千葉県教育委員会 「うるおいのある活きた学力」の育成を目指して

はじめに

 平成19年度は,同年4月に実施された全国学力・学習状況調査に関して,東京大学教育学部に本部を置く研究者グループを千葉県検証改善委員会として指定し,分析を行った。
 また,その報告や千葉県独自で実施した学力状況調査の結果をもとに独自の分析を行い,県内公立小中学校及び市町村教育委員会に期待される取組,県教育委員会の施策等を,『「ちばっ子」の学力向上をめざして』にまとめ,公表した。
 平成20年度は,学力向上プロジェクト事業を推進し,調査活用協力校の協力を得ながら,課題解決に向けた取組を行った。
 また,学力向上専門委員会において,平成20年度全国学力・学習状況調査の結果分析を行った。

1.千葉県教育委員会における取組

1.事業内容について

(1)事業概要

1.全国学力・学習状況調査結果からの提案
  • 自分の意見を表現する機会を増やす授業づくりが必要である。
  • 授業研究を伴う校内研修をさらに充実させる必要がある。
  • 児童生徒が「好きだ」「大切だ」「わかる」と感じる授業づくりが大切である。
  • 家庭での過ごし方は,学力向上に大きな影響がある。 など
2.県独自の学力状況調査に見られる課題

 平成15年度から県独自に実施している学力状況調査の結果から,本県児童生徒の傾向として,学習意欲,思考力や表現力,学んだことを他の教科や生活に生かそうとする意識などに課題があることがわかっている。

3.主な取組(学力向上プロジェクト事業)

 平成18年度から実施している学力向上プロジェクト事業を推進した。

ア 特色ある取組の紹介
 県教育委員会ホームページで公開している各学校の学力向上に向けた「特色ある取組」データベースの充実を図った。

イ 思考力の研究
 課題である「思考し,表現する力」の向上とともに,新学習指導要領の趣旨を踏まえて,「ちば版学習到達目標」「実践モデルプログラム」の作成を進めた。

<ちば版学習到達目標>
 子どもたちの視点に立った,全ての中学生の学力を伸ばすための「ちば版学習到達目標」。基礎基本の定着と思考力・表現力の育成と評価のための「学習重点事項」「学習到達目標」「ステップチェック」から成る。

<実践モデルプログラム>
 正式には,【「思考し,表現する力」を高める実践モデルプログラム】。教員の授業改善を支援するためのもの。協力校(5校)での実践研究を通して今年度末に完成した。

ウ 子どもの実状の把握
 平成19年度実施の県独自調査の結果分析や教員を対象とた児童生徒の学力に関する意識調査を実施した。

エ 学力向上推進行事
 県内5か所で,教職員・保護者・地域住民約1800名を集め,学力向上推進行事を開催した。

4.調査活用協力校に対する支援

 調査活用協力校打合せ会を開催し,本事業についての説明や,協力校間の情報交換等を行った。
 また,平成19年度全国学力・学習状況調査等の結果に基いて作成した『「ちばっ子」の学力向上をめざして』を送付するなど,情報の提供を行った。

(2)実施体制

1.学力向上推進委員会

 有識者等で構成する学力向上推進委員会を開催し,学力向上の方策を検討した。
 委員からは,県教育委員会が進める学力向上の取組についての意見をいただき,その後の取組に反映させた。

2.学力向上専門委員会

 学力向上推進委員会に学力向上専門委員会を設置し,平成20年度全国学力・学習状況調査に係る分析を行った。

3.調査活用協力校

 本県全体の課題と同様の課題を持つ,県内各地の小学校6校,中学校4校を調査活用協力校に指定し,課題改善に向けた実践研究を行った。

(3)研究成果

○学力向上専門委員会での分析結果を21年度の施策に反映させることができた。
○研究協力校(5校)での実践研究を経て,「思考し,表現する力」を高める「実践モデルプログラム」が完成し,公開した。
○教員を対象に実施した意識調査の結果を21年度の施策に反映した。
○学力向上推進行事が県の施策を広める上で有効な場となった。

2.普及啓発と今後の取組について

(1)成果の普及啓発に関する取組

○学力向上専門委員会での分析結果については,「平成20年度全国学力・学習状況調査分析結果報告書」にまとめ,各市町村等に配付した。
○実践モデルプログラムを各市町村等に配付するとともにWebで公表した。
○県独自調査の分析結果や教職員の意識調査の結果を報告書にまとめ,各市町村・学校等に配付した。
○学力向上推進行事において,学力向上に関する県の施策等の説明を行った。
○調査活用協力校の実践については,県のWebページに掲載し,成果の普及を図った。

(2)来年度以降の取組

○特色ある取組の紹介については,新しい学習指導要領の内容が一部先行実施されることから,内容や分類についての見直しを行う。また,際立った「特色ある取組」については,別途紹介をする。
○学力向上推進委員会のもとに学力向上専門委員会を設置し,平成21年度全国学力・学習状況調査の結果等について分析を行う。年度間比較も行う。
○「ちば版学習到達目標」の作成を進める。
○「実践モデルプログラム」の活用促進を図る。
○学力向上推進行事において,県の施策等を説明し,理解の促進を図る。
○家庭学支援の取組を行う。
○読書活動のより一層の推進を図る。
○教員の資質向上に向け,教員研修のさらなる充実を図るため,現在の研修体系の見直しを行う。

2.調査活用協力校における取組事例

取組事例1 「活用する力の育成」と「学習習慣の確立」に重点をおいた取組 佐倉中学校

(1)学校の状況について

 これまで,授業における導入場面で,前時の復習をする時間(ラッキーセブン学習)を設けたり,帰りの会の一部を使ったドリル学習(「10分間学習」)や授業での生徒同士の話し合い活動などを取り入れるなど,基礎・基本に重点を置き,小学校と連携した研究を進めてきた。
 話し合い活動では,思考力の評価基準表を各教科で作成し,個のレベルに応じた手だてを行うことによって,自分の考えを明確に持つことができる指導方法を探ることができた。
 国語と数学では,「読む・書く・計算」を中心とした内容を重視してきた。その結果,「全国学力・学習状況調査」においても「知識」に関する問題の学習内容は概ね理解されていることが確認された。
 しかし,国語・数学ともに「活用」に関しては,全国平均を上回っているもののいくつかの課題が残った。本校生徒の傾向として,授業中を含め,積極的に発言する生徒が少なく,学習に対して受け身の生徒が多い。また,小集団では,話し合いができるが,全体の場で討論するなどは不得意である。
 さらに,帰宅後,家庭学習を計画的に行っている生徒の割合が低く,主体的な学習が十分に身に付いていない生徒も多く存在することから,生徒の生活改善を図ることも学力の向上のための課題である。

(2)全国学力・学習状況調査の結果等を活用した取組について

 全国学力・学習状況調査の結果を分析し,生徒の課題をより詳細にするために,分析委員会を組織した。
 その分析結果をもとに,授業改善推進班,生活改善班,データ整理班のグループに分かれ,

  1. 基礎的・基本的な知識と技能の確実な習得を図る学習指導の工夫
  2. 思考力・判断力・表現力等の育成を図る学習指導の工夫
  3. 望ましい学習習慣の確立を図る指導の工夫

について全校体制で研究に取り組んだ。

 国語科,数学科においては,小学校との連携を生かし,小学校で作成している計算ドリルや漢字テストにさらに中学校独自のものを加えて9年間の系統性を持たせたドリルを作成し,生徒個々の実態に合わせて使用した。また,身につけた知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力を育むために,小グループでの話し合い学習を積極的に授業の中に取り入れるとともに,千葉県の実践モデルプログラムの「見いだす」,「調べる」,「深める」,「まとめあげる」という学習過程を意識して授業に取り入れた。
 また,社会科で,「話し合いの仕方」という学習マニュアルを作成し,話し合い学習での活発な意見交換ができるような下地作りを行い,他の教科へとつなげていった。自分の考えをしっかりとノートに書くこと,書いてまとめたことを他に伝えることを習慣化させ,お互いの考えをより発展させることができるようにした。
 生徒の生活改善に向けては,家庭教育学級や期末保護者会などで栄養士や養護教諭が,保護者の啓発のために,望ましい生活習慣の取得に向けた具体的な取り組みについて話をした。また,学校だよりや学年だより,給食だよりで定期的に「朝食の大切さ」や「睡眠の大切さ」について取り上げ保護者に訴えた。

(3)成果について

  1. 自分の考えをノートにまとめたり,意見を発表することが好きな生徒が増えた。
  2. 各教科において,指導方法を工夫・改善していくことで,授業の内容が分かると感じている生徒の割合が高くなった。
  3. 生徒の生活改善のために,睡眠や食事が大切だと考える保護者の割合が高くなった。
1.について

 小グループの話し合いの学習形態を積極的に各教科で取り入れ,自分の考えを明確にするために,書く時間を十分に設け,また,お互いの意見交換がしやすいように「話し合いの仕方」についてマニュアルを作成し,生徒に提示した。このことにより,「自分の意見を発表することは好きですか」というアンケートにおいて,7月には,「そう思う」と答えた割合が,1年生17,8%,2年生19,4%,3年生23,8%であり,2月には,2,3年生においては,意識の変化がわずかではあったが,1年生においては,25%と大きな変化が見られた。

2.について

 授業の導入時に,必ず前時の復習を行い,十分に「理解できている」という意識を持たせてから本日の授業の課題を提示することで,授業が「分かる」という生徒の割合が全体的に高くなった。また,数学科の計算練習や国語科の漢字練習において,小学校との連携を生かして作成した本校独自のドリル問題を小学校や1,2年生時の既習内容に戻って取り組ませることで,「授業が分かる」という生徒の割合を高めることができた。

3.について

 特別活動や技術・家庭科の授業において,養護教諭や学校栄養士とT・Tの授業を取り入れ,より専門的な知識を学ばせることや学校だよりなどを利用した保護者への啓発活動を行っていくことによって,睡眠や食事の大切さを意識している生徒の割合を高めることができた。

(4)来年度以降の課題について

 基礎的・基本的な知識・技能を活用する力を育むための授業改善を,全国学力・学習状況調査の結果をもとに推進していくことはできた。しかし,授業中の生徒の意見交換の場面をみてみると,多くの教科で積極的に自分の意見を言えている生徒とそうではない生徒の差が大きいという課題が見られた。他の人との意見交換をすることで,お互いの考えをより高いレベルに深めていくためには,まず,自分の考えを明確に持てることが大切であり,これがこれからの本校の課題である。
 また,社会科や国語科では,積極的な授業改善が行われたが,数学科や理科での工夫が必要である。小グループでの話し合いや討論の取り組みをさらに充実したものにしていくためには,教科担任だけではなく,学級担任との連携を深めて,特別活動や短学活の中でも話し合いの時間を適宜もうけ,学校生活全般において思考・表現する機会をつくりあげていくことが必要である。
 また,年間指導計画の中にも,活用を図るための時間を教科の特性に合わせて,位置づけていきたい。
 望ましい学習習慣の確立においては,生徒の意識調査の結果をみると,家庭学習の時間が1学年では,昨年と比べて多く,習慣化されている生徒が多いことが分かった。しかし,2,3年生については,部活動などの放課後や休日の練習が忙しくなるについれて学習時間が少なくなっていくことが分かっており,家庭学習の習慣確立も引き続き今後の課題である。学年の実態に合わせた「自主学習ノート」を活用して,学習計画の立て方や学習の仕方についての指導を行っていく必要がある。

取組事例2 「思考力」に重点をおいた取組 花野井小学校

(1)学校の状況について

 本校は柏市北部に位置し,東京を中心に通勤するサラリーマン家庭が多い住宅地域である。少子化に伴い児童数が年々減少し,低学年は単学級,全校児童数271名という小規模校である。
 平成16年度から2年間「学力向上支援事業」の実践協力校として文部科学省から指定を受けた。
 指定研究が終了したあとも無理なく地域の教育力を学校に取り入れるために「花野井サポーター制」を設置し,授業ボランティアや学力向上支援員の活用を積極的に図っている。また,地域の事業所や施設を利用しての体験活動を行う等,地域の教育力を生かした教育活動の展開を特色としている。

(2)全国学力・学習状況調査の結果等を活用した取組について

1.研究方法と実施体制

 平成19年度全国学力・学習状況調査の結果を踏まえた課題として,国語では,相手や場面に応じた言葉遣いができない,自分の考えを決められた字数で書く力が低い,算数では,小数の計算,加法と乗法の混合した計算などの力が低い,帯グラフの読み取り,面積の比較等,根拠を明らかにする力が弱い,質問紙からは,さまざまな体験活動の不足が見られる等の課題が浮き彫りとなった。
 それらの課題を踏まえ,改善に向けた具体的な取組として次のような授業改善を行っていくことを確認した。
◇国語;校内研究教科とし,下記のような授業改善をめざす。
・「話す(発表)」と「聞く」場を多く設定する。
・書く機会を多く設定する。
◇算数;結論に至る過程を重視し,多様な見方・考え方を大切にした授業実践をめざす。
◇授業ボランティアや学力向上支援員の活用を積極的に図る。
・火・木曜日;読み聞かせの実施
・学力向上支援員による全学年TTの実施
・朝の基礎・基本の時間(8時25分~8時40分)
…月・金曜日;国語(金曜日は漢字テスト) 水曜日;計算
◇体験活動を多く取り入れる。
・全教育活動を通して本物や人と触れ合う機会を持ち,豊かな心情を育む。
◇学力向上における家庭への啓発を図る。
・普段の生活から漢字を使う,辞書で調べる雰囲気を作る,チラシや新聞を大人と一緒に読む,言葉遣いに注意する,コミュニケーションを大切にする等,言語力を高める素地をつくるよう学校からも働きかけていく。
・ゲームの時間や家庭学習の時間を決め,家庭での学習に寄り添っていくよう啓発していく。(保護者会の場や学力向上支援員が発行する便り等を活用)

2.保護者への配布文書(抜粋)

 平成20年度学力・学習状況調査の結果については,柏市の結果公表後,全校保護者に本校の分析結果や19年度からの授業改善の見直しについて文書で報告をした。
<国語について>
◆子ども達が話す良さと聞く良さを実感できる指導を取り入れ,話す力と聞く力を育てます。(ペアトーク,グループトーク等)
◆計画的に書く機会を増やし,生活文,意見文,手紙,記録・報告文等,様々な様式・書式で書く活動を取り入れます。(字数,文体,キーワード等,条件に合わせて書く活動)
◆言語事項は,習得した内容を実際に生かす指導を充実させます。(文章の中で漢字を使う,ルビ付き漢字を読む,国語・漢字辞典の活用を心がける等)
◆学びの過程がよく分かるノート作りを目指します。
◆メモを取ることを習慣化させ,大切なことを的確にまとめる力をつけさせます。
◆学校図書館を有効活用させ,本好きの子に育てます。
<算数について>
◆数直線や線分図,または図に表して考えたり,説明したりする活動を充実させます。(考える根拠を明確にして解決の見通しを持つことのできる活動)
◆図形の定義や性質を基に図形を弁別し,その根拠を説明したりする活動を充実させます。(「AだからBになる」のように理由と結論を明らかにする)
◆複数のグラフ資料を読み取り,比較したり関連付けたりして考えたことを説明する活動を充実させます。
◆具体物操作を活動に取り入れ,より理解を高めます。
◆小学校入門期からの数の合成・分解の理解を基として,数と計算領域の習熟を目指します。

(3)成果について

  1. 授業改善の見直しを行ったことにより,19年度の結果を踏まえ継続していかなければならない点と今後更に意識して指導方法の工夫を図っていく点が明らかになり,校内研究や学年・学級の授業研究に生かすことができた。
  2. 校内研究の国語では「伝え合う力を育む」ために発問を精査し話す力を伸ばすため,ペアトークやグループトークを取り入れ,積極的に意見を述べる方法を全学級で実践した結果,他教科・領域でも言語活動の充実を図ることができた。
  3. 学校での授業改善や家庭・地域で協力して頂きたいことを保護者に知らせることにより,学校と地域・家庭が連携して学力向上への取組を行うことについて共通理解を図ることができた。
1.について

<児童の変容>授業の中で自分の考えを説明したり伝える力が確実に向上した。自らの考えを持てるようになってきた。
<教師の変容>質問紙調査において「発表の場が多い」「授業が楽しい」という回答を多く得た事で,より一層の授業改善を心掛けようと教師も意欲的に実践に当たることができた。
 また,教科で学んだ知識を生かす場を総合的な学習の時間などに積極的に設定してきた。(キャリア教育・コミュニケーション能力など)

2.について
  • 国語・算数共に領域ごとの達成率は6月より伸びた。得点の下位の子ども達がわずかであるが底上げされている。(「千葉県標準学力テスト」から)
  • 平成20年度全国学力・学習状況調査結果より,「書く」領域が劣っていたことを受けて,書くことの日常化を図ってきたため,達成率が向上した。「言語事項」でも,学習中,手元に辞書を置いて授業を進めたり,書くことの日常化の中で数値が向上した。
  • 算数では,「数量関係」が向上した。これは,単位量当たりの考えや比などを問う問題において向上したことになり,説明力をつけてきたことの成果であろう。「数と計算」においても数値の向上が見られ,計算に対する習熟の成果と捉えたい。

(4)来年度以降の課題について

  • 研究教科である国語に比べ,算数の力が劣る。また,学力分布の二極化が見られ,低位の子ども達の底上げが必要である。(→課題選択学習等の学習形態の工夫,算数的活動を取り入れた指導の工夫)
  • 算数においては教科の特質として,系統性が色濃く出る学習内容であるため,それを再認識した指導が必要である。
    (→既習事項の定着度確認テストの活用)

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初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)

-- 登録:平成22年03月 --