新潟県教育委員会 「分かる授業」づくりの推進‐全国学力・学習状況調査を活用して‐

はじめに

 新潟県教育委員会では,平成16年度と平成18年度に,県独自の「全県学力調査」を実施し,児童生徒の基礎・基本の定着状況を把握し,県及び市町村ごとの学力実態を明らかにした上で,問題点とその改善策を報告書にまとめた。
 これを受けて,市町村教育委員会や各学校においては,自校の学習内容の定着度を把握し,特徴的な傾向を分析するなどして,児童生徒にとって「分かる授業」づくりに努めてきた。
 このような流れの中,平成19年度から全国学力・学習状況調査が実施され,新潟県教育委員会では新潟県検証改善委員会を組織し,全国学力・学習状況調査結果を分析し,授業改善のための支援プランを作成した。
 平成20年度は,全国学力・学習状況調査結果や支援プランの活用を図り,児童生徒にとって「分かる授業」づくりの推進を図った。

1.新潟県教育委員会における取組

1.事業内容について

(1)事業概要

 当県の児童生徒の教科の平均正答率は概ね全国水準を確保していると言えるが,全国と同様に知識・技能の定着に一部課題が見られること,及び知識・技能の活用に課題がある。
 正答数の分布図から,小・中学校の国語,算数・数学とも,上位,下位とも全国平均より少なく,中間層が多くなっている。下位層が少ないことは,これまでの継続的な学力向上対策事業により「分かる授業」づくりが進められ,下位層の児童生徒への指導,支援が手厚く行われた成果ととらえている。
 しかし,質問紙調査結果によれば,「教科の授業の内容が分かる」と答えた児童生徒の割合は全国平均を上回るが,「教科の勉強が好き」と答えた児童生徒の割合は全国平均を下回っている。
 そこで,昨年度,検証改善委員会が作成した「支援プラン」の活用を通し,児童生徒にとって魅力ある課題設定の工夫や発表の場を保障するなど,授業改善を一層推進し,目に見える学力だけでなく,児童生徒の学習意欲を高め,自ら学ぶ力を育成する必要があると考え,次の取組を行った。

ア 学力向上推進フォーラム2008の実施
 「学力向上推進フォーラム2008」を全小・中学校の研究主任を対象に県内4会場で開催した。
 その目的は,全国学力・学習状況調査,全県学力調査等を活用した学力実態の把握とそれに基づいた「分かる授業」づくりの取組及び成果について事例紹介等を行い,学力向上を推進する諸方策について協議するためである。
 全体会においては,県の指導主事が県全体の成果と課題について説明し,その後,国語,社会,算数・数学,理科,英語について,県の実態と授業改善のポイントについて提案した。分科会においては,10人程度のグループに分かれ,各小・中学校の研究主任が,作成したレポートを基に自校の取組について成果と課題を発表し,情報交換するとともに,グループの指導者から指導を受けた。

イ リーフレットの作成,発行
 全国学力・学習状況調査の本県の結果を,教科の設問ごとの正答率,質問紙調査と教科正答率との相関関係の2つの視点から分析した。

 リーフレット「分かる授業づくり」

リーフレット「分かる授業づくり」

 その分析を基に教科の授業改善の視点を示したリーフレット「分かる授業づくり」(全6ページ)を作成し,県内の全小・中学校に配付した。

ウ モデル校(調査活用協力校)による実践研究

  1. 新潟県小学校教育研究会との連携
     新潟県小学校教育研究会(以下,「県小教研」と記述)に委託し,県小教研のネットワークを活用し,調査活用協力校において実践研究を行った。
  2. 新潟県中学校教育研究会との連携
     新潟県中学校教育研究会(以下「県中教研」と記述)に委託し,県中教研のネットワークを活用し研究を進めた。
     県中教研では,調査協力校での実践と共に,当会の研究ネットワークとして組織されている地区教科別研究推進委員会が調査協力校と連携して実践研究を行った。

(2)実施体制

 県教育委員会指導主事,大学教員で学力向上推進チームを編成し,調査結果の統計的分析,また,改善に向けた指導のポイントの作成,モデル校における実践の評価等を実施した。また,新潟大学副学長 生田孝至 氏からは統計分析について助言をもらった。
 調査活用協力校(モデル校)については,再委託先である県小教研,県中教研の研究組織の拠点校であり,実践研究成果の普及ができる学校であることから,県教育委員会が指定した。

(3)研究成果

ア 学力向上推進フォーラム2008の実施
 参加者のアンケートによると,本研修会についての評価は4段階で平均値3.25であった。また,参加者の主な感想を以下に示す。

(1)全体会について
○ 新潟県の児童生徒の学力実態及びその傾向について把握することができた。
○ 連続提案により,指導の重点や改善点について把握できた。
○ 各教科における授業改善の視点がよく分かった。
○ 県の課題と学校の課題で共通点があり,校内研修を進める上で大変参考になった。
○ 基礎・基本に偏りすぎないよう留意する必要があると感じた。
○ 提案が具体的で,明日から使える内容が多かったので,共有していきたい。

(2)グループ協議について
○ 小・中の連携は生徒指導だけでなく,学習指導においても必要と思った。
○ 学ぶ楽しさのある授業の必要性,テストだけでは限界があることが分かった。
○ 授業の楽しさはわかりやすさではないこと,達成感が感じられるときに楽しさが感じられる。そのためにもどんな課題を設定するかが大切だと思った。

(3)モデル校による実践研究
 モデル校ごとの課題解決に向けて取組が行われ,それぞれ成果を上げた。詳しくは取組事例で述べる。

2.普及啓発と今後の取組について

(1)成果の普及啓発に関する取組

ア 学力向上推進フォーラム2008の実施
 本研修会において,全体会で指導主事が提案した各教科ごとの指導のポイントは,県教育委員会のホームページに掲載し,各小・中学校で校内研修等で活用できるようにした。掲載先Webアドレスは,http://www.pref.niigata.lg.jp/gimukyoiku/1214506895575.html

イ リーフレット「分かる授業づくり」
 リーフレットの中で授業改善に向けて指導のポイントを示すとともに,国立教育政策研究所発行の「解説資料」の関連ページを示し,各小・中学校で上記資料が活用されるよう啓発を図った。
 また,県教育委員会ホームページにも掲載している。掲載先Webアドレスは,http://www.pref.niigata.lg.jp/gimukyoiku/1238788892298.html

ウ モデル校による実践研究
1.県小教研との連携
 研究組織のネットワークを活用し,調査活用協力校による「実践事例報告会」を中心として成果の普及に取り組んだ。

2.県中教研との連携
 実践結果を基に,調査協力校と地区教科別研究推進委員会が中心となり,授業改善に向けた有効な指導法について知見をまとめ,公開授業・協議会や実践事例報告会等の開催を通して地域の学校に成果を広げた。

(2)平成21年度の取組

 平成21年度全国学力・学習状況調査結果について,引き続き分析するとともに,過去2回の調査結果と比較,分析することにより,質問紙調査結果と学力との相関について分析を深める。さらに,因子分析についても検討を予定している。
 分析結果については,年度末にまとめて小・中学校に提供するのではなく,早めに示すことのできる内容と,分析に時間を要する内容を区別して行い,分析結果の小・中学校への迅速な提供により,各学校において結果の有効活用に資するようにする。

2.調査活用協力校における取組事例

取組事例1 「読む能力(読む技術)」の獲得を促す指導に重点をおいた取組 長岡市立寺泊中学校

(1)学校の状況について

 全国学力・学習状況調査「国語」の結果において県平均より劣っている設問で,その差が3ポイント以上か,正答率自体が70パーセントを切っているものは次のとおりである。

【A(知識)】
二 小説に描かれた場面と表現についての適切な説明を選択する。(71.9‐57.9=14)

【B(活用)】
一 「蜘蛛の糸」を読み,その内容や表現について適切な説明を選択する。(80.6‐73.8=6.8)
二 「蜘蛛の糸」の一部分を朗読する場合の適切な工夫を選択する。(67.6‐61.1=6.5)
三 中学生の広告カードと,店員が作成した広告カードを比較し,違いを説明する。(44.4‐39.7=4.7)

 以上から「読む能力」の育成が課題であると判断した。「読む能力」とは,文章を読んで,何がどう書かれているか,ということを正確に読み取る能力である。特に,表現技法,文章の構成と展開をとらえて,その効果や意義をとらえさせる指導を随所で行う必要がある。

(2)全国学力・学習状況調査の結果等を  活用した取組について

 県中教研中越地区国語研究推進委員会を普及の場とし,その研究推進責任者と本実践研究推進責任者を兼ねている当校教諭を中心に,下記の取組を行った。

  1. 検証改善委員会が作成した改善支援プランの紹介とその考え方の説明
  2. NHK岡部晃彦アナウンサーによる音声言語のスキルトレーニング
  3. 当校教諭による音声言語単元の模擬授業
  4. 次のア・イを踏まえた,委員2人による授業研究会やその学習指導案検討会を模擬授業形式で実施
    ア 改善支援プラン
    イ 改善支援プランを生かした県中教研中越地区国語研究推進委員会の研究計画
  5. 全委員が,上記4.のア・イを生かした実践を行い,実践報告を残すこと
  6. 上記4.・5.の実践の成果と課題をまとめ,共有するとともに,記録に残すこと

(3)成果について

 当校生徒の国語力の課題を明確にし,指導すべき言語能力(言語技術)を教師自身が把握した。
 ただ,それを生徒に押しつけるのではなく,言語生活の具体的な場面で活用できる力として生徒自身が意識できるような単元構成を工夫し,生徒にとっての学習の動機付けを特に意識した。
 また,言語能力(言語技術)の獲得を促す教材を開発・蓄積し,生徒のことばにかかわる問題意識が生起した段階で,提示し,具体的な言語技術の効果を実感させた。そして,その獲得状況を評価する手だてを工夫し,評価を生かした指導(個に応じた指導)を展開した。
 以上の取組の結果,抽出学級における観点別評価について,次のような変容が見られた。
 「読むこと」の領域で,3年生が大きく向上した。育むべき「読む能力」を具体化・明確化し,その習得に向けて生徒の動機付けに意を用いたこと,ポートフォリオ等を活用することによって,生徒自身が言語能力の獲得状況を自覚できるように促し,指導と評価の一体化を図ったこと等が有効に働いた成果である。

【観点別評価のA・Bの生徒の割合:%】

 【観点別評価のA・Bの生徒の割合:%】

また,生徒による授業評価では,次のような変容が見られた。

【授業評価の肯定的評価の割合:%】

 【授業評価の肯定的評価の割合:%】

 「分かりやすい授業か。」で高い評価が持続し,「真剣に取り組める授業か。」で,2年,3年が大きく向上した。他教科等との関連を図り,単元構成を工夫したこと,学び合いを促進する過程で,意欲の持続が図られたことの影響と考える。そこで,成果は次の2点にまとめられる。

1.生徒の国語学習への意欲の向上
 生徒にとっての動機付けを特に意識したことが,生徒による授業評価の「真剣に取り組める授業か」という項目の肯定的評価の向上につながった。
 また,国語学習が日常の言語生活に生きるものであるという実感をもたせることができた。

2.言語能力(言語技術)の向上
 豊かな教材の提示によって,言語能力(言語技術)の効果を実感・納得させ,さらに,ポートフォリオや各種テスト等による実態把握を踏まえた習熟場面を設定したことが,特に3年生の観点別評価のA・B評価の割合の向上につながった。

取組事例2 「『習得』⇔『活用』サイクル」のある教えて考えさせる授業の創造~思考力・判断力・表現力を育む授業の在り方~ 長岡市立希望が丘小学校

(1)学校の状況について

 当校の全国学力・学習状況調査結果を分析し,以下の課題が浮き彫りになった。

〈学力面において〉
○ 国語,算数ともに,問題Aについては概ね良好な結果を得た。(国語…当校84.4,全国81.7,算数…当校82.1,全国82.1)
○ 国語Bに関して,課題が二つ浮き彫りになった。一つは読み取った内容を,目的や条件に応じて書き換えるという活用の能力。もう一つは,自分が読んだ文章を評価したり他の文章と比較したりする能力であった。
○ 算数A,Bとも,数量関係に課題が残った。伴って変わる量において,変化の規則性を,その場面のイメージ化とともに読み取っていく力に弱さがあった。また,条件が多く長文で書かれた問題に対して文意を正確に理解する点,自分の考えを整理し筋道立てて説明する点にも弱さが見られた。
 これらの弱さの背景には,習得した知識・技能を駆使したり活用したりする経験の不足により十分な力が身に付いていないことが考えられる。

〈学習状況面において〉
○ 家庭で勉強時間を決めて実行している子(当校58.3,全国51.8)の割合は全国平均を上回っているが,一定の時間家庭学習に取り組む子(当校54.1,全国57.9)の割合がやや低い。
○ テレビやテレビゲームの時間のルールがしっかりとできている子の割合が低い。(当校44.7,全国48.2)
○ 読書の時間を1日に1時間以上確保している子の割合が低い。(当校15.7,全国39.2)
 これらのことから,家庭との連携を更に強化するとともに,子ども自身が自分の学習状況をふまえ,家庭学習の時間を決めたり生活の仕方を考えたりする生活設計の力も高めていく必要がある。

(2)全国学力・学習状況調査の結果等を活用した取組について

 育てたい力と,その力をはぐくむために大事にしたい授業像を次のように設定した。

[育てたい力]
 子どもが課題解決の過程で,これまで学習してきたことを生かして自分の考えを創り,自分の言葉で適切に表現したりまとめたりする力
[大事にしたい授業像]
 これまでに習得してきた知識・技能や考え方・学び方を駆使して追究しようとする課題や場面のある授業

 授業づくりに取り組むにあたり,文部科学省発行の「学校改善支援プラン」,平成19年度新潟県検証改善委員会発行の「学習指導改善支援プラン」に掲載された「指導のポイント」を生かすとともに,以下の点を柱に授業改善に取り組んだ。

1.単元構成の工夫

 当校児童の実態に即して,「指導のポイント」が確かに身につき,使えるようにするために,どう単元化すればよいのか検討した。

2.指導の手だての工夫

 1時間の授業の中で,特に次の点を大切にする指導にあたった。
ア 課題の工夫
イ 個別支援の想定
ウ 自己評価の実施

 これらの柱に基づき,授業改善を推進するために,「単元ナビゲーション」(以下「ナビ」と記述)を作成し,授業に生かした。ナビには,「学習の流れ」「習得させたい知識・技能や考え方・学び方」「自己評価の視点」を盛り込み,児童にも配付し,ともに活用した。

(3)成果について

1.単元構成にかかわって

○ 「指導のポイント」が明示されたことで,具体的に何を指導しなければいけないのか,どう授業に取り入れていけばよいのか(単元構成を工夫する視点)がはっきりしてきた。
○ ナビを取り入れたことで,教材研究が深まり,単元における「活用」場面はどこかが吟味され確実に位置づけられるようになった。同時に,「活用」場面で学んできた事柄が駆使できるようにするために,身につけておくべきことは何かについて明確にできるようになった。

2.指導の手だてとかかわって

○ 課題の工夫や個別の支援がなされることで,これまでに学習した知識や技能,考え方,学び方を駆使して課題解決しようとする児童の意識が高まった。

○ ナビが手元にあり,学習時に書き込むなどして用いることにより,児童は学習に見通しを持つことができた。また,学習してきたことが整理されるので,課題解決する際に思考の手助けにもなった。

(4)来年度以降の課題について

  1.  低学年で身に付けた「指導のポイント」にかかわる力を,学年が上がるごとに更に強化充実させるための指導計画を作成する必要がある。
  2. ○ 児童の学習をサポートするナビとして,盛り込む内容や形式にバリエーションを持たせる必要がある。また,児童の思考や追究の様子から単元の途中でナビを修正できる柔軟性を持たせるかどうか検討を要する。

お問合せ先

初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)

-- 登録:平成22年03月 --