改善支援プラン‐

1.鹿児島県教育委員会における取組

1.事業内容について

(1)事業概要

ア 学校改善推進校の選定基準
 平成19年度全国学力・学習状況調査や本県の「基礎・基本」定着度調査等の結果から,1.小学校より中学校に課題がある,2.活用に関する問題,特に算数・数学に課題がある,3.学習習慣・生活習慣については,全国と比べよい傾向を示しているが,学習習慣・生活習慣のよりよい形成が必要である等の課題が指摘された。そこで,本事業を推進するに当たって,県下全域から,自校の課題を真摯にとらえ,積極的に改善していこうとする中学校を11校,学校改善推進校に指定した。(本県では,「調査活用協力校」を「学校改善推進校」という。)

イ 県教育委員会と学校改善推進校
(ア) 学校改善推進校連絡会議の開催
 第1回会議において,各学校がアクションプランの説明を行い,内容・方法等について協議した。アクションプランの精緻化について指導し,進行管理が可能な形に修正し,再提出を求めた。また,学校間の連絡がとれるように関係者のメールリストを配布した。同時に,県(本庁,教育事務所等)の指導主事や総合教育センターの研究主事,市町教委の指導主事等の派遣希望をとり,支援体制を整えた。
 第2回会議では,取組の成果・課題について全推進校に発表(15分)させた。事前に,アクションプランに基づき,成果を定量的データで示すように指導していたため,成果の裏付けを明確にした発表が多かった。また,全体協議において,事業終了後も継続して学校改善のシステム化を行うことを確認した。
(イ) 報告書
 6月に第1回会議で修正させたアクションプランを再提出させた。10月には,8月の中途評価を受けた成果と課題,課題に基づく改善策を明記したアクションプラン(中間報告)を提出させた。
 1月には,12月の中途評価を受けた成果と課題等により改善したアクションプランと成果報告書を提出させた。
(ウ) 学校訪問時のチェックリスト
 市町教委,教育事務所(支所),県教委等が連携して指導を行うため,学校訪問のチェックリストを作成し,指導事項の引継ぎや見届けを行うようにした。
(エ) 情報収集と情報発信
 県内の市町村や学校,県外の教育委員会等の優れた取組や本県の児童生徒質問紙,学校質問紙と学力とのクロス集計表,学校改善推進校の取組をまとめた「学力向上取組ガイド」について,各学校や教育委員会等に情報提供を行い,学校改善の支援を行った。
(オ) 鹿児島ベーシック(中学校1年用)の作成
 中学校学習指導要領の第1学年の範囲から絞り込んだ内容を精選し,基礎的・基本的事項に係る問題解決の手引きや演習問題等を掲載した学習ガイド「鹿児島ベーシック」を作成・配布し,活用を促した。
(カ) 他県取組状況視察
 学力向上に向けて先進的に取り組んでいる秋田県,福井県を視察し,本県の学力向上施策の参考にした。
(キ)学校改善推進校への指導主事等派遣
 学校改善推進校の11中学校に対して関係市町教委と教育事務所(支所),本庁が連携して学校訪問を行い,指導助言を行った。(鹿児島大学,県総合教育センターとも連携)

(2)実施体制

実施体制

(3)研究成果

 本事業の主な成果として,以下の5点を示す。
ア 学力向上アクションプランに則って,PDCAサイクルのシステム化が学校改善推進校において実践的に図られた。
 そのため,学校職員や保護者等の改善に向けた知識や学校をよりよくしようという意識が集結し,学校の職員が一体となって実践する組織的な取組が行えるようになってきた。
 また,定量的なデータの設定の仕方についても研究が深まった。
イ 学校改善推進校の取組を研修会等で発表させる教育事務所(支所)や市町教育委員会もあり,学校改善推進校が拠点校の役割を果たした。
ウ 学校改善推進校,関係市町教育委員会,関係教育事務所(支所),本庁,県総合教育センター,鹿児島大学等が連携・協力し,実践研究を推進することができた。
エ 学校改善推進校の取組の成果を集約した「学力向上取組ガイド」を作成・配布し,平成21年度の学校改善の手引きとて,県内の小・中学校での活用が可能になった。
オ 中学生用学習ガイド「鹿児島ベーシック」(中1用)を作成し,全中学校に配布してその活用を促した。

学力向上取組ガイド

鹿児島ベーシック(中学1年用)

2.普及啓発と今後の取組について

(1)成果の普及啓発に関する取組

ア 3月に実施された文部科学省の「全国学力・学習状況調査等を活用した学校改善の推進に係る実践研究成果報告会」において,事例発表(本県と北指宿中の取組を中心に)を行った。
イ 3月に学校改善推進校の取組の成果を集約した「学力向上取組ガイド~PDCAサイクルの確立による実践をとおして~」を作成・配布し,全小・中学校の取組の手引きとした。(ホームページ掲載)
ウ 中学生用学習ガイド「鹿児島ベーシック」を作成し,ホームページにアップするとともに全中学校に配布した。
エ 全国学力・学習状況調査の児童生徒質問紙,学校質問紙と学力とのクロス集計を各市町村教委等に配布し,活用を促した。

(2)来年度以降の取組

ア 「学力向上取組ガイド」を参考にして,各学校,教育委員会等の各段階に応じて学力向上アクションプランを作成し,PDCAサイクルの確立に努める。
イ 中学生用学習ガイド「鹿児島ベーシック」の効果的な活用を図るとともに,小学生用学習ガイド「鹿児島チャレンジ」の作成に取り組む。

2.学校改善推進校における取組事例

取組事例1.「スモール・ステップの小テスト」や「週末課題」の工夫による取組 屋久島町立岳南中学校

(1)アクションプランの一部(12月終了時点)

改善方策 短期(8月) 中期(12月) 長期(3月)
1 学力向上
<国語科>
1漢字力の向上
○ 漢字テストの継続的な実施と毎授業時間の言語事項領域の確認テストの実施
※朝と帰りの会の5分間を利用して漢字テスト(30級から1級までの階級)を実施。授業中に おける言語事項領域を中心とした確認テストの実施。
2論理的文章の読解力と表現力の育成
○ 課題短作文(週末課題)による表現力の育成(各学年200字の週末課題短作文1年→ことわざ,2年→慣用句,四字熟語,3年→資料活用作文)
※「鹿児島ベーシック」を活用 した新たな課題作文の工夫を図る。
短期到達目標
★1年 28級
(全員到達)
★2年 進級率50%
★3年 進級率50%
短期到達状況結果
★1年 86%(25人到達)
★2年 進級率60%
★3年 進級率43%
中期到達目標
★1年 25級(全員到達)
★2年 進級率60%
 ◎18級(全員到達)
★3年進級率50%
 ◎12級(全員到達)
 ◎印は,新たに設定
短期到達状況結果
★1年 70%(21人到達)
★2年 65%(20人到達)
★3年 84%(21人到達)
長期到達目標
★1年 21級
(全員到達)
16級(6割到達)
★2年 15級
(全員到達)
8級(5割到達)
★3年8級
(全員到達)
1級(2割到達)
◎長期改善事項
1.不定期の進級テストの実施
 到達目標まで達していない生徒への補充指導の充実。不定期の進級テストの回数を増やすことにより,受検の機会を多く与える。
2.漢字宅習ノート継続的提出
 漢字の書き取りに継続的に取り組ませる。1年生週4回,2年生週3回
3.確認テストの継続実施と定期テスト等と連動した問題の出題5分間小テストを活用した定期テストの問題の作成

(2)取組と成果,課題等

課題 1.漢字力の向上
2.論理的文章の読解力と表現力の育成(全国学力・学習状況調査結果から「資料からものの見方や考え方をとらえ,自分なりに分析して表現する」ことについて課題が明確になったため)
改善の取組P→D ○ 5・5学習の実施(※B中では,数学においても5・5学習を実施している
5・5学習とは,朝の会,帰りの会の5分間を活用した学習のことである。)
 朝と帰りの会の時間の5分間を利用して3週に1回の割合で,一週間漢字テストを実施。
 最終日に進級テストを実施。20題中8割以上の正解で進級合格となる。問題は,小中学校で習う漢字を中心に級別で実施。
○ 言語事項領域の確認テストの実施
 毎授業の導入部分で行い,5分程度で実施している。内容は新出漢字や文法等の言語事項領域を中心に5問出題。国語ノートの下段を利用。自己採点をさせ,授業後ノート点検を行う。
○ 課題短作文による表現力の育成
 1年生「ことわざ」に関するもの,2年生「慣用句,四字熟語」を提示して身近な体験や自分の生活からそれぞれ例題にあった文章を200字2段落構成で出題している。3年生は,「資料・グラフ」を活用した問題を出題している。
成果C 
成果C ○ 漢字テストについては,各学年ごとに,短期・中期・長期の到達目標を設定したことにより,生徒個々の積極的な取組が見られるようになり,既に本年度の到達目標まで達した生徒もいる。また,漢字検定を受検する生徒が徐徐にではあるが増えてきている。
○ 言語領域の確認テストは,前時の振り返りを確認する意味でも有意義なものである。加えて,ノート指導もできるので今後も継続していきたい。
○ 課題短作文を行うことにより,「書く」ことに対する抵抗がなくなり,定期テスト,実力テストにおける課題作文の問題に対して無回答者がほとんどいなくなった。
○ 各学年の優秀作品は,課題短作文コーナーへ掲示し,随時他学年の作品も見ることができるようにしている。3学年分を掲示することにより,ことわざや慣用句の新たな習得だけでなく,文章構成力の習得にもつながっている。
改善A(P) □ 到達目標まで達していない生徒への補充指導の在り方(不定期の進級テストの実施)
□ 漢字宅習ノートを活用した漢字力育成のための手立て(現在,1年生は週4回,2年生は週3回提出している漢字ノートに,継続的に書き取りをさせ,進級率を上げる。)
□ 確認テストの継続実施と確認テストからの定期テスト等への出題を行い,生徒の確認テストへの意欲化を図る。
□ 新聞等への意見文の応募による表現力の育成を図る。
□ 「鹿児島ベーシック」を活用した新たな課題作文の指導法の工夫を図る。
□ 論理的な文章表現を身につけさせるためにも,言語活動を充実させる必要がある。(例1分間スピーチとの組み合わせ)
□ 作品コーナーを各教室にも設け,全ての作品をお互いに鑑賞できるようにして,「書く」活動への更なる意欲化を図る。

(3)県教委のコメント

 岳南中学校の事例では,国語科の抱える課題について具体的な取組がなされています。スモールステップの進級式のシステムの開発により,生徒が意欲的に取り組む様子が伺えます。また,家庭学習と連動した課題短作文は,生徒の「書く力」を確かなものにしています。実際の授業においても,生徒の学びの高まりを基に教師‐生徒間や生徒相互の意見交換が活発になり,授業中の挙手も多くみられるようになっています。なお,岳南中学校では数学においても5・5学習や定着テスト等を実施して,成果を挙げています。
 今後は,国語で育成した「書く力」がB問題に有効であるのか,また,豊かな言語力として他教科にどのように影響したのかなどについての研究の深化が期待されます。

取組事例2.「定量的データの変容」から学校改善のシステム化を図る取組 指宿市立北指宿中学校

(1)アクションプランの一部(12月終了時点)

○は改善の方法,◇は数値目標,◎は成果の検証の方法ゴシック文字は2学期末の目標達成率

 

(2)同一問題による変容を見取る取組とその結果

 定期テストに基礎的な問題を一定の割合で出題し,繰り返し実施することによる変容を把握するとともに,具体的な対策を講じていく。

同一問題による変容を見取る取組とその結果

(3)成果と課題

ア 実力テスト,定期テストに,基礎的・基本的事項を意図的に出題して,正答率70%を目標に取り組んだ結果,いずれの教科においても,正答率の向上が見られた。(数値目標70%に対する目標達成率は,67%)しかし,教科によって,また学年によって正答率の伸びに差が出ている。
イ 本研究への取組を通して,研究の進め方や研究授業と授業研究のあり方など,校内研修のスタイルやPDCAサイクルの実践が,ある程度職員に浸透してきた。併せて,個々の教師が自らの授業を振り返り,指導法改善への意識を持てるようになってきている。

(4)県教委のコメント

 北指宿中学校からは「基礎的・基本的事項を毎回同様に出題して,定着の度合いを高めていくためには,定着の低い問題について理解を促す具体的な手立てが必要になるので,教師の指導法の改善にもつながる。」という報告が寄せられています。定着させるべき事項を精選すること,精選した事項を定着させる効果的な方法,いわゆる「わかったつもり」からの脱却法などの研究にもつながり,教師の指導法研究や生徒の学び方(復習法,勉強法)の振り返りにも活用できることがわかります。

お問合せ先

初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)

-- 登録:平成22年03月 --