島根県では,平成18年度から島根県学力調査を実施し,学力向上に向けた取組を進めてきた。各学校では,調査結果の分析をとおして自校の課題を把握し,授業の改善や指導力の向上に取り組んできた。平成19年度には,全国学力・学習状況調査の結果に基づき,島根県検証改善委員会が学校改善支援プラン(学校改善に向けた提言)を作成し,学校等への普及を図ってきた。
これらの取組をさらに充実させ,学校改善支援プランに基づいた実践の推進を図っていくために,「全国学力・学習状況調査等を活用した学校改善の推進に係る実践研究」の趣旨を踏まえ,調査活用協力校として県内の小学校5校を指定した。
全国学力・学習状況調査や島根県学力調査の結果から見えてきた課題を解決していくために,調査活用協力校のそれぞれの課題の解決に向けた学校改善の取組に対して,講師や指導主事等の派遣などの支援を行った。また,リーフレットの作成・配付やホームページへの掲載などにより,成果の普及を図った。
県内での普及を図るため,5つの教育事務所ごとに1校ずつ調査活用協力校を指定し,それぞれの教育事務所の指導主事が学校の支援にあたる。
調査活用協力校の取組に対して多角的な指導・助言が行えるよう,調査活用協力校どうしの情報交換や教育事務所,教育センターの指導主事による取組事例の検討等を行う連絡協議会を毎学期末に開催する。
調査活用協力校では,学校改善支援プランや島根県教育委員会が示している『「確かな学力」を総合的に育成するための視点(小・中学校)~分析結果から明らかになった学力を高める5つの窓と改善のキーポイント~』等を踏まえて,それぞれの課題に対する改善策を策定し,実践にあたる。
調査活用協力校には,島根県検証改善委員会が策定した学校改善支援プランや,島根県教育委員会が示している『「確かな学力」を総合的に育成するための視点(小・中学校)~分析結果から明らかになった学力を高める5つの窓と改善のキーポイント~』で示した改善策等を踏まえた取組を行う学校を選定した。
5つの調査活用協力校が,それぞれの課題について取組を進めてきたが,本県としての課題でもある
について,次のような成果が見られた。
1.習得した知識・技能を活用する力の育成について
○児童が興味・関心をもって取り組める学習問題や課題設定,提示の仕方を工夫したことにより,内発的動機付けを喚起し,解決の見通しをもって自分なりの方法で解決しようとする態度が身に付いてきた。
○問題把握力と多面的思考力について分析基準を設定し,それを実態把握,授業構想,評価に生かすことで,児童の問題把握力,多面的思考力とも向上が見られた。
○学習活動にペア対話やグループ対話を取り入れたことで,自分の考えをもち,進んで話そうとする児童の姿が見られるようになった。
○表現のよさや工夫に気付かせたり,味わわせたりする活動を工夫することで,「文章全体の構成を考えて書くことができる」「事実と自分の意見を考えて書くことができる」と感じる児童の割合が増加した。
2.学習習慣,特に家庭学習の改善
○家庭学習のやり方等を家庭に示し,定期的に取組を行ったことにより,家族全体で生活習慣を見直し,家庭学習に意欲的に取り組むことができるようになった。
○家庭学習の意義を話し合い,自主学習を導入することにより,家庭学習への自主的な取組が増加した。
○学校で把握していた読書の状況を家庭と共有することで,家庭と連携して読書指導ができるようになった。
1.指導主事等の訪問による指導・助言について
学期に1回は学校訪問等を行い,学校の学力向上策について指導・助言を行うとともに,随時連絡を取り合うことにより,綿密な連携を取ることができた。
2.連絡協議会の開催
本事業の開始が遅れたため,連絡協議会の開催が2回となったが,各学校の取組について情報交換するとともに,それぞれの学校に対してアイディアを出し合う中で互いに高め合っていこうという気運をつくることができた。
3.成果の検証
数量的なデータを蓄積し,そのデータに基づいた成果検証を行うよう指導してきた。短い期間の中で十分なデータを得ることは難しい面もあったが,それぞれの学校で来年度も継続して実践研究に取り組むこととしている。
調査活用協力校担当者や義務教育課,教育事務所の指導主事による連絡協議会において,取組事例の分析・検討を行い,本事業の成果の検証を行った。その成果の普及については,次のような取組を行った。
取組事例をまとめたパンフレットを小・中学校等に配付した。
調査活用協力校及び義務教育課のホームページで取組の紹介を掲載した。
「授業力向上セミナー」や教科等の研修において,事例の発表や紹介を行う。
(取組事例をまとめたパンフレット)
学力向上における本県の課題を解決し,児童生徒の学力向上と夢の実現に向けた取組を進めるために,より効果的な教育施策及び教員の指導力向上をめざして次のような事業を展開していく。
「学び合い高め合う集団」を基盤とした「一人一人の子どもの考える力を伸ばす授業」を目指し,県内の小学校及び中学校の中から,校長を中心として全教職員で授業改善に積極的に取り組む学校を指定し,実践研究を行うとともに,その成果を県内すべての学校に普及する。
各種研修会の講師を務めることができるような教科指導の中核となる教員を養成する。
小学校国語,中学校英語の指導力向上のための実践的研修を行う。
小中の教員が合同で橋渡し教材を作成したり,相互に研究授業を行ったりすることを通して,小学校・中学校間の学力向上に向けた教科指導の連携のあり方について研究する。
平成19年度全国学力・学習状況調査の教科に関する調査の結果は,国語,算数ともに平均正答率が全国平均を上回っており,おおむね良好だと思われる。しかし,国語においては,「文章の内容と資料の情報とを関連づけて正しく読み取る力」や「接続詞や指示語を適切に使う力」に課題がある。また,算数においては,「計算の工夫を読み取ったり,図形やグラフを読み取ったりする力」に課題があった。
児童質問紙の結果から,家庭学習習慣や感じ取る力,学習計画力,授業を受ける姿勢に課題があった。
◇授業づくりの視点
子ども一人一人が自ら考え,学ぶ楽しさ(考える楽しさ・わかる楽しさ・できる楽しさ)と,学習や生活の中で役立つことを感じることができる授業づくりをめざして
◇授業改善のための授業研修
・全学年授業公開
・授業参観シート等を活用した研究協議
◇学びの基礎づくりの視点
生活習慣の改善,学習習慣づくり,読書習慣の定着を図り,学び合う集団をめざして
◇取組の重点
○学習・生活習慣の定着
・ノーテレビ・ノーゲームの取組(チャレンジカード)
・朝自習や家庭学習の工夫(「家庭学習のしおり」の配布)
○食育の推進
・給食指導の徹底
・「食の学習ノート」の活用
・関係諸機関との連携
○読書習慣の定着
・朝読書の継続
・読書週間の工夫
・児童会活動の工夫
1.児童が興味関心をもって取り組める学習問題や課題設定,提示の仕方を工夫したことにより,内発的動機付けを喚起し,解決の見通しをもって自分なりの方法で解決しようとする態度が身に付いてきた。
2.算数的活動を意図的・計画的に取り入れた自力解決の場の設定と,個に応じた支援の工夫を行ったことで,じっくりと問題に取り組み,筋道を立てて考えることができるようになってきた。
3.学習形態を学習内容や児童の実態にあわせて,ペア学習やグループ別学習等を工夫したことで,自分の考えを友だちに伝えたいという気持ちが喚起され,学び合いから自分の考えを修正したり高めたりすることができるようになった。
4.スキルアップタイムを設け,ドリル学習に取り組んだことにより,根気強く計算練習に取り組むことができるようになり,計算力も少しずつ身についてきた。
5.家庭学習のやり方等を家庭に示し,定期的にチャレンジカードを使った取組を行ったことで,家族全体で生活習慣の見直しを行い,家庭学習に意欲的に取り組むことができるようになった。
算数科に対する児童の意識の推移を見ると,算数の学習に対する意欲が高まり,算数的活動や伝え合いの学習について好意的に捉えている児童がわずかではあるが増えてきている。児童一人一人が意欲的に課題解決に取り組み,自分なりの方法を駆使して課題を追求することや学び合いの中で自分の考えを修正したり高めたりすることの楽しさや有効性に気づいていることがわかる。
このことから,上記成果1~3に記した手立てが有効であったと考えることができる。
平成19年度4月に実施された,全国学力・学習状況調査の本校の調査結果を見ると,算数Aの調査においては,平均正答率が島根県・全国平均よりも大きく上回っていることがわかった。しかし,その他3つの調査においては,平均正答率がほぼ平均またはそれ以下であり,特に,国語Bの平均正答率においては,7.0ポイント,領域別の正答率においては全てにおいて大きく下回っているという状況が見られた。
また,児童質問用紙の教科等に関する関心・意欲・態度に関わる回答状況を見ると,算数科では全国とほぼ同様の傾向であったが,国語科に関する項目,「国語の勉強は好きですか」,「国語の授業の内容はよく分かりますか」,「国語の授業で,絵や写真,図や表,グラフなどを使って,文章を読んだり,書いたりしていますか」,「国語の授業で資料を読み,自分の考えを話したり,書いたりしていますか」,「国語の授業で,2つ以上の資料や文章を比べて読んだり,調べたりしていますか」などの項目については,全国平均よりも10ポイント以上下回っていた。特に,「国語の勉強は好きですか」の項目に関しては25ポイント以上の開きがみられた。
これらのことから,本校の実態として,知識などの基礎・基本の内容の定着はおおむね図られていると考えられるが,学習したことを活用する意欲や能力は低い傾向がある。また,国語科で習得した内容を活用・探求できる学習場面も少ないのではないかと考えられる。
県教育委員会が示している改善のキーポイントと,全国学力・学習状況調査の結果から明らかになった本校の課題を照らし合わせ,本校はその改善の方向を次のように考え,具体的に取り組んだ。
教科等(国語科を中心として)の学習の基盤づくりと基礎・基本の習得を図り,総合的な学習の時間の活動で,習得したことを活用・発展するサイクルを確立していくことが有効であると考えた。
また,そのための効果的な「指導方法」や「指導体制」を模索した。
具体的には,次のとおりである。
○音読スキルの作成と活用(毎朝)
○読書活動,読書の窓(図書委員会)
○宿題での教科書音読(毎日)
○国語科を重点教科に据えた,説明文単元による公開授業,授業研究(全学年)
○外部講師を招聘しての研修
(田中博之先生(大阪教育大学教育学部)「豊かな学力をはぐくむ指導のあり方」)
○「筋道を立てて考える力をどう育てるか?」研修会
○算数科授業公開(少人数指導担当者+担任)少人数授業での習熟度別グループでの学習
○追究活動をもとにした,説明文の段落構成・接続語,写真・グラフなど資料の効果的な活用
○保護者・地域に向けての活動結果の報告・提案発表会(プレゼンテーション)
○話形の指導(1~3年生)
○国語科・算数科パワーアップ教室
○チャレンジ教室(1学期末,夏期休業,2学期末,全校同時)
1.音読や読書活動を通して,音読が好きな児童が増えたり,1ヶ月に読んだ本の平均冊数が増加するなど文字に親しむ機会が増えてきている。
2.国語科の説明文の授業研究を行うことにより,文章全体の構成を考えて書いたり,事実と自分の意見を考えて書いたりすることができる児童が増えている。
3.総合的な学習の時間を利用して,説明文や資料の効果的な活用,プレゼンテーションを行うことで,普段の生活や社会に出たときに役立つと思う児童が増えるなど,基礎・基本を活用する力がついてきていると考える。
※総合的な学習の時間の児童の実態
(平成20年度全国学力・学習状況調査から)
本校 | 全国 | |
---|---|---|
総合的な学習の時間の勉強 は好きですか。 | 88(%) | 73(%) |
総合的な学習の時間の授業では,新しいことが発見できると思いますか。 | 85(%) | 71(%) |
総合的な学習の時間の授業で学習したことは,普段の生活や社会に出た時に役立つと思いますか。 | 93(%) | 76(%) |
※総合的な学習の時間が好きと答えた児童の割合(%)平成20年度1学期と2学期の比較
3年 | 4年 | 5年 | 6年 | |
---|---|---|---|---|
1学期 | 71% | 79% | 76% | 77% |
2学期 | 82% | 84% | 81% | 85% |
4.補充的な学習サポートにより,全国学力・学習状況調査で国語・算数ともA問題の正答率が全国平均に比べより高くなるなど,基礎・基本の確実な定着ができてきていると考える。
基礎・基本を習得し,その力を使って,今までできなかった問題が解けるようになれば,基本を学んだ価値や自分に力が付いたということが自覚できるのではないかと考える。
また,今年度,表現のよさや工夫に気付かせたり,味わわせたりする活動を工夫するために,国語科の説明文教材の学習や基盤づくりを重点に本事業に取り組んだ。
国語科において,総合的な学習の時間と同様に,自分が進歩したことや学んだことの意味・価値を自覚できる活動を取り入れていくことが必要である。そのためにも,学習の目標(ねらい)をより具体的で明確なものにすること,その目標に対して自分自身に力がついてきているかどうかを意識させながら活動すること,そして,習得内容を活用した表現を用い,できるだけ第三者に向けて表現させていくこと。また,その表現活動に対して適切な評価を与えていくこと。このような学習過程をつくりあげる「授業」を今後はより意識して行う必要がある。
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --