全国学力・学習状況調査も2回目を迎え,その結果の分析を効果的に教育活動の改善へ生かしていくことが重要である。各学校においては,調査結果に真摯に向き合い,自校の課題に正面から取り組むことが求められている。そのためには,各学校が組織として調査結果を分析して,課題を把握し,共通理解の基に計画的に焦点を絞って課題かいけるに取り組んでいくという検証改善サイクルを確立させ,その成果を検証していくことが必要である。
そこで,全国学力・学習状況調査の結果の有効活用をめざし,県教委としての取組を進めるとともに,調査活用協力校における実践研究を行った。
県教育委員会では,平成19年度の全国学力・学習状況調査の結果に基づき,「奈良県学校改善支援プラン」を策定し,県内のすべての小・中学校,教育委員会に向け,課題の改善に向けた具体的方策を示し,取組を進めるよう指導するとともに支援を行った。
本事業においては,県教育委員会が調査活用協力校を指定し,各協力校の課題改善に向けた協議を行うため,協力校校長,教員,設置市町村教育委員会事務局職員,県教育委員会事務局職員を構成員とする学力向上研究会を組織し,「奈良県学校改善支援プラン」を踏まえた授業改善・指導改善の具体的な取組について調査研究を行った。調査活用協力校には,指導主事等を派遣し,学力向上研究会での協議に基づいて取組について具体的な指導を行った。
また,学識経験者,教育委員会事務局員等からなる「学力向上に係る実践研究協議会」を設置し,全国学力・学習状況調査の結果を分析するとともに,各調査活用協力校の取組を検証し,指導助言を行うなど研究の推進に役立てるため,年間3回協議会を開催した。
本協議会における研究成果を学校改善支援プランの見直しに役立てるほか,学力向上フォーラムを開催して研究成果の周知を図った。
本フォーラムでは,平成20年度全国学力・学習状況調査の分析結果等に基づく講演や調査活用協力校の実践発表などを盛り込み,県内小・中学校における学力向上に向けた取組に役立てるようにした。
県教育委員会では,学識経験者,教育委員会事務局員等からなる「学力向上に係る実践研究協議会」を設置し,全国学力・学習状況調査の結果の分析にあたるとともに,各調査活用協力校の取組を検証し,指導助言を行うなど研究の推進に役立てるため,年間3回協議会を開催した。
各調査活用協力校においては,平成19年度全国学力・学習状況調査の調査結果を分析・検討のうえ,自校の課題を明らかにし,奈良県学校改善支援プランに基づいた研究主題を設定した。これまでは,漠然と課題に対応していたことが,客観的事実を基に課題として示されたことにより,取り組むべき方向性や必然性が明らかとなった。
調査活用協力校の多くは,生活習慣や学習習慣,基礎学力に課題を抱えており,この点に注目して家庭や地域との連携を図るほか,反復学習,朝学習の充実などの取組を始めている。また,県外研修を積極的に取り入れ,得た成果を普段の取組に生かす努力を始めている学校も多い。
基礎的・基本的な知識や技能の定着については成果も見えつつあるが,活用する力,思考力,判断力等は直ちに成果の表れるものではなく,継続的な取組が必要である。その点に焦点を当てて取り組んでいこうとする学校も見られる。
平成21年1月22日に県立教育研究所において,「学力向上フォーラム」を開催し,県内小・中学校から約180名の参加を得た。フォーラムでは,平成20年度全国学力・学習状況調査の結果及び考察,調査活用協力校等による実践発表,全体協議などを行った。全体協議では,実践研究協議会委員及び実践発表校教員も参加し,学力向上に向けた取組について活発な意見が交わされた。
「学力向上フォーラム」より
また,平成19,20年度の調査結果から,学習意欲や基本的生活習慣の確立に課題の見られることが明らかとなった本県の児童生徒に対し,小学校低学年から学習習慣を定着させることが有効であるという見解が学力向上に係る実践研究協議会で議論された。これを基に,小学校1,2年生の保護者向けて,家庭学習の重要性を啓発するとともに,子どもに対する具体的な言葉かけなどを紹介した家庭学習啓発リーフレットを作成した。本リーフレットは,平成21年度,各小学校において,学級懇談会や家庭訪問などの機会に説明を加えながら配布するなどして活用していくこととしている。
保護者向け家庭学習啓発リーフレット
本県では,2回の全国学力・学習状況調査の結果から,教科の学習が大切だと思っている児童生徒に比べて教科の学習が好きだと思っている児童生徒の割合が低い。県教育委員会では,このことが大きな課題であるととらえ,「教科の学習が好き」と答える児童生徒の割合を増やすことを重点課題とした「学力調査活用アクションプラン推進事業」を進める。
同事業では推進協議会を設置し,策定した学力調査活用アクションプランを基に,学力向上に関する取組を進めるアクションプラン推進校を5校指定し,それぞれの学校において実践研究を進める。その成果については,平成22年2月に開催予定の学力向上フォーラムにおいて,県内の小・中学校に周知する予定である。
平成22年度には,平成19年度に小学校第6学年として全国学力・学習状況調査に参加した児童が,中学校第3学年の生徒として再び参加する。各学校や各市町村教育委員会において,全国学力・学習状況調査の調査結果や学校改善支援プランが今まで以上に活用され,本県の児童生徒の学力向上につながるよう,指導助言等をはじめ,県教育委員会として支援を行っていきたい。
○ 奈良盆地の南西の端,御所市の中でも東のはずれに位置し,豊かな自然を生かした農村地帯が広がる中央部に学校はあり,地域社会とのつながりも深い。豊かな土地と水を生かした米作り野菜作りが盛んで,祭りなどの伝統行事なども受け継がれている。一方,京奈和道の開通に向けて発掘調査が進んでいる。保護者をはじめ地域の方々は学校教育に協力的で,とりわけ地域産業の伝承や農業体験学習の講師として積極的に関わっていただいている。
○ 児童の生活リズムが不安定で,朝食を食べずに登校する児童や就寝時刻がきわめて遅い児童などが多く,児童を取り巻く家庭環境は大変厳しい。また,不安定な家庭生活が学校生活にも影響し,授業に集中できない児童も多い。さらに,最近では減少してきているが,お互いの自己主張の違いや,些細なことを原因としたトラブルもある。
○ 2007年度県学力テスト(国語・算数)の結果を見てみると,本校児童の平均はどの学年においても,県の平均を大きく下回っていた。もちろん,問題別の傾向や,子どもたちの置かれている環境との因果関係など,更なる分析が必要と思われるが,6年生で実施した全国学力・学習状況調査によると,算数と国語の両教科とも,問題Aで7~9ポイント,問題Bで10~16ポイントもの差が見られる。明らかに基礎学力の不十分さが招いた結果であると言える。この結果をきちんと受けとめ,本校児童の低学力克服に全職員が一丸となって取り組むべきであると考えた。
子どもたちの「確かな学力」は,基礎基本の定着を基盤として培われるものであると考え,本年度の研究主題を「基礎基本の定着を図り,確かな学力の向上を目指す」と設定し,子どもたちの学力向上に向け,研修を深めた。
○ 具体的な取組
校内研修の日程
日程 | 学年・組 | 教科・領域等 |
---|---|---|
6月18日(水曜日) | 3年 | 社会 |
7月2日(水曜日) | 6年2組 | 国語 |
7月9日(水曜日) | 5年 | 算数 |
10月8日(水曜日) | 2年2組 | 算数 |
10月22日(水曜日) | 1年 | 特別活動 |
11月5日(水曜日) | 6年1組 | 総合的な学習の時間 |
12月3日(水曜日) | 2年1組 | 総合的な学習の時間 |
2月3日(水曜日) | 4年 | 国語 |
・毎日の業前学習
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 |
---|---|---|---|---|
学級 裁量 |
読書 | 視写 | 読書 | 算数 |
全ての教職員が,長年の課題であった児童の学力向上に向けて共通理解を図り,取組を進めることができたことが児童の学力向上に大きく繋がったと考える。
また,学力向上に向けて,児童の実態把握に努め,低学力の原因を明らかにし,3つの研究部【基礎学力向上研究部】【授業力向上研究部】【家庭学習支援研究部】を組織し,それぞれが課題を掲げて研究を進めた。
各学年より出された取組の結果,1年間で確実に基礎基本の力がついた。年間8本の授業研究は大変であったが,授業を通した研修は具体的で,招いた講師からは貴重な話を聞くことができた。また,毎日の業前学習である「すずかけタイム」や授業開始10分の基礎学力向上の日常継続的な取組,そして算数チャレンジも子どもたちの力を高める大きな要因となっている。
全国学力・学習状況調査等の結果から,子どもたちの「主体的な問題解決能力」や「思考力」の不十分さが課題として見えてくる。基礎学力を活用し,いかに問題を解決していくのかという思考力を高める取組の在り方を来年度探っていかなければならないと考える。今年度の総括をもとに,来年度は更に充実した研修となるよう,取り組んでいきたい。
本校は奈良市の南東部に位置し,校舎の周りには田畑が広がっている。昭和24年に開校。一時は1学年が13学級にもなり,ピーク時には生徒数が1000名を超えた時期もあった。現在,全校生徒は約600名となりピーク時の約半分になっている。
特徴的なのは,1学年が4~5名程の小さな小学校が1校,30名程度の小学校が1校,80名程の小学校3校の計5つの小学校区が本校の校区となっていることである。これは県内でも少ないと思われる。それゆえ,さまざまな面で入学時に温度差があることも一つの課題であると考えられる。
全国学力・学習状況調査の分析結果から家庭での学習が全国や奈良県の平均より極端に低く,次に社会に対する興味・関心も低いことが明らかになった。これまで実施した他の学力調査の結果からも,家庭での学習時間が全国と比べて少ないことが,本校だけでなく,校区の小学校に共通する課題であることがわかっていた。それらの課題解決のために,以下の取組について研究・実践した。
○ 確かな学力を育む授業力の向上
教員の授業力の向上及びていねいな指導法の研究を目標に校内授業研究を行った。
1学期は参観授業を行う教科と学級を2つに絞り,全教員がどちらかの授業を参観できるように時間を設定した。授業者は「授業者振り返りシート」,観察者は「授業分析シート」をそれぞれ記入した後,授業分析会に臨んだ。その分析会では,教科の専門性を踏まえ,招聘した指導主事の指導を仰ぎながら,授業規律の確立や基本的な指導法について研究討議を行った。
3学期は,授業研究に向けた教科内での研究の充実を目標に,すべての教科で研究授業を実施した。特に,経験の浅い教員にとって,今後の授業につながる経験を積むことができた。
また,9年間の連続した子どもの学びを保障すべく,中学校教員が校区の小学校に出向き行う「出前授業」や小学校の授業参観,小学6年生時の担任による新入生の「1学期授業参観」と中学1年生の担当教員との交流会等を通して,小中の教職員が協働して授業力の向上を図った。
○ 個に応じたきめ細やかな指導法
数学科全学年と英語科第1学年では,少人数編制授業を実施している。数学科では,単元内容や時期によっては習熟度別学級編制を取り入れ,生徒個々の学習状況に応じたきめ細かな指導を心がけている。
また,英語科では,学習の初期段階に少人数授業を行うことで発言しやすい雰囲気となり,授業中の発表や質問が増えるなど,学習意欲の向上や授業全体の活性化につながっている。さらに,音読練習に対しても普段,声の出にくい生徒たちも積極的に取り組む様子が見られた。授業中に全員に指名して答えさせることも少人数ゆえ容易であり,さらにそのような機会があることが,生徒たちの発声練習に取り組む姿勢を向上させている。その結果,平成20年度に実施した本校独自の「習熟度確認テスト」の正答率が5年前に比べて上昇した。特に,会話の設問では,14.2ポイントも上昇するなど,顕著な効果が現れた。
○ 小中連携による学力向上
校区5小学校との連携の中で,以前行われていた人権・同和教育を軸としたカリキュラムの交流や小中公開授業の取組を発展させた「校区学力向上推進委員会」を立ち上げ,小中の教員が「お互いに顔の見える関係」づくりと,「9年間を見通した」学力向上の取組を提案している。
毎年,夏期休業中に実施している「小中合同研修会」,小中各校の授業研究の交流,校区小学校共通教材の検討・開発,そして保護者・地域への情報発信など校区の小中学校が協働して「学力向上」の取組を進めている。
○ 学習習慣の指導
「確かな学力」の基礎になる「基本的な生活習慣」の確立を目指すとともに,「学習習慣の確立」を目指している。具体的には,「授業の柱(大切にしたいこと)」「ノート・ワーク等の使い方」「家庭学習」などのポイントを各教科毎にまとめた「学習の手引き」を作成し,新入生を中心に指導を行った。
○ 外部人材の活用
特に課題を有する生徒の学習を援助するために,市スクールサポーターを適材適所に配置し,効果的に活用した。また,生徒の読書活動をより盛んにするために,ボランティアをPTAや地域に募り,図書室の利用促進や推薦図書の啓発など,運営の中心をボランティアの方々に担っていただいている。
校区小中連携および小小連携はここ数年の取組によって,深まりつつある。特に,「校区の中学校へ子どもたちを送る。」「9年間の連続した教育を。」という気運が小学校の教職員の間にかなり浸透してきた。また,昨年度より始まった「学校支援地域本部事業」において,地域の力を学校に生かす仕組みが進展し,「学校力」「親力」「地域力」の充実による「夢共育」の実現に向けて一歩一歩着実に前進している。
これまでの研究で明らかになった複数の課題を絞り込み,小中連携のもとに学力向上のための効果的な取組を決定し,重点的に実践する。さらに,数値目標を定め,取組の効果を検証できるシステムを構築する必要がある。
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --